●かんべえの不規則発言



2010年2月







<2月1日>(月)

○2月1日はオバマ政権が予算教書を発表する日ですが、「QDR 2010」も発表されるらしいですね。一部ですでにリークされていて、読んだ人によれば「昨年出回った構想に比べて、対中批判のトーンが弱まっている」とのこと。政治家が対中批判を強めているときに、軍人が同調することは出来ませんわなあ。そろそろ閉幕の今年のダボス会議は、「中国の悪口大会」の様相を呈していたとか。面白い現象です。

○米アップル社の「iPad(アイパッド)」が全世界で話題沸騰ですが、電子書籍って日本ではあまり流行らないような気がします。なにしろ、再販制度があるから書籍は定価販売でなければならず、それを崩さないことには浸透しにくい。もっともすでにアマゾンを介した中古本市場ができつつあるので、再販制度の崩壊もそう遠くはないのかもしれません。

○自分は古い人間ですので、本は紙媒体に限ると思っております。昔読んだ本はとっておきたいし、自分が線を引いたり、折り目をつけたりした跡が懐かしいというタイプなので、おそらく電子書籍には縁がないでしょう。そういえば、iPodもiPhoneもワシは持ってないんだなあ。

○雨が雪に変わって、東京もめずらしや銀世界。明日の朝、ちゃんと電車は走ってくれるかな。


<2月2日>(火)

○最近知ってショックを受けたこと。夫婦のどちらかが50歳以上になると、一緒に映画を見に行ったとき、入場料を1000円に割り引いてもらえるのだそうだ(ただし年齢確認が必要)。60歳以上になるとシニア料金というのは知っていたが、そんな扱いを受けてしまうとは悔しい。きっと今年の誕生日を過ぎても、「ワシはちゃんと1800円払う」などと要らぬ見栄を張ってしまいそうである。

○配偶者によれば、「だって女性は今でも、水曜日は1000円とかいっぱい割引があるから気にならない」とのこと。調べてみると、なるほど映画館の割引っていっぱい種類があるのね。「高校生友情プライス」とか、「ハシゴ割引」とか。映画館という「箱」の使用率は2割程度であるらしいから、少しでも動員数が増えるのなら割引した方がいい、という計算があるのだろう。

○とはいえ、自分が年寄り割引を受けるのは釈然としない。もしもこれが「50歳以上は当たり馬券の控除率を引き下げます」といわれれば、大いに喜んで享受しますけど。

○一足先に50歳になった某先輩曰く。「地井武男がやっている、『50、80、喜んで』という保険会社のCMがあるでしょ。あれを聞くと頭に来るんですよねえ」。なるほど。そういや、皇太子殿下のお誕生日もそろそろではなかったか。


<2月3日>(水)

"Why May?"(なんで5月なんだ?)というのは、アメリカ国内の知日派筋から昨今、頻繁に発せられる質問で、これに対する答えが難しい。そりゃそうだ。今、決断できない問題が5月になったら決められるというのは、どういう理屈なんだろう。ワシだって聞かれたら困る。その場合は、「アメリカ人に分からない問題は、日本人にも分からない。だって鳩山さんは宇宙人だから」とでも言ってごまかすしかあるまい。

○そうこう言ってるうちに、1月24日の名護市長選挙では案の定、基地移設反対派が勝ってしまった。こんな風に、時間がたつにつれて、日本政府の選択肢は狭まってくる。やっぱり普天間の代替地は、5月には決まらないだろう。そこで、「プランBが必要だ」(アーミテージ)といった声が多くなる。

○そこでこんな知恵はどうだろう。

(1)5月になったら、連立を組みかえる。社民党と国民新党を切り離し、公明党と組む。その上で辺野古案で押し切る。これで日米合意は守れるし、公明党はもともと辺野古案支持だし、どうだ文句あるか。7月の参院選では負けちゃいそうだが、公明党のバックアップがあれば怖くない。

――いかにも「昔の小沢さん」が考えそうなシナリオだが、いかにも小沢さんらしく「保険」がかかっていない。

(2)5月になったら、「佐賀空港」みたいにダメに決まっている案を出して、「日本政府はこれに決めました」と宣言する。アメリカ側は即座に「アホか」と言う。そこで、「残念ですね。約束どおり5月には決めましたが、合意が得られないのであればさらに時間をかけて検討しましょう」と言う。結論として、海兵隊は当分の間、普天間から動かない。

――ありそうなシナリオだが、岡田外相が手の内を見せてしまった。ダメですねえ。

(3)5月になったら、それまでにいろんなことが起きて、普天間問題どころではなくなっていることを祈る。

――これがいちばん実態に近いのかも。やっぱり「プランB」が必要なんでしょうねえ。

○江戸小話にこんなのがある。

借金取りに追われた男が、「明日まで待ってくれ」とせがむ。
借金取り曰く。「今ないものが、なぜ明日になったら返せるのか」。
男曰く。「サテ拾うかも知れず、もらうかも知れず」
借金取り、「もう我慢ならぬ」と怒り心頭。
そこへ男曰く。「待てまて、もうひとつ当てがある。明日までにあなたが死ぬかも知れぬ」

○お後がよろしいようで。


<2月4日>(木)

○朝青龍が引退とのこと。寂しいねえ。というか、これでは次に両国まで見に行こうという気が起きなくなりますな。相撲のチケットって高いですから、やはり迫力のある取り組みや、キャラの立った力士がいないと、興行的には影響が出るでしょうな。

○ともあれ、朝青龍は長きにわたり、日本の相撲界にモンゴルの草原の息吹を吹き込んでくれた。彼が日本に来なかったら、われわれはずいぶん詰まらない相撲を見ていたことだろう。せめて今後は、「日本に来てチヤホヤされ、最後は不幸になった外国人」の係累につながることのないよう祈りたい。

○ということで、ワシは朝青龍の相撲が好きであった。身体の小ささを、スピードで補って、とにかく勝ちにこだわる。一流の勝負師だ。なぜ日本人力士は、あのガッツを見習えないのだろうか。世の中全般が、「朝青龍には横綱の品格がない」なんてことを言っているから、覇気のない日本人力士が量産されてしまうというのは、思い過ごしだろうか。

○彼のようなヒールは、格闘技には欠かせない存在である。どうもその姿は一部、政界の小沢一郎とも重なるものがあるのだが、あたしゃそっちはキライである。ゆえに、「小沢は不起訴、朝青龍は引退」という今日の結果は、なんか面白くないのである。


<2月6日>(土)

○昨日は岡崎研究所でやっていた「日印安保対話」に顔を出しました。インドの大学教授が数人、訪日中ということで、金田海将から召集がありまして。

○あたしゃインドのことはよく知らないので、直前に付け焼刃でこれを読んでいきました。非常に良くできた資料だと思います。以前はインドと言えば、ニーズはあるのだけれど、とにかく研究者も少なければデータもない、という感じでしたが、急速に研究が進歩したものだと思います。

○とうことで、印象に残ったことをメモ。

○政治:2009年春の総選挙では、与党コングレスが予想外の勝利を得た。リーマン・ショック以後の選挙で、与党が勝っためずらしい例といえよう。それほどインド経済が好調なのかというと、かならずしもそうではなくて、選挙の広報戦術がうまくいったこと、農民の借金棒引き政策(!)が受けたこと、76歳のシン首相と38歳のガンジー幹事長のコンビが新鮮だったこと、などが原因であるらしい。

――「世界最大の民主主義国」だけあって、選挙について調べると非常に深い。

○外交:最も重要なのは対米関係であるが、この点で微妙なのはブッシュ政権が「原子力協定」などで堂々とインドびいきをやった後で、オバマ政権はやや距離を置いていること。なにしろアフガン戦争にコミットした手前、アフガンの第2戦線たるパキスタンへの気兼ねがある。ちなみに原子力協定の立役者は、上院議員時代のバイデンだったので、彼が米印関係のキーパーソンですな。

――大きな声では言いにくいことながら、「ブッシュ時代の方が良かった」と思っていそうである。

○経済:総人口11.5億人の約半分が25歳以下。ということは、労働人口の急増が大問題である。ということで、製造業を育成することが急務となっている(現在、GDPの6割はサービス関係)。他方、農村人口が7億人もいる。彼らの生活水準が急増することが見込まれるので、これから脚光を浴びそうなのがFMCG(Fast Moving Consumer Goods)産業。つまり石鹸、シャンプー、煙草、お茶、といった「足の速い日用品」の需要が期待できる。

――放っておくと、この辺の需要は全部中国企業に持っていかれそうである。

○"Dialogue"というよりは、ほんの1時間半の"Chat"だったので、たいした話はできなかったのですが、インド側の意見の多様性が面白かった。「中国は脅威か?」という問いを放り込むだけで、「脅威だ」「いや、貿易相手国だ」「エンゲージメントが重要である」「昔から西側ってのは、西側以外の勢力が台頭してくると脅威だと言うんだよ。日本も昔、言われただろ?」「グーグルのようなことはインドではあり得ない。だから安心して投資してほしい」など、実に豊富なリアクションが返ってくる。これぞIndia、ですな。


<2月8日>(月)

○今さらだけど、という話を何点か。

○今頃になって気づいたんですが、今年の年末でブッシュ減税って失効するんですね。そうか、もうあれから10年たつのか。ブッシュ政権が発足したとき、いきなり決めたのが1.35兆ドルの大減税でした。思わず10年前に書いた文章を探し出して読み返しましたな。

○去年から、オバマ大統領が「年収25万ドル以上のみが増税になる」と繰り返しているのは、「それ以下の人はブッシュ減税を継続する」という意味だったのね(それ以下の人=98%のアメリカ人ですが)。こんな単純なことに、あたしゃ今になって気がついた。米国情勢に詳しいエコノミスト、などと呼ばれているのが恥ずかしい。・・・・自分がアメリカで税金を払っていたら、絶対に気づいていたはずなのに。

○次にNHK大河ドラマの『龍馬伝』について。

○世間全般の評判はいいみたいですが、オープニングのCG映像が安っぽく見えるのが気に入らない。しかもなぜか、途中で、"Fighter", "Idealist", "Peace Maker"という言葉が浮かぶ。これらは龍馬に対する評価としては、あまり適当ではないと思うし、そもそもなんで英語なんだろう。制作者の底の浅さが垣間見えような気がするではないか。

○ワシなりの龍馬像を、敢えて英単語3つで表すならば、"Innovator", "Visionary", "Networker"といったところですな。本当は"Optimist"という言葉もピッタリだと思うのですが、これは変な意味にとられそうなので取り下げます。・・・・要はこのオヤジも若い頃に、「自分も龍馬のように生きよう」と思っていた時期があった、ってえことです。

○最後に中国経済について。

○なぜ、過去20年にもわたって高度成長が続いているのか、と聞かれて答えに窮する。「それは世界中の経済学者が困っている話で・・・・」などとごまかそうかと思ったが、なぜこんな単純な問題に答えがないのか。もっとも、それが分からないからこそ、「中国経済はいついつに崩壊する」という説が止まないわけであるが。

○これだけ長期間にわたる成功は、外部環境に恵まれたというだけでは説明しきれない。やはり政治が優秀だったと認めざるを得ません。中国共産党指導部は、非常に賢明な判断をしてきたと思います。しかも、ひとつの戦略が成功を収めたというよりは、絶えざる判断の変更が適切であった。1978年の改革開放路線、1992年の南巡講話、2001年のWTO加盟、2008年の大型景気対策など、今にして思えばまことに良くできている。

○もっとも、「これがいつまで続くか分からない」と思うからこそ、中国は脅威か、そうではないか、という議論が続くのでありましょう。きっとこれと同じ話を、世界中でやっていることでしょうね。


<2月9日>(火)

○本日の文化放送「くにまるワイド」で、「日本人アスリートの世代論」という話をご披露しました。アスリートを世代で分けてみると、面白いくらいに性格がきれいに分類できる、という話です。今週末から始まるバンクーバー五輪では、この第5世代に期待したいものだと思います。なお、以下の表では、冬季五輪関係を青字で示しています。


●第1世代:プレッシャー世代

1960年前後生まれは、人格者が多いのに不思議と国際勝負で弱かった。マラソンの瀬古、柔道の山下などは、本当ならばもっと簡単に勝てるはずなのに、組織や過去を背負ってしまう弱さがあった。

瀬古利彦 1956年7月15日
山下泰裕 1957年6月1日
中山竹通 1959年12月20日
谷口浩美 1960年4月5日
黒岩彰 1961年9月6日(カルガリー・500m・銅)
橋本聖子 1964年10月5日(アルベールビル・1500m・銅)


●第2世代:個性派登場世代

1960年代後半生まれになると、組織の重圧を離れて「自分のために」スポーツをする明るいキャラクターが増えてくる。ただし、かならずしも勝負強くはない。そんな中から野茂がメジャーへ挑戦し、後続への道を拓いた。

清原和博 1967年8月18日
中山雅史 1967年9月23日
原田雅彦 1968年5月9日(長野・ジャンプ団体・金、リレハンメル・ジャンプ団体・銀)
野茂英雄 1968年8月31日
丸山茂樹 1969年9月12日
伊藤みどり 1969年8月13日(アルベールビル・フィギュア・銀)
荻原健司 1969年12月20日(アルベールビル・団体複合・金)


●第3世代:マイペース世代

1970年代前半生まれ(いわゆる団塊ジュニア世代)になると、国際的な舞台に強いアスリートが急速に増える。なおかつ人格的にも愛されるタイプが多い。1998年の長野五輪で飛躍したのは、この世代が多かった。

伊達公子 1970年9月28日
岡部孝信 1970年10月26日(長野・ジャンプ団体・金、リレハンメル・ジャンプ団体・銀)
岡崎朋美 1971年9月7日(長野・500m・銅)
高橋尚子 1972年5月6日(シドニー・マラソン・金)
葛西紀明 1972年6月6日(長野・ジャンプ団体・金)
貴乃花光司 1972年8月12日
イチロー  1973年10月22日
松井秀喜 1974年6月12日
清水宏保 1974年2月27日(長野・500m・金、1000m・銅、ソルトレーク・500m・銀)
室伏 広治 1974年10月8日(アテネ・砲丸投げ・金)
船木和喜 1975年4月27日(長野・ジャンプ・個人金、団体金)
田村亮子 1975年9月5日(バルセロナ、アトランタで銀、シドニー、アテネで金、北京で銅)

●第4世代:アテネ五輪世代

1970年代後半生まれになると、日本人離れした個の強さが目立ち始める。特に「松坂・中田・北島」の3人が果たした役割は大きかったといえるだろう。アテネ五輪でブレイクしたのはこの世代が中心である。

里谷多英 1976年6月12日(長野・モーグル・金、ソルトレークシティ・モーグル・銅)
浜口京子 1977年 1月11日(アテネ・レスリング・銅)
中田英寿 1977年1月22日
野口みずき 1978年 7月 3日(アテネ・マラソン・金)
中村俊輔 1978年6月24日
上村愛子 1979年12月9日
井上康生  1978年 5月15日(アテネ・柔道)
松坂大輔  1980年9月13日(WBC・金)
谷本 歩実  1981年 8月 4日(アテネ・柔道・金)
伊調 千春  1981年10月 6日(アテネ・レスリング・銀)
荒川静香 1981年12月29日(トリノ・フィギュア・金)
塚田 真希  1982年 2月 5日(アテネ・柔道・金)
柴田 亜衣  1982年 5月14日(アテネ・水泳・金)
北島康介  1982年9月22日(アテネ・北京・水泳・金)

●第5世代:バンクーバー世代

とうとう1980年代後半生まれが世界の舞台へ登場し始めた。バンクーバー五輪は彼らの実力が試される舞台となるだろう。すでにこの世代からは、ダルビッシュや石川遼など、図抜けた実力と年に似合わぬ老成さを兼ね備えたアスリートが登場している。

加藤条治 1985年2月6日(バンクーバー・スピード)
伊東大貴 1985年12月27日(バンクーバー・ジャンプ)
高橋大輔 1986年3月16日(バンクーバー・フィギュア)
ダルビッシュ有 1986年8月16日(WBC、金)
織田信成 1987年3月25日(バンクーバー・フィギュア)
安藤美姫 1987年12月18日(バンクーバー・フィギュア)

福原  愛  1988年11月 1日
田中将大 1988年11月1日
浅田真央 1990年9月25日(バンクーバー・フィギュア)
石川遼 1991年9月17日
高木美帆 1994年5月22日(バンクーバー・スピード)


○この作業をやっていると、「上村愛子は荒川静香よりも二つ年上である」とか、「福原愛と田中将大は同じ日に生まれている」とか、変なことが気になりますな。ま、それはさておいて、ガンバレ日本!


<2月10日>(水)

○内外情勢調査会の仕事で、熊本県に来ております。やった!これで九州7県を全部回ったことになる。なぜか九州ど真ん中の県が、最後に残ってしまったのである。あらためて地図を広げてみると、熊本県は他の6県すべてと接しているのですね(佐賀県と長崎県は有明海を介してだが、他の4県とはすべて県境がある)

○が、しかーし。飛行機が機体整備不良のため、滑走路に出てからターミナルに逆戻り。当たり前のことが、当たり前に進むことのありがたみを、心ならずもスカイネットアジア航空さんから教わることになる。羽田を飛び立ったのはなんと12時過ぎ。お昼に予定されていた熊本支部の講演会には当然間に合わず、キャンセルに。orz。

○数えてみたら、これで2003年以来、通算78回目の内外情勢調査会の講師役でしたが、とうとう穴を開けてしまいました。残念無念。ご予定いただいていた皆様に深く、ふかくお詫び申し上げます。なお、夜の部の八代支部には間に合いましたので念のため。

○熊本県と言えば、今は何といってもこれをご覧願いたい。ちょうどPRソングが完成したところです。変にクロウトっぽくないところが、良い味を出しております。ちゃんと熊本県庁内に、スザンヌ宣伝部長の肖像が立っているのを目撃してきましたぞ。蒲島先生、もといカバシマ知事、頑張っておられますねえ。


<2月11日>(木)

○こういうの、覚えておくと後で便利かもしれません。


PIIGS: Portugal, Italy, Ireland, Greece, Spain

DEBT: Dubai, EU, Brazil, Turley

SICK: Spain, Iceland, Columbia, Kazakhstan

DUMP: Dubai, Ukraine, Mexico, Portugal

PUKE: Portugal, UK, EU

STUPID: Spain, Turkey, UK, Porugal, Italy, Dubai


○当今、新興国や資源国は元気である。先進国はヨタヨタしていて、借金も増えているけど、そこは図体が大きいありがたさで、日本もアメリカも何とかなっている。どうにも気の毒なのは先進国の周辺国。ギリシアなんて、アメリカの州程度の経済力しかないのだから、助けようと思えばわけはない。でも、政府が財政再建しようとすると、即座に公務員がストを打とうという国に、お金を貸していいものかどうか。

○もうひとつ。これは先日紹介した、「2010 QDRを担当した4人の女性」の名前です。


次官:ミシェル・フローノイ

副次官:キャサリーン・ヒックス

次官補代理:アマンダ・ドーリー

戦略担当部長:ローラ・クーパー


○細かな点ですが、普通のラインですと上から2番目には次官補(日本では局長級。議会承認が必要)となるのですが、ここでは議会承認が不要な副次官というポストになっています。フローノイとヒックスは、1997年のQDRを執筆したコンビなんだそうで、一種の「盟友関係」があるのかもしれません。関西風に言うと、「ニコイチ」ってやつですかね。


<2月13日>(土)

○今日からバンクーバー五輪、ということで、世間的には埋没してしまう危険大ありなんですが、今宵はこういう番組がNHKのBS放送で行なわれます。


BS特集 世界をどう再生するのか 〜世界経済フォーラム2010〜 (前・後編)

BS1 2月13日(土) 午後10:10〜午前0:00

スイスのダボスで毎年開かれる、世界経済フォーラム。40周年となる2010年のテーマは「世界の再構築」。一番の注目は“アジアの動向”だ。中国、インドなど新興国の力強い経済成長は、世界経済の新たなけん引役となる一方で、人権問題や貧困などの負の面が浮上することも考えられる。アジアの持続的成長は可能か? また統合の道は? ダボス会議の会場で公開討論を実施。首脳や専門家たちの熱い議論の様子を伝える


○なんとNHKがダボス会議でオーガナイズしたセッションが見られてしまうのです。ほんとは鳩山さんが出られるように、現場はいろいろ苦労したんだけど、ご案内の通りドタキャンになってしまい、古川元久副大臣が出たのであります。これはちょっと値打ちありまっせ。

○以上、番宣でした。


<2月14日>(日)

○始まってしまうと気になるのだな。オリンピックというものは。

○上村愛子。4回五輪に出て、7位―6位―5位―4位、というのがいかにも彼女らしい。最後までいい人過ぎて、勝負師にはなれなかった。だからメダルに手が届かなかった。でも、いいじゃないか。勝負師になるには、もっと性格を悪くする必要があるし、それだとアスリートを辞めて普通の人になってから苦労するではないか。

○それに今日、勝ってしまったら、スポンサーが増え過ぎて困ると思うぞ。パナソニックに日本生命にアサヒビールにTBCに。タレント業の世界では、商品価値が上がり過ぎると、往々にして後で苦労します。後で気軽にクイズ番組に出られる程度にとどめておいた方が無難というものです。

○国母和弘。こういう大ばか者を見ると、おじさんは嬉しくなっちゃうぞ。「反省してまーす」(ちっ、うるせえな)なんて、カッコ良過ぎます。スノボなんていう狭い世界で生きているから、世間様の怖さをご存じない。在籍する東海大学が遺憾声明を出したり、監督が謝罪に現地入りするに及んで、さすがに洒落にならなくなってきたらしい。

○でも、世間様なんてホントは怖くないんです。メダルを取って堂々と見返してやりなさい。やくみつるの苦言が小さく見えること請け合いです。もっとも、大口を叩いて金メダルを取ったけど、その後、やっぱり道を外れてしまった柔道の石井君という前例もあるので、やっぱり前途が心配かもしれません。

○上村と国母は善玉と悪玉の典型ですが、こういうキャラが居なかったら、誰もモーグルやハーフパイプなんて競技には関心を持たなかったでしょう。まだまだドラマは待っているものと期待しております。


<2月15日>(月)

○琴欧洲が披露宴だそうで。おめでたいですな。松戸に部屋がある琴欧州関は、よく南柏の「ステーキのあさくま」に出没するんだそうです。ニットの帽子で曲げは隠れているけれど、身長が190センチを超える人は滅多に居ませんから、すぐに分かっちゃうのだそうです。奥様がご一緒だったときもあるとのこと。これは町内会筋の情報から。

○COP15、コペンハーゲン会議の内情がだんだん伝わってきた。あちこちで記事になったり、関係者が話したりしているのを見聞きすると、「なるほど、こりゃひどいわ、中国外交は」と思う。オバマやサルコジは、本気で怒っていた由。昨今の中国への風当たりはたぶんにそのせいなんでしょうね。

○間もなく日本から出国するというジム・アワーさんから電話。「面白い鳥のジョークが流行っていると聞いたんだけど、教えてくれないかい?」――しょうがないから、一生懸命お伝えしましたよ。果たしてどんな英語版が、米国知日派人脈に広がるか、ちょっと心配です。


<2月16日>(火)

○ここ2週間くらい続いていた風邪が、やっと治まりつつある。熱が出なくて、咳が止まらなくなる風邪であった。やれやれ、ホッとした、と今日になって気づいたら、文化放送のくにまるさんも番組中にちょいちょい咳をしているし、和喜の親父も「やっと治ったよ」などと言っている。実はとっても流行っていたのかしらん。

○1年に1度くらい、風邪を引くと「ああ、冬場はやはりうがいをしなければ」と思うのだが、そういう殊勝な気持ちはすぐに失せてしまう。まことに困ったものである。この季節、空気が乾燥しますので、皆様もどうぞお気をつけて。


<2月17日>(水)

○内外情勢調査会、今週は山梨県の富士吉田市へ。周囲は雪景色で、とっても寒かったです。今日の天候ではさすがに富士山は見えませんでした。

○で、現地に到着してからハッと気がついたんですが、ここは富士急所属、岡崎朋美選手のホームグラウンドではありませんか。会場となった富士急ハイランドのホテルでは、午前中に女子スピードスケートのパブリックビューイングが行なわれて、地元の人が大勢集まっていたという。ところが岡崎選手、16位に終わったそうで、まことに残念。

○こんな状況下で、いつも通りに「当面の内外情勢と日本経済の課題」などという演題の話をするのは、とっても憚られると思いましたので、急きょ予定を変更して、当不規則発言の2月9日で書いた「オリンピックと日本人アスリートの進化について」を延々とお話しました。時節柄、結構興味を持ってもらえたんじゃないかと思います。

○こういう仕事をしているとしみじみ感じますが、オリンピックをやっている期間中には、それ以外のことは一気に魅力が落ちますな。今日だって、国会では党首討論があったそうですが、政治家同士の対決など、アスリートが全身全霊をかけて4年に1度のチャンスに賭けている姿に比べれば、迫力で劣るのは当たり前でしょう。他人が真剣にやっていることはすべからく面白い。そして五輪以上に人を真剣にさせるものは滅多にないのであります。

○で、考えてみれば、1980年代生まれのアスリートは着実に成長を遂げておりますね。昨日はスピードスケート男子で長島圭一郎(1982年生まれ)が銀、加藤条治(1985年生まれ)が銅、今日の女子では1984年生まれの吉井小百合が5位入賞。男子フィギュアも80年代生まれがいいところを見せています。「バンクーバー世代」に頑張ってもらいたいです。

○ところで今、CSISの日本副部長、ニック・セーチェーニ氏が東京に来ている。今宵、会った際に「例の鳥のジョーク、知ってる?」と聞いてみたところ、「ああ、いっぱいメールもらいましたから」とのこと。「あれってどうやって英訳するの?」と尋ねたところ、「まあ、無理でしょう」。やはり彼くらい日本語に堪能でないと、理解できないジョークであるようです。って、当然か。


<2月18日>(木)

○中東への出張から戻った人から聞いた話。「エミレーツ航空のビジネスクラスにいるのは、韓国人ビジネスマンと中国人ファミリーばかり。アメリカと日本のビジネスマンが、エコノミークラスで小さくなっている。いかにもですなあ」――つまりビジネスクラスがとっても賑やかなんだそうで、あんまり乗りあわせたくはないですなあ。

○朝鮮半島問題研究者から聞いた話。「イミョンバク政権は、米韓関係の安定に自信を持ちつつある。その一方、日米関係の不安が、北東アジアの安全を脅かさないかと心配している。昨年秋のアジア歴訪の際に、オバマ大統領はイミョンバクに対して、『日本の政権との付き合い方が分からない』とぼやいていたらしい」――やはり日本版のノムヒョン政権ができてしまったようであります。

○オリンピックもそうですが、最近は韓国がとっても元気。見習うべき点が多いんじゃないかと思います。そうかと思うと、これはつい最近、韓国駐在から帰ってきた人の感想。「日本人と韓国人は、違うように見えて意外と似てますよ。そもそも○○さんも××さん△△さんも、ご先祖は半島ですからねえ」――まあ、それを言ってしまうと、まったくその通りなのでありますが。


<2月19日>(金)

この話を聞いて驚いてしまったのですが、明治神宮にはパワースポットがあるのだそうで。「清正井(きよまさのいど)」は拝観料500円を取るというのに、平日でも5時間待ちの盛況ぶりだとか。井戸の写真を携帯の待ち受け画面にすると、運気が上昇するのだそうですが、そんな都市伝説がかくも広範に支持されるというのは、ちょっと驚きです。

○気がついたら今の世の中は、スピリチュアルとか風水なんてものが若い世代の間で変に定着している。ワシもその昔はオカルティズム研究をやっていた時期があるので、一概にその手のものを否定する気もないのだが、かといって科学的根拠のないものに、立派な大人が血道を上げるのもどうかと思う。

○考えてみれば、多くの人にとってネットが最大の情報源だという時代は、オカルティズムにとって良い環境なのかもしれない。占星術や錬金術は、神なき時代、権威なき時代に繁栄を見た。マスメディアが力を失っているからこそ、都市伝説が説得力を持つ、というのはありそうな話に思える。

○ちなみにワシはその昔、西洋占星術と手相と姓名判断は相当に凝った。これらの占いは、それなりに体系だっているし、占いから得られる結果も馬鹿にしたものではなかったと思う。とはいえ、マジで当てにするようになったらお終いでありますがな。もちろん今でも、女性の手相を見るのは大歓迎でありますが。


<2月22日>(月)

○今年も週末ごとにやっている町内会の「火の用心」。このところやっと暖かくなってきて、あと1週間でやっとお終いというところまでこぎつけました。昨今の防犯部の活動についてちょっとだけご紹介。

○夜の見回りをやっていて、公園の近くに新しい防犯灯がついたことに気がついた。LED照明なので、夜間でもとても明るい。しかもこれ、普通の防犯灯と違って、蛍光灯の取替えが要らない。防犯部としてはまことにありがたい。というか、替えろといわれても、ワシらできませんがな。

○活動の後は、いつもビールを一杯。そこで出る四方山話がためになる。70代の方いわく。「最近、墓のことが気になってねえ」。60代までは考えたこともなかったのだけど、最近は夫婦でもついついそういう話になるのだそうだ。あの世代は兄弟が多いことが多いので、意外にトラブルになる例があるのだとか。そういえば、最近は葬式やお墓のCMが多いですなあ。「葬式は、要らない」なんて本も売れているようですが。

○時節柄、オリンピックの話題も多い。「カーリングっておもしれえなあ」(でもルールがよくわかんね)、「フィギュアの高橋はいい顔していた」(織田の靴紐はありゃ何じゃ)等々。ごく平均的な「世論」なのではないか。ちなみに「国母問題」については、極端な否定派も支持派も見当たりませんでした。

○ということで防犯活動は2月で終了し、3月に打ち上げをやる。で、場所はいつも近所の寿司屋さんなんですが、「今年は焼肉屋にしませんか」との声あり。値段もその方が安いらしいので、防犯部長としては「じゃ、そういうことで」と応じる。なるほど、世の中のムードは「チェンジ」でありますな。だってこれ、10年以上前からずっと同じ店だったんだもの。


<2月23日>(火)

○今日の文化放送「くにまるワイド」、野村邦丸さんがお休みだったので、「笑顔でおは天」の鈴木純子アナが代打ちでした。で、そんなことお構いなしに、今日は「QDR2010」について説明しました。後で番組のスタッフから、「ここで聞かなかったら、一生知らずに終わった知識でした」と感心したような、呆れたような反応をいただきましたな。そりゃま、そうでしょう。

○米軍というのは総人員約150万人、年間予算5000億ドル超の巨大組織です。日本を含む世界70カ国を防衛する義務を担ってもいる。普通のイメージで言えば、米軍=兵士と兵器でしょうけれども、もちろんそれだけでは軍隊は動かない。この組織を動かしているのは、ペンタゴンで働く2万3000人の職員であり、それは巨大なデスクワークの集大成である。膨大なペーパーワークの結果、この巨大組織が動いているということです。

○QDRは4年に1度、国防長官の名の下で防衛計画を見直して報告するものですから、いわば国防総省のペーパーワークの頂点です。この100ページほどの文書を、世界中の戦略家たちが注視している。以前、2月11日に紹介したように、その2010年版を担当したラインの責任者4人全員が女性であったというのは、非常に面白い現象だと思います。

●ちなみにフローノイ国防次官とはこんな人

http://pentagontv.feedroom.com/?skin=oneclip&fr_story=ad783618e81fc79533b66343cf1f5704db62b844&rf=ev&autoplay=true 


○ところで「QDR2010」を見ていて、面白いことを発見しました。59ページに北東アジア情勢について触れた部分があり、「わが国防総省は基軸同盟国である日本と韓国とともに・・・」という文言があるのですが、そこの部分の写真が「米韓同盟」なんですね。こんなキャプションがついている。

U.S. Air Force Maj. Miralba Fernandez-Covas works closely with South Korean air force officers Maj. Kim Heonjoong and 1st Lt. Cho Sungmin during Exercise Key Resolve/Foal Eagle, Mar. 17, 2009, at Osan Air Base, South Korea. U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Benjamin Rojek.

○4年前の「QDR2006」では、これが日米同盟だった。30ページに航空自衛隊と米空軍の兵士の打ち合わせ写真が掲載されていて、こんなキャプションがついていた。

An F-15 Eagle pilot assigned as an exchange officer to Nyutabaru Air Base, Japan (right) discusses tactics with a Japan Air Self Defense Force F-15 pilot (left) before a mission. The U.S. alliance with Japan is important to the stability in the Asia-Pacifi c region.

○この4年で日韓はすっかり居所を変えているんですな。それにしても、こういう写真の使い方も、きっと意図的にやっているんでしょうな。おそるべしQDR。


<2月24日>(水)

○犬が人に噛み付いてもニュースにならないが、人が犬を噛むとニュースになる。GM車がコケても誰も驚かないが、トヨタ車が事故ると事件である。ましてリコールとなると大騒ぎである。そこまで信用されていたのは、ある意味、結構な話であるのかもしれない。が、アメリカのユーザーは、今まで無条件に信用していたトヨタのブランドが揺らいで困っている。「早く安心させてくれ!」と思っているようだ。

○あらためて、どんな人がトヨタ車を作っているのかと思ったら、なんだか変な人たちである。英語の情報発信も少ないし、対応も遅い。見ていて急に心配になってきた。ダメージコントロールのイロハもご存じないらしい。これがホントに世界第1位の自動車会社なのか。そして間もなく、議会公聴会に「ミスター・トヨダ」が登場する。果たしてどんな風に答えるのか。世紀の一瞬です。

○では、明日の公聴会でトヨタはどんな風に企業を防衛すべきか。FTの記事などを見ると、今まで全米各地で積んできた「陰徳」があるので、応援団もそこそこあるようで、世間的に言われているほど危機的ではないんだろうと思います。でも、そこは対応次第で、訴訟の嵐になってしまうかもしれない。ここは考えどころであります。

○トヨタにとって、問題の本質はモノづくりにあるのではなくて、おそらく広報の問題なんだろうと思います。でも、「広報を改善します」と言うと、まるで反省していないように見えてしまう。そこでこう言ったらどうか。「再発防止のために、トヨタはこれからコーポレートガバナンスを改革します」

○最近のThe Economistに典型的な記事があった。いわく、日本型のコーポレートガバナンスに問題がある。トヨタには社外取締役が一人もいない。同質経営のために、対応が遅れたのではないか。硬直的な年功序列制のために、悪いニュースがトップに届かない。そもそもトヨタの29人の取締役は全員が日本人男性である。こりゃいかんわ!

○それが正しいかどうかはさておいて、「日本企業はコーポレートガバナンスに問題あり」というのは、西側メディアから見ると非常に腑に落ちるストーリーになっている。ワシ個人としては、トヨタがソニー式のボードメンバーを目指すのは、ちょっとツライんじゃないかと思うのだが、普通のアメリカ人の感覚から行くと、「世界第1位の自動車会社の役員が29人全員日本人男性」ってのは、とにかく不気味に感じられるだろう。

○とりあえず豊田章男社長はこんな風に言ってみたらどうか。「これからトヨタは社外取締役を導入します。例えばノーマン・ミネタさんのような方に、当社の経営へのアドバイスをお願いしたい」

○ミネタ氏は、クリントン時代に運輸長官になって、ブッシュ政権でもそのまま居残ったというめずらしい人物である。つまり民主党にも共和党にも受けがいい。日系アメリカ人だから、日米関係にも良い。ワシントン的には、「お、分かってるじゃん」ということになるだろう。アメリカの消費者にも、「自分たちが知っている人がトヨタの経営に参画する」ことで、大いに安心感を与えることができるのではないか。

○どうでしょう。このアイデア、悪くないと思いますけどね。


<2月25日>(木)

○今でもはっきりと覚えておりますが、あれは1994年秋、タイのプーケットでのことでありました。経済同友会の「日本ASEAN経営者会議」をやっていて、当時出向中だったワシも出張してその場にいたのです。

○この会議には、当時のチュアン首相が駆けつけてくれた。(後で聞いたら、彼の選挙区はプーケットの近くであったらしい。民主主義国って、どこでも一緒ですなあ)。――ということで、タイ国首相にはタイ陸軍の護衛がついていた。で、会議中に暇そうに立っていたワシの隣に、同様に暇そうな指揮官と思しき兵士がやって来て、英語で話しかけてきた。

「あの壇上の日本人はなんて人なんだ?」

「ミスター・マサル・ハヤミだ。経済同友会の代表幹事だ」

「ふーん。で、その隣の人は?」

「ミスター・タツロー・トヨダだ。この会議の日本側議長だ」

「え? ミスター・トヨダって、あのトヨタのか」

「そうだ。彼はトヨタ・モータースの社長だ」

○その瞬間、彼は弾かれたように仲間のところへ飛んでいって、タイ語で何か叫んでいた。おそらく、「おーい、あそこに居るのは、トヨタの社長だぞ!」てなことを言っていたのだと思う。速水さんの秘書としてその場に居た者としては、ちょっと複雑な心境になった瞬間であったが、ま、これが常識的な反応なのであろう。「ミスター・トヨダ」という名前には、「あのトヨタの総帥」という意味が込められている。それは説明抜きで、世界中の人が理解できることなのだ。

○その件があってから、ワシは「オーナー社長」というのは一概に悪いことではないんじゃないか、と思うようになった。「社名=商品名=社長の名前」ということは、責任の所在が明々白々である。組織の中の求心力も働く。対外的な説明も楽である。実際、民主主義と実力主義が企業の世界でも正しいことならば、財閥とかファミリー企業なんてものはとっくの昔に絶滅しているはずである。でも不思議と、世界中で生息して繁栄しているではないか。

○トヨタの公聴会は大過なく終わったようです。今日のネルソンレポートは、"you have to say Toyoda did OK."と報じている。

TOYOTA...on balance, we think Akio Toyoda not just survived, but met his "mission goal" of absolutely sounding sincere in both his apology and his discussion of what he and his colleagues will do to rectify the situation....and that includes making sure it includes reformed corporate culture and practices.

○一般的なアメリカ人の反応はこんな感じでしょう。トヨタの社長がどんな人かと思ったら、普通の日本人だった。英語もうまくないし、発言も気が効いてないけど、ちゃんと反省しているみたいだし、悪い人ではないようだ。少なくとも、質問している下院議員や、少し前にこの場に来ていたビッグスリーのCEOたちよりは・・・・。

○しみじみ思うのですが、豊田章男社長の最大の財産は、名前がミスター・トヨダであることでしょう。それに伴う重圧は、凡人がよく想像しうることではありませんけれども。


<2月26日>(金)

○今日はTVを全然見てないんですが、浅田真央ちゃんは残念だったそうですね。キムヨナとは大差だったそうで。でも、もしもフィギュアに団体戦があれば、男女ともに日本が金メダルだったことでしょう。粒をそろえるのは得意なんだけれど、頭抜けた存在は出にくい。良くも悪くも日本らしい現象ですな。

○ところでこのページをごらんください。長野五輪でブレイクした世代(1970年代前半生まれ)は200万人前後ですが、バンクーバー五輪の主力となる1980年代後半生まれは130万人前後。つまり3分の2くらいしか居ないんです。岡部、葛西、岡崎などがなかなか引退しないのは、きっとそのせいもあるんだろうと思います。

<長野世代>

原田 雅彦 1968年5月9日(長野・ジャンプ個人・銅、団体・金、リレハンメル・ジャンプ団体・銀)
伊藤みどり 1969年8月13日(アルベールビル・フィギュア・銀)
荻原 健司 1969年12月20日(アルベールビル・団体複合・金、リレハンメル・団体複合・金)
岡部 孝信 1970年10月26日(長野・ジャンプ団体・金、リレハンメル・ジャンプ団体・銀)
岡崎 朋美 1971年9月7日(長野・スピード500m・銅)
葛西 紀明 1972年6月6日(長野・ジャンプ団体・金)
清水 宏保 1974年2月27日(長野・スピード500m・金、1000m・銅、ソルトレーク・500m・銀)
船木 和喜 1975年4月27日(長野・ジャンプ・個人金、団体金)
里谷 多英 1976年6月12日(長野・モーグル・金、ソルトレークシティ・モーグル・銅)

<バンクーバー世代>

上村 愛子 1979年12月9日(バンクーバー・モーグル・4位)
荒川 静香 1981年12月29日(トリノ・フィギュア・金)
長島圭一郎 1982年4月20日(バンクーバー・スピード500m・銀) 
加藤 条治 1985年2月6日(バンクーバー・スピード500m・銅)
高橋 大輔 1986年3月16日(バンクーバー・フィギュア・銅)
織田 信成 1987年3月25日(バンクーバー・フィギュア)
安藤 美姫 1987年12月18日(バンクーバー・フィギュア)
浅田 真央 1990年9月25日(バンクーバー・フィギュア・銀)
高木 美帆 1994年5月22日(バンクーバー・スピード)

○1990年代以降はさらに人数が少なくなります。2000年代になると、本当に100万人ギリギリですからね。母集団が少なくなっていく中で、今までと同じように強い選手を育てていくためには、何か今までと違う手法を考えなければいけないんでしょうね。少子化時代というのは、こういうところにも陰を落としています。

○さらに言うと、1970年代生まれは10代の頃にバブルを経験しているので、その分だけ人生経験でプラスがあったりする。上村愛子が中学生のときに一人旅でカナダのウィスラーに行って、そこでモーグルと出会ったから今日がある、なんてのは1990年代前半ならではのエピソードだと思います。それに比べると、最近の若い世代は地味ですからねえ。大丈夫かなあ。

○と、ついつい親の気持ちになってしまいました。明日の世代を育てるのは大変ですぞ。


<2月28日>(日)

○オリンピックもどん詰まりになって、女子スケートの団体パシュートなんて競技があったのですね。「粒をそろえるのは得意だが、図抜けた存在が育たない」というニッポン勢にとって、こういう団体競技はありがたい存在です。もともと駅伝みたいな団体競技が好きな国なんだし。

○最後にドイツに僅差で負けたのは残念でしたが、銀メダルは立派でした。終わってから思ったのですが、あの勝負は準決勝で紙一重の勝ちを拾ったところで、ドイツに流れがあったような気がします。どうでもいいことですが、パシュートは"Persuit"なんで、もうちょっと違う呼び方があるんじゃないでしょうか。<後記:"Pursuit"が正しいスペルです。ご指摘いただいた皆様、どうもすんません>

○それにしても今回の五輪は、「ソニーとパナソニックと東芝はあるんだけど、サムスンに勝てない日本経済」という図式が多かったですな。しかも図抜けた存在であるはずのトヨタは、リコールで深刻なトラブルの真っ最中。さらにグローバル企業を目指したキリンとサントリーの統合は失敗するし。「どうしたニッポン」と思うことが最近は多いです。

○さて、4年に1度の祭典が間もなく終わります。これをやってる間は、日常的な娯楽がイマイチでありました。競馬とか、毎週やっているものは、どうしても見劣りがしてしまいます。こちらの世界は負けても負けても、明日がありますからなあ。逆に4年に1度しか見ないゲームはとても新鮮です。

○おそらく「トリプルトール!」とか、「ここはダブルテイクアウトで」なんて言葉が、しばらくは耳にこびりついていることでしょう。でも、そこは浮気性な視聴者たるもの、次のソチ五輪までスカッと忘れてしまうのでありましょう。ところが、その間も情熱を燃やし続けているのがアスリートの皆さんなんですから、まことにお疲れ様です。楽しませてくれて、本当にありがとうと伝えたい。

○ところで今日の「笑点」を見てたら、楽太郎あらため「新円楽」さんが出てました。これがむちゃくちゃ面白い。こちらは日常性の極致でありますが、これはこれで楽しいものであります。









編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki