<5月1日>(土)
○今日から5月。ということで、しばらく「5月政局」を取り上げてみたいと思います。
○なぜ5月政局なのか。簡単ですよね。
(1)普天間問題の締め切りが5月一杯だから。
(2)7月には参院選があるから。
(3)検察審査会が「小沢幹事長は起訴相当」として、「政治とカネ」問題がぶり返したから。
○このままだと、内閣支持率は今月中に1割台に落ちるでしょう。7月の参院選はひどいことになりそうです。民主党の非改選議席は62議席もありますが、下手すると40議席以下となって、社民党と国民新党を足しても過半数に届かなくなる。「民みん連立」を目指すとしたら、みんなの党は政策の丸呑みを迫ってくるだろうし、下手すると「民みん公」くらいにしないと政局が安定しなくなる。
○だったら、その前に総理を変えるか。あるいは幹事長を変えてはどうか。いずれにせよ、動くなら今月中です。なんとなれば、6月下旬にはカナダでG8とG20がある。サミット直前に首相の差し替えはさすがにカッコ悪い。さらに6月12日の上海万博「ジャパンデー」では、首相訪中と日中首脳会談が予定されている。ということは、6月になってしまったらもう遅いのです。どのみち普天間問題は解決しないでしょうし。
○ここでちょっと思考実験をして見ましょう。民主党には次の4通りの選択肢がありますね。
@鳩山首相と小沢幹事長の両方を辞めさせる
→普天間問題の責任を取って鳩山首相が辞める。その際に小沢さんも道連れにする。これができるとかなり変わった感じがするので、「もう一度、民主党を信じてみるか」という層が戻ってくる。新政権の支持率は5割くらいか。
→問題は次期首相を選ぶ際の手続き。自民党は総裁選が定着していたから、3週間かけて候補者が全国を練り歩いて、「民主的手続きで総理を変えました」とアピールする手段があった。でも、民主党はずっとクローズドな代表選を行ってきたので、次期体制を密室で決めたような印象が残るかもしれない。
→かといって本気で代表戦をやると、菅vs仙谷のような形で党が割れてしまう怖れもある。素人がプロレスをやると、往々にして怪我をするんだよね・・・・。
A鳩山首相が辞めて、小沢幹事長が残る
→普天間問題の責任を取って鳩山さんが辞める。そこで菅さんあたりを小沢さんが担ぐ。いかにもありそうな展開なるも、これはいかにも延命策っぽくて印象が悪い。次期首相の人選にもよるけれども、支持率は3割といったところか。
→もっとも、検察と再度戦わねばならない小沢氏としては、幹事長ポストをけっして離すまいとするだろう。大多数の国民から見ると、それこそがイメージダウンなのですが。
B鳩山首相が残って、小沢幹事長を辞めさせる
→この際、鳩山さんが居直って、平野官房長官と小沢幹事長を更迭して、内閣改造も行なって人心一新を目指す。これができると「おお、指導力を発揮した」という感じになって、支持率は4割くらいに回復しそう。
→でも、ムリでしょうね。鳩山さんは小沢さんには頭が上がらないし、最近は目も死んでるし。それに衆目の一致するところ、普天間問題の責任は鳩山さんにある。
C鳩山首相と小沢幹事長の両方が残る
→最終的に、この可能性がいちばん高いように思える。でも、この先はジリ貧で、支持率1割となるでしょうな。政権が求心力を取り戻すことはできないでしょう。
○今までの永田町の常識からいくと、「Cは避けなければならないから、@〜Bのうちどれかを強制選択」をとなり、「さあ5月政局だ」ということになったわけです。でも、そういうセオリーは従来の自民党時代に培われてきたものだから、今の政権にはまったく通用しないのです。では、どうなるのか。
○続きは明日、考えるとしよう。
<5月2日>(日)
○「もう首相のたらい回しはやめよう。選挙で勝った首相は4年間、辞めるべきではない」などと言っていたのは、わずか8ヶ月前のことであります。でも、今の鳩山さんが本当に4年間、首相を務めるべきと考えている人は、ほとんどいないでしょう。
○もちろん首相は、支持率に一喜一憂する必要はないのです。でも、支持率2割の首相には、国民が嫌がるような決断はできないでしょうし、外交の場でもまともに相手にされないでしょう。そもそも、去年の夏に民主党に投票した人たちの多くが、「失敗したなあ」と思っているわけだし。
○さしあたって、6月中には日本経済にとって重要な3つの締め切りがある。この辺の仕事をキチンとできないようだと、政治の混乱が経済に及んでくることになる。
@中期財政フレーム:
2011年から向こう3年間の財政運営の骨格を示す、と菅財務相が宣言している。そのためには、社会保障費の見通しをつけなければならず、そうなると消費税のあり方についても方向性を示さなければならない。支持率2割前後の内閣に、それができるのか。
――もしも中期財政フレームが曖昧なものに終われば、それこそ日本国債の健全性が怪しくなる。考えたくないことですが、長期金利の上昇ということも。
A経済成長戦略の具体策:
昨年末に骨子が発表された経済成長戦略の具体策を発表しなければならない。「新重商主義」などといわれる昨今の国際商談において、日本勢がいかに勝ち抜くか、といった内容が中心になる見込み。すでに産業構造審議会などで議論が進んでおり、6月中には発表される見込み。
――実は新政権下でいちばん元気がいいのは経済産業省で、わが商社業界から見ているとまことに興味深い。おそらくここだけは「官主導」で仕事をしているからだと思う。
BJALの再建策:
会社更生法に基づく締め切りがちょうど6月末。ただし、大幅縮小を目指す国土交通省と銀行団、国際線を残したいJAL、リストラに消極的な労組などの利害が交錯し、簡単にはまとまりそうにない。「プレパッケージ型」と言いつつ、今のプランは大甘だ、などと言われている。ちゃんと中身を詰められるのか。
――参院選の直前に、「JALはやっぱり清算ということに」となったら一大事。その場合、経済界における唯一の現政権シンパである稲盛さんを激怒させることも間違いなしである。
○うーん、書いているうちにだんだん心配になってきた。そうでなくても「決められない政権」なんだから、この上、「5月政局」ということで、「総理や幹事長のクビをすげ替えて内紛を処理する」、なんて余裕はないかもしれませんな。
○では、どうなるのか。明日に続く。
<5月3日>(月)
○昨年の8月24日、総選挙の1週間くらい前に、当欄でこんなことを書きました。ああ、なんて遠い昔のように感じられることか。
○・・・・どうも21世紀になってからの日本政治は、首相の指導力が強化されたのは良かったけれども、首相にとって怖い人がいなくなってしまい、簡単にワンマン化してしまう。コーポレート・ガバナンスが機能していない会社で、社長が簡単に独裁者になってしまうようなものです。
○これは安倍首相の「官邸崩壊」のときも同様でした。派閥が崩壊して以降の自民党は、いざというときに「組織最優先」の行動ができなくなっている。トップが暴走したときに、直言できる人がいない。これでは政党として弱体というほかはありません。たまたまダメな首相が3代続いた、というよりは、自民党がちゃんとした首相を演出できなくなってしまった、というのが実態に近いのではないかと思います。
○さらにいえば、政権を取った後の民主党はどうなるのか。政党としてまとまった行動が取れるのか。あるいは官邸に入った後の鳩山首相に、意見できる人はいるのだろうか。まあ、小沢さんの独裁体制になるから大丈夫、てな声もあるかもしれないが、それはそれでどこに行くのか分からないので怖い気がする。問題なのはトップという人材なのか、それとも日本の組織全体の病理なのか。鳩山政権で「官邸再崩壊」なんて未来は、できれば見たくないものであります。
○現実は、この最後の部分に書いた通りになってしまっているわけです。
○自民党はダメだから、民主党を選んでみた。で、その民主党がほぼ同じような失敗をやっている。それでは次にみんなの党を試してみると、これもたぶん上手く行かないのであろうと思います。とにかく、小泉政権以降はちゃんと官邸が機能していない。それはシステムが悪いのか、それともヒトが悪いのか。
○こういうとき、政治学者は「システムが悪い」と言うわけですね。制度設計を直せば物事は良くなると説くわけです。その方が学問らしいから。選挙制度を変えれば、内閣法を改正すれば、ポリティカルアポインティーを導入すれば、など、具体策は諸説あります。でも、制度をいじったところで、世の中がまともに動くようになるのは何年か先のことになってしまうでしょう。
○逆に政治ジャーナリストは「ヒトが悪い」と言いたがる。政治家をじかに知っているのは、自分たちだけですからね。そうして最近の政治家は小粒になった、昔のXXさんは偉かった、などと嘆く。筆達者、お話し上手の人が多いですから、こういう話は聞いていて面白い。でも、解決策にはならない。中曽根さんが偉かったという話はいいけど、じゃあ、今の官邸をどうしたらいいのよ、ということになる。
○さて、政治を悪くしているのはシステムか、ヒトか。細切れになって恐縮ですが、明日に続きます。
<5月4日>(火)
○鳩山さんは今日、総理大臣として初の沖縄入りとなりました。文字通りの単身、という点が気になります。本当であれば、外務、防衛、沖縄担当の3大臣くらいは雁首をそろえて、一同神妙に沖縄に同行すべきと思うのですが、岡田外相はアフリカ、前原沖縄担当相はベトナムに行ってしまっている。この間、官邸とはどういうやり取りがあったのか。岡田さんや前原さんは、すでに気持ちは「5月政局」後に飛んでいるのではないか、と疑いたくなります。
○おそらくこの謎解きは簡単で、鳩山さんもこの連休はNPT見直し会議のためにニューヨークへ飛ぶつもりだった。でも、5月末まで日にちもないから、そろそろ沖縄入りしておこうか、と急に決めたのでしょう。いかにも「アリバイ作り」という感じで、この辺の段取りの悪さがいかにも鳩山政権です。「もっと早く行っとけよ」、あるいは「わざわざ観光客で混む時期に来るなよ」と思いますがな。いかにも自分のことだけで手一杯で、他人のことまで気が回らない、といった風情です。
○どうやら今の官邸や与党内には、鳩山さんを支えようとしている人がほとんど居なくなっている。たしかに「普天間問題は自損事故」(佐々木東大名誉教授)であるから、周囲から人が去っていくのも分からぬではない。しかし、このまま皆で生ぬるく見守って、5月末まで総理大臣を裸の王様にしていていいのか。ちゃんと引導渡して、政府としての格好をつけろよ、と歯がゆく感じます。
○ところがこの状態は、ちょうど1年前の麻生政権末期にイメージが重なってくる。つまり「殿・ご乱心」の状態を誰も止められず、あるいは止める気がなく、そのまま政権が崩壊する過程を拱手傍観している。官邸たるものは、こういうときは「ダメージコントロール」をしなければならない。ところが、そんな永田町のイロハが通じなくなって久しい。
○末期の自民党政権は、派閥が機能しなくなって、「学級崩壊」になった。小泉さんが頑張っている間はそれが分からなかったけれども、力のない首相に代わると、目も当てられない状態になってしまった。民主党政権は、もともとが「困ったときは小沢さん」でやってきた組織であったから、せっかく政権を取ったのに、小沢さんがいないと皆が「指示待ち状態」になってしまう。だから「5月政局」の行方も、「小沢さん次第」ということになるのでしょう。
○その小沢さんは、今は自らが手負いの状態です。それでは今回はどう動くのか。過去20年間の日本政治を振り返れば答えは自明で、小沢さんの行動はずっとムチャクチャでした。理念も、戦略も、法則性もない。ゆえに「小沢さんの次の一手は読めない」というのが正解となります。ああ、だんだん書いていてむなしくなってくるなあ。
○ということで、大型連休中に書き続けてきた「5月政局」シリーズも残り1回を残すのみ。どう着地するのか、自分でも分からなくなってきましたが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
○と、ここで全然関係のない話をちょっとだけ。台場一丁目商店街の「お化け屋敷」は、見てくれはさておいて、馬鹿にしたものではありません。今日、子どもと一緒に行ってきたけど、かな〜り怖かった。うん。
<5月5日>(水)
○「県内移設容認」に加えて、「あれは党公約ではなかった」発言、それに場違いな「かりゆしウェア」も含めて、鳩山さんの沖縄入りに対して怒り爆発といった今日の気分ですが、私的にはいちばんツボだったのはこの発言でしたね。
●「海兵隊、抑止力と思っていなかった」(日本経済新聞)
○沖縄の海兵隊が東アジアの安定の要であるというのは、ちょっとでも安全保障をかじっている人には自明のことだと思いますが、鳩山さんは野党の幹部を10年間もやっていたけど、総理になるまでそれに気づかなかったというのは、ちょっとすごいと思う。というか、あれだけ大勢いた「鳩山のブレーン」たちは、いったい何をしていたんだ。今になって他人の振りするなよ、と申し上げたい。
○実を言うと、民主党内でも安全保障のことがちゃんと分かっている人はいくらでもいた。現在、防衛政務官を務めている長島昭久さんもその一人。ところが民主党内においては、長島さんのような安保観は必ずしも主流ではなくて、それよりはむしろ「なんとなく反米」で、「日米中は正三角形」的な気分や、「軍事力よりソフトパワー」的なほんわかした考え方――おそらく国際的にはまったく通用しない議論――が重きをなしていた。
○普天間問題の重要性も、民主党内の安保のプロたちはちゃんと分かっていたから、党のマニフェストを作るときは下記のように用心した物言いにしている。だから「あれは党公約ではなかった」というのは、間違いではない。ただし「見直しの方向で」と予防線を張っていたところを、敢えて「最低でも県外」と賭け金を吊り上げてしまったのは鳩山さん自身なので、それを言うなら「私が判断を誤った」と言うべきでありましょう。
51.緊密で対等な日米関係を築く
*日本外交の基盤として緊密で対等な日米同盟関係をつくるため、主体的な外交戦略を構築した上で、米国と役割を分担しながら日本の責任を積極的に果たす。
*米国との間で自由貿易協定(FTA)の交渉を促進し、貿易・投資の自由化を進める。その際、食の安全・安定供給、食料自給率の向上、国内農業・農村の振興などを損なうことは行わない。
*日米地位協定の改定を提起し、米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む。
○さて、以前から安保のプロたちの間で囁かれていたジョークに、こんなのがあります。
「北沢さんは、防衛大臣になって2時間で気がついた。岡田さんは、外務大臣になって2ヶ月で気がついた。鳩山さんは・・・せめて2年以内に気づいてくれないと」
○外交・安全保障問題について、まったく学習していなかった鳩山氏でありましたが、さすがに官邸に入って総理大臣を半年も務めると、この国の安全を守るために何が必要か、ちゃんと分かってきた。その結果が今回の軌道修正である、と考えれば、これは前進であったと見ることもできる。とりあえず、2大政党の両方が「日米同盟が基軸」ということの意味を理解したわけですから。
○もちろん、「なんとなく反米」の民主党支持者は多いから、当面は鳩山批難が強まるのでしょう。「これでは第2自民党ではないか」ということで。でも、国の根幹をなすところの安全保障政策については、二大政党がある程度共通の理解をもつことが望ましいのは言うまでもありません。そんな意味では、なんだかホッとしたような気分があるのですね。正直なところ。
○もっとも、「海兵隊、抑止力と思っていなかった」という発言は、「毎月1500万円、母からもらっていたと知らなかった」という発言としみじみ重なるので、ホントに正直だけれどもルーピーなおっさんやなあ、と呆れてしまいますな。沖縄県民の怒りは深い。この後始末をどうするんでしょう。鳩山御殿の玩具箱じゃないんだから、誰かお付きの人が片付けてくれたりはしないんですけどね。
○と、以上は中だるみ気味の「5月政局」シリーズの中継ぎとして、沖縄・安保問題についての感想を挟んでみました。
<5月6日>(木)
○そろそろ疲れてきた「5月政局」シリーズです。それにしても、この連休を境に世の中の気分が大きく変わってしまったような気がします。週明けに出る世論調査のデータはどんな感じになるのでしょうか?
○さて、ここでの議論を、切込隊長さんがビミョーにフォローしてくれているようです。なるほどと納得することが多いのですけれども、問題は下記の部分だと思います。
>鳩山さんが駄目なのはよく分かったとして、次の首相が鳩山さんよりマシである保証はいまの民主党を見るにどこにもないという点と、鳩山さんは決して良い宰相ではないが毎年我が国の首相が変わるというのは民主主義国として根本的に信頼されないという点とに分かれます。
○確かにクリス・ネルソン氏が書いていたように、われわれは近い将来に「Loopyな総理大臣の時代を懐かしむ」ことになりそうな気がする。でも、だからと言って、国民がまったく支持できず、外国からも低く見られ、本人もたぶんに嫌気が指しているのに、「せめて安倍さんよりは長くとどまりたい」などという変な動機を持つ首相が、官邸にしがみつかれても困るのですよね。(ちなみに、日本政治に対する海外からの評価としては、これがよく書けている)
○逆説的に聞こえるかもしれないけど、こういうときこそ首相はどんどん使い捨てにすべきではないかと思います。「毎年首相が代わる国」という国際的な評価は、有権者としては哀しいものがありますけど、現実がそうなんだからそれを直視する以外にない。鳩山由紀夫という首相は、「この国では野党の幹部を10年やっても、ちっとも政治家として成長しない」、ということを教えてくれる貴重なサンプルでありましょう(逆に言えば、今の谷垣さんも同じ立場かもしれない)。
○ことによると、政権交代を何度も繰り返すことによって、政党の学習効果は少しずつ上がっていくのでしょう。でも、それはかなり先のことになるはず。だとしたら、当面、人材は与党の中で育てる以外にない。そのためには新陳代謝を良くするしかなくて、とにかくどんどん取り替える。政権交代でダメなら世代交代。それ以外にどんな方法があるのだろう?
○もちろん、民主党の新しい首相が、解散という形で国民に信を問うてくれれば、それはまことに誠実な態度というものでしょう。でも、せっかく得た与党のチャンスなのだから、それは余りにも惜しいよね。というか権力者に対しては、極端に利他的な行為を求めるべきではないと思います。
○したがって結論としては、あと3年と少々、(少なくともワシは)ガマンするから、とにかく民主党は真面目にやれ、首相など何度替えても構わん、せめて明日につながるような失敗をしろ、と申し上げたい。ということで、この5月政局シリーズ、いちおうこの辺でお開きといたします。
<5月7日>(金)
○昨今の日本の政治情勢について、アメリカ側で日米同盟を担ってきた人たちはどんな思いで見ているのか。以下の鼎談が非常によく表していると思います。
●同盟が消える日
前編:http://wedge.ismedia.jp/articles/-/876
後編:http://wedge.ismedia.jp/articles/-/877
○とくに普天間基地の移設問題で、アメリカ側を代表して日本とギリギリの交渉を行なってきたリチャード・ローレスの舌鋒は鋭く、「こいつら、ホントにちゃんとした政府なのか!」という怒りがこもっています。
「普天間の移設とは、米軍再編全体を動かす鍵ともいえる意味をもっている。その重要な施策について、日本には能力、意思ともにない。」
「日本政府がいま表に見せているものは不確実性であり、不決定ですよ。しかも国家安全保障戦略を意味のある形でまとめなくてはという切迫感たるや、ほぼ完璧に欠落している。」
「つまり日本とは、自分で自分のことを真ん中から隅へ、隅へと押しやることにどうやら満足を感じている国である。――(中略)――私は民主党政府が続いている間、この状況はずっと続き得ると思います。」
○同盟関係とはどんなものなのか。そのことを思い知らされるようなディスカッションだと思います。長文ですけれども、ご一読いただければ幸いです。
<5月9日>(日)
○歯が痛い。冷たいものが口に入るととっても沁みる。・・・ということで歯医者に行ったら、虫歯ではなくて知覚過敏であると言われた。年をとると歯茎がやせ細っていくので、エナメル質のない部分がむき出しになり、刺激が沁みることになるらしい。CMでやっている「シュミテクト」をもらって帰る。
○この状態になると、つい冷たいものを口に含むときにビビッてしまう。気のせいか、このところビールの本数も減っているような。うーん、良いのやら、悪いのやら。
○ついでに1年ぶりくらいで耳鼻咽喉科に行って花粉症の治療。1時間待たされて、5分で終わる。ああ、なんていつも通りなんでしょう。以前にもらっていたのより、ちょっとだけ進歩したと思しき薬をもらう。毎年、3月から始まってじょじょに治まり、連休明けにひどくなって、それから1ヶ月くらいで治まる。
○ああ、そんなことで仕事も家族サービスも中途半端なままで、今年の大型連休は過ぎてしまいました。まあ、天気が良かったから、良しとするか。
○連休中の収穫のひとつがこの本。世界の貿易の歴史を物語として語っていて興味がつきません。シュメール文明からシンドバッドやヴァスコ・ダ・ガマ、東インド会社など、いろんな人物が登場します。
●『華麗なる交易――貿易は世界をどう変えたか』(ウィリアム・バーンスタイン)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4532354153/
○「モノを取り替える」ことは人間にとって本質的な性向であるらしく、そのお陰で貿易は発展を続けてきた。ところが、見知らぬ世界に旅立とうという人たちは、相当な変わり者であることが多い。コロンブスにせよ、イブン=バットゥータにせよ、とんでもないキャラをしている。だから面白い。
○商社業界というのは、「明るいオッチョコチョイ」の多い世界なんですが、昔から貿易に携わる人種というのはそういう感じだったのですな。
<5月10日>(月)
○ニューヨークに、とっても高い鮨屋があるのだそうです。そこのオヤジは大変な頑固者で、職人気質で、よくあるタイプのニッポンの鮨職人である。どのくらい頑固かというと、この店のメニューは1通りしかなくて、それは「おまかせ」である。
○とはいえ、「おまかせ」ではアメリカ人には通じないので、ちゃんとこのメニューは英語で書かれている。「おまかせ」の英訳は何というか。その答えは"Trust me."
○今宵は、拙著『溜池通信 いかにもこれが経済』の冒頭に登場するT先輩に出版記念会を催してもらい、渋谷のさる店に行ったところが、これが「おまかせ」オンリーの名店でありました。いやはや、酒も料理も「信じてよかった」であります。ごちそうさまでした。
<5月11日>(火)
○内外情勢調査会の城東支部へ。あんまり行ったことのない江東区が会場。ここから見ると、スカイツリーは迫力がありますね。「普天間問題と、ギリシャの財政問題は構造が似ている」なんて話をしてきました。どこがどう似ているかは、適当にお察しください。そのうち書くと思いますけど。そういえば明後日は広島支部と呉支部なんですよね。
○今宵も出版記念会を催していただきました。いやあ申し訳ないなあ、と思いつつ、でもきっと皆さん、単に集まる理由がほしかったんじゃないかという気もする。悪だくみもいっぱい飛び交っていたような。幹事さん、どうもありがとうございました。
○またしてもいろんな人から、「ツイッターやりましょうよー」と言われてしまいました。でも皆さん、今週のThe
Economist誌にはこんな記事が出てるんですよ。あたしゃ政治家と物書きはツイッター禁止にすべきじゃないかと思うんですけどね。
<5月13日>(木)
○広島に来ています。内外情勢調査会の広島中央支部、呉支部で講師を務めました。空いた時間で大和ミュージアム(呉市海事歴史科学館)を探訪。いやあ、よろしいですね。軍事関係の博物館はとってもツボにはまります。見ていてウルウルしてしまいました。
○呉市と言えば、元海軍工廠があった町。そして戦艦大和を世に送り出した町。なんとこのミュージアムには、10分の1サイズの戦艦大和がある。これは一見の価値ありでありますぞ。ということで、千客万来であるらしいのですが。
○小学生時代に、戦艦大和のプラモデルを作った。そのお陰で、大和のフォルムは細部まで記憶にある。とにかく見ていて飽きない。記憶の中のプラモデルと、目の前の展示物には1箇所だけ違う点がある。それは舳先。記憶の中のプラモデルには、菊の御紋はついていなかった。今から思えば、何らかの配慮が働いていたんですかねえ。ちなみに今日、沖縄近海に沈んでいる大和が確認されていて、折れた船体の舳先にある菊の御紋が水中撮影されている。
○この手の博物館を見るたびに思うことですが、軍事関連の製造物は無駄なまでに美しい。戦艦大和も零戦も、とにかく美しい。人を殺すための道具が、美しくある必要などどこにもないのだが、合理性を突き詰めていったとき、工業製品はある種の芸術性を帯びるのであろう。日本のモノづくりの源流は、日本刀の美しいカーブを作るところにあったのかもしれない。
○かつて戦艦大和は「昭和の三大馬鹿査定」などとも呼ばれた。航空時代に後れをとった大鑑巨砲主義。実戦には役に立たなかった。なす術もなく航空戦力に沈められた、などの批判である。ただしこれだけの軍艦を作った呉は、戦後になって船を作る町として再出発する。船は沈んだが、技術は残った。戦後日本のモノづくりはここに始まる、というのがこの博物館のメッセージである。
○想像するに、海軍工廠で「戦艦大和」という名前の船を作ると決まったときに、現場の興奮とプレッシャーはいかばかりであっただろうか。「ヤマト」というのは、この国にとっていわば切り札のような名前である。資生堂であれば「花椿」、サントリーであれば「山崎」のようなブランド名だ。この名前をつけたからには失敗は許されないし、恥ずかしい仕事はできない。社運を、いや国運を賭けた仕事になる。
○思うに大きな仕事に参画することほど、人間を育ててくれる経験はありません。「小さな仕事はおのれを小さくする」(C:電通鬼の十則)というのは、小生の長からぬサラリーマン経験からいっても、まことに遺憾ながら真実なのです。戦艦大和を作る仕事に携わった人たちは、きっと巨大な経験値と暗黙知を得て全国に散っていったことでしょう。技術というものは、設計図や特許などではなく、人間の指先に宿るものだと思うのであります。
<5月15日>(土)
○先日、職場で話題になったこと。「資生堂のシャンプー、金のTSUBAKIのCMに出ている女優の名前、6人全部言えるか?」――全部言える人はなかなかいませんでしたねえ。答えはこちらをご参照。ちなみに、ヒロスエと仲間由紀恵は出やすいが、観月ありさと竹内結子が意外と出てこなかったですな。
○いえ、あたしゃもちろん、この手のことにはまったく不調法な人間なのですが、たまたま「国際商業」という化粧品トイレタリー業界の雑誌のインタビューに出たところ、掲載誌に資生堂の特集記事があったものですから。
○それで思ったのですが、このCMは賢いですよね。「美」に対する価値観が多様化してくると、一人の女優ですべてを代表させるわけにはいかなくなる。誰を使っても、「あの人嫌い」と思われるかもしれない。だったら何人も同時に使えばいい。世代にも幅を持たせつつ、いろんなタイプの女優を並べる。誰か一人くらいは「お気に入り」が見つかるだろう。
○いつも思うことですが、情報化時代はカリスマを求めて止まない。でも、ホンモノのカリスマなんてそうそう見つかるものではない。まして「美」の世界はきびしい。だったら数で勝負する。確かに6人が並んだ景色は壮観で、いかにも「日本の女性は美しい」と思えてくる。その道のプロはうまいこと考えるものですな。
○もっというと、CMは「この中の7人目になりたくないですか?」と問いかけているようでもある。7人というのは一種のマジックナンバーで、「七人の侍」とか「七奉行」とかチームにしやすい数なのですね。6人というのは絶妙な数字だったのかもしれません。
<5月17日>(月)
○その後も世論調査が発表されておりますね。いちおうメモ。
実施期間 | 支持率 | 不支持率 | 民主党 | 自民党 | 無党派 | |
朝日新聞 | 5月15-16日 | 21.0% | 64.0% | 24.0% | 15.0% | 52.0% |
毎日新聞 | 5月15-16日 | 23.0% | 62.0% | 19.0% | 15.0% | 43.0% |
NNN(日テレ) | 5月14-16日 | 21.4% | 65.6% | 23.4% | 26.0% | 28.7% |
新・報道2001 | 5月13日 | 26.0% | 63.8% | 16.6% | 12.8% | 56.4% |
時事通信(*) | 5月7-10日 | 19.1% | 64.1% | 17.0% | 13.2% | 57.7% |
(*)これだけは面接方式なので、他よりも数字が低めに出る。なぜ、コストが高い面接方式を維持できているかと言えば、内閣情報調査室がタイアップしているからだと言われている。トリビアでした。
○どうも2割くらいのところに、鳩山政権=民主党支持層の岩盤があるような感じです。今すぐに、ここから大きく割り込んでいく感じではなさそうだ。ただしそれがいいことかどうかは別問題。だって、不支持率が6割を超えているのだから、不人気であることは間違いない。しかも8ヶ月前には支持率が7割前後だったことを考えると、有権者の2人に1人が「鳩山さんにはガッカリした」と思っているということです。
○鳩山さんも団塊世代だから、なかなか自分の失敗を認めようとしないし、過去の考え(ex常時駐留なき安保)もそんなに悪くはなかったと思っているらしい。幾多のブレーンが献策するから、そのたびに何がしかのことを覚えるのだけれども、全部「上書き保存」してしまうから、誰の意見が正しかったかは分からなくなる。
○うーん、やっぱり鳩山降ろしをした方が良かったんじゃないでしょうか。「自分は正しい」と思っている人は、学習してくれないんだもの。
<5月18日>(火)
○さあ、分からない。これからどうなるのか。周囲の詳しそうな人にいろいろ聞いてみたけど、皆さんあまり自信がないらしい。でも明日か明後日には、間違いなく大騒ぎになっているはずである。
○事の起こりは3月26日。韓国海軍の哨戒艦「天安」が、南北海上境界線近くの海上で船体が二つに割れて沈没した。そして46名が亡くなった。当初は事故らしい、と言っていたけれども、実は北朝鮮の魚雷発射によるものではないか、ということになってきた。
●参考資料:
【韓国艦沈没】オバマ大統領が調査結果支持表明 北朝鮮関与説裏付ける物証次々 産経 2010.5.18
19:07
「北の魚雷以外あり得ない」 沈没艦の合同調査団が結論、韓国紙報じる 産経 2010.5.17
10:33
韓国、哨戒艦沈没の原因調査に協力要請 日中韓外相会議 朝日 2010年5月15日21時59分
韓国沈没艦から微量の火薬成分 調査団検出、魚雷か分析 朝日 2010年5月7日8時20分
○韓国政府は5月20日に報告書を発表するという。その内容が、「やっぱり北にやられた!」ということであったなら、次の瞬間に何が始まるのか。
(1)本当に北朝鮮による軍事攻撃であるとしたら、これはラングーンの飛行機爆破事件以来の暴挙である。韓国軍にとっては個別的自衛権、米軍にとっては集団的自衛権の発動となる。すわ戦争か?
(2)ただしこれだけ時間が空いてしまうと、「報復攻撃だ」というのもムリがあるだろう。なおかつ、北朝鮮によるものだという鉄壁の証拠をそろえる必要がある。果たしてSmorking
gunはあるのか?
(3)少なくとも国連安保理では北朝鮮批難が行なわれるだろう。ところがここで問題が出てくる。すでに核開発で制裁を受けている北朝鮮に対し、これ以上、どんな制裁をすればいいのか。
(4)仮に制裁は出来ません、非難決議でガマンしてください、ということになったとき、韓国の世論はどう動くのか。
(5)この場合、韓国のイミョンバク政権は「せめてアメリカと日本は味方になってくれるだろう」と考えるはず。実際、ここで日米韓が一枚岩でなかった場合、中国は絶対に動いてくれないだろう。さて、今の鳩山政権にそんなガッツがあるか。
(6)今月末に向けて、北東アジアではいろんな外交機会があるが、果たしてこの問題をめぐってどんなやり取りがあるだろうか。
米中戦略経済対話(5/24-25)at北京
日中韓首脳会談(5/29-30)at済州島
温家宝来日(5/30-31)
○さあ中国はどう動く。北朝鮮は? パズルの始まりです。
<5月19日>(水)
○内外情勢調査会の講師で神戸へ。何と今月は4回目である。こんな風に、全国のいろんな場所を訪ねていけるのは、この仕事の役得みたいなものなのだけれども、考えてみれば神戸のことはあまりよく知らない。旧日商岩井の前身である鈴木商店の発祥の地なので、せめてその辺のことなど調べてみたいものであるが、あいにくそんな暇がない。日帰りできてしまうところが問題であったりして。
○神戸といえば、1年前にはインフルエンザ騒ぎがあった。今回の口蹄疫騒ぎが、神戸牛にまで波及しませんように。というか、赤松農相が変に強気な発言をしていたけど、またしても「損切りができない」「自分の誤りを認めない」「責任を他人に転嫁する」鳩山政権ぶりを発揮してしまうんだろうか。普天間でいい加減、懲りてよさそうなものなのに。どうしてこう、謙虚さが足りないんでしょう。
○帰りの新幹線の中で、先週、ヤマトミュージアムのギフトショップで購入した『戦艦大和ノ最期』(吉田満)を読了。まことに貴重な記録というべし。
○本書の中のおそらく一番有名なくだりを引き写しておきましょう。日本民族たるもの、このことをゆめゆめ忘れてはなりませぬ。
「進歩ノナイ者ハ決シテ勝タナイ 負ケテ目ザメルコトガ最上ノ道ダ
日本ハ進歩トイウコトヲ軽ンジ過ギタ 私的ナ潔癖サヤ徳義ニコダワッテ、
本当ノ進歩ヲ忘レテイタ 敗レテ目覚メル、ソレ以外ニドウシテ日本ガ救ワレルカ
今目覚メズシテイツ救ワレルカ 俺タチハソノ先導ニナルノダ
日本ノ新生ニサキガケテ散ル マサニ本望ジャナイカ」
彼、臼淵大尉ノ時論ニシテ、マタ連日「ガンルーム」ニ沸騰セル死生談義ノ一応ノ結論ナリ
敢エテコレニ反駁ヲ加エ得ル者ナシ
<5月20日>(木)
○12年ぶりに赴任先から帰国した先輩がふらりと現れる。驚くべし、12年前と姿かたちがほとんど変わっていない。海外駐在には、ときどきこういうケースがある。まるでタイムカプセルのように、昔と変わらぬ容姿を維持してしまうのである。相手の実年齢を密かに計算し、えーとえーと、あっ、この人ったら○○さんと同期じゃん!するってえことは、もうXX台突入済みか、と再び呆れる。
○こういうのを「逆・浦島太郎」とでもいうのだろうか。概して新興国に店長職などで赴任すると、ストレスが少ないこともあってか、アンチエイジング効果が高いようである。反対にニューヨークなどの先進国に駐在すると、得てして日本にいるのとあまり変わらず、ごく普通に年輪を重ねるので、適度に顔の皺が増えたり、髪が白くなったりする。
○そういえば海外の大使経験者も、高齢になってもお元気な方が多いようである。察するに海外暮らしで適度な刺激を受けつつも、東京に居るときのような職圧は受けなくて済む、という環境が良いのではないかと思う。逆に言えば、もっとも老けかたが早いのは、東京で暮らしながら、さまざまなプレッシャーにさらされている人たちであろう。
○アンチエイジングにはいろんな手法が可能だけれども、「海外暮らしで若さを保つ秘法」ってのもいいかもしれない。昨今、財政危機で話題のギリシャなんぞは、もっともアンチエイジング効果が高そうな国である。村上春樹もそうだったしね。昨今、これまた国情騒然のタイなんかも、本来は呑気に暮らせるはずの国なのに、デモやら放火やらでさすがにしんどそうである。どうなることやら。
○もっとも、その前に優先すべきは「日本国内」の加齢圧力を低下させることでしょう。そのために、できることはたくさんあると思いますけどね。
<5月23日>(日)
○世の中には新事業に進出するのが上手な会社がある。リクルートやオリックスのような会社である。それに引き換え、わが商社業界はあまり上手くないような気がする。というか、昔から失敗ばかりしているような気がする。なぜだろう。
○よくよく考えてみれば、ごく当たり前のことなのである。リクルートの場合は、「就職情報誌」→「結婚情報誌」→「旅行情報誌」という風に、顧客のライフステージに沿って業容を拡大してきた。オリックスの場合は、「リース事業」→「オートリース」→「レンタカー事業」→「カーシェアリング」と地続きで仕事を増やしている。どちらも土地勘のある分野で勝負をするから無理がない。なるほど。
○逆に言うと、土地勘のない世界で勝負をしてはいけないのである。ときどき、「○○産業の市場規模は、2020年には××兆円になる」とか、「○○国のGDPは平均×%成長を続ける」みたいな資料をせっせと作っている人がいるけれども、そういう「上から目線」はいかんのではないかと思う。とは言うものの、今までにたくさん作ったなあ、その手の資料。あんまり役に立たなかったみたいだけど。
○どちらかといえば、新しい分野に踏み出すときは、「虫から目線」が必要であろう。鳥のような視点に立つと、リアリティがなくなってしまうのだ。未知なる世界を望む、雄渾でダイナミックな議論にはくれぐれもご用心を。
<5月24日>(月)
○北京で米中戦略・経済対話が始まりました。この会議の性質について、あらためて基本をおさらいしてみましょう。
1.米中戦略対話(SD:次官級):2005年8月〜
米国側:ゼーリック国務副長官/中国側:戴秉国外交部副部長
*テーマ:Responsible Stakeholder論、歴史認識の問題など
2.米中戦略経済対話(SED:大臣級):2006年12月〜
米国側:ポールソン財務長官/中国側:呉儀副首相→王岐山副首相
*テーマ:通商問題、人民元、知財、政府系ファンドなど
3.米中戦略・経済対話(SAED:大臣級):2009年夏〜
戦略部門:米国側:クリントン国務長官/中国側:戴秉国国務委員
経済部門:米国側:ガイトナー財務長官/中国側:王岐山副首相
*国務省(安保)と財務省(経済)のダブルトラックに
○要は現在のスタイルは「フェーズ3」であって、米中の二国間対話は過去に相当な積み上げがあるのです。ゆえに今日の米中が抱えている問題は、安保でも経済でもまことにややこしいのだけれども、お互いに何が通って何が通らないかは阿吽の呼吸がある。お互いに煮ても焼いても食えないもの同士、強いて言えばちょっとアメリカ側に甘さが見られる、というコンビである。さて、どんな協議になるのでしょうか。
○さしあたって、経済面で突然浮上したのは欧州経済の行方である。これがあるお陰で、人民元レートの見直しはさらに伸びてしまったかもしれない。ただしこの問題については、「来月にはG20もあることだし」という逃げ道があるので、たぶんお互いに深追いはしないだろう。
○それよりも深刻なのは、北朝鮮による韓国哨戒艦沈没事件である。韓国は海外勢も呼んで念入りに調査を行なったうえで、「北朝鮮による魚雷攻撃」との結論を出した。その上で国連安保理に問題を提起するという。しかるに、制裁を加えようにも、あの国は既にがんがらじめになっており、今さら制裁する適当なタマがない。ここはひとつ、中国に圧力をかけてもらうしかない、という局面である。
○他方、中国は「俺たち、イラン問題では協力しているからね」と言い出しそうだ。最近の中国はまことに強気になっていて、「ひとつ妥協するからには、ひとつ強硬策を示す」と決め込んでいる感がある。先般、ギョーザ事件の犯人を逮捕した直後に、日本人死刑囚の執行を行なったのが典型例で、最近の中国外交からは「一方的に譲ったりはしないぞ!」という強い意志が感じられる。
○たまたま今日、届いた菅原出さんの"Global
Analysis"でも、米国とイランの外交戦を取り上げておりましたな。彼も「米中はイランを優先して北朝鮮は妥協するんじゃないか」という読みのようです。このレポート、いちおう有料らしいんですが、サンプル版を紹介する分には問題ないでしょう。この第2章は分かりやすくてお勧めです。
<5月25日>(火)
引継ぎのときに、確認しながらいろんな書類を渡し終えた後で、前任者がニヤニヤしながら鍵を取り出すのです。「これって、何ですか?」「アレですよ、アレ」。前任者はそう言うと、部屋の片隅に目配せしました。そこには金庫がありました。内閣報償費、いわゆる機密費が入った金庫の鍵だったのです。
政務の官房長官秘書官にとって、いちばん大きな仕事はこの機密費の処理だったんですね。鍵を使って金庫を開けてみると、中はお札がギッシリ入っていました。少し使って中身が減ると、いつの間にかまた増えている。どうも夜中にこっそりと事務の方がお金を補充していたみたいですね。その辺の仕組みは、最後までわかりませんでした。
機密費の使い方については、もちろん秘書は何も知らされていないのです。でも、官邸の古いスタッフの人が教えてくれました。あの人にはいくら、この人にはいくら、という感じで。いくら機密費とはいえ、前の政権でどういう使い方をしたかは、ちゃんと記録が残っているのです。当たり前ですよね。そうでないと秘書が着服しても分からないですから。
わけの分からない媒体を出している社長がぶらりとやって来て、座り込んで帰らない、なんてことがありました。この人、何をしに来たんだろう、と不思議に思いながら話の相手をいると、突然、「おい、アレだよ。出すもの出せよ」と言い出す。そこでやっと気がつく、なんてこともありましたね。つまり催促に来ているわけです。なぜ、その人にお金を払っていたのかは、正直、よく分かりませんでした。
大きな使い道としては、議員の外遊のお餞別ですね。皆さん、出発が近づくとニコニコしながら官邸にやってくるんです。「いやあ、今度、○○に行くことになりまして」って、要は分厚いのを頂戴よ、って意味なんですけど。与野党の隔てなく、配っていましたね。議員さんの出張は、今の時代の感覚にしては大袈裟なんです。もちろんお土産もいっぱい買ってこられましたけど・・・・。
○以上は今から15年以上前、官邸がまだ古いお屋敷だった頃に、筆者がさる場所で聞いてしまった幻聴です。まあ、何というか、春風駘蕩とした古き良き時代の、ほのぼの系のお話といった印象を受けました。でもねえ、ホントに今でも同じことをやっているとしたら、正直、呆れてしまいますなあ。
○本件については、脱力さんがせっせと調べているみたいです。たまたま今日、会ってその話を聞いてしまったら、ついつい昔の幻聴を思い出してしまいました。脱力さん、情報を提供してくれる協力者はいるでしょうけれども、表に出ると困るという人はいっぱいいるでしょうから、くれぐれも気をつけくださいよ。なんでしたら例のリスト、当方が預かりましょうか?
<5月26日>(水)
○今日、こんなところへ行ってきました。さて、この地名は何と読むでしょう?
滋賀県甲賀市
○「こうが・し」だと思った人、間違いです。「こうか・し」と読んでくださいまし。滋賀県南部に位置する市で、2004年に旧甲賀郡にあった水口町、甲南町、甲賀町、土山町、信楽町が合併して誕生しました。忍者の里で、三重県側にある伊賀と対になっているのは甲賀(こうが)。でも地名は「こうか」。市名決定の際には、「こうか」vs「こうが」で決選投票になったけれども、従来どおり「こうか」に決まった経緯があるとのこと。
○で、この甲賀市は、最近になって新名神高速道路が通り、インターチェンジが市内に3つもできたために、工場団地の誘致が順調に進んでいるのだそうだ。(本日、定時総会の講師に招いてくださったのも、甲賀市工業会である)。この地域は、三重県亀山市にシャープの工場ができてから、急速に産業集積が発展し始めた。つまり「伊賀が栄えたから、甲賀も栄える」という図式である。忍者の世界は共存共栄であると見つけたり。
○おそらく忍者というのは、現代の人材派遣業のようなものであるから、繁忙期には伊賀と甲賀で忍者の貸し借りなんてことも行なわれていたのではないかと思う。忍者モノの世界では、伊賀と甲賀は対立する存在として描かれることが多い(しかも往々にして甲賀が悪役であったりする)。でも、それはたぶん”オハナシ”であろう。プロのエージェントというものは、互いに競争心は抱いても、無用な闘争心は持たないものである。
○さて、会場に向かうために、京都から琵琶湖線、草津線を乗り次いで近江平野をトコトコと進んでいくと、ついつい考えてしまうのは織田信長のことである。彼は生涯に、何度、この近江を横断しただろうか。東西、南北を併せて、恐るべき回数になるはずである。それも進軍あり、戦闘あり、敗走ありで、得意と失意を抱えて何度もこの土地を往還したはずである。きっとこの近江領内であれば、どんな抜け道も漏らさず知っていたのではないだろうか。
○信長は岐阜から京をうかがい、安土に城を築いて天下取りの拠点とした。ところがそれは順調な道のりではなく、とくに元亀の3年間は苦難のときであった。浅井朝倉連合軍と比叡山と六角氏、一向一揆、その他いろんな敵を内外に抱えて往生していた。何と逃走中に狙撃されたこともある。わが国で初めて鉄砲(火縄銃)で狙撃されたのは信長なのだ。無傷だったけど。
○谷口克広氏の研究によれば、信長は安土に自らの拠点を置き、長浜城の秀吉、坂本城の光秀など、主要な部下はほとんど近江に配置していた時期がある。そうやって足場を固めつつ、将来は部下を少しずつ遠いところへ追いやり、将来的には直轄地にするつもりだったのだろう。
○さて、今となっては、信長がどんな構想を描いていたかは想像する以外にない。ただし彼の天下取り戦略は、この近江を行き来する中で固まったことだろう。不肖かんべえも、草津線に揺られて車窓の風景を見るうちに、明日の日本経済を考える上でのインスピレーションが沸いたような気がしたのであるが、果たしてあれは気のせいだったのだろうか。
○近々、こんな舞台があるので、その成果を語ってみたいものである。皆様、よろしく。
<5月27日>(木)
○岡崎研究所の春のフォーラムである。なぜか海軍記念日に行なわれることが多い。海軍記念日とは、もちろん日本海大海戦の日であって、それは「独裁体制の大陸国家によるアジア進出を、新しく誕生した民主主義の海洋国家が阻んだ」(本日の北岡伸一先生の挨拶から)ことを意味するめでたき日である。
○とはいうものの、お集まりのお歴々がマイクを握ると、ついつい出てくるのは「鳩山ケシカラン」「民主党政権はよろしからず」「日本の安全保障が危ない」といった嘆き節である。その点、金美齢さんは、「これで国民も目が醒めるから大いに結構」と短くまとめて、いつものことながらカッコよかったのである。
○さらにホストの岡崎久彦氏は、「鳩山さんは、自分の間違いを認めて普天間の辺野古移転を決めたんだから、誉めなければならない」と、さらにカッコよく首尾一貫していた。やはり人間が大きい。もっとも当の鳩山さんは、基地の移転先の説明を内外で使い分ける「二枚舌」を目指しているらしく、まことに猪口才でありますな。他方、「私は愚かだったかもしれない、という発言は、国家機密漏洩罪である」(小池百合子氏)という声もあったりして。
○それでもまあ、こんな風に終盤国会が荒れてくれれば、郵政見直し法案と労働派遣業規制法案が不成立になる公算が高まるので、日本経済にとっては結構なことではないかと思う。それにしても、ここへ来て「郵政法案は通さなくていい」と言っているという亀井さんは、やっぱり偉大なプロレスラーといえましょう。到底、私どもの知恵の及ぶところではありませぬ。
○そういえば海軍記念日が来たということは、間もなく母の命日であったりする。月日がたつのは早いなあ。
<5月29日>(土)
○『朝まで生テレビ』に出演してまいりました。夕方で仕事が終わったので、家で2時間ほど寝てから出動したんですが、他の出演者の皆様は、その日の朝に沖縄から戻ったとか、一日中国会に出ていたとか、記者会見をいくつもハシゴしてから駆けつけたとか、洒落にならないくらい忙しい人ばかり。しかもこの間に福島瑞穂さんが罷免されている。永田町的にはとっても長い一日だったのでした。
○5月のテーマは「激論!土壇場?!鳩山政権の行方」で、鳩山さんの悪口大会みたいな趣向。当方としては、特に強調したいこともないので、ついつい接待麻雀のような心がけで参加してしまいましたな。番組中、いちばん面白かったのは、香山リカさんの精神分析でした。大筋以下のような内容です。
鳩山さんは依存性性格。他人に対する共感力はあるけど、いつも相手の意見に同調してしまい、嫌な思いをさせてまで自分の主張ができない優しい性格。誰かの後押しがあって初めて意見が言えるが、官邸に入った今はそういう人がいない。だから総理大臣として孤独な決断を下すことができない。
○いろんな人から聞く証言とピッタリ符合する症状でありますな。
「鳩山さんは人の意見をよく聞く。会った人は皆、自分を理解してくれたと思って喜ぶ」
「だが、次の人の話を聞くと、前の人の話は忘れてしまう。つまり記憶が”上書き保存”」
「最後は自分で物事を決められなくて、他人に決めさせようとする」
「なおかつ、当てにしている人がしょっちゅう変わる」
○どうも鳩山さんは政治家には不向きな性格のようです。特に外交は務まりそうにない。こういう人は、普通だったら選挙で落ちて淘汰されるところでしょう。でも、鳩山家の長男に生まれて、周囲のバックアップ(お母様のお手当てなど)もあって、従順な選挙区にも恵まれ、今日に至ってしまった。やっぱり総理大臣の子どもとか孫というのは、首相にしちゃいかんですなあ。
○番組の最後で、「爆弾発言」を期待して上杉氏がそっと「キミツヒ」の話を持ち出すも、田原さんはさりげなくスルー。後で聞いたら、「もらったお金返すのって大変なんだよ。相手に喧嘩売るようなものだからね」と言ってました。そりゃN官房長官に喧嘩売るのは命懸けですわな。――それにしても、「脱力&かんべえ」コンビが何で民主党側の席だったのか、ちょっと不思議だぞ。
○午前6時に帰宅して、3時間寝て起きてテレビをつけたら、森本先生が「ウェークアップ」に出ているので仰天。しかも「朝生」のときとまったく同じネクタイ。つまり、あのまま大阪に移動して生放送のハシゴをされているようです。お元気ですねえ。こちらは明日のダービーに備えて昼寝です。
<5月30日>(日)
○今日もいっぱい世論調査が発表されてます。記録しておきましょう。( )内の数字は前回調査からの変動です。(追記:読売と産経を後から追加しました)
調査時期 | 内閣支持 | 内閣不支持 | 民主支持 | 自民支持 | |
新・報道2001 | 5/27 | 19.0%(-12.4%) | 74.4%(+13.4%) | 12.6%(-5.8%) | 18.0%(+7.2%) |
朝日新聞 | 5/29-30 | 17%(-4%) | 70%(+6%) | 21%(-3%) | 15%(±0) |
毎日新聞 | 5/29-30 | 20%(-3%) | 67%(+5%) | 17%(-2%) | 17%(+2%) |
日経新聞 | 5/28-30 | 22%(-2%) | 69%(+1%) | 25%(-2%) | 23%(+2%) |
共同通信 | 5/29-30 | 19.1%(-1.6%) | 19.9%(-3.5%) | 20.9%(+1.0) | |
読売新聞 | 5/29-30 | 19.0%(-5.0%) | 75.0%(+8%) | 20.0%(-2.0%) | 20.0%(+6.0%) |
産経FNN | 5/29-30 | 19.1%(-3.1%) | 70.8%(+4.3%) | 17.7%(-2.1%) | 16.5%(+2.3%) |
○5月17日にチェックしたときは、「2割くらいのところに岩盤がある」という印象だったのですが、月末になったら案の定、底が抜け始めているような感じですな。でも、これから先は通常国会は終盤戦だし、外交日程も一杯なので、今から首相を差し替えようとしても現実問題として難しい。つくづく鳩山さんを引き摺り下ろすなら先週まででしたね。
○今宵の岡田ジャパンは、イングランド相手に1点リードした後にオウンゴール2発で沈没。勝てませんなあ。今の日本全体の気分がこんな感じですね。まあ、今さら首相や監督を代えても間に合わんでしょう。W杯と参院選で痛い目を見て、それからが本番と考えるしかないでしょう。
<5月31日>(月)
○社民党党首、福島瑞穂さんがちょっとした「ときの人」状態である。本日は少子化担当大臣の退任挨拶があったりして、周囲の声は同情的だ。でも、世論調査をよくよく見ると、「福島大臣の罷免は当然」という声が多数を占めていたりする。たしかに支持率1%以下の政党が、なんで衆院300議席超の民主党を引き摺り回していたのか、今になって考えてみるとちょっと不思議である。(それを言ったら、亀さんの方がもっと上手だが)。
○それでも社民党の政権離脱は、いわば「蜂の一刺し」(古い!)みたいなもので、鳩山政権に与えた打撃は思ったよりも深そうだ。そういえば細川政権も、日本社会党の離脱によって失速した経緯がある。この国における政党の合従連衡においては、ときどき旧社会党が大きな役割を果たす。"It's
the socialist, stupid!"(阿呆、問題は社会主義者なんだ!)ということである。
○それでは、今回の普天間問題を機に社民党人気は復活するか、といえばそれもちょっと考えにくいと思う。これまでの選挙において、社民党が比例代表で獲得した票数は、ものの見事に長期低落傾向を続けている。
2009年衆院選:300万6160票(4.27%)
2007年参院選:263万4713票(4.47%)
2005年衆院選:371万9522票(5.49%)
2004年参院選:299万0655票(5.35%)
2003年衆院選:302万7390票(5.12%)
○果たして2010年参院選での得票はどうなるか。沖縄票の上積みがあるかもしれないけれども、これで党勢回復という感じではないと思う。むしろ何かを失うたびに、日本政治に影響を残していく、というパターンが今回も繰り返されるんじゃないだろうか。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki