●かんべえの不規則発言



2004年9月




<9月1日>(水)

○今日の共和党大会では、シュワルツェネッガー・カリフォルニア州知事が満を持して登板しました。壇上に立ち、喝采を受けるやいなや、「まるでオスカーをもらったみたいだ」とのたまった。そうだよなー、アカデミー賞という柄じゃないものなー。けっして単なる「筋肉マン」ではないのだけれど、典型的な取れないタイプとでもいえましょうか。おそらくシルベスター・スタローンも取っていないだろうなあ。

○まあ、それはさておいて、われらがシュワちゃん、千両役者というか、人寄せパンダというか、共和党が望んでいた役割をきっちり果たしたといえそうです。スピーチの全文は下記で読めます。(まーったく、共和党のHPが読めないものだから苦労しますよね。ぷんぷん)。

http://edition.cnn.com/2004/ALLPOLITICS/08/31/gop.schwarzenegger.transcript/index.html 

○シュワちゃんはみずからの出自を語る。オーストリアで生まれ、アメリカ市民となったときの感動を、こんな風に語っている。

As long as I live, I will never forget that day 21 years ago when I raised my right hand and took the oath of citizenship. Do you know how proud I was? I was so proud that I walked around with an American flag around my shoulders all day long.

○シュワちゃんはまだ英語が出来なかった頃に、ハンフリー対ニクソンの選挙討論を聞いた。ハンフリーは社会主義のようなことを言うからダメだと思った。その後に聞いたニクソンの演説に感動し、「彼は共和党か。じゃあ、俺も共和党だ」と決めた。そして"My fellow immigrants"という風変わりな呼びかけとともに、シュワちゃんは共和党がなんたるかを説明してくれる。

My fellow immigrants, my fellow Americans, how do you know if you are a Republican? Well, I tell you how. If you believe that government should be accountable to the people, not the people to the government, then you are a Republican.

If you believe a person should be treated as an individual, not as a member of an interest group, then you are a Republican.

If you believe your family knows how to spend your money better than the government does, then you are a Republican.

If you believe our educational system should be held accountable for the progress of our children, then you are a Republican.

If you believe this country, not the United Nations, is the best hope for democracy, then you are a Republican.

And, ladies and gentlemen, if you believe that we must be fierce and relentless and terminate terrorism, then you are a Republican.

Now, there's another way you can tell you're a Republican. You have faith in free enterprise, faith in the resourcefulness of the American people and faith in the U.S. economy. And to those critics who are so pessimistic about our economy, I say: Don't be economic girlie-men.

○こんな風に語るのは、「人工中絶容認でも、銃規制に賛成でも、僕らは同じ共和党」というメッセージが込められているのだろう。今回の共和党大会で、もっとも重要なのは共和党穏健派を前面に出すことで、「ウイングを左に伸ばす」ことである。なおかつ、ブッシュを支援するコアの支持層たる草の根保守派と衝突してはならない。その意味で、移民出身の穏健派共和党員たるシュワちゃんのパフォーマンスは、非常に重要な意味を持つのである。

○今回の共和党大会においては、「9/11」で国家的英雄になったジュリアーニ前NY市長とか、超党派で支持の高いマケイン上院議員とか、「らしくない」共和党員を多数動員している。きわめつけは、一番大事な基調演説を民主党のミラー上院議員に任せてしまったこと。彼は1992年にクリントンの党大会で基調演説をした人物です。こんな風に「中道寄りのブッシュ」をアピールすることで、ケリー候補を「左派」と印象付けるのが狙いなのでしょう。上手な作戦です。

○シュワちゃん演説で、ちょっと気になったのは最後に紹介している兵士のエピソード。これ、落ちの部分で笑っていいのかどうか、私なら悩むぞ。

I have such great respect for them and their heroic families.

Let me tell you about the sacrifice and the commitment that I have seen first-hand. In one of the military hospitals I visited, I met a young guy who was in bad shape. He'd lost a leg, he had a hole through his stomach, and his shoulder had been shot through. And the list goes on and on and on.

I could tell that there was no way he could ever return to combat. But when I asked him, "When do you think you'll get out of the hospital?" He said, "Sir, in three weeks."

And do you know what he said to me then? He said he was going to get a new leg, and then he was going to get some therapy, and then he was going to go back to Iraq and fight alongside his buddies.

And you know what he said to me then? You know what he said to me then?

He said, "Arnold, I'll be back."

○まあ、ハリウッドスタートしてアカデミー賞は取れなくても、政治の世界でこんな活躍が出来るのであれば、もって瞑すべしであろう。ご自分で言っている通り、「オーストリア生まれのやせこけた少年が、カリフォルニア州知事となり、今このマジソン・スクエア・ガーデンで、合衆国大統領のために演説するのだから、これはもうアメリカン・ドリーム」ではないか。


<9月2日>(木)

○カリフォルニア州在住のMさんからも、「シュワちゃんの落ちに悩みました」とのメールを頂戴しました。そりゃそうですよねえ。普通の人は、「新しい足をつける」のところで引きますよ。ターミネーターの場合は、上半身だけで戦場に復帰しちゃいますけど。

○さて、こんな風に米大統領選のお陰で繁忙期を迎えているかんべえであります。こんな会合があるんですって。

> > JAII.NET Mail
> > 2004年9月1日
> >
> > 日本個人投資家協会からのお知らせ
> >
> > 『勝ち組に入るための株式講座』
> > “2004年度 後期”いよいよ9月開校 !!
> >  2004年9月28日(火)16:00〜18:30
> > 講師:長谷川 慶太郎・木村 喜由
> > ゲスト講師:吉崎 達彦氏(双日総合研究所 副所長 エコニミスト)
> > 詳細はこちら→   http://www.jaii.org/

○思わず「エコニミスト」に笑ってしまったぞ。なんじゃ、それは?


<9月3日>(金)

○今週号の本誌で間に合わなかったブッシュの指名受諾演説についてごく簡単に。全文は下記をご参照。

http://edition.cnn.com/2004/ALLPOLITICS/09/02/gop.bush.transcript/index.html 

(1)しょっちゅうブッシュ演説を読んでいる者としては、「ネオコン臭さがかなり消えたな」という印象がまず最初に来る。2000年の指名受諾演説で、「温情ある保守主義」を訴えたときのように、内政問題を多く取り上げている。再選を目指すからには、2期目の課題を示す必要があり、これは正しい方針といえる。

(2)ここでいちばん重要なのは"An ownership society"というコンセプトだと思う。産業構造の転換に伴い、労働組合に守られた大企業の社員は減少し、中小企業経営者や個人事業主など自分で生計を立てている人たちが増えている。彼らを重視し、持ち家や健康保険制度、年金制度などをしっかり提供していくことにより、共和党の支持基盤としていこうという考えだ。これは"Self Help"を尊ぶアメリカ人の精神にもアピールする考え方である。

(3)対テロ戦争、イラク問題などについては、さほどの新味はない。ここでは「自分は間違っていなかった」ことが言えればそれで十分であり、せっかく会場をニューヨークにしたわりには、「9/11」を大袈裟にアピールする必要もない。大事なのは、「優柔不断なケリーよりはマシだ」と印象付けること。その辺の批判は成功していると思う。


(それにしても、なんで今日になったら共和党大会のサイトが見られるようになったんでしょう。やっぱり妨害があったのかしらん?)


<9月4〜5日>(土〜日)

○ニュースが多い週末です。ロシアの学校占拠事件は死者300人超。言葉もありません。金曜日に発表された雇用統計、フロリダ州に大型ハリケーン、ナベツネさんの巨人パ・リーグ行き発言など、ほかにもいろいろあるんですが、とりあえず当サイトの守備範囲ということで、話題はひとつに絞っておきましょう。

○米国の世論調査はブッシュに勢いが出てきました。TimeもNewsweekも11ポイント差。

http://www.realclearpolitics.com/bush_vs_kerry.html 

○ほんの2〜3%動いただけでも、激戦州の選挙人の数は大きく動きます。久しぶりにアイオワ電子市場を覗いてみると、ここでも党大会終了後に「ブッシュ買い」の流れができつつある。

http://128.255.244.60/graphs/graph_Pres04_WTA.cfm 

○なんだか予備選挙でディーンが失速したときを思い出すような展開。反ブッシュ勢力はかなり根強いので、このまま一方的になるとは思えないのですが、ケリー陣営で内紛があるとの報道もあり、大統領選挙レースが最後の直線に向かうレイバーデイ(9月6日)の直前に、思いがけずリードが広がったという状況です。

○理由につきましては、のちほどあらためて。


<9月6日>(月)

○ハワード・ディーンの「アイオワ崩れ」の頃から、ずっと脳裏に浮かんでいる言葉があります。それは「憤兵は敗る」。中国の古典のようですが、あいにく出典は知りません。念のため、「孫子の兵法」をチェックしてみたけど、そんな言葉はなかった。ご存知の方がいらっしゃいましたら教えてください。意味は言葉通り、「兵士が怒っている軍隊は負ける」でいいのでしょう。

○ブッシュを倒すためには、反ブッシュ感情が邪魔になる。共和党大会の最中に、ニューヨークで派手な反ブッシュデモが行われたことは、普通の有権者を遠ざけただけで、かえってブッシュ陣営を利することになった。今週の"The Economist"誌に、"What are they fighting for?"という面白いコラムがある。以下はその一部。


抗議している多くは、ベトナム反戦からシアトルの反WTOデモまで歴戦のツワモノであり、バッジや横断幕でそのことを示している。ニューヨーク在住の参加者はほとんどおらず、ニューヨーク市民の多くは街から逃げ出す始末。街に残った人たちも、彼らの意図に共感はしていても、抗議運動にウンザリしているのが現状だ。


○彼らは何ヶ月も協議や交渉を重ねて、抗議行動への公式な許可を得た。警察とも協力して、当初は平和なデモを目指していた。ところが日が進むに連れて調子が変わってきて、大量の逮捕者を出すようになった。結果としてNYで派手な抗議活動が行われているところが、テレビで全国中継されることになった。これで普通の人たちが「引いて」しまった。

○いわばオウンゴールのようなもので、彼らが本気でブッシュを負けさせたいのであれば、何もしないで家で寝ていた方がマシだった。もっともこの記事によると、彼らはケリー候補にも反対であり、「どっちが勝っても大統領就任式には抗議する」という人もいるらしいから、いわば筋金入りの運動家たちである。何を言っても無駄でしょう。

○蛇足までに付け加えると、マイケル・ムーアだって共和党大会に顔を出したばっかりに、ジョン・マケインの演説のサカナにされ、面白い話題を提供することに貢献してしまった。これも「憤兵」が墓穴を掘った例といえよう。まあ、ムーア自身の商売のためには、ブッシュが再選してくれた方が好都合かもしれないけれども。

○その前にケリー自身が、民主党大会で「ベトナム」を前面に打ち出したことが、そもそもの失敗だったように思える。あらためて考えてみると、ベトナムで勇敢に戦うことと、対テロ戦争を指揮することは、さほど関係はないのではないか。例のSWIFTVET.COMがイチャモンをつけたせいでケリーの株が落ちたというよりは、ケリーが「昔のことにこだわってばかりいる男」という印象を与えてしまったのが痛かったと思う。有権者にとっては、候補者が過去に何をしたかよりも、これから何をしてくれるかの方が重要であることはいうまでもない。

○これに対し、ブッシュのメッセージはよく考えられたものだった。ケリーがベトナム経験を語っているところを、自分がどうテロと戦ったかを思い起こさせた。あらためて受諾指名演説を読み返してみると、いちばんのポイントはこの部分だった。


And tonight, my fellow Americans, I ask you to stand with me.

In the last four years -- in the last four years, you and I have come to know each other. Even when we don't agree, at least you know what I believe and where I stand.


○「過去4年間に、お互い分かり合えたでしょう。意見が合わないこともあるけど、それでも私の信念、私の立場は分かるでしょう?」というわけだ。言いにくいことを、サラッと言ってしまっているが、これは聞くものの心に「すとんと落ちる」メッセージだと思う。

○たしかにブッシュのやってきたことは疑問がある。イラクと戦争したことが正しかったかどうかは議論が分れるし、国民の自由が侵害されることもあっただろう。それでも、彼が先頭に立って対テロ戦争を戦った結果、この3年間、少なくとも米国内では「9/11」のような事件が起きてないことは事実である。やり過ぎがあったかもしれないが、そのお陰で無事だったのかもしれない。ともかく、ブッシュが何をしたかったかはハッキリしている。

○もっと言えば、対抗馬であるケリーが言うことはよく分からない。この後で行われるテレビ討論会では、ブッシュはきっとこんな風に語るのだろう。「あなたはいったい、何が言いたいのか。頼むから、分かるように話してくれ。少なくとも私がやってきたことは、国民は理解している」。気が早いかもしれないが、この討論、ケリーは苦戦すると思う。


<9月7日>(火)

○昨日の疑問ですが、やはり漢籍に詳しい読者がおられました。こういうメールをいただけると、ホントにHPやってて良かったと思います。

さて6日の不規則発言中「憤兵」の出典についてですがおそらく『漢書』ではないかと思います。

同書列伝第四十四「魏相・丙吉伝」に、宣帝の丞相である魏相が匈奴を討伐しようとする主君を諫める言葉として

「小故を争い恨み、憤怒に忍びざる者、これを忿兵という。兵の忿(いか)る者は敗る。」

とあります。

いささかでもお役に立てれば幸いです。

○ありがとうございました。

○「憤兵は敗る」という言葉は、「戦いに臨む者はクールでなければならない」と言っているように聞こえますが、前後の脈絡から考えると、「頭に来ているときには戦争をするな」と言っているようですね。おそらく主君の怒りが収まり、「やはり国益を考えて、匈奴は討つべきだ」という結論に達した場合は、魏相も「御意」と賛成したんじゃないでしょうか。しみじみ戦争は「勘定」でやるものであって、「感情」でやってはなりませぬ。

○さて、レイバーデイと同時に世論調査の結果が出始めています。おなじみのGallupではこんな結果です。

●調査期間 9月3日―5日

  Bush Kerry Margin
Likely Voters 52 45 +7P
Registered Voters 49 48 +1P


○世論調査をやる場合、無作為抽出した母数(National Adults)に対し、まず「あなたは選挙登録をしてますか」と聞く。「イエス」と答えた人は"Registered Voters"になる。普通はこの人たちを相手に調査を行う。しかし登録した人がかならず選挙に行くとは限らない。そこで最近は、さらに「あなたは選挙に行きますか」と問う。ここでも「イエス」と答えた人が"Likely Voters"になる。つまり、"Likely Voters"の方がサンプル数が少ない。調査会社としては、コストを考えると"Registered Voters"を使いたいが、精度を考えると"Likely Voters"の方がいい。

○そういう目で上の結果を見ると、選挙登録をしている全体ではブッシュ対ケリーはいい勝負だが、本当に選挙に行くぞと言っている人たちの間ではブッシュが7ポイントもリードしている。共和党員の方が投票率が高いというのは、ありがちなことである。民主党としては、この先、投票率をいかに上げるかが勝負ということだろう。

○もっともレイバーデイ(9月の第1月曜日)時点の7ポイント差は、安全なリードというわけではない。過去の例をいくつか挙げてみよう。

2000年:ゴアがブッシュを3Pリードしていた。最終結果はタイ。(ただし一般投票ではゴアの方が勝ち) +3P

1980年:カーターがレーガンを4Pリードしていた。結果はレーガンの10P差勝ち。 +14P

1976年:カーターがフォードを11Pリードしていた。結果はカーターの2P差勝ち。 +9P

1968年:ニクソンがハンフリーを12Pリードしていた。結果はニクソンの0.1P勝ち。 +12P

○ケリー陣営としては、届かない数字ではない。その一方、尋常な手段では難しい。この時期に選挙スタッフを補充するとか、突然イラク戦争を否定するとか、思い切ったことをしてくるのは当然です。なお、詳しい調査結果は、下記でご覧になるのが良いかと思います。

http://www.usatoday.com/news/politicselections/nation/polls/usatodaypolls.htm 


<9月8日>(水)

○世論調査というのは、実施する会社ごとにちょっとずつ癖があって、溜池通信がいつも使っているGallupはブッシュが強めに出る傾向がある。その逆の代表例はゾグビーで、ケリーに強い数字が出る。実際、今週号のNEWSWEEKでは、社長のゾグビー本人が登場して、「最終的に勝つのはケリーの方だ。ヘマさえなければ優位は動かない」と述べている。

○そのゾグビーの9月7日分調査結果が出た。下記で見ると、過去の推移も一発でわかる。

http://online.wsj.com/public/resources/documents/info-battleground04-frameset.html 

○この予想で行くと、エレクトラル・カレッジ方式で、ブッシュ231対ケリー307という結果になる。ただしフロリダ(27)、ミズーリ(11)、ネバダ(5)の3州はすべて1%以内の差であり、これらは横一線と見るべきだろう。その場合は、ブッシュ231対ケリー264、未定43となる。これでフロリダとミズーリをブッシュが取り、ネバダをケリーが取るようだと、269対269という同数になってしまう。うーん、この可能性はけっしてゼロではないですぞ。ちなみに同数決戦の場合は、「下院で各州ごとを1票とする決選投票」になりますので、ブルーステーツよりレッドステーツの方が多いために、共和党優位といわれております。

○大統領選挙の結果については、本誌の7月30日号でも書いたように、「フロリダ、ペンシルバニア、オハイオの3大激戦州のうち、2つを取った方が勝ち」といういい方がされている。今回のゾグビーの結果を見ると、どうやらオハイオはブッシュ陣営が固めたようだ。オハイオは人口が分散している州であり、地方紙も全部違う。つまり選挙運動をやるのに、カネと時間がかかってしょうがないという、扱いにくい州なのだ。4年前、ゴアは投票日の1週間前にオハイオを断念している。戦後の共和党大統領で、オハイオを取れなかった者はいない。つまり、共和党が絶対に落とせない州。

○逆に民主党が落とせないのがペンシルバニア州だ。製造業州であり、2000年にはここで共和党が党大会を開いたのに民主党が楽勝した州である。加えてここはハインツ一族の地元。ここを落とすようでは、テレイザ夫人どうした、ということになる。ペンシルバニア州は、人口がフィラデルフィアとピッツバーグに集中している。これら2大都市は民主党が強い。しかし、それ以外の地域は「まるでアラバマ」というのが、名物選挙参謀ジェームズ・カービルの弁である。つまり田舎は共和党というわけだ。ゾグビー調査によれば2.8P差でケリー優位だが、その差は縮まりつつある。

○そしてフロリダ州は、フランシス台風のお陰で、誰も共和党大会を見ていなかったとか、これからブッシュが災害復旧で大盤振る舞いをするとか、いろんなことが言われている。だが、基本的に4年前のことがあるだけに、確実に大接戦になるだろう。ここだけはジャンケンみたいなもので、読めないと考えておいた方が賢明というものだ。

○ということで、これから先の天王山はペンシルバニア州だろうと思う。ペンシルバニア州といえば、こんな因縁がある。1991年秋にジョン・ハインツ上院議員が飛行機事故で逝去し、その補欠選挙で共和党は元司法長官ソーンバーグを立てて万全を期した。これが民主党の無名候補ウォフォードに敗れるという大番狂わせになり、当時の大統領だったブッシュ父は大慌て。訪日をキャンセルするなど、大きな波紋を呼んだ。後から考えると、1992年のブッシュ父の自滅はここから始まっていたのである。

○他方、ウォフォードの大金星を挙げた選挙参謀がジェームズ・カービルで、彼はそのままクリントン選対入りし、奇跡を起こす立役者となった。そしてジョン・ハインツの未亡人であるテレイザは、その後、亡き夫と同じ名前、同じイェール大学出身、同じスカル・アンド・ボーンズ出身のジョン・ケリーと再婚し、今日に至るのである。ううう、忙しくて眠いのに、ついつい長いオタク話を書いてしまったぜ。


<9月9日>(木)

○連日の大統領選挙関連に疲れてきたので、たまには気分を変えて。このデータは前から気になっていたので、ここにメモしておきます。

・中国のGDPが世界に占めるシェア:4%
・中国の鋼材消費量は世界の27%
・中国の石炭消費量は31%
・中国のセメント消費は40%
・中国のアルミ消費は25%
・中国の石油消費は7.4%

(出典:国家発展改革委員会、馬凱主任)

○上記は、田中修信州大学経済学部教授による「過熱する中国経済」(日中経協ジャーナル8月号所収)に出てくるデータです。これをもって田中教授は、「中国の成長はエネルギー・資源多消費型の成長」であり、「盲目的投資・低水準の重複建設がもたらした結果」であると説く。納得であります。

○中国における投資過熱の原因は、てっきり「チャイナ・コンセンサス」による外資の流入だと思っておりましたが、内部的な要因も大きいらしい。それは、「地方政府レベルにおいて、GDP、生産高、税収などを引き上げることを政治的業績と見なす計画経済的な思考が色濃く残っている」せいであり、「中国の人事サイクルは5年に1度であるため、地方政府の指導者が変わるたびに政治業績をあげようと投資拡大が発生する」のだと。

○2002〜03年はこの人事サイクルの当たり年であり、さらに5年前の1997〜98年はアジア通貨危機と深刻なデフレにより、投資拡大のチャンスがなかった。ということで、地方はいけいけドンドン状態、それを中央が抑えようというのだから、胡錦濤体制も難しいわけです。へぇ〜X50くらいかな。


<9月10日>(金)

○今日はお昼も夜も、米大統領選の行方についてお話しする機会がありました。われながらこのテーマに淫しているような状態ですが、ちょっとした「繁忙期」を楽しんでいるところ。

○夜の部の方で、「ところで投票日が過ぎたら、次は何をテーマにするんですか?」と聞かれてしまい、しばし考え込んでしまいました。政治オタクの皆さんに聞いても、「永田町は当分は面白くない」そうです。マーケットもほとんど停滞していて、何をテーマにすればいいのか考え込んでいるような様子。景気は日米ともにちょっと陰りが差してきたけど、大崩れをするような気配はない。なるほど、大きなテーマが見当たらない状況なんですね。

○こうなりゃプロ野球問題でもやりますかあ、てなことを言って、煙に巻いたつもりが、意外と本当にそうなってしまうのかも。それにしても、世の中は一見、波乱に満ちているようなのだけれど、本当にテーマ不在なんだろうか。


<9月11〜12日>(土〜日)

○少し涼しくなり、競馬も中山に帰ってきた。そして昨日の9〜12レースでは噂の「三連単」も発売になっている。これはいっちょ、行ってみないといかんではないか。

○「三連単」は当然のことながら、「三連複」よりも難しい。というか、三連複の6倍の組み合わせがあるので、下手な買い方をすると、たとえ1点100円であっても、お金がいくらあっても足りないということになる。ちなみに、新しいJRAのボックス投票カードには、点数と組み合わせの数が書いてある。

  2点 3点 4点 5点 6点 7点 8点 9点 10点
3連複 1 4 10 20 35 56 84 120
3連単 6 24 60 120 210 336 504 720


○まずは札幌11レース、日経オープンである。「一馬」をつらつら見るに、Eハッピールックがダントツで、AゴーウィズウインドとIツギタテヒカリが来そうである。ということで、この3頭をボックスで三連単を買ってみる。組み合わせは6通りである。結果は、1位Eハッピールック、2位Aゴーウィズウィンド、3位Jスローンフォルであった。惜しい。というか、3頭立ての三連複を買ったって、滅多に当たるもんじゃないのだから、こんなことで腹を立ててはいかんのである。

○次に中山11レース、京成杯オータムハンディキャップ(GV)である。有力なのはAマイネルソロモンとFマイネルモルゲンだ。ここはJRAご推奨の「フォーメーション」という買い方を試してみる。まず、1位にAマイネルソロモンとFマイネルモルゲンを指名する。2位にはこの両2頭に加え、Cミデオンビットを加えた3頭を指名。3位には@シャイニンルビーとEメジャーカフェを加えた5頭を。2頭―3頭―5頭の組み合わせは12通りである。これくらいの組み合わせであれば、まあ許容範囲というものだ。

○結果は――1位Fマイネルモルゲン、2位シャイニンルビー、3位マイネルソロモンであった。ぐぐぐ、悔しい・・・。@シャイニンルビーが来そうな気がしたから、順当に馬連で取りに行けば@―F2920円ゲットできていたのに。あああ、「三連単しばり」で競馬をするなんて、なんちゅう馬鹿なことを・・・・。

○といって、ここでめげるわけにはいかない。阪神11レースはセントウルステークス(GV)だ。普通なら大本命のDサニングデールが斥量59キロを背負って死角あり。となれば、1位はKゴールデンキャストに賭けて良いだろう。後はフォーメーションで、2位と3位にBドリームカムカム、Dサニングデール、Gキーンランドスワン、Iフサイチオーレを指名する。これも組み合わせは12通りである。

○結果は1位Kゴールデンキャスト、Gキーンランドスワン、Dサニングデールであった。わはははは。取ったぞ、三連単。安いけど。しかしこのレース、単勝が270円、馬連が930円、馬単が1560円、三連複が1430円という、絵に描いたような銀行レースである。それもUFJとかではなく、東京三菱のような銀行である。それでも三連単なら5830円と、そこそこの配当になるのである。

○教訓:三連単は銀行レースでこそ実力を発揮する。というか、荒れそうなレースでは、普通に馬連や三連複で穴を狙えばいいんだものね。

○ところで上海馬券王先生は、ご多忙とは聞いているものの音沙汰なしである。秋競馬はもう始まっておりますぞ。早く三連単の世界にいらっしゃい。


<9月13日>(月)

○今日のお昼、久々に「じゃんがららーめん」に行ったら、メニューがやたらと増えていたので驚いた。一緒に行ったT君は、「替え玉セット」などというワシの知らない技を繰り出すし。うーん、初めてこの店に来た人が見たら、この煩雑なメニューには引くと思うぞ。じゃんがらはたしかに繁栄しており、見ている間にもどんどん行列が伸びていくのだが、一部の固定客だけの店になってしまったのではないか。ちょっと心配になった。

○昨日の三連単でも思ったことなのだが、勝馬投票券(いわゆる「馬券」の正式名称)を購入する際のマークシートが、非常に分かりにくくなったのである。これでは初心者は困るだろう。古くからの競馬ファンは、新たな買い方の導入は歓迎なのである。まして三連単は当たったときのリターンが大きい。しかしこれから競馬を始めようという人は、買い方の種類の多さに「なーんだ、覚えることが多くて面倒だなあ」と思ってしまうかもしれない。そうでなくとも、馬の名前をはじめ、競馬には覚えるべきことがたくさんある。この博打は参入障壁が高いのだ。

○そもそもJRAにおいては、昔は「単勝」「複勝」「枠連」しかなかった。たしか1990年頃に「馬連」が始まり、次いで「ワイド」が加わり、2002年から「馬単」と「三連複」が始まった。そして2004年から「三連単」の導入。こんなに頻繁にルールが変わったのは、JRAの経営が傾きかけて、見境なく客の射幸性を刺激するようになってきているからであろう。このような動きを、長年の競馬ファンたちは歓迎している。が、これでニューカマーが減ったらゆゆしき事態である。

○同じ歩みをたどっているのがパチンコである。CR機やパチスロの登場以来、すっかりゲームの性質が変わってしまった。その昔は、「今日の予算は3000円まで」「1万円勝ったら大勝利」というのどかな時代があった。ワシなど、今のパチンコ屋には怖くて入れない。パチンコが好きな人のニーズだけに対応していたら、どんどんゲームのコストがあがってしまって、今では初心者は入ってきにくい環境ができてしまったのではないだろうか。これでは業界としては頭打ちになるはずだ。

○これらに共通しているのは、「お馴染みさんを大事にしていたら、新しいお客が来なくなる」という現象である。ワシなどは縁なき衆生であるが、銀座の高級クラブなども似たようなことになっているらしい。古いお客が新しいお客を連れてくるという美風がすたれれば、店としては後は客単価を上げるほかはなく、そうするとお客が使える金額には上限があるので、いつかは店が衰退していく道理である。どんな業界でも、新しい客を開拓することを忘れてはならない。言い換えると、初心者が入って来やすいような仕組みを作っておく必要がある。

○テレビゲームの世界でもヒット作が出なくなったといわれて久しい。当然だと思う。いきなりプレステ2から入ったのでは、初心者は何が面白いのやら理解できないのではないか。ワシなどは、かつてドラクエのT〜VやFFのV〜Yのような、今では「古典」と呼ぶのがふさわしいようなゲームを、同時代の出来事として体験できたことは幸運だったと思う。ちょうどゲームの作り手と同時に、自分もプレイヤーとして進化していくような感覚があった。今のゲームの作り手たちは、「これから初めてゲームの世界に入ってくる人」のことを考えているだろうか。そうでなければ、衰退は早いぞよ。


<9月14日>(火)

○さる人いわく。このところ、米大統領選の話が途切れているのは、もう結論が出たからですか、と。そんなわけはなくて、もう情報とデータの山に埋もれて、何度も同じ場所をぐるぐる回っているような気がしてきたので、ただ今休憩中なんですぅ。ふぅ。

○ということで、今宵もこんな馬鹿話を。毎週水曜日夜の好番組、「その時歴史が動いた」。次回はこんな作品らしいですよ。以下はぜひ、松平定知さんの声で聞きたいですな。

【そのときエビ史が動いた】

 エビ史を大きく動かした「その時」に焦点をあて、その瞬間の人々の決断や苦悩のドラマを描く「そのときエビ史が動いた」。

 今夜は、エビHKにわずか一代で独裁帝国を築いた、エビジョンイルの晩年の攻防を取り上げた「ソウルは燃えているか」をお届けいたします。

 エビジョンイルは、身近に迫った横領の追求に一発逆転の秘策を練ります。

 このときエビジョンイル70歳、夜の帝王ソウル支局長46歳。親子ほども年の違う2人が、エビHKの牙城を死守するために仕掛けたのは、なんと「朝鮮半島情勢の取材の人脈作り」という奇想天外な領収書でした。

 エビジョンイルは絶対絶命の危機を脱し、至福の横領帝国を手に入れたかに思いました。
しかしそのとき、エビ史は動いたのです。エビHKの広報で私的流用を隠し抜いた彼の前には国内での横領、カラ出張、着服の3大祭りが待ち受けていたのです。

 韓流をあおり、返す刀でエビHKのコンテンツ販売を朝鮮半島にしかけようとした彼の2正面作戦は、スキャンダルの挟み撃ちにあって崩壊します。しかしエビジョンイルは最後まであきらめませんでした。彼はソウルを切り捨て、国内の祭りの沈静化でこれを乗り切ろうとします。
彼がソウル支局に送った最後の訓令がここに残されています。

 「ソウル支局の領収書をすべて処分しろ。ソウルは燃えているか?」

 最後までエビHKを道連れにした、エビジョンイルが力尽き倒れたのは2004年の9月9日でありますが、今夜は彼の9月8日の日記をご紹介してお別れしたいと思います・・・

 「えっびまよまよ えびまよ〜っ えっびまよまよ〜おっ」


○元は2ちゃんのコピペらしいんだけど、こんなワシ好みのネタはさすがにパスできませんわん。


<9月15日>(水)

○一橋大学社会学部の先輩である三浦展さんは、その昔、PARCOで『アクロス』という面白い雑誌の編集長をやっていた人で、消費社会論とか都市論とかを語らせると滅法面白い人です。最近はカルチャースタディーズというHPをやっていて、この中でいくつもの面白い議論を展開しています。

○以前、三浦さんの「凶悪犯罪が生じる土地にはジャスコがある」という指摘を読んで、「ふ〜ん」と思っていたのですが、例の栃木県小山市で生じた幼児連れ去り事件もこれに該当すると聞いて、ちょっと薄ら寒いものを感じています。以下はご本人からのメルマガです。


これはもう法則と言うべきでしょうか。

9月に入って起きた事件の現場近くにはことごとくジャスコがあります。

詳しくは
http://www.culturestudies.com/profile/index.html
のDiaryをご覧下さい。地図がついています。

9月14日、栃木県小山市で幼児連れ去り殺害事件。
小山市には国道4号線小山古河バイパス近くにジャスコ小山店があり、その西には小山東ニュータウンがある。
このバイパスから国道50号線に入り、南下すると遺体の見つかった間々田に至る。
国道50号線をさらに西進すると、佐野、太田にイオンショッピングセンターがある。
拙著78ページ地図参照。

9月3日、埼玉県上里町金久保の主婦が自宅玄関で刺殺される。
新聞によれば現場は大型トラックなど交通量の多い国道17号線から約100メートルの住宅地の一角。
金久保に隣接する神保原にはジャスコがある。

9月13日、金沢市神野町2丁目で60代の夫婦が17歳の少年に刺殺される。少年は金ほしさに無免許運転をして付近を物色していた。
被害者宅は北陸自動車道金沢西インターまですぐ近く。
インターから国道8号線を西に5キロ進むとジャスコ松任店がある。
さらに8号線から南へ折れた157号線沿いにはジャスコ野々市南店もある。

9月8日、長野県高森町吉田のアパートで74歳の女性が殺害されていた。同じ町内で25日前にも69歳の男性が刺殺されている。
高森町は天竜川沿いに広がる農村地帯だが、中央自動車道高森インターがあり、隣には飯田インターがある。
中央自動車道と並行して走る国道153号線沿いにはジャスコ飯田店がある。

9月3日。岡山県津山市総社で小3女児刺され死亡。新聞記事にも中国自動車道の津山インターチェンジの西約8キロの住宅地と書いてあります。津山インターチェンジにはジャスコがあります。

愛知県豊明市では母子4人が放火され殺害された。
豊明市にはジャスコはないが、なにしろほぼジャスコのお膝元。
豊橋、豊田などにはぐるりとジャスコがある。
豊明も国道1号線と23号線が交わる交通の要所。


○「ジャスコがある場所」というのは、「最近になって大型店舗が出来た地方都市」と読み替えるといいのでしょう。大きな道路の近くにショッピングセンターができ、駅前の商店街が寂れ、人の流れが変わる。そんな変化は、日本中の地方都市で進行中です。この動きに併せて、たとえば家電量販店の隆盛とか、地元資本の衰退とか、自民党の支持母体の衰退といった今日的な現象が起きている。そんな中で、凶悪犯罪の発生も地方都市に増えているようです。凶悪犯罪といえば、以前は首都圏の新興住宅地と相場が決まっていたものなのですが。

○「内外情勢調査会」の講師をしているので、地方都市を訪れる機会は多いのですが、確かにこの手の話は多い。小山市も昨年、訪れた都市の一つです。明日からは長野県上田市、長野市に行ってきます。


<9月16日>(木)

○長野県に来ております。お昼に上田市で講師をお勤めし、それから長野市に移ってまいりました。当地には大学時代の同級生で、サークルも一緒だったY氏がおりまして、わざわざ休暇を取って待機してくれている。夕方になって合流。地元メディアに勤めるY氏、「今日これから面白いことが始まるんだけど、県庁に行ってみない?」 

○現在宿泊しているホテル国際21長野のすぐ対面が長野県庁なわけです。善光寺にお参りするよりは、そっちの方が面白そう。で、県庁に入ってみると、いきなり1階にある知事執務室は外から丸見えで、中にはあの田中康夫知事がいる。人が盛んに出入りしていて、何事か打ち合わせ中。衆人環視の下で日々の職務が行われている。一種、異様な職場環境だが、「開かれた県政」ということでは、これに勝る自治体はないでしょう。

○ここで昨日から始まった騒動は、「山口村の越県合併」問題。長野県の山口村が、岐阜県の中津川市に合併するという話は、2度の住民アンケートで賛意が得られ、昨年の統一地方選挙では合併推進派の村長が勝ち、ほぼ完全な合意が得られている。後は県議会の了承を得ればOKというところ、昨日から田中県知事がストップをかけた。9月の県議会では合併を了承する提案を行わないという。理由は「県民の間で十分な議論が行われていないから」。仮に12月の県議会に遅れるとしたら、合併は来年2月13日をゴールに想定しているので、学校の統合など、さまざまな点で間に合わなくなるという。

○開かれた知事室の前には、山口村の関係者と県議会議員たちが集まっている。それに輪をかけてマスコミ関係者も。彼らが撮りたい「絵」は、合併承認を求める関係者と、あくまで突っ張る県知事の掛け合いである。約束の5時半からやや遅れ、関係者がどやどやと知事室に入っていく。これ全部外から丸見え。かくして多くのカメラが並ぶ中で、両者の協議が始まる。外で見ていても十分に面白いのだけど、「中に入っても大丈夫」という話なので、勢いでワシも知事室に入ってしまう。

○山口村の村長さん、合併の必要性を言葉を尽くして語る。そしてやんわりと、土壇場でテーブルをひっくり返すような挙に出た県知事を諌める。県知事、「優柔不断のそしりは甘んじて受ける」と頭を下げる。住民の判断は分かるが、「送り出す側の県としても議論が必要」と言う。村長側としては、怒り心頭である。ここへ来て「県民的な議論を」というけれども、アンタ、今までは何も言わなかったではないかと。議論の中身は村長さんの方が筋が通っている。が、撮られた「絵」はどうか。田中知事、最後の方は涙目になってみせる。「いじめられる県知事」という図式を見てほしいのであろう。

○小一時間で両者の協議は終了し、マスコミの放列は知事と村長たちを今度は別々に追い始める。なかなか緊迫のドラマであるが、すべて至近距離で目撃できてしまう。まあ、ワシも所詮は通りがかりの野次馬に過ぎぬが、一部始終をこうやってHPで書いてしまえば、これも「報道」の一種には違いあるまい。なにしろここは記者クラブがなく、「表現道場」では誰でも出入り自由。もっともこんな風に書くこと自体、田中知事の思惑に乗ってしまっているという気もするが。

○県民の議論を得るといっても、具体的にどうするのか、など知事の考えていることはよく分からない。当地でも諸説が入り乱れている。平成の大合併に反対の議論を盛り上げようとしているのか。長野県の一部が岐阜県に移るということは、田中県政に傷がつくと考えたのか。あるいは単に久々の全国ニュースを提供したいのか。

○テレビカメラの群れが去った後の知事室では、田中知事の政治任命によるスタッフたちが集まってくる。さっきまでの演技がかった様子はすっかりなくなって、何事か談笑中。なるほど劇場型の政治家というのは、こういうものかと妙に感心する。隣のY氏いわく。「もう、こういうのに疲れた」。でも知事の任期はあと2年ある。お疲れ様です。

○以下、両者痛飲して深更に至る。


<9月17日>(金)

○ということで、長野から帰ってきたら暑いのである。あー、やだやだ。

○現地のジャーナリストから聞いた話。田中康夫知事と小沢一郎は似ていると。

(1)側近がどんどん離れていく。離れた人は敵になる。入れ替わりに新しい側近ができるが、どんどん小粒になっていく。

(2)人の話を聞かない。友だちが少ない。

(3)記者会見をときどきすっぽかす。

(4)それでも世の中には信者が少なくない。

○そういえば体型も似ているような。


<9月18日>(土)

○不規則発言ではちょっとお休みしていた米国大統領選挙ですが、この1週間は毎日のようにいろんな世論調査を見ています。ひとことで言うと、ブッシュ優勢の雰囲気が漂ってきた。とはいうものの、これですんなり決着するようにも思えないので、どう書いたらいいか、なんとも悩ましい日々が続いています。とりあえず「サプライズがなければブッシュ逃げ切り」といったところでしょうか。

○いつも頼りにしているギャラップ社では、なんと二ケタの差がついてしまった。9月17日発表分によると、Likely Votersではブッシュ55%対ケリー42%と13P差。「決め打ち」の支持者が多いことを考えると、これだけ差がつくのは考えにくい。それ以外の面では、

・「政権支持率」は、9月13-15日時点で52%にまで戻っている。
・「現状への満足度」は8月の44%から41%に下がっている。
・「経済への信頼感」は、8月時点とほとんど変わっていない。

とまあ、強弱さまざまといったところ。

○調査機関によっては、「むしろケリーが差を詰めた」という結果も出ている。ここを見ると、Pew ResearchやHarrisではほとんどタイになっている。ただしPew Researchなどはその前の調査ではブッシュ+16Pと極端な結果が出ているので、ここはあんまり信用しない方が良さそうです。

○エレクトラル・カレッジでの予想を公開しているこのページでは、ブッシュ307対ケリー211となっている。ニュージャージー州がブッシュ寄りになっているのに驚きました。

○いちばん極端なのはアイオワ州電子市場です。ブッシュ株が60セントを超え、ケリー株は40セントとなっている。マーケットはブッシュの勝ちを織り込みつつあるようだ。


<9月19〜20日>(日〜月)

○三連休。長女Kは学校の試験があるので部屋に閉じこもっているが、次女Tが暇にしている。1回くらいどこかに連れて行かねばならぬ。さりげなくニーズをリサーチすると、「東京タワー」と言う。そういえば、ワシも子供の頃に1回だけ行った記憶がある。その後は何十回も、仕事のためにタワー下の芝公園スタジオに通ったが、タワーに上ったことは一度もない。たまにはいいかもしれん、と思ったので、親子で東京タワーに行ってみた。

○地下鉄神谷町の駅で降りて、東京タワーを見上げてみる。しげしげと眺めると、タワーの上のほうは子供の頃に慣れ親しんだ形と変わっているではないか。どうやらデジタルテレビの共用アンテナと、東京メトロポリタンテレビの装置をつけたためらしい。だいたい今の東京には高い建物が多すぎるし、しょっちゅう新しいのが建つ。東京タワーの形が変わっても、誰も気にしちゃいないのであろう。

○入場料は大人820円、子供460円、幼児310円である。今時、こんなところに来る客が多いとは思えないのであるが、そこはそれ、祭日ともなると大勢集まっている。エレベーターに乗って大展望台(150M)に着く。中のつくりが2階建てになっていて、エンパイアステートビルを模していることに気づく。まことに芸がない。次女Tはもう飽きていて、早く降りてご飯にしようなどという。まあ、この上600円も払って特別展望台に行こうなどといわれても困る。ということで、さっさと降りてしまう。

○さて、タワー下のビルディングには、2階にリーブという小さなスナックがある。これを読んだ方が、わざわざ現物を見に行ったりしたら、絶対に呆れてしまうくらい冴えない店である。思えばその昔、ワシはここでビールを何杯飲んだであろうか。その昔、BSジャパンの幻の番組『ルック@マーケット』においては、5時に番組が終了すると、かならずMCの内山敏夫氏が出演者を「反省会」なるものに誘導した。芝公園スタジオを出ると目の前がタワー。入り口を入ってすぐ左手に「リーブ」であり、ここが反省会の会場であった。

○平日午後5時の東京タワーといえば、それはもう寂しいもので、2階の面積の大部分を占める土産物売り場も、人はもうほとんど残っていない。食堂街の一角を占める「リーブ」にも、客はほとんど居たためしはなく、たまに珈琲などを飲んでいる客が居たとしても、内山様ご一行のやかましさに耐え切れず、早々に立ち去ったものである。店の側も心得たもので、午後5時が近づくと「内山シフト」を敷いて待ち構えている。どやどやとご一行が来ると、間髪を入れずにビールのジョッキやらつまみやらが出てくる。店は完全に貸しきり状態と化す。これが月曜から金曜まで、毎日繰り返されるのである。

○内山親分を囲むのは、出演者が4〜5人、スタッフが2〜3人ということが多かったと思う。「反省会」とはいうものの、本当に番組の反省をしたことなどほとんどない。「あ、そのネタはいいね。この次にやりましょう」みたいな会話はしょっちゅうだが、実現することはほとんどなかった。会話のほとんどは株式市場をめぐる四方山話であって、1週間もたてばどうでもよくなるようなことがほとんど。でも、まあ、そういうことが非常に勉強になったし、とにかく楽しかったのである。

○番組が終わると、「仕事に戻りますので」と言って帰ってしまう出演者も少なくなかった。ワシなどは皆勤賞に近かったと思う。出演者の中では、なぜか歳川隆雄さんとご一緒することが多かった。そんなわけで、エコノミストやらストラテジストやら株式評論家やら、あるいは「ウガンダちゃん」とか「ハイテクの騎士」(またの名を罫線屋)などが入り乱れ、「リーブ」でビールを飲んだ。6時頃になると、締めに小さなラーメンが出たりする。それを過ぎると、そろそろお開きである。東京タワーが閉まってしまうので、終わるのも早いのである。

○今日のお昼、その「リーブ」を覗いてみたら、あにはからんや満席であった。そうか、ちゃんとお休みの日には賑わっていたのだね。良かったよかった。ところで内山さんは最近、来ているのかなあ。


<9月21日>(火)

○サンデープロジェクトのスタッフが来社。次週の特集でフロリダ取材編が放映されるので、それに関するコメントを収録。米大統領選、激戦州は大変ですよお、といった話。これで週末に世の中を揺るがすような大事件が起きなければ、かんべえが10秒程度登場することでしょう。お気にとめていただければ幸甚です。

○米民主党支持者の間で、愚痴っぽい発言が増え始めたような気がする。かんべえは米国内のこのブログを読んでいますが、今週に入ってから雰囲気が変わってきた。もっとも相次ぐ世論調査は、「夜寝る前に見たものと、翌日の朝刊で違っている」ような状態なので、何を信じたらいいのかは見当がつきませんが。

○最後は僅差なんだろうなあ、と思いつつ、今の状況をピッタリ表すのは↓の写真かもしれません。

http://www.asahi.com/international/update/0921/008.html 


<9月22日>(水)

○昨日は安保関係者の研究会で、今日は外交関係者の研究会。で、テーマが「小泉外交」。今日は国連演説があったりしたので、非常にタイムリーだったかもしれません。

○ある人いわく。「アメリカの応援を取り付けるのや、ドイツやインドと共闘するのはいいけれど、安保理で拒否権を持っている中国に対して、ちゃんと仁義は切ってあるのかね」と。もちろん、中国や韓国に対して、そんな細かな気遣いをしているとは思えない。この辺のアンバランスさが、いかにも小泉外交、という気がする。だいたいあの小泉さんが、「もう靖国神社には参りませんから、ここはひとつよろしくお願いします」てなことを言うはずがない。

○もともと常任理事国入りは、そんなに簡単な話じゃありません。それでも国際社会というのは、善行を施していたら誰かが座布団を差し出してくれるような麗しい世界ではなく、自分で手を挙げて「よこせ」と言わなきゃ始まらない。国連演説は価値あるトライだと思います。旧敵国条項の削除も日本として当然の主張。「国連を改革しなければいけない」というのは、米国から欧州、途上国まで誰もが賛同する主張でありましょう。

○ところで本当に常任理事国になってしまった場合、日本は拒否権をつかえるのか、という話が出た。「日本は拒否権を保有するが、憲法上の理由により行使できない、というのはどうか」と言ってみたら、馬鹿受けしたけど、「それは真に受ける人がいるかもしれない」という声も。

○日本では国連重視を唱える人に限って、常任理事国入りには慎重だったりする。それって綺麗ごとだけ言っていたいという、まことに身勝手な議論だと思うけど、そういう人たちは、小泉演説に対してなんていうんでしょうね。


<9月23日>(木)

このHPが見るたびに赤と青の比率が変わっているので、ついつい見てしまう。ブッシュとケリー、州ごとにどっちが勝ちそうか。

○最近、ニュージャージー州がバトルステーツに仲間入りした。2000年にはゴアが16.4%差で勝った州なので、これは相当に不思議なことである。そのうち、「ニュージャージー州が接戦なら、メリーランド州もそうなるはずだよな」と思いつき、よくよく見たらこれも接戦である。ここは2000年に16.9%差でゴアが勝った州。

○この2つの州は、ニューヨークとワシントンDCに隣接した郊外という性格が強く、言ってみれば神奈川県か埼玉県といったところである。普通なら民主党が楽に勝つ。それが9月になって急に悪化しているのは、おそらく「9/11」がらみなんでしょう。これらの東部州は、事件があった場所に近いので、3周年ともなるとやっぱり何か影響が出てくるらしい。

○逆に太平洋岸の州では、ケリー支持が増えてリードが圧倒的になっている。カリフォルニア州、ワシントン州はもちろん、2000年には0.5%差でゴアが勝っていたオレゴンもケリーが楽勝っぽい。アメリカはつくづく広大な国である。「9/11」の受け止め方についても濃淡があって、深刻に受け止めている州はブッシュ支持、そうでない州はケリー支持に傾いているらしい。


<9月24日>(金)

○アメリカは奥が深い、という話の続き。ワシントン在住の兄貴分、多田さんが教えてくれた話です。

○舞台は今回の激戦州の一つ、ペンシルバニア。この北東部の田舎、 バリー・フォージュという土地は、独立戦争のときにジョージ・ワシントン率いる独立軍が、冬季に野営をした土地として知られています。この村で、こんな話があったそうです。

> その村には100年以上前に建った石造りの小さな教会があって、日曜朝の
> 礼拝で神父が、40-50人の信者を前に次のように語りました。
> 「近くでKKK(クー・クラックス・クラン)の集会が行われています。残念
>  ながら皆さんのお知り合いも参加されているようです。村の平和と秩序
>  が乱されないよう、皆でお祈りしましょう。でも心配はいりません。
>  地元警察だけでなく、FBIとCIAも動向を見張っていますから。。。」
>
> 礼拝に来ていた信者たちは沈黙の中で回りを見回しました。誰がいないか
> すぐ判ったからです。

○今でも南部ではKKKが活動していることは聞いてましたが、北部にまで足を伸ばしていて、なおかつCIAまでが監視に動いているというんだから尋常ではありません。当欄の9月6日付でも紹介しましたが、「フィラデルフィアとピッツバーグの間にはアラバマがある」という評価を地で行くようなエピソードだと思います。こうしてみると、アメリカについてわれわれの知らないことはつくづく多い。ちなみに、ペンシルバニア州の選挙情勢はこちらをご参照。激戦です。

○これも勝負どころといわれてきたオハイオ州は、着実にブッシュ陣営が取り込みつつある。これも保守的な農村部有権者に浸透したことが成功といわれている。アメリカ人の6割は、人口5万人以下の町に住んでいる。ぶっちゃけた話、選挙のときは田舎を取らなければ勝てないのです。

○ところで各州集計については、この人も書いています。下記の表現には、すっかりしびれました。お見事。

サッカーで例えれば、現職としてテロ対策で上げた1点をひらすら守るだけの戦いながら、後半30分を過ぎて攻めあぐねるケリー側のあせりが目立ってきたというところでしょうか。きのうは右サイドの経済で攻めたがダメ、今後は左サイドのイラクで攻めたけどダメ、といった感じ。派手なゴールもないし、攻守の入れ替わりも少ないし、見てる方はあんまり面白くないゲームですが、とにかくブッシュ側のゴール前の守りは堅くて得点が難しい。


<9月25日>(土)

○当社が引っ越した先の赤坂では、すぐ隣に「砂場」という有名な蕎麦屋がある。有名な蕎麦屋にはありがちなことだが、美味くて、高くて、量が少ない。そして店を出るときに、「ありがとう存じます」という声がかかる。この「存じます」がちょっといい感じである。たしか「藪そば」系列も、店を出るときに「ありがとう存じます」だったと思う。

○うろ覚えの知識だが、「ありがとう」=「有難い」=「めったにない」が語源だから、「ありがとうございます」=「めったにないことだと思います」となるので、「ありがとう存じます」というのは文法的に正しい表現なのだと思う。昔の『サザエさん』でも、あらたまったときのサザエさんが「ありがとう存じます」と言っているシーンがある。作者である長谷川町子さんの育った環境を考えると、おそらく昔の山の手言葉だったのだろう。今日、なぜ「ありがとうございます」が主流になったのかは、よく分からない。

○かんべえは昔、経済団体の秘書役をやっていた。秘書同士というのは、少なくとも電話では丁寧な言葉を使うように訓練されている。その当時、しょっちゅう連絡を取り合った某省の次官秘書の女性が、いつも「ありがとう存じます」だった。これがとてもきれいな言葉を使う人で、最後まで一度も会うことはなかったけれども、きっといい家の出の人なのだろう、などと勝手に解釈したものである。

○もう一人、こちらはしょっちゅう顔をつきあわせている秘書で、「ありがとう存じます」を口癖にしている女性がいた。全然、おしとやかなタイプではなく、仕事はバリバリするし、言葉はポンポン飛んでくるし、煙草はスパスパやるので、なかなかに型破りではあった。でも、電話では「ありがとう存じます」なのである。あるとき、彼女の家は会社を経営していて、家では役員を兼任しているのだと聞いて、なるほどなぁと感じたものである。

○そんなわけで、久しぶりに「砂場」に入ったかんべえは、「ありがとう存じます」にちょっとした懐旧の念に浸ってしまったわけである。「砂場」じたいが、いかにも山の手文化の産物であって、地方出身者にはまぶしかったりする。もっとも高級な蕎麦屋というものは、量が少なかったり、奢ってくれた人に負担をかけてしまったり、心から楽しめないことが多いものなのだが。

○かといって、駄目な蕎麦屋に行くのは論外である。我孫子市には「藪そば」を名乗る店があって、ここは典型的な地雷店である。配偶者などは、藪を騙る「数そば」などと呼んでいる。かんべえもまったく同感で、この店はお会計のときに、「ありがとうございます」さえ言わなかったのである。


<9月26日>(日)

○プロ野球新球団をめぐって喧しいこの頃。各社の株価が気になったので調べてみました。

(1)楽天(ジャスダック) 時価総額8409.37億円

(2)近鉄(東証1部) 時価総額6148.99億円

(3)ライブドア(マザーズ) 時価総額2570.83億円

(4)ダイエー(東証1部) 時価総額 919.33億円

○IT関連企業の高株価はよく知られていることですが、なるほど楽天、ライブドアの時価総額は大きい。近鉄やダイエーと比べても遜色はない。とはいえ、かつてのソフトバンクや光通信の株価急落の事例もあり、彼らがプロ野球経営に参加することを不安視する人がいるのもしょうがないのかもしれません。

○ひとつだけいえることは、「来年春から球団経営を始める」といった決断ができるのは、今の日本ではベンチャー出身のIT企業だけだということ。普通の日本の大企業を動かすのはひと騒動であって、それだけの事業に踏み切るときには、シミュレーションを何度もやったり、著名なコンサルティング会社を起用したり、時間がかかるのだ。その昔、「クリック企業とブリック企業」などという呼び方があったけれども、身軽なニューエコノミー企業でないと、こんな冒険は出来ない。その辺を評価しての高株価なんですな。

○ライブドアと楽天を比較すると、オールジャパンの経済界は「楽天ノリ」のようだ。そもそもが三木谷氏の出馬は、「堀江だけは勘弁してくれ」ということで、無理やり口説いて促したものだという観測がある。しかし、密室で決められるのならともかく、これだけ表沙汰になってしまうと、堀江氏に向かって「お前は駄目」という理由付けをするのは難しいだろう。

○どうせならこんな荒業はどうだろう。

@オリックスが「ブルーウェーブ&バファローズ」を丸ごと楽天に売る。
A楽天がブルーウェーブだけを残して、バファローズ分をライブドアに売る。
B楽天は神戸を本拠地にして新球団を経営する。
Cライブドアは仙台を本拠地にして新球団を経営する。

○どうだ、これなら丸く収まるぞ。バファローズも解散しなくていいし、ブルーウェーブのファンも落ち着く。近鉄とオリックスがこの商売から撤退でき、楽天とライブドアの両方が参加できる。問題は宮内さんの面目がつぶれることだが、このままだとオリックスは来期、非常に人気のない合併チームを率いることになる。仙台の新チームと戦うときは日本中が敵になるだろう。それよりも上のプランの方が手離れが良くていいと思うぞ。宮内さん、真面目な話、どうですか?


<9月27日>(月)

○今日の改造人事、サプライズを期待してるのか、警戒してるのか、永田町は先週末から疑心暗鬼状態。「官邸からヤクルトの古田に電話があった説」が流れると、本気にしちゃう人が出る有り様。そのくらい、小泉さんが好き放題で決めてしまった。

○この間、政治家は完全にお手上げ。ある派閥の領袖は、「どうしても閣僚に推薦したい人がいる。さて、このことを小泉さんに言ったものかどうか」。思案投げ首の末、安倍幹事長(当時)に相談してみた。安倍さん答えていわく。「言うと外されちゃうから、言わない方がいいんじゃないでしょうか」。ということで、結局、何も言わなかった。でも、その人は結果的に閣僚になれた。良かったね、って話ですが、それじゃあ、派閥って何のためにあるのか分からない。

○マスコミも政治評論家も、自縄自縛状態で、「新聞辞令」がほとんど飛ばなかった。でも、よくよく考えてみたら、何も閣僚人事を事前に当てる必要なんてないんですよね。これを機会に、メディアとして考え方を改めた方がいいかもしれません。アメリカ大統領選挙でも、「新政権の閣僚人事」を当てたがるのは、日本のマスコミの顕著な特色です。

○まあ、しかしこの改造人事、よくよく見るとまるで亀井派と堀内派を怒らせるための人事みたいですな。山崎派と森派には大盤振る舞い。橋本派が微妙なところで、総務会長をもらったんだから、「1億円」のことを考えたら贅沢はいえない。でも、総裁選で歯向かった藤井氏に対しては、同じ岐阜県から若い棚橋氏を大臣に抜擢して嫌がらせをしている。そういう意味では、派閥中心の発想による人事といえる。わざと派閥間のバランスを壊す。そうやってまた「抵抗勢力と戦うコイズミ」という図式を作る。でも、抵抗勢力はほとんど打つ手がなくて、あとは「サマーワに迫撃弾でも落ちてくれないかしら」といったところでしょう。(本気でそんなことを考えたとしたら、政治家以前に人間失格だが)

○その一方で、目玉商品がない、地味な面子という気もする。何より、小泉さんが心から当てにできる重鎮が減っている。塩爺去り、福田官房長官なく、実力者がいない。そうなると、数少ない腹心であるところの竹中氏の存在感が高まるのが自然な流れ。今回は郵政&経済財政担当の上に、自分が推薦した伊藤大臣(副大臣から昇格)を介して、間接的に金融担当もコントロールできる。文字通り「経済の三冠王」になっちゃいました。

○その他の経済閣僚は全員が留任です。中でも谷垣留任がポイントだと思います。小泉内閣の表向きの看板は郵政改革だが、裏の看板は財政と税制でしょう。というか、はっきり言っちゃうと増税。それに本気で郵政改革をするのなら、民営化後の郵貯が国債を買えるかどうかという問題が生じる。そのためにも、急いでプライマリーバランスの回復を目指さなければならない。だから財政再建、というのが財務省の理屈でしょう。

○昨日だって、サンプロで谷垣大臣が増税やむなし、みたいなことを言ってました。財務省にとってはつくづく良い大臣です。でも、デフレータ―がまだマイナスだというのに、消費税を上げちゃうのはちょっと危ないよね。大丈夫かしらん。今度の改造人事をマーケット的に解釈すると、株は買えないけど、債券は買える人事という気がします。

○町村外相はちょっと驚きました。事前に官房長官の声が上がっていましたが、どうも小泉さんは彼のことがあんまり好きじゃないらしい。普通なら外相は重いポストですし、ご本人もハッピーでしょう。外務政務次官もやってるし。でも、先週号でも書いたとおり、時代は「官邸外交」。小泉氏は川口前外相を首相補佐官にして、「外交は自分で仕切る」体制を作っている。ついでに言えば、北朝鮮問題はヤマタク補佐官の担当なんでしょうね。

○北海道と東京出身議員に手厚い人事、というのも目立ちます。幹事長と外相と経済産業相、政調会長と農水相と金融相ですか。どちらも民主党が強い地区だけに、優遇しておく意味があるのかもしれません。与謝野、伊藤両氏は「比例復活組」ですしね。東京は特に、来年は都議会選挙がありますからね。石原伸晃氏は、そのとき用に温存するのでしょうか。

○最後に、今回の人事の一番のサプライズは、安倍幹事長代理でした。今ごろになって気づいたんですが、武部幹事長、安倍幹事長代理というのは、なかなか上手い組み合わせだったりして。BSE問題で打たれ強いところを見せた武部氏には、郵政民営化の荒波をかぶってもらい、選挙とテレビ出演はこれまで通り安倍氏に任せる。(選挙はしばらくないとはいえ、来年春の補欠選挙と都議会選挙がある)。安倍さん、「お前の望みどおり降格人事だ、文句あるか」みたいな扱いだけど、周囲のやっかみも減るし、これはこれで悪くないポジションかもしれません。

○うーん、疲れた。寝よ。


<9月28日>(火)

○昨日の続き。改造人事を評するに当たって、古い時代の既成概念にとらわれている人が多いなあと思う。小泉さんが総理になってから、旧来の永田町の定めは激変しつつあって、そこから新しいルールが誕生じつつある。全体像はまだ見えないけれど、取り合えずかんべえが気づいたルールは以下の3点だ。

@幹事長はもはや重要ポストではない。

――自民党三役を経験していない総理が誕生したことにより、小泉政権における党三役のパワーは低下した。山崎―安倍―武部と、三代続けて軽量幹事長が誕生したのは、意図的にそうしたのだろう。そもそもカネの流れが完全に把握されてしまう今日、自民党の金庫を預かったところでありがたみは少ない。つまるところ、今日的な幹事長の仕事とは、日曜午前の討論番組に出演することと、選挙のときに先頭に立つことだけだ。あとは総理大臣に対する防波堤になることだけ。党内ナンバーツーだなどとは考えない方がいい。

A外交は外務省ではなく、官邸が行う。

――今日の外交は、安全保障問題が中心テーマとなり、北朝鮮のような特殊な国家との交渉が必要であり、FTAのように複数の官庁にまたがる問題を扱う時代である。外務省にはその能力がない。山崎、川口を補佐官として官邸に配したことで、小泉官邸外交はますます強化された。町村外相は小渕内閣の「大物外務政務次官」であり、やる気満々であろうが、出番はそれほど多くないのではないか。

B経済政策はチームワーク重視で。

――経済閣僚、すなわち「経済財政諮問会議」のメンバーは全員が留任となった。せっかく景気が回復しているのだから、途中で変えないのはひとつの見識。竹中が「郵政&経済財政+金融(伊藤副大臣の昇格)」の三冠王になったことは、諸外国の評判も考えてのことだろう。

――しかしてその実態は、シナリオライターとして財務省(経済財政諮問会議の事務局でもある)の存在感が高まったことも意味する。「郵政民営化とセットで、財政・税制の改革も必要」というのは正論だが、増税を急ぐことによる景気腰折れのリスクは高まった。逆に債券市場にとっては、この内閣改造はいいニュースであろう。

○さて、今度の内閣の支持率は週明けにも発表されるわけだが、かんべえとしては5割以上になるんじゃないかと思っている。その場合、多くの政治評論家は、またしても「意外に高い」という反応するだろうし、「小泉内閣は世論迎合だ」などという見当違いのコメントをするかもしれない。が、彼らは以下の理屈に気づいていないだけだ。

○以下はシカゴのWさんから教えてもらった話。ケリー候補に対する助言を、クリントン政権の元首席補佐官であるレオン・パネッタ氏がThe New York Times紙に寄稿した。そこで「なぜブッシュがケリーをリードしているか」を説明するために、こんな言葉を紹介したらしい。

「有権者というものは、候補者が信念を持っていることさえ知れば、その信念がどのようなものかにまでは、余り興味を示さないものだ」

○この言葉は、小泉首相にもまったく当てはまる。日本国民は、小泉氏は信念がある政治家だと見ており、歴代内閣に比べると高い支持率を与えている。が、信念の中身については、さほど気にしていない。すなわち、郵政民営化の具体論や、常任理事国入りにどんな意味があるかには興味がない。「小泉嫌い」の人たちは、いつも小泉氏の信念の中味を批判しているが、そのような言葉がすれ違うのは、そもそも普通の有権者はそんなことに関心がないからだ。

○先の参院選においては、小泉氏の「人生いろいろ」発言が「不真面目だ」と受け取られ、めずらしくも彼の信念が疑われた。自民党が苦戦した真の理由はここにあった。従い、小泉氏は今度の組閣では再び戦闘姿勢を鮮明に打ち出した。実際に、亀井派や堀内派は悔しそうにしている。そういう「絵」を演出したことで、「小泉さんの信念」が印象付けられたわけである。「そんな子供だましみたいな」などと言うなかれ。小泉さんの郵政民営化に賭ける情熱は明らかだが、具体的なプランについては、かくいう小生でさえ理解できない。でも、彼の意欲が目に見える限りにおいて、世論はそれを後押しするだろう。

○さて、本日は個人投資家協会にて講師を務めました。理事長はかの長谷川慶太郎氏で、冒頭、時局分析を拝聴する。原油価格の高騰について、「ハセケイ節」を堪能する。後を受けて、かんべえが米大統領選挙について解説。その後は木村喜由氏による市場展望。テクニカル分析によると、株式市場は10月29日頃に転換点を迎える可能性が大だという。それはおそらく反騰という形を取るだろうが、ひょっとすると天井になるかもしれぬとのこと。テーマ不在の国内株式市場、はたして1ヵ月後に方向性が見えるのでしょうか。


<9月29日>(水)

○報告が遅くなってしまったんですが、この欄の6月21日分でご紹介した「A地点からB地点へ」自転車でこいでいたポール君は、めでたくゴールインしたそうです。こんなご案内をいただきました。

> Dear Tatsuhiko,
>
> Thank you again for your pledge of GBP50.00 to Paul Parry in aid of British Red Cross.
>
> Paul's event is now over and your pledge was processed successfully. It will appear on your card statement under "Justgiving.com/Charity".
>
> British Red Cross has asked us to pass on this message to you:
>
> "Thank you very much for choosing to support the British Red Cross, your donation is gratefully received. The British Red Cross cares for people in crisis, both nationally and internationally.  For thousands of vulnerable people, the British Red Cross is the certain sign of hope in crisis."

○あらためて、ポール君のホームページをご紹介しましょう。

http://www.fromatob.org.uk/ 

○5月7日にノルウェーの「A.」地点を出発したポール君は、5600マイルを自転車で旅して、とうとう8月27日に米国ネブラスカ州の「Bee」地点に到達しました。彼が使っているのはタンデム(二人乗り自転車)であり、最後の8マイルは地元の人が一緒にこいでくれたから楽だったとか。そして案の定、Bee村の人たちはこの酔狂者を大歓待し、ポール君は市長さんからお土産をもらったり、「村の名誉警察署長」に任命されたりした由。なんともアメリカの田舎らしい話です。

○アメリカの田舎といえば、9月24日にご紹介したペンシルバニア州の話については、「PAに住んでいた」お二人の方から証言をいただきました。いずれも「フィラデルフィアとピッツバーグの間にアラバマがある」に同感とのこと。さらにこの人によると、KKKの支部があるのはホントだそうです。「へえ〜」ですね。

○エレクトラル・カレッジはあいかわらず「日替わりメニュー」です。数字自体はまだまだいい勝負ですが、Strong Kerryを示す濃い青の州が減ってきました。そして田舎の州は、ほとんどがStrong Bushを示す濃い赤になっています。正直言って、9月だけでこれだけ差がつくとは思いませんでしたな。

http://www.electoral-vote.com/index.html 


<9月30日>(木)

○アメリカ大統領選挙も残るところ1ヶ月。「で、どうなるの?」という取材やら講演やらで日々を過ぎしております。今日は午前中に新聞社の取材、午後に金融関係紙の取材、夜は徳間書店の研究会。似たような話をしているので、さすがに要領はよくなってきたような気がする。そろそろ第1回目のテレビ討論会が始まる。

○テレビ討論会は、事前にいろんなやり取りがあって、きめ細かなルールが設定されている。結果としてブッシュ側が有利な材料を多く得たと思う。なかでも、「ひとつの問いに対する答えは2分以内」というルールは、明らかに挑戦者側にとって不利な条件である。また、いちばん視聴率が高くなりそうな第1回(しかもこれは激戦地フロリダ州マイアミ大学で行われる分である)のテーマを、ブッシュが強みとする「外交・安保問題」に絞ったのも作戦がちであろう。なにせ代理人を務めたのがベーカー元国務長官ですから。

○一方、このタイミングを狙うかのように、バグダッドでは連続爆弾テロ事件が起きている。反米勢力の側の狙いは一点、ブッシュを落選させることにある。だとすれば、11月2日以前にあらゆる資源を投入して来るだろう。これから先1ヶ月、中東は荒れそうです。他方、それでもブッシュが再選された場合には、11月3日以降は米軍が反撃する番となるでしょう。それまでは「耐えがたきを耐え」、選挙前は穏便に済ませたいというのが正直なところでしょう。

○さて、テレビ討論会を前に、こんなギャグが飛び交っています。

●ブッシュ陣営のアドバイザー「お願いですから、腕時計だけは見ないでください」(1992年、ブッシュ父は討論会の最中に時計を見て評判を下げた)。ケリー陣営のアドバイザー「お願いですから、ため息だけはつかないでください」(2000年、ゴアはブッシュがお馬鹿な答えをするのを聞いて、わざとらしいため息をついて男を下げた)

●ブッシュとケリーは、サメが泳いでいる水槽の上に立たされた。司会者いわく。「ルールを説明します。先に“ベトナム”という言葉を使った人は、飛び込んでもらいます」。

●テレビ討論会のケリーいわく。「大統領はイラクの蜂起を止めることが出来ない。でも、私には止めるプランがある。なんとなれば・・・」。延々としゃべり続けるケリーをテレビで見ていたイラクのテロリストたち、「なんだか眠くて疲れてきた。今日はテロ活動は止めておこう」。











編集者敬白



不規則発言のバックナンバー

***2004年10月へ進む

***2004年8月へ戻る

***最新日記へ


溜池通信トップページへ


by Tatsuhiko Yoshizaki