<7月1日>(火)
○いつも拝読している歳川隆雄さんのコラムの最新号に、こんなことが書いてあった。若き日のナベツネさんが書いた『派閥』という本が復刻されていて、これが大変に面白いのだけれど、最近は健康状態がよろしくないらしい。そのうえで、新成長戦略、骨太方針、集団的自衛権の憲法解釈変更という仕事を終えた後で、安倍さんとナベツネさんの会食があるかどうかが興味深い、とのこと。7月6日からは外遊ラッシュ(オセアニアと中南米)が始まるので、あるとしたら今週中である。
○このコラムの中に、こんなくだりがある。
ところで、この間に政治記者出身のジャーナリストの新刊が相次いで刊行された。
元共同通信編集局長の後藤謙次氏の『ドキュメント平成政治史1』(岩波書店)、朝日新聞特別編集委員の星浩氏の『官房長官―側近の政治学』(朝日新聞出版)、読売新聞特別編集委員の橋本五郎氏の『総理の覚悟―政治記者が見た短命政権の舞台裏』(中公新書クラレ)である。永田町ウォッチングを生業とする筆者にとって、どれも参考になる良書だ。
○さっそく全部取り寄せて、とりあえず「総理の覚悟」(読売)と「官房長官」(朝日)を読んでみた。読後感は、朝日の圧勝である。やはりトップを描いた話よりも、補佐役を描いた話の方が深みがあって面白い。当世風に言えば、秀吉よりも官兵衛、といったところか。
○歴代の官房長官のタイプには、「子分型」(田中―二階堂、竹下―小渕、小泉―安倍など)、「兄貴分型」(中曽根―後藤田、橋本―梶山、小渕―野中、小泉―福田)、「お友達型」(大平―伊東、細川―武村、麻生―河村)があるのだそうだ。こうしてみると、「お友達型」のパフォーマンスが悪く、「兄貴分型」が優れているように見える。現在の「安倍―菅」は、年齢からいえば「兄貴分型」で、雰囲気からいえば「お友達型」であるように見える。さて、どっちの効果が出るのだろうか。
○首相と官房長官のコンビは、成功例も失敗例もあるが、まったく違うタイプの官房長官を使いこなした首相はやはり「さすが」の長期政権となる。すなわち、中曽根首相は後藤田&藤波を代わる代わる起用し、小泉首相は福田(&細田)&安倍であった。官房長官は、長くやらせておくと本人がどんどん力をつけてしまうし、「いつの日か俺も・・・」という野心を抱きがちなポストなので、あまり長くはやらせるべきではない、というのが自民党の長年の知恵である。現内閣は、この夏にも改造があるとされるが、現在の菅官房長官は果たしてどうなるのか。今の時点では留任説がメインシナリオであるようだが・・・・。
○こういう生臭い話を読んでいると、ふと、「秀吉が途中から官兵衛に冷や飯を食わせるようになり、石田三成などを徴用するようになった」という史実も、似たような機微があったのかねえ、などと思えてくる。察するに竹中半兵衛が兄貴分型で、官兵衛がお友達型で、三成が子分型だったのかしらん。などと考えると面白いです。
<7月2日>(水)
○妄言をいくつか。
<人民日報> ◎安倍氏は「軍備を整える」よりも「軍備を止めて文治に力を尽くす」べき
○ハイ、あなたには言われたくないです。東アジアで軍備拡大をしているのはどこの誰なのか。よく言うわホント。明日以降の訪韓時に、習近平氏がどんなお説教をしてくれるのか、とっても楽しみです。
○ついでに言えば、パククネさんも楽しみです。日本が集団的自衛権を行使するのは、朝鮮半島のために使うケースもあるわけで、おそらくアメリカ筋からは「滅多なことを申すでない」という圧力がかかっていることと思います。でも、空気の読めないあなたのことですから、きっと自爆気味の発言をしてくれるんじゃないかと期待しちゃいます。
○集団的自衛権の解釈変更反対とか、原発再稼働反対とかで、デモに繰り出す人というのはほとんどが同じ人たちなんだそうです。で、そういう人たちが久しぶりに出会って、「いやあ、お達者でしたか」と久闊を叙することを、「昔とった三里塚」というんだそうです。それじゃやっぱり広がりを欠くのではないかと。
○最後にこれは上記とは全く無関係な話で、今宵の同窓会で再会した工学部出身者が言っていたこと。
「機械の原点は自転車だ。動力はないし、すべてがむき出しになっているけれども、確実に生活に役立つ。ところが部品は意外と高度であって、タイヤはゴム製品、スポークは硬鋼線材、ベアリングも使っている。全部の部品を国内生産できるのは、相当な工業国だと言っていい。エンジニアたるもの、常に自分の自転車を手入れして、故障も自分で直すようにすべきである」
○機械というものは、人間あってのものであるから、それ自体を信じてはいけないし、ましてブラックボックスにしてはいかんのだそうです。なるほどねえ。
<7月3日>(木)
○今朝も5時台に目が覚めるのだが、かといってサッカーはやっていない。もうベストエイトが出揃ったので、次は土曜の朝まで待たなければならない。しかもトーナメント方式だから、1試合ごとに1チームが減っていく。3位決定戦を足しても、全部で8試合しか残っていない。
7月5日(土) 午前1時 準々決勝 フランス対ドイツ テレビ東京系
7月5日(土) 午前5時 準々決勝 ブラジル対コロンビア NHK総合
7月6日(日) 午前1時 準々決勝 アルゼンチン対ベルギー NHK総合
7月6日(日) 午前5時 準々決勝 オランダ対クロアチア TBS系
○高校野球でも、準々決勝が一番面白いよねえ。ああ、明日は軽く流して、土日に備えよう。
<7月4日>(金)
○今週は講演の予定も原稿の締め切りもないという、非常に珍しい週であった。お蔭でセミナーに出かけたり、本をぱらぱらと読んだりし、さらには昼夜の会食も多いという、まことに優雅な1週間であった。こんなことをしていて、誰にも怒られないのだから、シンクタンク研究員とはまことにありがたい仕事よのう。
○アメリカ政治の研究会に出て思ったこと。中間選挙は共和党優勢と言われるが、共和党は多少変なところはあっても、自分たちが何をしたいのかわかっている。ティーパーティとかネオコンとかが居るから、政策のベクトルがはっきりしている。ところが民主党側は、自分たちが何をしたいのかがわからない。本当は「格差の是正」とか「中間層の再生」をやりたいのだが、具体策がない。「グローバルな富裕税」って、そりゃあアナタ、無理だすわな。とりあえず、教育や投資では中間層の没落は救えそうにない。
○つまりリベラル派にアイデアがない。ここへきてオバマ大統領は気候変動やら最低賃金やら、リベラルな政策をいろいろ手掛けているけれども、いかにも手当たり次第という感じである。共和党議会が反対するから、法案にはできないので、大統領令や政令という形を使う。ところがそれも妨害に遭う。だんだんオバマさんの発言は言い訳が多くなり、G7サミットでもオランド仏大統領と大喧嘩になったとかで、「大丈夫かいな」という声があちこちから漏れている。
○午後4時から、上杉隆さんの番組「ニューズ オプ
エド」に出演。「7月4日はアメリカ独立記念日だから」ということで、最近のアメリカ政治の話をご紹介する。ネタとしてヒラリーの新しい本を持参。とはいえ、もちろん何の準備も打ち合わせもない。いきなりブルガリア向け原発輸出の話を振られたりしています。上杉さん、最近はこんな仕事をしてたのか。まあ、よかったら見てやってください。
<7月6日>(日)
○今年も夏競馬の季節がやってきた。ということで今日は朝から福島に遠征。昨年と一昨年は七夕賞だったけど、諸般の事情により今年はラジオNIKKEI賞に参戦しました。
○福島競馬を戦うときには、まずは福島民報を味方につけなければならない。福島駅ホームで120円を払って早速入手したところ、今日の高橋利明記者の見立ては以下のとおりである。
<福島11R ラジオNIKKEI賞・1800メートル芝>
@ポイント 「実績重視」粒ぞろいだがG1につながる重賞で好走している馬が上位。実績馬同士では微妙なハンデ差が鍵になる。
A展開 ハナはM。@EIが先行しCGIが好位。BDHJKLが中団、AFNが後方。緩みない流れで勝負所からペースも上がる。底力勝負となる。
B結論 脚質に幅を増したクラリティシチーの重賞初制覇のチャンス。2歳時はゲート難で追い込み一辺倒だったが、強烈な末脚でいちょうS3着、東スポ杯2歳S3着でいずれも皐月賞馬イスラボニータに0秒2差に好走した。3歳になってからもスプリングS3着で出走権を獲得し皐月賞8着は0秒5差。スケールが大きく3F33秒台の末脚を安定して繰り出し、能力は3歳でもトップクラスだ。前走500万下はイメージ一片の逃げ切り勝ち。ゲート難が解消しレースぶりに安定感が出た。ここまで重賞連対がなく2勝馬のためにハンデが55キロで止まったのも有利。正攻法で押し切りたい。
○クラリティシチーという結論は普通だが、このメランコリックな文体があいかわらず好ましい。実戦はどうだったかというと、1番人気クラリティシチーが後方待機から差を詰めたのに対し、5番人気のウインマーレライが直線で内を突いて抜け出して快勝。単勝980円、馬連1820円、3連単は3万4060円となりました。
○帰りのタクシーの運転手さんが言っていた。「この季節、メインレースだけは買うんですよ。今日はうまく取れました。久しぶりに松岡正海が福島に来る、っていうのでピンときまして」。なるほど。実は当方も、クラリティシチーから馬連で流したんですが、かろうじてウインマーレライがひっかかってくれました。なんと、これがマツリダゴッホ産駒の重賞初制覇だそうだ。おかげさまで、福島遠征は3年目の挑戦にして初めて浮いて、めでたく往復の新幹線代がほぼ出ました。パチパチパチ。
○さて、残念なことを一つお伝えしなければなりません。昨年は7月7日に福島にやってきて、「満腹」で円盤餃子を食べたのであります。今年は何か別の路線で、と探し当てたのが「フナバカフェ」。ここのハンバーガーはなるほど美味であります。ちなみにアボガドバーガーを選択しました。非常に満足して店を出掛けたところ、「フナバカフェ閉店のお知らせ」という張り紙がしてあったのです。ガーン。7月20日をもって閉店だそうです。来週、七夕賞に福島まで遠征しようという方は、まだかろうじて間に合いますからお試しください。
○ちなみに「福島競馬に行ってみたいけど、初めてでよくわからない」という方は、このページやこのページが参考になります。なお、「負け過ぎて鼻血が出た」と言われても、当方は責任を負いかねますのでそこんとこどうぞよろしく。
<7月7日>(月)
○ナベツネ御大こと読売新聞社の総帥、渡辺恒雄氏が30歳前後の政治部記者時代に書いた『派閥―保守党の解剖』が弘文堂で復刻されている。なにしろ1958年が初版というから、不肖かんべえが生まれる2年前である。あまりにも古い政治談議である。しかるにこの本が面白い。いろんな読み方ができるところがありがたい。
○不肖かんべえの場合は、小学校6年生だった1972年が三角大福の対決で、その辺からが政治の記憶の始まりである。それ以前のことは、『小説吉田学校』や『自民党戦国史』などでしか知らない。そういえば大学に入ってから、故き細谷千尋先生の「戦後日米関係史」の授業を取り、世の中にこんなに面白いものがあるかと感心したものだが、あれは数少ない一橋大学における学習機会であった。それはさておいて、自分が生まれる前の政治史については正直そんなに詳しくはない。
○というよりも、それは誰だって同じことだと思うのである。たぶん1950年代の日本政治史は、多くの人にとっての盲点になっているのではないか。例えば以下のような指摘は、21世紀の日本社会においては全く想像しがたい。ところが、1950年代の日本政治は、「戦前の日本社会の喪失」という激変期の直後であったから、以下のような記述が出てくるのである。
今日の日本では、戦前のような爵位、位階がない。勲章でさえ、死なない限りなかなか貰えない。 ・・・中略・・・ 総理大臣や大臣の椅子にいつまでもしがみついていないでも、男爵や子爵にでもして貰えれば、当時の政治家はさっさと引退しただろう。政権にしがみついて、さんざんの悪評を残した吉田茂にしても、もし戦前のような栄典があり、伯爵にでもして貰えば、もっとずっと早く政界を引退したことであろう。鳩山一郎も、侯爵にでもなっていれば、(昭和)33年の総選挙では代議士にうって出ることは止めていたのではないか。(P51)
○戦前は貴族院があったから、元首相はそっちで遇してもらえたのである。それにしても、「吉田茂が伯爵で鳩山一郎が侯爵」というナベツネ氏の「相場観」は、今となっては全く理由が分からない。念のために申しあげておきますけど、昔は誰でも「こうこうはくしだん」という言葉を知っていて、「公爵―侯爵―伯爵―子爵―男爵」が正しい序列です。さらに言いますと、鳩山一郎が死の前年となる昭和33年の選挙に出馬して落選しているのは、ウィキペディアにさえ載っていない事実である。いやー、知らんかった。
○肝心な話をしますと、本書において若き日のナベツネ氏は、保守政党(自由民主党の誕生は1955年=昭和30年)の派閥を余すところなく描いているのだが、基本的に派閥という存在に対して好意的であるという事実が非常に興味深い。それはなぜかというと、戦前の日本社会に対する反省からなのである。
共産主義、ファシズムのような全体主義は、強力な出来れば唯一人の指導者=党首を必要とする。かつ党首を強力化するためには、党首を英雄化し、偶像化し、その能力において他の領袖との開きをぐっと大きなものにしなければならない。これと逆に、自由主義、民主主義は、党首を必ずしも強力、偉大なものにする必要はない。この意味で、今日の岸政権下で、保守党が、実力において岸首相と比肩しうる何人もの領袖を持つことは歓迎すべきことであり、それは決して岸首相の政治力の弱小さとして嘆くにはあたらないのであろう。(P17)
○現在の安倍首相のお祖父さんである岸首相は、決して強力な指導者ではなかった。むしろ派閥の連合体にかろうじて乗っかっていた、というのが実態に近い。なにしろ総裁選で1位になったのに、2位、3位連合に逆転されるという、今の石破さんのような立場であった。ところが2位の石橋湛山が病気で倒れてくれたために、タナボタで政権が手に入った。そして党内には、嫌な奴らが一杯いたのである。特に官僚出身の岸信介にとっては、党人派の大物政治家たちはさぞかし煙たい存在であったことだろう。
○ナベツネ氏は、その党人派の典型たる大野伴睦こと大野派の番記者であった。ゆえに本書の後半で各派閥の情勢について述べられている部分では、大野派がはっきり贔屓されている。大野氏は親分肌だとか、党内の結束が強い、などと持ち上げている。他の派閥については、かなり遠慮のない批判を加えているのであるが。なぜそんなことになるのかというと、これは元共産党員であるというナベツネ氏の出自に関係があるらしい。というのも、大野派について以下のような記述がある。
不思議なことは、この保守の典型のような政治家の下に、左翼からの転向者が意外に多いことだ。 ・・・中略・・・ こうした人たちは、たとえ左翼から自由主義に思想的には転向しても、青年時代に圧力を受けた官僚権力に対する根強い反感を持っている。これは保守党の中堅政治家となっても、抜き難い反官僚精神として残っているものだ。(P140)
○上記の「保守党の中堅政治家」を「保守党担当の政治部記者」に置き換えると、そのまんまナベツネ氏のことになる。こういうのを「語るに落ちる」というんですかね。しみじみ読売新聞社の主筆氏は業が深そうです。
○本書は長年の筆者の疑問であった自民党における総務会の役割についても、重要な示唆を与えてくれている。非常に勉強になりましたと申し上げたい。さらに言えば、派閥が機能を停止しつつあって、安倍官邸に党内が逆らえなくなりつつある現状をどう考えるべきか、という視点で、本書を下敷きにして面白い政治コラムが1本書けそうである。朝日新聞政治部の方、いかがでしょうか?
<7月8日>(火)
○将棋の格言に「手のない時には端歩をつけ」というものがある。忙しい序盤戦に端歩をつくと、下手をすると単なる一手損になってしまうのだが、「今なら慌てず騒がず」というときにじっくりと端歩を伸ばしておくと、終盤戦になって金銀3枚分くらいのプラス効果があったりする。端に手をかけるのは、一見ぼんやりしているように見えるけれども、実は味がある手であった、ということが少なくない。
○現在行われている安倍首相のオセアニア歴訪は、まさに「端歩を突く」ような一手である。こんなことを言うと、豪州人やニュージーランド人たちが「するってえと、何だ? 俺たちは端っこか?」と言って怒りだしそうだが、いや、別にあなたたちがDownunderだと嘲っているわけではなくて、国内で集団的自衛権の解釈変更の閣議決定という大技を決めた後に、安倍首相はちょっと息抜きのようにも見える外遊に出かけている。が、これって後で生きてくる一手なのではないかと思うのである。
○そもそも豪州やNZというのは、日本にとって非常にありがたい国なのである。価値観を共有し、資源や農産物を売ってくれて、なおかつ工業製品を買ってくれて、お互いに深刻な問題がない間柄である。強いて言うと「捕鯨」という問題があったのだが、これは日本がICJで負けちゃったので、先方から見れば後腐れのない形で当方が折れることになった。これはこれで、「日本は国際司法で負けると、ちゃんと言われたことは守る」という実例を示しているわけであって、ワシ的にはむしろ良かったんじゃないかと思っている。くれぐれも「捕鯨敗戦の犯人捜し」みたいなことが起きませんように。
○安倍首相にとって、特にアボット豪首相とキーNZ首相は、「同志」的な連帯感を持てる相手である。日豪EPAの正式調印もあるし、「TPP交渉の促進」という共通利害もあるし、海の安全保障協力もある。そして今回の訪問先である豪州、ニュージーランド、パプアニューギニアの3か国は、すべてAPECのメンバー国である。安倍首相にとっての次なるチャレンジは、11月に北京で行われるAPEC首脳会議において、日中首脳会談ができるかどうかである。そういう勝負どころの場所において、潜在的な日本の応援団を増やしておくことは、まさに序盤についておいた端歩が終盤で生きてくるような効果があると思うのである。
○思うに今月は、安倍首相にとっての「黄金の3年間」の最初の1年間の終わりを意味している。この1年間は、@消費税の8%への増税を実施したが、景気の腰折れは回避している、A集団的自衛権の解釈変更を閣議決定し、なおかつ公明党との連立の維持している、BTPP交渉は、できればこの夏までに仕上げてしまいたいが、ちょっと難しいかなあ、という状態である。75点以上は上げていいのではないか。だって消費税と集団的自衛権とTPPは、3つとも歴史に残るテーマですから。これに比べると、成長戦略なんてあんまり大したことはありません。
○この延長線上で行くと、「黄金の3年間」の2年目のテーマは、@消費税の10%、A対中関係の改善、B(できれば)北朝鮮拉致問題の解決である。1年目に比べて、ハードルは確実に上がっている。が、これらもすべて歴史に残る仕事であるから、手抜きは許されません。がんばってくださいまし。
○一方で疑問が残るのは、今が本当に端歩を突くような余裕があるときであったかどうかである。明日はインドネシア大統領選挙があり、これは意外な接戦となっているようで、今月の後半までジョコウィとプラボウォの勝負は決しないかもしれない。それから明日、明後日は北京で米中戦略対話があり、2年前の陳光誠事件のようなことがないとも限らない(もちろん米中両国ともに、ああいうことの再現は願い下げだろうが)。
○まあ、その辺は別にどうでもいいんですが、7月13日の滋賀県知事選挙の動静が気にかかる。「もったいない」のカダフィ知事が退任するので、その後釜を前民主党議員が離党して狙っている。他方、自民党は元経産省職員を立てて勝利を目指している。これで自民党が負けてしまうと、「集団的自衛権と原発再稼働で民意はノーだった」という議論が成立してしまいかねない。
○局後の検討においては、「あそこで端歩を突いたのが、ちょっと温い手でしたね」と言われてしまうかもしれない。ワシ的に集団的自衛権の問題は、秘密保護法と同じで大事には至らないと思っている。なんとなれば、批判勢力はほとんどが「手続き論」を言っている。それってあんまり意味のない話だと思うのである。が、まあ、そこは分からない。一応は先方が「現職」の後継者なので、自民党が負けても不思議はないのだと強弁してもいい。それでも6月末までは自民党は勝つつもりでいたみたいだし、あんまりひどい負け方をするようだと自民党内から異論が出てくるかもしれない。
○果たして端歩が吉と出るか凶と出るか。今週末が見ものです。
<7月9日>(水)
○今朝はひどいものを見てしまいました。決勝トーナメントではずっとドイツを応援していたんですが、9分間で4点も入った当たりから、「こらっ、ブラジル、守備に戻れ!」「あんまり恥ずかしい点差にするんじゃない!」などと叱咤しながら見ていました。いやー、きっと世界中でトトカルチョが行われていることと思いますが、6点差を予想した人はあんまり居なかったことでしょう。変な話、これが日本チームであれば7点はないでしょう。真面目に守るから。天才・藤沢秀行が、70手くらいで投げてしまう囲碁を見ているような感じ。この2014年7月9日の屈辱は、世界のサッカー史の一コマとして長く語り伝えられることでありましょう。
○極端な話、これでブラジルで暴動がおこるくらいは当たり前で、レアルの投げ売りがあっても致し方なく、秋の大統領選挙で番狂わせがあってもそんなのは序の口で、来年のカーニバルが開かれなくても不思議ではなく、2年後のオリンピックが開かれなくなっても驚いてはいけない。それくらいの大事件ではないかと思います。これで明日の試合でアルゼンチンが負けると、日曜朝にはブラジル対アルゼンチンの3位決定戦が行われることになる。そういうのは、あんまり見たくないような気がするなあ。いや、決勝戦のドイツ対オランダは良いのですけれども。
○ブラジルはいったいどうやってこの屈辱に耐えればいいのでしょう。向こう半世紀くらいの間、「え、セレソンだって?ああ、あの2014年の自国開催の準決勝で、7点も取られた奴らか」と言われてしまうのである。哀しいかな、この記憶は消えない。むしろこの先何年にもわたり、「2014年の惨劇はなぜ起きたのか」という新説が、繰り返し登場するという下山事件並みの歴史の謎になるのではないか。いくらネイマールが居なかったとはいえ、それで正当化できるのは2〜3点差まででしょう。対コロンビア戦を嘆いても限度というものがある。「なぜ、どうして?」という問いの連鎖が、これからも繰り返されることでしょう。
○他方、ドイツは見事でありました。時間切れ間際にブラジルが1点返し、ようやく一矢を報いた瞬間に、ノイアーが心底悔しそうにしていたのが印象的でした。思わず2002年に日本で行われたドイツ対サウジアラビア戦を思い出しました。あれは予選でありましたが、ドイツは8対ゼロでサウジアラビアを翻弄した。まだ若々しかったクローゼは、ハットトリックを決めた後に、4点目のシュートを外して地団駄を踏んでました。良くも悪くも「敢えて空気を読まない」のがドイツ国民の美風であるのだとか。勝負の場においては、残酷さこそが相手に対する礼儀である。特にそれが大きな舞台であるときは。
○今大会ではしばしば「大崩れ」が見られます。まるで昨今の日本の天候のように。過去の常識は通用しない。ブラジルの強さが信用できないのであれば、いったい何を信じればいいのか。真面目な話、オルフェーヴルの阪神大賞典以来の衝撃です。競馬に絶対はないのは当然ですが、サッカーの絶対は絶対に信じてはいけない。
○結論として、こんな歴史的瞬間を見てしまえるのだから、やはりW杯は堪えられません。さあ、明日もちゃんと5時に起きるぞ。
<7月10日>(木)
○日帰り出張で山形へ。台風はまだ上陸してないから大丈夫だろう、と思ったら、既に昨日から豪雨だったらしく、今朝は山形新幹線が福島駅から先が不通とのこと。ありゃりゃ。ここは慌てず騒がずに、仙台駅まで行って、そこからクルマで移動する。仙台市と山形市は背中合わせなので、実は近いんですね。バスも約15分間隔であるとのことで、ほとんど通勤圏であるらしい。
○空いた時間に山形県郷土館である「文翔館」を覗いてみる。大正5年に建てられた英国風のレンガ造りの建築物である。昔は県庁に使われていた。外見は東京駅のようであり、中は昔の日本工業倶楽部のようであり、全体に台湾の総督府のようでもある。あの時代の日本の息吹のようなものを感じます。もっとも復元工事やメンテナンスは大変な手間がかかっているようですが。
○今年の東北六魂祭は山形市で行われて、大変な人出だったそうです。山形県を代表するのは、「やっしょ、まかしょ」の花笠まつり。市内の目抜き通りをパレードするわけですが、その突き当りにあるのがこの文翔館なんですね。古い建物が残っている街はいいものであります。
○山形に行ったら、蕎麦に日本酒、ついでに芋煮。で、帰りの新幹線は爆睡。ああ、楽しかった。ただ今、山形ディスティネーションキャンペーンを実施中ですので、よろしければお出かけください。そういえばワシは、庄内や最上はまだ行ったことがない。今後の宿題にしておきましょう。
<7月12日>(土)
○昨日はとっても久しぶりに、東京ドームで巨人阪神戦を見に行きました。諸般の事情により一塁側でしたが。最初は両投手踏ん張ってのシーソーゲーム、後半は乱打戦、ホームランもたくさん。監督采配の疑問あり、審判への抗議による退場あり、そして阪神とうとう8連勝、ということで、たいへんお値打ちな試合でありました。
○どんな感じだったかは、一緒に行った伊藤洋一さんが詳しく書いているので、そちらをご参照ください。当方はごく簡単に、「久しぶりの野球見物で発見したこと」。
●最近の東京ドームでは、試合開始時の国歌演奏でちゃんと全員が起立する。
――膝の上にビールと鮨を持っていたんで、一瞬慌てましたがな。皆が大リーグ中継を見るようになったからでしょうか。結構なことだと思います。
●レフトスタンドの阪神ファンの応援は、真正面に居ると非常に活気があって、でもやかましい。が、7回の「風船攻撃」は自粛している。
――さすが「観戦」ではなく「参戦」すると言われる阪神ファンである。一塁側にも、結構「同志」がおりましたなあ。でも、静かに共存を許している巨人ファンは大人だと思いました。
●サッカー観戦とは違って、野球観戦はビールを飲んだり、フェイスブックをやったりという余裕がある。
――隣の人と「野球談議」しながらっていうのが、正しい見方でありますね。「ここは原監督は動いてくるね」「おいおい、バント失敗だよ」「今のは試合の流れを変えるよねえ」etc.
●終わってから、余韻を楽しみつつ楽しく酒が飲める。
――サッカーとは違って、勝てばニコニコ、負けても明日がある。伊藤さん、ゴチでありました。
<7月13日>(日)
○1980年代のB級SF映画は傑作が多い。『ブレードランナー』『エイリアン』『遊星からの物体X』『ターミネーター』など実に豊作なのだが、ここは1985年の『未来世紀ブラジル』(原題名:Brazil)を忘れてはならない。大ヒットしたわけではないが、一部でカルト的な人気を博した怪作である
○と言ってもこの映画、ブラジルを描いたものではない。描かれているのは、情報が完全に管理されていて、個人のプライバシーなど存在しない近未来である。おそらくはジョージ・オーウェルの『1984年』に想を得たのでしょう。が、劇中ではずっとサンバのリズムが快調に流れていて、現実と幻想が交錯するドラマを盛り上げている。たぶんあの音楽がなかったら、救いようのない陰鬱な映画になっていたのではないだろうか。
○暗い未来SFには、「手つかずの大自然とハチャメチャなエネルギーの国」のイメージが合う、と鬼才テリー・ギリアム監督は考えたのかもしれません。それくらいブラジルは明るい。たとえ政府が非効率でも、暮らしが貧しくても、不条理がいっぱいあっても。
○ところがFIFAワールドカップの現実は厳しいものでありまして、あのブラジルチームが決勝トーナメントで4試合して、全部で12失点という結末でありました。いや、今朝もちゃんと早起きして対オランダの3位決定戦を見たのですが、開始早々いきなりPKで1点進呈、ですものねえ。そして1点も取れず。サッカーで哀しい思いをしても、ブラジルは明るい国でいられるのだろうか。できれば、そうであってほしいけど。
○ということで、世の中はどんどん普通の状態に戻りつつあります。気が付いたら、大相撲も始まっている。巨人vs.阪神戦は2勝1敗で少し差を詰めました。七夕賞は今年も外しました。そしてW杯という非日常のイベントは、明日で終わってしまいます。明後日以降は早く眼が覚めても、視るべきものは何もありません。しくしく。オリンピックとは違って、W杯は終わり方がさびしいんだよなあ。
○差し当たって明日の朝、ドイツが勝つのかアルゼンチンが勝つのか。ワシは今大会はずっとドイツ乗りなんですが、明日の朝はモーサテの出番があるので、あんまり見られません。決勝戦を見終わった方は、よろしかったらテレビ東京系列を回してみてください。あんまり視聴率が低いと、モーサテ関係者一同の士気が低下しますので。
<7月15日>(火)
○本日、さる中国の知識人から教わったこと。中国語で「自由主義」というと、アダム・スミス的な自由放任主義的な資本主義のことを指して、「新自由主義」というと、国家の関与を認める資本主義を指すのだそうだ。つまり今の中国政府は、「新自由主義」の政策を採っていることになる。それって日本と逆じゃん!
○ふと思いついて、wikiで"Neo
Liberalism"を引いてみた。かな〜り長い説明があって、どうやらどっちも正しいらしい。つまり1930年代には「古典的自由主義」と「中央計画経済」の中庸を取ったものとしてでてきたのが「ネオリベラリズム」(中国で言う新自由主義)であった。ところが、1960年代にはこの用法はすっかりすたれてしまい、80年代にハイエクやフリードマンが隆盛してから、規制緩和や民営化を推進する考え方を「ネオリベラリズム」と呼ぶようになった(日本でいう新自由主義)。
○さらに米民主党内では、1990年代のビル・クリントンとアル・ゴアの中道穏健派のことを「ネオリベラル」と呼んでいたこともあるらしい。「ネオコン」もそうですが、「ネオ」は本来、いい意味では使われない言葉のようです。いっそ意訳してしまって、「亜自由主義」の方が正確かもしれません。かといって、ネオコンを「亜保守主義」と訳すると、「あいつらアホや」と言ってるみたいで、やっぱり不味いですかなあ。
○さてさて、われわれは中国から漢字を輸入したわけでありますが、西洋の文物を翻訳する過程では、日本語が中国に輸出されたりしている。そんなことで、お互いに「ははーん」と意味が分かってしまうこともあるし、「なんじゃそれは?」とかえって混乱することもある。似ているから誤解が深まる、ということもあるわけで、この辺が日中関係の難しさでありますね。
<7月16日>(水)
○この4月からNHK第一放送の「ラジオあさいちばん」という番組で、月に1回「ビジネス展望」(6:43am頃〜)というコーナーで10分少々のコメントを語っております。「第3水曜日」のことが多いので、今朝がちょうど出番でありまして、「BRICS首脳会議」についてお話ししました。
○今日になって気が付いたんですが、この番組はちゃんとポッドキャスティングがあるんですねえ。先週分から過去4週間分が掲示してあります。しかも結構、多士済々の顔ぶれですから、これは結構おすすめではないかと。後で自分でも聞いてみようと思い、ここに記録しておきます。
○偶然ながら、NHKの担当アナウンサーは野村優夫さんといいます。文化放送も野村邦丸さんだから、昨日今日と連続で「野村アナ」相手に「BRICS首脳会議」の話をしたことになります。さて、BRICS開発銀行は本当にできるんでしょうか。生ぬるく見守っていきたいと思います。
<7月17日>(木)
○山陰中央新報さんの講演会で米子市へ。鳥取県西部の商業都市である。中海に面した巨大な砂州の上に米子市があり、その先に米子空港があり、そのさらに先に境港市がある。海に面した境港市の向こう岸は島根県である。見れば見るほど不思議な地形なのである。
○ここは2008年5月20日に来て以来である。そのときに行けなかった境港市に是非とも行かねばならぬ。行って、「水木しげるロード」を見届けなければならぬ。ということで、行ってきましたですぞよ。以前に聞いたときは、「年間来場者数150万人」と呼ばれた境港市だが、その後のピークの年には実に370万人に達したのだそうだ。それは2010年のこと、言うまでもなくNHKの朝ドラが「ゲゲゲの女房」だった年である。
○370万人と言えば、鳥取県の総人口の6倍である。これはもう経済効果なんてものじゃない。人口の少ない県には、少しの観光客でも大きく効果が出るのである。山陰は人口減少という面では日本の最先端をゆく地域である。確かに「人口減少」は経済にとって痛いが、「少ない人口」というのは人口動態が安定してしまえば決して悪いことばかりではない。日本より少しだけ小さい面積に、人口420万人でやっているニュージーランドの経済がちゃんとまわっているのと同じ理屈である。
○それにしても水木しげるロードはすごい。境港駅からアーケードの先の水木しげる記念館までは、延々と妖怪のブロンズ像が並んでいる。かつてはシャッター通りであったと思しき商店街は、妖怪ハウスになったり、土産物屋になったり、普通の喫茶店であったり、とにかく商業地としてのにぎわいを取り戻している。そんな中を、かぶりものの鬼太郎やねずみ男が歩いているのである。握手してもいいし、写真を撮ってもいい。これはもうディズニーランドの感覚である。
○つくづく思うのだが、「妖怪による街おこし」を提案した境港市の勇気はちょっとしたものだと言えるだろう。しかるに「魚の町・境港」だと、同工異曲の町は全国にあるわけで、よほどの特色を出さない限り差別化は難しい。ところが、「水木しげるさん」はこの世に一人しかおらず、彼が生み出した想像力は21世紀になっても不思議と古くなることがない。そして「ゲゲゲの鬼太郎」のアニメは何度も何度も放映されたから、ほとんどすべての日本人がなんらかの知識を有しているのである。
○「妖怪による街おこし」は誰も真似をしようとしない。もちろん真似しようとしても真似られない。ここに「水木しげるロード」成功の理由がある。「二番煎じ」ができない街おこしなのだ。そうか、これって「ストーリーとしての競争戦略」に出てくるお手本のようなケースでありますな。
○ナンバーワンはいつか誰かに抜かれるが、オンリーワンは誰も追いかけてくる者がない。弱者の戦略としてはこれが大正解。他人が怖くて(あほらしくて)真似できないような冒険に踏み切ることが、もっともローリスク・ハイリターンの作戦になり得るのである。日本のローカルの未来は山陰にあり。ここは学ぶべきところの多い地域であると思います。
<7月18日>(金)
○昨日に引き続いて今日は島根県松江市で講演会。ここは美しい城下町である。仕事の合間にせっせと観光。すいません、これが楽しみでやっておりますので。
○松江城は1611年に堀尾吉春が築城した。宍道湖の水をうまく使っていて、当時としては大工事であったらしい。およそ戦国時代の名城と呼ばれるものは、黒田官兵衛や加藤清正などの秀吉軍団が作っていることが多い。堀尾吉春も、稲葉山城攻めで功名を上げた秀吉軍団の一員である。以来、一度も実戦することがなく、江戸時代の大火もなく、戦災にも遭わなかったお蔭で、ほとんどそのままの姿で残っている。周囲の武家屋敷も、江戸時代のまんまの風情を残している。ちょっと立派なお屋敷があったので、はて、ここはなんだろうと思って玄関に回ってみたら、表札が「溝口善兵衛」とあった。あわわわ、知事公邸でありました。
○この武家屋敷の中に、小泉八雲の記念館と旧居がある。ギリシャに生まれ、アイルランドに育ち、アメリカに渡ったものの、孤独なままに39歳を迎えたラフカディオ・ハーンは、ジャーナリストとして日本に渡る。そして松江市の英語教師の職を得るのであるが、そこで武家の娘、小泉セツと出会い、この侍屋敷で生活を共にする。あいにく、松江の冬が厳しすぎたので、翌年には彼は熊本に行ってしまうのだが、ここで彼は生まれて初めての家族を得る。3男1女に恵まれ、ご子孫は今もご健在である由。さすがは縁結びの島根県なのでありました。
○もうひとつ、ここは是非行きたいと思っていたのが島根県立美術館。宍道湖の湖畔に立つきれいな建物である。この美術館、常設展示は地元作家が中心なので、今一つの感を禁じ得ないのでありますが、たまたま今日から浮世絵の平木コレクションの企画展をやっておりました。これが風景画から美人画までをごそっと揃えた贅沢な展示で、特に喜多川歌麿の「物思恋」はよろしかったですね。願わくば、いつの日かここの庭でカクテルなど傾けつつ、沈む夕日を見てみたいものであります。
○さて、島根県には3賢人みたいなものがいる。それぞれ島根県から天下を望んでいる。それぞれにインターネットがからんでいる、という点が面白い。
○その1は、今や島根県の宣伝大使でもある蛙男商会、FROGMAN氏である。「なんだそれは?」と思ったアナタ、まさか秘密結社・鷹の爪団を知らないわけじゃないでしょう。あの吉田君は、島根県から世界征服を目指しているのである。もともとは東京都出身の方らしいのだが、島根県に移り住んで「地方発の映像配信」を始めてから大ブレイク。文字通り全世界に島根を売り込んでいる。実はこんな政権構想もあるらしい。次はいよいよ政界進出か。
○その2は、将棋棋士の里見香奈さん。「出雲のイナズマ」の異名をとる女性騎士で、ネット対局で腕を磨き、ついには女流タイトルを総なめにしてしまい、現在奨励会の3級。残念ながら現在は体調を崩して休業中とのことだが、女性初のプロ棋士にリーチをかけた状態。かつて升田幸三実力制第4代名人は、「この幸三、名人に香車を引いて勝つ」と書き残し、広島から大阪へと家出した。今はネットで将棋が指せる時代ゆえ、なにも上京しなくてもいいのである。
○その3は、ソフトウェア技術者のまつもとゆきひろ氏である。大阪出身、米子市育ち、そして松江市在住。コンピュータ・プログラミング言語Rubyの開発者。それがどんなものであるかは、武士の情けでワシには聞かんでつかあさい。島根県としては、この言語をもとにしたIT産業育成に期待しているとのこと。
○ということで、島根県は面白いのであります。
<7月20日>(日)
○恒例の町内会のお祭り。土曜の夜は、宵宮で神主さんに祝詞をあげてもらっている間にゲリラ豪雨に襲われ、一時はどうなることかと思いましたな。例年はあんまり雨には遭わなかったのでありますが、どうも近年は気候が「亜熱帯化」しているようで、こういうこともあるものですな。日曜は幸いに好天に恵まれましたが、夜にはまたも雨。梅雨明けは近そうなんだけどなあ。
○気がつけば、以前に比べて参加する子どもの数も減ったという印象あり。ご近所の町内会では、親子会がなくなってしまうところもあるらしく、夏祭りもだんだんモチベーションの維持が難しくなってきているような。でも、見ていたら子どもたちは楽しそうなんだよなあ。くじで当てた水鉄砲で、ずぶぬれになって遊んでいる子がいたけど、あれ、ちゃんと乾いたのかな。
○他方、大人たちは延々とビールを飲むばかり。これだけは毎年変わらない。でも、長時間外に出て脱水した後だけに、回りが早い。今年も早々につぶれてしまいました。
○夜、『軍師官兵衛』はいよいよ本能寺から中国大返しへ。岡田君は普段は悪くないんだけど、力が入るところの演技が今一つだねえ。というのはさておいて、1582年6月にこの国で起きたドラマは、本当によくできている。シナリオや演技に文句をつけながら、ついつい見てしまうよなあ。
<7月21日>(月)
○22日(火)朝の産経新聞に寄稿しました。
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/140722/fnc14072203080003-n1.htm
○それから22日は上杉隆さんの「ニュースオプエド」に登場します。
https://no-border.co.jp/oped/
○テーマはどちらも「成長戦略第2弾」についての論評です。
<7月22日>(火)
○例のマレーシア機撃墜事件について。何がどうなっているのか、真相はよくわからない。とりあえずプーチン大統領の立場がどんどん悪くなっていることは確かなようだが、ロシア国内では全く別の見方をしているらしい。陰謀論はいつも弱者の友達である。このままいくと、1999年のユーゴ空爆における中国大使館誤爆事件みたいに、「世界は誤爆だと思っているが、中国では故意だとされている」みたいな歴史が残るのかもしれない。
○そこは「毒蛇とサソリの戦い」と呼ばれるロシアとウクライナの関係であるから、いろいろ裏があるのではないかと思う。そこでこんな観測はどうだろう。
(1)プーチン大統領は冷徹な計算をしている。クリミア半島は手に入ってラッキーだが、東ウクライナなど欲しくはない。そうでなくてもロシア経済にとって、新たな領土の併合は経済的な負担が大きいので、本心では親ロシア派などうざい連中だと思っている。
(2)しかしこのままウクライナが挙国一致になってしまうのも面白くない。その上、欧州寄りになられるのは困る。なるべくウクライナの政情が不安定になることが望ましい。そこで表向きは手仕舞いを宣言しつつ、親ロシア派を軍事的に支援して、常に国内を不穏にしておこうとしている。
(3)この図式を誰よりもわかっているのが親ロシア派である。ロシアはいつだってひどい兄貴分だった。今回もまた俺たちは使い捨てだろう。だからと言って、ウクライナ国内の親欧州派の連中と一緒になるのはもっと嫌だ。なんとかして、ロシアが自分たちと切れないようにしてしまいたい。
(4)親ロシア派を支援しているロシア軍の部隊も、かかる状況に義憤を感じている。そこで両者は結託して一計を案じた。地対空ミサイルを親ロシア派に貸し出し、罪のない外国の民間機を打ち落としてしまうのだ。なに、「あれはウクライナ軍がやったことだ」と言えば、きっと水掛け論になるだろう。
(5)うまい具合に国際世論は親ロシア派とその背後にいるプーチン大統領を指弾し始めた。しめしめ、これでプーチンは親ロシア派のことを見捨てられなくなる。世界から孤立すればするほど、ロシアは東ウクライナの面倒を見なければならなくなるのだ。憎っくきロシア兄め、悪女の深情けの怖さを思い知ったか。
(6)・・・という状況にやっと気付いたプーチン大統領、今は静かな怒りに身を震わせながら、もっと悪辣な打開策を検討している(←今ここ)
○上記はもちろん根も葉もない観測でありますが、いかにもワシ好みのストーリーなのである。これくらいドロドロしてないと、ロシア文学らしくないじゃないですか。
<7月23日>(水)
○今日は日帰りで名古屋。体感温度は、関東よりも2度は高いですな。濃尾平野の空気は濃いのである。
○名古屋駅を一歩出ると、少し前までは空間になっていたはずの「大名古屋ビルヂング」の跡地に、早くも建造物ができ始めている。さらに駅周辺で建ちかけの高層ビルが2棟。まさにスーパー・コンパクトシティ。しかるにタクシーの運転手さんによると、「最近は栄の方の人出が今一つ・・・・」とのことであった。
○今日の仕事場はウェスティン名古屋キャッスルホテル。改めて近くで見ると名古屋城は巨大である。さすがは尾張徳川家。金のシャチホコが乗っかった天守閣は、戦時中の空襲で焼けてしまい戦後に再建したそうだが、なるほど壮大な規模である。
○帰り道、名古屋駅で土産でも買おうかと思ったが、籠いっぱいに箱を積み上げた観光客のレジ前行列を見て意気阻喪。うむ、名古屋にはかなわぬ。いずれ日を改めて参ろう。今日はこれくらいにしておいてやるわ。
<7月25日>(金)
○お知らせです。来週になると、こんな本が出るらしいぞ!
●ヤバい日本経済(山口正洋、山崎元、吉崎達彦)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4492396047
内容紹介
バブルか暴落か?
脱デフレ後の日本経済と世界の行方を
今一番ヤバい面々が大胆に読み解く!
人生が変わる経済の読み方
★本書の主な内容
アベノミクスはバブルを起こせないと失敗
不動産を上げることがアベノミクスの出口になる
女性の労働力を掘り起こすことで、もう一回労働力のボーナスを作れる
中国の大都市圏の物件は手金で買っているので、中国バブルは崩壊しにくい
10年続いた新興国バブルの後、もう一度先進国の時代がやってくる
日本国債はバーゼルIIIが実現でもしない限り暴落しない
観光産業は日本の有望な経営資源
カジノは関西経済復興の起爆剤になる
本当にヤバイ中国経済 2010年に潮目は変わった!
願望と未来予測がゴッチャになる韓国に経済危機到来!?
「付加価値」ではなく「希少価値」で勝負してしまうロシア人
ウラジオストックと新潟をパイプラインで結べ
インドネシア経済が崩れたらアジアの一大事
接待して翌日注文をもらう金融業界の営業
長期金利が2%を超えてきたら資産運用を見直せ
医療保険はいらない金融商品の代表
○ついさっきアマゾンを見たら、予約だけでランキング220位になっておった。食いつきがよろしいのう。ありがたいことです。ということで、読者諸兄の応援をお待ちしております。
<7月27日>(日)
○今日は久しぶりに日曜は競馬ではなく、映画に行ったんですよ。ええ、『ゴジラ』を。いやあ、これは意見が分かれるだろうなあ。とりあえず一緒に見た配偶者は怒っております。まあ、ワシ的には、見ないで後悔するくらいなら、見て後悔してください、としかいいようがありませんなあ。
○序盤早々に日本の原子力発電所が登場するんですが、富士山が見えるこの地名、「ジャンジラ」とある。おいおい、これって日本の地名かよ。タイじゃなんだぜ。どういう漢字書くんだよ。しかも原発はスリーマイル島などにあるような、円錐形の頭が切れているタイプである。あれは河川沿いに作られるタイプでありまして、日本の原発は全部、海際に作っているんですが・・・。ともあれ、この時点で「雑なつくりのハリウッド映画」であることが確定。突っ込みどころは満載ながら、それはいわないようにしないと。でないと払ったお金が泣いてしまいます。
○それさえ気をつけていれば、後はゴジラもの、怪獣映画としてはかなりの秀作。特に1990年代に作られたローランド・エメリッヒ作品よりはずっといい。ゴジラはプロトタイプの寸胴型に戻り、のっしのっしと歩き回ります。現われ方がとっても怖い。そして街は徹底的に破壊されます。当然、米軍が出動するのですが、そこはゴジラ、ちっとも制圧できそうには見えません。主人公がちょっとか弱い感じだけど、音楽もあと一ひねりほしいけど、ハリウッドのゴジラものとしては「よくぞここまで」と申し上げたい。
○たぶんこの映画を見て、いちばんガッカリしているのは反核運動をやっている人たちではないかと思う。そりゃアメリカは核兵器で戦争に勝った国なんですから、そして核兵器で世界の安全を守っている(少なくとも当人たちはそのつもりの)国なんですから、今現在も原子力空母と原子力潜水艦と原子力発電所を山ほど持っている国なんですから、日本人が持つような「核への畏れ」は共有できないのでありますよ。スリーマイル島の原発って、壊れてない方は今でもちゃんと使われているって、知ってましたか?
○ということで、日米のパーセプションギャップをいろいろ感じさせてくれる『ゴジラ』であります。たぶんこの映画で一番得をしているのは、ケン・ワタナベ演じるところの芹沢博士でありまして、「あの役はいいね」という点は日米ともに一致するんじゃないかと思います。後は日本側でお怒りになる人がいるのは無理もないでしょう。とりあえず、津波や原発事故のシーンはちょっと無神経です。「日本における特撮映画生みの親である円谷英二は福島出身なんだぞ!」というくらいは言っておきたいですな。
<7月28日>(月)
○今週後半は夏休み第一陣の予定なので、不肖かんべえはそろそろ仕事の幕引きモードである。でも8月は、後半からなんだか忙しくなりそうな予感。ちょっと思考実験をしてみましょう。
8月4日:安倍首相が中南米歴訪から帰国
8月13日:4-6月期GDP速報値発表・・・・たぶんかなり悪い数値が出るでしょう。年率換算で▲5%〜▲7%ってところか? 消費は反動減だし、輸出は冴えなくて、設備投資も今一つ。景況感悪化の恐れあり。
8月15日:全国戦没者追悼式・・・・さしたることもなしと思えば。
8月21日:米ジャクソンホール会合(〜24日まで)・・・・最近の米国経済に関しては、長期停滞論からピケッティまで多種多様です。ちなみに今年のテーマは、「労働市場のダイナミクスの再評価」だそうです。
8月28日前後:安倍首相が電撃訪朝か?・・・・歳川隆雄さんがそう言っている。たぶんお盆過ぎあたりから報道が過熱する予感。
8月31日:モディ印首相が訪日(〜9月3日まで滞在)・・・・ここ数年で、インドの存在感は飛躍的に高まりましたね。
9月2〜3日ごろ:内閣改造・自民党役員人事か?・・・・意外と大幅になるらしいです。
9月6日:安倍首相がスリランカ、バングラデシュを訪問(〜9/8まで)
9月中旬:民主党代表選?→野党再編?・・・・敢えて期待を込めて、予測してみる。
9月29日:臨時国会召集
○結論として、夏休みは8月前半の内にとっておくのが吉かと存じます。
<7月30日>(水)
○今日から夏休み第一陣。明日からは47都道府県中、最後に残った聖域である高知県を攻略予定。「遊民経済学」を実践するツーリズムへと意気盛んなり。
○ところが、3日間休むのは結構骨なのである。SPA!と北日本新聞はゲラチェックまで済んだけれども、東洋経済オンラインが終わらない。しくしく。やっと先ほど入稿。このような地道な努力の積み重ねにより、同サイトは月間で過去最高PVなんだそうです。良かったねえ。
○中国で前常務委員の周永康の捜査が始まったとの報あり。ああ、それでつい最近になって、ベトナム沖の石油掘削を止めたんですか。石油閥の中で、どういうメカニズムがあったかはよくわかりませんが、中国の対外進出はほとんどが内向きの理由があると考えていいみたいです。
○それにしても今日の鉱工業生産は悪過ぎ。「モノづくりから思い出づくりへ」と書いてはみたものの、この調子では製造業が心配です。6月の輸出も悪かったし。これでは「輸出は2014年度になってからが勝負」という楽観論は、お詫びして取り下げなければならない。でも株式市場の雰囲気は悪くないんだよな。
○まあ、その辺はあまり気にしないようにして、先ほど2本目のビールを開けたところです。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki