●かんべえの不規則発言



2006年9月







<9月1日>(金)

〇昔お世話になった会社のOBのKさんが亡くなられたので、ご自宅まで参上する。田園都市線の藤が丘の住宅街で、ちょっと遠かった。Kさんは白血病で入院されていて、何度も危ぶまれたところ、そのたびに持ちこたえて医師も驚いたほどであったそうだが、8月31日夜に万事休したとのこと。思えばブルネイ、タイ、ベトナム、ニュージーランドと、何度も海外出張のお供をした。お世話になりましたと念じつつ、枕元でご焼香する。

〇ご家族の方から、「吉崎さんがサンプロに出ているのを見て、喜んでましたよ」と聞き、ありがたいことだと思う一方で、待てよ、たしか先週分では、ワシは「商社には経営者なんていなかった」みたいなことを口走ったけれども、ひょっとして聞かれちゃったか。お茶飲んでたら、吹いたかもしれんな、などと気づいて、後から焦る。許してくれるとは思うけど。あらためて合掌。

〇どうでもいいことだが、田園都市線はその昔、宮前平に住んでいた頃に通勤で通った路線なのだが、現在使っている千代田線(or常磐線)とは非常に芸風が違う。TXが通ってからの千代田線は空いているので、最近は5割以上の確率で座れてしまうほど快適である。ところが田園都市線は昔と同じように混んでいる。しかも女性が多いので、「痴漢の冤罪」に遭わないかなどと妙なことが気になり、ついつい両手を上に挙げて自己防衛したりする。これが夜の常磐線ともなると、オヤジと酔っ払いは多いのだが、その手の危険は感じたことがないので、これは路線のカルチャーというものか。

〇ふと気がつくと、二子玉川の高島屋の車内つり宣伝広告が妙にお洒落であった。タータンチェックに身を固めた外人女性をビジュアルにして、「なんとかオータム」というコピーがついている。これが柏の高島屋であれば、「9月1日からセール」と直球で攻めるだろう。こういうところも、路線の違いというものか。結果論かもしれないけれど、どうも自分には千葉県の風土が向いているような気がする。


<9月2〜3日>(土〜日)

〇自民党総裁選挙。ブロック会議について、テレビなどの報道は通り一遍ですので、こういう情報源がお役立ちです。

北陸・信越ブロック大会(情報源:たむたむの自民党vs民主党)

〇たむたむさんのブログは移転していたのですね。おめでとうございます。「翌日、プロレスの引退試合をひかえた馳浩衆院議員の元気の良い発声で「ガンバロー」を三唱し、大会を締めくくりました」なーんてのが、臨場感がありますね。

〇どうでもいいことですが、ここで映っている富山城はとっても立派に見えますけど、実物はとってもshabbyです。地元出身の者には、なんだか面映く見えてしまいます。くれぐれも、あれを見に行こうなどと思われませぬように。

北海道ブロック大会(情報源:副会長だより)

〇下記のまとめがとっても分かりやすい。お見事であります。

麻生さん→小泉路線をほとんど変えない
谷垣さん→小泉路線を事実上変える
安倍さん→小泉路線とは別の事をやる

四国ブロック大会(情報源:さくらの永田町通信)

〇文字通りの労作で、3候補の政権構想をテキスト起こししてもらっています。ありがたいですね。これが例えばテレビの報道だと、「麻生さんはサザエさんがどうのこうのと言ってました」という部分しか伝わらない。どういう文脈で「サザエさん」が出てきたのか、これを読むと「なるほど!」と思えます。

〇ということで、さくらさん、九州ブロックの報道もひとつお願いします。


<9月4日>(月)

〇「ルック@マーケット」の残党が集まるワクワク投資広場、その主要人物が集まる新橋・烏森の「はづき」が、今日で開店1周年を迎えたということで、かんべえもお祝いに参上する。

〇うっちーさんとは随分、お久しぶりでありました。BSジャパンにおける、うっちーさんの厳しいシゴキに耐えたお陰で、今日のかんべえがありまする。その節はありがとうございました。リチャード大家さまをはじめ、個人投資家の皆さま、一層の繁栄をお祈り申し上げます。

〇さて、本日、もっとも感動したのが「くどい太めの納豆売り」というカラオケでありました。あのフリオ・イグレシアスの名曲「黒い瞳のナタリー」が、いきなり秋田弁に化けてしまうのですから、これはもう脱帽するしかありません。これはもう「のまネコ」もビックリ。ここであの歌詞を再現できないのがまことに残念であります。(追記:リンク先から「HMV」に飛ぶと視聴できますよ。お試しあれ)

〇最後に業務連絡です。釧路在住の霧さま。どうもありがとうございました。感謝感激であります。


<9月5日>(火)

〇昨晩は飲みすぎました。昨日の不規則発言は酩酊状態で書きました。3時間ほど寝て、おっと目が醒めたら今日は資源ゴミの日だ。大量の空き缶やら新聞雑誌やらを捨てながら、おおお、今日のワシは二日酔だ、と気づく。仕事にならん。それに今日のワシは息が臭いかもしれない。人と会うのに、弱ったのう。ということで、気は心というやつで、駅でフラボノガムを買ってみる。実は弱気な一日だったりする。

〇テレビ朝日のAさんとランチ。安倍さんはあと2週間でボロが出なければ勝ちという状況だけど、小泉首相が引っ込んだ瞬間に「安倍さんで大丈夫?」というムードになるんじゃないかと。なるほど、それってありそう。その辺の呼吸が分かっているからこそ、安倍さんは正式の出馬声明を遅らせたのかもしれない。

〇それでは、小泉さんはなぜ安倍さんを後継ぎにしようとしているのか。深い根拠があるわけではないのだけれど、おそらく訪朝したときに、安倍さんが「もう帰りましょう」と進言してくれたことを、多としているからじゃないだろうか。5年半の任期のうちで、あそこが一番の難所であっただろうし、実際にあそこで下手を打っていれば、小泉政権は帰国後すぐに瓦解していただろう。

〇午後に某誌の取材。この秋、どういう特集を組むかがとっても悩ましいらしい。論壇誌だったらともかく、経済誌はもう格差社会論じゃ持たないよね、という感じになってきている。とりあえず今は、エネルギー資源問題あたりが無難な線なのだが、大きなテーマが見当たらない。足下は良くなっているのだけれど、それほどハッキリしているわけではない。株もぱっとしないし・・・とのこと。なるほど、そういわれてみると、ワシもまったく思いつかないな。

〇うーん、明日はしゃきっとしよう。福岡に行ってきます。


<9月6日>(水)

〇黒田官兵衛が作った町、福岡市に着ております。午後3時発のJAL便に乗り(またしてもマイレージを忘れてしまったぜ!!)、福岡空港についたのが4時45分。でもって、ホテルにチェックインして部屋に入ったのは5時15分前でした。ランディングからホテルまで30分以内。しかもタクシー代は1140円でした。これってあり得ない話だと思います。こんなに便利な街、世界中探したってないですよ。

〇それというのも、空港が駅から地下鉄で5分という信じがたい条件があるからで、この利便性はいくら強調してもし過ぎることはない。まあ、空港が街中にあるから、24時間運行が出来ないなんて贅沢な話もあるわけですが、そんなもん北九州空港を使えばよろし。とにかく、この福岡を拠点にすると、ソウルでも上海でも台北でも、いざとなれば日帰り出張が可能。オリンピック誘致は残念でしたけど、アジアの時代の拠点として、この地の利を使わないという手はありません。しかもですな、メシが美味くて、遊ぶところが一杯あって、言うことなしではありませんか。

〇それで今夜は午後6時半から、日経新聞西部支社主催の「時代を見る、動きを読む」という株式投資講演会に参加したわけであります。講演会とパネルディスカッションがあって、パネルの司会は日経CNBCのアンカー、中嶋健吉さんでありました。もうひとりのパネリストは地場の前田証券の今泉株式部長。でもって、3人でマーケットを語るというスタイルが、昔、日経CNBCでやっていた『マネー&ワールド』を髣髴とさせる感じで、とっても楽しんで話ができました。(お客の反応も悪くなかったような気がしました)。

〇テレビのコメンテーター業ということになりますと、かんべえが最初に呼んでもらったのはBSジャパンの『ルック@マーケット』でありました。一昨日も書いたばかりですが、ここで内山キャスターにしごかれたわけであります。なにしろ「うっちーさん」ときたら、番組の中では独裁専制君主もいいところ。生放送の本番3分前になって、その日のウォールストリートジャーナルをかんべえに渡し、「番組の冒頭で、何か面白い記事をひとつ紹介してくれない?」みたいなことを平気で言うわけです。「そんな無茶なあ」とか言いつつ、結果としてはそれに慣れちゃうわけですから、今から思えば当時の下積み経験は貴重だったかもしれません。

〇それが日経CNBCに呼ばれるようになると、これはこの世界における一種の「出世」なのでありますね。そうすると今度は、中嶋キャスターを相手にお話しするようになります。健吉っあんは紳士的で、「ほほー、ということは、日米の金利差が問題なわけですね?」などと相づちを打ってくるのですけれども、こちらが話す程度のことは実は全部お見通し。当方としては「何トボけてんの、ホントは全部分かってるくせに」と言いたくなるところですが、要するにふところの深い相手なので、『マネー&ワールド』で谷口智彦さんなんかと一緒に出た日には、30分間瞬時も気が抜けない真剣勝負でありました。

〇月日は流れ、最近ではテレビ朝日で田原総一朗氏に突っ込まれたりしてるわけですが、考えてみれば自分は恐るべきオヤジさんたちにしごかれてきたのだなぁ、と今になってハタと気づくわけです。(ホントは『ワールドビジネスサテライト』で小谷さんに突っ込まれたい、という気もするのでありますが)。

〇ちなみに本日のセミナーの内容は、強気一色という感じでありました。そりゃそうなんであります。だって今日はおめでたい日じゃありませんか。秋篠宮家に親王さまがお生まれになって、畏れ多くももったいなくも、なかなかに言いにくいこととはいえ、とにかくホッとしたというのが全国津々浦々の思いではありますまいか。日本という国が抱えていたリスクの一つが、きれいに自然な形で消え去ったわけですから。

〇ということでセミナー終了後、関係者一同で中州近辺で打ち上げを行い、12時近くなってホテルに帰還。明日は9時の飛行機で会社に戻るわけですが、肉体的なしんどさがほとんどない。こういう便利さが堪えられない。しみじみ、福岡ってスゴイよね。


<9月7日>(木)

〇「鹿児島県民は、誰でも身内を探すと政官界の大物が一人は見つかる。福岡県民は、芸能人が一人は見つかる」のだそうです。まあ、確かに福岡県出身の芸能人は多い。でも、最近は政治家もキャラが立ってますよね。麻生さんに山拓さんに古賀さんに大田さんなど。右から左まで色とりどりという感じです。

〇でもって、これが今話題の麻生太郎さんのフラッシュページ。

http://www.geocities.jp/project_p_plus/ 

〇今日の夕刊フジでも、「麻生ネットで大人気」とある。不思議なもので、麻生さんはネットと親和性が高いらしい。実際に麻生支持を打ち出しているブロガーって多いものね。

〇ところで藤田勉さんが、安倍政権の政策解説レポートや、安倍さんとの対談本を出すということで、ちょっとした業界内の顰蹙を買っているらしい。別に目くじらを立てるほどのことでもないと思うけどが、「推奨銘柄が載っている」というのはチトやり過ぎだろう。そうでなくても、安倍さんは脇が甘くて、妙な人物の出入りが多いといわれているのだから。

〇だったらワシはその向こうを張って、麻生さんと対談してみたいなー。でも、「経済政策のブレーンなんて、俺には不要だぜ」と、一撃の下に倒されてしまうかもしれないな。


<9月8日>(金)

〇藤田勉さんのレポートを落掌。これは長編大作でありますね。でも、面白い指摘はそれほど多くはないな。対談本の方はまだ見ておりません。しかるにこのタイミングで発表すると、どんないいことを書いても、安倍ファンによる「ヨイショ本」という見方をされてしまうでしょうな。

〇それでも、山崎元さんが言うほど、ひどくはないと思います。まあ、山崎さん一流のキツイ表現ではありますけれどもね。今日は自民党総裁選の告示日。しばらくはこの手の話題が続くのでありましょう。

〇麻生ファンのかんべえとしても、安倍総理誕生に異を唱えるつもりはありません。強いて言えば、若い総理大臣を選ぶときには、国民の側にも多少の失敗は大目に見て、長い目で育ててやろうくらいの度量が必要でありましょう。ないものねだりはいけません。


<9月9〜10日>(土〜日)

〇週末、ネット上のデータをいくつかチェックする。

〇先週金曜日に、景気ウォッチャー調査の8月分が出た。久々に現状判断DIが好転して50を超えている。6〜7月と50割れしていたのは、やっぱり天候不順が原因であったか。このデータを重視する者としては、ちょっとホッとするものがある。

http://www5.cao.go.jp/keizai3/2006/0908watcher/watcher1.pdf 

〇内容を見ると、沖縄がビックリするほどよくなっている。現状判断DIが7月50.6→8月58.8(+8.2)、先行き判断DIが7月47.6→8月53.1(+5.5)である。もともと沖縄のデータは他地域に比べて振幅が激しいのだが、1ヶ月でこれだけ動くというのもスゴイ。8月の観光需要がよっぽど伸びたと見える。案の定、コメント欄を読むと、「・家族客が増加傾向にあり、客室内の人数が増え、客室単価が上昇している。周辺のホテルもかなり好調に推移している」(観光型ホテル)とあった。本誌の8月29日分でも書いたとおり、沖縄は有効求人倍率も上がっています。

〇個人消費に今ひとつ火が点かない中にあって、観光の需要は強いようですね。久々にふところが暖かくなったときに、「そろそろクルマを買い換えようか」、というよりも、「この夏は沖縄にでも行ってみようか」となるらしい。まだまだ大きな買い物をするほど余裕はない、というのも分かるし、あるいはモノよりもサービス優先ということかもしれません。観光旅行は、「もう家の中が一杯だから買えない」ということがありませんので。

〇もうひとつ。日曜朝の定番、「報道2001」の今日の調査を見たら、安倍晋三49.8%、麻生太郎18.0%、谷垣禎一13.2%である。安倍さんが5割を割って、麻生さんが2位を固めている。よしよし、麻生さんには是非、「2位以上」を目指していただきたい。

〇ところで、この日の調査の最後の設問にワシはぶっ飛んでしまった。この調査は9月7日、すなわち秋篠宮家の親王様ご誕生の翌日に行なわれたものである。が、こういう結果である。

【問5】あなたは、女性・女系天皇を認めるように皇室典範を改正するべきだと思いますか。
YES 61.6%
NO 28.2%
(その他・わからない) 10.2%


〇本件に関するかんべえの意見は、以前から「女性・女系OK、改正賛成」である。でも、こんな風に男子が誕生したからには、日本古来の知恵に則って、この問題は先送りするのが妥当であると思う。日和見といえばその通りなんですが、これで改正不要とも言い切れず、かといって今すぐ改正を議論するのも味が悪い。「少なくとも今から40年ぐらい先の話でしょ」(麻生外相)というのは自然な発想だと思うのです。皇室は国民統合の象徴なんだから、「次の天皇をどうすべきか」で国論が分裂するというのはマズイです。

〇おそらく核家族化の影響で、国民の意識が「長子相続が当然」になっているのでしょうね。天皇家がそれでいいかというと、これは大いに議論の余地のあるところでありまして。これが30年後には、国民の意識はどんな風になっているのでしょうか。


<9月11日>(月)

〇今日であの日から5年目。アメリカ人のトラウマはまだ解けない。というか、そんなの簡単に解けるもんじゃないだろう。逆に全世界10億人のイスラム教徒の側に別種のトラウマが出来てしまった。人は往々にしてその敵に似てしまう。アルカイダと戦うためにアメリカは不寛容になり、反撃を受けたムスリムの側も敵意を深めている。この連鎖がどこまでも続く。そんなことしてると中国が得するだけなんだけど、どうにも止まらない。

〇その一方で、もう怖くて乗りたくないと思った飛行機に、人々は平気で乗っている。テロ事件があっても、それで飛行機の利用客が減るというほどではない。人間というのはつくづく鈍感に出来ていて、どんなことにでも慣れてしまうのだ。

〇今日であの日からちょうど1年。郵政造反組の復党はまだかなわない。というか、そんなの簡単に認めて欲しくはない。逆に造反組の側もプライドがあるから、「三顧の礼で」などと口走ってしまう。人は往々にしてその敵に似てしまう。抵抗勢力と戦うために小泉さんは不寛容になり、反撃を受けた郵政造反組も敵意を深めている。この連鎖がどこまでも続く。不毛な対立が深まる。そんなことしてると民主党が得するだけなんだけど、どうにも止まらない。

〇その一方で、こんなに面白いものはないと思った政治に、人々は飽き始めている。自民党総裁選があっても、それでテレビの視聴率が上がるというほどではない。人間というのはつくづく鈍感に出来ていて、どんなことにも慣れてしまうのだ。


<9月12日>(火)

〇今月号の文芸春秋で、高世仁さんの「金正日を震え上がらせた男」という記事がムチャクチャ面白い。北朝鮮問題について、今までよく分からなかった疑問が一つ氷解しました。

武貞秀士先生がかねて言っている通り、北朝鮮の経済は悪化するどころか、どんどん良くなっている。そういう話は、商社の現場からも漏れ伝え聞くところで、信憑性は高い。要するに対中貿易がどんどん伸びるので、鉄鉱石などの資源に恵まれた北朝鮮としては、黙っていてもカネが入るようになっている。ところが、米国が米銀に対してバンコ・デルタ・アジア(BDA)との取引禁止を決めたところ、たちまち北朝鮮が参ってしまったらしい。北朝鮮経済はリッチなのか、困窮しているのか。いったいどっちなんだ?−−というのが、かんべえの疑問なのでありました。

〇本稿によれば、米国が凍結したBDAの預金総額は約2000万ドルという少額であって、これは単なる見せしめに過ぎないそうです。ただし、この措置を受けて、中国銀行やら日本の某有名銀行やら、今まで北朝鮮との取引を行なっていた金融機関が、震え上がってしまった。中国銀行などは、各支店に対して「北朝鮮に気をつけろ」という文書まで通達したという。米銀との取引を停止された日には、ドル資金が取れなくなってしまうわけで、銀行なんてやってられませんからね。

〇かくして、ほとんどの銀行が北朝鮮とのビジネスを断ち切ってしまった。まだ中国やロシアの一部銀行は取引を続けているが、これらも米国政府のターゲットになることは間違いない。ともあれ、金融機関の協力が得られないとなれば、あらゆる貿易実務はストップしてしまう。モノが動いても、カネが動かないとあっては商売は上がったりである。

「我々の想像した以上の効果があったことは事実です。北朝鮮は、長期にわたって利用してきた世界中の主要取引銀行から切り離され、何億ドルもの資金が凍結された。そして、何年もの間、利益を享受してきた数々の経済活動から、かなり深く断絶させられました。北朝鮮指導部の重要な収入源をカットし、世界中に広がる彼らの違法金融ネットワークと兵器拡散応力に圧力をかけることもできた。これは、彼らにとって、かなりショッキングなのことだったと思います」

〇本件に関するもう一つの驚きは、上記の発言の主が、日米関係サークルにおいては「知らない人はモグリ」のデイビッド・アッシャー氏であるということです。アッシャー氏は90年代においては、日本の不良債権問題を日本語で語れるという、米国における知日派の代表選手でした。そうそう、三原淳雄先生との共著もあったはず。最近噂を聞かないなと思っていたら、今は北朝鮮ワーキンググループの特別調整官になって、北朝鮮との交渉当事者になっていたのですね。

〇以前、かんべえがアッシャー氏と話した際に、彼がこんな風に語っていたことが印象に残っています。

「バランス・オブ・パワーが分かるやつはバランスシートが読めない。バランスシートが読めるやつは、バランス・オブ・パワーが分からない」

〇つまり、安全保障と経済の専門家は隔絶しているから、両方とも分かってる人間は少なくて、俺はそのめずらしい例外なんだぜ、という意味なのでした。そういう意味では、金融制裁(米国はあくまで対抗措置である、と言い張っている)で北朝鮮を締め上げるという仕事は、彼にはピッタリの役どころでしょう。BDAへの取引停止は、文字通り「頂門の一針」であったようです。


<9月13日>(水)

FACTAが、「安倍氏が10月にも日中首脳会談 代償には『台湾切り捨て』カードか」というメルマガを本日付で流している。

政権発足後も、中国に対して強硬外交を展開すると見られてきた安倍晋三新首相が「サプライズ外交」に踏み切ろうとしている。就任早々の10月にも北京を訪れて胡錦涛国家主席と首脳会談を行い、その途上でソウルに立ち寄って盧武鉉韓国大統領とも会談する構想で、水面下では日中韓の複雑な駆け引きが始まっている。

〇あ〜あ、書いちゃったか、てな感じですな。こういうことを書いちゃうと、中国側で反対論が起きてつぶされるか、日本側で事前の期待値が上がってしまうか、結果として日本外交が損をすると思うんですけどね。でも阿部編集長は自信満々のようです

〇自民党総裁選挙は、安倍さんが単勝1.1倍の銀行レースである。では、その先のシナリオを安倍さんの身になって考えてみると、最初の外遊先にどこを選ぶかが問題になってくる。が、アメリカは中間選挙まで残り2ヶ月を切っており、「ブッシュさん、会ってください」と言い出すのはご迷惑もいいところ。どうせなら、「アメリカに行く前に中国に行く」とカッコいい。中国側としても、そんなに悪い話ではない。なんとなれば、どの道11月18〜19日にハノイで行なわれるAPECでは会わねばならない。その前に、日本の新首相が「真っ先にやって来ました」と言ってくれたら、日中関係を収める上ではかなりいい筋書きとなる。

〇おそらく、そういう読み筋で谷内次官が動いていたのだろう。と、この程度であれば、かんべえも本誌9月1日号を書いたあたりから気づいておる。FACTAの記事の面白い点は以下の部分。

しかし、韓国がこの動きをいち早く察知した。潘基文外交通商部長官(外相)がこのままでは日中韓3国のなかで韓国の盧武鉉政権だけ取り残されてしまうと危機感を抱き、 9月6日に訪韓した谷内正太郎外務次官に日韓首脳会談を提案した。韓国の面子を守るため、北京への途上、ソウルに先に立ち寄る歴訪案を日本側は提案している模様だ。

〇なるほど、日中関係改善になってしまうと、韓国が取り残されてしまう。こうなると恥も外聞もありませんな。まるで自民党の派閥みたいなもんです。

〇他方、FACTAの記事では、安倍陣営がその見返りに「台湾を見捨てるカード」を切るとしている。これはどうでしょう。安倍さんがやりますかね、そういうことを。もうひとつの懸念は、言うまでもなく靖国問題ですが、こちらについては日本側さえ大人しくしていれば、何とか収まると思うのですが。

〇ところでチャイナウォッチャーの田代秀敏さんから、面白い話を聞きました。中国と韓国の間で歴史認識問題が起きているらしい。

韓国メディアの報道によると、中華人民共和国の国家機関である中国社会科学院の中国辺疆史地研究中心は、古朝鮮から渤海までの古代史を、中国側の領土主張に沿って主張した論文を社会科学院の公式研究成果として大量に発表しているとのことです。

なかでも、焦潤明研究員の論文「国際法と中国−北朝鮮の国境線問題論争」は、「そもそも漢江北部までが中国領土だったが、新羅や百済などの侵奪で領土を失った」と主張しているとのことです。

「侵奪」された領土なら奪回するのが「道理」です。北朝鮮が崩壊した場合、あるいは、崩壊させた場合に、人民解放軍が漢江北部までの中国の歴史的に固有の領土を奪回することを、予告かつ正統化していると読み取るべきではないかと愚考します。

〇察するに、北朝鮮の体制が瓦解して、領土がそのまま中国のものになってしまう、という可能性が高まっているのではないでしょうか。この辺も、先日来の読み筋と重なってきます。


<9月14日>(木)

〇あれを虫の知らせというのかどうか・・・・今朝、とっても久しぶりに、「TRI」のサイトにアクセスしたのですよ。そしたら9月7日分のコラムを読んでいて、ビビビと感じるものがあった。

「原油価格が下落し、米国のインフレ懸念が後退し、米国利上げ終結観測が広がり、米国経済ソフトランディングの見通しが広がってくれば、NYダウは史上最高値更新に向かうだろう」

「新興企業市場の株価反発力は依然として弱いが、値幅調整は7月に完了したものと考えられる。残る点検項目は日本経済の基調である」

〇急に気になって、原油価格やらエマージング市場やらをチェックし始めた。彼が転換点を見抜くという話は、よくあるからなー、というか、ワシも似たようなこと考えていたしなー、などと考えつつ、お昼に「和喜」に行った。久々にいわしの天ぷらを食う。どうでもいいことだが、かんべえが何かアイデアを拾うのは、こういうパターンが多い。でもって、会社に戻ってきたら、このレポートの著者は逮捕されましたというニュースが流れていた。

〇植草教授、これはシャレにならないっすよ。あなたの応援ブログも炎上してますよ。ニュー速見たら、あっという間に8本目だかのスレが立ってるじゃありませんか。それにしても切込隊長ったら、何でこんなに反応が早いの? というか、ネットがこんな調子だと、ワイドショー、週刊誌、スポーツ新聞的には、こんな美味しいネタってないだろうなあ。

〇いろいろ見た上で、この人1年半前のコラムを読んで胸がジンと来た。いろんな人の期待を裏切っちゃいけないよって。そうだよね、自分ひとりで生きてるわけじゃないものね。ありがとう、いい言葉を読ませてもらったよ。

〇で、冒頭の9月7日分のコラムなんですけど、プリントアウトしておいてよかった。家に帰って再度アクセスしてみたら、案の定、消えていた。


<9月15日>(金)

〇それにしてもニュースの多い日ですね。紀子様と悠仁様がご退院。そういう慶事の日に、めずらしくも麻原被告の死刑確定。でもって、竹中平蔵さんが参議院議員の辞職表明。こんな調子じゃ、白鵬も朝青龍も負けますわな。さらに阪神も中日に負けちゃいますわな。名古屋ドームは鬼門なり。阪神は真のエース、下柳が先発だったのに。ぶつぶつ。

〇さて、小泉さんが自民党総裁に選ばれたとき、圧倒的な票差ではあったけれども、議員票に限れば獲得率は51%だった。つまり党内の半分は敵であった。この敵を回避するために編み出されたのが、政策の「官邸主導」システムであった。すなわち、竹中経済財政担当相が「経済財政諮問会議」を使って、「政府が決めたことを党が承認する」という形を作ったのですね。党の側の政策責任者である政調会長は、最初は麻生さんだった。党内からつきあげられて、さぞかしご苦労が多かったことでしょう。

〇ところがこうした状況は、昨年の「9・11総選挙」で劇的に変わる。もはや党内に小泉さんの敵は居なくなった。ということで、昨年の秋頃から経済財政諮問会議の席上で、小泉首相が「これは党で決めてほしい」と言うようになったのだそうだ。つまり、もう「官邸主導」にこだわらなくてもいい。たとえば歳出・歳入一体改革のようなシンドイ話は、党に決めさせたほうが責任の所在が明らかになるから後で楽になる。今年春頃から、「政府>与党」体制が「政府・与党」体制に戻っていったのは、ほかならぬ小泉さんの指示であったらしい。

〇2005年秋からは、経済財政諮問会議は与謝野さんが切り盛りするようになる。前政調会長の与謝野さんは、現政調会長の中川さんと連携して、「政府と党で」政策を決定するようになる。竹中さんは「官邸主導」に未練があったようだけれども、小泉さんに「もういい」と言われてしまったからには仕方がない。小泉さんは、やっぱり政策ではなくて政局の人だったのだ。

〇最初、小泉さんは竹中さんに「一緒に戦場に行ってくれ」と頼んだそうだ。小泉さんの戦場とは自民党の中の権力闘争であって、竹中さんの戦場とは日本経済の危機だったのだろう。小泉さんが自民党内で勝利し、日本経済が危機を脱出した2005年に、両者のコンビは解消されたのだと思う。そして小泉さんが首相を退陣する10日前に、竹中さんは辞任を表明した。

〇ちょっと深読みが過ぎるかしらん?


<9月16〜17日>(土〜日)

〇いろんな方から本をいただいております。今週末は宿題が多いので、ほとんど手をつけておりません。以下、著者と読者に対してまことに恐縮ながら、「読まずにご紹介」をさせていただきます。

冷戦後の日本外交(信田智人/ミネルヴァ書房)

いつもお世話になっている国際大学の信田先生が、本気になって書いた「国際政治・日本外交叢書」の第2巻。昨年、朝日選書から出た『官邸外交』を学術的に書くと、なるほどこんな風になるものかと感心する。でも、読み通すのに時間がかかりそう。よかった、ワシはアカデミズムの人間じゃなくて。

上海新風 路地裏から見た経済成長 (谷口智彦/中央公論新社)

現外務副報道官、元日経BP記者の谷口さんが、上海時代の滞在経験をまとめたもの。日々姿を変えていく街の姿や、中国共産党の苦悩の深さ、村上春樹ファンの中国人青年との会話など、変化の時代の様相が見事に切り取られている。かんべえは2003年春にこの本を原稿で読む機会があり、「谷口節」の魅力にしびれましたが、あいにく出版されることなく3年の月日が過ぎてしまいました。内容はやや古くなっているとはいえ、いいジャーナリストのいい仕事を堪能できることは保証します。

カウンターから日本が見える 板前文化論の冒険 (伊藤洋一/新潮新書)

ご存知、伊藤師匠の話題作。「料理店にカウンターがあるのは日本だけ」というユニークな切り口からの日本文化論。グルメで情報通で、海外の事情にも詳しい伊藤さんならではの1冊といえましょう。伊藤さんは、「この本を読んだ知り合いから、ここに連れていけ、あそこに行こうなどといわれることを怖れている」らしい。お友だちが多いから、しばらくは続くでしょうね。伊藤さん、面倒なのが一巡してからでいいから、昔の「四酔人」メンバーも忘れずにどっかへ連れてってくださいな。

テレビ政治 国会報道からTVタックルまで (星浩・逢坂厳/朝日新聞社)

本書の190−191Pに「ワイドショーのテーマ」ランキングが出ている。ものの見事に、2001年から後は「政治ネタ」が上位を独占するようになる。かくして世は「ワイドショー政治」の時代になったわけなのだが、この間に一体何があったのか。「ニュースステーション」から「TVタックル」まで、さまざまな政治番組はどんな地平を切り開いてきたのか……という本を、本日の「サンデープロジェクト」出演者の星さんから頂戴しました。拝読いたします。


<9月18日>(月)

吉牛の復活をひと目見ん、と国道16号線の若柴店を見に行く。午前11時のオープンちょうどに行ったところ、なんともう100人程度が並んでいるではないか。しかも駐車場が一杯でクルマが入れられない。そこへ徒歩でやって来た人が続々と行列についていく。

〇しょうがないからUターンして、今度は桜台の店を目指す。そしたら呼塚交差点あたりから延々と渋滞しているではないか。めずらしいことじゃねえやと思っていたら、追い越し車線はスイスイ進んでいる。先に行ってみたら、案の定、吉野家の駐車場待ちの行列が出来ていたのであった。数えてみたら35台もあった。そして反対側には長蛇の列が出来ている。

〇これだけ並んで、自分の番が回ってきたら売り切れで、「あなたからは豚丼です」と言われたらどうするのであろう。と思ったら、さすがに萎えた。モリタクさんと固い約束を交わしたとはいえ(←大嘘)、断念して撤退することとする。とはいえ、今日のこの目出度き日に参加できないのは残念なことである。10月1日からの牛丼祭り第2弾に捲土重来を期さねばなるまい。

〇ところで吉牛といえば、2ちゃんのコピペが懐かしい。思い出したい人はこちらをご参照。どうせだから、ゴルゴさんの声で聞きたい人はこちらをご参照。

〇ついでもって、かんべえの吉牛への思い入れを描いたコラムを以下に転載。今年2月に、読売ウィークリーに寄稿したものだが、編集部の手によって「女子供は引っ込んでろ」のくだりは削除されてしまったのであった。以下は修正前の原稿。これを書いたときは、麻生外相の「ソートリーダー論」を流行らせたいという思いもあったのですが。



●「ソートリーダー」としての吉野家


 晩飯にあぶれてしまった午後10時過ぎ、久しぶりに吉野家に足を踏み入れた。周囲を見渡して驚いた。なんだ、これは。女性が多いのである。フリーター同士みたいなカップルが、仲良く牛鍋定食をつついているではないか。

 おいおい、ここは吉野家だぞ。女子供は引っ込んでろ。Uの字テーブルの向かいに座った奴と、いつ喧嘩が始まってもおかしくない、吉野家とはそんな殺伐とした世界ではなかったのか。

 という「2ちゃんねる」的な偏見はさておいて、「最近、吉野家に女性客が増えた」のは事実であるらしい。BSE騒動により、牛丼の販売を中止してから約2年。メニューが多様化してからの吉野家は、客層が変わっているようだ。

 吉野家という会社は、外食産業における「ソートリーダー」という言葉がピッタリ当てはまる。この言葉を多用する麻生太郎外務大臣の定義によれば、ソートリーダーとは「実践的先駆者」のことであり、「他人より先に難問にぶち当たる」が、「解決しようとしてもがく、その姿それ自体が、ほかの人たちにとって教材となるような人」を指す。

 実際、吉野家ほど多くの試練を乗り越えてきた会社は少ないだろう。その歩みは、わが国外食産業の歴史そのものだ。

 「うまい、やすい、はやい」と「牛丼一筋80年」をキャッチフレーズに、内外に店舗を拡大したのは、外食産業が急成長した70年代のことである。ところが1980年には、会社更生手続きを申請。急速な店舗の増加により、乾燥牛肉と粉末汁を使って客離れが進んだことが原因だった。吉野家はここでブランド価値の重要性を学習する。

 セゾングループの支援を仰ぎ、再建を完了したのが87年。業界に先駆けてPOSシステムを導入し、全国展開を完成する。一時は多角化を目指し、ダンキンドーナツを傘下に収めるが、高い授業料を払って撤退。結局、高収益をあげるには牛丼に賭けるしかないとの結論を得る。

 90年代の吉野家は、デフレ戦争を受けて立つ。「80円マック」に対抗すべく、「牛丼並280円」という低価格を実現する。コスト削減のために、北海道産の「きらら397」を牛丼用のコメとして育て上げ、調達を米国産牛に絞り込む。店内のアルバイト社員の動線を研究し、注文から1分以内に配膳する体制を構築する。なおかつ1店舗500杯以上を調理してこそ、いつもの牛丼の味が出せるという。

 今世紀に入ってからの試練は、言わずと知れたBSE問題だ。牛丼の販売を打ち切った2004年2月11日には、ファンが店頭に長い行列を作った。今回、米国産牛肉の輸入が再開されてすぐに中止されたことは、牛丼復活を目指す吉野家にとって衝撃であった。が、この会社が過去に乗り越えてきた試練に比べれば、少なくとも最大のものではないだろう。

 麻生外相の「ソートリーダー論」にいわく。日本という国は、19世紀からアジアの先頭を走ってきた。そのためにいろんな問題に最初に直面した。問題の克服には、かならずしも成功したわけではないけれども、「問題にいち早く直面し、また取り組むことによって、範を示す国であり続ける」ことが、アジアにおける日本の役割でである、と。

 日本外交がその理想に耐えるかどうかはさておき、吉野屋は外食産業における実践的先駆者であった。今はブランド価値を維持しつつ、客筋を変えることに挑戦している。すごい企業ではないだろうか。


<9月19日>(火)

〇いよいよ明日が自民党総裁選。間もなく小泉時代の幕が下りる。本当に下りたとき、どんな気分になるものやら、今の時点ではあまり見当がつかない。なんだかまだ実感が湧かない。

〇それにしても、総裁が誕生してから、党内人事と組閣に取り組むまで4日間の空白ができてしまう。どうやって過ごすのやら。見苦しいロビイングが相次ぐんだろうなあ。

〇こんな一日だというのに、かんべえは為替についての取材を受けたり、日本経済に関するエッセイを書いたり、アメリカ中間選挙についての研究会に出たりしている。もちろん政局がらみの仕事の打ち合わせもあるのだけど。

〇深夜になって、突然「シミュレーション小説・安倍外交」の筋書きを思いつく。うまく、まとまりますかどうか。


<9月20日>(水)

〇自民党総裁選が終わりました。2001年、2003年と同じような結果です。これから先も、ずっとこんな形で自民党は指導者を決めることでしょう。

〇すなわち、チビ、デブ、ハゲは総裁になれない。イケメンでなくてもいいから、感じのいい人でないと困る。ファッションセンスが悪い、もしくは良くしようという努力をしたくない人はお呼びではない。演説下手は論外である。公開討論で機転の効かず、ジョークの一つも飛ばせない人は相手にする必要がない。「サンプロ」に出るのが怖い、田原さんと議論するのは嫌だと思う人は、そもそも総裁選に立候補する資格もない。そういう人がどんなに努力をして、多くの手兵を率いて、実は結構政策には強かったりしても、自民党総裁にはなれない。

〇こんなことは、アメリカ大統領選挙ではとっくの昔からそうでした。日本もやっとそうなった、ということなのでしょう。ところが、それが分かった瞬間に、自暴自棄になりかねない人が一杯居るかもしれない。だって自民党議員403人の中には、安倍さんや麻生さんのタイプよりは、鈴木善幸や宇野宗佑のタイプのほうが多いでしょうから。そういう人が苦労して手勢を囲い、時間をかけて派閥の領袖になったところで、アンタ、外見が悪いみたいだから総理の椅子はあきらなさい、てな時代になってしまった。端的に言えば、小沢一郎は民主党だから代表になれるけど、今の自民党総裁選挙を勝ち抜くことはできないでしょう。あのファッションセンスでは、長丁場は戦えません。

〇そういう眼で今回の自民党総裁選挙を振り返ってみると、抵抗勢力の人たちに元気がなかったのも無理はないのかもしれません。ふん、所詮、俺たちはいくら頑張っても天下取れないじゃないか。そういう気力を失った連中が、安倍陣営に雪崩を打つのも道理かもしれない。勝った安倍さんとしては、あんまり喜べない展開かもしれません。

〇ところでタイのクーデターについて。誰も行く末を心配してない、というあの国ならではの政変劇ですね。おそらく流血も騒乱もなく、タクシン首相はこっそり海外に亡命し、最後は国王が出てきて一件落着し、選挙をやり直して新政権が発足するのでしょう。

〇本日、現地の「週刊タイ経済」というニュースレターを入手したのですが、下記のくだりに大笑いしちゃいました。

 クーデタ団が「国王を君主とする民主主義制度における統治改革団」を名乗っていることは、軍主導による長期政権維持というよりは早期の政治正常化を示唆しており、選挙管理内閣の下での早い時期での総選挙実施を目指しているもよう。

 通常、過去のクーデタでは政権掌握後、憲法の廃止、国会の解散などの措置がとられたが、今回もそうしたそうした措置がとられている。現行憲法では第六五条で「憲法が規定していない方法で国家統治権の奪取につながる行為に対し、人は平和的な手段で抵抗する権利を有する」 と規定、クーデタ防止の条項を設けているが、その一方で第七条において「本憲法に適用すべき規定がない場合は国王を元首とする民主主義制度の政治慣習に従う」としており、クーデタ団が「国王を元首とする民主主義制度」を名乗っていることは、この条項を意識したものと考えられる。

〇なんと今回のクーデターは、「憲法の範囲内」であるかもしれない。お見事!


<9月21日>(木)

〇商社の世界では、「バンコクの駐在員は、洪水、為替の切り下げ、クーデターの3つのKを体験して一人前」などと言い習わしたりする。ホントはクーデター(Coup)はKじゃなくてCなんですけどね。今回は1991年以来、とっても久しぶりのクーデターでありまして、それでもみんなが全然驚いていないところが素晴らしい。

〇タクシン政権は悪行三昧でした。一族は腐敗している、メディアを統制しようとする、南部のイスラム教徒を弾圧する(1000人くらい死んでいる)など。とくにヤバイのが、自分の会社の株をシンガポールの投資家に売り払ったことですが、そもそも彼は中国系の人間でありまして、おそらく売った先は華僑の同族なのでありましょう。タイ人から見れば、「お前、国有財産を外国人に売っただろ。許せん」という話になる。タイはタイ人と中国系とがうまく溶け合っているという点で、東南アジアではめずらしく成功している国なのですが、これはさすがにシャレにならなかった。

〇こんなの辞めさせるに限る。しかしこれまでのバラマキ政策のお陰で、タクシンは東北部の農村などでは絶大な人気を有している。なにしろ農業人口が55%の国である。田舎では買収でも饗応でも何でもありだ。だから選挙をやる限りタクシンは勝つ。都市部では「タクシン辞めろデモ」が行なわれたり、野党が選挙ボイコットで頑張ったりしたのだけれど、いかんせん民主的な手続きでは辞めさせられなかった。

〇そこでこの国における定番、「国王が出てきて叱りつける」という荒業が出た。タクシン、かしこまって拝聴する。国民は「そら見たことか」と思う。タイにおける国王の存在はほとんど絶対的である。なにしろタイの通貨バーツは、紙幣も硬貨も全部国王の肖像画が描かれている。それがもったいないからといって、地面に硬貨が落ちていることさえ許されない。そんな人に叱られたら最後、普通はこれで首相が退陣してめでたしめでたし、となる。ところが、タクシンはそこをさらに粘った。なにせ議会では多数を握っているわけでありまして、民主主義の原則からいえばそっちの方が正しい。

〇こうなると、最後の手段は軍のクーデターとなる。これがこの国における権力のChecks and Balancesの仕組みの一部を構成している。今回はそれが発動された。「空気を読めないヤツは仕方がない」ということで、全国的にこれが支持される。だからタクシン派の反撃、みたいなことがまるで起きていない。ブミポン国王は今のところ静観の構えだが、プロ筋の読みによれば、黙っていること事態が一種の「支持表明」みたいなものなのだとか。一部には「馬主は国王で政府が騎手」などとも言われていて、これはもう「流れは決まった」と見てよいらしい。

〇それではこの先の展開はどうなるか。タクシンは娘が居るロンドンに向かったという情報がある。まあ、カネは唸るほど持っているので、亡命生活になったところで困りはしない。とはいえ、そこは「血を流さない、水で流す」といわれるタイ政治のこと。しばらくたつと、何食わぬ顔で帰国するんじゃないかという観測もある。

〇この辺の融通無碍な感じは、まるで昔の自民党ですよね。失われつつある「自民党の知恵」は、実はタイ政治で健在であったりして。


<9月22日>(金)

〇自民党総裁選に明け暮れた1週間でしたが、今週は外為どっとコム主催の「為替の学校」で講師を務めました。一昨日の午後7時から、場所は東新橋でした。「アメリカの通貨政策」をテーマに、あれこれお話しましたが、外為投資をしている人は最近では少なくないと見えて、熱心に聞いてもらいました。このページを見ると、とりあえず参加者のコメントも悪くはなかったようです。

〇それにしても、個人投資家がこれだけ育っているというのは驚きですね。為替の学校に参加しているのは、女性も含めて全体に若い人が多かったです。これが株式投資のセミナーなどだと、「推奨銘柄」のときだけ眼が爛々とする人がいるのですが、為替の場合はそんなに選択肢がありません。ドルか、ユーロか、それとも資源国通貨か。そして結局は、「円高か円安か」といった相場観を養うしかありません。

〇外為投資の世界では、すでに「個人投資家のカリスマ」が幾人も誕生している。会社のお金で勝負しているファンドマネージャーよりも、たぶん彼らの方がずっとシビアな勝負ができることでしょう。「日本人は貯蓄が好き」という常識は、こんな風にして少しずつ崩れていくのかもしれません。


<9月23〜24日>(土〜日)

〇「サンデープロジェクト」のMC、うじきさん、宮田さんが今日で「卒業」になるので、テレビ朝日で送別会が行なわれる。だもんで、かんべえも馳せ参じる。皆さんのお話を伺いつつ、サンプロの歴史ってしみじみ長いなあ、と痛感するひととき。かんべえはコメンテーターになってまだ5ヶ月でありますので。

〇宮田佳代子さんは、半年の産休期間を挟んで、実に14年間も番組の顔を務めていました。実はその前にNHKの「サンデースポーツ」、TBSの「サンデー・モーニング」などの時代も通算すると、とにかく日曜日ごとに番組に出続けていた歴史は20年近くになるらしい。なんとも想像を絶するような世界であります。しばしの充電の後、どこかの番組で復帰されることと思いますが、できればそれも日曜日であったらいいですね。

〇考えてみれば、サンプロのMC交代は小泉時代の終わりとシンクロしている。来たる安倍時代(どれだけ続くか分かりませんが)には、日曜朝の討論番組も今と違ったものになっていくのでしょう。「小泉劇場」はしみじみ面白かったけれども、若干の疲れも残っているような気がする。新しい時代への手探りが始まる中で、明日は安倍政権の党内人事、明後日は組閣であります。

〇それと平仄を合わせるわけでもないけれども、桑田真澄投手が巨人を「卒業」だそうです。阪神ファンとしては、長年にわたる敵役であったわけですが、ここは「ご苦労様」と言ってやりたい気がします。38歳だそうですが、同じくらいの年である阪神の下柳は、なおも「真のエース」として活躍している。これは下柳が打撃や守備はテキトーにやっている(昨日の試合なんぞ、大差のリードになったらバッターボックスの一番端っこに立っていた。あそこまで徹底されると腹も立ちませんな)けれども、桑田は万事に手を抜かないからではないかと思う。

〇本人は他球団への移籍を望んでいるようですが、これも是非実現してほしい。(1)日本ハム:北海道で人生をやり直す、(2)オリックス:関西で清原とのコンビを復活させる、(3)楽天:若い選手の手本となるも、野村監督と骨肉の争いを演じて話題を集める、など、いろんなドラマの可能性があると思います。とりあえず(2)が本命かな。

〇どうでもいいことですが、ロスのリトル・トーキョーには目抜き通りに「マーク・桑田不動産」という看板があって、もちろんただの偶然なんですけど、あれを見つけたときは笑ったなあ。ちなみに、彼に「投げる不動産屋」という名前を献上したのは、いつもお世話になっている日刊ゲンダイのTさんであります。


<9月25日>(月)

〇党三役の人事が発表されました。オーソドックスでほとんどサプライズなし。でも、当たらない。安倍総裁の初人事にしては、妙に手堅い。適度に自己主張を入れつつ、バランスも取っている。「やるじゃん」とも思うが、「つまらん」という気もする。

〇この感じが、ポスト小泉時代の雰囲気なのかもしれませんね。手堅いけど、面白くない。テレビが政治を取り上げると視聴率が下がる。ワイドショーでも、ネタにされなくなる。永田町は小泉さんが登場する以前の、政治オタだけの世界に戻るのかもしれません。それはそれで、安心できるという気もするけれど。

〇ま、後は明日の組閣を見てからあらためて考えましょう。

〇とうとう小泉首相の時代はあと1日。寂しくなるなあ、と思ったら、丹波哲郎が霊界に行ってしまった。


<9月26日>(火)

〇小泉政権が終わってしまった日、なぜか古い仲間で集まってしみじみと食事をする。ホントは取材で忙しいはずの角谷浩一氏もやってきて、J-WAVE「ジャム・ザ・ワールド」のコーナーの電話取材を、中華料理屋の個室からわれわれの目の前で放送してみせてくれた。お陰さまで、今日の安倍政権の組閣についても、いろいろ興味深い話を聞くことができました。

〇すでに「論功行賞人事」との声が各方面から出ておりますが、たしかに今日の閣僚人事からは、各方面への配慮の跡を窺うことができます。その結果として、「大臣心得心待ち」の人たちが多く重量級ポストを射止め、「昔の自民党顔」のとっても濃いタイプの人が並んでいて壮観です。その一方で、首相補佐官で入った5人は「新しい自民党顔」の人たちで、おそらく安倍首相としては後者を中心とする政策運営を志すのでしょう。世耕さんの証言によれば、「安倍さんは気の合う仲間5〜6人と、ブレーンストーミングをしながら決定を下す」(中央公論10月号の座談会から)ということなので、官邸で総理を囲む補佐官たちの方こそを注目しなければなりません。

〇昨日の党三役人事とも重ね合わせてみると、やはり中川(秀)幹事長を真っ先に決めて、そこから少しずつピースを埋めていった様子が感じられます。「実はかなり前から人事の調整は進んでいたのではないか」とは角谷氏の観測。だとしたら、これまでほとんど情報が外に漏れなかったのはお見事といえます。たとえば与謝野氏は「官房長官に有力」という声が直前まで出ていましたが、おそらくかなり早い段階で「外す」ことが決まっていたはずです。名のある政治評論家といえど、「XXさんが有力ですね」みたいなことを言えない、言っても当たらない、という時代が到来したことになります。

〇安全保障面では、麻生外務大臣の留任に久間防衛庁長官の出戻りという最強コンビですね。防衛庁長官は、「省」昇格が決まると初代大臣になります。ですから、今回の防衛庁長官には値打ちがあるわけで、防衛大臣になった瞬間に、たとえば米国とは「2+2」ではなく、単独でラムズフェルド国防長官との会談ができるようになる。額賀さんを外して久間さんが入るというのは、実に分かりやすい論功行賞です。当面の注目点は沖縄県知事選挙でしょう。それから個人的には、麻生さんを「副総理兼外務大臣」にして欲しかったなと思いますが、それは安倍さんとしてはお人良し過ぎることになりましょう。

〇今日の人事の最大のサプライズは、大田弘子経済財政担当大臣の登用だと思います。かんべえは、すぐに「おめでとうございます」のメールを送っちゃいましたが、よくよく考えてみると不安がいっぱいでもある。というのは、小泉政権以後の経済政策の要は「経済財政担当大臣と政調会長のコンビネーション」ですから、この2つのポストはセットで考える必要がある。両者が「ツーカー」でないと、今後の「政府・与党」関係がうまくいかない。その点、中川(昭)政調会長とのコンビは、ちょっと「????」です。全体でみれば、「脱クラシック、ネオ路線」の人事になっているのですが、この点だけは要注意。

〇第1次安倍内閣は、全体に地味目で、大向こう受けを狙う感じでないのは、昨日も書いた通り。おそらく政権支持率は45〜55%といったところではないでしょうか。とはいえ、党内基盤はそれなりに強いはずなので、高い支持率を目指さなければならない内閣ではない。ワイドショーで政治ネタを取り上げると視聴率が下がる、という時代になるのではないでしょうか。「サンプロ」はどうするのかな。あ、そうそう、かんべえは30日土曜日の昼12時30分から、テレビ東京の「安倍政権」特番に登場する予定です。

〇ところで角ちゃんたちと話していたら、「ゆうこりんのこりん星」なるものを、かんべえが全く知らないことがバレて、散々笑われてしまった。それって、そんなに有名なことなの?と言いつつ、帰ってからウィキペディアで確認するワシって、かなり恥ずかしいことのようである。まあ、いつものことなんですけど。


<9月27日>(水)

〇昨日あんなことを書いたら、共同通信の電話調査で支持率が65%ですと。何と高い、とちょっと驚く。いつもお世話になっているフジテレビの選挙の神様、Hさんにご意見を伺ってみたところ、「安倍・塩崎コンビって少なくとも見た目はさわやかでいい感じですよね」とのご意見。それから、「民放の組閣特番の視聴率は5年前の小泉の時に較べてトントンです。あえて特徴を挙げれば若い視聴者がちょっと多かったこと、くらいですかね」

〇そーゆー感覚がワシには分からない。これが与謝野官房長官だったら、「ちょっと古い感じ」で支持率50%だったのかもしれません。やはり世論はテレビに聞け、というものです。ちなみに新聞・雑誌は全体に安倍内閣に対して辛口評価ですが、彼らの世論への影響力はほとんど無視しても構わない、というのが近年の傾向です。

〇さて、以下は「この内閣をどう呼ぶか」で、かんべえが今日、耳にしたもの。

「論功行賞内閣」:多数。とりあえず御礼は早めに済ませておいて、来年7月の参院選後にあらためて本気内閣を作るってか?

「学園祭内閣」:朝日新聞から。仲間内だけで楽しそうにやっているから。特に朝日に敵対する安倍&中川(酒)コンビの仲が憎い?

「FOA内閣」:海外の金融情報誌から。"Friends of Ave"による組閣の意味。クリントン政権では"Friends of Bill"ことFOBが流行語になった。

「黒備え内閣」雪斎どのの命名による。「漆黒」の甲冑を身に着けた武者がずらりと並んだ風情である、とのこと。御意。

「徳川幕府内閣」:某霞ヶ関関係者から。近く(官邸)は親藩譜代で固め、遠く(閣僚)は外様に与える。大切なのはもちろん前者である。

〇とりあえず世論は「お手並み拝見」ということでしょう。「若くて経験不足が心配だ」とか、「タカ派なのが心配だ」とか、「小泉さんには遠く及ばない」といった声はとりあえず多い。が、それらは当たってはいるけど、口にしてもあんまり意味がない言葉である。

〇戦後生まれ世代のリーダーとしては、わずか半年前に民主党の前原代表が無残な座礁を遂げている。彼も「仲間内」を集めて執行部を作り、理念先行型の党運営を目指し(前原ビジョン)、最後は「偽メール問題」で未熟さを露呈してしまった。もって他山の石としなければならない。安倍総理の場合は、同じ「仲間重視」とはいえ人的ネットワークが比較的広いこと、また、総裁選の戦い振りを見てもかなり用意周到であることは好材料である。もっとも「理念先行」であるところはちょっと似ていて、「美しい国」なんて言わなきゃいいのに、と戦後生まれのワシは思っている。


<9月28日>(木)

〇昨日に続き、こんなご意見も頂戴しております。

「しっかりと内閣」:安倍首相の口癖が「しっかりと」。本当は「ちゃっかり」だとか、実は「うっかり」を警戒しているのだとか、まあそんな声もあったりする。

「反財務省内閣」:財務省OBの柳沢氏を厚生労働相、伊吹氏を文部科学相と経済財政諮問会議から遠ざけ、財務省シンパの与謝野氏は無役となり、税調会長へ。肝心の財務相には商工族の尾身さんを起用。念の入った財務省警戒シフトではないのかと。そういえば、大田弘子経済財政担当相も、平岩レポートの時代から筋金入りの反大蔵省であったりして。

〇昨晩、気がついて一人で受けていたのですが、内閣府の副大臣人事がこういうことになっている。

http://www.cao.go.jp/minister/index.html 

●平沢勝栄:防災、沖縄及び北方対策、科学技術政策、イノベーション、少子化・男女共同参画、食品安全
●渡辺喜美:経済財政政策
●林 芳正:規制改革 等

〇林さんとはワシントン時代からのお付き合いだし、渡辺先生は毎度おなじみである。両方とも「おめでとうございます」のメールを送ったのですが、この3人の仕事の分担が面白い。林さんの秘書に聞いてみたところ、この「等」の中に入っている仕事は下記の通りであるらしい。

行政改革、規制改革、産業再生機構、構造改革特区、地域再生、中心市街地活性化、「道州制特区」の推進、栄典、そして拉致問題  等。

〇内閣府は、いかに数多くの仕事を扱っているかがよく分かる。それにしても、拉致問題は平沢さんの担当ではない、というところが妙。林さんは実務能力がむちゃくちゃ高い人なので、どのポストについても「仕事は忙しい人に頼め」の典型みたいなことになる。今度のポストも、「あれも、これもお願い!」ということになりそう。

〇その一方で、平沢副大臣の方は、「沖縄・北方、少子化、イノベーション」などで高市早苗大臣とピッタリ重なってしまう。お二人がどういう職務分担をされるのか、と考えると、いかにもトラブルが発生しそう。この内閣、やっぱり仕事の線引き(デマケーション)で苦労しそうだね。ということで、「デマケーション混乱内閣」というのもアリだったりして。

〇ところで、安倍内閣についてさらに詳しく知りたい!という方は、週末のこの番組をご覧ください。題して「特別報道番組、2時間で安倍政治がわかるテレビ」です。かんべえがコメンテーターで登場いたします。よろしくね。

http://www.ontvjapan.com/genre/detail.php3?tikicd=0002&hsid=200609300008014 


<9月29日>(金)

〇安倍政権の組閣については、いろんな人がいろんな予測をしていましたが、これはスゴイ!かんべえがこれまでに読んだ中では、東京インサイドラインの歳川隆雄さんの予測がもっとも正確でありました。以下、歳川さんがエース交易の情報誌「情報交差点」10月号(おそらく読んでいる人はとっても少ないはず)に寄稿していた内容をご紹介。

●幹事長は中川秀直政調会長が最有力だ。一方、麻生太郎外相の幹事長の可能性もかなり高い。(◎)

●ついでに幹事長代理については、二階氏就任の可能性が強い。(△)

●政調会長候補には久間章生総務会長と伊吹文明元労相の名前を挙げたい(×)。総務会長は丹羽雄哉元厚相でほぼ決まりだろう。(◎)

●閣僚人事の焦点は官房長官。派外からだと塩崎恭久外務副大臣、派内であれば長勢甚遠官房副長官の2人が有力候補である。(〇)

●私が得ている心証では、安倍氏は与謝野氏が「財務省に近すぎる」と見ているフシが濃厚だ。今回は無役ではないか。(◎)

●難しいのは外相。麻生氏の幹事長就任がなければ、外相再任は十分ある。サプライズ人事としては、民間から葛西敬之JR東海会長を起用する手がある。(〇)

〇結局、中川(酒)政調会長の人事が意外感があったのですが、それについては最新号にて以下のように解説されている。

中川(昭)の政調会長起用は永田町的にはサプライズ人事だが,本誌は22日夕時点で同氏起用の可能性情報を得ていた。正直言って意外感を覚えたが,情報ソースの説明によると,安倍は自分の政治的な基本理念・信条を共有する中川(昭)を閣内で処遇するのであれば教育基本法改正を担当する文科相か,政策立案の党側責任者である政調会長のいずれかに起用することを早くから決めていたというのだ。

〇こういうことが外に漏れなかったというだけでも、安倍首相はやるではないかという印象あり。そうかと思えば、無役にしてしまった与謝野前経済財政担当大臣を、いきなり落下傘で税調会長にしてしまうという人事も、ちょっとした凄みがある。非常に老獪かつ陰険ではないか。アンタ、いったいどこでそーゆーことを覚えたの?と聞いてみたくなる。

〇歳川さんの解説のなかでは、以下の部分も「ほほう、なるほど」と感じさせるものがある。

幹事長代理に石原を抜擢したのは,安倍が先月上旬,本誌に対し「これからは『代理』と『副』が重要だ。自分がやってみて,よく分かった。特に,将来の自民党を担う人物に『代理』をやってもらい,自分を磨いてもらいたい」と語っていたことからも,石原の幹事長代理起用は高いとみていた(8月合併号参照)。それは同時に,今回の中川(昭)重用人事からも安倍が早くも自らの後継者にこの2人を念頭に置いていることを意味しよう。 (

〇中川、石原を競わせつつ、でも最後の瞬間には「必殺技、ナンバーツーつぶし」が炸裂するのかもしれない。いつも思うことですが、トップの座には魔力があります。どんな世界でも、1位と2位以下の間には大きな差があります。1位の人は頂上に立っているから、360度の景色が見えている。ところが裾野にいる2位以下の人は、1位の人の足元しか目に入らない。だから頂上に立って裾野を見下ろすと、そういう構図があさましいほどによく見えるようになる。この境地に至ると、トップの座は面白くてもう辞められない。

〇安倍さんは首相として、意外と凄腕になるかもしれない。他方、永田町ウォッチャーとしての歳川さんは、明らかな凄腕であるといえましょう。











編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki