●かんべえの不規則発言



2008年7月





<7月1日>(火)

吹浦忠正さんのお計らいで、台北駐日経済文化代表処を訪問し、許世楷大使にご挨拶をしてまいりました。先日、尖閣諸島近くで台湾の遊漁船が、海上保安庁の巡視船と接触して沈没した事故をめぐり、許大使は「日本寄りの発言をした」として国民党から批判され、心ならずも職を投げ打つ形になりました。とはいえ、この4年間にわたる許大使の日台関係への貢献は、誰もが認めるところであります。あまりゆっくりすることはできなかったのですが、「台湾一人観光局」である青木由香さんが、日本でのスミンさんのコンサートを成功させたことを、楽しそうに語っておられたのが印象に残りました。

○で、いろいろ話を聞いているうちに気づいたのですが、最近の韓国と台湾の政治情勢があんまり似ているので不気味なくらいです。

(1)長期にわたるイデオロギー色の強い左派政権に飽き飽きした有権者は、

(2)この際、とにかく経済を好転させてくれそうな候補をと考え、

(3)予想外の大差で実務家タイプの指導者を選出した。

(4)議会でも与党が多数となり、これは本格政権の発足だと思われたものの、

(5)景気が思わしくないことも手伝って、

(6)政権発足から間もなく支持率は急低下。

(7)この先の長い任期を考えると、とっても不安だぞ。

○ということで、李明博大統領と馬英九総統はイメージが重なって仕方ありません。新政権というものは、普通は発足直後は「ご祝儀相場」となり、メディアとの間でも100日程度の「ハネムーン期間」があるものです。ところが李明博氏は、訪米後のBSE問題をめぐる騒動で一気に人気が落ち、まるで政権末期のような様相。馬英九氏も、5月20日の政権発足からまだ1ヵ月半でほとんど何もしていないのに、もう支持率が3割まで落ちたという。

○察するに2008年に入ってからの「インフレ+株安」という国内状況が、有権者の忍耐心を著しく低下させているのではないでしょうか。だとすれば、同じことは日本で起こってもまったく不思議ではありません。もちろんアメリカ大統領選挙でも。やはり「スモールポリティクス」で選出される指導者は、弱い政権になってしまうのではないか、などと思う次第であります。

○ところで台湾情報のこのページに、こんなニュースが載っていました。これだから実体経済は面白い。理屈どおりにはいかないものだよね。

●両岸直行便開通で経営者がパニック状態に

中国との週末直行便が4日から始まるが、中国人女性を囲っている台湾人経営者が戦々恐々としている。台湾企業が集中している上海近郊の昆山市には20万人の台湾人、3000社の台湾企業が集まっている。昆山市は上海から高速道路ですぐ。直行便により距離が縮まり、妻が簡単に監視に来ることが出来るようになるためだ。別れ話で台湾人は多額の手切れ金を要求されている。昆山市の台湾企業商工会の幹部は「直行便により夫婦仲が戻り、家庭円満になるのはよいことだ」と語っている。相手が水商売の女性なら金で解決できるが、会社の従業員に手を出した場合や孕ました場合は厄介だ。女性を会計にさせていた場合などは悲惨。


<7月2日>(水)

○参議院議員、林芳正さんのセミナーへ。毎年のように参加しているが、これがもう11回目となる。守備範囲の広い林さんらしく、毎回のようにテーマが変わり、今回は科学技術政策であった。それからいつもパネリストの人選が意表を突いていて、どのくらいユニークかと言うと、安全保障政策を取り上げた2004年のセミナーでは、浜田靖一衆議院議員とワシ、なーんてこともあった。で、今回は、薬師寺泰蔵教授、近藤正晃ジェームズ氏でありました。

○全然知らなかったんですが、今国会では、「研究開発力強化法」という法律が成立していたんですね。アメリカや中国で先行している「研究開発システム改革」の動きを踏まえて、日本独自の制度改革を目指したもの。理数教育の強化、人材の流動化、研究資金の戦略的配分などが盛り込まれている。例えば研究予算は、日本ではご多分に漏れず、単年度主義に制約されるのだけれども、これを柔軟に運用することができるようになった。この法律が議員立法により、参議院から発議して、超党派で成立していた。当たり前の話ではあるが、「ねじれ国会」においても、まともな法律は成立するのである。

○バイオベンチャーの活性化、なんて取り組みも始まっている。バイオの研究開発には、「10年で10億」といった巨費が必要なので、ほとんどのベンチャーキャピタルが持て余してしまう。途中でお金が足りなくなった日本のベンチャーが、海外のファンドに買われてボストン辺りに行ってしまう、てなこともあるのだそうだ。これを称して「バイオベンチャーの浮世絵現象」というんだそうで、面白いけれども笑えないギャグである。そこで官民共同出資のファンドをつくろうとか、先端医療開発特区(スーパー特区)を活用するとかいったアイデアがあるらしい。

○だいたい医療の話になると、果てしなく暗くなってしまうのが昨今の傾向であるが、今日の議論はめずらしく前向きであった。およそ農政でも、道路特定財源でも、捕鯨でも何でもそうですが、「XXを守れ」という議論はだいたいが暗くなる。何しろやっている当人たちが、「XX」に未来がないことを百も承知の上で、ひたすらに現状維持を訴えているのだから。その点、医療の世界で危うくなっているのは国民皆保険制で、これは日本の宝みたいなものであるから、失われた場合のデメリットは果てしなく大きい。さりとて、本格的な高齢化時代にこれをどうやって守るのか。

○そういうときに、「攻め」の発想に立つことは重要であると思います。医療を成長分野と捉え直して、イノベーションの視点に立つこと。いつまでも「給付と負担」だけ言っていると、議論が堂々巡りを繰り返すばかりか、気持ちが暗くなってしまいます。世界に冠たる「日本の長寿」を、いかにブランドとしてアピールしていくか。国内だけ見ていると、こういう発想は出てきません。

○評判が悪い後期高齢者医療の問題も、「国民皆保険制を守るための努力の一環」という面があると思います。年齢で区切ったことや、年金からの天引きなどは、けっして本質的な問題ではないはず。「高齢者の医療にはお金がかかる」という現実から目を背け、問題を先送りしていくと、かならずどこかで今の制度は持続不可能になるでしょう。この点に関しては、以下のコラムが非常に説得力があると思います。ご参考まで。

http://www.dir.co.jp:80/publicity/column/080529.html 

○ということで、その後はパーティーだったのですが、最初のご挨拶は谷垣禎一政調会長でした。今の日本でいちばん、半袖の白い開襟シャツが似合う人ですね。少し古い時代のテレビドラマに出てくる、理想に燃える高校教師、みたいでありました。


<7月3日>(木)

○Foreign Affairsの7−8月号でライス国務長官が寄稿しています。タイミング的に言って、これが彼女にとっての卒業論文のようなものでしょう。当代一流の国際政治学者、という彼女の前歴を考えると、相当に準備をして書いたものに違いありません。これは読み甲斐があるというものです。全文は下記をご参照。

Rethinking the National Interest
American Realism for a New World
Condoleezza Rice

http://www.foreignaffairs.org/20080701faessay87401-p0/condoleezza-rice/rethinking-the-national-interest.html 


○そんな長い英文は読んでいられない、と言う方は、(かんべえのように)論座の8月号の翻訳を読むか、あるいは「フォーリンアフェアーズ日本語版」を申し込む手があります。論座はもうじき休刊とのことですので、この日本語版はお値打ちではないかと思います。ちょっと宣伝まで。

○で、ライス論文を読んで気づいた点をまとめておきます。

(1)最初の章が"GREAT POWER, OLD AND NEW"で、旧大国であるロシアと新大国である中国、それに新興国(インド、ブラジルなど)が取り上げられている。対ロ関係は彼女の専門分野なので、やっぱりロシアが冒頭に出てくるのだ。ロシアと中国は、「価値観は共有しないけど、利益は共有する」大国であり、「アメリカと同様に特別な責任を負っている」。米中ロは安保理などではともに努力をしなければならず、北東アジアにおける六者協議も重要だと書いている。

――どうも彼女の認識としては、北朝鮮は安全保障上の脅威というよりは、単なる地域問題のひとつに過ぎず、米中ロの結束をはかる試金石といった位置づけらしい。そうだとすれば、「北朝鮮の核施設無能力化は怪しいけれども、片目をつぶってとにかく合意を」となるのも無理はない。むしろ「六者協議が、協調と協力の機会をもたらせるフォーラムへと進化していく可能性」の方が大切だということになる。本当にそうなれば、これが国務長官として彼女の最大の業績ということになるだろう。その可能性は低いと思うけどね。

(2)次の章が"SHARED VALUES AND SHARED RESPONSIBILITY"で、アメリカと価値を共有する諸国についての言及がある。ラテンアメリカ、欧州、アジア、アフリカの順序である。ちょっと引っかかるのは、欧州との関係について触れた部分。「現在の大西洋同盟の耐久性と柔軟性を見ると・・・・アメリカは価値を共有する国とは永続的な同盟関係を現に築き上げている」と、非常に楽観的である。でも本当のところは、アメリカは相当に欧州では顰蹙を買っており、そのことが現在の通貨をめぐるやり取りでもマイナスに働いていると思う。そういうことは眼中にないらしい。

――「欧州なんて全然へっちゃら〜」と彼女が認識しているのであれば、当然、日本への認識はそれ以下であろう。アジアについては、「われわれはオーストラリア、東南アジアの主要国、日本との間で強固で民主的な同盟関係を築き上げている」と軽く済ませている。

(3)その後は、"A DEMOCRATIC MODEL OF DEVELOPMENT""THE CHANGING MIDDLE EAST"、さらに"THE TRANSFORMATION OF IRAQ"と続く。特に「中東の変容」の部分は、ほぼ全体の3割を占める長さである。国務長官としての仕事の中で、もっとも多くの時間と労力を必要としたであろう部分であるから、それも無理はない。とはいえ、うまくいっていない仕事であるから、ついつい言い訳がましく読めてしまう。

――正直なところ、あまり興味がわかない部分である。面白く感じるのは、「中東の民主化」という到底不可能に見える命題が、ちゃんと文脈の中で正当化されていることである。ちゃんと上司との折り合いはついているわけだ。こういうところは、しみじみスマートな人なんだよな。

(4)最後の部分、"A UNIQUELY AMERICAN REALISM"が非常に興味深い。「アメリカは、パワーバランスよりも、われわれの価値に見合うような形でパワーを行使することが望ましいと考えてきた」という指摘は、彼女の師匠筋に当たるキッシンジャーが大著『外交』の結論として述べたことに重なっている。つまり、米国は現実主義外交が不得手で、ついつい理想主義に走ってしまうのだが、そうすることによって冷戦に勝ち抜くパワーを得ることができた。現実主義者のキッシンジャーが、アメリカ的理想主義外交の強靭さを認めるというパラドクスなのだが、彼女はその正当な相続者となっている。

彼女はそれを何と呼んでいるか。"It is realism, of a sort. But it is more than that -- what I have called our uniquely American realism." 「アメリカに特有なリアリズム」だという。こういう精神があるから、アメリカは過去に過ちを犯してきたし、これからも繰り返すだろう。と同時に、平和に向けた変化を促してきたのも、このせっかちな態度ゆえのことだった。「アメリカに特有なリアリズム」は、アメリカ人を忍耐強くしているところもある。民主化に時間がかかることを、自国の歴史によって知っているからだ。

ここで彼女は、ドキッとするようなことを言ってみせる。「当時のアメリカ憲法では、私の先祖である黒人奴隷を1人とは認めず、奴隷1人につき5分の3を人口に加算するとされてきた」(これ、知らない人が多いと思いますが、まったくの事実です。なにしろ合衆国憲法が出来たのは18世紀のことですから)。「だが、この古い欠陥は是正され、今では黒人も一人のアメリカ人とみなされている」「そして、アメリカも完全な存在ではないという認識が、われわれの対外関与路線にも影響を与えている」「われわれが民主主義を支援するのは、自分たちアメリカ人が完全無欠な存在だと思っているからではなく、ひどく不完全な存在だと思っているからにほかならない」

――この部分を、バラク・オバマに対するメッセージと解するのは、それほど深読みではないと思います。黒人奴隷の子孫ではないオバマに対し、彼女なりの「理想主義と現実主義の間にあるアメリカ外交」を語りかけているんじゃないでしょうか。考えてみれば、ブッシュさんは自分の跡継ぎに彼女を、と一時期は真面目に考えていたようですし、これだけ目立ちまくっているオバマの演説に対して、彼女が無関心でいられるはずもない。オバマのことをライスがどんな風に考えているか、ちょっと興味深いじゃありませんか。

○と、こんな風に、いろんな読み方が出来てしまうライス論文です。心を揺さぶられるような部分はありませんが、頭のいい人が書いただけあって、ガラス細工のようにところどころキラキラと光る文章だと思いました。


<7月4日>(金)

○またまた新しい安全保障関連の研究会が始まってしまった。われながら、この手の会合をいくつかけ持ちしているんだろう。でも、テーマが「シナリオ・プランニング」と聞いたら、捨ておけないではありませんか。急に、「アジア2025」なんぞが懐かしく感じられる。ペンタゴンでは、アンドリュー・マーシャルがなおも健在で活躍しているそうだが、果たしてわが国の将来はどうなるのでありましょうや。

○さっそく今日、仕込んだ知識によれば、中長期戦略研究の手法として、アメリカでは"Trends and Shocks"という手法が生まれているのだそうだ。普通、長期予測というと"Trends"を追い求めることが中心で、「少子高齢化」やら「環境問題」みたいなことを取り上げる。しかし実際問題として、歴史とは本質的に不連続なものであり、「ある日突然に」劇的な変化が訪れて、それから先は得てして考えてもみなかった未来が開けてくるものである。それが"Shocks"である。つまり「トレンド」は予測できるが、「ショック」は予測できない。従って長期の安全保障戦略を描くためには、「トレンド」に対するヘッジを行うと同時に、将来起こりうる「ショック」を予防し、対応が容易になるように備える必要がある。

○なんでこういう手法が生まれたかというと、察するにアメリカにとって「9/11」があまりにも大きな「ショック」だったからだろう。真珠湾攻撃でも、スプートニクショックでも、アメリカの軍事戦略は劇的な変化を余儀なくされるわけであるが、「9/11」からこの方の変化もすさまじいものがあった。イスラム圏の「トレンド」をきちんと読んでいれば、テロリズムの脅威という「ショック」も予測しえたはずだという意見もあるだろうが、そういうのは所詮は後知恵というものである。「ショック」は本質的に予測が困難なものだ。だからと言って、「わっかりませ〜ん」とトボケてしまうわけにもいかないのが辛いところである。

○いつものクセで、この手の話を聞いていると、「これがビジネスの世界であればどうなるか」を考えてしまう。幸いなことに、安保と違ってビジネスの世界では「命までは取られない」という安心感がある。ゆえに長期戦略が外れたところで、「まあ、しょうがない」と居直ることが出来る。というか、「ある日突然、アップル社がi-podという画期的な新商品を開発する」といった事態は、ほぼ確実にソニーにとって予測不可能であろう。つまり経営環境というものは、安全保障環境に比べるとはるかに不確実性が高い。ゆえに大事なのは「ショック」が起きてしまった後の対応なのである。

○それどころか、ビジネスの世界においては、ときとして「ショック」は良いことであったりする。経営環境が激変するときは、得てして企業にとってはイノベーションのチャンスとなる。特に日本企業の場合、長期のプランを立ててコンティンジェンシーを準備するのは苦手だが、ある日突然「さあ大変」という事態に直面したときに、「全社一丸」で危機を乗り切るのは得意である。1973年のオイルショックや、1985年のプラザ合意は、日本企業に巨大な重石となったものだが、それがなければこれだけ多くのグローバルブランドが、日本に育つことはなかったはずである。

○企業にとって、なぜ「ショック」はいいことなのだろうか。企業にとって、イノベーションを生み出してくれるのは、得てして非主流派の人材である。ところが、平時においてはそういう人たちは逼塞している。天地がひっくり返るような事態になって、初めて彼らの出番がやってくる。そういう「変人」たちが、企業に劇的な変化をもたらしてくれる。変な例だが、自民党が2000年に深刻な危機に陥らなかったならば、小泉純一郎はただの変人政治家として終わっていただろう。組織にとっては、有事はときどきあってくれた方が、長期的に良い効果が得られるものだ。これまた変な例だが、8年に1度のサミットの警備のたびに、警察が組織を引き締めるようなものである。

○もっともこの場合、「ショック」は自らに責任のないものでなければならない。1990年代に起きた金融機関の不良債権問題のように、危機が「自業自得」タイプである場合は、日本企業は責任回避に動いてしまい、かえって効率が悪くなる。天から降ってくるような災害が起きたときのみ、個人には危機感が芽生え、組織には結束力が生まれてくる。他国はいざ知らず、日本の組織は情報の共有度が高いので、こういうときに絶大な力を発揮するものだ。

○そういう意味では、昨今の資源価格高騰というのは、日本企業に新たに「自分に責任のないショック」を与えて、新たな比較優位をもたらしてくれるきっかけになるのかもしれない。と、こんな風に、安全保障と経済の世界を行ったり来たりできるのが、まことに楽しいのである。


<7月6日>(日)

さいとう健さんの生対談シリーズ、今日はゲストが田原総一朗さんということで、流山市生涯学習センターまで行ってまいりました。300人くらいも来てましたでしょうか。暑い中をとっても盛況でありました。実はあらたまって田原さんの講演を聞くなんて機会は、これが初めてなのであります。

○洞爺湖サミットの話から始めるのか、それとも今朝のサンプロから切り出すのか、と興味津津でいたところ、「8つの有名私立大学の学長に聞いたところでは、今の大学では入学して2〜3ヶ月の間に1割の学生が壊れてしまうんだそうです。だから大学の先生の仕事は、行方不明になってしまった学生を探しだすこと」という話から始まりました。つかみはバッチリでありました。「大学生の6割は親に怒られたことがあっても、叱られたことがない。親に人気があるのは“面倒見のいい大学”」なんですと。ううむ、頭がいたいっす。以下、田原節が快調に1時間弱続く。

「歳入は50兆円で歳出は80兆円。毎年30兆円の赤字が出るんだから、これが普通の会社だったら倒産している」

「80兆円の内訳は、国債の利払い費が20兆円、地方交付税が20兆円、社会保障費は20兆円、その他の20兆円で、防衛やら教育やら公務員供与などを支払っている」

「地方のおカネは小泉政権が削った。今は社会保障費を削っていて、後期高齢者医療制度を入れたら不評である。となると、後は増税するしかない」

「だったら消費税を上げられるか。国民の理解を得るためには、議員の数を減らして、公務員をバッサリ切るしかない。福田首相にそう進言したら、私にそんな酷いことをさせるんですか、と」

「後期公務員制度といい、(今日のサンプロでやっていた)雇用能力開発機構の無駄といい、官僚に任せっぱなしのツケがたまっている」

「自民党がダメなのは世襲が多いから。昔は世襲の首相なんていなかったのに、橋本政権から後の首相は世襲議員ばかり。せめて予備選挙をやるべきだ」

「本音な話、政権交代があったほうがいいと思う。民主党政権になれば、しがらみが断ち切れる。でも民主党が言っているのはバラマキ政治だ」

「時代は利益の分配から負担の分配へ。そんな中で、国民に耳障りのいいことばかり言っている民主党はとっても遅れている」

○結論として、斉藤さんガンバレ、ということになる。なるべく田原さんが困らせてやろうと思って、手を上げてこんな質問をしてみました。

「北朝鮮の拉致問題、田原さんの言っていた通りの展開になっていますが、これを日米関係という文脈で考えると“拉致敗戦”以外の何ものでもない。ちょうど今、日米首脳会談が行われていますが、そのことについて福田さんはブッシュさんに何と言うべきでしょうか。脅しをかけるべきか、それとももう少し含蓄のある表現で伝えるべきか。どうですか?」

○もちろん、この程度の質問でひるむような人ではないのであります。でも、こんなこと言っちゃっていいのかなあ。

「それについては、福田さんにもう言ってある。テロ指定国家が解除された後に、すぐにワシントンに特使を派遣しろと。特使は安倍さんがいい。安倍さんが行けば、誰も反対できない」

「拉致問題では生存者が2人いるらしい。でも大事なのはむしろ死んだ人の方だ」

「拉致されて死んだ人について一件ずつ説明を求めて、日本の警察を交えて実行犯を明らかにする。これができれば拉致問題は解決する」

○家に帰ってから、日米首脳会談の後の記者会見を見ましたが、なんとも生ぬるく感じられました。ブッシュさんは日本の拉致問題を気にかけてくれているようですが、彼が深く信頼するライス国務長官の認識は、当欄の7月3日に書いたとおりである。福田さん、予定調和的に締めくくっちゃダメですよ。もちろん明日からもね。


<7月7日>(月)

○昨日の日米首脳会談は、ホントに黄昏れた感じでしたね。記者会見でブッシュさんが「拉致被害者を見捨てない」と言ってのけたのは、日米関係が再び漂流に向かう中で、一服の癒しをもたらしてくれているかのようでした。

○ほんの少し前まで、日米の利益は強固に一致していました。経済でも安全保障でも、Natural Partnerといってよいほどでした。それはちょうど『ドラえもん』に出てくるジャイアンとスネオのようなもので、いちばん腕力の強い子と、お金持ちの子供が仲良くすることは、お互いにとって利益になるのです。国際政治や外交の世界というものは、複雑なように見えてその実は単純です。子供が幼稚園の砂場で覚えるような、単純なルールが身を守ってくれます。誰と仲良くして、誰に近づかないようにすべきか、子供はすぐに見抜いてしまうではありませんか。そして得にならないもの同士の友情は、たぶん長続きはしないのです。

○ところが2008年になってあたりを見渡してみると、ずいぶん状況が変わってしまいました。ジャイアンは昔ほど喧嘩が強くありません。たぶん北朝鮮を脅しあげて、拉致被害者を取り返してくれたりはしないでしょう。スネオは昔ほどお金持ちではなくなりました。仮にドルが暴落したとしても、一緒に為替介入して買い支えてあげる余裕はないでしょう。それでも二人の友情は不変でしょうか。たぶんそれは程度問題なのでしょう。ブッシュさんと福田さんは、互いを値踏みしながら、「しょうがねえなあ」とため息をついているように見えました。

○周囲が日米を見る目も、ずいぶん変わってしまったことでしょう。ブッシュ=小泉時代には、「あいつらは一心同体みたいだぜ」と思われていました。だからドル円レートもきわめて安定した状態が続きました。しかしこれだけ互いの国益にズレがあることが見えてしまったからには、いつ「円のドル離れ」が始まっても不思議はありません。私はどうもこの夏辺りに、為替相場で波乱があるような気がしてしょうがないのですが。

○仮にも親米派のはしくれとしては、このようなことを書くのはまことに心苦しいのでありますが、「親米」はあくまで手段であって目的ではありません。大事なのは日本の将来です。しばし日米関係は漂流して、互いの重要性を再発見する必要があるのでしょう。ちょうど日米通商摩擦の後に、日米安保の再定義が行われたように。

○G8サミットについては、また明日にでも。


<7月8日>(火)

○で、洞爺湖サミットなんですが、別にどうだっていいですよね、そんなこと。とにかく無事に終わってくれればそれでいいんです。この世界では「サミットに失敗なし」などと申します。あれだけ多くの首脳を集めて、各国の外交官が1年かけて準備をして、お金もいっぱいかけて、地元も喜んで、これで失敗でしたなどということはありえない。でも、テロ事件の一発で、暗い記憶が半永久的に残ってしまいます。サミット警備の警察官の皆様、ご苦労様ですが、あと1日、頑張ってください。洞爺湖さえ済んでしまえば、後は他人事だと思って北京五輪を見ていられますから。

○だいたいですな、今年、環境問題に力を入れる理由なんてないんです。来年になればブッシュ大統領が居なくなることが分かっていて、後任候補の2人はいずれも地球温暖化対策には前向きです。だったら、今年中途半端な妥協をアメリカからもらっても、あんまり意味ないじゃありませんか。それに地球温暖化の問題の締め切りは、来年末のCOP15です。G8的には、まだ来年のイタリア開催が残っています。ここは議長体験3度目になるベルルスコーニ首相の方が、我らが福田さんよりもはるかに安心感がある。今年は「2050年」の目標を確認できれば、それで御の字というものではありませんか。

○資源価格と食糧価格の高騰も大切です。これは生活に直結しますから、地球温暖化よりも切実です。でも、この手の問題は結局は市場メカニズムに委ねるしかないことであって、国際会議で価格の高騰が止まったなんて前例は聞いたことがありません。これだけはやった方がいいのは、「輸出規制をやめよう」という文言を合意文書に入れることでしょうか。ま、それにしたって、気休めですけどね。

○日本人の悪い癖として、家にお客さんを呼ぶときは「○○さんは好き嫌いはあったかしら」「部屋の片づけをしておかないと」などと気配りをして、最後は家中でヘトヘトになってしまうことがあります。しかもお客さんからは、「あの家は完璧すぎて、気詰まりなんだよな」などと思われていたりする。外のお客を呼んで自然体でいられる、というのは、なかなかに難しいことであります。警戒すべきはサービスが足りないことではなく、サービスが過剰になることです。福田首相には、「議長だからといって、自分ができない約束をしてくれるなよ」と申し上げたい。

○1979年の東京サミットでは、今年と同じように石油高が大テーマになり、各国の輸入制限割り当てが議論されました。で、日本には日糧630万バレルという上限が割り当てられ、議長の大平首相が嘆息するような結果となりました。当時の経済界としては、これじゃあマイナス成長かなあ、てな過酷な水準でしたから、明らかに日本外交の失敗でした。しかし、日本経済はそこからものすごい産業構造の転換に成功し、結局、この上限に触ることは1回もなしに済ませたのであります。なにしろアルミの精錬産業なんて、この時期にきれいサッパリ国内から消えましたから。ああ、なんて日本的な結末。

○ということで、G8サミットはなるべく肩の力を抜いてやっていただきたい。それよりも、とにかく無事故がいちばん。家に帰ってくるまでが遠足です。


<7月9日>(水)

○深刻な話が続いたので、今日は他愛のないネタを少々。

○夕方、某所の会合に出かけたら、「夕刊の記事を読みましたよ」との声が。はて、何のこっちゃ、と考えてから、日経夕刊のコラム「十字路」の掲載日であったことを思い出す。ちなみにタイトルは「予期せぬ『ショック』の効用」といいます。よかったらチェックしてやってください。それにしても、午後5時に夕刊を読み終えているとは、なんとゆうユルイ職場であろうか。ああ、ツッコミたい、ツッコミたい。

○「JK」(女子高生)の流行語で、「KY」(空気読め)に続く新しいヒットは、「HK」(話は変わるけど)。メールなどの文中に、突然、これが入ってくるのだそうだ。そういえば英語でも、"BTW"(By the way)ってのがありますわな。どうでもいいことだが、ワシ的には「閑話休題」ってフレーズの方が好きだ。

WTI原油が急落しておる。これが本物であれば、どんなに良いことか。6月下旬に投機筋がロングポジションを解消している、という話を小耳に挟んだが、G8のようなイベントの前に投機を手仕舞いをするのは、この手の世界ではよくあること。別に福田さんが偉くてそうなったわけではないが、とにかく下がればモウケモノである。

○昨日発表された景気ウォッチャー調査の6月分では、現状判断指数は29.5と低下し、過去3番目に低い水準となった。これはもう、景気後退は不可避という感じで、4月時点のかんべえの見立てはちょっと甘かったようだ。不思議なことに、地域別で見ると沖縄の次に近畿が良いことになっている。これはひょっとすると、阪神タイガースのお陰ではないだろうか。だってこのところ、ワシが見てても強過ぎるもん。


<7月10日>(木)

○本日も引き続き他愛のない話を。

○骨董品が趣味という人から伺った話。若い頃、大枚を払って、かねて念願の陶器を買う。すぐに自分より目利きの人のところへ持って行き、「どう?」と聞く。即座に「フェイク」とのご託宣。え、なんで、どうして、どこがどうなの?と聞く。あのなあ、ここをご覧よ・・・・。と、目利きのノウハウを拝聴する。その足でトボトボと骨董屋に戻り、品物を買い戻してもらう。買った値段の6割程度になってしまうので、1日で大損をしたことになる。「高い授業料ですね」と言ったら、「そりゃあもちろん、絶対に忘れませんよ」。納得。

○中国でも骨董品ブームが起きていて、古い陶磁器に高い値段がつくのだそうだ。ただし日本との嗜好の差があるので、日本で高い宋代の作品が中国では安く、中国で高い清代の作品が日本で安く買える、なんてことがあるとのこと。総じて中国人は完全性による美しさを求め、日本人は偶然性による美しさを尊ぶ。この辺は相互の美意識の違いが感じられて面白いと思う。で、中国人にこんなことを言われてしまう。「なんでお前たちは、俺たちが作ったものを国宝にしてるんだ?」――ふむ、言われてみれば、これも日本特有の感覚でありますね。

ぐっちーさんは大人なんだから、モナさんの不倫もいいじゃないと言っているけど、二軍に落ちているものをつまみ食いするのはいかんのではないか。これが今岡誠だったら、ワシは許さんぞ。


<7月11日>(金)

○今日も細かいネタでつなぎます。

○会社を辞めてしまった元同期社員2人が訪ねてくる。Nからは最近の上海における不動産ビジネスについて聞き、Kからは最新のウェブビジュアルコミュニケーション技術について拝聴する。こんな風に自分が座っていて、現場のナマの話を聞けるのはありがたい。考えてみたら、20代で出会ってから月日は流れ、今では全員がいいおっさんになっている。お互いによく生き残っているものだと思う。3人でしばし談笑した上で、Kの会社が将来、中国に進出する際には、Nの会社を使いましょうということになる。

○サントリービールがサッポロビールのシェアを追い抜いたそうで。そういえばワシは、この数年でエビスビールからプレミアムモルツに転向している。1日1本くらいなので、大勢に影響はないはずであるが、少しだけ貢献したかもしれない。それにしても、最近はどこへ行っても置いてあるビールはアサヒかキリンで、サッポロの黒ラベルを滅多に見かけなくなりました。やっぱり不動産業があるから大丈夫、というのが悪いのではないか。実態が「サッポロビル」では困ります。

○7月9日に書いた「近畿の景況感が(相対的に)明るい」という話につき、読者の方から以下のご注進あり。

>最近の関西は工場三法という近畿・関東圏への工場進出を抑制する法律が廃止されたのをきっかけに非常に大型投資が盛んな地区だそうで、
>逆に中部地方は車は売れないし、最近地元の中日新聞からトヨタの下請けの苦悩をトヨタに対して批判的に書く連載まで設けられる始末で、
>もはや「元気のない関西・元気のある中部」というのは過去の物になりつつあるみたいです

○そういえば、名古屋が良くなったのは工場三法のお陰、という話を藻谷さんから聞いたような気がする。浮き沈みは世の習い。いいことも悪いことも、けっして永遠に続くものではありません。


<7月13日>(日)

○そろそろアレが決まる頃かもしれない。ということで、そろそろチェックしておきましょう。ワシントンポストの政治ブログが挙げている副大統領候補は以下の通りです。


●REPUBLICANS

5. Sen. John Thune:(R-SD)
4. Gov. Bobby Jindal(R-LA)
3. former Gov. Tom Ridge(R-PA)
2. Gov. Tim Pawlenty(R-MN)
1. former Gov. Mitt Romney(R-MA)

●DEMOCRATS

5. Sen. Hillary Rodham Clinton(D-NY)
4. Sen. Joe Biden(D-DE)
3. Gov. Kathleen Sebelius(D-KS)
2. Sen. Evan Bayh(D-IN)
1. Gov. Tim Kaine (D-VA)



○「オバマとマッケインの副大統領候補は誰でしょうね」と聞かれたら、なるべく誰も知らないような知事の名前を挙げるのがコツというものです。だってどうせ当たらないんですから。人事はサプライズが命です。「ふーん、そう来たか」と思われるようでは面白くないので、副大統領が上記5人の中から選ばれる確率は5割程度なんじゃないかと思います。実際、上記のリストには、共和党ではクライスト・フロリダ州知事、民主党ではエドワーズ元上院議員のように、「なんでここに名前がないの?」という人が漏れています。まあ、その辺は微妙なところなんでしょう。

○副大統領候補の選択は、地域バランスやら政治思想やら人柄の好き嫌い、果ては写真を撮ったときに「絵」になるかどうかまで、ありとあらゆる要素が絡み合うとても戦略性の高いゲームです。そこがついつい面白くなってしまうのですが、有権者が投票するのはあくまでも「大統領候補」です。だからあんまり深入りしないように、副大統領選びをウオッチしたいと思います。で、福田内閣の内閣改造については・・・・これは言わぬが花と言うものでありましょう。


<7月14日>(月)

○某所の会議で終日カンヅメ。滅多にない経験につき、得るもの多し。とはいえ、仕事も溜っているので夜の宴席はご遠慮して会社へ。来週の上海出張の準備やら、「SPA!」のゲラチェックやら、その他いろいろ。

○かなり遅れて、民主党の10周年記念パーティーを覗いてみる。ホテルニューオータニがとんでもない人出で、無慮数千人だという。景気は急降下しているはずなのに、これだけ多くの人が2万円を片手に集まっているとは、端倪すべからざる勢いなり。小沢党首の挨拶も意気軒昂であったとのこと。しかしこれだけ人が多いと、なかなかご挨拶も出来ません。とりあえず円より子さんと吉良州司さんと握手。ところで、長島昭久近藤洋介は来ておったんかいな。

○帰りに気まぐれを起こして、とっても久しぶりに烏森の「はづき」に立ち寄る。岸本ママの希望により、テレビをつけてお客一同揃ってフジテレビ月九ドラマ、『CHANGE』の最終回を見る。いやー、このドラマ、初めて見ましたがな。キムタク総理が閣僚連絡会議のお茶を廃止しようとして、内閣府事務次官の抵抗にあうなんて、とってもスモールポリティクスで今風である。でも、現実の政治に比べると、フィクションは罪が軽くていいのかなあ。

○そこへ内山敏夫氏と佐藤政俊氏が到来。うっちーさんとは何年ぶりかしら。最近の「はづき」は、マーケット関係者があんまり来ていないというのに、おそるべき偶然である。『ルック@マーケット』残党は健在でありました。ということで、深酒。

○ところで佐藤氏は、今朝も「モーサテ」に出ていましたけど、「となりのトトロ」のネクタイをしていたことに皆様はお気づきでしたでしょうか。つい最近、「裏トトロ」の話を聞いたんですが、これって都市伝説としてもかなりよく出来ていると思います。宮崎アニメはしみじみ深い。


<7月15日>(火)

○今朝の日経一面左上、さりげなく怖い話が書いてある。危うく読み飛ばすところであった。ジャーナリストT氏の取材力、恐るべし。

「GSE危機はドルの信認危機に直結する。米財務省によれば、外国人投資家が2007年6月末時点で保有するGSE債は1兆3050億ドルに上る。中国が3760億ドル、日本は2290億ドルを抱える。アジア諸国などの外貨準備の運用先であるフレディマック債は、保有する海外当局が66に及ぶ」

○おーっと、日本でも20数兆円のお金がアメリカの政府支援機関(BSE)債に流れているぞ。日本でファニーメイやフレディマックの債券を買っている投資家が誰かと言えば、おそらくは金融機関よりも政府の外貨準備なんでしょうな。アメリカ国債ばっかり買っていると怖いから、少しはエージェンシー債も入れておこうか、みたいなノリで。おそらく中国の場合はもっと極端で、アメリカ国債ばっかり買うのは癪に障るから、わざとGSE債を買ったりしているかもしれない。まあ、日本も中国も、それだったら時価会計の必要はないので、このまま放置しておいてもいいのでありますが。

○しかるに上記の記事をよくよく読んでみると、こんなことも書いてある。

「両社(ファニーメイとフレディマック)の長短債務と住宅ローン担保証券の合計は、日本の名目国内総生産(GDP)に匹敵する5兆ドル規模に達した」

○GSEが借り入れている5兆ドルのうち、1.3兆ドル分は海外投資家に持ってもらっているけど、後はほとんどがアメリカの国内投資家の自己責任ということになります。大丈夫か500兆円も。いざとなったら、中国と日本が買い出動して助けたりするんでしょうか。でも、「ジャイアンはすでに喧嘩が弱くなり、スネオは昔ほどお金を持ってない」現状を考えると、日本ができる対米協力策は限られております。それに、せっかくこのタイミングでドル資産を買ったとしても、後から値打ちが下がるんじゃあ手が出せない。いやー、どうするんでしょう。やはりドル安局面が近いんじゃないでしょうか。

○昨日のネタを引きずって、もうひとつ怖い話を。トトロの都市伝説はますます深い。念のために言っておきますが、下記のサイトはネタばれ注意です。

●狭山事件との奇妙な共通点 http://totoro.3xai.net/2007/09/post_3.html 


<7月16日>(水)

○最近、「中道化するオバマ」、あるいは「オバマのクリントン化」(これはもちろん、ヒラリーではなくてビルの方ね)と呼ばれる現象がある。そんなわけで、こんな政治マンガが流行ったりする。

●「Change」というスローガンの下で歓呼に答えるオバマ。後ろのスタッフが「確かに変化しているよな」。その手元には長いリストが。「NAFTA、銃規制、選挙資金の公的助成、盗聴法、イランとの無条件対話、イラクからの即時撤退・・・」

●ディスコで、「センター」という名のセクシーな女性と踊っているオバマ。そこへ「レフト」という名の女性が噛み付いている。「ダンスはね、連れてきてくれた人と踊るものなのよ!」

●「私の立ち位置」と書いたカンバンを持って立っているオバマ。しかし地面はカンバンの杭を抜いた跡で穴だらけである。有権者が「われわれは撤退の期限を知りたいんだが・・・」

●オバマのジェット機が緊急着陸。「真ん中に下りたいんですが、機体が左に傾いています」


○いやもう、いっぱいあるんです。民主党の候補者になったら、オバマはとたんに変わってしまった。銃規制に関する最高裁判決を支持するし、死刑にも賛成するし、盗聴法に賛成票を投じるし、公約したNAFTAの見直しもたいしたことしないみたいだし・・・・。選挙資金があまりに集まるものだから、やっぱり公的助成は受けないことにしました、というのも「恬として恥じず」である。逆にマッケインの方は、公的助成を受けて法律の限度額内で戦うことを明らかにしている。なにしろ選挙資金規正法は、「マッケイン・ファインゴールド法」という自分で作った法律ですからな。

○オバマの中道化路線は、米大統領選挙の戦い方を考えれば、少しも不思議なことではありません。つまり予備選の最中は目いっぱい党の基盤であるリベラル派(共和党の場合は保守派)にサービスして、公認候補の座を射止めたら、今度は大胆に中道に擦り寄るというのは、勝つための常道ともいうべき作戦です。これから先は、「ブッシュが大嫌いな共和党支持者」を取り込む番で、できれば「オバマ・リパブリカン」と呼ばれるような支持者を獲得したいところ。逆に今頃になって、宗教右派のご機嫌を取らなければならないマッケインの方がよっぽど苦しい。

○ところがオバマの支持者たちの間では、少しずつ失望感も深まっている。まあ、だからといってラルフ・ネーダーに投票する人は多くないと思うけれども、「これでは何のために応援していたのか」というわけだ。実際、毎月のオバマ陣営への献金額はどんどん減っている。それでも、これは政治家として現実的な選択であるし、大統領に当選するという大きな勝利を得るためには必要不可欠な道筋だと思う。ちなみに今週のThe Economist誌なんぞは、「オバマの中道化に問題があるとしたら、それはまだ十分でないことである」と、いかにもらしいことを書いている。

○さて、そんな中でオバマのイラク政策が発表された。7月14日のニューヨークタイムズ紙上で、"My plan for iraq--It's time to begin a troop pullout"という。なかなかに画期的な内容だと思います。従来は、「就任後16ヶ月=2010年夏」までに撤兵するといっていたけれども、それはあくまで戦闘部隊であって、残りの部隊は、アルカイーダの掃蕩やアメリカ政府関係者の保護、イラク治安部隊の訓練の任務を続ける。安全な撤退のために、現地の司令官たちやイラク政府とは話し合う。より緊急に必要なのはアフガニスタンとパキスタンであり、アフガンには2個旅団を増派したい・・・・。

○これは反戦左派からみれば、ほとんど裏切りのような内容でしょう。逆に中道派や保守派、そして特に米軍の関係者から見れば、「オバマって結構、まともじゃん」ということになる。かくして、オバマの中道化がまた一歩進んだのですが、この記事の最後の部分にアッと驚くようなことが書いてある。


In this campaign, there are honest differences over Iraq, and we should discuss them with the thoroughness they deserve. Unlike Senator McCain, I would make it absolutely clear that we seek no presence in Iraq similar to our permanent bases in South Korea, and would redeploy our troops out of Iraq and focus on the broader security challenges that we face. But for far too long, those responsible for the greatest strategic blunder in the recent history of American foreign policy have ignored useful debate in favor of making false charges about flip-flops and surrender.
It’s not going to work this time. It’s time to end this war.

「それにしても、近年の米外交史における最悪の戦略的な失敗は、あまりにも長い間、態度のブレや降伏について誤った攻撃ばかりして、有益な議論を怠ってきた人々の責任である」


○これってホントにその通りです。2004年の米大統領選挙では、ジョン・ケリーは言ってることがコロコロ変わる(フリップ・フロップ)と批判されて、それに比べるとブレないブッシュの方がいい、というのが決め手になった。ところがオバマは、「フリップ・フロップ」と呼ばれることを怖れないらしい。つまりこれは、過去の言動には縛られないぞ、という宣言なのである。あいかわらず、オバマは言葉の使い方がうまい。2008年選挙で「フリップ・フロップ」という非難をする人がいたら、それは「古いタイプの戦術だ」と言って、切り捨てるのであろう。

○いろんな意味で、2008年選挙はこれまでのものとは違ったものになりそうです。もっとも、こんな風に超党派の理解を求めるオバマというのは、黒人の父と白人の鼻の間に生まれた彼の複雑な生い立ちによるところが大きい、という解説も増え始めている。ナベさんご推薦の『オバマの孤独』(原題名"A bound man"、シェルビー・スティール著、青志社)を今日、読み終えましたが、これはアメリカ社会における黒人の立場のものすごく深い部分を語っていて、ズシリと胸に響くものがありました。いやはや、「オバマ研究」は奥が深いです。


<7月17日>(木)

○FNN/産経新聞が先週末に行った世論調査の結果が出てましたが、その中で「アッ」と驚いた項目があるのでご紹介します。(これは産経政治部のI記者に送ってもらったデータを元にしているので、ひょっとしたら紙面に反映されなかった分であるかもしれません。でも、問題ないですよね?)

●今後、福田政権にあなたが最も期待する政策は次のうちどれですか。次の中からひとつだけお知らせください。

1.消費者行政の充実 3.8%
2.医療・年金などの社会保障 26.4%
3.北朝鮮問題の解決 1.8%
4.治安・安全対策 2.6%
5.消費税などの税制改革 4.7%
6.地球温暖化対策 4.6%
7.財政のムダづかいの見直し 38.8%
8.物価・景気対策 14.3%
9.わからない、言えない 3.0%


○なんと4割近くの票を集めて、圧倒的な第一位に輝いた項目は「財政のムダづかいの見直し」でありました。ワシはてっきり「医療・年金などの社会保障」がダントツだろうと思いましたが、それは26.4%の第2位でありました。そして第3位が「物価・景気対策」。国民生活に直結している医療年金や物価景気よりも、国民は税金の無駄遣いを心配している。こうなると、『CHANGE』最終回の政策ネタとして、「閣僚連絡会議のお茶をなくすかどうか」が取り上げられた背景が改めて浮かんでくるような気がします。

○しみじみ「スモール・ポリティクス」そのものという感じでありますが、こんな風になってしまった昨今の政治情勢というものを、深く考えてみる必要があるんじゃないかと思います。つまり有権者は自分たちにメリットがあることよりも、デメリットがなくなることの方を気にしている。政治というものは、ある時期までは利益を分配してくれるものでした。田中角栄さんなんてのは、そのチャンピオンでありました。ところが今では、政治とは負担の分配をお願いに来るものになってしまった。国民は賢いから、その辺のことがちゃんと分かっている。そこで、その前に負担を減らしてくれ、ということが政治課題のナンバーワンになってしまうのです。

○思えばこの10年ちょっとの間に、民間企業のお金の使い方はとっても厳しくなった。20年前には「上様領収書」てなものが堂々とまかり通っていました。レストランのレジなどでは、「領収書のお宛名は上様でよろしいでしょうか?」みたいな言葉が聞かれたものであります。今じゃ「上様領収書」を回したら、経理にぶん殴られますわな。そのくらい、リストラ時代に民間企業のおカネの出し方は渋くなったのです。ところが、永田町や霞ヶ関の金銭感覚ときたら、昭和の頃からあまり変わっておらず、昨年の「ナントカ還元水」から今年の「居酒屋タクシー」に至るまで、庶民の神経を逆撫でし続けている。これはまずいっす。

○個人的にはワシは、そんな小さな金額に目くじらを立てるのは大人気ない、と寛大に構えるものであります。悪名高い議員年金なんぞも、そのまま残しておいたほうが良かったと思っているくらいです。だって政治家という悪事をなしえるポジションの人たちに、老後の心配をさせないようにしておくことは、ありうべき汚職の芽を事前に摘むという面で、きわめて安い投資だったんじゃないでしょうか。ところがそんなワシでも、「道路財源が10年間で59兆円」というのを聞いてしまうと、「そのカネを何とかしろおおおお!」と思います。だって、そんなおカネをぜんぶ道路に使ってしまったら、愛媛県と大分県を結ぶ橋、みたいな馬鹿なものができてしまいますよ、きっと。

○ワシが知る某ベテラン官僚も、「10年で59兆円」を聞いてハラハラと落涙しつつ言っておりました。「そんなカネがあるなら、俺の政策に10億円でいいから使わせてくれ!」――同様なことを考えた人は、霞ヶ関では少なくなかったでありましょう。そのほかにも、茨城に空港を作るとか、お馬鹿な話が一杯あるではありませんか、この国には。かくして「物価景気よりも、医療年金よりも、とにかく財政の無駄を減らせ!」という民意が出来てしまった。

○ひとつだけ確かなことは、政治が「負担の分配」を国民にお願いするときが遠からず訪れるだろうということです。そのとき、お願いをする人は身綺麗にしておく必要があります。「埋蔵金」は当然全部表に出すし、議員の数は減らすし、公務員の数も減らす。そして当然、財政のムダは極力なくさなければなりません。「どのツラ下げて負担増を言ってくるのか」と国民は身構えている。そんなことを、チラッと考えさせてくれる世論調査データでありました。


<7月18日>(金)

○某所でエコノミスト業界の寄り合い。本題は米大統領選挙でワシが報告者だったのだが、昨今の情勢ゆえに議論はGSE問題へ。ファニーメイとフレディーマックはどうなるのか。そもそも何なんじゃ、それは、てなことに。本日のところの結論は、アメリカは日本のバブル崩壊をよく研究していて、同じような馬鹿なことをするはずがないとされていたけれども、実はまったく学んでいなかったのではないか。それどころか、こっちの方がよっぽどと規模がデカいんじゃないのか、てなことに。

○サブプライム問題が巻き起こした危機の第一陣が金融機関の経営悪化であったとすると、それは今年3月のベアスターンズ救済でいちおうの峠を越した。第二陣は資源バブルで、これは当分はしこりそうだけれども、とりあえず7月3日のECB利上げで転換点を迎えた可能性がある。そこへ襲ってきたのが第三陣のGSE問題で、これまた非常に深刻な状況である。とにかく「大き過ぎてつぶせない」ことは間違いないのだが、本当に大き過ぎるので無敵の米国債をもってしても支えきれるのかという心配がある。仮にこの後、第四陣があるとしたら、それはドル危機になるのではないか。人心を惑わすようで恐縮でありますが、やっぱりこの夏は怖いような気がします。

○もっとも、それで世の中の底が抜けるかというと、むしろ早いとこ悪材料出尽くしになってしまった方がありがたいというもので、「これ以上は悪くならない」という共通認識が出来てしまえばそこが転換点になる。いつも同じセリフで恐縮ですが、「山より大きなイノシシは出ない」。人間の世界に大きな進歩はありません。だから10年単位で金融危機が起こります。かといって、完全な破綻もありません。ありがたいことに、命までは取られません。とりあえずシートベルトのご用意は必要であろうかと考えますけれども。

○夕方から新潟県浦佐へ行き、国際大学のオープンセミナーで講師を務めました。毎度おなじみの信田先生のお誘いであります。大学のご近所にお住まいの方々が対象なのですが、とっても質問のレベルが高くて感心いたしました。

○ひとつだけ惜しまれるのは、新幹線の中で傘を置き忘れてしまったことです。これでもう8年くらい使い続けてきた三段折りたたみ傘で、もともとは帝人さんを訪問したときに頂戴したノベルティの記念品でした。後年はかなりボロボロになっていたものを、手入れをしながら使っておりましたが、とうとうお別れのときがきてしまいました。悲しいけれども、まあ、どんなことにも終わりはあるものです。過去は過去として、また前へ進むしかありません。

○今週末は恒例の町内会の夏祭り。明日は朝から山車の組み立てが待っております。


<7月20日>(日)

○今日はこの夏いちばんの暑さであったとのこと。夏祭りのために、朝からずっと外に出ていたので、とっても日焼けをしてしまいました。あーしんど。どうせなら、ハワイかどっかで焼きたいものであります。でもって、朝からビールばかり飲んでいる。まあ、全部汗になって出てしまうわけですが、夏祭りといえばとにかくビールであります。それから枝豆、アイス、カキ氷。あ、何か忘れていると思ったら今日はスイカがなかった。今年も重労働だったけど、とりあえず無事に済んでめでたいことです。

○ひとつだけ驚いたのは、今年は土曜夕方の宵宮の宴会の最中に、地元選出の衆議院議員(自民党)と県会議長さんが顔を出したことです。ウチの町内会は人数も少ないのに、やっぱり選挙が近いぞということなんでしょうか。こんなのは文字通り始めての現象です。


<7月22日>(火)

○お昼に今井澂先生が来社。ご一緒に赤坂サカスへ繰り出してみたところ、かつての混雑はどこへやら。おばさま族は飽きてしまったのか、それとも物価高で遠出を控えておられるのか。ともあれ、地元民としては良かった、よかった。やっと赤坂に日常が帰ってきた。イタリアンの「グラナータ」に入ってみると、定番の二色パスタのランチが以前と変わらぬ1500円であった。でも、食前のブルスケッタはなくなっていた。やはり場所代が上がってしまったのか。ちょっとさびしい。今井先生とは、当今の情勢などについて懇談。いつもながら勉強になります。

○ところで明日からちょっくら上海に行ってまいります。昨年秋に訪れた上海対外貿易学院に「日本経済研究センター」ができましたので、若干の仲間(実はかなりの豪華メンバー)とともに渡航して、日中経済対話を行ってまいります。いろんな意味でいいタイミングになったと思います。まず、北京五輪まであと2週間ちょっとであり、にもかかわらず物騒なことが起きたりする今の中国の内情を、果たしてどう見るべきなのか。そしてそれ以上に、アメリカ経済は得体の知れないことになっており、サブプライム→モノライン→ファニーメイ→ホントに明日は何が起きるんだ、みたいな状態になっています。こうなると、日中の経済は完全に「同じ船」(例:エージェンシー債ってどうしたらいいの?)で、どうやって互いの無事を確保するか真剣に考えざるを得ません。

○そういうわけで、3日ほど留守します。皆様、よろしく。


<7月23日>(水)

○羽田から出国して虹橋空港に着陸すると、上海はとっても近いのである。でも、うだるような暑さでは東京に負けていません。当地は37度Cです。湿気もあります。

○早速ながら、日本側出席者の打ち合わせを始める。滝田洋一氏、小林慶一郎氏、関山健氏、それに不肖かんべえの4人であります。上海の高層ビルや古い建物を見ながら、当地の本格的なお茶を飲みながら話をしていると、ついついハイな気分になってしまい、下記のように高度なギャグが生産されてしまいます。Politically Incorrectの段は平にお許しを願いたく存じます。

●昔 「米国帝国主義は日中人民共同の敵である」(浅沼書記長)

 少し昔 「日本の金融不安は、米中共同の懸念である」(クリントン大統領)

 現在 「米国サブプライム問題は日中共同の懸念である」


●問い:アメリカが世界に輸出している害毒は何か?

 答え:「GSE」(日本と中国)、「BSE」(韓国)


●問い:1980年代の累積債務問題と、今日のサブプライム問題の違いは何か。

 答え:80年代は、貸してはいけない中南米諸国にお金を貸してしまった。今回は、貸してはいけないヒスパニックの人々に貸してしまった。


○夜は中国側を交えての歓迎晩餐会。蘇州料理をいただきつつ、とっても強い白酒を十数杯、「カンペイ」を繰り返す。ワシはこんなに酒が強かったのだろうか。

○食卓を、日本語と中国語と英語の会話が乱れ飛ぶ。日中は漢字文化を共有するも、仏教になると非常に翻訳が難しいのだそうだ。「色即是空、空即是色」を何と説明するか、てな話で盛り上がる。答えは"The emptiness is the substance, the substance is the emptiness." この境地、きっと欧米人には理解不能でありましょう。これが分かるのは、アジア人のみなるぞ、てなことでお後がよろしいようで。

(21:44PM記)

○その後、上海馬券王先生と合流し、夜の上海ツァーに出かける。

(1)最初に行ったのが「カフェ・ド・カルモ」。このコーヒー、荻窪駅の南口にある「繁田園」というお茶屋の二階にある「ブラウンチップ」というコーヒー豆販売店と、同じ豆を中国で売っている。名物は、ブラジル在住の下坂さんの農園で作っている「カルモ・シモサカ」というブランド。ワシが荻窪に住んでいた20年位前にほれ込み、柏に引っ越してからもずっとこのコーヒーを飲み続けている。拙宅で「カルモ」の味を覚えた馬券王先生が、ほかならぬ上海で支店を発掘したときの驚きたるやいかばかりであったか。

(2)それから某内緒のビデオショップへ。いつもは海外モノの海賊版を売り物にしている店なのだそうだが、今宵は見事に国内モノだけの店に変身していた。これでは商売にならないと思うのだが、どうやら「オリンピックモード」であるらしい。察するに北京五輪終了後は、またまた海外モノの販売が復活するのであろう。いやー、それにしても先週、最終回を迎えた「CHANGE」のDVDがもう売っているなんて・・・・。恐ろしい世界であります。

(3)そこから足裏マッサージへ。1時間70元というから、日本円では1000円ちょっとくらい。ときどき「痛いっ」という瞬間があるけれども、心地よく寝させていただきました。先週末の町内夏祭りの重労働のお陰で、腰を痛めておったのですが、これでよくなったかもしれません。酔い覚めの、水の美味さや、マッサージ。

(4)最後の仕上げは「白木屋」でおそば。上海における日本そばは栄枯盛衰が激しいとのこと。馬券王先生の現地における仕事上の苦労話などを拝聴する。馬券王先生にとって、JRAはあくまでも週末の趣味であって、ふだんは某日本企業でご活躍中である。ときどき「架空の人物ではないか」と言われることがあるので、念のために申し添えておきます。

(2:06AM記)


<7月24日>(木)


●午前の部(AM 9:00−12:30)

1. ご挨拶  上海対外貿易学院学長 王新奎

2. ご報告(一)(9:15―10:15)

司会: 復旦大学経済学院常務副院長 孫立堅

(1)報告内容:Business Cycle Accounting of Japanese Economy
報告者:経済産業研究所上席研究員 小林 慶一郎

(2)報告内容:当面の国際金融情勢について
報告者:《日本経済新聞》論説副主幹 滝田 洋一

討論(一)(10:15−10:45)

3. コーヒーブレーク(10:45−11:00)

4. 報告(二)(11:00−12:00)

司会: 上海交通大学環太研究センター主任 王少普

(1)報告内容:日本製造業競争力の維持と中国への示唆
報告者:上海社会科学院国際貿易室室長 傅鈞文

(2)報告内容:日本から見た東アジア経済圏
報告者:双日総合研究所副所長 吉崎 達彦

討論(二)(12:00―12:30)

昼休憩(12:30―1:30)

●午後の部(PM 1:30−5:30)

1. ご報告(一)(1:30―2:30)

司会:みずほ総合研究所研究員  鈴木 貴元

(1)報告内容:東アジア:「脆弱金融」時代に別れを告げられるのか?
報告者:復旦大学経済学院常務副院長 孫立堅

(2)報告内容: 中国マクロ経済ならびに金融情勢に関する分析と展望
報告者:交通銀行発展研究部  唐建偉

討論(一)(2:30―3:00)

2.  コーヒーブレーク(3:00−3:15)

3. ご報告(二)(3:15―4:45)

     司会: 日本銀行北京事務所所長  瀬口清之

(1)報告内容:東アジアにおける地域協力の基礎的な条件と課題に関する一考察
報告者:上海交通大学環太研究センター主任 王少普

(2)報告内容:ポスト円借款時代の日中経済協力
報告者:東京財団研究員 関山 健

(3)報告内容:中国の経済成長と中日間の環境協力
報告者:上海対外貿易学院日本経済センター主任 陳子雷

  討論:(4:45―5:15)

4. まとめのご挨拶  双日総合研究所副所長     吉崎 達彦
            上海対外貿易学院副学長    葉興国       

5. 夕食会(5:45−7:15)

6. 上海市内観光(7:15−9:15)


○ということで、シンポジウムが終わりました。長い一日でした。感想はまた別途。


<7月25日>(金)

○今回のシンポジウムは、上海対外貿易学院で新たに発足した「日本経済研究センター」を記念するものです。個人的には、これが「日本経済研究センター」であるところに値打ちがあるわけと思うのですよね。というのは、中国には「日本研究所」はそこそこ数があって、ワシも岡崎研究所の日中安保対話などでそういう人たちを少しばかり知っている。思い切り悪い表現を使ってしまうと、彼らは「日本を言い負かすために日夜、研鑽を積んでいる職業的ジャパン・バッシャー」という面があるわけです。もちろん、こちら側も百も承知で付き合っているのだし、戦闘的な議論にはそれなりの面白さもあるので、それが嫌だというわけではない。とはいえ、ときに「もうちょっと建設的な議論はできないものか」と思うこともしばしばである。

○しかも中国の研究者の間には、明らかな「政高経低」傾向があるので、ほかの議題と一緒になるとどうしても経済が軽く扱われてしまう。そこで、議題を最初から「経済」に絞り込んでしまえば、日中のエコノミスト同士の冷静なコミュニケーションとなるのではないか。だいたい経済活動というものは、双方が「戦略的互恵」(Win-Win)でないと成立しないものですから。そこで当方としても、「これはちょっと手伝わなければ」と思ったわけであります。

○ひとつ感心したのは、同研究所の陳子雷主任が、ワシのところに「シンポジウムしませんか」というメールを送ってきたのは5月12日であったことである。それが7月下旬にはちゃんと成立してしまうのだから、いかにも今風な上海のスピード感である。もちろん、かの国の事務処理がEfficientでSmoothであるわけがなく、「偉い人の一言で、積み上げてきた予定が全部ご破算」的なトラブルは、しょっちゅうであったらしい。にもかかわらず、実現に漕ぎ着けてしまうのだから、その「モーレツ」な仕事ぶりには恐れ入るほかはない。というか、ワシなどは日本全体がそういう状態であった時代を記憶している世代なのであるが。

○やってみたところ、いろんな発見がありました。以下、思いつくままに。

(1)まず、先方の学長である王新奎さんは、中国におけるWTOの窓口(ラミー事務局長がカウンターパート)という人なのだが、冒頭挨拶で「グローバリゼーションは調整期間に入った」と言っていたこと。要するに日本の「小泉=竹中批判」的な動きが中国にもあって、改革開放路線への異議申し立てが増えているのだそうだ。そしてその背景には、物価高などの問題が隠れていて、国のトップとしてはハラハラしながら舵取りをしているようなところがある。「調整期間」というからには、またモメンタムが戻ることを期待しているのだろうが、果たしてどうやってそれを目指すのか。

(2)次に大きなテーマになったのは、折からのGSE問題によるドル安懸念である。中国側から、「中国は外貨準備でドル資産を買い過ぎた。日中でアジア共通ファンドを作るなどして、ドル主体の運用を見直すことが出来ないか」という提案があった。現実的な運用は難しいだろうが、とりあえず日中でその手の動きが出てくれば、ポールソン財務長官としても無視は出来ないだろう。とりあえず補助線としては面白いし、「ちゃんとやってくださいよ」というメッセージを発することの意義は小さくない。この件については、そのうち滝田洋一さんが記事にすると思いますので、詳しくはそちらをご参照ください。

(3)小林慶一郎さんからは、「景気循環会計による日本経済分析」という興味深い発表がありました。BCA(Business Cycle Accounting)という耳慣れない手法に対し、すぐに中国側から「データの有効性はどうなのか?」という質問が飛び、いかにもオタク同士的なやり取りで面白かった。ワシ的には、経済学ってのは「使ってナンボ」の学問であるから、あんまりその辺を精緻にやってもしょうがないと思っているのでありますが。――それよりも、「1990年代の日本経済の長期低迷期においては、労働力の歪みがもっとも大きな要因であった」という結論(仮説)は重く受け止めるべきでありましょう。「バブル崩壊は労働供給に歪みをもたらす」という指摘は、1990年代におけるわれわれの経験と整合性があるし、なによりそれと同じことが今後の米国経済に起きるかもしれないのだから。

(4)関山健さんからは、「ポスト円借款時代の日中協力」というテーマで発表がありました。主張のポイントは、「日中関係は、かつては政府主導の表面的な友好関係だったが、現在では民間主導の重層的な相互依存関係になっている。民間の投資と貿易がこれだけ増えたのだから、ODAはその歴史的な役割を終えた」ということになる。(関山さんの著書の要旨については、当欄の5月8日分をご参照ください)。「対中環境ODAだけは続けるべきだ」という議論は確かにあるだろうが、経済の規模における「日中逆転」が近いことを考えれば、ODAが終わるのは無理もないことだろう。

○聞いていて思ったのだが、「民間部門は対中関係で何をすべきかが分かっているけれども、政府は何をやったらいいか分からない」状態になっているのではないか。日本外交は、一種の「自分探し」が必要な時期なんじゃないかという気がします。中国側からは、「価値重視外交なんて、似合わないから止めたら?」的な指摘があったのだけど、さりとて今のままでは、「イラクで自衛隊員が一人でも死んだら即撤退」的な試行錯誤が続いてしまう。「自由と繁栄の弧」は、日本外交にとってひとつのトライでありましたが、今となっては残骸しか残っていない。かといって、今さら全方位外交の時代には戻れない。

○長くなったので、北京五輪や上海の雰囲気については、またあらためて書くことにします。


<7月26日>(土)

「こんなこと大きな声じゃ言えないけど、北京五輪はとにかく早く終わってほしい」

○・・・てな感じを受けましたな。最近の上海は、上からの締め付けが厳しくなるわ、テロ対策の警戒は厳しくなるわ、ビデオ屋さんの海賊モノ販売はできなくなるわ、でいいことがない。一例を挙げると、ワシがホテルをチェックアウトした後で、荷物をちょいと預けようとしたら、いきなり中身を開けてチェックするんだもの。本気で爆弾を心配したのかしらん。でも、こういうニュースがあったりするから、洒落じゃすまないのかもしれません。ちなみにサッカーは唯一、上海でオリンピックの公式試合が行われる種目であるとのこと。


<産経、7月24日>

■上海でテロ集団摘発 「五輪サッカー攻撃計画」

 24日の新華社電によると、中国の上海市公安当局者は北京五輪期間中に上海のサッカー競技場の攻撃を計画していたテログループを摘発したと明らかにした。

 中国では8月の北京五輪へ向けてテロへの懸念が強まっているが、特定の施設を狙った計画が表面化したのは初めて。

 同当局者は「われわれはテロ集団を急襲し、摘発した」と語ったが、いつ発見し、何人を拘束したのかなど詳細は明らかにしていない。

 同当局者は、国際テロ組織が大会期間中にサッカーの試合が行われる上海の競技場の攻撃を計画していたとしている。同当局者は「われわれはサッカー競技に向けて適切な対策を講じており、大会期間中の安全確保に自信を持っている」と強調したが、一方で「テロ攻撃の脅威は依然存在している」とも述べた。

 上海のインターネットメディアは23日、国際的なテロ組織が上海の競技場で攻撃を計画しているという情報があると、上海市公安当局が明らかにしたと伝えていた。


○こちらから聞かない限り、オリンピックの話は出ませんでした。「北京に行く」とか「メダルが楽しみ」などという話題は皆無。上海万博はこれは別格というもので、なぜなら「万博は経済のオリンピックだから」。よく「北京と上海の関係は、東京と大阪に似ている」と言われるとおりで、上海人は実利重視なのですね。

○これなどもきわめて上海の気風を表すエピソードだと思うのですが、「お宅のお子さんは男の子?それとも女の子?」と聞くときに、こんな言い方をすることがあるんだそうです。「お宅の銀行は投資銀行? それとも商業銀行?」――つまり、教育費などでお金がかかる男の子は投資銀行、数が少なくて引く手あまたの女の子は商業銀行なのだそうです。(商業銀行は本当は別の言い方をするのですが、忘れてしまったので意訳してしまいました)。

○で、上海万博の予定地を見てきました。黄浦江の上流に広大な敷地があって、壮大な建設ラッシュとなっておりました。あれを見ていると、わが日本館は大丈夫かと心配になりますな。実は経済産業省から日本企業に対して寄付の要請が来ておるのですが、この金額がわれわれの感覚からすると「一桁多い」。というわけで、各社が消極的抵抗を続けているところであります。日本政府はホントにお金がないようであります。

○上海万博については、マスコットの「海宝(ハイバオ)」君がいわゆる「ゆるキャラ」系で、これを見てしまうとしばらく衝撃が残ります。北京五輪もそうですけど、どうもこのキャラクターに関する中国人の嗜好はワッカリマセ〜ン、であります。「人」という漢字を意匠にしたそうでありますが・・・。

○変化の激しい上海では、「3ヶ月訪れなければカツ目すべし」なのだそうです。当方は半年振りの訪問なので、これでは足りない、ということになります。半年前と比較した印象では、スモッグがひどいということと、森ビルの威容がとにかくスゴイ(遠くから見ても、下から見ても)こと、それから「以前に比べて静かになった」という気がしました。ただし最後の部分はあくまでも比較感であって、昨晩遅くに成田空港に着いて自宅に帰る途中、「日本はなんて静かなんだろう」と思いましたな。駅で電車を待つ大勢の人たちが、無言でケータイ電話をにらんでいる光景は、ちょっと薄気味悪く思えました。


<7月27日>(日)

○当サイトには「退職のち放浪」というページがありまして、元同僚のH氏の記録を残しています。放浪の記録自体は4〜5年前のことなのですが、海外放浪の旅をしている人たち、あるいはこれからしようという人たちの間で人気があるらしく、今でもページへのアクセスが絶えないようです。で、そのH氏から久々に連絡がありました。なんでも「日本生物工学会」という雑誌に、「退職のち放浪、時々起業、ところによって研究」という文章を寄稿したので紹介してほしいとのこと。

○「放浪の旅」を終えたH氏は、現在は学生と起業家という二足のわらじを履く日々を送っています。あいにくまだ「世紀の大発見」や、「株式公開で億万長者」とはいかないようですが、とにかく商社マン時代と変わらず、達者で元気にやっているようです。ということで、「退職のち放浪」ページには、H氏からの下記メッセージを追加しておくものといたします。皆様にご案内まで。


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久々の登場です。ちゃんと・・・いや、一応生きております。

放浪なんぞして履歴書に穴をあけたら、その後はどうなるんだろう。ちゃんと職にあり就けるんだろうか?・・・、という話題が時々旅先で出ていました。例えばイスラエル人曰く、会社を辞めても元の職場に戻れる事が多く、しかも世界中を旅してきた経験を評価され、むしろ昔よりも高い賃金を出してくれる事がある、とのこと。一方欧米の連中は、やはり労働流動性が高いからか、ほとんど心配していないと言っていました。一方、日本の若者達は割とお気楽な構えながらも、やはり話題として盛り上がっていたのでそれなりに意識は高いという印象でした。

で、実際のところどうなんでしょうねぇ。友人の例や人づてに聞いた話だと、やっぱり会社員にもどったという人が多いみたい。まぁ待遇などはよくわからないけど、それなりに何とかなるのかもしれない(同じ会社員でも旅の前後で人生観がどう変わったか、待遇もさることながらその点を聞いてみたいところではある)。

さて、そんな中「お前は一体、今は何をしているのだ」というメールをちらほら頂いております。また、ググって頂いたのか「【退職のち放浪 時々起業 ところによって研究】ってのを見つけたが、これは一体何なのだ」というメールも届き始めていました。聞かれたら一応お答えしながらそのPDF原稿を送っていましたが、同じメッセージを書くのに飽きてきたし、そもそも面倒という事情もあって、躊躇しながらも掲載先に公開してもらう事にしました。これまで【退職のち放浪】をご愛読下さったやけにモノ好きな、いえいえたいへん尊い皆様方、よかったら見てやってください。

ただ執筆の依頼内容が「若手研究者の皆さんに、将来像や進路の選び方等、先輩からの提言や実体験の提供をし、よりよき人生のヒントに」というものだったので、結果として出来たものは我ながらちと格好つけすぎているなあ、そういう自分は(若くないけど)どうなんだ? という面も否めません。よって説教がましいところはカットし、さらにだいぶ割り引いてご覧頂けると、まっとうな私のその後が垣間見られる気がします。

まぁ今のところ、自分の価値観に従った生き方だな、と気に入っているのですが、とはいえ巨人の肩に乗る(ニュートンの言葉)どころか、まだまだその陰からも出られず、時々踏まれてペシャンコにもなりながら、この因果な?人生をエンジョイしているところです。

ではではその公開先です。

http://www.nacos.com/sfbj/pages/mokuji/pdf/8604/8604_career_pass.pdf


(上記がうまく開かない場合は、下記を開いてから「第86巻(2008)」の「4巻」を選択し、197ページのところを探してみてください)

http://www.nacos.com/sfbj/frame_sfbj04.html

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○ところで今日は『崖の上のポニョ』を見てきました。いやあ、いいですな、宮崎アニメは。一方で、「この作品はきっと不評だろうなあ」という気もいたします。思うにこの映画は変な教訓を読み取ろうとしちゃダメなんであって、素直に「かわいいポニョ」と「迫力ある海の絵」を楽しむべきなんじゃないかと。ボソボソ。


<7月28日>(月)

○週末に出た日経ヴェリタスの50Pに、早くも滝田洋一さんのコラムが掲載されている。題して「金融版BSEとなった米GSE」。先週、上海で行った日中経済対話の収穫が要領よくまとめられていますので、よろしければ記事を探してみてください。

○このコラム、先週金曜日に浦東空港を飛び立つ直前の段階でほとんど仕上がっていたのを、かんべえは滝田さんの肩越しに覗き込んで確認しておりましたが、それにしても仕事が速いですな。いや、記事を書くのもさることながら、それから印刷して週末には紙面が届くという点にちょっと感心しました。さすがは輪転機で印刷しているヴェリタス。などと、ついついヨイショしてしまったぜ。


<7月31日>(木)

ユーラシア21研究所主催の「外交・安保サマーセミナー」(7/30〜8/1)が伊豆高原で行われています。11人の講師、23人の学生、5人の事務局が参加していて、不肖かんべえも講師の一角を務めました。あいにく今日は抜けられない仕事があったので、初日だけの参加となりましたが、非常にいい体験をさせてもらったと思います。セミナーの全容については、そのうちこのブログで写真入りの報告があると思います。

○「外交・安保」と銘打ったセミナーに参加しようというわけだから、普通の学生とはちょっと違うんじゃないかと思いますが、皆さん、なかなかに良い感じでした。最初はおずおずとした感じでしたが、夕食の後くらいにはかなり打ち解けてきて、質問の手も上がりやすくなってきた。もっとも今風の若い女性らしく、おへそが見えたりするので、おじさんは目のやり場に困ったりするのですが。

○最終日の明日は「ポリミリ」と呼ばれるロールプレイングゲームが予定されています。参加者が日本、アメリカ、中国、韓国、ロシアなどのチームに分かれて、外交ゲームを展開するというもの。これ、きっと面白いと思います。昔は知る人ぞ知る存在だったのですが、最近は日本でもシンクタンクなどで盛んに行われるようになっており、とてもいいことだと思います。

○ちょっと気が早いですが、来年もぜひ、こういうのをやりたいですね。










編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki