<9月1日>(火)
〇今朝はモーサテとくにまるジャパン極のダブルヘッダー。どっちも「アベノミクスとは何だったのか」みたいな話をするわけですが、たまたま両方で振られたネタが「バフェット氏が日本の商社株を購入」のニュース。率直に言えば嬉しいニュースなんですが、いろいろ複雑な思いも致します。
〇日本貿易会の委員をやっていたころに、何度この議論をしたかわからない。「どうして外国人投資家は商社株への評価が低いのだ?」である。「いろんな事業をやり過ぎている」「事業内容が理解できない」「儲かることだけやって、損な事業は切り捨てるべき」というのが彼らのロジックであって、それはまあ、理屈の上ではその通りなのである。
〇とはいうものの、商社業界は2000年前後の暗黒の時代を切り抜けている。「インターネットで中抜きの時代だから、もはや存在意義なし」と言われ、「借金が多過ぎて財務体質が悪過ぎ」「選択と集中をやるべし」「ノンコアビジネスを切り捨てよ」などと市場からせっつかれて、これはもうアカンと何度も観念したものだが、なんで今も生き残っているかといえば、それは「総合」だったから。そうとしか考えられない。
〇「儲かる事業だけやって、損する事業はやらない」のは確かに理想だが、一方で企業は「将来性のある赤字事業」を抱えておく必要がある。だから社長が把握しきれないくらいの事業をやっている。外から見たら不合理に見えるかもしれないが、それで生き残ってきたのだから、これからもそれでいくしかない。「市場の言うことを聴いて碌なことはない」「アナリストは何もわかっていない」というのが当方のホンネである。
〇そしたらバフェットが、「上位5社の株を5%ずつ」というまことに芸のない買い方をしてくれた。資源を狙うのなら三井物産だし、事業の成長を狙うなら伊藤忠だし、投資先の中身を問うなら三菱商事だと思うのだが、「どうせ中身はわからないのなら、まとめてバスケットで買えばいい」と考えたわけですな。これぞ知恵者のやることです。
〇今の商社株は典型的なバリュー株。バフェットさんが円債を発行して得た低利の資金を、三菱商事株に投資すれば5%で回る。そして日本経済は人口減少で先行きが暗くても、商社は主に海外で稼いでいるわけだから、キャッシュフローは続く(たぶんね)。いい買い物に思えるじゃないですか。
〇一方で、90歳のお誕生日を迎えたバフェットさんはもはや「ただの人」になっていて、アメリカの銀行株を売ったカネで日本の商社株を買うなんて焼きが回っている・・・・という可能性もある。アメリカの株価はさすがに高くなりすぎて、利益を確定したくても今は「おカネの置き場所に困る」時代。とうとう買うものがなくなって、以前は「闇鍋」だと思っていた日本の商社株に手を出した。いよいよ相場は終わりが近いかもしれない・・・・ということも考えられる。
〇あ、ちなみに私は商社株はあんまり持ってません。今日はJT株の配当が来たのでちょっとハッピーです。
<9月2日>(水)
〇今宵はとっても久しぶりにニュージーランド大使館を訪れて、NZワインをごちそうになる。まずはソーヴィニオンブラン、しかるのちに赤。議題は天下の諸情勢について。
〇考えてみれば、外交も一種の「対面のサービス業」である。いろんなセレモニーやイベントやパーティーを通して、知己を増やし、ファンを作り、自国のイメージを上げ、相手国の情勢を探り、影響力の浸透を図る。コロナのせいで、「家から外に出てはいけません」と言われると困ってしまう点においては、観光業や外食産業と何ら変わることがない。
〇いわゆるインテリジェンス活動においても、「公式情報から真実を見抜く」というのは確かに理想ではある。しかし、活字で書かれたものにはかならず裏がある。特に日本人の場合は極端かもしれないのだが、次のような場合にはいろいろ濃淡が出るはずなのである。
@メールなど書面で返事する場合
Aビデオ会議などで発言する場合
B対面で話す場合
Cさらに一杯飲んだうえで話す場合
〇極端な場合、@では東と言っていたのに、Aでは北になり、Bでは南になり、Cでは西になっているかもしれない。それはまあ、世の中にはよくある話であって、ものの道理が分かった人であれば、「あの人は東と言ってたはずだ!」なんて弁解はけっしてしないはずなのであります。
〇文字で書かれていることを、何でも信じちゃいけないんですよ。それがたとえ溜池通信であっても。
<9月3日>(木)
〇その昔、不肖かんべえが秘書を務めていた時代があった。秘書同士というのは、会社を超えて仲良くなるもので、当時はずいぶん「秘書友達」ができた。それから長い月日が流れ、とうとうその中の一人が出世して、会社の社長になった。
〇「おめでとう」を言ったついでに、こんなことを聴いてみた。「今のご自身の秘書のことをどう思われます?」。答えは予想通りだった。「まったく使えないので、なるべく自分でやるようにしています」。当たり前の話だが、自分がよく知っている仕事に対しては、どうしても後任への評価が厳しくなるものである。
〇何が言いたいかというと、今回の自民党総裁選の結果、菅義偉氏が首相になった場合、後任の官房長官にだれを選ぶんだろう、ということだ。何しろ自分が7年半もやった仕事である。閣議を主宰し、各省庁ににらみを利かせ、朝晩2回の記者会見を行い、内閣の危機管理を担当し、毎日多くの人に会って情報を取り、ときには内閣報償費を配る。いやもう、無茶苦茶忙しいはずだ。
〇とはいうものの、どんな仕事でも2年目になると急に楽になる。3年4年とたつと、さらにコツがわかってくる。5年目くらいからはマンネリとの戦いになる。ともあれ7年半もやって、総理からも党内からもメディアからも一目置かれている身となれば、後任に対する眼はかなり厳しいものになるだろう。「あー、見ちゃいられない」となることは想像に難くない。
〇そもそも昔の自民党政治においては、官房長官は長くやると力をつけてしまうし、「次は自分が・・・」という欲が出てくるので、長くても2年くらいまで、というのが一つのセオリーであった。過去に名官房長官と言われた後藤田正晴や野中広務であっても、務めた期間はそれほど長くはない。菅さんの場合は、とにかく異例の長期なのである。だから役人が全く逆らえなくなってしまった。何しろ、相手は自分の前任者のその前まで知っている。
〇次の官房長官はもちろんそんなことはなくて、役人から「値踏み」をされる立場になる。内閣記者会も、隙あらばこき下ろしてやろうと意地悪な思いで見ることだろう。何よりもちろんある程度の実績のある人でないと、内閣のコントロールセンター足りえない。さて、誰だったら菅内閣の大番頭が務まるんだろう。
〇この問題、意外と面白い。とりあえず本命:加藤勝信(厚労相は難しかったけど、復活を期す)、対抗:河野太郎(記者団と3日で喧嘩しそう)、穴馬:高市早苗(いじめないでくださーい)というのはどうか。官房副長官は、一人は当然、進次郎でしょうな。
<9月4日>(金)
〇今日は昼から千葉県経済同友会の会合で海浜幕張駅へ。柏駅から武蔵野線を使って行くのは至難の業である。しかも暑い!何度も乗り換えてようやく到着。ここはやっぱりクルマで来るべき場所かもしれぬ。
〇会場はホテル・ザ・マンハッタン。今から25年くらい前、やはり千葉県経済同友会の会合に、当時の速水優経済同友会代表幹事のお伴でやってきたことがある。その時も、このホテルであった。当時はホテル・ザ・マンハッタンはできたばかりで、逆に周囲は幕張メッセ以外の建物は少なかった。今ではなんといっても、幕張では千葉ロッテマリーンズが存在感を放っている。やっぱりバレンタイン監督が来てからだよなあ、人気が出たのは。
〇その日の代表幹事は、お昼に千葉同友会の会合で挨拶をして、午後3時にクラブ関東の会合に出席することになっていた。昼は立食パーティーが予定されていたが、たぶんメシを食う暇はあるまいと考えて、ホテルに頼んでサンドイッチの弁当を2人分作ってもらった。移動中のクルマの中で食べてもらおう、と秘書は考えたのである。
〇ところが秘書がもたもたしている間に、速水代表幹事のクルマは次の目的地へ出発してしまった。哀れな秘書は、ホテルで置いてきぼりになったのである。後で運転手さんに聞いたら、「速水さん、なんで2人分あるんだろう、と言いながらお弁当、全部食べちゃいましたよ」と。あの頃の速水さんは、血気盛んだったのである。
〇さて、本日は、「コロナショック下のアメリカ大統領選挙」というお題で、現下の選挙戦の状況をご説明する。対面の会合は久しぶりとのことで、ホテル側も非常に気を遣っている。こちらもこんなリアルの講演会は久しぶりなので、なんだか新鮮な感じがする。いろんな方と名刺交換するが、こういう儀式もなんだか久しぶりである。
〇こんな風に、リアルで人に会うのはいいものです。このために東洋経済オンラインは昨日のうちに入稿し、溜池通信は午前中に仕上げたのであった。ああ、仕事があるってすばらしい。そして仕事を終えた後のビールも。今週はいっぱい書いたなあ。
<9月6日>(日)
〇コロナ禍の日常も半年以上になる。日常的に無理していることが、だんだん「当たり前」に思えてくるのだが、よくよく考えてみると大変な変化が起きている。
〇町内会では今年の夏まつりが中止になり、恒例のドブさらいもやっていない。とにかく人が集まる機会を減らしている。それというのも高齢者が多い地区なので、今度の敬老の日に配る紅白まんじゅうの数を聞いてぶっ飛んでしまったほどである。これでは町内で感染者が出た日には目も当てられない。
〇柏市では、町内会どうしの協議会を今後はウェブで開催する方針だ。従って、集会所に光回線を引いたり、PCを買う費用に補助が出るとのこと。いろんな行事を中止しているので、予算が余っているのかもしれない。それにしても、町内会というアナログの極みのような組織が、リモートになっていくとはすごいことである。
〇今年の秋には国勢調査がある。これも町内会に下請けが回ってくるのだが、チャイムを鳴らしても人が出てきてくれない時代に、どうやってやるんだろう。皆さま、国の統計にはいろいろありますが、国勢調査は5年に1度の貴重な「悉皆調査」でありまして、補助金の配分や衆議院の区割りなどの元データにもなります。ご協力をよろしくお願い申し上げます。
〇実は町内会の班長会議も、かなりの部分がLINEに移行している。防犯部長のところにもコピーが落ちるので、今、何をやっているかが手に取るようにわかる。先日はお葬式の知らせもLINEであった。町会長さんが上手くやったのだと思うが、それくらいスマホが普及しているということでもある。
〇そういえば最近の土日は、いつも馬券王先生とLINEで駄弁りながら競馬をやっている。今日は「サンレイポケットは左回りは3−1−0−0」という貴重な情報を教わった。おかげでブラヴァスから流して、新潟記念の三連複が取れた。ありがたいことである。ところが馬券王先生はワーケアから流していたとのこと。いかんです。「ワーケアは危険な人気馬」とちゃんと書いておいたのに。
〇それから昨日は久しぶりに「配置薬」の人が訪ねてきた。薬箱を空けてみてもらうと、「消費量ゼロ」であった。いつもは葛根湯をよく飲んでいるのだが、考えてみたらコロナが始まって以来、家じゅうの誰も風邪をひいていない。それどころか、風邪気味にさえなっていない。こまめに手を洗うというのは、やはり良い習慣であるようだ。これはこれで結構な話である。
<9月7日>(月)
〇9月の第1月曜日はアメリカではレイバーデイ。この日を過ぎるといよいよ大統領選挙は終盤戦で、月末にはアレも始まりますよ、てなことを書いてみました。
●天下分け目のテレビ討論会はここに注目! https://media.gaitame.com/entry/2020/09/07/143000 (外為どっとコム)
〇それはそれとして、レイバーデイを過ぎると連邦議会が召集されます。日本風に言うと、「秋の政局」が始まります。
〇議会は困ったことに、「夏休みの宿題」をやっていません。今年3月に与野党で決めた緊急コロナ対策の2.2兆ドルは、7月末で失効しています。だから数百万人の失業者にとって、月額600ドルの失業保険上乗せ金などはもうありません。そこで下院民主党は、3兆ドルの追加コロナ対策費を5月に可決しているのですが、上院共和党はまだ決めておりません。
〇どうするのかと思ったら、今週中に5000億ドル規模の別の対策を出すとのこと。民主党案とはあまりにも「言い値」が違い過ぎていて、既に"Skinny
Bill"(骨と皮法案)などと呼ばれている。上院と下院の法案が食い違うときは、普通は2つの法案を擦り合わせしてどこかで妥協を図ることになる。どうやら共和党は、「やってる感」を出したいだけで、11月前に本気でまとめるつもりがないようにも見える。
〇ちなみに本件については、ホワイトハウスも「早くしろ、何とかしろ」と矢の催促である。トランプ大統領は、8月に大統領令を出して「給与税の支払い猶予」「学生ローンの返済猶予」「失業保険のプレミアムを月400ドルに」といった対策を命じている。災害用の予算を無理やり投入するという形であるが、本来、予算を決めるのは連邦議会の権限なので、ここは何とか与野党に歩み寄ってほしい。
〇ところが議会共和党の気分はかなり違う。CBOの発表によれば、2020年度財政収支(2019年10月から2020年9月)は3.5兆ドルの赤字になるとのこと。もちろんこれは史上最悪の数字である。それから先週金曜日に出た8月の雇用統計は、失業率が8.4%にまで改善している。「月に600ドルものプレミアムを支払ったら、誰も仕事探しなんてしなくなる」という批判もあったので、「そろそろいいんじゃないの?」という声が出ているのではないか。
〇夏が終わって秋の到来が感じられるとともに、コロナへの緊張感が薄れ始めているのではないだろうか。どんな怖いこと、辛いこと、嫌なことでも、人は必ず慣れるし、飽きるし、忘れるものなのだ。そしてトランプさんは、来月にもワクチンができるみたいなことを言っている。コロナ危機はもちろん続いているのだけれども、「コロナへの危機感」はじょじょに途切れそうになっている。
〇そんなことを言っても、アメリカでは既に19万人近くがCovid-19で亡くなっている。これは米国の「コロナ敗戦」であり、トランプ政権による「コロナ失政」だ。ここを突いていくのがバイデン=民主党の基本戦略であって、そのためには皆がコロナを正しく恐れてくれないと困るのだ。
〇そのために民主党大会は、ストイックなまでに完全リモート方式で実施した。その結果、あまり盛り上がらなかった。そりゃそうだ。政治は「祭りごと」なんだから。ホワイトハウスを使ってどんちゃん騒ぎをやった共和党大会の方が、周囲の顰蹙は買ったけれども、仲間内では確実に盛り上がった。
〇投票日まで残り2カ月。バイデン氏もいよいよ表に出てこなければならなくなった。他方、人々はコロナも怖いけど、BLM運動による破壊行為で治安が悪化するのもなんだかなあ、と考え始めた。これぞトランプさんの思うつぼというもので、「スリーピー・ジョーは危険な左派に操られている」などとうそぶいている。最近、両者の支持率が接近している最大の理由はこれだろう。
〇結局、11月の大統領選挙を左右するのは、「コロナの猛威がこのまま収束に向かうか、それとももう1回広がるか」ではないのか。つまりは「わからない」ということになる。
<9月8日>(火)
〇本日は林芳正参議院議員のセミナーが行われまして、宮本雄二大使とともに不肖私めがパネリストを務めました。テーマは「コロナ後の日本外交の展望」でありました。時節柄、立食パーティーやGIINZのライブなどは自粛であります。しかも体温チェックやソーシャルディスタンスもあったりして、コロナ下の政治パーティーは大変なのであります。
〇この会合、なんと「議員在職25年」で「第20回」なのでありました。察するに5回分は大臣をやっておられて、政治資金パーティーを開けなかったのではないかと拝察する。最初にワシントンDCでお会いしたのが30年近く前のことである。過去20回の会合はほとんど出席しているけれども、いやあ、もうそんなになりましたか。そういえばワシは来月で還暦なのであった。林先生は来年1月ですな。
〇しかるに本日は自民党総裁選挙が公示された日でありまして、当然のことながら宏池会の岸田文雄会長もご来場、ご登壇されまして、挨拶をされるわけであります。世上では「化けない男」などと言われているようですが、見るからに好人物でありまして、逆に他の2候補がいかにも「化けて」出そうに思われるではありませぬか。
〇両院議員総会が開かれて投開票が行われるの週明け14日の月曜日。短い期間ではありますが、当溜池通信としては微力ながら「岸田応援」ということで参りたいと思います。
<9月9日>(水)
〇9月の政局カレンダーを作ってみました。こうしてみると、来週中にポスト安倍・新政権が発足するとして、週末に行われる新聞社、テレビ局による世論調査が重要になりますな。支持率がかなり高いようだと、月末に臨時国会を召集して即、解散→10月25日(日)に総選挙、という可能性が浮上します。
〇おいおい、コロナ下で1カ月も政治空白を作ってもよいのかよ、とは感じますけれども、ちょうど19日からスポーツやコンサートなどイベントに関する人数制限が緩和されるのですな。今週末からは大相撲秋場所も始まります。だんだん国民の気分も緩んでくるわけでありまして、昨日発表された景気ウォッチャー調査を見ても、そんな雰囲気が窺い知れるわけです。
〇さらに細かく予定を見ていきますと、総裁選の投開票が行われる翌日に「岸田ビジョン」が出版されるとか(→後記:11日に前倒しになったそうです)、新内閣が発足する日に石破派がパーティーの予定だとか、いまひとつちぐはぐな感じがある。やっぱり誰か知恵者がおるのでありましょうか。流れができておるなあ、という気がいたします。
9月 8日(火) 自民党総裁選告示
9月 9日(水) 自民党青年局、婦人局主催の総裁選討論会
9月10日(木) 立憲民主党と国民民主党、合流新党の投開票
経済同友会夏季セミナー(都内、11日まで)
9月13日(日) 大相撲秋場所(27日まで)
9月14日(月) 自民党両院議員総会(党総裁選投開票)
9月15日(火) 合流新党の党大会
自民党新総裁による党役員人事
岸田文雄政調会長が「岸田ビジョン 分断から協調へ」を出版(11日に前倒し)
東京都が23区内の時短営業要請を解除
米FOMC(16日まで)
ボブ・ウッドワード氏がトランプ政権に関する2冊目の内幕本を出版
9月16日(水) 臨時国会召集→首班指名選挙→「ポスト安倍」首相誕生
8月の貿易統計(財務省)、8月の訪日外国人客数(観光局)
日銀金融政策決定会合(17日まで)
9月17日(木) 新内閣発足
自民党石破派が政治資金パーティー
米下院監視・政府改革委員会で郵政公社に関する公聴会
ADB総会(テレビ会議方式。18日まで)
9月18日(金) 臨時国会閉会
東京都議会 令和2年第3回定例会(10月7日まで)
9月19日(土) 安全保障関連法案成立から5周年
コロナ対策によるイベント制限を緩和(最大5000人、収容人数50%の枠を緩和?)
新内閣に対する世論調査(20日まで)
台湾の李登輝氏の追悼告別式(台北郊外)
9月21日(月) IAEA年次総会(ウィーン、25日まで)
9月22日(火) 靖国神社秋季例大祭
国連総会一般討論演説(29日まで)→各国首脳の声明をビデオ上映。新首相も?
9月23日(水) 自民党旧谷垣グループが政治資金パーティー
9月24日(木) IOC調整委員会(25日まで)
EU臨時首脳会議(ブリュッセル、25日まで
9月27日(日) 公明党党大会(山口代表が任期満了)
9月28日(月) 臨時国会召集?→新首相所信表明演説?
自民党細田派が政治資金パーティー
9月29日(火) 各党代表質問?
米大統領選挙テレビ討論会第1回(オハイオ州クリーブランド)
9月30日(水) 令和3年度予算、概算要求締め切り
8月の鉱工業生産(経産省)
<9月11日>(金)
○問い:この政治家について思うところを述べよ。
<過去にやってきたこと>
*ふるさと納税制度
*インバウンドの拡大
*農協改革と農産品の輸出拡大
*IR法案の成立
*外国人労働力の受け入れ拡大。
<これからやろうとしていること>
*「Go To トラベル」など観光産業のてこ入れ
*携帯料金の値下げ
*地銀の再編
*消費税の増税?(ただし向こう10年は必要なし)
○考えてみると、菅義偉さんはかなり面白い政治家です。上記のトラックレコードは、「たいしたもの」だと言わざるを得ません。「カジノ解禁」にせよ「労働開国」にせよ、かなりの反対をねじ伏せて実現していますらかね。改革マインドがあることは間違いありません。
○その一方で、「この人は何がしたいのか。保守なのかリベラルなのか。タカ派なのかハト派なのか」と考えるとよくわかりません。安倍さんには「反・財務省」という分かりやすい傾向があったけれども、菅さんはそうでもないらしい。逆にそういうものがないことで、いろんな問題に取り組める自由度を得ているのかもしれません。
○おそらくイデオロギーだのポリシーだの、能書きはどうでもいいから、「今やらなきゃいけないこと」をエイヤっとやってしまう。省庁の壁を乗り越えて、目に見える結果を出す。それが政治家・菅義偉の真骨頂なのでしょう。そういえば、かつて名官房長官と呼ばれた野中広務という人もそんなところがありました。いつもいろんな人と喧嘩をしていましたが、「なんのために」しているのかがよく分からない人でした。
○強いて言えば、「スガノミクス」は「アベノミクス」と同様に、「プロ・ビジネス」の経済政策となるでしょう。ただし、それは経団連などの経済団体の提言を受けてと言うよりは、地方の自民党組織が支持者の中小零細企業から受けている陳情を処理するようなペースで、淡々と行われる。「カスタマー」が誰か見えているときに、真価を発揮する政治家なのでしょう。
○ただし一国の総理としてはどうでしょうか。「総理になる準備」という意味では、たぶん岸田さんや石破さんの方が過去にしてきていると思います。床の間に据えて、「もう自分で手を下さなくていいですから、方向だけ示してください」と言われると、意外と困ってしまうのではないだろうか。とまあ、それは意地悪な見方かもしれないけれども、「8割の支持で菅さんで決まり」などと浮かれていると、どこかの時点で評価が一変してしまいかねないような危うさがあるような気もいたします。
○さて、政局なんですが、10月17日(土)=先負に中曽根康弘元首相の政府・自民党合同葬が行われるそうです
。ということは、9月末解散→10月25日(日)=大安の総選挙日程は可能性が薄くなりましたね。こんなことを決断できるのは、最高レベルであることは間違いありません。その先になると、11月3日のアメリカ大統領選挙という巨大な不透明性が差し掛かりますので、年内解散の確率はかなり減ったのではないでしょうか。
<9月12日>(土)
〇とっても久しぶりに国立市へ出かける。柏市からだと文字通り長躯遠征である。武蔵野線内でradikoを聴きつつ土曜競馬に挑戦する。10Rまで調子よく当てたのだが、メインの紫苑ステークスは外れ。トータルではやや浮き。で、国立駅に到着してみれば、駅の北口などは大変な変わりようである。しかも昔の駅舎をわざわざ再現していたりする。国立市も嫌らしいことをするものよのう。
〇駅の南口から一橋大学まで歩いてみる。東西書店と増田書店は何とか生き延びている。映画館や麻雀荘はもう残っていない。ロージナ茶房はかろうじて残っている。国立市の名店とされていて、往時も毎週ゼミが終わると来ていたのだが、そんなに好きなわけではないのである。
〇1980年代前半の国立市は、高い建物はほとんどなかったし、エアコンの効いている建物も少なかった。どうかすると、アパートの多くは汲み取り式であった。今はいろんな形で進化しているのであろうが、それでも道行く人たちは昔と変わらず若い人が多い。大学のある町というのはいいものである。
〇大学の前まで来てみたら、「入構規制中」とある。コロナ対策のため、大学関係者以外の入構を禁止するとともに、学生・教職員も不要不急の来校はご遠慮くださいとある。別に入る予定はなかったのだが、入れないとなると面白くはない。「なんと無粋なことよ」と悪態をついていたら、雨まで降りだした。
〇とぼとぼと駅まで引き返す。今宵の集合場所である、駅横の「うなちゃん」の2階へ。ここで同窓生5人が合流。「午後5時には行列ができる」ということで、昔から有名な店である。と言っても、学生時代に入ったことはない。店は今も昭和の雰囲気そのままのたたずまいである。
〇今宵の幹事曰く。「往時は1500円の串焼きでちびちび飲んでいたけれども、うな重まで頼めなかった」と。「カネがなくて××できない」、とは今どきなんと素敵な記憶であろうか。今のわれわれは、肉体的にドクターストップがかかる恐れはあるのだが、幸いなことに焼酎を何本も空け、串焼きからうな重までコースで平らげても信じられないくらい安い。そして美味い。ありがたいことである。
〇飛び交う会話も、まさしく昭和の飲んだくれのようであった。コロナ下の日常、今はこういう重要な会話は、日本中でちゃんと行われているのであろうか。心配である。
<9月14日>(月)
〇今日の自民党総裁選の結果をメモしておきましょう。1年後の9月に、あるいは数年後に振り替えることがあるはずですから。
議員票 | 地方票 | 合計 | |
菅 義偉 | 288 |
89 |
377 |
73.3% |
63.1% |
70.6% |
|
岸田文雄 |
79 | 10 | 89 |
20.1% |
7.1% |
16.7% |
|
石破 茂 | 26 |
42 |
68 |
6.6% |
29.8% |
12.7% |
|
合計 | 393 |
141 |
534 |
〇いつもながら自民党総裁選は味のある数字が出ます。菅さんの377票は全体のきっかり7割。つまり「圧勝」です。岸田さんと石破さんの2人は残りの3割を分け合ったにすぎません。
〇とはいうものの、議員票の288票は「取り過ぎ」ですね。これだけ多くの議員さんに対し、配ることができるポストの数は限られています。欲を言えばもっと多くが敵に回り、面倒を見なくて済む方がありがたい。人事こそは権力の源泉ですが、人事カードは切った瞬間に恨みや失望も買う。明日は自民党役員人事、明後日は首班指名→首相就任→組閣があって、どんな形で政権が船出をするか、見ものです。
〇石破さんの地方票は約3割でした。2018年の45%からずいぶん落ちました。ということは、今までの石破票はかなりの部分が、党内の「反安倍票」であったということになります。安倍さんが降りてしまったら、石破さんの存在価値も薄れてしまったように見える。難しいところです。
〇岸田さんは宏池会の票にやや上積みがありました。「岸田に少し票を回してやれ」という天の声があったのか。それとも意外にファンが居たのか。地方票をもう少し上乗せして、トータル100の大台が欲しかったところです。
〇さて、新内閣はどれくらいの支持が得られるのか。久々の「たたき上げ首相」ということで、国民の間にはとりあえず「スガちゃん」を試してみたいという期待があるような気がします。それから、東北からは久しぶりの首相となります。問題はやはり人事。特に官房長官にだれを使うかですね。
<9月15日>(火)
〇菅新総裁の人事は地味ですね〜。派閥均衡型だし、平均年齢高いし、何というか「華」がない。オヤジとジジイばっかし。というか、「見てくれ」などはまったく考えていないご様子。「いいんだ、俺はとにかく仕事がしたいんだ」ということなのかもしれません。
〇この感じだと、近い解散もなさそうですね。この可能性がある!と気が付いたときは瞬間、嬉しかったのですけど。
10月2日(金) 臨時国会召集。菅首相所信表明
10月5日(月) 衆院代表質問
10月6日(火) 参院代表質問
10月7〜8日 解散
10月17日(土) 中曽根元首相政府・自民党合同葬
10月20日(火) 衆院選公示
11月1日(日) 投開票・大阪都構想の住民投票
〇このシナリオで行くと、優れている点がいくつもあります。
(1)ちゃんと所信表明と代表質問を行って、「菅内閣」を打ち出したうえで解散。
(2)中曽根大勲位の葬儀も選挙期間から外れる
(3)「大阪都構想」もアシストして維新もハッピー
(4)アメリカ大統領選挙の前に全部片付く
(5)感染者数も10月に向けて減少傾向
〇まあ、それもこれも新内閣に対する世論調査の支持率を見てからでしょう。この週末から連休にかけての反応が興味深いところです。
<9月16日>(水)
〇いやー、ここまでくるといっそスガスガしい。女性を入れなきゃとか、若手を増やしたいとか、変に「人気取り」や「マスコミ受け」を意識していないのが、かえってフレッシュな組閣に思えます。そんなことより当選同期の友情を大事にしたい。これって団塊世代ならではの感覚でしょうか。
(故・星野仙一が、何かというと田淵幸一と山本浩二とつるんでいたことを思い出します。そうそう、同じ東北出身で法政大学卒の生島ヒロシさんのパーティーにも来てました)。
〇見事なまでに派閥均衡人事でありますが、いちいち派閥の領袖に許可を取ったりはせずに、全部自分で一本釣りして決めているのでしょう。自分の考え通り、実務家タイプをずらりと並べている。7年8カ月も官房長官をやると、こういう好き勝手ができてしまうのですね。
(岸信夫防衛相と平沢勝栄復興相に関しては、「ご依頼」もしくは「プッシュ」があったやもしれません)。
〇個々の人事に関しては、「畏るべし、菅義偉内閣」という考察が示唆に富みます。――「菅新総理の任期は原則来年9月までですが、この閣僚配置は、短期的な布陣ではなく、コロナ禍対策をはじめとする足下の諸課題を解決すると同時に規制改革をはじめとする長期的な改革にも取り組む意欲を見せる菅義偉色が色濃く反映された布陣だと思います」。
(しかしまあ、解散を恐れて野党が群れるこの時期に、敢えて無所属ですか。Kさん、頑張りますねえ。「我一人」という覚悟があるからこそ、傾聴すべき評論だと感じました)。
〇菅さんは政治家にしては口数が少なく、人の意見に耳を傾ける。心地良いことを言ってくれる人の意見は朝にパパっと聞き、嫌なことを言ってくれる人の意見は夜に時間をかけて聞く。けれども、それらに影響を受けることは少ない。自分が決めた通りに行動する。閣僚に問題が生じたら、即刻更迭してしまうでしょう。たぶん馬謖を斬るときに、涙は見せないタイプだと思います。
(これに比べると、安倍さんは情にもろい人だったなあ、という気がいたします。そのおかげで「チーム安倍」が長持ちしたという面もあるのですが)。
〇ということで、当溜池通信としては「ハードボイルド内閣」と命名しましょう。総理以下、いかにも多情多恨なタイプが多そうに見えるじゃないですか。
<9月17日>(木)
〇以前から何度も書いている話ですが、アメリカの政治家は「石を投げれば団塊に当たる」。ビル・クリントン(1946年)、ジョージ・W・ブッシュ(1946年)、ヒラリー・クリントン(1947年)、ドナルド・J・トランプ(1946年)と多士済々であります。実に大統領3人、合計16年がこれに該当してしまいます。
〇ところが日本では、団塊世代の政治家が少ないのであります。しかも過去に首相になったのは、鳩山由紀夫(1947年)と菅直人(1946年)というから、戦後の歴代首相におけるブービーとブービーメーカー(どっちがどっちでも可)なので、ほとんど忘れられた存在であったのです。今回、菅義偉(1948年)が首相になりましたが、果たしてこのジンクスは打ち破れるでしょうか。
〇団塊世代の政治家は、ほかにはこんなところが目立ちます。数は多いんですよ。ただし、何というか「残念なタイプ」が目立つのですよね。仙谷さんや鳩山邦夫さんのように早世された方も目立ちます。
阿部知子(1948年)
甘利 明(1949年)
井上義久(1947年)
猪瀬直樹(1946年)
大島理森(1946年)
鴨下一郎(1949年)
河村たかし(1948年)
穀田恵二(1947年)
鈴木宗男(1948年)
仙谷由人(1946年)
中村喜四郎(1949年)
鳩山邦夫(1948年)
舛添要一(1948年)
山本幸三(1948年)
〇ちなみに菅首相を支える顔ぶれの中には、山口泰明選挙対策委員長(1948年)、林幹雄幹事長代理(1947年)といった顔ぶれが入っています。まあ、菅さんの場合、前2人のパフォーマンスが悪すぎるので、それを下回ることだけはないと思います。頑張ってほしいです。
<9月18日>(金)
〇安倍前首相の辞任会見から今日で3週間。そして今日には「菅新内閣の支持率は7割前後」ということですから、なんとも早い変化でありました。
〇ふっと思い出しましたが、9月12日の日経プラス10サタデー「ニュースの疑問」に出演した際、日経論説委員の坂本英二さんが番組冒頭でこんなことを言ったんですよね。
「石破がつき 岸田がつきし天下餅 座りしままに食うは菅長官」
〇で、番組が終わった後は、関係者間でしばし織田〜豊臣〜徳川に関する雑談が続いたのです。そしたら最後にこんな一言が飛び出した。
「この後、大坂冬の陣、春の陣があるかもしれないね」
〇つまり天下を取った家康は、念には念を入れて豊臣家をつぶしに行く。この場合で行くと、菅首相が安倍退治を図ることになる。いやあ、永田町であれば、いかにもあり得る話です。というか、どこの会社でも、会長と社長の間ではよくよくあることですわな。政治の世界はいかにも業が深いです。
<9月19日>(土)
〇大阪経済大学の講義で大阪へ。シルバーウィークの始まりだけあって、今朝の東京駅は結構混んでました。迷った挙句、グランスタで弁当を買います。海鮮丼にしました。
〇ああ、とっても久しぶりの東海道新幹線、そして大阪である。と言っても見かけ上は、そんなに変わっているわけではない。タクシーの運転手さんと話すと、「万博なんてどうでもいいですわあ」とのこと。
〇北浜キャンパスに行って、約3時間の授業をして、まっすぐ新大阪駅に戻るだけである。ホントはいろいろ立ち寄りたいのだけれども。
〇新大阪の駅で「ぼてじゅう」で肉玉を注文し、551の豚まんを買って帰る。新幹線の中ではずっと竜王戦挑戦者決定戦第3局を見ていた。家に着いた頃になって、羽生さんが丸山九段を下して挑戦権獲得。ああ、ホッとした。
〇豊島竜王との七番勝負。これは楽しみですな。オバゼキ先生はきっと豊島応援団だと思いますが、当方は羽生応援団です。いざ尋常に勝負。
<9月20日>(日)
〇昨日、新幹線に乗った瞬間にメッセンジャーが鳴った。さる人からの知らせは「RBG死去!」。思わず、「てえへんだ!」と返しました。
〇ルース・ベイダー・ギンズバーグ最高裁判事。9月18日にすい臓がんで87歳で逝去しました。この人がどんなに重要な人であったかは、この辺を読んで学習してください。以下はアメリカ大統領選挙に与える影響についてだけを論じます。
〇あらためてアメリカ最高裁判事の9人のメンバーを掲げておきましょう。
*クラレンス・トーマス 男性/アフリカ系/ジョージア州→
ブッシュSr.が1991/10/23に指名。保守 72歳
*ルース・ギンズバーグ 女性/ユダヤ系/ニューヨーク州→
クリントンが1993/8/10に指名。リベラル 87歳→死去
*スティーブン・ブライヤー 男性/ユダヤ系/カリフォルニア州→クリントンが1994/8/3に指名。リベラル 81歳
*ジョン・ロバーツ長官 男性/白人/ニューヨーク州→
ブッシュJr.が2005/9/29に指名。 保守 65歳
*サミュエル・アリート 男性/イタリア系/ニュージャージー州→ブッシュJr.が
2006/1/31に指名。保守 70歳
*ソニア・ソトマイヨール 女性/ラテン系 /ニューヨーク州→オバマが2009/8/8に指名。リベラル 66歳
*エレナ・ケイガン 女性/ユダヤ系/ニューヨーク州→オバマが2010/8/7に指名。リベラル 60歳
*ニール・ゴーサッチ 男性/白人/コロラド州→
トランプが2017/4/10に指名。保守 52歳
*ブレット・カバノー 男性/白人/ワシントンDC出身→トランプが2018/7/9に指名。保守 55歳
〇RBGの死によって、現在は「5対4」の保守対リベラルの比率が変わることになります。普通に考えれば「5対3」になって保守優勢が強まるはずなのですが、最近のロバーツ長官は「穏健保守」というか、やや中道寄りになっています。少なくともトランプさんの言うことを何でも聞いてくれるような状態ではありません。この後、大統領選挙の結果をめぐって、最高裁にゲタを預けられる立場になった場合は、「4対4」となって「決められない最高裁」になってしまう恐れがあります。これは結構、ヤバい事態です。
〇トランプさんとしては、ここは素早く保守派の判事を指名しておきたい。それは自分の業績になってコアな支持者に受けるのはもちろんのこと、11月3日以降に「どっちが勝ったか」揉めた場合の保険にもなる。もっともこれをやってしまうと、保守派の有権者が11月3日に、「ああ、これで当分、最高裁は大丈夫だから、今年はトランプに投票する必要はないな〜」と考える恐れも出てくる。
〇ところで上記を見ると、過去の最高裁判事はクリントン大統領が2人、ブッシュ大統領が2人、オバマ大統領が2人指名しています。それぞれ「8年間で2回の指名」なんですね。ところがトランプさんは、わずか4年で3回目のチャンスが回ってきたことになる。なんという強運。しかも選挙の直前という絶好のタイミングでRBGの「Xデー」がやってきた。
〇トランプさんは、これから電光石火で新たな保守派の判事(たぶん女性)を指名するでしょう。そこから先は、上院における承認の問題となります。上院のマコーネル院内総務は、「最高裁判事の指名があれば、審議をやりまっせ」と言っている。
〇ところがここに前例がある。1992年に最高裁判事の空席ができたとき、ときの上院司法委員会でジョー・バイデン上院議員(!)は「選挙前に決めるべきではない」との論陣を張った。直前の1991年秋にクラレンス・トーマス判事が承認されたときは、世に名高いセクハラ公聴会という非常に後味の悪い問題があった。そこで皆が納得し、「バイデン・ルール」が誕生したのである。その結果、1993年夏に誕生したのがRBG最高裁判事でありました。
〇それから幾星霜、2016年にまたまた空席ができたとき、マコーネル院内総務はこの「バイデン・ルール」を持ち出して、「次の最高裁判事は選挙後に決めるべきだ」と言い出した。かくして哀れ、オバマ大統領が指名していたメリク・ガーランド判事は宙に浮いてしまい、トランプ当選とともに行き場を失った。かくして2017年に保守派のニール・ゴーサッチ判事が誕生したのでありました。
〇この経緯を思い起こせば、「今回も上院は選挙後に承認すべきでしょう」ということになる。もっともその場合、トランプさんが怒り狂うことは間違いない。まあ、いいんです。上院は追加景気対策でもホワイトハウスをシカトしているんですから。彼らにとって大事なのことは、上院における多数を維持することであって、トランプ再選やアメリカ経済ではないんですよねえ。
〇上院のことだけを考えると、この時点での新しい判事に賛成してくれなさそうな議員が何人かいる。スーザン・コリンズ(ME)とか、リサ・マコウスキー(AK)とか、チャック・グラスリー(IA)とか、リンゼー・グラハム(SC)とか。それから態度表明していないけど、ミット・ロムニー(UT)もそうだろうなあ。当たり前の話で、彼らも自分の選挙がかかっているのだから。そして今の議席は53対47なので、票差はギリギリとなります。加えてアリゾナ州の特別選挙では、民主党候補が勝ちそうだという観測が流れている。
〇ということで、上院は承認手続きを思いとどまるかもしれない。ところがマコーネルさんとしては、トランプさんが選挙で負けてレイムダック議会が行われている間に、サクッと保守派判事を通してしまえ、という誘惑もあるところでありまして、そうなった場合にはますますわけのわからないことになる。
〇いやもう、あまりにも先別れが多過ぎるので、藤井2冠なみの棋力がないと、この先の読み筋は確定できません。それにしても今日のNHKスペシャルは面白かったなあ。
<9月22日>(火)
〇将棋界が変に注目を集めております。昨晩は叡王戦の七番勝負第九局(!)で、豊島竜王が永瀬叡王を破るのを見ておりました。千日手に持将棋と、通称・バナナマンの粘りはいささか鼻につくほどだったので、この結果は素直に歓迎。豊島竜王は、渡辺二冠に名人位を取られた直後に新たなタイトルを得ましたが、つくづく防衛が苦手なタイトルホルダーのようであります。
〇そして本日は王将戦の単なるリーグ戦なのですが、藤井二冠の相手が羽生さんということで変に注目されている。メディア的には、「平成の天才対令和の天才」ということなのだろうか。勝負は横歩取りで、藤井二冠が序盤で飛車角交換に打って出たのがあまりよくなかったようで、途中からは後手の羽生九段のペースに。最後は即詰みに打ち取って、久々にらしい勝ち方でした。
〇今まで羽生九段は公式戦では藤井二冠に対して0勝3敗なので、これが初勝利。まあ、このクラスになると、勝負はいつも紙一重なので、さすがに勝率100%は続きません。羽生さんは竜王戦挑戦者決定3番勝負で勝った直後なので、さすがに勢いがある。この秋の「防衛下手」な豊島竜王への挑戦は楽しみです。
〇しかし王将戦のリーグ戦がNHKの「ニュース7」で中継されて、速報が流れる、とはすごい事態です。そこまで力を入れるほどのことかなあ。この方が思いつめたようなことを書くのは、いつものことなんですけど。
<9月23日>(木)
〇RBG死す、のニュースで得をするのは誰か。当初はこれで民主党側が盛り上がる、との見方もあったのですが、どうやら共和党側の方が追い風になりそうですね。
〇何よりわかりやすいことに、アメリカにおけるコロナの死者数は昨日でとうとう20万人越えした。これはもう「コロナ敗戦」以外の何物でもない。トランプ大統領は、永遠にこの責任から逃れられないだろう。このことについて皆が語らなくなるというだけで、トランプさんにとっては大儲けとなる。最高裁判事の人選は、それくらいの大ごとなのである。
〇ちょっと驚いたのは、あの穏健派のミット・ロムニー上院議員が、「大統領選前の承認を支持」と宣言したことだ。上院司法委員会のリンゼー・グラハム委員長も、迅速な承認手続きを望むと言っている。となれば、反対しそうなのはスーザン・コリンズとリサ・マコウスキーという女性議員2人くらいである。この2人は、2年前のブレット・カヴァノー判事の承認の際も大いに苦しんだ。とくにコリンズ上院議員は今年が改選期で、民主党の女性候補サラ・ギデオンに押しまくられているから洒落にならない。
〇しかし仮に造反が2人だけということになると、51対49で新しい保守派の女性判事(トランプさんは9月26日までに公表すると言っている)は承認されてしまう。あと1人が造反して50対50になったとしても、議長であるペンス副大統領の最後の1票が効く。真面目な話、11月3日の投票日までに公聴会などすべての手続きが終わるとは考えにくいのだが、それはクリスマス休暇前のレイムダック議会にやっても良いのである。
〇それでは、なぜミット・ロムニー氏が賛成に回ったのか。それは「6対3の最高裁」が、共和党にとって長年の夢だったからである。ぶっちゃけで言ってしまえば、共和党は人口動態的に不利を運命づけられた政党だ。若い世代はリベラルだし、人口構成比からいっても白人比率は確実に低下していくので、未来が明るいわけではない。下手をすれば、来年はホワイトハウスと上院と下院の3つとも、民主党にとられてしまう(Trifecta=3連単)かもしれない。
〇たまたまトランプさんという変なトリックスターが登場して、そのお陰で共和党は4年間延命できたけれども、それがこの先も続く保証はどこにもない。なにより伝統ある共和党が、今ではトランプファミリーの私党みたいになってしまった。トランプ亡き後の共和党がどうなるか、というのも興味深いテーマなのだが、その話はここではさておくことにしよう。
〇共和党はこれから長期衰退期に入るかもしれない。彼らも馬鹿ではないので、さすがにその辺のことはわきまえている。ところがそのときに、最高裁判事が保守派6対リベラル派3であったとすれば、彼らの望まない政策はどんどん違憲にできてしまうのである。予算措置を伴う経済政策なんぞは無理ですが、銃規制、移民問題、選挙制度、ヘルスケア、人種、ジェンダー、人工妊娠中絶といった社会問題は、民主党がやろうとすること全部を水泡に帰することができてしまう。
〇たとえどんな非難を受けようとも、こんな千載一遇の機会を逃すことはできない。今回の場合、マコーネル院内総務が言っている理屈はこうだ。「昔から大統領と上院が同じ党のときは、たとえ大統領選挙の直前であっても、新しい候補者を挙げてきた経緯がある。1992年や2016年は、たまたまそうじゃなかったから先送りしただけだ。2020年は同じ共和党なのだから、大統領選挙の前でも承認する」。――もちろん我田引水な議論だが、「理屈は後から貨車で来る」という典型である。
〇「ああ、これで人工妊娠中絶を違憲にできる!」と喜んでいる人たちももちろんいる。が、この場合の共和党支持者はそんな極端な人たちばかりではない。ごく普通の中高年世代で、同性婚や移民の増加もいいけれども、世の中の変化の速さについていけないと思っていて、「せめて自分が生きている間は、もう少し変わらないでいてもらいたい」と願っている人たちがいる。おそらく民主党の天下が続くと、最高裁判事も徐々にリベラル派が増えるだろうが、それには長い時間がかかるので、それは構わない、と考えるのではないか。
〇リベラル派の側はもちろん怒っていて、「かくなる上はパック・ザ・コートも辞さず」との声がある。これは最高裁判事を現行の9人からもっと増やしてしまえ!という作戦で、議会が立法措置をすればできない話ではない。FDRことルーズベルト大統領の時代には、ホワイトハウスも議会も民主党だったのだが、最高裁判事が長らく保守派で占められていたためにこのアイデアが浮上した。が、さすがのFDRもこれはやれなかった。
〇そもそも最高裁が6対3になってしまうと、判事を2人増やして11人にしてもまだ「保守派6対リベラル派5」となって足りないことになる。一気に5人増やして13人にしてしまえ、というのはさすがに乱暴ではないか。まあ、日本の最高裁判事は15人ですけどね。
〇ところでもうひとつ心配なことがあります。この後、最高裁判事人事をめぐって議会の対立はますます深刻化するでしょう。たまたま9月22日、暫定予算案の合意ができたので、12月11日までの連邦政府予算は確保できた。これで大統領選挙前の政府閉鎖は回避されます。しかるに「追加景気支援策」の方はまったくめどが立たなくなった。アメリカ経済、今は決して盤石ではないし、本当は1兆ドル超の対策を打っておくべきだと思うのである。ああ、見ちゃいられない。10月のアメリカ株価は、くれぐれも慎重に見ておくべきだと思いますぞ。
<9月24日>(木)
〇キャピトル東急ホテルのオリガミでランチしたのだが、なんだかすごい賑わいである。もともとコロナがひどかった時期でも、ここだけは別格で客が入っていた。さすがは魑魅魍魎が跋扈する永田町界隈である。
〇もともと官房長官時代の菅さんが、毎朝ここで人と会いながら朝食をとっていたことは知る人ぞ知る話であったが、総理大臣になって「首相動静」が新聞に載るようになって、その「偏愛」ぶりがあきらかになった。ちなみに今週の動きは下記のとおりである。
●9月21日(月)
午前8時35分、東京・赤坂の衆院議員宿舎発。同40分、官邸着。官邸の敷地内を散歩。同9時19分、官邸発。同21分、東京・永田町のザ・キャピトルホテル東急着。同ホテル内のレストラン「ORIGAMI」へ。
午前9時22分から同53分まで、経済ジャーナリストの財部誠一氏。
午前9時58分から同10時50分まで、大和総研の熊谷亮丸チーフエコノミスト。
午前10時51分から同11時32分まで、金丸恭文フューチャー会長兼社長。同39分から午後0時23分まで、新浪剛史サントリーホールディングス社長と会食。同31分から同1時19分まで、自民党の「不妊治療への支援拡充を目指す議員連盟」の和田政宗事務局長、杉山産婦人科の杉山力一理事長。
午後1時25分、同ホテル発。
午後2時29分、横浜市西区の久保山墓地着。秘書を務めた故小此木彦三郎元建設相の墓参り。同32分から同34分まで、報道各社のインタビュー。同35分、同所発。同36分、墓地を管理する「太田茶屋」着。知人らと写真撮影。同37分、同所発。
午後3時30分、東京・永田町のザ・キャピトルホテル東急着。同57分から同5時まで、林幸宏内閣府政策統括官、竹森俊平慶応大教授。
午後5時3分、同ホテル発。同6分、東京・赤坂の衆院議員宿舎着。
午後10時現在、同議員宿舎。
●9月22日(火)
午前9時25分、東京・赤坂の衆院議員宿舎発。同34分、皇居着。秋季皇霊祭・神殿祭の儀。
午前10時45分、皇居発。
午前10時53分、衆院第2議員会館着。
午前10時54分から同11時7分まで、梶山弘志経済産業相。
午前11時8分から午後0時12分まで、加藤勝信官房長官。
午後0時32分、同所発。同36分、東京・赤坂の衆院議員宿舎着。
午後0時53分、同議員宿舎発。同55分、東京・永田町のザ・キャピトルホテル東急着。同ホテル内の中国料理店「星ケ岡」で岡部信彦川崎市健康安全研究所長と会食。
午後2時1分、同ホテル発。
午後2時3分、衆院第2議員会館着。
午後2時22分、同所発。
午後2時26分、東京・赤坂の衆院議員宿舎着。
午後3時26分、同議員宿舎発。
午後3時31分、官邸着。官邸の敷地内を散歩。
午後4時、官邸発。同1分、公邸着。
午後4時56分から同5時13分まで、ドイツのメルケル首相と電話会談。同45分から同6時1分まで、欧州連合(EU)のミシェル大統領と電話会談。
午後6時17分、公邸発。同19分、東京・永田町のザ・キャピトルホテル東急着。同ホテル内の日本料理店「水簾」で、外務省の森健良、鈴木浩両外務審議官、宇山秀樹欧州局長と会食。
午後8時1分、同ホテル発。同6分、東京・赤坂の衆院議員宿舎着。
午後10時現在、同議員宿舎。
●9月23日(水)
午前6時37分、東京・赤坂の衆院議員宿舎発。同41分、官邸着。官邸の敷地内を散歩。
午前7時23分、官邸発。同25分、東京・永田町のザ・キャピトルホテル東急着。同ホテル内のレストラン「ORIGAMI」で自民党の森山裕国対委員長、林幹雄幹事長代理と会食。
午前8時32分、同ホテル発。同34分、官邸着。
午前10時3分から同23分まで、デジタル改革関係閣僚会議。
午前10時36分から同39分まで、野上浩太郎農林水産相。
午前10時52分から同11時1分まで、平沢勝栄復興相。
午前11時14分から同28分まで、坂本哲志地方創生担当相。
午後0時2分から同45分まで、黒田東彦日銀総裁と昼食。
午後1時31分から同46分まで、小池百合子東京都知事と東京五輪・パラリンピックについて意見交換。林自民党幹事長代理同席。
午後1時50分から同2時25分まで、石川正一郎拉致問題対策本部事務局長。
午後2時26分から同36分まで、山本一太群馬県知事。
午後3時30分から同45分まで、岸信夫防衛相。
午後3時53分から同4時4分まで、超党派の「病院船・災害時多目的支援船建造推進議員連盟」の衛藤征士郎会長、井上義久会長代理による申し入れ。同10分から同20分まで、橋本聖子五輪相、和泉洋人首相補佐官、森健良外務審議官。
午後4時21分から同36分まで、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と電話会談。橋本五輪相同席。
午後5時16分から同34分まで、ジョンソン英首相と電話会談。同54分から同6時まで、滝沢裕昭内閣情報官。
午後6時25分から同26分まで、報道各社のインタビュー。同27分、官邸発。同36分、東京・芝公園のホテル「ザ・プリンスパークタワー東京」着。同ホテル内の宴会場「スカイバンケット」で、自民党総裁選で陣営の選対本部長を務めた小此木八郎防災担当相、事務総長を務めた山口泰明同党選対委員長らと会食。
午後7時21分、同ホテル発。同30分、衆院第2議員会館着。
午後8時2分、同所発。
午後8時5分、ザ・キャピトルホテル東急着。同ホテル内のレストラン「ORIGAMI」で秘書官と食事。
午後8時46分、同ホテル発。同50分、東京・赤坂の衆院議員宿舎着。
午後10時現在、同議員宿舎。
●9月24日(木)
午前6時40分、東京・赤坂の衆院議員宿舎発。同43分、官邸着。官邸の敷地内を散歩。
午前7時49分から同8時11分まで、国連のグテレス事務総長と電話会談。
午前9時38分から同43分まで、西村康稔経済再生担当相。同44分から同10時2分まで、西村康稔経済財政担当相、内閣府の山崎重孝事務次官、田和宏内閣府審議官、林幸宏、籠宮信雄両政策統括官。
午前10時58分から同11時18分まで、韓国の文在寅大統領と電話会談。同32分から同33分まで、報道各社のインタビュー。
午前11時43分から同53分まで、藤井健志官房副長官補、黒田武一郎総務事務次官。
午後0時31分、官邸発。同33分、衆院第2議員会館着。
午後0時59分、同所発。同1時2分、官邸着。
午後2時27分から同52分まで、武田良太総務相。
午後2時53分から同3時13分まで、棚橋泰文自民党衆院議員。
午後3時14分から同32分まで、梶山弘志経済産業相、経産省の安藤久佳事務次官、荒井勝喜総括審議官。
午後3時49分、前田匡史国際協力銀行総裁、和泉洋人首相補佐官、四方敬之外務省経済局長、岡西康博国土交通審議官が入った。同59分、四方、岡西両氏が出た。同4時1分、前田、和泉両氏が出た。
午後4時2分から同14分まで、林肇官房副長官補、山田重夫外務省総合外交政策局長、防衛省の岡真臣防衛政策局長、山崎幸二統合幕僚長。
午後4時15分から同31分まで、秋葉剛男外務事務次官。同32分から同37分まで、園田修光自民党参院議員、森博幸鹿児島市長。
午後5時3分から同17分まで、月例経済報告関係閣僚会議。同18分、和泉首相補佐官、吉田学新型コロナウイルス感染症対策推進室長、厚生労働省の樽見英樹事務次官、福島靖正医務技監、鎌田光明医薬・生活衛生局長が入った。同29分、樽見、鎌田両氏が出て、水嶋光一外務省領事局長が加わった。同53分、全員出た。
午後6時41分、官邸発。同43分、衆院第2議員会館着。
午後6時58分、同所発。同7時1分、東京・永田町のザ・キャピトルホテル東急着。同ホテル内のレストラン「ORIGAMI」で西岡力麗澤大客員教授と会食。
午後8時4分、同ホテル発。同8分、東京・赤坂の衆院議員宿舎着。
午後10時現在、同議員宿舎。
〇すごいですねえ。毎日欠かさず、どころか1日2食の日まである。ここまでくると職場の延長ですね。総理のご贔屓が手伝ってか、本日昼もたいへんな賑わいでありました。そうそう、安倍前首相もお見えでありましたよ。
<9月25日>(金)
〇本日は常磐線の「ときわ」と「ひたち」を乗り継いで北茨城市へ。
〇磯原駅で降りると、ホームには「か〜ら〜す〜なぜ鳴くの〜」という音楽が流れている。ここで「カラスの勝手でしょ〜」などと返してはいけない。北茨城市は野口雨情の出身地なのである。それにしても、「かーわいい七つの子があるからよ〜♪」という七つとは何の意味なんでしょう。童謡の歌詞には、ときどきドキッとするような文句が隠れているものです。
〇そこからタクシーに乗って五浦へ。「いづら」と呼ぶのが正しいらしいが、「いつうら」と呼ぶこともあるらしい。福島県との県境に近く、出入りの多い岩石海岸には見所が多い。かつて岡倉天心がこの地に日本美術院の本拠を建てたことで知られる。本日は台風到来で、太平洋は大荒れである。「3・11」のときには津波到来で、天心が建てた六角堂が流失した。現在は復旧している。
〇本日の会場は五浦観光ホテル大観荘。「大観」とあるのは、もちろん当地で画筆を執った横山大観から来ている。去年の夏に、熱海の「大観荘」に泊まったばかりであるが、北茨城市にも大観荘があったのである。見晴らしのいい露天風呂もあって、なかなかに良さそうなところである。
〇さて、本日のクライアントは茨城県経営者協会さんで、県北地区の支部総会である。考えてみれば、常陽銀行さんや茨城新聞さんのセミナーで、茨城県内は結構、回っている方だと思っていたが、日立市より北に来るのは今回が初めてである。本日のお題はアメリカ大統領選挙。
〇とはいえ、コロナ時代のこの手の会合は大変だ。本日も会場を広く取り、ドアを開け放して換気を心掛けたりしている。そして講演会後の懇親会もなし。これはホテルにとっては辛いところだろう。大観荘は家族連れが多く来ているようだったが、いかんせん本日のような法人需要は、たいへんお久しぶりのようでした。
〇それはそれとして、また行ってみたいですな。できれば天気のいい日に。
<9月27日>(日)
〇アメリカの最高裁判事ポリティクスの話をこちらに寄稿しました。
●10月の株価は「Octoberサプライズ」になる懸念
〇そしてトランプ大統領は昨日、保守派の女性判事、エイミー・コニー・バレット氏(48歳)を最高裁判事に指名しました。以前から大本命と言われていた人です。出身はニューオーリンズですが、現在はインディアナ州在住で、連邦控訴審判事を務めています。同じく法曹界の人物であるジェシー・バレット氏との間に7人の子供がいるとのこと(うち2人は養子)。これは中西部狙いという意味でも、宗教右派票狙いからいっても賢い選択ですね。
〇それからカトリックである。ジョー・バイデン元副大統領もカトリックでありますが、彼はプロ・チョイスなんですよね。これは2004年の大統領選で民主党候補になったジョン・ケリー元上院議員と同じです。そしてこの年の選挙では、民主党はヒスパニック票が十分に取れなかったことが敗因になっている。バイデンさんとしては、人工妊娠中絶の問題が重荷になりそうだ。今ごろ陣営には、いや〜な雰囲気が流れているかもしれません。
〇それにしてもトランプさんという人は、「次の選挙で勝ちたいがため」にバレット氏を最高裁判事に任命し、それが向こう30年くらいは在任することになる。つくづくすごい話であります。昔はもっと「上院議員100人がこぞって賛成するような人」を選んでいたはずなのですが。
〇いつも思うことですが、アメリカの民主主義は「局外中立」の人や組織が存在しない仕組みになっています。メディアにも党派色があるし、最高裁判事も色分けがあるし、極端な話、選挙を監視する人たちも左右どちらかの陣営に属している。それでいい、というのが彼らのシステムなんで、揉めたときに「この喧嘩は私が引き取ろう」という仲裁者が出てこない。ホントにどうするんだろう。
〇これに比べると日本の最高裁はまことに無難で平和であります。何しろ15人いる判事の名前を、まったく覚えなくていいのですから。
<9月29日>(火)
〇本日はアメリカ東海岸時間の午後9時から第1回のテレビ討論会が行われます。日本時間だと明日の午前10時から、NHK
BS1で放映されます。いやあ、楽しみですねえ。
〇「第1回のテレビ討論会では、現職大統領がつい不覚を取る」、という法則があります。2012年のオバマ(対ロムニー)でさえやらかしたし、2004年のブッシュ(対ケリー)もそうでした。両者とも、第2回目以降は立ち直ったのですけどね。現職大統領は、ついつい挑戦者を甘く見るのです。しかもタイマンでの政策論争など、長らくやったことがない。逆に挑戦者は予備選挙をくぐりぬけているので、頭の中にはちゃんと最新のデータがインプットされている(まあ、バイデンさんの場合は、そこがちょっと怪しいのだけど)。
〇トランプさんの場合、自分が劣勢にあることは自覚しているでしょうし、「コロナによる20万人超の死」という巌然たる事実もある。元NJ州知事のクリス・クリスティーを相手に、ちゃんとディベートの練習をしている模様。むしろここでバイデン氏の弱みをさらけ出して、一気に攻勢に出ようと手ぐすね引いていることでしょう。
〇バイデンさんの場合は、まず失言をしないこと。「空白の30秒」ももちろんダメ。トランプさんが鬼の首を取ったように、「ヤツはもうボケている!」と喜ぶことでしょう。それから息子さんのハンター・バイデンの悪口を言われてブチ切れしてもダメ。くどい話しぶりも厳禁です。テッド・ケネディがどうだったとか、マンスフィールドはえらいやつだったとか、あんまり古い名前を出すのは考えものです。そんなの、若い人は知りませんから。
〇テレビ討論会は全体で90分。間にCM休憩はありません。6つのパートに分かれていて、FOXニュースのアンカーマン、クリス・ウォーレスが司会を担当します。あの保守派のFOXニュースなんですが、非常にまっとうなジャーナリストですから、トランプさんにとっては天敵のような存在です。
〇そういえばNYタイムズ紙が、このタイミングで「トランプさんは税金払っていなかった」スクープをやってくれました。まあ、損失があれば所得税が軽減されるのは仕方ないことなので、だからケシカランなどと申し上げるつもりはありません。とはいえ、この記事はいろんな意味で「トランプさんの実態」を裏付けてくれました。『アプレンティス』では4.27億ドルの収入を得たのだけれど、それをゴルフコースとかホテル業といった金食い虫のビジネスに投資していて、トランプ・オーガニゼーションはあんまり儲かっていなかった。やっぱり彼は天性のテレビマンで、間違っても「不動産王」なのではないのであります。
〇2015年に大統領選出馬を表明したのも、彼のビジネスの根幹をなす"Trump"ブランドを輝かせるための投資だった、という見方が裏付けられた気がします。いや、だからと言って、それで彼の支持者が動揺するとも思えないのですが。明日の討論会に注目しましょう。
<9月30日>(水)
〇本日はC-SPANのサイトから第1回のテレビ討論会を見物しました。コロナ下につき、互いに握手もなくスタートした討論会は、個人攻撃が飛び交う混乱の極みのような90分間でありました。フルトランスクリプトはこちらをご参照。
〇相手が話している最中にもどんどん割り込むトランプ大統領は、現職大統領としての品位には欠けている。挑戦者としてヒラリー・クリントンに挑んだ2016年の時と全く同じ流儀である。とはいえ、最後まで衰えないあの勢いはたいしたもの。74歳にしては強烈なパッションであり、良くも悪くも、「強いリーダー」であることを示したと言えよう。敵にも上司にもしたくないタイプである。
〇逆にバイデン元副大統領はやや押され気味で、特に息子のハンター・バイデン氏の悪口を言われたのは堪えた様子だった。ちょっと涙目になっているようにも見えた。しかしながら最後まで失言もなく、冷静に議論を終えたのは成功と言えるだろう。こんな印象に残るフレーズもあった。
"How many of you got up this
morning and had an empty chair at the kitchen table because
someone died of COVID?" (今朝、目覚めたとき、コロナによって失われたキッチンテーブルの空席が、どれだけたくさんあったことだろう?)
〇やはり「20万人の死者」という事実は重い。世論調査でリードしているのだから、「しくじりがなければバイデンの勝ち」と見ることもできるだろう。いや、まだ2回残っているのですが。
〇司会のクリス・ウォーレン氏はとにかくお疲れさまである。この人でなかったら、収拾がつかなくなっていたかもしれない。ギリギリのところを見せた「トランプあしらい」であった。本日の真の勝者はこの人かもしれない。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki