<9月1日>(水)
○昨晩、突然流れた毎日新聞の「9月解散説」。いやあ、焦った、あせった。だってワシ、明日のモーサテに出て「自民党総裁選挙」について解説する予定なんだもん。9月解散だと、当然、総裁選は吹っ飛びますわな。ワシはいったいどうすればいいのだ。
○と思ったら今日の午前中になって、菅首相は明確に9月解散を否定。なんだなんだ、これは世紀の大誤報じゃないのか。でもよくよく見ると、毎日新聞は最後の部分で下記のような「逃げ」を打っている。
これまで首相は衆院選の時期について「新型コロナ対策が最優先」としてきたが、衆院解散によって「政治の空白期間」が生じるため、批判が集まる恐れもある。党内では菅首相のままでは衆院選を戦えないという声も根強くあり、解散を断念させるために巻き返しの動きが起きる可能性もある。
○それは常識的な判断というものである。火のない所に煙は立たぬ、で、おそらく菅総理が9月解散を決意した瞬間があったのでしょう。が、昨晩のうちに誰かに促されて翻意したのではありますまいか。要は「殿、ご乱心」である。
○殿は明後日にも役員人事を刷新することで党内の一任を受けるのだそうだ。うーん、幹事長人事はどうするんだろう。
*本命:甘利 明 税調会長(安倍さんにも麻生さんにも受けがいい。3A+Sの結束をもう一度)
*対抗:河野 太郎 行革担当大臣(若手の抜擢、といったらこれでしょう。小泉さんが当選3回の安倍さんを幹事長に指名したときを思い出します)
*穴馬:野田 聖子 幹事長代行(もちろん女性初の自民党幹事長だ。どうだ、文句あっか)
*大穴:石破 茂 元幹事長(ちなみにこの記事によれば、あり得ないそうです)
○それにしても、「二階に上げて梯子を外す」のかと思ったら、「二階を降ろして死中に活を求める」とは、菅さんもやぶれかぶれなんじゃないでしょうか。そういうのを「二階から目薬」とも言うのではないかと。うーん、明日の朝までに、今宵も何か変な事が起きませんように。
<9月2日>(木)
○菅さんはまるで船から逃げ出そうとする船長さんのようで、党利党略というよりは個利個略で動いている。こうなったら、船が沈んでも構わん!と腹をくくっているらしい。これでは党はたまったものではない。今までの自民党の総裁には居なかったタイプで、こうなると史上初「無派閥の総裁」は無敵の人になってしまう。
○逆に岸田さんは普通に動いている。政策として打ち出したのは、健康危機管理庁の設置、数十兆円規模の経済対策など。「健康危機管理庁」は内閣府の下におき、日本医師会べったりの厚労省とは別ルートで管理するという発想なのでしょう。福田内閣で消費者庁の立ち上げを担当したときの経験が生きているのかもしれません。
○昨年の自民党総裁選挙では、岸田派と石破グループを除く5つの派閥(細田派、麻生派、竹下派、二階派、石原G)がこぞって菅支持になびいた。それが今回は大多数が様子見モードである。あの上意下達の二階派でさえ、「若手連中はどうかわからない」という声が出ているとのこと。これはもう、今年の総裁選挙は2001年以来の自由投票になるのではありますまいか。
○想像するに、3回生以下の自民党若手議員に「菅総理の推薦人になってくれませんか?」と頼みに行くと、それじゃ総選挙で死亡フラッグが立ちますから!と断られてしまうのではないか。逆に野党の枝野さんや志位さんは、「頼むから菅総裁のままで総選挙を戦いたい!」と願っているだろう。どうせだったら、推薦人になってあげたらどうだろう?って、そりゃ無理だけど。
<9月3日>(金)
○いやあ、驚いた。菅さんは急転直下、総裁選に出ないんだそうです。
○横浜市長選挙が終わった後、当欄の8月23日付でこんなことを書いております。
○仮に菅さんがこのタイミングで、「いろんな人の意見を聴いて決める。自民党総裁としての私の任期は、安倍前首相から託された9月末まで。そこまでは全力で走り切りたい」とでも言えば、いきなり「いい人」になれたはずです。さすれば自民党総裁選はますます盛り上がり、野党の動向など一顧だにされなくなったはずです。党のためにも日本のためにも、それが最善手だったのではありますまいか。
○ただし不肖かんべえの感慨は、プロの政治記者から見るとまったくナイーブの極みなんだそうで、「あの人なら総裁選前の解散もやりかねない」という見立てであるらしい。最近の菅(すが)首相はとにかく周囲の言葉が耳に入らなくなっていて、どれくらいそうなっているかというと、菅(かん)首相なみなんだとか。国家の危機管理として、それはちょっと怖いぞ〜。前回は震災で今回はコロナ。頼むから何とかしてくれえ〜。
○今となっては、矢折れ刀付きて倒れるの感がありますが、まあ、もって瞑すべし。本日はとりあえずお疲れさまと言っておきましょう。
<9月4日>(土)
○2日前のことになりますが、大阪経済大学の公開講座では多くの方にご視聴いただき感謝申し上げます。当初は定員100人と言ってましたが、300人以上にご覧いただいたようです。といっても、Zoomの容量は500人分くらいまでは大丈夫だったようなんですけどね。
○今年初めての大阪でした。大経大の北浜キャンパスも1年ぶりです。といっても学生さんがいらっしゃるわけではなくて、教員の方お二人と会っただけでした。コロナの時代に生きていることを痛感するわけですが、参加者名簿をちらっと見せていただくと、お世話になっている方、ご無沙汰している方のお名前がチラホラと。「すぐそこまで来たのでお邪魔しました」とか、「久しぶりにちょっと一杯」ができない時代ですから、せめてこんな形で接していただけるのはありがたいものです。
○誰にも会わずに直行直帰したわけですが、帰りに新大阪駅の構内でどこでも酒類を置いていないのには驚きました。いや、せめて缶ビールくらい売ってないのかと探しちゃいましたよ。いつも通り「551」の豚まんを買いましたが、誰一人行列がいない。こんなことも初めてです。
○もちろん新幹線の社内はガラガラ。こんな状態がいつまで続くのでしょうか。うーむ。
<9月5日>(日)
○自民党総裁選挙に向けて永田町が動き始めました。こうなると野党が空気になってしまうのはいつものことですが、まあ、仕方ありませんな。何しろ今の野党第一党は、政権を取るつもりはないけれども、今より下に落ちる心配はなく、その上、党首の座を脅かす者が誰もいない、というまことに結構な選挙互助会ですから。それよりも問題は、政権政党たる自民党です。
○振り返ってみると、菅さんは自民党では初めて、「派閥に属していない総理」でした。主要5派閥の支持が得られているのだから、それで何の不都合もないように見えたのですが、いざというときが来ると「派閥がない」ことが重荷となりました。なにしろ起死回生の党役員人事をしようとしたら、主要派閥から相次いで「協力しないよ」と言われてしまった。それが最後のダメ押しとなったのですから。
○もうちょっと言うと、菅さんが先週時点で「総裁選前の解散の可能性」を検討したということは、自民党員としてはまったく論外な行動で、それこそ船を見捨てる船長のような発想でした。これも菅さんがどこかの派閥の一員であったなら、出てこない発想だったのではないでしょうか。つくづく菅さんは異例の自民党総裁だったと思います。
○最後の日々に菅さんが、小泉進次郎環境相を何度も呼んでサシで話したのは、周囲に友人が居ない孤独な首相ならではの景色だったかもしれません。何しろ総理の周りを固めているのはイエスマンばかりで、加藤官房長官さえ距離を置いていたようですから。
○ということで、不肖かんべえとしては、「次はとにかく派閥に属している人」を選ぶほうがいいと思います。いやいや、その派閥が融解しつつあるのだよ、と言われればそれもその通りかもしれません。河野太郎さんが相談に訪ねて行ったところ、派閥の長たる麻生さんは「賛成もしないけど、反対もしない」と答えたそうです。だって麻生派も若手は河野支持だけど、中堅より上は「それじゃ困る」ですからねえ。
○安倍さんも悩んでいるようで、高市さん支持なんだそうです。まるで「盟友のジョン・マッケインよりも、サラ・ペイリンの方が私と考え方が近い」と言っているように聞こえます。それってつまり、細田派も一本化はできそうにない、ってことですよね。若手は河野支持かもしれない。みんな自分の選挙のことを第一に考えますからね。
○まして二階派が推薦人を貸して石破さんを助けてやろう、などと考えるのは見え見えで、そんなのでモメンタムができるのだろうか、と正直、疑問です。石破さんが国民的に人気があったのは、自分より強い安倍さんに立ち向かっていたからであって、二階さんを頼るような石破さんに追い風が吹くでしょうか。
○こうなると、リアルでは人に会いにくい、という今の状況はかなり難しい。「結束した1割は、他の9割を支配する」という派閥の法則を考えると、岸田派が実は有利なんじゃないのかなあ、と考えております。
<9月6日>(月)
○今日は「JS政民合同会議」の講演会へ。講師は甘利明さん。演題は「日米台vs中国経済の命運を握る半導体の行方?世界の『半導体不足』で車や家電、幅広い企業全体に減産打撃が広がる」という、いささか鬼面、人を驚かせるような派手なものでした。
○甘利さん、「今日は経済安全保障の話ですから。政局はナシね」と言って話を始めるのでありますが、そこはそれ、サービス精神もあってのことでしょう、ちゃんと脱線してこんなことを発言されたのでした。
●自民・甘利税調会長が河野氏に皮肉 「迷走したのに評価上がった」
○デジタル庁が1年でできたのは、日本新記録の速さである。これは菅さんの「強引力」のたまもの。ワクチン接種の100万人態勢も同様。それがなぜ菅さんが叩かれて、河野太郎さんの人気が上がるのか・・・。甘利さんは、「3A+S」の一員として安倍内閣を支えた人ですから、「河野はもっとちゃんと菅を支えろよ!」と思われたのかと拝察いたします。
○確かに菅さんは今はボロボロの状態ですが、デジタル庁はもちろんのこと、東京オリパラ開催では全くブレず、カーボンニュートラルに携帯料金値下げに不妊治療の保険適用、福島のトリチウム水の海洋放出まで、仕事師としてはこれ以上ないくらいに仕事をしていたので、後はもうちょっと明るさとコミュニケーション力があれば、こんなことにはならなかったのだろうと惜しまれます。
○お話が終わったら真っ先に手を挙げて、ややヨイショ気味の質問をさせていただきました。経済安全保障の話を政治家がすると、ついつい「勇ましい話」が出やすくて、そうなると民間企業としては困るのだけれども、そうなっていないのは甘利さんが人事をコントロールしているお陰なのですね?などと。
○すると甘利さん曰く。国防族、産業族と私のチームにはいろいろいるけれども、今の自民党の3回生から5回生にはスゴイのがおりますぞ。「魔の三回生」だなんてとんでもない。河野、小泉を上回る人材がいる。彼らに対して、政治家は10年後を考えて、そこから逆算して政策を考えるのだぞ、と言っている。でも、選挙は今の受けだけだからなあ・・・・などと。
○短い時間でいろんな材料をいただけたと思います。それにしても「人と人が会う」こと自体が憚られる政局というのは、つくづく不自由なものであります。本日の講演会も、リモートで聞いていたらどれだけその場の雰囲気が伝わったことかと思います。やはり政治の話はリアルに限ります。
<9月7日>(火)
○今朝の産経新聞正論欄に掲載されました。
●信じたい米国民主主義の復元力
○間もなく到来する「9・11から20周年」についての感想を述べました。岡崎久彦大使がご存命だったら、こういうことを言われるのかなあ、などと考えました。
○こちらはリンクを貼れないのですが、電気新聞のコラム「時評ウェーブ」も本日掲載でした。こちらは「軽い帝国としての米国」というネタです。似たようなテーマですが、切り方はわれながらずいぶん違っております。
○ついでにもうひとつ、これは今朝の「くにまるジャパン」における発言内容です。
●今週になって劇的に値上がりした株価、その要因とは?」
○先週月曜日、8月30日の「モーサテサーベイ」における日経平均の予想値は、予想中央値が2万7900円、いちばん下が2万7200円で、いちばん上が2万8200円でした。1週間でずいぶん変わるものです。まあ、先週金曜日の米雇用統計が思ったより悪くて、テーパリングは後ずれするんじゃないかとか、感染者数がここへきて減っていることも株高の支援材料であろうかとは思いますが。
<9月8日>(水)
○本日は参議院の「国会議員政策担当秘書研修」の講師を務める。まあ、国会の中がどんなことになっているのか、私も別に詳しいわけじゃないのでありますが、それでも「政策秘書」というものが1990年代に誕生したことは、日本政治にとって良いことだったんじゃないかと思っている。そのお手助けができるのであれば、これはもう光栄の至りというものである。
○受講生は17人。与野党を問わず、幅広い年齢層の方が受けておられるが、男女比がほぼ半々という点が今日風である。いや、まさに世の中はこうあるべきなのである。2時間半の講義の中で、質問もたくさん頂戴しました。いやー、やっぱりリアルの講義はいいよね。こちらも刺激を受けました。
○国会議員というと、最近の世の中ではすぐに定数を減らせ、歳費を削れ、あいつらはケシカラン、という話になるのですが、これは民主主義を愚弄する考え方だと思います。有権者が選挙で送り出す代表なんだから、ちゃんとした事務所とスタッフをつけて、経済的にも見合う条件を提供するのが当然ではないかと思います。公設秘書は議員1人につき3人だけ、というのもそんなことでいいのでしょうか。
○だいたい法律を作る人たちの生活条件を悪くすることは、彼らに対して悪さをすることへのインセンティブを与えていることと同義であります。それで政治家が不祥事を起こしたら腹を立てる、というのはいかにもマッチポンプ的で褒められたことではないと思います。銀行員が、客のカネに手を出さないようにある程度は給与面で厚遇されているのと同様に、ちゃんと議員さんに年金も出してあげた方がいいのではないのかなあ。
○もっともこの国では、「〇〇代議士秘書」という名刺を出すと、ああ、この人ヤバい人かも、みたいに思われるところがまだ残っているわけでありまして、アメリカのCongressional
Staffとはえらい違いがあります。かの国では議会スタッフは社会的地位が高くて、上院議員ともなれば国費で大勢スタッフを雇って、それこそ会社の社長みたいなものであります。日本の場合は、立法関連の実務は全部霞が関の官僚機構に丸投げ、てな違いもあるわけでありますが。
○そういえば、昔、自分はアメリカの議会スタッフであったと詐称していた人がおりましたなあ。いや、誰とは言いませんが、ワシントン在住の日本人社会では評判になっておりました。インターンでもアルバイトでも、スタッフと言えないことはないけれども、立法調査官はまずいっしょ。ちなみに本物の議会スタッフであった中林美恵子さん(現・早稲田大学教授)は、ご自分の経歴を「連邦議会上院予算委員会補佐官」とされているようです。
<9月9日>(木)
○こんなデータを頂戴しました。
●岸田文雄
宏池会出身5人目 池田勇人、大平正芳、鈴木善幸、宮澤喜一
青年局長経験者6人目 竹下登、宇野宗佑、海部俊樹、麻生太郎、安倍晋三
早稲田大学出身8人目 石橋湛山、竹下登、海部俊樹、河野洋平、小渕恵三、森喜朗、福田康夫
広島県選出3人目 池田隼人、宮澤喜一
銀行マン(長銀)出身では初、小選挙区で「1区」選出では初、開成高校出身では初
●河野太郎
慶応大学出身3人目 橋本龍太郎、小泉純一郎
党3役未経験者では宇野宗佑、小泉純一郎以来3人目(初代の鳩山一郎、2代目の石橋湛山を除く)
神奈川県選出4人目 河野洋平、小泉純一郎、菅義偉
50代での総裁就任8人目 安倍晋三(53歳)、小泉純一郎(59歳)、河野洋平(56歳)、橋本龍太郎(58歳)、海部俊樹(58歳)、田中角栄(54歳)、岸信介(59歳)
○いろいろ意外に感じられることがあります。
(1)自民党総裁の早慶戦は早稲田が圧勝!首相にはならなかった河野パパを含む数字ですが、それでも7対2とは驚きです。
(2)広島県も神奈川県も、自民党総裁がいっぱい出ている県ですね。山口県が有名ですが、戦後に限ると岸、佐藤、安倍の3人だけ。1位は群馬県で、福田(赳)、中曽根、小渕、福田(康)の4人です。
(3)銀行員出身の総裁がこれまでいなかった、とはこれまた意外。そういえば商社マン出身者もたぶんおらんわなあ。林芳正さんと茂木敏充さんと福田達夫さんと、たぶんこの中から誰かがなるでしょう。
(4)開成高校出身者で初、というのも意外です。麻布高校は橋龍さんと福田(康)が有名ですけどね。それ以外では、高崎高校は福田(赳)と中曽根、山口高校は岸と佐藤、それから学習院高等科が麻生太郎に細川護熙、。
(5)若い、若いと言われていた河野太郎さんも既に58歳。自民党総裁になるにはもう若くないですね。安倍さんは若くしてなりましたが、田中角栄と1つしか違わなかった、というのはこれも意外です。
○え?高市早苗さんの分はどうしたのかって? 女性初で、奈良県初で、松下政経塾初で(首相は野田佳彦氏がいる)、神戸大学は宇野宗佑が神戸商大中退です。まあ、その辺で許しておいてつかぁさい。
<9月10日>(金)
○昨日、林芳正さんが外国人特派員協会(FCCJ)で行った記者会見がユーチューブにアップされているので、1時間かけて拝聴しました。いや、これが面白いの。でも、なんでFCCJは4Kにこだわっているんだろうね。
●4K高画質生中継 FCCJ 林芳正自民党前参議院議員
○いくつか「ツボ」だった点をご紹介いたしましょう。
●今回の自民党総裁選では1〜3回生の若手が「自由に投票したい」と派閥の締め付けを拒否している。なぜなら総選挙が近いから。「派閥の言いなりになっている」と有権者にみられることは、彼らにとってリスクとなる。昨年の総裁選では5つの派閥がすぐに菅支持を決めたが、今年は時間がかかっている。派閥の力は弱まることになるだろう。
――「魔の3回生」などと言われる心もとない世代ですが、彼らも今度の選挙では腹をくくらねばならなくなる。ベテラン議員と利害相反が生じるのは当然でしょう。やはり今回の総裁選挙は票読みができない。そういう勝負をいくつも乗り越えてこそ、政治家は磨かれて度胸がつくというものであります。
――昨日もワシは、自民党政調会の「新経済指標検討プロジェクトチーム」会合にリモート参加していたのですが、自民党の若手議員というのは面白いです。林座長が居なくなったので、福田達夫事務局長が仕切っていましたが、これからの時代の経済指標がいかにあるべきかという議論を、「元祖オタク議員」の山田太郎氏なども含めて大まじめにやっておるのです。この総裁選の最中に。
――これに比べると、野党の面々は今でも「モリカケ」や「日本学術会議」の問題が最優先のようであります。もちょっと普通の人の腹の足しになるような議論をしてくれれば、メディアも関心を持ってくれると思うのですが。
●自民党総裁選は「高市=タカ、河野=中間、岸田=リベラル」とみられているが、実は安倍首相から菅首相になった時点で、自民党はかなり変わっている。菅さんは社会政策にはリベラルで、夫婦別姓にも賛成の立場。高市候補は安倍路線の継承を目指していて、経済政策ではニューアベノミクス、社会政策でも保守路線。それに対し、河野候補は30年来の付き合いだが、社会政策ではリベラルで、経済政策では小泉・安倍路線。ときどき頭に血が上ってタカ派に見えることがあるが、本質は違うと思う。
――要するにこんな感じなんですな。
外交・安保政策 | 経済政策 | 社会政策 | |
高市早苗 | タカ派 | ニュー・アベノミクス | 安倍路線の継承 |
岸田文夫 | 現実路線(元外相) | 分配政策に力点 | リベラル |
河野太郎 | 現実路線(元外相) | 小泉・安倍路線の継承 | リベラル |
○こうなると、カギを握るのは経済政策で、岸田候補は新機軸を打ち出すと言っている。
●岸田氏の経済政策は再分配政策。別の言い方をすれば「資本主義4.0」。@古典的資本主義、A福祉国家、Bレーガン・サッチャー流に続くもので、日本もジニ係数が拡大している。今までのように、税制で福祉政策ができる時代ではなくなった(夫婦に子供二人というモデル世帯はもう時代遅れ)。
○「資本主義4.0」というと耳障りはいいけれども、具体的にどうやって再分配を行うのか、税収の確保はどうするのか、公平性をどうやって担保するのか、などの点をこれから突っ込まなければなりません。他方、河野氏が継承するであろう菅義偉首相の「プロ・ビジネス路線」はこれからどうなるのか。例えば「IR建設」のアイデアをどうやって軌道修正するのか。9月29日の投票日までは、まだたっぷり時間があります。
<9月11日>(土)
○今日は「9/11から20周年」の日であります。それについてはもういろいろ書いたので、相変わらず政局についてのヨタ話を続けます。
○9月9日にリモートの会議で会った福田達夫さんが、9月10日にはこれもリモートの会議で、「党風一新の会」の設立総会を開催したそうです。若手議員90人が参加するとのこと。国会議員票が383票ですから、それだけで実に4分の1近い勢力ということになります。
○不思議だなあ、と思っていたのですよ。9月3日に菅さんが不出馬発言をしてから、自民党内の動きが妙に遅い。普通だったら、バタバタっと候補者や推薦人が決まるはずのところ、昨日になってようやく河野太郎さんが出馬表明をするのですから。石破さんと野田さんは、まだ出馬か不出馬かが決まらない。
○何でこんなに時間がかかるのかと思ったら、要はコロナのせいなのでありますな。河野さんは、何度も財務省に通って麻生さんに嘆願したみたいですが、そりゃあ時間がかかる。というか、そもそも自民党内の根回しは、リアルで人に会うことがデフォルトになっているのです。仮に留守電に、「あなたの推薦人になってあげるから」というメッセージがあっても、やはり本人に会って確認しないと心配ですわな。
○ところが若手議員は、普段からリモートやSNSを使って意思疎通をしているから、これはもう全然別世界な訳であります。彼らの目から見たら、派閥の幹部がやっていることは、わざわざ若手社員を喫茶店に呼び出して、「君の気持ちはよくわかるよ」などと言っていた昭和のサラリーマンみたいなものでしょう。
○この世代間ギャップはいかにも深い。自民党の中にはこんなFault
Line(分断線)ができている、というのは発見でありました。福田さん、なかなかやりますなあ。
<9月12日>(日)
○『週刊 金融財政事情』で連載している「コロナ下のリーダー群像」が、自分なりに言うと山場を迎えている。
○先週末は、「第6回インド編」を入稿したところなのだが、ナレンドラ・モディ首相のケースはかなりひどい。これをどう評価すればいいのか、正直、頭を抱えたくなるところである。インド経済がご専門の佐藤隆広教授(神戸大)に助けを求めたら、「お手上げです。吉崎さんが何と書くか、楽しみです」と言われてしまった。
○この連載、ダイヤモンドオンラインに転載されている。会員登録すれば、月に何本かは読めるらしいので、よろしければ覗いてみてやってくださいまし。
●第1回 コロナ下の指導者の条件とは?日本で目立つ「謝り下手」の政治家たち
●第2回 バイデン大統領の「波瀾万丈」な人生、二回訪れた悲劇の別れ
●第3回 ニュージーランド史上「最年少」の女性首相がマニアを生む理由
○第4回分は、英国のボリス・ジョンソン首相を取り上げました。彼のことを「許されキャラ」と評してみたのですが、やっぱり愛嬌のある政治家は得をしますよね。特にコロナ下の今見たいに、「前言撤回」を必要とする局面においては。「無謬性」を全面に押し出すと、痛い目を見る確率が高いです。
○ちなみに「許されキャラ」という言葉、ワシは「プロフェッショナル 仕事の流儀」で覚えたんだよね。安野モヨコさんが、夫の庵野秀明氏のことを、「自分のことを『許されキャラ』だと思っているみたい」と言っていたので、なにかピンとくるものがありました。そりゃあエヴァのファンは、庵野監督は絶対的に許される存在な訳でありまして。
○政治家にとって「愛嬌」は、「度胸」と同じくらい重要な資質だと思います。政治家に限らず、人の上に立つ人はおしなべてそうですな。菅義偉さんは後者に恵まれていたけれども、前者があまりにも足りなかった。なおかつ、そのことに対して無自覚だった。だから名官房長官だったけど、総理としては名を成せなかった。難しいものですな。
<9月13日>(月)
○今朝のNHKラジオ『マイあさ!』(6:45am〜6:53amくらい)で、電話出演にて「米FRBが目指すテーパリングとは」というお話をしたのであります。
○私もそこは一応プロの自覚(?)がありますので、「QE」とか「FOMC」みたいな言葉を一切使わずに、わかりやすく「テーパリング」を説明をする原稿を事前に送ったのであります。いや、"taper"なんて単語、日常会話ではあんまり使わんのですけどねえ、みたいなことを言って。ところがこの原稿、NHK側からは真っ赤に直されて帰ってきて、思わず「そこからですか!?」と叫びたくなるほどでした。
○いや、これはワシの方が間違っている。同じ時間帯にテレビ東京をつければ、そこでは「先週のECBが決定したPEPPの縮小は、一見テーパリングのように見えますが、実はテーパリングではないのであります」みたいな議論をしている『モーサテ』という番組があります。でも、それはとっても特殊なマーケットであって、日本国民の平均的な善男善女からは程遠い世界なのである。
○朝のNHKラジオというものは、地方都市の自動車通勤の人たちが聞いていたりするものである。そういえば富山在住の親戚から、「聞いたよ〜」と言われたことがある。ということは、ワシはこの親戚に伝えるような気持ちで語らなければならないということなのである。テーパリングとは何ぞやというお話を。これはかなりハードルが高いのである。
○ところで「テーパリング」というのは、本来は医療用語だったんだそうです。いやー、知りませんでしたがな。そんな面白いネタ、知ってたら当然使ってますけど。
テーパリング(てーぱりんぐ、tapering)とは、薬剤などを少しずつ減らすことである。漸減法。一度に中止すると副作用の危険性がある薬剤などに対して行われる。
○つまり今やっている量的緩和政策というものは、薬物中毒と似たようなものだということになります。いや、恐ろしい。自民党総裁選挙でも、「次の日銀総裁はどうあるべきか」みたいな議論をくわえるべきではないかと考えて次第なのであります。
<9月14日>(火)
○今朝の「くにまるジャパン極」で、「菅義偉内閣がこの1年間に行った仕事トップテン」をご紹介しました。こうやって並べてみると、ちょっと壮観です。
@ワクチン接種体制の構築。当初、「1日100万回体制」は到底無理だと思われたが、9月12日時点でワクチンを2回接種した比率は全人口の5割を超えた。アメリカを抜くのはもう時間の問題だ。
A東京オリパラの実施。いろいろ議論はあったにせよ、また無観客だったにせよ、とにかく大きな事故もなくイベントを終了させた。アスリートたちにとっては、「ありがとう、菅さん」だろう。
B「2050年カーボンニュートラル」の宣言。「2030年46%減」という手前の目標は個人的には難ありと考えるが、ともあれ大方針を決したことは歴史に残る仕事。
Cデジタル庁の創設。1年でスタートにこぎつけたことは、「日本新記録」(甘利税調会長)の速さと言える。小さな組織だが、「デジタル敗戦」と言われた過去を否定できるか、これからが勝負。
D訪米、コーンウォールG7会合出席などの一連の外交成果。外交文書に「台湾」を入れることはG7のコミュニケにも踏襲されたが、もとは日米首脳会談で決めたこと。長年の国際政治のタブーを破った。
E福島のトリチウム水の処理決定。安倍内閣が先送りしてきた課題に目途をつけた。今までは「風評被害が…」と他人事のように言い続けるだけで、何もしなかった政治にケリをつけた。
F携帯料金値下げ。お陰で消費者物価のグラフは4月にカックンと前年比で低下した。4300億円分の家計負担の軽減となり、それだけ可処分所得が増えたことを意味する。
G2021年の最低賃金は過去最大の上げに。全国平均で28円の引き上げ。コロナ下の飲食業界にとっては大きな負担となったはずだが、「最低時給1000円」を目指すのは正しい方向と考える。
H不妊治療への保険適用。来年4月からスタートの予定だが、遡って今年1月から助成を拡充。年収730万円未満という所得制限も撤廃へ。
I過去の積み残し法案の処理。国民投票法案、種苗法、重要土地取引規制法など。総じて安倍内閣8年間のやり残しを大掃除した1年間でした。
○ワシ的には菅内閣の退陣はやむなしと考えるものですが、それでも上記のような功績は認めるべきでしょう。まるでワーカホリック内閣で、解散する暇を惜しんで仕事を続けたが、結果的に解散のタイミングを逃して最後は孤独のうちに倒れることとなった。あ、そういえば上記には「孤独・孤立対策担当大臣を設置したこと」は入っておりません。
○来週の菅さんは国連総会のために訪米し、初のリアルQUAD首脳会談にも出席するとのこと。3月に行われた初のQUAD会合はオンラインで、「年内にリアルの会合を実施する」と決めていた。6月のG7で実現するはずが、インドで「新規感染者数が1日40万人」というすごい事態になってしまい、モディ首相が来られなかった。10月にはローマでG20がありますけど、ここでやっておくべきでしょう。
○「あと1週間で辞める首相がなんで外遊するんだ」という批判は当然あるだろう。が、ワーカホリック首相にはふさわしい最後のご奉公じゃないでしょうか。
○ちなみに新しい首相が誕生するのは、9月29日に新総裁が決まって、翌週に臨時国会が召集されて、首班指名選挙が行われてからとなります。それまでは菅さんが総理大臣。家に帰ってくるまでが遠足です。
<9月15日>(水)
○自民党総裁選挙の告示まであと2日。いろんな疑問が浮かんでくるところです。
*昨晩、「出馬を固めた」と報道された野田聖子さんだが、今日の昼以降は情報が少なくなった。推薦人は20人集まったのか、それとも切り崩されているのか。ご本人は明後日の朝まで、気が抜けない時間が続きそう。
――選択的夫婦別姓の是非をめぐり、高市早苗さんとは20年戦争を継続中とか。ここは意地でも出たいところでしょう。
*麻生太郎さんは、岸田陣営の出陣式に顔を出すのか?出さないのか? それ次第で、周囲の反応は変わってきそう。
――名前が同じ太郎で、お爺ちゃんは自民党の有名政治家。そしてご自分は元河野洋平グループ。「志公会はいずれ太郎に返す」つもりなんだけど、それを拒絶してしまいそうなところが太郎の太郎たるところですわな。
*二階俊博さんはいったいだれに投票するのだろう。岸田は許せん、高市は考え方が違い過ぎる、河野は、あの小童めが。ううむ、まったく想像がつきません。
――だったら野田さんを応援してあげりゃいいのに。まあ、寝業師ですから、何か仕掛けてくれることでしょう。
*河野vs.岸田の決選投票になったとき、高市さんはどんなふうに行動するのがいちばん賢いか。
――ワイルドカードという立場は、変に欲がなければ楽しいポジションと言えましょう。
*石破派の議員たちは、今度こそ「冷や飯」組から卒業できるのか。何しろこれまで派閥に反対してきた人が派閥の領袖なので、変なボスについていくのはつくづくたいへんだ。
――斎藤健さんがこんなことを言っている。「石破氏自身が判断するしかない」。これを読むと、石破派の苦しい事情がしみじみ伝わってきます。
*当選1回〜3回生で創る「党風一新の会」メンバーは、投票日の演説や当日のツィートに流されて投票を決めるんじゃないだろうか。
――「2A+2Fの長老政治に叛旗」だなんて、誰が上手いことを言えと。でも比例代表の議員さんたちにとっては、これは確かに死活問題だ。
○ちなみに衆議院選挙の時だけは「公示」。そうでないときは「告示」。間違えちゃいけませんぞ。
<9月16日>(木)
○野田聖子さんが出馬とのこと。前日まで正式な発表を引き延ばしたのは、実は「死んだふり作戦」だったのかも。20人の推薦人がどういう仲間なのか、ちょっと気になります。
○野田氏は旧高村派。自民党の派閥の中では最も左に当たります。仮に今の4候補者で「選択的夫婦別姓」を議論するとなると、賛成3に反対1となる。自民党も様変わりですな。今回の総裁選挙では、社会政策が意外と注目を集めるかもしれません。
○候補者の数が4人になったことで、河野陣営の「1回目で勝つ」作戦は急に難しくなってきました。3人と4人では、党員票の割れ方が変わってきますからね。河野、石破、進次郎と人気者を集めてぶっちぎる作戦だったようですが、「4番バッターを3人も4人もそろえて野球に勝てるか」との指摘が重くのしかかります。
○ともあれ、「聖子ショック」はいろんなところに波及しそうです。明日の朝は、日経モーニングプラスFTに出演予定なのですが、資料は全部3人分で準備しているはず。どうするんだ〜、今から間に合うかな〜? まあ、ワシ自身はいつも通りの出たとこ勝負ですけれども。
<9月17日>(金)
○本日、自民党総裁選に立候補した4候補の推薦人をメモしておきましょう。
●【河野太郎】
〔衆院〕穴見陽一(3)、義家弘介(3)(以上、細田派)、 阿部俊子(5)、高橋比奈子(3)(以上、麻生派) 野中厚(3)、宮崎政久(3)(以上竹下派)、 伊藤忠彦(4)、岡下昌平(2)(以上二階派)、 平将明(5)、古川禎久(6)(以上石破派)、 坂本哲志(6)、石原宏高(4)、上野賢一郎(4)(以上石原派)、 伊藤達也(8)(推薦人代表)、田中良生(4)、武村展英(3)(以上無派閥)
〔参院〕中西健治(2)(麻生派)、 山下雄平(2)(竹下派)、 園田修光(1)、島村大(2)(以上無派閥)
●【岸田文雄】
〔衆院〕高木毅(7)、吉野正芳(7)(以上細田派)、 鈴木俊一(9)(推薦人代表)、山際大志郎(5)(以上麻生派)、 渡辺博道(7)、西銘恒三郎(5)、鈴木隼人(2)(以上竹下派)、 根本匠(8)、堀内詔子(3)(以上岸田派)、 土屋品子(7)、石田真敏(7)、梶山弘志(7)、大野敬太郎(3)、加藤鮎子(2)、本田太郎(1)(以上無派閥)
〔参院〕森雅子(3)、宮本周司(2)(以上細田派)、 今井絵理子(1)、猪口邦子(2)(以上麻生派)、 二之湯智(3)(竹下派)
●【高市早苗】
〔衆院〕馳浩(7)、西村康稔(6)(推薦人代表)、高鳥修一(4)、佐々木紀(3)(以上細田派)、 木原稔(4)(竹下派)、 山口壮(6)、小林鷹之(3)、小林茂樹(2)(二階派)、 古屋圭司(10)、江藤拓(6)、城内実(5)、石川昭政(3)、黄川田仁志(3)(以上無派閥)
〔参院〕山谷えり子(3)、佐藤啓(1)、山田宏(1)(以上細田派)、 小野田紀美(1)(竹下派)、 衛藤晟一(3)、片山さつき(2)(以上二階派)、 青山繁晴(1)(無派閥)
●【野田聖子】
〔衆院〕百武公親(1)(竹下派)、 福井照(7)、大岡敏孝(3)、神谷昇(2)、出畑実(1)(以上二階派)、 宮路拓馬(2)(石原派)、 川崎二郎(12)、渡海紀三朗(9)、浜田靖一(9)、木村弥生(2)(以上無派閥)
〔参院〕渡辺猛之(2)、元栄太一郎(1)(以上竹下派)、 鶴保庸介(4)、三木亨(2)、岩本剛人(1)、清水真人(1)(以上二階派)、 三原じゅん子(2)(推薦人代表)、柘植芳文(2)、徳茂雅之(1)、山田俊男(3)(以上無派閥)。
○ウィキの自民党総裁選の項目を読んでいて、そのときどきの20人の推薦人を見ていて、政治家同士の人間関係の深さに感じ入ります。「あっ、この人はこのときは××さんを推薦していたのか!」「それが次の機会にはそうなっていない・・・」(そうか、閣僚になっていたものな)などと、さまざまな個人的事情が重なり合うのでありますよ。人間関係の織り成す綾は、たぶん当人たちでなければ分からないものがあるのだと思います。
○で、2021年総裁選における推薦人リストを見ていると、真っ先に頭を抱えてしまうのは、「二階派はいったい何を考えているのだ?!」であります。
○岸田派以外の3つの派閥にまんべんなく推薦人を送り込んでいるのですから、「岸田だけは許さああああん!」(何が党役員の任期制限だ!)という幹事長のお気持ちはよ〜くわかります。その一方で、野田聖子候補に8人もの推薦人を送り込み(うちお1人は別れた元配偶者様ですが)、二階派の支援なくしては彼女の立候補は不可能だったはず。
○ところが彼女が「第4の候補者」になったために、河野太郎候補が「1回目の投票で過半数を確保して勝つ」という戦略が一辺に危ういものとなりました。そりゃそうでしょう。3人の争いならともかく、4人の争いで5割を取るのは至難の業ですからね。そして決選投票になれば、岸田文雄候補が有利になるのは火を見るよりも明らか。たぶん「2A」がそっちを応援しますからね。
○それでは、なぜ「2F」さまはそんなことをお許しになったのでしょう。次の中から正しいものを選べ(5点)。
@野田幹事長代行は、幹事長に真面目に尽くしてくれた良い部下であったから。
A菅が「頼むから野田を出させないでくれ。そうすりゃ河野が1回目で勝てるから」とねじ込んできたのにムカついたから。
B小池百合子都知事が「女性が少ない」と言っていたのに納得して。
Cもうボケていて、どうでもよくなっているから。
○これはもう「シュレーディンガーの猫」並の難問と言えましょう。初心者のワシなどには、とても及ばない深い境地でありんす。
<9月19日>(日)
○東洋経済オンラインの記事が1日遅れでアップされました。競馬の予想は明日、月曜開催の「朝日杯セントライト記念」を取り上げていますので、ごゆっくりご検討いただければと存じます。
●去る菅首相がやった仕事「勝手ランキング10選」
○菅さんが首相になってから、まだ1年と3日しかたっていません(2020年9月16日に政権発足)。それでこれだけの仕事を残しているのだから、これはもう感心するしかありません。国民の側からすれば、「菅内閣を使い倒した」という感じじゃないかと思います。
○ただし、ここで挙げた仕事のトップ10を見ても、見事に「方向性」というものは見えないところがいかにも菅さん流です。デジタル庁創設と、携帯料金値下げと、最低賃金上げと、福島のトリチウム水処理決定を、なぜ同じ人がやったのか。あらためて考えてみると不思議なのです。
○たとえば菅さんは、本当に東京五輪をやりたかったのでしょうか。「東洋の魔女」のことはちょっとだけ言ってましたけど、ホンネは「やらないわけにはいかないんだろ、だったら四の五の言わずにやるぞ!」ということだったんじゃないかと思います。そして見事なくらいブレませんでした。まあ、もうちょっと上手に説明してよ、とは思いますけれども。
○長期政権となった小泉さんや安倍さんの場合、ご本人が何をしたいかが割と明確でした。例えば、郵政民営化が本当に必要なことかどうかはよくわかっていなかったんだけど、国民はそれに向けて邁進する小泉さんを信頼して、高い支持率を与えていたのだと思います。やっぱりトップに立つ人というのは、何か明確なミッションを持っていた方がよいのでしょう。たとえ、それがピント外れなものだったにしても。そのことは、現在進行中の自民党総裁選挙を見ていくうえでも、重要なポイントではないかと思います。
○菅さんの場合、そのミッションが不明確でした。強いて言えば、「とにかく仕事がしたい人」というワーカホリック首相だったので、たくさん仕事をした割には評価してもらえない。それでも当・溜池通信的には、「やっぱりこれはすごいよ」と言ってあげたいと思うのです。とりあえず、ワクチン接種体制を残してくれたことには感謝あるのみです。敢えて言おう、「ありがとう、菅さん!」と。
<9月21日>(火)
○今日乗ったタクシーの運転手さんに、「内幸町の飯野ビルまで」と言ったら、かなりご高齢の方で、「内幸町と言えば、昔はNHKがありましたなあ〜」てなことを言うのである。いや、それは知識としては知っているけれども、ワシが小学生の頃に、NHK「将棋の時間」で詰将棋の答えをハガキで送っていたときには、もう今の『渋谷区神南2−2−1』でしたよ、などと応じると、意外なことを言うのである。
「お客さん、将棋ファンですか。あたしゃ、こないだ例の『三冠王』になった少年を乗せましたよ。市ヶ谷の将棋会館まで」
○いやいや、それは藤井聡太三冠(棋聖・王位・叡王)のことで、将棋会館があるのは本当は千駄ヶ谷なんだが、まあ、その辺のことは大目に見よう。でも、それって、「有名人を乗せた」自慢としては、かなり高位のものではないだろうか。藤井三冠が都内でタクシーに乗る機会って、そんなに多くはないと思うぞ。
○その藤井三冠だが、強過ぎるのである。昨日の順位戦B級1組の対木村一基九段戦は、最後まで王様と金将と桂馬と香車を動かさないままで勝つ、という不思議な対局であった。これじゃ木村九段は、しばらく尾を引くかもしれんなあ。王座戦に響かないといいけど。
(→後記:読者からご指摘アリ。6九金はちゃんと動いて、後から守りで打ったものですね。失礼しました。投了図では動いていないように見える、というのが正解。とはいえ、それでも十分にめずらしい)
○「千駄ヶ谷の受け師」が△3六歩、▲同香、△2五銀と打って金香両取りに出たところが対局のハイライトであった。藤井三冠、▲2四金、と空き王手に出たのがまるでサーカスのような一手。いやー、夢に出るよ、これは。これで1三の角がただで取られちゃう。その後も木村九段は「鬼我慢」を続けるのであるが、ややあって投了。やむなしか。
○8月12日以降で、対局が実に10局。うち4局がタイトル戦で、うち2回は二日制の王位戦。都合8勝2敗。移動日も併せると、ほとんど将棋漬けの過密日程だが、おそらく当人は楽しくてたまらない日々なんだろう。ちなみに10局のうち4局が対豊島竜王戦で、これで再来週には竜王戦の七番勝負が始まってしまう。こんなに強いのとしょっちゅう当たるのだから、なんだか豊島竜王に同情してしまう。
○それにしても、こんな名勝負がリアルタイムで見られるのは、将棋ファンとしてはしみじみありがたいと思うものであります。
<9月22日>(水)
○フジテレビの平井文夫さんがこんなことを書いている。
●まだ誰が勝つかわからない
1週間後には日本の新しい首相が実質決まるのに、恥ずかしながら僕にはそれが誰なのかわからない。こういうのは実に気持ち悪い。4人の候補が連日テレビ局をハシゴし「総裁選まつりだ」とはしゃぐ人もいるが、首相の交代というのはもっと「切羽詰まった」ことではないのか。
自民党総裁選は、調査を見る限り河野太郎氏が党員票でリードしているが、各派の動きを見ると議員票を合わせた1回目の投票で過半数を取るのは結構大変なようだ。岸田文雄氏、高市早苗氏が2位3位連合を組めば、2回目の投票の行方はどうなるかわからない、というのが大方の見立てである。野田聖子氏は立候補が告示ギリギリだったので勝負はこれからだ。
○いやあ、ホント分からない。せめて政治日程くらいは分かる範囲で書いておこう。
9月24日(金) NYで日米首脳会談+クワッド日米豪印首脳会談(菅首相は9/23-26まで訪米)
9月28日(火) 緊急事態宣言を解除
9月29日(水) 自民党総裁選挙投開票。新総裁を選出→新しい党三役を選出
10月4日(月) 臨時国会召集→首班指名→新総理を選出→組閣
10月8日(金)頃 新首相が所信表明演説→各党代表質問へ
10月14日(木)頃 衆議院を解散
10月21日(木) 衆議院議員の任期
10月24日(日) 参院補欠選挙(静岡・山口)
10月26日(火) 衆議院選公示
10月30-31日 ローマG20首脳会議
11月7日(日) 衆議院選挙
○前号の溜池通信では、野党の要請通り臨時国会で予算委員会も開き、「10月20日解散→11月9日公示→11月21日総選挙」という日程を示したのですが、永田町ディープスロートさんはメルマガでこんな風に言っている。
やはり、善は急げです。新総理は、就任に伴う様々な日程をこなしたところで、予算委員会などは行わず、間髪入れずに解散すると思います。
○ということで、11月7日か14日に総選挙、というシナリオを描いている。まあ、そっちの方がよろしいかな。なにしろ総選挙の後は、特別国会を開かなければならない。その後の補正予算編成などの日程を考えると、なるべく早めに選挙を終わらせておく方がいい。それ以上に、新総理誕生による「ご祝儀相場」のチャンスを逃してはもったいない。それに年末が近づくと、第6波の怖れもありますからな。
<9月23日>(木)
○中国に次いで台湾もTPPへの加盟を申請。中国は大真面目で入りたいというよりは、アフガン撤退でアメリカの信認が低下している間に一発かましてやれ、てな感じでしたが、台湾は大真面目でありましょう。
○こうなっている元々の原因は、TPPの追加参加条件(Accession)が非常に緩いもの――「既に参加している国の賛成があれば、APECのメンバーとその他の国々は協定に加わることができる」――であること。この部分の原文は下記の通り。
Trans Pacific Strategic Economic
Partnership Agreement(2005)
Article 20.6: Accession
1. This Agreement is open to accession on terms to be agreed
among the Parties, by any APEC Economy or other State.
○「その他の国々は」協定に加わることができるのであれば、ここでわざわざ「APECのメンバーと」なんて言葉を入れる必要はない。単に"by
any other State."でいいはず。ところが、それだと台湾と香港が除外されてしまうのだ。台湾と香港はAPECのメンバーではあるけれども、「国」ではないということになっている。つまり"by
any APEC Economy"という言葉は、台湾と香港に対してTPP参加の可能性を認めているわけだ。
○これはWTOへの加盟も同じことで、台湾は2002年にWTOに加盟したが、その正式名称は"Separate
Customs Territory of Taiwan, Penghu, Kinmen and Matsu (Chinese
Taipei) ”となっている。台湾・澎湖・金門・馬祖という島が、中国とは別建ての関税区域になっていますよ、という建付けである。だから、中国と台湾が同時にTPPに加盟してもおかしくはない。中国が台湾の申請に「ケシカラン!」というのは、理屈をわきまえていない。
○しかし実際問題としては、「既に参加している国の賛成があれば・・・」という条項があるのだから、先に入った国は気に入らない相手を拒絶することができる。中国が先に入ったら、台湾は当然は入れなくなるだろう。逆に台湾が先に入ってしまえば、中国に対してノーをいうことができる。いや、その前にきっと豪州さんあたりが「中国はダメ!」と言うかもしれませんが。
○一方で、TPPというのは既にルールができている。既に加盟を申請中の英国などは、それをどこまで呑めるか、受け入れられない場合はちゃんと個別にメンバー国と交渉してくださいね、ということになる。中国の場合は、国有企業への特別扱いから「データの自由な移動」まで、門前払いとなるべき条件がいっぱいある。そこで中国としては、「お前たち、中国に輸出したくはないのかああああっ!」と俺様ルールを押し付けようとするだろう。
○他方、台湾は思いつめたような状態である。本日付の蔡英文総統のツィートは重い。
石の上にも五年!
台湾は昨日正式にCPTPP加盟を申請しました。総統になってからこの水準の高い貿易協定の参加を準備してきました。我々は全てのルールを受け入れる用意があり、TPPに加盟したいと思っています。日本の友人たちには我々のこの努力をぜひ支持して欲しいです!
午後2:12 ・ 2021年9月23日・Twitter for iPhone
○台湾政治は、けっして自由貿易に対して前向きではない。特に民進党支持者はそうだ。しかしTPPに加盟するとなると、越えるべきハードルは低くない。だからこそ「我々は全てのルールを受け入れる用意がある」という総統の言葉は重い。とりあえず福島産食品の輸入制限は、規制緩和しなければならないだろう。そのことは当然、政治的コストを伴うことになる。
○ちなみに日経の秋田さんが、「TPP、米国の復帰こそ先決」と書いている。お気持ちは100%共有するけれども、今の米国議会でTPAが通過する可能性は限りなくゼロに近い。バイデン政権にそんな余力はないと思います。まあ、今週末の日米首脳会談のテーマにするのは悪くないと思いますが。
○そんなことより、台湾という弱者の動きを中国が読めていなかった、という点が面白い。こういう点に、中国外交の劣化を感じます。オオカミの振りなんてしているから、阿呆になるのですな。
<9月24日>(金)
○間もなく緊急事態宣言が解除されるぞよ、ということで、このところ10月以降の「スケジュール打診」が急に増えている。そりゃあそうだろう。これまでずっと国民全体が、常ならぬ毎日を続けてきたのだから。とりあえず「第6波」が来るまでは、なるべく普通の生活をして憂さを晴らしたいものである。
○その一方で、「ああ、これはもう二度とできないかもしれないなあ」と感じる風習もある。たぶん「忘年会」や「新年会」はかろうじて生き残るだろうけれども、企業における「歓送迎会」はなくなるんじゃないだろうか。あるいは欠席自由となるとか、歓送される当人が望まない場合は行われないとか。今まで嫌々付き合ってきた人たちが多かったからなあ。
○それはそれで結構なことなので、いずれ失われるはずの習慣がコロナ禍で加速されただけ、ということになる。その一方で、「孤独のグルメ」を楽しみたい人は確実に増えているはず。現状ではそういう人たちまで一律に「アルコール類の提供は自粛しております」などと言っておる。とはいえ、1人でしみじみ盃を傾けたい人に対してまで、アルコールを禁止する意味ってあるのだろうか。どう考えても、感染リスクは低いはずなのに。
○とりあえず来月は、函館と高松と青森に行くことが決定している。いやあ、なんとも久しぶりである。平常への回帰が進むことを期待するものであります。
<9月25日>(土)
○本日は『「太平洋の巨鷲」山本五十六』(角川新書)を読む。いや、このテーマにそんなに興味があったわけではないのだが、著者が『独ソ戦』の大木毅氏というから、これは読まねばならぬかと思って。
○恥ずかしながら、山本五十六のことをそんなに深くは知りませんでした。若い頃に日露戦争で負傷して、左手の指が2本なかった、というのも初めて知りました。しかしこの本の帯にある「名将か、凡将か?」という惹句はないだろう。あの真珠湾攻撃を立案した司令官が凡将ということはあり得ないし、それがもたらした結果を考えれば名将ということもあり得ない。喩えていうならば、ハンニバルやロンメル将軍を語るようなものであって、名将でも凡将でもないことは、最初から自明なことであるはず。
○山本五十六については、先行研究があまりにもたくさんあるので、本書は「戦略・作戦・戦術の三次元で、純粋に軍人としての能力を問う」と狙いを絞り込んでいる。とはいえ、「真珠湾攻撃は戦略的な成功か、失敗か」と言った時点で、それだけで本が一冊書けるようなテーマとなってしまう。なき岡崎久彦氏が、「戦前日本の失敗は2つだけ。日英同盟の破棄と真珠湾攻撃だ」と言っていたことを懐かしく思い出します。本書の作戦は、かならずしもうまくいっていないような気がします。
○とはいえ、あの『独ソ戦』の著者だけに、徹底したリサーチと抑制のきいた描写はさすがである。それこそホイホイとご飯が進むように読み進んでしまう。ただしあまりにストイックに魅力的な対象を書いてしまったために、著者は「あとがき」の中で、「将来、もし機会が与えられるのであれば、今度は、全人格的な山本論を試みたい」と吐露している。そりゃあ、そうなりますわ。本書の設定は、人間的魅力について全く触れない田中角栄論と同じくらい無茶な試みなのである。
○面白いと感じたのは2つの矛盾である。航空戦力の時代の到来を察知した山本が、戦艦中心の海軍観を捨てられなかったこと。そりゃあ、若い時分に日本海大海戦を体験したんだから、無理もないわなあ。新しい時代を察知した天才は、意外と古い時代のパラダイムに縛られていた。とはいえ、山本が単なる早見えの天才であったなら、海軍次官にまで出世することはなかっただろう。陸軍における石原莞爾がそうであったように、どこかで頭打ちになっていただろう。大組織の中でちゃんと生き残れる常識人でもあった、という点が面白い。
○もう一つの矛盾は、作戦を立てるのは本来、海軍軍令部の仕事であるのに、途中からは連合艦隊司令官の暴走を止められなくなってしまったこと。そりゃあ当たり前のことで、真珠湾攻撃のような戦史に残る成功を収めてしまったら、周囲が止められなくなってしまう。本人もまた、名将になってしまった自分を抑えられなくなったのではないでしょうか。その後、ミッドウェーやガダルカナル、「い号作戦」などでの海軍の失敗は、いわば必然だったようにもみえる。やればやるほど、「対米戦争は勝てない」という山本の大局観を立証してしまったことは、いかにもな展開だったといえましょうか。
○以前、江田島の旧海軍兵学校に行ったときに、山本五十六の書を見たことがあります。まるで女性が書いたようにたおやかな筆跡でありました。東郷平八郎の墨痕淋漓とした「皇国興廃在此一戦」という筆致とは対照的でした。「この人は意外と細やかな人だったんだろうなあ」と感じたものです。そのことをしみじみと思い出しました。
<9月26日>(日)
○これというほどの残暑もないままに秋到来ですな。過ごしやすいのはいいですが、台風の到来がちょっときになるところであります。
○9月24日がぐっちーさんの命日だ、と言うことに気づいて、2年前の今の時期に何をしていたか、自分のスケジュールをチェックしてみた。すると驚くべきことに、令和元年9月のワシは、週に5日も出社して(当たり前だが)、ものすごい数の会合に出席して人に会い(リモートで会うという選択肢はなかった)、いろんな仕事をしている上に、遊んでまでいたのである。うーん、コロナ前の日常は、ハードだったのですな。
○間もなく緊急事態宣言解除となりそうですが、そうかといっていきなり週5日出勤に戻したら、たぶんパンクしてしまうだろう。この間に年もとってるしねえ。とりあえず溜池通信の締め切り日には出勤しない(通勤時間がもったいないから)という習慣は維持したいと思います。
○出勤が減った分だけ、あちこちに寄稿する機会は増えました。きんざいの連載「コロナ下のリーダーたち」は第5回まで来ました。あと2回分も入稿済みなので、この週末はわりとのんびりできました。さて、今週は自民党総裁選がいよいよ投開票。どんな結果になるか、やっと見当がついてきた感じですね。じっくりと見届けたいと思います。
<9月27日>(月)
○自民党総裁選挙の投開票日が明後日に迫りました。今後、どういうところに注目すべきか、以下、思考実験をしておきましょう。
○明日28日が党員投票の締め切り日で、総裁選は29日(水)午後1時から始まります。投票前に各候補者が演説を行うはずなので、そこで誰が何を言うか、というのが最初の注目点。かつての民主党政権では、代表選挙の際には直前の演説の出来不出来で票が動きました。派閥単位の争いである自民党総裁選は、過去にはそういうこととは無縁だったはずなのですが、あいにく今回は派閥の締め付けが効かない選挙です。若手議員はそれで投票行動を決めるかもしれません。ともあれ、党員・党友票も含めた1回目の結果は午後2時20分ごろに公表されます。
(後記:自民党総裁選では候補者の挨拶等は一切抜きで、いきなり投票が始まるそうです。失礼いたしました)
○その時点の注目点は、@党員票で河野氏が50%を超えるか(超えた場合は、その結果を覆すことが躊躇われるようになる)、A議員票は岸田氏が優勢として、2位、3位との差がどれくらいか、B決選投票に残る2人は誰と誰か、Cその後に派閥単位でどんな投票行動が行われるか、ということになります。細田派はまとまれるのか、麻生派はどうするのか、何より二階派四十七士の動きが見ものです。何か面白いことをするんじゃないかなあ。
○決選投票が終わると、午後3時40分ごろに新総裁が選出されます。そこは自民党なので、「総選挙に向けて挙党体制を!」ということになって、負けた方が次期幹事長、みたいな流れになると思います。2012年に安倍さんが石破さんを幹事長にしたようなケースですね。新しい党三役の選出は、なるべくなら早い方がいいでしょう。週末には、「〇〇新首相への期待度」が世論調査で示されるでしょうが、これは「ご祝儀相場」になると思います。
○週明け10月4日には臨時国会が召集されて、直ちに首班指名選挙、第100代内閣総理大臣の決定です。ただし組閣は急ぐ必要がなくて、次期首相はなるべくなら「居抜き」で菅内閣を継承する方がいいと思います。何しろすぐに総選挙を迎えるわけで、それが終わればすぐに第2次××内閣が始まることになる。だったら、総裁選の論功行賞人事を急ぐ必要はありません。本格的な組閣は選挙後まで取っておく方がベターでしょう。
○世間的には、「総裁選後に誰が干されるのか」「河野が勝てば3Aが、岸田が勝てば2F+Sが力を失う」みたいなことが気になるわけですが、そういうことは総選挙の後まで先送りする方が賢いと思います。何しろ敵は党内ではなくて野党なわけですから。この辺が「自民党の知恵」というものでありまして、それがまだ残っているかどうかは定かではないのですが。
○てなことで、楽しみは尽きません。
<9月29日>(水)
党所属国会議員各位
党本部総裁選挙管理委員会
委員長 野田 毅
総裁選挙の当選者の決定について
本日、令和3年自由民主党総裁選挙において、議員投票の投・開票並びに党員投票の開票を行ったところ、
下記の結果となりましたのでご報告いたします。
議員投票 | 党員算定票 | 合計 | |
河野太郎 | 86票 | 169票 | 255票 |
岸田文雄 | 146票 | 110票 | 256票 |
高市早苗 | 114票 | 74票 | 188票 |
野田聖子 | 34票 | 29票 | 63票 |
<決選投票>
議員投票 | 都道府県票 | 合計 | |
河野太郎 | 131票 | 39票 | 170票 |
岸田文雄 | 249票 | 8票 | 257票 |
○これ、すごくないですか? 1回目、岸田さんは1票差の勝ちでした。1票差でも勝ちは勝ち。
○事前の予想では、岸田政権は「2位3位連合による逆転勝利」という原罪を背負って誕生するものと見なされておりました。ところがコウチカイプリンス、ハナ差とは言え逃げ切り勝ちなのです。ワクチンテイオーは議員投票でまさかの3着に沈みました。ショックは深いでしょう。逆にタカイチホークは議員票で3桁に乗せて、これはもうG1馬認定ですね。こんな風に玄妙な数字が出るところが、いつもながらの自民党の知恵というものであります。
○今回のレース、河野さんでも岸田さんでも、自民党は久々に宏池会からの総裁が出そうな感じでした。アメリカではバイデンさんがトランプを破り、ドイツではSPDがCDUを超える。つまりコロナ下の世界においては、必然的に大きな政府になるし、その中では左派政党が伸びるのです。そんな中で、自民党総裁選も久々にセンターレフトに弾が向かいそうでした。
○ただし、それでは自民党の右派が困るのですね。そこで安倍さんが高市さんを支援したところ、これが見事に化けた。ネット界における高市ブームはちょっとしたものでした。やっぱりこれがないと、自民党は選挙に勝てないのです。東京都議会選や横浜市長選挙では、これが決定的に欠けていた。結果的に、左から右まで幅広い支持層を作っているのだからお見事と言えましょう。
○岸田さんはこんな形でフルスペックの総裁選で完勝した。その上で総選挙に勝てば、思った以上に強い政権になるかもしれません。さらに来年夏の参院選を上手くしのげば、その後2〜3年は安泰となるでしょう。長期政権になる目はしっかり残されているのです。
○他方、この戦いでは「小石河連合」が敗者となりました。結果論ですが、菅さんが変な動きをしない方が良かったかもしれませんなあ。さる人曰く、「河野政権になったら、小泉官房長官、菅官房副長官があり得る・・・・」。いや、そんな神奈川県連合を作ったら、周囲はみんな引きますよ。ワーカホリック首相には、少しゆっくりお休みしていただきたいものです。
○2Fさんも最終局面で見せ場を作ってくれました。どうやら二階派が河野さんから高市さんになびいて、それで大差がついたようです。嫌いな岸田を勝たせてしまうが、勝ち馬には乗りたいし、アイツは少なくとも取引ができる相手だから(逆に言えば、河野の小僧はよくわからん)。――いやもう、永田町の論理って素敵です。
○問題は次の人事です。岸田さん、「1日かかる」と言ってましたけど、自民党役員人事の任期は明日で切れちゃうんですから、大丈夫でしょうかねえ。まあ、とりあえず今夜はおいしいお酒を飲んでくださいまし。
<9月30日>(木)
○岸田政権の人事が進行中。
幹事長 甘利 明
政調会長 高市早苗
総務会長 福田達夫
国対委員長 高木 轂
広報本部長 河野太郎
組織運動本部長 小渕優子
○甘利幹事長は大本命の人事でしょう。論功行賞もさることながら、なにしろ選挙が間近なので、候補者公認調整などの厄介な仕事がいっぱいある。ことによると、二階さんの首に鈴をつけに行く、みたいな仕事もあるかもしれませんぞ。若造には務まりませぬ。
○昨日の選挙結果であまり遠慮が要らないと判断してか、河野さんは党四役の下の広報本部長に。これは高市政調会長はもちろん、当選3回で抜擢の福田達夫総務会長よりも扱いが下ということ。これは屈辱でしょう。まして石破さんや進次郎さんは推して知るべし。ところで福田さんの三役起用は、きっと安倍さんがいい顔をしなかったはず。意外と傀儡ではないようですよ。
○高市早苗さん、防衛大臣なら靖国参拝も不問に付してもらえるかな〜と思ったんですが、前にもやった政調会長に。「あそこはねえ、『男の園』だから、女性の大臣が長持ちしないのよ」という説アリ。そういえば小池さんも稲田さんもそうでした。まあ、選挙が近づくと政調会長はテレビ出演が多くなるので、選挙公約の説明には適任かもしれません。
○いやあ、人事は面白い。この楽しみはしばらく続きますね。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki