●かんべえの不規則発言
2000年6月
<6月1日>(木)
○本日は関西に出張して、大学生を相手に「異文化としての日米関係」という講義をしてまいりました。久々に大学の空気を吸ってきました。いいもんですね。若い人200名以上を前に(社会人入学で、明らかに筆者より年上の方もいらっしゃいましたが)、お話しするのはとても刺激的でした。
○本日の話の「つかみ」に、こんなエピソードを紹介しました。とある日本人が通訳を挟みつつ、アメリカ人を前にして挨拶をしていたそうです。その日本人は、話のついでに、「こちらがうちの愚妻でございまして・・・・」と奥さんを紹介した。それを通訳は、"This is my excellent wife."と訳した、というオハナシ。面白いでしょ、これ。当たり前だけど、愚妻を"stupid wife"と訳してはなりません。
○講義のあとで、学生からのコメントを頂戴した。上記のエピソードについて言及してあるものが何本かあり、「愚妻なんて初めて聞いた」「男尊女卑的な感じがする」という指摘があった。それはそうだろうなー。「愚妻」なんて、今の20歳前後にはほとんど死語でしょうね。筆者の場合、父が敬語の使い方が正確な人間なもので、小さい頃から「愚妻」「豚児」などのボキャブラリーをよく耳にしました。たしかに、あんまりいい気分のするもんではありませんな。目の前で「豚児」などと呼ばれるのは。
○そういえば「愚息」なんて言葉もある。これは最近はもっぱら違う意味で使われており、その分だけ言葉としての寿命は長そうだ。(例)「XXも満足」「XXは昇天」(出典)その筋の雑誌。
○てな話はさておきまして、出張のおかげで京都に来て友人に会えました。待ち合わせの時間までに少し間があったので、ちょっと観光でもと思い、「新選組ゆかりのものは何ぞないかいな?」――実はつい最近、司馬遼太郎の『新選組血風録』を読み返したら、むちゃくちゃ面白かったもので。でも適当なものが見当たらなかった。「新選組博物館」みたいなものを作ったら、いい観光資源になると思う。
○てな話をしましたところ、京都で生まれ育った人から、「京都では新選組は人気がないですから」といわれてしまいました。反対に坂本竜馬なんかが滅法人気があるそうです。これまた京都らしくていい話ですね。新選組といえば、野蛮な連中という記憶がしっかり残っているのでしょう。そうそう、あとから考えれば、壬生寺あたりに行けば良かったんですな。
○ということで、日帰り出張。中身の濃い一日でした。東京行き最終の「のぞみ」車中でこれを書いています。間もなく今日が終わります。
○・・・・と書いているうちにバッテリー切れで、最後は自宅で更新。はー疲れた。
<6月2日>(金)
○今週は同じ文面のチェーンメールを3通もらいました。皆さんのところへも来たかもしれませんが、「妊婦への輸血のために、Rhマイナス、AB型の血液を探しています」というやつ。最初に来たときはびっくりして、知り合いのRhマイナス、AB型のS氏に伝えた。不規則正しい生活を送っている純正商社マンのS氏、「わしは間違いなくRhマイナスでAB型だけど、献血できるような健康状態かどうか怪しい。さっそく今週末に血液検査に行ってくる」という返事をくれた。いい男なのである。
○ところがこのメール、すごい勢いで広がって、本当に患者を抱えている病院にご迷惑がかかるような状態になってしまったという。血液はもう足りているそうなので、S氏には「ご放念ください」と伝えました。ネット社会は便利なんだか、お節介なんだか、影響力があり過ぎるのか、とにかくありそうな話である。
○S氏に昔聞いたのだが、都市によってはRhマイナス&AB型の人たちのグループがあって、いざというときに助け合えるようになっているのだそうだ。筆者などはRhプラス&A型という、日本人でいちばん多いタイプなので、ありがたいことにこういう苦労とは無縁である。しかし、少数派は普段から危機管理を考えておかなければならない。たいへんですね。
○Rhマイナス&AB型のフォーラム、なんてものを作っておくと便利かもしれない。いざというときは、そのグループ内だけでメールを回せば良い。普通の人まで巻き込むと、果てしなくチェーンメールが広がってしまう。あんまり誉められた話ではありませんよね。
<6月3日>(土)
○紫色の袱紗に入った証書が読み上げられ、衆議院が解散されました。即座に飛び出す「万歳」の声、と思いきや今回はなかなか声が上がらなかった。消息通の解説によると、「昔はハマコーみたいな議員がいて、絶妙なタイミングで掛け声をかけたから、みんなそろって『バンザーイ!』になった。いまはああいうタイプがいなくなったからなァ」。今の衆議院議員の顔ぶれを見渡せば、いちばんそういうことが上手そうな人は、ほかならぬ内閣総理大臣になって壇上に立っている。
○衆議院の解散のときに、「万歳」の声が上がるのは不思議な習慣です。解散の瞬間、議員としての身分と資格を失うのですから。むかし宮沢さんは解散の時期を尋ねられて、「クリスマスよ早くこい、という七面鳥がおりますかなぁ」と答えたのは有名な話。察するに、これから選挙という試練のときを迎える緊張感が、「万歳」の声を呼ぶのではないかと。
○さて、今回の解散をなんと呼ぶか、皆様のご意見を賜りたく存じます。「溜池通信」の今週号では、「小渕追悼解散」「サミット前駆け込み解散」「与党談合解散」「神の国解散」「大いなる誤算解散」「森首相信任解散」の6案を挙げてみました。没にした案としては、「死んじゃった解散」「神頼み解散」などがあります。ほかに出ている案としては、「森隠し解散」「森おそまつ解散」(鳩山代表)、「沖縄サミット解散」(神崎代表)など。メールやBBSなどでご意見をお寄せください。
<6月4日>(日)
○かつての南海ホークスは、「選手が放出されると活躍する球団」だった。南海にいる間は芽が出ない選手が、他チームに移ると不思議と活躍する。最近だと阪神がそうなっていて、オリックスに行った野田、巨人に行ったメイなんかがすぐ思いつく。南海も阪神も、これではチームとして衰退するのが当然の理である。
○政界において似たような存在を探せば、文句なく「旧福田派」=「清和会」=「現森派」でありましょう。岸、福田両首相の流れを汲む名門派閥にありながら、後継者の安倍は死去、三塚はスキャンダルで引退。森喜朗の代になって、偶然のチャンスで総理総裁の座をつかんだ。しかるに、どうも長期政権にはなりそうにない。次は小泉純一郎が控えているが、あとは人材不足といわれている。
○ところがこの派閥を去った人は不思議と活躍しているのである。まずは独立を目指して悲運に倒れた中川一郎。新党さきがけを率いて集団脱走した武村正義は、官房長官や大蔵大臣を歴任。石原慎太郎は東京都知事になって、いまや飛ぶ鳥を落とす勢い。北川三重県知事も同様。亀井静香は自前の派閥を率いて、自民党の次を狙う一角の座を占めている。ベンチャー界におけるリクルートのように、人材流出の宝庫となっている。
○清和会系の政治家といえば、かのハマコーさんや加藤六月といった顔ぶれも忘れられません。 つまりは男臭い個性派集団。こういうグループをひとつにまとめることは容易ではなさそう。森首相も上に挙げたような人たちが真剣にサポートしてくれれば、もうちょっと元気がでるんでしょうけどね。
<6月5日>(月)
○森首相とかけてラムサール条約と解く。その心は、シツゲンを守りたい。
○選挙戦に突入しても、森首相に応援を頼む候補者はきわめて少なかった。それでも、日本最大の激戦地、竹下登の弟が挑戦している島根県から依頼が飛び込んだ。
森首相はここで、心置きなく持論をぶつことができた。
「みなさん、ここ出雲の国は神の国であります」
――もちろん、だれも文句は言わなかった。
○次に森首相を迎えてくれたのは、地元の石川県であった。北陸地方の関係者を集めた場で、またも森首相は熱弁を振るった。
「みなさん、このままで日本の国体が守れるのでありましょうか」
すると富山県の知事が立ち上がって発言を求めた。
「2000年国体は、わが富山県が立派に成功させてみせます」
○えー、どうも上のジョークは、われながら理屈っぽくてあまり笑えませんな。でもまあ、こういうジョークが飛び交うようになると、日本の政治はもう少し面白くなるのではないかと思います。
○さて、話題の「天皇を中心とする神の国」を英語で何と説明すればいいのか。手もとの"The Economist"誌を見ると、"divine nation with the emperor at its center"と訳しています(6月3日号の29p)。これだけだと、この発言のどこが問題かがよく分かりにくい。しょうがないから、"The Economist"誌は、森首相は右派(right-wing)に属するとか、明治憲法は天皇を「神性にして冒すべからず」(sacred and inviolable)としていたとか、森首相は教育勅語(imperial rescript on education)は悪くないと言った、などと敷延して、苦しい説明している。でも、そのあとに控えている結論が鋭い。
○「野党はこの幸運が信じられないほどである。自民党の悩みは、森が軍国主義の過去を愛でて多くの国民を困らせていることではない。日本人は、これで民主的な基盤が揺るがされると思うほど神経質ではない。彼らが呆れ果てているのは、首相の政治的配慮の無さである」
○そーなんですよ、とにかくあの人のノーテンキが許せないの、という人は少なくないと思うぞ。
<6月6日>(火)
○このところ選挙づいている「不規則発言」ですが、常日頃筆者がネタを仕入れているホームページをご紹介しましょう。
○毎日新聞「総選挙2000」と朝日「2000年総選挙」は、選挙の全体像をつかむのに好適です。とくに毎日は立ち上げが早かったのでよく使いました。それから、自治省の「選挙制度改革」はデータが充実しており、先週号を書くときにはたいへんお世話になりました。
○全国の選挙区を分析しているページに「選挙でGO」があります。大変な労作です。以前に本誌で紹介した「落選運動」は、確信犯的なHPですけど面白い試みだと思います。一方、「政治家評定会議」は、候補者に対するアンケート調査を(かなり強引に)実施して公開しています。また、森田実の「言わねばならぬ」は、政治評論家によるコラム集です。彼はかなり民主党に肩入れしているのですね。
○毎度、本誌では紹介していますが、「報道2001」の世論調査は、毎週やっているだけに得難い定点観測です。「首都圏500世帯」というのは、サンプル数としては十分な数です。視聴率調査だって同じくらいの規模でやってるんですから。
○それから日々の選挙情報を追うのなら、やっぱりヤフーの選挙ページでしょうか。また、世論の風向きを知りたいときに役に立つのがゲンダイネットです。日本の世論のかなりの部分は、夕刊紙が作っているのではないでしょうか。これを毎日チェックしていると、買わずに済んでしまう・・・・
○森首相に対するパロディHPとしては、「ニセ首相官邸」が有名です。これについては「ニセ前首相官邸」の方が良いという声も。マッドアマノ氏の「週刊蜃気楼」も面白いのですが、ここはリンクを張る際の規定が細かく定められているようなので、ここでは割愛します。
○ところで本日は梶山静六氏が死去。かつて金丸信が竹下派七奉行を評して、「平時の羽田、乱世の小沢、大乱世の梶山」と喝破したのは有名です。ご本人は「水戸出身は代々、副将軍どまり」と恬淡を装っておりましたが、本物の大乱世を迎えたのに、天下人になることなく退場となりました。筆者も1998年夏の自民党総裁選では、「この人がなればいいのに」と思ったものです。それにしても「凡人」に続いて「軍人」も・・・・合掌。
<6月7日>(水)
○先日、「今度の解散をなんと命名するか」と呼びかけたところ、こんな答えを頂戴しています。
○「森自己崩壊解散」は如何でしょうか。(外資系金融/M氏)
――おそらくそういう結果になるでしょうね。でも、ちょっとひねりが欲しいです。梅。
○「森沢山(もりだくさん)解散」ていうのはどうでしょう。「森総理はもうたくさんだ」と「景気、構造改革、サミット、その他政策課題があるにも関わらず、さらに総理の個人的資質まで問われている」という意味で。(財団法人/B氏)
――ひねってあります。ただし理屈が勝ち過ぎているような・・・・。梅。
○「Defiance解散」なんぞは如何?Japan Defianceと「失言ぐらいで政権交代させられるもんならやってみろ」などという、与党陣営の有権者に対する挑発的態度という解釈のふたつを掛けてみました。(製造業/O氏)
――Difiance(敵対的、挑戦的)は、米国から見た最近の日本を表すキーワードですね。流行語にはなりそうもないけど、「青き森野中」政権のゴーマンさをよくあらわしている。竹。
○「日陰解散」(ワシントン在住/T氏)
――すいません、理解できないのは私が悪いのでしょうか。梅。
○森総理はまず天皇に対して謝らなくてはならないことが多すぎるのでは。(ジャーナリスト/K氏)
――いつも政治情報ではお世話になっているKさんですが、上のコメントはなんだったのでしょう。並。
○森さんよりひどい総理を想像できません。理論上は存在しえても[土井さんとか]現実には、無理でしょう。よって、この次は、どう考えても、絶対にましになる、ということです。ついに平成12年目にして、日本政治は底をついて、これからは反転です。よって、「底打ち解散」とよぶことにしてはどうですか(シンクタンク/O氏)
――これは前向きな認識だと思います。本当に底打ちしてほしいものです。松。
○「誰が変わっても今よりは悪くならない」と考えれば、景気も株価も恐くないということですね。調べてみたら、1993年の政権交代時は株価は下げなかった。93年末に政治改革法案が流産しそうになったときに下げ、成立とともに戻した。株式市場は変化は買い、変わりそうにないと思うと売りなんですね。ひとつ賢くなりました。
○引き続き、優秀作品をお待ちしております。ところで、これを書いているのはなんとバンコクからなんです。短期出張中ですが、バンコクからこの「不規則発言」をアップするのはもう3度目。それにしても、6月のバンコクは暑くて蒸しますなあ。
<6月8日>(木)
○「課税最低限」という言葉は、「外形標準課税」と並んで、「税制オタク」の人以外には馴染みのない言葉ではないでしょうか。税金の話をしていると、「ソトク」(租税特別措置法の略語)だの「ゼーチョー」(税制調査会、政府と自民党の2本立て)など、聞きなれない言葉が飛び交う。敷居の高い世界である。
○で、民主党が「課税最低限の引き上げ」を言い出して波紋を投げかけている。これは思い切り意訳すると、「貧乏人にもちゃんと税金を払わせろ」ということになる。公明、共産、社民などは当然反対だ。ただし自民党は意見が割れる。宮沢大蔵大臣が「意外なところで味方を得た思い」などというのは自然な反応。加藤前幹事長など、かつて財政構造改革を進めた人たちは潜在的な賛成派である。野中幹事長、亀井政調会長などが反対に回るのは無理もない。しかしホンネでは「よくぞ言ってくれた」かもしれない。
○景気対策のための減税を繰り返したことで、普通であれば所得税を納めて当然の人たちが払わなくてよくなった。恒久的な制度減税ではなく、場当たり的な特別減税で済ませてきたことが原因である。ごく一部の人だけが所得税を負担しているというのは、明らかに税制の歪み。しかし課税最低限を上げようとすれば、弱者救済を取りやめることになる。
○税金の議論をするときに、「それは金持ち優遇になる」という殺し文句がある。これを言われると、どんな正論も通らなくなる。それを承知で「課税最低限引き上げ」を公約にした民主党の勇気に拍手したいと思う。「中身が詰まっていない」という批判があるが、これこそ税制オタクの議論。大きな方向を示すことが政治の仕事ではないか。
○などとバンコクのホテルで書いております。仕事は今夜から忙しくなる予定。
<6月9日>(金)
○一向にタイの話が出てこないので、「こいつ、本当にバンコクにいるのか」とお疑いの方がおられたりして。でもまあ、仕事の話は書くと差し障りがありそうだし、今日などは仕事以外何もしてなかったりするので、「不規則発言」は見当違いの方向へと話は飛ぶ。
○「江口」という能があるらしい。こんな逸話からできている。西行法師が雨に降られて、一夜の宿を求めた。ところがそこはその道のお店だったので、客にならない僧形の男は歓迎されなかった。宿を断られた西行は、腹いせにこんな歌を詠んだ。
「世の中を厭ふまでこそ難からめ 仮の宿りを惜しむ君かな」
するとこの店にいた遊女が、こんな歌を詠んで返した。
「家を出ずる人としきけば仮の宿に 心とむなと思ふばかりぞ」
○上は先週、京都で仕入れた話で、多少の間違いが含まれているかもしれません。さらに誤解を恐れず、上の歌を自己流に解釈するとこうなります。
西行「世の中が嫌で世捨て人をしておるのに、そんなワシをちょっとの間も受け入れてはくれんのだな、キミは」
遊女「あんたはねー、家を捨てた人なんでしょうが。こんなところに未練を持ってどうするの」
○この勝負、どう見ても彼女の圧勝です。天下の西行法師をやり込めるのだから、京の女は恐いどすえ。気ぃつけなあきまへん。
○ところで似たような話が関東にもござる。こちらの斬られ役は太田道灌。山奥で雨に遭って、目の前の一軒家で蓑を貸してくれと頼む。出てきた女性は山吹の花を差し出して、暗に「うちは貧乏で蓑ひとつございません」と答える。あいにく道灌は、「七重八重花は咲けども山吹の実の(蓑)ひとつだになきぞ悲しき」という歌を知らなかった。ああ恥ずかしい。江戸の女も甘く見ちゃいけません。
○この2つの話、構造がとっても似ている。高名な男性が雨に降られる。手近にいた女性に助けを求めるが断られる。その女性は一見、無学なように見えるけど、歌を使って鮮やかな知恵を示すので、男は深く恥じ入る。西行と道灌が経験した共通点は何なのか。ふと今日になって気がついた。
○二人の話をフロイト的に解釈するとこうなる。雨は試練を意味する。試練に遭った男は、取りあえず手近な女性に情けを求める。初対面の相手に、宿を貸せとか蓑を貸せと虫のいいことを言う。しかし真心がこもっているわけではなく、内心、「わしってビッグネームだもんね」くらいに思っている。そういう男の傲慢さは、相手からしっかり見透かされている。頭のいい女性はコワイです。
○西行と道灌の逸話が今日に残っているのは、きっと似たような経験をした男が、古来から大勢いたせいでありましょう。なんだかワシも、かつて身につまされるような思いをしたような気がするが、幸いなことに具体例を思い出さない。無意識とはありがたい存在である。そんな経験、本当に思い出したら自己嫌悪に苦しむであろう。
<6月10〜11日>(土〜日)
○仕事が片付いて早くも帰ってきました。締めて4泊5日、1機中泊。最後に土曜夜便で発ち、日曜朝に成田に着いたところ。バンコクから帰ってくると、梅雨の日本はしみじみ寒いです。ここからJR成田線に乗ると、家に着くまでがとにかく長い。世間は日曜日なので、成田駅7時26分発の電車は空いているが、これから新宿あたりに遊びに繰り出す若い衆がヒジョーにやかましい。
○で、タイはどうだったかといいますと、3ヶ月前に比べると、とりあえず景気が良くなっておりましたな。工事中の建物の多くで、クレーンがちゃんと斜めになっていた。これが水平になっていると、工事が中断されている証拠になる。観光客も多い。ホテルやショッピングセンターも人出が多い。
○せっかくなので、土曜の午後に入ったマッサージの話などを。タニヤ街の奥の方に、タイ式マッサージの集落がある。ここで2時間コースを体験してきました。料金は330バーツ(約千円)とチップ。入り口は健康的ですが、階段を上がっていくと薄暗い電灯の下に、仕切りのカーテンがついた寝床がいくつも並んでいて、周囲に女性たちが並んでいる。ちょっとフーゾクもどきである。しかしタイ式マッサージというのは、インドのヨガの流れを汲む健康法で、マッサージ師の資格を取るためには何とかという寺院で勉強しなければならないのだそうだ。良家では代々、家に伝わるマッサージ法を子供に教えたりするという。
○土曜の午後3時ともなると、ゴルフを終えてから繰り出す客が多いので、どの店も繁盛している。駐在員たちの話では、ゴルフ場で「今日はお疲れ様でした!」と言って別れた相手と、ここで再び鉢合わせなんてこともめずらしくはないらしい。そういえば土曜日は、会社の事務所の近くで2人、空港で2人、知り合いと出くわした。全部完全に偶然。It's a small world.
○さて、2時間コースともなりますと、片足をもむのに30分というぜいたくな手順になります。ときどき「痛てて・・・」となりますが、これがなかなかによろしい。気がついたら熟睡していたらしく、一緒に行った先輩が「いびきかいてたぞ」と後でいわれた。だって寝てなかったんだもの。だもんで、あっという間に1時間。
○マッサージが背中から肩にかかると、筆者にとってはとたんに難行苦行になる。肩凝りのない人間なので、その辺をもまれるのはとっても痛いのだ。「痛いイタイ」と言って手加減してもらう。日本語も英語も通じないが、さすがにその程度は通じる。
○背中と肩が終わると一服。なぜかお茶が出されて、ここからマッサージは最終プロセスに入る。まずは顔面マッサージ。それから屈伸運動。最後はプロレスのジャーマンスープレックスのような体位で、宙に浮かんで締め上げられる。これで2時間コースが終了。もともと体が凝らない体質なのですが、これだけもまれるとスッキリしますな。聞けばスチュワーデスさんたちの間でも人気があるそうです。バンコクへお出かけの際にはぜひお試しください。
<6月12日>(月)
○なんでも昨年は、100万人を超える日本人観光客がタイを訪れているそうで、これを超えるのは米国、韓国、中国くらいしかないとのこと。1日3000人ペースということは、毎日ジャンボジェット機が6台分以上が必要になるわけで、これはたいへんな数字です。
○筆者の場合は通算5回もタイに行ったわりには、観光の類をあまりしておりません。王宮と寺院をちょちょっと見た程度で、アユタヤ朝やらスコタイ朝などの遺跡はもちろんパス。たとえばムエタイ(キックボクシング)も見ていない。駐在員の話によると、あれは日本のプロレスのような派手なKOシーンは少なく、じきに飽きてしまうのだそうです。それより面白いのは、客席で賭けに興じているタイ人たちの方で、そのエキサイトぶりはリングの比ではないとのこと。そんな話を聞くとますます行きたくなるじゃありませんか。
○確実にいえるのは、バンコクは良いホテルが安いことで、今までに宿泊した「オリエンタル」「スコタイ」「リージェント」「シャングリ・ラ」「デュシ・タニ」はすべてマルでした。とくにオリエンタルとスコタイは世界のホテルランキング上位に顔を出すような代物です。それでも1泊150ドルくらいでしたから、日本のホテルがあほらしく思えることうけあい。こういうホテルに泊まって、ボーッとしながら過ごすというのも、いっぺんやってみたい贅沢であります。
○男性天国としてのタイは、これまた未体験ゾーンでありますので、筆者には語る資格がございません。当社の独身駐在員には、「え?タイソープ行ったことないんですか?最高っすよぉ」てなことをいうものがおったりする。よくよく聞いてみると、彼はタイ式マッサージと同じように、この国伝統のサービスだと思っていたようである。「ばっかだなあ、そんなの日本のを真似したに決まってるじゃないか」というと釈然としない顔をしていた。真相は不明です。こういう文化人類学を研究している人はいるんでしょうかね。
○ところで訂正です。6月8日の当不規則発言で書いた課税最低限の話ですが、民主党が公約しているのは引き上げではなくて引き下げです。初歩的な間違いであります。失礼しました。ったく、これ以上引き上げてどうするというんじゃ。本日出社したところ、税制に詳しい愛読者の方から、会社のメールアドレスに訂正が入っておりました。ありがとうございます。このへんが本物の「税制オタク」と「税制・門前の小僧」の差でしょうか。
<6月13日>(火)
○衆議院選挙が公示になりました。筆者ごとき者のところへも、「どう思いますか」といったメールを頂戴しております。タイのよもやま話は早々に切り上げて、政治オタクの世界に戻りたいと思います。
○先週、とある自民党のベテラン秘書の方が言っていましたが、今度の選挙ではあんまり負ける気がしないと。なんとなれば公明党がこっちについたから。ただし比例選挙の方は知らんよ、とのことでした。つまり小選挙区で勝って比例代表で負けて、結果として自公保で過半数が維持できればいい、という理屈。しかし本誌6月2日号で書いた通り、比例代表で自民党が第2党に転落するようなら、やはり森政権の継続は難しくなります。
○というより、すでに自民党執行部は勝っても負けても森首相は使い捨て、と腹を決めているような気がします。これは読者の方からいただいたご指摘ですが、森首相が唱える「日本新生プラン」が影も形もない。なんと自民党のHPにもない。今月の文芸春秋、赤坂太郎氏の記事によれば、日本新生プランは町村首相補佐官が堺屋経企庁長官を担ぎ出してまとめたものの、青木、野中、亀井、宮沢などの要人に根回しをおこたっていたので、党内から冷たい視線を集めているとのこと。(p227) 官邸の森首相周辺と、党本部は完全に溝ができてしまっている。
○つまり森首相はサミットまででお役御免というシナリオではないか。サミット前に新首相を選び、急きょ登板させて準備不足で恥をかくのは、日本政府としては避けたいところでしょう。たとえば「宮中晩餐会が台無しになったらどうする」てな話になる。とくに外務省などは、94年のナポリサミットでの村山首相の腹下しの記憶が残っているでしょうし。それに「小渕さんの次の次」の人がサミットを主催するのでは、それこそ沖縄への配慮が台無しになってしまう。
○では、森さんの後継を誰にするのか。それは選挙結果次第となりますが、大きく2通りに分けて考えると楽になると思います。それは@野中幹事長続投のケース、Aそれ以外のケースです。野中氏は「自民党で229議席、それ以下なら辞任する」と明言しています。言葉通りになるかどうかはさておき、仮に200議席割れなどという事態に至れば、これはAになることは必定。この場合は政権交代の可能性も含め、筋書きなき政局入りとなるでしょう。逆に@であれば、小渕派が依然として政治の中枢を占めつつ、加藤、河野、小泉などから適当な人物を総理に担ぐことになる。
○こうして考えてみると、@とAのどっちが望ましいか、だんだん分からなくなってきました。筆者はAはリスクシナリオという認識でした(6月2日号にもそう書いた)。しかし、案外と@も、次への展望が見えない点では明るいシナリオとは言い難いような気がします。たとえば株式市場の反応という見地からいえば、Aの方が「変化は買い」になる可能性がある。新政権(たとえば鳩山=加藤連合政権)が、仮に2001年度大幅緊縮予算の策定に入ったりすれば、これは大幅調整になるでしょうが、彼らもそこまで極端ではないと思います。1993年の株価が政権交代で下げなかったように、むしろ好材料になるかもしれません。
○野中氏は、「落選運動」の最終結果で第1位となり、その一方で文芸春秋の「政治部記者が選ぶ政治家50人」の第1位にもなっている。首相が誰かなどは二の次で、彼を中心に政局は動いていく、と見ておくべきでしょう。多少大胆な仮説となりますが、「野中幹事長=井伊大老説」というのはどうでしょう。6月25日が桜田門外の変となれば、そこから自民党=徳川幕府の崩壊が止まらなくなる・・・・・。ご本人が聞いたらショックでしょうけど。
<6月14日>(水)
○昨日の話が幕末に至ったので、ついついその話を続けます。当時、もっとも多くの人材を擁していたのは、おそらく薩長ではなくて幕府だったはずです。この時期の幕府のリーダーを務めた阿部正弘、井伊直弼、そして小栗上野介の3人は、江戸時代全体を通して見ても相当な逸材であったことは間違いありません。問題は彼らのやったことがチグハグで、とくに井伊大老は「良かれ」と思ってやった安政の大獄が裏目に出てしまった。巨大な組織が倒壊するときは、こういう巡り合わせの悪いことが続くものです。
○いわゆる「末期的症状」というやつですが、まさにそういう状況を迎えつつあるのが今の自民党です。森首相は失言が止まらず、野中幹事長は脅しが効き過ぎ、青木官房長官はとうに匙を投げ、亀井政調会長は「悪いのはマスコミ」とうそぶいているとか。総選挙でどんな結果が出るにせよ、これが最後になるかもしれない「自民党の知恵」をひねくり出さないと、いよいよこの政党には明日がないということになるでしょう。
○野中広務という人は、「町議上がり」という不利な条件を振り出しに、今日の地位まで登り詰めた奇跡の人です。この間、常に自分より強いものを相手に戦いを挑み、勝ち続けることで政界の階段を登ってきました。蜷川府知事、細川政権、小沢一郎など、強力な政敵を倒すために、彼はいつも全力を尽くしてきました。それが政治スタイルになってしまい、自分が政界の最高実力者になってしまった今も、手抜きをすることができないでいる。
○いわば横綱になっても張り手をやめない力士のようなもので、どんどん敵を増やしてしまう。本人としては不本意なことでしょう。おそらく野中氏は、すでに来年の参議院選や総裁選挙を視野に入れつつ、作戦を立てているはずです。彼以外に、そこまで先を読んでいる人はいないでしょう。さまざまな批判を浴びるたびに、「なぜこれが分かってもらえないのか」と歯がゆい思いをしていると思います。
○ところが皮肉なことに、組織の末期的症状が始まると、ベストな手を打つことがかえって悪い結果を生むという循環が始まってしまう。「自公連携」という戦略は、党利党略からいえば100%合理的な判断だと思います。しかしどうやらそれが、自民党の墓穴を掘る結果になりそうです。あとから振りかえると、今の時期の自民党は「安政の大獄」をやっていたということになるのではないか。
○筆者は幕末の群像の中でも、小栗上野介という人がわりと好きです。なかでも彼が横須賀に造船所を作り、「これで幕府は土蔵つきの売り家になる」と言ったという逸話に感動を覚えます。小栗が建てた造船所は、明治政府に引き渡され、維新後に立派に活用されました。いまの自民党にも、小栗のような人がいてほしいと思います。なにしろ人材がもっとも豊富なのは、自民党であるはずですから。
<6月15日>(木)
○飽きるまで政治談義を続けます。選挙後にどんな政権ができるかは、選挙結果と相談しなければなりませんが、参議院は来年7月までは現状が変わりません。そこで参議院で過半数を取る組み合わせについて、いろいろ計算してみました。
〇参議院の定数は252議席ですが、馳浩さんのように衆院に転出した議員がいるので欠員4となっています。これらは6月25日に補欠選挙が行われて決まります。詳しい議員の数は、「参議院会派別所属議員数」をご参照ください。
〇これによると、自公保は合計134議席で、過半数である127を楽にクリアしています。仮に総選挙で自公保が大敗した場合も、参議院では多数派を維持できるわけです。反対に民主党が政権を取ろうとした場合、現状の57議席ではいかんともしがたい。そこで参議院クラブ(含む自由党)の12、社民党の13と連立を組んで、やっと82。この際、二院クラブ・自由連合と無所属議員の9人にも加わってもらい、それでもまだ91。「毒食わば皿まで」と、共産党23議席に手を伸ばしたところで、やっぱり過半数には届きません。
〇それでは自民党の加藤派と山崎派が野党に合流したらどうなるか。世にいう「加藤=鳩山」政権誕生の場合です。実は加藤・山崎派は参議院議員が少なく、あわせて21人しかおりません。これでは共産党よりも少ない。加藤・山崎派と共産党が同居できるはずもないので、連立の数合わせにはどうしても無理が生じます。「小渕派(38)+森派(22)+亀井派(21)」=81が結束している限り、現状を打破するのは難しいのです。
〇実はひとつだけ可能性があって、それは森派代表の小泉純一郎がYKKで政権を作ろうとした場合です。つまり、「民主党(57)+YKK(43)+参議院クラブ(12)+社民党(13)+自由連合(4)」=129で過半数クリア、という計算が成立します。すなわちYKKが集団脱走すれば、衆参での与野党逆転は可能になる。鍵を握るのは小泉氏の動向ということになります。
〇逆に自民党側から考えても、「ポスト森は国民的人気の高い小泉を」という思惑が働きそうです。小泉首班指名となれば、「小渕=森=亀井」の主流派連合体制も崩れません。このように考えてみると、総選挙の結果がどっちに転ぶにしても、7月に行われる特別国会では小泉首相誕生の可能性は無視できませんね。
<6月16日>(金)
○今週の週刊宝石で、「田原総一朗VS小泉純一郎」の対談を掲載しています。昨日、「小泉首班説」を唱えたのが気になって、久々に買ってみました。
〇田原氏いわく。「近く自民党の総裁選挙があると思う。小泉さんは『そんなことない』と言いたいだろうけど、ありますよ。そして、自民党は誰かを選びます。この<誰か>は間違いなく小泉さんではない(笑い)。でも、自民党総裁に選ばれなくても、首班指名には出てほしい。出れば、間違いなく民主党をはじめ野党は小泉さんに入れます」(p216)。
〇小泉氏が「政党を替えるつもりはない」と応じると、今度は「替えなくていい。自民党のままでいいんです。自民党のままで首班指名に出る。要するに、従来の枠組みを壊すわけ」とさらにけしかけている。小泉氏は、出るとも出ないともいわず、適当に受け流している。兄貴分が総理なんだから、これは当然ですな。
〇なるほど、田原氏も「YKK+民主党」政権を考えているんですね。総選挙後に想定される無数のチョイスとしては、これがいちばん魅力的なシナリオだという気がします(もちろんあくまでも相対的に、ということですよ、お忘れなく)。昨日発見した通り、YKK+民主党なら参議院で合計100議席が確定しており、多数派工作がわりあいに楽です。それでたとえば、小泉首相、鳩山蔵相兼副首相、加藤外相、山崎幹事長みたいな内閣を作る。ちょっとフレッシュな感じがするでしょ。
〇しかし小泉氏がそんな素振りを見せはじめたら、とたんにあの人が態度を豹変させて迫ってくる可能性がありますな。公明党に素早く因果を言い含め、返す刀で「小泉さん、あなたを自民党の総裁に」と。野中さんて、それくらいのことはやりそうですぞ。最近は元気がないという噂もありますが。
<6月17日>(土)
○本日は気分を変えて南北首脳会談のお話などを。あらかじめ断っておきますが、以下に述べる見方はいわゆる「冷戦型思考」です。しかし、誰よりも「冷戦型思考」で行動してきたのは、ほかならぬ北朝鮮なので、おそらく真相はこんなところであろうと思います。
〇北朝鮮は従来、米国のみを交渉相手とし、韓国や日本は「カイライ政権」なので相手にせず、という態度を取ってきました。それが今回は金大中大統領をイコール・パートナーと認めた。なぜ方針を変えたのか。突然、金正日が心を入れ替えるわけはなし。飢餓の問題は一時期に比べて改善しているようなので、せっぱ詰まっているようにも思われない。
〇北朝鮮は98年までは好き放題をやってきました。核開発、日本人拉致、航空テロ、偽ドル製造、ミサイル・麻薬輸出などなど、まさにRogue countryという感じでした。きわめつけは98年8月のテポドン発射でしたが、これで温厚な日本国民がキレてしまった。外務省はもうKEDOには協力しないと言った。海外は、「あの国がねえ」という意外な印象を受けた。
〇その年の秋、金大中の訪日によって、日韓関係が劇的に改善した。年末には「日韓自由貿易圏構想」が浮上して両国間で検討され始めた。安全保障面でも、日韓の協力が急速に進んだ。実はこの少し前から、日韓の防衛関係者の非公式な交流が始まっていて、相互の信頼は高まっていた。詳しくは、ここをご参照ください。(岡崎研究所のKJシャトル)
〇日米安保条約と米韓安保条約により、日本と米国、米国と韓国はそれぞれ軍事同盟の関係がある。ところが日韓間は歴史的なタブーがあり、連携がほとんど行われていなかった。ところが日韓共同演習などの防衛協力が実際に始まってみると、日米韓のトライアングルが一気に強力になった。99年9月のAPECオークランド会議では、三角形のテーブルを挟んで日米韓の共同首脳会談が実施され、北朝鮮問題が協議された。金正日は「これはまずい」と思っただろう。
〇さらに追い討ちをかけたのが、99年11月のAPECプラス3の際に行われた「日中韓首脳会談」である。それほど中身のある話をしたわけではないが、これも外交的には強力なゼスチュアになった。つまり日韓が一枚岩になり、中国とも協議するようになったことを意味したのである。北朝鮮の外交的孤立はここに極まった。
〇今回、北朝鮮が南北首脳会談を受けたのは、いわば日米韓のVirtual Allianceに対して、切り崩しを図っているようなものだ。韓国を喜ばせて、なるべく日米の影響力を排除しようという狙いがあるのだと思う。これで韓国が、「南北の手による自立的な統一」を目指すようになり、ついでに反米、反日的になったら、北朝鮮の狙い通りになる。日米の後ろ盾がない韓国は、北朝鮮にとってはちっとも恐くない。そのへんの力関係は、金大中はたぶん冷静に認識しているだろう。
〇金正日が姿を現して意外な外交上手ぶりを見せたために、「なーんだ話せるやつではないか」という認識が広まっている。ただし東アジアの冷戦構造は健在だ。欧州情勢にたとえていえば、マルタ会談でゴルバチョフが魅力を振り撒いていた頃に相当するのではないか。これから先も大荒れに荒れると考えておいた方が無難でしょう。
<6月18日>(日)
○再び選挙の話に戻る。テレビを見ていると各政党のCMが入ります。若干の感想などを。
〇自民党。まあこんなもんでしょうな。それにしても「景気回復」はいいんですが、「働く女性を支援」というのはうそ臭いですな。「女は家庭に」みたいな思考がいちばん多いのは、自民党のセンセイ方だと思うぞ。本気で働く女性を支援するつもりがあるなら、なんで男女別姓法案がいまだに成立しないのか。治安とか教育とか、もう少し違うテーマにしておいた方が良かったんじゃないの。
〇民主党。映像的には上手に仕上がっている。理屈をこねないのが正解。野党第一党とは、実力以上の結果を出せる有利な立場である。かつての日本社会党がそうだったように、与党を批判さえしていればそこそこ票は集まるのだ。「冗談ではない」とうそぶく鳩山代表の迫力が乏しいのが難か。
〇自由党。おそらくはいちばん上手なCMではないか。小沢さんが殴られる映像は、特殊撮影だとのこと。「日本一新」というフレーズも、この党らしくてマル。この調子だと、そこそこ比例代表で善戦するのではないでしょうか。
〇社民党。噂には聞いているがまだ見ていない。この党もおたかさんの政党になりきってますね。しかし「憲法9条を守れ」というより、「女性の味方は社民党」とでも言っておいた方が良かったと思うぞ。あんまり憲法の話をすると、野党連立を組むときに困るではないか。
〇ここで取り上げない政党は、あんまり言及したくないもので、支持者の方には恐縮ですが失礼します。あしからず。
<6月19日>(月)
○証券会社勤務で、情報通のT氏が退院したので、お見舞いがてら訪ねてみた。治療の成果がないといっていたが、会ってみれば元気である。少し安心し、いつも通り内外の情勢について意見交換。そこにT氏友人のジャーナリスト諸氏も加わって、にぎやかな一座となった。
「皇太后に続いて竹下氏も亡くなりましたね。これは選挙にはどう影響するんでしょう」
「自民党にとっては追い風でしょうね。意外と反応も悪くないみたいだし」
「そういうもんですかね」
「少なくとも、記帳に並んだ人たちを見たあとは、『神の国』論争がやりにくくなりましたね」
「それは納得」
「先週末、『皇太后のご逝去に際し、自民党は選挙運動を自粛します』といえればカッコ良かったのに」
「あはは、それができるほど勇気があればねえ」
「ところで竹下さんのお葬式はいつやるんですか」
「明日、やるみたいですよ」
「ほほう、それじゃ選挙運動が一日止まりますな」
「95年の参議院選挙のときも、当時の河野総裁の奥さんが亡くなられて、葬式をやりましたよね。自民党の候補者が全員小田原に集まった。野中はあれで選挙戦を一日損した、河野は駄目だと怒って、次の総裁選では橋龍を担いだ、って本のなかに書いてますけど」
「今度の場合は野中はどう言うんだろうね。竹下さんは別格なのかな」
「今日も竹下邸は先客万来でしょうね。玄関で下足番してたら、誰がいつ来て誰と話したかが分かって面白いかも」
〇今日のお昼に聞いた三和総研のエコノミスト、嶋中氏の講演も勉強になった。嶋中氏は目下、弱気派の筆頭。今日の話では、「2000年度成長率0.5%、2001年度0.0%」との見通し。米国は大幅調整必至、円高ドル安、鉱工業生産はそろそろ頭打ち、とのこと。それから「今年はエルニーニョで冷夏になる可能性があります」という点に関心を持った。
〇質疑応答の場面で、「今年の景気は1993年のパターンを踏襲していませんか?」と尋ねてみた。つまり、「政府は景気回復宣言したけど」、「総選挙で政治は昏迷」「おりから円高も進み」「とどめは冷夏で景気が腰折れ」というシナリオである。嶋中氏の回答は、「93年は10月に景気が底打ちし、立ち直りが早かったけれども、今年の場合は8月くらいがピークになって2001年になっても下落が続くかもしれない。今年の方が問題が深刻」とのこと。とくにゼロ金利政策解除の可能性を非常に懸念していた。
〇日本経済はたしかに99年夏までは、正しい回復路線に乗っていたと思う。秋の自自公連立あたりからおかしくなってきて、今年の春からはネットバブル崩壊→有珠山噴火→小渕前首相倒れる→後継森首相の問題発言→日経平均の銘柄入れ替え問題→株安→解散・総選挙→小渕、梶山、竹下など小渕派首脳の死去、とリスクの連鎖に火が点いてきた。この先に待ち受けているのは、おそらく楽しからざる話だという気がする。
〇自分より賢い人たちに会って意見を聞く。今日は有意義な一日。
<6月20日>(火)
○今朝の朝刊を見たら、朝日、読売、毎日、日経の4紙すべての一面に「安定多数」の文字が踊っている。投票日まであと5日、選挙戦終盤の情勢は自民党、自公保連立に有利に展開している。あいかわらず森首相の人気はないけれども、投票するなら自民党、ということでしょうか。考えてみたら、ここ数日は「南北首脳会談」「皇太后」「モナザイト」「竹下さん」「ナスダック」などとニュースが多く、森さんが全然テレビに出ていない。「森隠し」は順調なようだ。
〇共産、公明が苦戦しているようだ。この2つの政党はいわゆる「拒否政党」。固定した支持者がいる一方で、「あの党だけはイヤだ」と思っている人も多い。現代選挙では不利な条件である。とくに公明党は、これまで与党で選挙を戦ったことがない。非常にやりにくそう。
〇6月15日に「参議院で過半数を取る組み合わせの計算」をご紹介しました。好評でしたが、「あの組み合わせはには無理があるよ。おかげでやっぱり自公保しかないとよく分かった」という指摘を頂戴しました。いわれてみれば、たしかにYKKと小沢一郎と土井たか子が連立するのは苦労しそうですな。ま、これも一種の「補助線」というやつで、政治の世界は"Never say never."「自社さ」のときだってびっくりしたじゃありませんか。
〇まだ4割の有権者は態度未定です。この先に何が待ち構えているのか。選挙はホント、当日になってみないと分かりませんからね。
<6月21日>(水)
○納得が行かないので、マスコミの選挙予想の生データを入手してみました。現在、筆者の手元には3社分の調査結果があります。門外不出とはいうものの、そこは蛇の道は何とやら。露骨に公開するとさすがに問題になりそうなので、ごく一部だけをご披露します。なにしろ「かんべえの溜池通信」は、最近は1日100件以上のアクセスがありますので。
○3社のデータを比べてみる。筆者が住む千葉X区は、自民党現職に民主党前職が挑んでいる激戦区。現職vs前職は、それぞれ「41%対30%」「42%対34%」「39%対39%」となっている。3社の見解はほぼ一致しており、現職が0〜10%程度リードしている。とはいえ、当日の投票率次第ではワンチャンスで逆転する程度の差に過ぎない。
○筆者の友人O候補(民主党)は、大阪X区で現職(保守党)に挑んでいる。現職vsO候補のオッズは「36%対32%」「27%対33%」「41%対27%」となった。どっちが勝つかは3社で見方が違う。つまり超激戦ということか。
○かつて筆者と同じ職場で働いていたS候補(自民党)は、東京X区で現職(民主党)に挑んでいる。現職vsS候補のオッズは「34%対31%」、「34%対36%」、「33%対32%」となっている。これなんか文字どおりの大接戦だ。おそらく調査結果は毎日変化していることだろう。
○上記の3つの例はいずれも都市部である。眼を地方に転じてみると、「79%」(熊本X区)だの「73%」(山形X区)などという無風選挙区がある。これでは何の苦労もない。自共決戦の某選挙区では「82%」などというスゴイ数字が出ている。こうなれば楽なもので、つくづく政治家はいい職業ですなと、嫌味のひとつも言いたくなる。
○結局、激戦を展開しているのは都市部ばかりで、地方では現職が悠々当選という図式が見えてくる。これらのデータを総合すると、「与党が安定多数」という調査結果が出る。うーん、だんだん腹が立ってきたぞ。都市と地方で1票に格差があるというのは、本当にけしからん話ではないか。こうなると有権者が本当の意味で意思表示できるのは、比例代表だということになる。
○やっぱり無党派層は家で寝ていてはいけません。結論:6月25日はちゃんと投票に行きましょう。
〇実は6月25日には、この春最後のG1レース、宝塚記念が行われる。これがまた有力馬勢揃いで、棄権するには惜しい名勝負が期待できます。筆者が狙っている勝馬投票権は、「グラスワンダーとステイゴールドのワイド」。え?筋が悪すぎる?(←この人、テイエムオペラオーは切るといってます)。
<6月22日>(木)
○最近はあまり使われなくなった表現ですが、「独自の戦い」という言葉があります。マラソンにたとえると、トップや記録を目指している人に混じって、完走することが目標だったり、「あいつにだけは負けたくない」と思って参加している人がいます。選挙も同じことで、当選はもちろんおぼつかないし、供託金を没収されるかもしれないけど、とにかく立候補してみる人がいる。こういうのを独自の戦いと呼ぶ。意味するところは「勝ち目のない戦い」です。
〇人が選挙に出る理由には、党勢の維持拡大を図るとか、取りあえず知名度を高めたいとか、あるいは自分が世の中に向かって何かを訴えたいとか、いろんなケースが考えられる。民主主義の世の中においては、こういうチャレンジャーが登場することは大いに望ましいことで、いわゆる泡沫候補を一概に否定する必要はありません。政党の資格要件が難しくなったので、雑民党やUFO党は見かけなくなりましたが、それでも全国を見渡すと勇気ある個人は少なくありません。
〇これまで東京都知事選、大阪府知事選の立候補者に名を連ね、すでにその名は全国区になっている羽柴誠三秀吉さん(無所属、会社社長、50歳)は、今回は大阪1区で挑戦中。現職の運輸総括次官、中馬弘毅氏が優勢に選挙戦を展開するのに対し、独自の戦い。
〇珍名ということならば、熊本5区で立候補している吉永二千六百年さん(自由党、病院理事、59歳)が存在感抜群。察するに1940年の「紀元2600年」にお生まれになった様子。自民党の現職矢上雅義氏や無所属新人の金子恭之氏など、7人の候補者が立つ中で独自の戦い。
〇千葉10区で独自の戦いをしているのが林秋男さん(無所属、運輸業、47歳)。この選挙区は、自民党現職の林幹雄氏が圧倒的に強い。ハヤシミキオとハヤシアキオの1字違いなので、間違える有権者は少なくないだろう。おそらく「林」とだけ書いてある票は、2人で分け合うことになる。開票所はたいへんだ。
〇山形県の4つの選挙区では12人が立候補しているが、遠藤さんが2人、佐藤さんが2人、加藤さんが1人、近藤さんが1人、斉藤さんが1人、工藤さんが1人。名前に藤がつかないのは4人だけ。山形県に藤のつく名前が多いのは、皆さんが奥州藤原家の流れを汲んでおられるのでしょうか。共産党から出馬の佐藤亜希子さん(党地区委員、25歳)、工藤美恵子さん(党地区委員、46歳)、佐藤雅之さん(党県委員、27歳)などが、独自の戦いを展開中。
〇このところ筆者は睡眠不足。仕事したり遊んだりしながら、こんなHPを作っているのでいくら時間があっても足りません。アクセス件数が増えたので、当「不規則発言」も休みにくく感じられてしまって。「何のためにここまで苦労するのか」と思いつつ、こういうのも独自の戦いというのでしょうか。
<6月23日>(金)
○大阪のI記者が、「鎧を着て旗指物を背負って、商店街を練り歩く羽柴候補を見た」と言っていました。さすが「独自の戦い」は一味違います。ま、それはさておきまして。
〇アクセス数が1万5000を突破。1万突破が4月23日なので、ちょうど2ヶ月で5000件増えたことになります。すごいなあ。うれしいというより、ちょっとしたプレッシャーを感じてしまいます。今月に入ってから急に増えたような気がします。皆さん、どんなふうに当HPを「発見」しておられるのでしょうか。お馴染みさんで「毎日見ているよ」と言ってくださる方も確実に増えているのですが。
〇選挙戦は明日1日を残すのみ。当「不規則発言」でも、そろそろ選挙ネタに疲れてきた気分。ここまで来るともう分析はどうでもいいから、早く結果を知りたいという感じですね。その前にちゃんと投票に行かなければなりませんが。
<6月24日>(土)
○今度の選挙では「首相公選制」を求める声をよく聞いた。首相公選制というからには憲法を変えなければならず、それがどんなに大変なことか(衆参の3分の2、国民投票の過半数)は皆さんご存知のはずなのに、よくまあ大胆なことをいわはるなぁ、とかねがね感じております。
〇首相公選制の待望論は、「自分たちの手で首相を選べない」もどかしさから来るのでしょう。たしかに平成になってから、そういうことが多すぎた。9人の首相を、正しい順序でいえる人はどれだけいるでしょう。でも議院内閣制とは本来、そういうものなのです。91年に英国でサッチャーが辞任したとき、保守党がメージャーを選んで次の首相にした。97年にニュージーランドでは、ボルジャー首相を党内クーデターで追い出し、シップレー首相が誕生した。いずれも国民の審判を得ていない。議院内閣制の国では、どうしてもこういうケースが生じることがある。
〇「それにしたって、日本の場合は首相の交代が多すぎるじゃないか」――まぁ、お気持ちは分かりますがね。日本の場合、政党の党首に党内リーダーシップがない場合が多い。今の英国でいえば、労働党の議員のかなりの部分が、ブレア人気のおかげで当選している。これでは党首には逆らえない。議院内閣制がまっとうに機能するためには、「議員が党首のいうことをちゃんと聞く」という、当たり前のことが前提になる。その点、日本という国は、推古天皇の昔から権力の二重構造が生じやすい国ですから・・・・・。
〇日本で首相公選制を入れた場合、地方の知事選のようなスゴイ相乗り選挙になるでしょうね。「自民、公明、保守、民主、自由、社民党が推す無所属のA候補が、共産党公認のB候補を破って当選」みたいな結果になるでしょう。今だったら石原慎太郎あたりが首相かな。では、そういう首相が議会対策をできるかというとこれが問題である。
〇「直接選挙の米国大統領と、間接選挙の英国首相はどっちの権力が強いか」――世間のイメージとは違って、実は圧倒的に後者なんです。前者は立法府のコントロールがすごく難しくなる。日本の場合でも、竹下首相や小渕首相のように党内最大派閥を率いている政権は、強力な権力基盤を有している(そうでない人が首相になるのが問題なんです!)。
〇イスラエルが1996年の選挙から首相公選制を入れた。そしたらネタニヤフという、若くて口のうまい男が首相になった。ところが彼の政党であるリクードは過半数を取ることができず、しかも党内のうるさ型はまるで彼の言うことを聞かなかった。その結果どうなったか。イスラエルの政治は停滞し、中東和平は3年間止まってしまった。日本が首相公選制を入れると、おそらくこれに近いことになると思う。
〇それでは皆さん、明日は選挙に行きましょう。天気は悪そうですけどね。
<6月25日>(日)
○午前はNHK杯将棋トーナメントを見る。田村四段の中飛車に対し、米長永世棋聖が自陣を居飛車穴熊に固めて、無理筋に見える仕掛けをする。まぁ、ヨネさんのことだから何とかなるのかと思ったら、見事に差し切り。逆襲を受けると今度は一転してクソ粘り。最後は見せ場を作る機会もなく投了。おいおい、どうしちゃったの?
〇午後は宝塚記念。今年の上半期G1レースの集大成で有力馬が目白押し。一番人気は天皇賞を制したテイエムオペラオー。これに挑むは復活をかけるグラスワンダー。見ればグラスの馬体がやけに良く見える。井崎さんも「右回りレースでは5連勝負けなし」と太鼓判を押す。予想通りのレース展開で、第4コーナーを回った時点で絶好の位置につける。・・・・でも伸びない。どうしたんだ。テイエムが悠々ゴール。競ってほしかったなぁ。
〇夜は選挙速報を楽しもうと思って、つまみの類を買い込んできましたが、投票率も低いみたいだし、あんまりいい勝負は期待できませんね。それでは皆さん、また明日。
<6月26日>(月)
○昨晩は午前2時半まで頑張ってしまいました。選挙速報はなぜあんなに楽しいんでしょう。ということで今朝は眠いです。以下、選挙結果について思ったことをご披露します。
@野中幹事長が掲げた「229」という勝敗ラインの意味について。「前回の獲得議席から10を引く」という積算根拠は、一見筋が通っているように見えたけれども、現職の自民党議員は267人もいて、その全員が後援会組織を持っていた。「229人でいいです」という目標設定は、「38人までは落ちても構いません」と言ったに等しい。実際、今日になって「233議席」という結果が出てみると、あらら大物がゾロゾロと討死にしている。これで自民党議員が永田町に集結してみると、「やっぱり俺たちは負けたんだなあ」という実感が湧いてくるだろう。やや時間を置いて、自民党執行部に対する恨みが噴出するのではないか。
A自公保連立について。1993年に細川政権が誕生し、自民党が政権の座を降りた。94年に村山政権が誕生し、自社さの連立が始まった。96年に橋本政権が誕生し、自民党が政権党に返り咲いた。以来、自民党は連立する相手をどんどん替えることで政権を維持している。連立した相手は、社会党、さきがけ、自由党(分裂前)、公明党。いずれも自民党と連立したことで、勢力を減らして崩壊寸前になっている。与党の一角に入るのはたしかに魅力的なのだが、「自民党と組むとズタズタにされる」とそろそろ気がつかなければならない。公明党、保守党の首脳はともかく、支持者はとっくに気づいている。とくに某宗教団体は。
B森首相も野中幹事長も、この結果なら首はつながる。しかし世論のムードが暖かくなったわけではない。7月4日に特別国会を開き、首班指名をして内閣改造を行ったら、さっそく始まるのは支持率調査だ。内閣の顔ぶれ次第では悲惨な数字が出てしまう。「第2次森内閣、支持率はXX%」という記事が、サミット前に飛び出す。「公明、保守の党首にも入閣してもらおう」などと間抜けなことをいっていると、10%割れで大騒ぎになってしまうのではないか。
Cこうやって考えてみると、第2次森内閣は「神に祝福されない」政権になる可能性が大である。なにより、自民党は衆参ともに過半数割れしてしまった。どう見たって第1次森内閣よりパワーダウンする。重ねて森首相の失言が続くようなら、ますます救いはない。そこで誰でも考えることは、「来年7月は衆参ダブル選挙かな」。そうなると自民党内で、「またあいつを担いで戦うのか」という厭戦ムードが生じる。どっちにしろ、森内閣は短命になると見る。
Dそこで森政権は、「景気はまだ安心できない」「回復を軌道に乗せなければ」と訴えるだろう。公明党への気配りも必要だ。これで「秋の補正予算編成」の確率は高まったと見る。消費税を上げるどころの騒ぎではない。つまり経済政策は、構造改革よりも成長率重視となろう。株式市場にとってはこれはいいニュースであるはず。ところが今日の株価は上げなかった。森政権の実行力をあんまり当てにしていないということだろうか。
〇今朝は電話やメールでいろんな人と意見交換をした。日興ソロモン・スミスバーニーのジェフ・ヤング氏が、選挙結果について5pものの分析記事を書いたのを送ってくれた。結論は、「市場には大きな影響なし。森政権の景気重視路線により、円は中期で買い、債券は弱含み」とのこと。「えーっ、いつの間にこんなの書いたの?」と本人に聞いたら、今朝の午前2時に書き終えましたとのこと。選挙結果のシミュレーションは、かなり前からできていたらしい。やるなあ、脱帽です。恐れ入りました。
〇かんべえの友人、大谷信盛君(大阪9区、民主党)は見事当選です。おめでとう。選挙分析は、とりあえず今日はここまで。
<6月27日>(火)
○筆者は別に選挙のことばかり考えているわけではなくて、昼間はそれなりに会社の仕事もしているわけで、最近の別の関心事についてお話します。
〇実は知人友人たちが数多くベンチャー企業を始めております。なかには「へー、あの人が」と思うような人も少なくない。業種的にはほとんどがIT関連である。どうも世の中のそこら中がそうなっているようだ。筆者自身は会社を興そうとか、未公開株で一山当てようとはあんまり思わない人なのだが、さすがに気になってきた。
〇別に深い根拠はないんだが、ベンチャーにおいてはアイデアなんて、実はそれほど重要ではなくて、経営者の資質でほとんどが決まるんじゃないかと思っている。というか、誰が成功して誰が失敗するかは、最初からある程度決まっているのではないかと。最近はテレビCMまでもが、E-コマースが切り開く無限の未来だの、最強のビジネスモデルがどーたらこーたら言うが、あんなのは単なる世迷いごとだと思う。
〇ビジネスモデルなんてものは、別段、革新的だったり合理的である必要はないんじゃないか。アイデア自体は陳腐であっても、経営者がものすごく真剣だったり、不思議に迫力があって人を信じさせる力があればそれで十分なんだと思う。松下幸之助の言ったことなんて、ほとんどがその世界だ。ITビジネスだって、根本的なところは一緒だろう。
〇上のような考察は、いやしくも「ビジネス戦略研究所」という看板を背負った人間が言うとひんしゅくを買いそうである。それでも筆者は、こういう世界観でベンチャーを分析することは十分に可能だと思う。すなわち、「所詮は人」。技術やアイデアに目を奪われると、かえって分からなくなるし、かえっていいカモにされてしまうかも。
〇久々に新しい話題にふってみましたので、書いていて自分でも新鮮な感じ。反論があったらお待ちしていますよ。
<6月28日>(水)
○いやー恐かった恐かった。接触が悪くなったらしく、自宅のパソコンのスイッチが入らない。PCなんて、電源がなければただの産業廃棄物である。中のデータも取り出せず、なによりHPの更新ができなくなるのが痛い。頭を抱えていたところへ配偶者が帰宅。しばらくガチャガチャやったところ、驚くべし、直してしまった。恐れ入りました。
〇考えてみればこの機械は98年春から使い続けている。出張にも何度も持っていった。カバンごと落としたこともあるし、機体には割れ目までできている。1GBしかないから空き容量も減った。これはいよいよ決意しなければなりません。新しいPCを買います。でないと「かんべえの溜池通信」が危ない。
〇と、みずからを鼓舞したところで、急速に憂鬱になってきました。かんべえは基本的にものぐさで、流行に鈍感で、物欲が乏しい人間です。本以外の買い物に時間をかけるのは苦手です。たとえ高額商品でも、時間をかけて決めたという覚えがありません。クルマは親切なトヨタの方に、ほとんど強制的に買わされました。今住んでいる家は、2軒目に見た物件を買ってしまいました(もちろん3軒目は見ていない)。だましてモノを売りつけるには好適なカモといえましょう(念のため、家とクルマはどちらもいい買い物でした)。
〇こういう人間ですから、PCだって「エイ、ヤア」で決めるしかありません。幸い技術的な知識は乏しいし、後で悔しがることもなさそうなので、なるべくパッと決めてしまうつもりです。こうやってわざわざ宣言するのも、そうしないとなかなか行動に移らないずぼらな人間だから。本人を見かけたら、「PC何買ったの?」とプレッシャーをかけてください。お願いします。
<6月29日>(木)
○なんだか今週はグルメな昼ご飯が続いています。
〇月曜は同期のYさんと和風イタリアン「和伊之介」へ。最近の溜池山王界隈では、いちばん長い行列ができる店である。こざっぱりした店内、低料金、すばやい対応、絞り込んだメニューと、成功する店の条件をほとんど満たしている。確信犯的なシステムに感心しばし。
〇火曜はコンサルタントのN氏とフランス料理「ラ・カンパーニュ」へ。日曜夕方の「料理バンザイ」の「たまにいくならこんな店」にも出てしまい、要予約になってしまった。最近のベンチャービジネスなどについて話し合う。有益。
〇水曜は政治家秘書のE氏とキャピタル東急の「オリガミ」で。ここの昼時は永田町関係者がむちゃくちゃ多い。E氏のボスは自民党の大物議員だが、このたび武運つたなく落選となった。E氏は「まぁ、いい潮時さ」と恬淡としており、これから始める新会社の構想に余念がない。人脈ゆたかなE氏のことゆえ、面白い事業を立ち上げるのではないか。
〇本日木曜はワシントンから出張してきたP氏と「佳川」へ。料亭もどきだが、昼は1000円の定食で個室が使えたりするお値打ちの店。P氏はシンクタンクをやっているかたわら、最近はITビジネスにも手を染めている。煮魚の汁をご飯にかけてかき込むあたりは、並みのアメリカ人ではない。いつもどおり「欧州に対抗すべく日米は連携を」という持論を展開して帰る。
〇明日金曜のお昼はとくに予定がありません。ご近所にお勤めの方、よかったらご一緒にどうですか。その場合は明日の午前中にご連絡をください。そのかわり割り勘ですよ。
<6月30日>(金)
○昨日あんなことを書いたら、さっそく新聞記者のH氏から「もうお昼は決まりました?」のお電話。待ってました、というわけでご一緒に中華の離宮へ。この店、赤坂では有名店だが、しょっちゅうつぶれたという噂が流れる。それでもしっかり点心ランチをいただきました。店も繁盛していました。
〇などと優雅な1週間だったように思われるかもしれませんが、たしかにそういう感は否めず、そのかわり来週はえらい1週間になりそうです。なんだか午後から風邪気味になったりして、先が思いやられます。今週末は取り急ぎ「日米関係」と「ビジネスモデル特許」の勉強をしなければなりません。来週は勉強会の講師も引き受けちゃったし。楽あれば苦あり。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki