<8月1日>(火)
○8月になったら、日経新聞の「私の履歴書」が今月は高村正彦衆議院議員。自民党副総裁にして、安倍首相のいわば後見人みたいな役どころ。このタイミングで登場するということは、そろそろ政治家生活に幕引きを図ろうとしているのだろうか。それって時節柄、各方面に波紋を投げかけそうな予感。
○明後日には内閣改造と自民党役員人事。今週末には第3次安倍第3次改造内閣が発足することになる。ただし週末に世論調査が行われて、「安倍内閣が改造を行いましたが、あなたはこれに期待しますか?」と尋ねられた場合、「期待しています」とは、皆さん応えにくいのではないか。空気読んじゃうからねえ。支持率の改善は限定的でしょう。
○こんな中で、某日、尊敬するエコノミストお二人にお会いしたところ、揃って火が出るようなアベノミクス批判論を拝聴することに。いや、私も一応は消極的支持派だったのですが、4年半も続けてこの程度の結果なら、そんなに悪く言われるほどでないのでありますまいか。確かに出口政策は大変ですけれども、今すぐどうにもならないような副作用はないわけでありますし。
○こんな中で、じわじわと影響が出ているのが来年4月の日銀総裁人事。ちょっと前までは「黒田さんの再任で決まりでしょ。でも、サプライズとして、スイスのHさんもあるかもしれないよ」てな感じでしたが、「日銀から出してもらえばいいんじゃないの? あ、M金融庁長官という手もあるよね」てな感じに。まことに現金なもんですなあ。
○もっとも安倍首相には反撃の手段もある。この秋の政治外交日程とにらめっこしながら、発見したのが以下のシナリオである。
9月22日(金) 臨時国会召集。冒頭解散。この日は「仏滅」。
10月10日(火) 総選挙告示。この日は「仏滅」。
10月22日(日) 総選挙。青森4区と愛媛3区の補欠選挙と重ねてしまう。この日は「大安」。
○これで行くと、安倍首相は9月最終週にニューヨークの国連総会にも出られるし、10月はとりたてて外交日程は少ないし、11月に予定されているAPEC首脳会議、東アジアサミット、トランプ大統領アジア歴訪などの日程にも迷惑がかからない。これだけ早期解散であれば、野党も都民ファーストも準備は間に合わないから、自民党はよもや負けないでしょう。まあ、与党の衆院3分の2議席は失われる可能性大ですが。
○もちろん、こういう話は表に出てしまうと使えなくなるわけで、いわゆる「補助線」というものでありましょう。ただし民進党が9月1日に代表選を予定しているということは、10月の政治決戦は満更ない話ではないような気がします。果てさて、どうなりやますやら。
○ところで次の衆院選は、今の475議席から465議席になるんですね。「0増6減」と言うから、てっきり6議席減るのだと思っていたけれども、それは小選挙区の話であって、比例区も4議席減るんですね。最初に行われた1948年の衆院選が466議席ですから、戦後、最少に人数になります。一時は512議席まで増えたんですけれどもね。
○それでもこの間、沖縄県が戻ってきたり、人口もそこそこ増えたのだから、議員の数を減らすことにそんなに執着する必要がありますかねえ。イギリスやフランスなんぞ、人口は日本の半分なのに、下院議員は600人もおるのでありますぞ。議員の数を減らしたからと言って、それで浮くおカネなんてたかが知れているのですけれども。
○目を転じてワシントンも多事多難です。誰に聞いても、「口先だけの男。信用できない」と言われるスカラムッチ氏。ホワイトハウスの広報部長に就任したら、プリーバス首席補佐官まで首が飛んでしまい、ご本人はトランプ大統領嫌いの嫁さんから三行半を突きつけられ、なおかつ10日でホワイトハウスを首になってしまった。世の中に俺ほど不幸な者は居ない、と嘆いておられることと存じます。
<8月2日>(水)
○本日は内外情勢調査会で愛媛県宇和島市に。初めて訪れる場所なので、ワタクシ的にはとってもうれしい。講師としてもモチベーション高し。考えてみれば、6月には新居浜市に行って別子銅山に登ったけれども、愛媛県はつくづく広い。なにしろ新居浜市の向こう岸は岡山県だったけど、宇和島市の向こう岸は九州ですからな。おそらく、獲れる魚の種類も全然違うのではないでしょうか。
○ということで、松山空港に到着して、そこから予讃線の旅に。そこでついつい、明日の閣僚人事がどうなるかが気になるわけですが、八幡浜駅を過ぎたあたりで入ったニュースが「林芳正文科大臣」。どっひゃー。つい先日、新しい勉強会を立ち上げたばかりなんですが。もちろんそれは教育行政ではなく、経済政策に関するものであります。
○それにしても、伊吹文明元衆議院議長が「三権の長を経験した者として、今さら文科大臣になるわけにはいかない」と断ったというのも美学なら、「どんなポストでも引き受けます」という林芳正さんも美学といえましょう。防衛大臣と文科大臣は、次期改造内閣における2大ホットスポット。ここは万全を期さねばならず、事務方が一目置くような実力者を起用したのでありましょう。
○ところで愛媛県と言えば、最近は「加計学園」の話題でもちきりです。もっとも地元的には、「森友学園と一緒にされたのではかなわない」。お気持ちはよくわかります。あっちは限りなく詐欺みたいな世界ですから。新設の獣医学部がちゃんと船出してくれることを望みたいと思います。
<8月3日>(木)
○昨晩は宇和島在住の桜内文城氏と痛飲しておりました。ともに若くして亡くなった同世代人、岡本呻也氏と「アラン」小林敦氏(両方とも知っている人は、おそらく少ないはず)のことを嘆いておったら、同じ日に共通の友人であるところの林芳正氏と斎藤健氏が大臣になっていた。哀しいこともあるが、めでたいこともある。
○他方、地元愛媛四区選出の山本公一環境大臣は留任とはならなかった。それを言ったら、桜内氏は落選中なのであって、広大な愛媛四区を駆け回る日々なのだそうだ。応援、よろしくお願いします。愛媛一区選出の塩崎恭久厚労大臣もお役御免となりました。今回は「お友達」が割りを食った人事だったのかもしれませんな。
○本日は場所を八幡浜市に移して南予支部例会。佐田岬半島の付け根の部分で良港に恵まれ、四国の西の玄関口として拓けた街である。港を見下ろす山際には、見事にみかん畑が広がっている。温州ミカンの生産量で、愛媛県は最近、和歌山県に抜かれたそうである。ただし柑橘類全体(伊予かんなども含む)では、以前として日本一なんだそうで、「みかん県」のプライドは微妙なのである。
○八幡浜市が最近売り出しているのが「八幡浜ちゃんぽん」。長崎ちゃんぽんとはかなり違うようですね。あいにく食べる機会はありませんでしたが。それはさておいて、宇和島の「ほづみ亭」さんの鯛めしは絶品でした。
<8月4日>(金)
○本日の溜池通信、最終ページでちょこっと書いた「過去に元号をまたいだ長期政権はない」の法則について、実例を下記しておきます。
●明治から大正へ
第2次西園寺公望内閣(明治44年8月30日から大正元年12月21日まで)→明治45年(1912年)7月30日に明治天皇崩御。西園寺内閣の退陣はその年の暮れ。通算480日。その次は第3次桂太郎内閣(桂園時代)。
●大正から昭和へ
第1次若槻礼次郎内閣(大正15年1月30日から昭和2年4月20日まで)→大正15年(1925年)12月25日に大正天皇崩御。若槻内閣の退陣は翌年の4月。通算446日。その次は田中義一内閣。
●昭和から平成へ
竹下登内閣(昭和62年11月6日から平成元年6月3日まで)→昭和64年(1989年)1月7日に昭和天皇崩御。竹下内閣の退陣は同年6月。通算576日。その次は宇野宗佑内閣。
○つまり天皇陛下が崩御されたら、それから半年後くらいに首相も退陣、というのが相場となっております。平成はこれとは違う終わり方をすることになりますが、とはいえ、歴史のバイオリズムは繰り返すのではないかと思われます。
○いちおう歴史をひも解くと、第2次西園寺内閣は「二個師団増設問題」で総辞職に追い込まれ、第1次若槻内閣は昭和金融恐慌で総辞職した、ということになっております。そして竹下内閣は、リクルート事件と消費税導入への反発で退陣したことは、往時を生きていた人は鮮明に記憶していることでしょう。が、「元号が変わって天皇陛下が変わったら、首相もなるべく早く変わった方がいい」というのは、3回とも無言の圧力になっていたのではないかと思います。あんまり科学的ではないですけどね。
○平成の終わりも遠からずやって来る。そのときに日本国民がどんな心境になるのか。そのときに安倍政権がどうなるのか。まことに興味深いところではないかと考える次第です。
<8月5日>(土)
○今頃になって柏の映画館で『君の名は。』を見てきました。お恥ずかしい。いや、これは感動しました。なんと美しい映像でしょうか。こうしてみると東京って美しい街ですね。「新海ワールド」っていうそうですが、これは嵌ります。
○あらゆることは先人が試してしまっていて、今さら何をやっても新鮮味がなくなっている時代に、才能のある人というのはいるもんなんですな。「男女入れ替わり」というアニメにおける常套手段で、うまいこと緊迫感のある物語を作るものです。いや、もちろんいろいろ粗が目立つのですが、突っ込む気にはなりませんでした。
○週末ごとに競馬場に通っていると、こういう作品になかなか出会えません。たまたま今週、冷泉彰彦さんの『予言するアメリカ』(朝日新書)を読んでいて、これはアメリカ映画を使って上手に近年の「変わるアメリカ人の意識」を説明している秀作(でもタイトルはひどい)なんですが、出てくる映画のほとんどを自分が見ていないことに、ちょっと情けなく感じていたところでした。
○ということで、ついついユーチューブで過去の新海作品を覗き見することしばし。新海誠監督は以前にZ会のCMというのを作っていて、これが本作の原型になっているんですな。都会に住む男の子と、田舎に住む女の子が、通信添削で同じ答案を書いている。そのことはZ会の先生にだけわかっている。その二人が合格発表で出会う、というわずか2分のCMです。うーん、これもいい。おじさんにはちょっと眩し過ぎる世界でした。
<8月6日>(日)
○たまたま今日知ったのですが、「コンプリート・シャーロック・ホームズ」というサイトがあるのですね。日本人シャーロキアンが、時間をかけて全訳をやってしまったというご苦労さまな試みです。大丈夫、著作権はとっくの昔に暮れておりますから。それにこんなことをするのも、シャーロック・ホームズに対する偏愛があればこそ。なにしろURLが"www.221b.jp"というくらいですから、これはもう期待するしかないでしょう。
○ついつい長編「緋色の研究」を読み始めると、コナン・ドイルの語り口の上手さと人物描写の巧みさに感服してしまう。読者をぐいぐい引き込んでいく手法はまことにお見事。「つかみはバッチリ」というやつですな。続いて短編「ボヘミアの醜聞」を読む。当時の欧州においては、これはもう驚天動地の大スキャンダルであったのか、と急に納得してしまう。同じころの日本は、明治維新後で近代国家としての表向きをつくろいつつ、富国強兵に向けてまっしぐらでありましたが。
○それにしても、この訳は読みやすい。これはまた、罪作りなサイトができたものです。ついつい読んじゃうじゃないかっ!新潮文庫はどうしたらいいのだっ!オタク道全開であります。
<8月7日>(月)
○今朝の「モーサテ」に伊藤隆敏先生とともに出演。プロの眼マンデーのテーマは、「アベノミクス、次の一手は?」である。勢い話の内容は、「内閣改造の効果は?」→「今後のアベノミクスの課題は?」(伊藤、「手取り所得」=そのために若い世代の社会保障費免除、吉崎、「財産所得」=そのために高齢者の運用利回り向上)→「次の日銀総裁は?」という思考経路になる。でも、それって伊藤先生も候補者の1人では・・・?
○ということで、掛け合いを最後までご覧いただきますと、まことに含蓄のある「間」があるのではないかと存じます。いやはや、貴重な経験をさせていただきました。後はオフレコでござりまする。
○もうひとつ、「モーサテ経済ワード」の方は、秋元キャスターを相手に「内閣改造」を取り上げました。全然「経済」じゃないですがな、というツッコミはさておいて、結構、危険なことも申し上げております。いやあ、テレ東さんは事前チェックとかが一切ないので、何でもお話しできてしまう。快感だなあ〜。
○こんな風に勝手気ままに閣僚のリシャッフルができるというのは、日本国首相の特権じゃないかと思いますね。その背景には、「答弁能力がなくても、当選×回で大臣適齢期」という慣習があるからで、さらに言うと「挙党体制」だとか、「チーム一丸」だとかを愛する日本特有の風土があるわけです。だから阿呆でも・・・(以下自粛)。
○てなことでいろいろ申し上げまして、今日の経済視点は「ASEAN流」。明日はアセアンの創設50周年。世界経済が反グローバル化の嵐の中でも、あそこだけは経済統合路線が揺るがない。トリレンマになるはずの「国家主権」と「民主主義」と「グローバル化」をうまく昇華させている。ASEANに学ぶべき点は多いのではないかと存じます。
<8月8日>(火)
○例年は7月に行われるASEAN外相会談が、なぜ今年は8月なのかなと不思議に思っていたけれども、種明かしは簡単で、今日8月8日が「ASEAN創設50周年」であったからです。ベトナム戦争が行われていた1967年、ASEANは反共産主義連合として始まりました。それから幾星霜、まさか今日のような存在になるとは、いったい誰が予測しえたでしょうか。
○世界全体が反グローバルに流れるなかにあっても、ASEANの姿勢は変わらない。域内の経済統合についてはかなりいい加減なんだけど、少なくともBrexitのような後戻りはしない。それはなぜかと言えば、ASEANには欧州のような変な理想主義がないからではないかと思います。ASEANとかけてNATOと解く。その心は、"No
Action Talk Only"なんてことをいいながら、いつの間にか少し先に進んでいる。まことに融通無碍な集合体なのです。
○ASEANの中身をよく見れば、タイのような王国からベトナムのような社会主義国まで、インドネシアのような2億5000万人の大国からブルネイのような40万人の小国まで、シンガポールのようなGDP1人当たり5万ドルの先進国からミャンマーのような1000ドルの途上国まで、さらに仏教国もあればイスラム国もありで、途方もない多様性が同居している。でも10ヶ国が一致しているから、天下のアメリカやロシアの大統領も訪ねてきてくれる。中国を相手に条件闘争を構えることもできる。そしてもちろん、日本にとってASEANは重要な地域です。
○その昔、なき岡崎久彦氏(元タイ大使)が言っておられましたけれども、「欧米人が中東を大切にするのは、あれは日本人にとっての東南アジアと同じだね」。つまり心ある日本人は、東南アジアを大切にしなければならない。今月はまた、8月17日に「福田ドクトリン40周年」を迎えます。その直前まで、日本は東南アジアでは評判が悪かったのです。田中角栄首相が外遊先で投石されたくらいですから。「福田ドクトリンとODAと日本企業の進出」、この3つが揃って初めて、今日の日本とアセアンの好関係があります。
○話変わって河野太郎新外相は、今回はおそらく驚天動地の人事だったことと拝察いたします。なにしろ直前まで、岸田外相留任のニュースが流れていましたものね。先週末は、さぞかしフィリピンへの渡航直前に一夜漬けで猛勉強されたのではないでしょうか。その挙句、王毅外相に嫌味を言われたり、韓国外相にガッカリされたり、いろいろありましたけれども、初の外遊先がASEANというのは方角が良かったのではないかと思います。とにかく日本は東南アジアを大切にすべきなのであります。
○その河野太郎さんは、行革のプロとして昔から日本アセアンセンターを問題視されていました。ご自分のホームページでも、「なんちゃって国際機関」だと非難されています(今年3月27日分をご参照)。「国際機関のふりをしたなんちゃって国際機関はこの際、全て廃止すべきです」とまで言っている。外務大臣として、この問題についてこれからどう対処されるのか、とっても楽しみであります。
○不肖かんべえとしては、ここは是非、信念を曲げていただきたい。「日本アセアンセンターは必要だ」と言っていただきたい。だいたい国会議員のくせに「ごまめの歯ぎしり」とは何事か。「俺は信念を曲げない」なんてえらそうなことを言えるのは、評論家のような無責任な人たちの特権です。日本政府の一員たる国務大臣にそんな贅沢は許されません。
○外交における「道徳家、法律家的アプローチ」を戒めたのはアメリカ国務省の外交官ジョージ・ケナンの卓見ですが、河野太郎さんはひとつ間違うとそっちに行ってしまいかねない人だと思います。ここは是非、ASEANのように柔軟であっていただきたい。過去は過去。現在と未来は違う。期待しておりますぞよ。
<8月9日>(水)
○長崎では72回目の原爆の日だが、今日のトップニュースは北朝鮮が核弾頭を小型化してミサイルに搭載可能にしたとの報。最大60発の核弾頭を保有している、との見積もりだそうです。これでは核廃絶どころではありません。策源地攻撃、あるいは核武装だって考えなきゃいかんのかも。
○北朝鮮リスクが前面に出てくると、毎度のことながら「地政学リスクの高まりで円高」という嘘くさい流れになる。お蔭でドル円レートは、久々の100円とび台になってます。夏は為替がよく動きますから、今後の数日間は気をつけないといかんですな。
○NY株も、この辺で少し調整した方がいいのかもしれません。どう考えても、ここまでが早過ぎるんだもの。トランプ政権がこの事態にうまく対応できるか、というのもかなり心配です。アメリカを脅かしていると、「怒りと炎」(Fire and Fury)に直面するぞと言ってます。
○今週のThe Economist誌のカバーストーリーは"It
could happen"。いくら米朝の両巨頭が変人でも、まさかホントにそんなことにならないでしょうね。まあ、いいや。当方は明日からしばしの夏休みでござりまする。
<8月11日>(金)
○昨日から富山に来ている。といってもたいしたことをするわけではなく、墓参りをしたり、親戚に会ったり、回転ずしに行ったり例年通りである。その合間にずっと、朝から晩まで高校野球を見たり聞いたりしている。今日の4試合なんぞ、本当に大変でしたな。これで愛知県代表と神奈川県代表と沖縄県代表が消えてしまった。いつものことながらトーナメント戦の過酷さといえましょう。
○最後に大阪桐蔭に負けた鳥取県代表のチームは大差だったけど、いいチームだったね。高校野球は、ああいうところを応援したいものです。逆に今日勝ったチームは4つとも、あまり愛情は感じませんなあ。
○それにしても、昨今は大きな都道府県を勝ち抜こうと思ったら、ピッチャーは3人くらい用意しておかないと覚束ないのですな。どこのチームも「背番号1」を温存して、「最初は11番」なんてことが普通になっている。だからピッチャーの替えどきがやけに難しい。「今日の試合は勝ったとして、2回戦のために2番手ピッチャーも使っておきたい」などと考え出すと、そこは助平根性も出てくるので、監督さんの仕事が非常に難しくなったという気がする。
○昔の高校野球はとっても単純で、野球はピッチャー次第。「ただ一人のエースが崩れたら、今年の夏は終わり」という図式であった。今はあんまり球数を投げさせちゃいけないとか、昔よりも暑くて過酷だとか、いろんな条件がついている。ベンチ入りできる選手の数も増えたから、選択肢が増えて監督さんはかえって困っているのではないか。
○しかも今の高校生は圧倒的に体格がいい。加えて金属バットに飛ぶボールである。みんな忘れていますけど、昔の甲子園にはラッキーゾーンてなものがあったんですよ。ついでに言うと、「世界の王貞治」のホームランなんてほとんどはライトのポール際だったんだよ。それがね、今の高校生はバックスクリーンとか、左中間の深いところとかにホームランをぶち込んじゃうんだもの。あれじゃピッチャーはたまらんわな。
○いろんな分野で同時進行で起きている現象ですが、これじゃあ「すごいエース」は誕生しにくくなりましたな。高校野球もまた、日本の縮図ということでしょうか。
<8月13日>(日)
○この日曜日は競馬ではなくて映画。この週末から始まったばかりの『スパイダーマン/ホームカミング』。いえ、あたしゃマーベル物はあんまり見てないし、好きでもないんですけど、なにしろチケットをもらっちゃったもので。ソニーの方曰く、「映画でお金儲けるのって大変なんです」って。これは行かないといかんでしょう。
○前作『シビル・ウォー/キャプテンアメリカ』も見ていないんですが、そこはハリウッド映画ですから心配いりません。それに何より、15歳の少年がヒーローに変身するけれども、学校の皆さんには内緒で、でも内心いいところを見せたい気もする、という設定が、昔の日本のヒーローものでもよくありましたからなあ。展開はサービス精神旺盛で楽しませてくれますが、底を流れている部分には違和感がない。まあ、おカネをかけて上手に作ってある、という印象です。
○それにしてもマーベル物のヒーローで、いったいどれだけの映画ができて、どれだけのおカネが動くんでしょ。これだったら、日本のウルトラマンシリーズなんかも、おカネと手間をかけて作り直せば、『シン・ゴジラ』みたいな傑作ができるかもしれません。ヒーローものの基本は万国共通ですし、テレビ朝日がやってる仮面ライダーなんかもいい線行ってると思うんですが。誰か本気でやってみる人、いませんかねえ。
○このままいくと、映画界はディズニーの独壇場になってしまう。年末になれば、またスターウォーズの第8作が出来るんですぜ。今度のタイトルは「最後のジェダイ」だそうです。また見てしまうじゃないですか。日本映画も奮起を促したい。今年はちょっと話題作が少ないじゃないですか。
○ちなみに今日の関谷記念は7番人気のマルターズアポジーが1着。今日、行ってたらウィンガニオンから賭けて2着で悔しい思いをしていただろうなあ。来週は東洋経済オンラインの連載があるので、ちゃんと予想を書かなければならない。来週の日曜日はやっぱり競馬かな。
<8月15日>(火)
○今年は夏のさなかに天気が悪い。今週は雨が続くとのこと。農産物には恵みの雨かもしれないが、甲子園は大丈夫かねえ。それから昨日発表の4‐6月期GDP速報値は好調だったけど、7‐9月期の天候と個人消費がちょっと気にかかっている。
○本日はそんな中での終戦記念日である。今年はいわゆる「8月ジャーナリズム」が低調なようなので、個人的には清々しい思いがしている。「8月ジャーナリズム」というのは、8月6日から15日まで続く毎年恒例のアレのことである。平和への誓いを新たにとか、核兵器を廃絶せよとか、戦争体験を語り継げだとかいった番組や記事のことだ。さすがに一昨年の「戦後70周年」で出尽くし感があるのだろう。
○国民の側も、半分は恒例行事として「8月ジャーナリズム」を受け止めている。だいだいお盆の時期は、過去を偲び、死者を想い、平和を祈るには適している。だからお盆が過ぎると同時に戦争ものはメディアから姿を消す。6日の菖蒲、10日の菊というやつだ。後はサッパリ日常に戻る。
○とはいえ、真面目な話、鶴を折っていれば平和が来るわけではない。そんなことはみんな知っている。北朝鮮がミサイルを撃つか撃たないか、どこに落ちるかもわからない。そんな中で現実味のないタテマエを延々と繰り返していることは、精神衛生上も好ましいことではあるまい。
○メディアの中には、「8月ジャーナリズムには一定の意義がある」と言う人も居る。だからNHKなんぞも特別番組をやっている。しかるにあんなもの、「この世界の片隅に」のリアリズムには及ぶまい。悔しかったら8月でない時期に、あのレベルの番組を作ってみろと言いたい。大宅壮一が言っていたではないか。ジャーナリズムの反対語は、アカデミズムではなくてマンネリズムであると。毎年お定まりの「8月ジャーナリズム」には、立派に罪もあるのではないか。
○だいたい歴史の記憶を語り伝えられる限度は80年くらいであろう。長寿企業で創業者の理念が忘れられるのが得てしてその時期で、そこで「中興の祖」が出ると会社の寿命が延びる。「太平洋戦争の記憶」もそういう微妙な時期にさしかかっていると思う。向こう数年間が勝負なので、マンネリを避けることがとにかく肝要であると思う。「去年と同じように無難にやっておこう」という意識が、得てして本当の風化を生むものだ。
<8月16日>(水)
○北朝鮮リスクに対して世間の関心がとっても高い。NHKの「緊迫 北朝鮮情勢」のサイトなんぞは、とっても力が入っておりますな。現状はこういうことなんだそうです。
○ただしちょっと違和感があるのは、「ミサイルがグァム島近辺に落ちる」とか、「途中の日本に落ちるかもしれない」という懸念が喧伝されていること。たとえばPAC3が島根・広島・愛媛・高知の4件に配置されているのは、あんまり意味のある行為とは思われない。その分、他の地域(首都圏とか自衛隊の基地とか)が手薄になっているわけですからね。でも、「皆さまの税金はこういうことに使われております!」ということを示すためには、ここは是非、頼りがいがあるところを見せなければならない。特にミサイルの¥通り道となる4県に対しては。
○そんなことより、本当の北朝鮮リスクとは、「アメリカがサージカルアタック(外科手術的攻撃)をやるかもしれない」、ということであるはず。北朝鮮国内の核兵器を全てピンポイントで叩いて壊滅させる、というミッションは、非常に困難なものと考えられている。その瞬間に、ソウルに対する通常兵器による反撃もありそうだ。とはいうものの、太平洋司令部や在韓米軍がそれを検討していないはずがない。たぶん入念な攻撃計画が建てられているものと見るべきでしょう。
○つまり安全保障のリアリズムから言えば、「これから未来永劫、アメリカは北朝鮮の核という脅威と共存しなければならない」という事態は、何としても避けたいことでしょう。米軍の現場は当然、最善を尽くして軍事オプションを検討する。これに対して中国やロシアがどう反応するか、日本や韓国などの同盟国はちゃんとついてきてくれるか、ということはさほど深くは考えない。なにしろアメリカの軍事的伝統はユニラテラリズム(単独行動主義)だし、今の政権は特にその傾向が強いから。
○他方、政治的リアリズムから言えば、このタイミングで軍事オプションを行使することはまったく考えにくい。今のように「トランプか、反トランプか」で国論が分裂状態にある中で、対北朝鮮攻撃は世論を真っ二つに割ることになりかねない。韓国に在留している10万人を超えるといわれるアメリカ人の安全も重要だ。「サージカルアタックだなんて、そんなリスクはとても冒せないはずだ」と考える方が自然であろう。
○ということで、明日には日米2+2も行われるはず。山梨県で静養中の安倍首相も、トランプ大統領との電話会談の際に「俺ってホントに夏休みとっていいのかな?」と聞いたはずである。その夏休みは18日(金)で切り上げるそうなので、ひょっとすると今週末以降に何かあるのかもしれませぬ。いや、別に脅かすわけじゃないですけどね。
○要は「北朝鮮の本気よりも、アメリカの本気の方が怖い」。これはイラク戦争があるかないか、と言って皆がビビッていた2002年秋の状況と似ている。グリーンスパンFRB議長が議会公聴会で「地政学的リスク」(Geo-Political
Risks)という言葉を使って、それが人口に膾炙した時期である。果たしてトランプ政権が優先するのは、政治のリアリズムが安全保障のリアリズムか。後者が発動される確率は、1割か2割かわからないけれども、一応あるはずだと心得ておく方が良いと思います。
<8月18日>(金)
○とってもめずらしいことに、スティーブ・バノン首席戦略官がインタビューを受けている。記事はこちら。表題が"Steve
Bannon, Unrepentant"(スティーブ・バノンは悔い改めず)とある。その後、ブライトバートニュースの方でも取り上げられている。たぶんそっちで短縮されている方が、ご本人が言いたかった部分と拝察する。たぶん一番強調したいポイントはここ。
“To me,” Bannon said, “the
economic war with China is everything. And we have
to be maniacally focused on that. If we continue to lose it, we’re
five years away, I think, ten years at the most, of hitting an
inflection point from which we’ll never be able to recover.”
○つまり中国との経済戦争に勝ち抜くことが一番大切である。そのためにはスーパー301条でも何でも使うと言っている。それから北朝鮮問題なんて、どうせできることは何もないのだと醒めている。
Bannon also told Kuttner that
there was nothing the U.S. could do about North Korea,
given the likelihood of mass death in South Korea as a result: “There’s
no military solution [to North Korea’s nuclear
threats], forget it. Until somebody solves the part of the
equation that shows me that ten million people in Seoul don’t
die in the first 30 minutes from conventional weapons, I don’t
know what you’re talking about, there’s no military solution
here, they got us.”
○実際、おっしゃるとおりである。それから、時節柄、この部分も注目度大である。シャーロッツビルで騒いでいる連中は、右も左も碌なもんじゃなくて、「民族派のナショナリストなんて負け組だ」と吐き捨てている。小気味いいね。
In the course of their discussion, Bannon
also slammed the right-wing extremists who protested in
Charlottesville: “Ethno-nationalism? it’s losers.
It’s a fringe element. I think the media plays it up too much,
and we gotta help crush it, you know, uh, help crush it more. …
These guys are a collection of clowns.”
○左翼は「アイデンティティ政治」をやっていればいい。自分はあくまで「経済ナショナリズム」でいく、とのこと。時代の先を行く天才というものは、思い切り独特でシンプルな視点を持っていることが多いものですが、なるほどバノンは他人とは違う景色を見ている人物のようです。
○もっともこういう記事が出たことで、ホワイトハウスの同僚たちは迷惑したみたいだし、「アイツはやっぱり目立ちたがりだ」という批判も高まるだろう。新しい首席補佐官であるジョン・F・ケリーはどういう態度に出ますかね。とりあえず、「俺は財務省やゲーリー・コーンや、ゴールドマンサックスのロビイングと闘っているんだ」という発言が外に出たのは拙かったでしょうなあ。
<8月19日>(土)
○昨日、あんなことを書いたら、早速スティーブ・バノンが解任されちゃいました。あのインタビューが命取りだったようです。WSJ日本語版の記事は下記のように伝えている。
サラ・サンダース大統領報道官はこの日(注、8月18日)の声明で「ホワイトハウスのジョン・ケリー首席補佐官とスティーブ・バノンは今日をスティーブの最終日にすることで互いに合意した」と述べた。
大統領とバノン氏の関係には波があったものの、リベラル派政治誌「アメリカン・プロスペクト」とのインタビューが決定打になったようだ。バノン氏はこのインタビューで白人至上主義集団を「ピエロ」と呼び、大統領の企業寄りの顧問団をやゆした。また、トランプ氏の公的見解とは裏腹に、北朝鮮に対する軍事行動の可能性を否定した。
関係者によると、バノン氏にはアメリカン・プロスペクト誌に話した内容を公表する意図はなかった。
○Axiosでは、「スティーブ・バノンのホワイトハウスにおけるタイムライン」という記事を載せている。これ、お役立ちです。
2016年8月17日 トランプ選対がバノンをCEOに採用
2016年11月15日 インタビューで「闇は良いものだ。ディック・チェイニー、ダース・ベイダー、サタン、それは力なり」と答える。
2017年1月27日 NYT紙に対して「この通り引用してほしい。メディアは野党だ。この国を理解していない。なぜトランプが大統領に選ばれたか、未だにわかっていない」と告げる。
2017年1月28日 トランプ大統領がイスラム圏からの渡航一時停止措置を発表。バノンの進言とされる。
2017年2月23日 バノンがCPACで「行政システムの破壊」を宣言する。
2017年4月5日 NSC常任メンバーから外される。
2017年4月6日 辞任説がささやかれるも「決闘は大好きだ」と答える。
2017年6月1日 トランプがパリ協定離脱を宣言。これもバノンの進言。
2017年7月21日 スカラムーチが広報部長に採用されてスパイサー報道官が辞任。プリーバス首席補佐官も解任。バノンの地位も微妙に。
2017年7月26日 「トランスジェンダーの入隊を禁じる」とトランプがツイート。これもバノンの意見。
2017年8月7日 8月14日発効の辞表を提出。
2017年8月15日 シャーロッツビル事件に対するトランプの3回目のコメントを称賛。
2017年8月16日 アメリカン・プロスペクト誌のインタビューに答える。
2017年8月18日 「今日をスティーブの最終日に」
○それにしても、バノンがトランプ選対に採用されたのは、ちょうど1年前の8月17日です。その時点でトランプ選対はガタガタで、ヒラリーに勝てるとはだれも思っては居なかった。それから1年。世の中がこんな風になるなんて、いったい誰が予測したことか。
○今後のバノンは、古巣であるブライトバードニュースに戻るのだそうです。同誌はさっそくもろ手を挙げて歓迎しています。
‘Populist Hero’ Stephen K. Bannon Returns
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○以上、取り急ぎ。
<8月20日>(日)
○「週刊報道Biz
Street」の播磨キャスターによれば、「経済番組としてはネタ枯れのこの時期に、たくさん話題を提供してくれるトランプさんは、とってもありがたい存在」なんだそうだ。確かに米朝対立といい、シャーロッツビルでの暴動事件への対応と言い、もっと無難に済ませる方法はいくらでもあったのに、わざわざ乱を求めるようなことをやらかしてくれている。単に我慢が足りないだけなのかもしれないが、番組としてはまことにありがたい。
○政治のやり方としては非常に拙い。今年1月に発足した当時の主要メンバーは、ペンス副大統領以外はことごとく政権を去っている。各省の長官は決まっているけれども、「局長クラス」のポストは埋まっていない。例えば米朝二国間交渉がいよいよ始まるとして、国務省の東アジア担当次官補が決まっていない。誰がやるんでしょうね。まさかティラーソン御大にやってもらうわけにもいかず・・・・。
○それに加えて、「バノンなきトランプ政権」はどういうことになるのか。クシュナーやゲーリー・コーンやMMT(マクマスター・マティス・ティラソン)が中心で政治が回るようになるなら、一見、大いに結構なことのように思える。でも、それで支持者がついてきてくれるか、あるいはトランプ大統領自身がそれで満足するのか。なにしろ、「やっと学習してくれたか」と思って安心していたら、いつの間にか初期設定に戻っているような人ですからね。
○バノンがこれから何をするつもりなのか、という問題もある。古巣のブライトバードニュースに戻って、「トランプのために戦う」と言っている。何しろ「トランプ支持者」は彼が発見したようなもの。トランプはバノン抜きで次の選挙を戦えるのだろうか。もっともバノン自身はビジネス出身の人なので、FOXニュースを相手に一戦交える、というのもアリかもしれない。あるいは「経済ナショナリズム」を軸に、新しい政党をつくる、なんてこともあったりして。
○とりあえずは週明けの世論調査を見たいところです。
<8月21日>(月)
●問題:スペイン、フランス、イギリス、ベルギー、ドイツなどEU主要国のほとんどにおいて、ISISやアルカイダなどイスラム勢力によるテロ事件が発生しているが、イタリアだけはなぜか無傷である。その理由として、正しいと思われるものを以下の中から選べ。
(1)長年にわたって政府がマフィアと対峙してきたために、公安機能が異常なくらい発達した国であるから。
(2)イスラム原理主義勢力がイタリアで活動しようとした場合、政府とマフィアの両方を敵に回してしまうから。
(3)バチカン市国を有し、カトリック総本山ともいうべきイタリアは、イスラム教徒にとって居心地が悪い国であるから。
(4)南北に細長く、火山と地震が多く、海産物と麺類を愛し、出生率が低いなど、共通点が非常に多い国である日本と同様に、外国人にとって見えない障壁が多い国であるから。
●答え:どれを選んでも正解とする。
○結論として、「ローマで休日」は非常に魅力的な選択と言えるでしょう。あいにく日本からは直行便がないとのことですが、うむ、イタリアに行きたいなあ。
<8月22日>(火)
○先日、シンクタンクなどの国際会議に出まくっている人が言っていたのですが、「最近は、パワーポイントが使われなくなりつつある」とのこと。言われてみれば、ダボス会議なんぞの映像を見ると、セレブな方々がゆったりと椅子に座って、マイクだけを手にして、資料のペーパーなど抜きに優雅に語っていることが多い。デシジョンメーカーとか有識者と呼ばれる人たちは、本来、それでいいんですよねえ。
○その点、わが国はパワポが独自の発展を遂げていて、情報を詰め込んだ箱弁当みたいな世界を作って良しとする傾向がある。あれはまさしく職人の世界だが、あんなものを作っている人はいつまでたっても偉くなれないだろう。昔だったら、配布資料はA4の紙に文章力の勝負であったから、まだしも作る人の鍛錬になったんだけど。
○美しいパワポを作ることを仕事の目的にしてしまうと、ビジュアルや色使いやグラデーションで勝負することになる。それでは、情報の本質を掴むという仕事からどんどん離れてしまう。もっとも昨今の日本の職場は、「ペーパーレス」という大義名分があるので、分厚い資料はちょっとずつ姿を消しつつある傾向にあり、これはこれで結構なことではないかと思うのですね。
○少なくとも政治家は、パワポなんぞを使うべきではないと思います。彼らは自分の顔を見てもらわなければならない仕事であって、聴衆がプロジェクターを見ているようではいけません。人工的な「絵」を使わずとも、話し言葉が聞き手に映像を結ばせるような姿が理想であって、そこで差をつけなければならない。
○匿名でパワポの資料を作る作業をするか、実名でHANDOUTなしで語れるようになるか。これからの時代は、そこで大きく違ってくるのではないでしょうか。
○さて、番宣です。明日はBSフジの「プライムニュース」に登場いたします。良かったら見てやってくださいまし。
『地政学的リスクと経済 朝鮮半島有事で日本は 再燃…トランプリスク』
北朝鮮軍は中長距離弾道 ミサイル「火星12」型4発を、日本上空を通過させて、アメリカ領グアムの周辺海域に着弾させる作戦を明らかにした。アメリカ本土に向けたミサイル発射計画の前哨とも取れる北朝鮮の挑発に対し、アメリカは厳しく非難、市場は警戒し、一時、日本の株価が下落したほか、為替は円高に振れた。
北朝鮮が計画を一時保留する態度を見せたため警戒感は和らいだが、先行きは不透明で、今後もアメリカ、中国、北朝鮮の国際的駆け引きが続きそうだ。
国際情勢や世界経済に詳しい専門家らを迎え、米中朝の抱えるリスクが日本経済へ与える影響を分析し、日本がとるべき対応策などについて議論する。
ゲスト
吉崎達彦 双日総合研究所チーフエコノミスト
呉軍華 日本総合研究所理事
礒ア敦仁 慶應義塾大学准教授
<8月23日>(水)
○午前中、金融関係者の寄合いへ。本来であれば人民元を議論するはずであったところが、途中から「バノンは何で辞めたんだ」の方向に大幅脱線。まあ、昨今はそういう地合いですわなあ。
○午後、某社PR誌の対談を収録。組織の在り方、という話題のところで、野中郁次郎氏の名著『アメリカ海兵隊』(中公新書)の話を持ち出したら、受けていた様子であった。よかった、よかった。
○夕方、某省にて勉強会講師。今は皆さん、資料をいちいち印刷しないで、ご自分のPC画面でご覧になるのですね。こういう習慣は見習いたいです。「今どき紙なんか配るなよ」なんて、言ってみたい。
○夜はBSフジへ。番組開始の直前にフジテレビに飛び込み、打ち合わせほとんどなしでスタートする。まあ、それでも何とかなってしまう。さすがは反町キャスター。あっという間の2時間でありました。
○終わってから思ったのだが、あの「3/11」という国難を体験したわが国が、北朝鮮のミサイル如きを恐れてはいかんのではないか。少なくとも109円程度を円高と呼ぶべきではないだろう。
○と、今日は何だか4つのイベントを終えて、グランドスラムを達成したような気分。ということで、深夜にラーメンとビール。いいじゃないですか、これくらい。
<8月24日>(木)
○週刊新潮の掲載誌が届く。ええ、すんません。今週号の「マイオンリー」という連載の趣味欄に不肖かんべえが登場しているのです。ネタはもちろん競馬です。ああ、毎度のことながらお恥ずかしい。
○週刊誌を読むのは何だかとっても久しぶりな気がする。最後に買ったのはいつのことだったか。記事を見ると、政治家のスキャンダルとか、韓国大統領の悪口とか、認知症を防ぐには、といった企画が並んでいる。いかにも高齢者向けの企画だよなあ。
○そうかと思うと、宮家邦彦さんの連載記事が載っている。こういう国際情勢に関するコラムを毎週寄稿するのは、大変だろうなあ。おっと、三浦瑠璃さんも書いているのか。チャイバラさんの漫画も、「パチンコ出玉規制」なんてネタを取り上げていて、とっても香ばしい。
○週刊誌には、保守からリベラルまでいろんなテイストがあるが、箱弁当のような世界が詰まっている点では大同小異である。週刊新潮の場合は、右でも左でもなくて、拠って立つ理念は封建主義であろう。親愛なる読者諸君、おぬしらごときが何をぬかすか!というスタンスが心地よいと思う。
○しかるに紙媒体からネット中心の世の中になると、「どれだけ記事にリンクを貼ってもらえるか」が勝負になる。この場合、紙媒体に連載されている小さなコラムは、「拡散」という意味では不利になるのではないか。だって部数は良くてもせいぜい数十万部に留まるわけだから、
○溜池通信というネット媒体を20年近く続けている不肖かんべえの感覚では、これからの時代の情報サイトは一点豪華主義の方が有利なんじゃないかと思う。あるいはAxiosのように、ジャーナリズムの匂いを消し去ったシンプルな情報サイトで迫るとか。いずれにせよ、今までずっと続けてきた箱弁当のような世界を続けようとするのは、高齢者には優しいかもしれないが、将来性には乏しいんじゃないかと思う。
○紙媒体の没落は既に始まっている。後はどうやって変化を求めて、ご臨終のタイミングを先に延ばすかの勝負であろう。まあ、新潮と文春はほかに比べればずっとマシだと思いますけれども。
<8月25日>(金)
○もはやみんなすっかり忘れている、今日はプレミアムフライデー。溜池通信が早めに仕上がったので、今日は東京ドームへ移動。目指すは伝統の一戦である。
○阪神タイガースの先発は青柳。こりゃあ今日は5回までかな、と思ってみていたら、2回に青柳自身がタイムリーヒットを打って、3対1とリードする。さすがにピッチングもリズムが出てきて、これは結構なことだと思っていたら、5回裏に伏兵・宇佐美のツーランホームランをくらって同点にされてしまう。
○しかも青柳、そこから連打を浴びて2アウト1塁2塁となり、バッターは4番の阿部。阪神首脳陣は、ここで若干迷った末に岩崎にスイッチ。しかるに岩崎、おそらくはまだ肩ができていなかったのであろう。ここから巨人打線が3連打。6対3とゲームをひっくり返されてしまったのでした。オレンジ色のタオルを何度も何度も振られてしまったのであります。
○あとは双方、スイスイと粘りのない攻撃が続き、試合時間は3時間ちょうどでゲームセット。何とも淡白な試合でありました。どうせだったら、5回裏の攻撃もなかったことにしてくれればよかったのに。ああ、ガックリと力が落ちる金曜日の夜なのであった。
<8月28日>(月)
○土日にあまり仕事をせず、夜は酒飲んでたくさん寝ておくと、月曜日は仕事がはかどるようである。逆に土日に原稿の書きためなどをやっておくと、月曜日にボーっとすることになる。さて、どちらがいいのか。この週末は、新潟2歳ステークスでフロンティアの単勝が取れたので、それが良かったのかもしれぬ。なにしろこのところ負け続けであったからなあ。
○羽田孜元首相が逝去されたとのこと。ワシはその昔、仕事で羽田氏が登場したシンポジウムの書き起こしをやったことがある。政治家には「言語明瞭、意味不明瞭」というタイプが珍しくないが、羽田氏の場合はそもそも発言が日本語として構文になっておらず、どうにもこうにもまとめようがなくて往生した。きっと「情緒100%」みたいな人だったのだと思う。だから会った人が、皆口をそろえて「いい人だ」と褒めていた。さすがに今は絶滅危惧種でしょうなあ。
○六本木の新国立美術館に関する噂話。「草間弥生展はとにかく凄かった。いつも人がいっぱいだった」「それに比べると、今のジャコメッティ展はガラガラだ。土日も余裕」「この秋には新海誠展をやるのだそうだ。またまた人がいっぱい来るぞ」「そもそも新国立の中のカフェは、『君の名は。』で瀧君が奥寺先輩とデートした場所ではないか」「またまた聖地巡礼が押しかけそうだ」「新海誠は重度のスランプと聞くが、大丈夫かのう」
○この週末には東富士演習場にて「総合火力演習」こと「そうかえん」があった。知り合いが大勢、出かけていたらしい。ところで「そうかえん」のマスコミ報道には、毎年次のようなステロタイプがある。昨日の朝日新聞にお手本を示してもらいましょう。
2時間近くの演習には隊員2400人、戦車や装甲車80両、大砲60門、ヘリや戦闘機を含む航空機20機が参加し、2億9千万円分の弾薬36トンを使った。
○なんとかして自衛隊の印象を悪くしたいという紋切り型なのだが、最近は以下のような記述も入れなければならない。でないとフェイクニュースと言われちゃうからね。
29倍の抽選でチケットを得た5千人を含む2万4千人が観客席から見入った。
○ワシが見に行ったのは4年前のことなので、そろそろまた行きたいぞい。
<8月29日>(火)
○朝起きて、モーサテを見ていたらいきなりJアラートが発動。佐々木あっこさんが記事を読み上げている。ああ、お気の毒にと思いながら、NHKにチャンネルを変える。でも、読んでいるニュースに大差はない。嫌ですねえ、こういうもどかしさはトラウマになっちゃいますねえ。
○家を出ると、案の定、常磐線が混乱している。乗客全員が不機嫌になっている中を、頑張って文化放送へ到着。「くにまるジャパン極」の「深読みジャパン」コーナーで、本件に関して思うところを語る。
○それから夕方になって、テレビ東京の「ゆうがたサテライト」に呼ばれる。岡崎研究所の仲間である軍事ジャーナリストの潮匡人さんとご一緒である。そこでもあーだ、こーだとお話しする。映像はこちらをご参照。特に地球儀を使った潮さんの説明は面白かったと思います。
○そのままついでにWBS用のインタビューも収録。大江真理子さんとはお久しぶりでした。それにしても、テレビ東京のオフィスは早朝の社員が少ない時期しか知らないので、とっても新鮮な感じでした。ということで、WBSを見ながら溜池通信を更新です。明日は明日の風が吹く。
<8月30日>(水)
○今朝の日経、この記事は値打ちありましたねえ。
●米国がもくろむ対北朝鮮「第3のシナリオ」
・・・・実はこんな秘話もある。
米太平洋軍が司令部を構えるハワイ州。6月19〜21日に日米韓から計約40人の当局者と識者が集まった。各国別のチームに分かれ、北朝鮮危機をテーマに非公開の模擬演習をするためだ。主催したのは米シンクタンク。細かな事前の擦り合わせはなく、ぶっつけ本番の演習である。その結果は衝撃的だった。参加者によると、次のような展開になったという。
【フェーズ(1)】北朝鮮が6回目の核実験を実施し、核を積んでいるとみられるミサイルを発射台に置いた。米国は警告として、平壌市内の金日成元主席の銅像をミサイルで壊した。
【フェーズ(2)】北朝鮮は挑発を強め、韓国の離島を攻撃。米国は「核ミサイル」の発射を阻むため、韓国の制止を振り切って先制攻撃を強行し、ミサイルの発射台を破壊した。
演習はここで終わった。あくまでも仮想のゲームである。ただ、この結果は、核ミサイルを北朝鮮が配備すれば、情勢が一変し、軍事衝突につながりかねない現実を暗示している。実際に、米国はひそかに軍事作戦の中身を詰めている。内情に通じた米安全保障専門家によると、米軍首脳はすでに約10通りの作戦案をまとめ、ホワイトハウスに提示したという。
○つまり、(1)全面攻撃(2)限定的な空爆(3)特定の標的に対する秘密作戦――の3つのパターンのうち、(3)ならば十分にあり得ますよ、ということである。日米の防衛筋から聞こえてくる話を総合すると、この辺が落としどころとなる。
○「内情に通じた米安全保障専門家によると、米軍首脳はすでに約10通りの作戦案をまとめ、ホワイトハウスに提示したという」とある。するということは、後はトランプさん次第ということになるのだが、大統領は国内のハリケーン対策に万全を期さなければならない。北朝鮮など構っていられぬ、といったところであろう。
○そうだとすると、この文書が興味深い。
The White House
Office of the Press Secretary
For Immediate Release
August
29, 2017
Statement by President Donald J. Trump on
North Korea
The world has received North Korea’s latest message loud and
clear: this regime has signaled its contempt for its neighbors,
for all members of the United Nations, and for minimum standards
of acceptable international behavior.
Threatening and destabilizing actions only increase the North
Korean regime’s isolation in the region and among all nations
of the world. All options are on the table.
○ね、ちゃんとしたホワイトハウスの文書で、言ってることも普通でしょ? ツイッターじゃない、という点に新鮮な感動があります。ひょっとするとケリー首席補佐官に、「この件は任せるから、よきに計らえ」と言っているんじゃないかしらん。そうだとしたら、非常にありがたいんですけどねえ。
<8月31日>(木)
○今日で8月も終わり。東京都では観測開始以来、日照時間が史上最短の夏であったようです。なるほど今宵も冷房などは不要で、外からは虫の声が聞こえてきそうな過ごしやすい天候である。
○で、明日になると、皆がすっかり忘れている民進党代表選挙がある。前原、枝野のどっちが勝っても大差はなさそうであるが、「安保法制廃止」という旗印はそろそろ党として降ろした方がいいのではないか。北朝鮮の弾道ミサイル発射がダメ押しになって、さすがに反対する人は少なくなったとお見受けする。今月の日経「私の履歴書」において、高村正彦自民党副総裁が言っていたように、「やっといて良かった!安保法制」が民意ではないかと思うのである。
○ところが民進党の草の根ファンというのは、とことんが左派体質であるから、地方票を意識するとなかなかこの旗が降ろせない。どうかすると「金正恩よりもアベの方が憎い」とか、「安倍と北朝鮮はつるんでいるに違いない」みたいなことを大真面目に考えている人たちであったりする。そんなことを言っているうちに、ますます中道票が逃げていくと思うのだが。
○この点、わが国における右派、もしくは保守層は、「安倍ちゃんが好きだから、何でも許す」ことができてしまう。本当はねえ、憲法9条に3項を追加するなんて中途半端な憲法改正は嫌なんだけどねえ。集団的自衛権も、ホントはあんな程度であっちゃいけなかったはずなんだけどねえ。まあ、高村さんが公明党を抱き込むためにあんな風にした、というのが今月の「私の履歴書」でよくわかりました。
○これと同じ構図がアメリカにもあって、共和党支持者はトランプでも我慢したけど、民主党支持者はどうしてもヒラリーが許せなかった。右はストライクゾーンが広くて、左は狭い。なんでそうなるの、と聞かれると困るんですが。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki