●かんべえの不規則発言



2003年4月



<4月1日>(火)

○4月が始まりました。新年度入りということで、この件を謹んでご報告いたします。かんべえの本が出ます。4月10日に創刊される新潮新書10冊の中に、拙著『アメリカの論理』が入っております。どんな本が並ぶかは、以下をご参照。

http://www.shinchosha.co.jp/shinsho/index.html

○ひとことで説明すると、「9・11からイラクへと一直線に向かうブッシュ政権の道のり」を描いたものです。2002年1月の「悪の枢軸」演説を出発点にして、PNACの紹介やら、2000年選挙の回顧やら、カール・ローブの話など、本誌愛読者にはなじみのある話を盛り込んでいます。最後は2003年1月末当たりで終わっていて、その先はさすがに新展開を追うのが間に合わなかった。まあ、最新情報であれば本誌を読んでいただければいいのであって、書籍で出すからには、「なぜブッシュはイラクを攻撃するのか」が一冊で納得できるように目指したつもりです。

○ところで、新潮新書の「創刊に当たって」を読んでいたら、三重編集長が「70年代中頃にブルーバックスを読んだ」と書いてある。「なーんだ、同じじゃん」と思ってしまった。いやホント、ブルーバックスにはお世話になりました。『マックスウェルの悪魔』や『ブラックホール』などは今でも内容を覚えている。その後、いちばんたくさん買っているのは、おそらく講談社現代新書だと思う。それから、当たりが多いのは中公新書かな。思えば新書との付き合いは長い。

○昨今は、いろんな出版社が新書を出しており、いささか乱戦気味のところへ、老舗の新潮社が参入するわけで、商売としては難しいところ。このページなどを見ると、いろいろ工夫のほどがしのばれます。他の9冊でも、『不倫のリーガル・レッスン』や『武士の家計簿』などは、非常にそそる題名となっていてひかれますね。

○まあ、本が出るのは来週木曜だし、見本刷りが届くのが明後日くらいなので、今日のところは簡単なご報告まで。あとは乞うご期待、というよりも、どうか買ってください。お願いします。


<4月2日>(水)

○今日いちばん笑ったニュースはこれ。

仏外相「イラク戦争、米英を支持」――復興で協調体制狙う
日付 時刻:2003/04/02 12:10 文字数:673
 【パリ=柴山重久】イラク戦争を巡って米英と対立していたフランスに関係修復を模索する動きが出てきた。ドビルパン仏外相は1日夜、「仏はイラク戦争で米国と英国の側に立つ」と発言し、開戦後初めて米英支持を明確に表明した。パウエル米国務長官が3日訪欧するのをにらんで融和姿勢を強調、イラクの戦後復興で協調体制を敷く狙いがあるとみられる。

 ドビルパン仏外相が米英への支持を表明したのは仏テレビ局とのインタビュー。同外相はフセイン政権を「残酷で独裁的な政権である」とも指摘。加えて、イラク支持を表明したシリアについては「(紛争の)火に油を注がないことが重要だ」と述べ自制を求めた。

 仏では、週初にラファラン首相が米仏間の関係悪化について「本当の敵を間違えてはいけない」と発言したばかり。そのうえで外相は、イラク戦争をできる限り早期に終結させ、犠牲を最小限にとどめることがもっとも重要であると訴えた。

○次のうち、正しい反応はどれでしょう。かんべえの好みはBだな。ドビルパンのネクタイつかんで、耳元で叫んであげましょう。フランス語でどういうかは知りませんが。

@そういうことだと思ったよ。
Aてめえ、今頃になって・・・・
Bどの口が言った、どの口が!?

○フランスの伝統芸「寝返り」ですが、先祖代々の得意技だけあって、タイミングがすばらしい。戦争が弱い国は、こういうセンスを磨かないと生き残れません。

○ひとつは明日からパウエル国務長官がブリュッセルに入り、EUやNAFTAとの協議を始めること。パウエルはこれまで、ほとんど外遊をしなかった。米国の国連外交が失敗した理由のひとつがそれじゃないかという議論は、先週号のThe Economist誌にもあったのですが、それは「パウエルがワシントンを離れた瞬間に、何が起こるか分からないから」できないという事情があった。なにしろパウエルが対欧州工作をやっている最中に、後ろから「古い欧州」などという言葉を投げつけて、台無しにしてしまう人がおりましたから。

○そのラムズフェルド国防長官は、戦況があんまりよくないとか、あんたが兵力をケチったのが問題じゃないかとか言われて、今はちょっと苦しい立場。秘蔵っ子のリチャード・パールも、グローバル・クロッシング社への口利き疑惑を追及されて詰め腹を切らされた。他方、パウエルは「私の教え子たちが頑張っている」と意気軒昂である。アメリカが国際協調路線の修復を図るには、ちょうどいいタイミングといえる。フランス側にとっても、渡りに船といったところだろう。

○もうひとつ、フランスは今週末当たりに戦局が大きく変わりそうだという感触を得たのではないか。イラク中部のカルバラ(バグダッドの南方80キロ地点)で、大規模な戦闘が始まっている。イラクの精鋭部隊である共和国防衛隊が、意外なことに素直に南下して来たので、米陸軍第三歩兵師団がこれを攻撃している。米英側が制空権を握っている上に、「戦車同士の戦いは、少しでも強い方が圧勝する」というセオリーから考えると、イラク側は無謀だったんじゃないだろうか。虎の子の部隊を失えば、連合艦隊を失った日本海軍のようになってしまう。むしろバグダッドにへばりついて時間を稼いでいた方が、米英側としては嫌だっただろう。

○支持を宣言するのは、戦争がワンサイドゲームになってからでは遅すぎる。韓国もここへ来て急きょ派兵を決めるらしい。やっぱり自前の諜報機関を持っている国は、この辺の出る引くの感覚が鋭いような気がするな。


<4月3日>(木)

○今日のニュースを見た感じだと、やっぱりイラク側の2個師団がほぼ壊滅した様子である。どうにも理解に苦しむのだが、なんでイラク側は虎の子の機甲師団を南下させたんだろう。あれでは各個撃破されるに決まっている。アメリカ軍はナンボでも後続部隊があるが、自分たちは補給がきかないというのに。こんな劣勢の勝負、大山十五世名人であれば「いちばん敵の嫌がる手」を指してくる。つまりバグダッドに立てこもって主力部隊を温存するのが最善だったと思う。

○この図式、どっかで見たことがあると気がついた。山崎の合戦だ。羽柴秀吉の軍勢は「中国大返し」で大坂から京都を目指す。「本能寺の仇討ち」という大義名分があるから、士気はむちゃくちゃ高い。反対に明智光秀軍は、兵力が劣勢な上に意気も上がらない。このとき、光秀軍はどういう理由か山崎まで南下して来た。隘路で迎え撃つという作戦だったのかもしれないが、京都で粘った方が良かったと思う。京都で市街戦となったら、双方ともきれいな戦いはできなくなる。天下分け目の戦いが山崎になったことで、秀吉は「ラッキー!」と快哉を叫んだことだろう。

○光秀は生涯を通じて、相当な戦略家であり、政治家でもある。ところが本能寺の変以後は、何をしていたのかサッパリ分からない。安土城を燃やしてしまった理由も不明なら、どういう政権を作ろうとしていたかも分からない。いわゆる「三日天下」(本当は十日以上あった)の間、彼は呆然と日々を過ごし、「秀吉来る」の報に驚いて、あまり良く考えずに軍勢を集めて前に出て来たようだ。

○光秀に比べると、フセインはお世辞にも戦争が上手な人間ではない。イランが相手でも、クウェートが相手でも、アメリカが相手でも、いつもなめてかかって最後は失敗している。今度のカルバラ攻防戦にどんな意図があったのか、ま、あんまり考えてもしょうがないのかな。

○余談ながら、秀吉軍の参謀を務めた黒田官兵衛は、この戦いでは「天王山」に陣した。別に天王山を取ったことが勝敗を分けたということはないのだが、「天下分け目の天王山」という言葉は、たしかここから出ているはずである。要衝カルバラの制圧は、イラク戦の天王山になったかどうか。


<4月4日>(金)

○アマゾン経由、ロバート・ケーガンの新著"Of Paradise and Power"を取り寄せました。例の「くたばれヨーロッパ」論文に加筆したようです。本書に寄せられている賛辞の中で、"Brilliant"(フランシス・フクヤマ)、"clarity, insight, and historical force"(ジョン・マケイン上院議員)という言葉がよく当てはまっているように感じます。ケーガンの文章はとにかく分かりやすい。これが魅力であり、クセモノであるわけですが。

○本書で描かれた米欧対立の構図が、これからの「イラク復興プロセス」で試されることでしょう。おそらく来週には、米欧間の話し合いが一気に進むのではないでしょうか。欧州の危機意識は強い。なにせEU内では、ケーガン論文は回覧されたそうですから。


<4月5〜6日>(土〜日)

○原稿を抱えているのと、ちょっとネタ切れ気味なので、今週末はこういうジョークでお茶を濁しておきましょう。古典的なんですけどね。

An airplane was about to crash;there were five passengers on board but only four parachutes.

The first passenger said: "I am Kobe Bryant, the best NBA basketball player, the Lakers need me, I can't afford to die."
So he took the first parachute and jumped out of the plane.

The second passenger, Hillary Clinton, said:"I am  the wife of former US President, a New York state senator and a potential future President."
So she took the second pack and jumped out of the plane.

The third passenger, George W. Bush, said: "I'm the President of the United States of America.
I have great responsibility being the leader of a super-power nation and I am the cleverest president in American history."
So he grabbed the pack next to him and jumped out of the plane.

The fourth passenger, Pope, said to the fifth passenger, a 10-year-old schoolgirl:"I'm old and frail and don't have many years left and as a Catholic I will sacrifice my life and let you have the last parachute."

The girl said:"It's okay, there is a parachute left for you.
America's cleverest president took my schoolbag."


<4月7日>(月)

○米軍がとうとうバグダッドをわが物顔で駆け回るようになった。大統領宮殿にまで入ってくるのだから、誰が見ても勝負はもうついている。しかし首都攻略を本気でやっているというよりは、瀬踏みで攻め込んでみたところ、あまりに手応えがないから図に乗って暴れているだけで、今日中に大統領宮殿を占拠しようとまでは思っていない様子。あくまで威力偵察の延長線上なのだろうけれども、プレスの人間を同乗させているところを見ると、万が一にも襲われる心配はないと見切っているのだろう。つまりワンサイドゲームということだ。

○気の毒なのはサハフ情報相で、あくまで米軍は来ていない、すべてでっちあげだ、と言い張っている。言ってる側から弾丸が飛んできそうで、いかにも苦しい立場だけど、眼は座っている。こういう人、前にもどっかで見たと思ったら、そうそう、アフガン戦線のときのザイーフ大使がいた。2ちゃんねるでは「ザイーフたん」と呼ばれていたが、そろそろ「サハフ情報相もえ〜」などというスレッドが立っているかもしれん。こういう立場の人が人気になるというのは、「ああ言えば上祐」さんの頃からの定番ですな。

○それにしても首都を防衛するつもりなら、せめて幹線道路にバリケードを作るか、落とし穴掘るか、いくらでもやりようがありそうなものなのに。フセイン大統領は、何がしたいのかサッパリ見当がつかない。逃げたいのか、取引したいのか、それとも歴史に名を残したいのか。

○もっともこの戦争は、軍事的な勝利を政治的な勝利につなげることが容易ではない。先週号でニューヨークタイムズ紙に掲載されていたトマス・フリードマンの「戦争のためのスコアカード」を紹介したが、この先のハードルはこんなにたくさんある。

@バグダッドの占領
Aフセインの除去(亡命でもOK)
Bイラク軍に対する説明責任
C領土の一体保全(クルドの独立やトルコの介入を防ぐ)
Dイラク国民の支持があるまっとうな指導者を選ぶ
E周辺諸国による承認

○これにF大量破壊兵器の確認、という要素を加えてもいい。うーん、まだまだ先は長いですぞ。


<4月8日>(火)

○拙著が出版されるのが3日後になり、気になるから検索してみると、新潮社のHPではもう宣伝が始まっていました。

http://www.shinchosha.co.jp/shinsho/shinkan/

『アメリカの論理』 吉崎達彦   本体価格680円  ISBN:4-10-610007-X

なぜアメリカはイラク攻撃にこだわったのか。石油利権? 軍事産業の暗躍? そんな陰謀史観は全部ウソ。9・11以降のブッシュ政権内の力学を丹念に追えば、謎はすべて解けてくる。新世代のアメリカ・ウォッチャーによる、目からウロコが落ちるアメリカ分析。

○図に乗ってアマゾンを調べてみたら、ここにも出ています。気の早い方は、ぜひ、ご予約なぞいかがでしょうか。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/410610007X/ref=sr_aps_b_/250-3763982-0477805

○それはともかく、ここで書かれている「内容紹介」と「ほかのイラク本と、どこが違うか?」という部分が、妙に感心してしまいました。多少、気恥ずかしくはあるのですが、以下、丸まんま引用。

[内容紹介]

 なぜアメリカはイラクを攻撃するのか? 新聞を読んでもニュースを見ても、日々の細かい情報だらけで、肝心のところが見えてきません。本書は「9・11」以降のブッシュ政権の動きを丹念に追いながら、「アメリカが戦争を仕掛ける理由」に徹底的に迫ったものです。

 最近、「ネオコン」(新保守主義)という言葉もよく耳にするようになりましたが、本書はこの「ネオコン」の中核となっているグループについても、詳細に分析しています。そのほか、ホワイトハウスの影の司令塔や、今回の作戦に大きな影響を与えたといわれる伝説の老戦略家……など、ブッシュを取り巻くブレーンたちの行動や考え方を読み解きながら、現在のアメリカの行動原理やロジックを鮮やかに浮かび上がらせます。

 一読して見えてくるのは、意外や意外、ナイーブで孤独な「揺れる超大国」の姿です。そんなめんどくさい、やっかいな奴らと、われわれ日本はどう付き合ったらよいのか? 著者はそこまできちんと考察していきます。

「ブッシュはただの操り人形」といった単純な議論や、「石油メジャーが…」といった陰謀史観に飽き足りない方にこそ是非お薦めしたい、本物の1冊です。

[ほかのイラク本と、どこが違うか?]

●情報の確かさ――著者は商社系シンクタンクのエコノミスト。経済のプロとしての情報と読みがバックボーンにあります。
●手法の新しさ――「実はですね…」といった眉唾なひそひそ話は徹底排除。誰でもアクセスできるような公開情報をもとに、シャーロック・ホームズのような洞察力で真実に迫ります。
●善悪を論じない――善悪を論じてもアメリカがなくなるわけじゃない。まずはきちんと知ることが先決だ、というクールな姿勢が冴え渡ります。
●文章の読みやすさ――学者的な難解さや冗漫さとは無縁のわかりやすい文章。翻訳ミステリーの登場人物を覚えられないという方でも大丈夫!
●日本人が書いている!――アメリカ人がアメリカを分析しても、そこには限界があります。じゃあ日本はどうすりゃいいんだ?という視点は不可欠。本書は、日本人による、日本人のための本格的アメリカ論です。ボブ・ウッドワードには絶対書けません!


○ふーん、ワシの書くものはそんな風に見えるのか、てな感じですね。「善悪を論じない」は確かにそういう癖があるようです。逆に言うと、大概のイラクものは、「ブッシュ万歳」と「戦争反対」のどちらかに色分けされていて、あんまり中間がないから目立つのかもしれません。それにしても「ボブ・ウッドワードには絶対書けません!」には参ったな。当の筆者としては、なんて言えばいいんでしょう。


<4月9日>(水)

○昨日、浅ましいまでの自己宣伝をいたしましたところ、多数の愛読者から「予約したよ」「宣伝するよ」など、暖かいお言葉を頂戴して、今宵はうるうるモードでございます。皆様のご支援に重ねて御礼申し上げます。

○さて、今夜は何を書こうかと思いつつ帰って来たところ、お馴染みの上海馬券王からすごい作品が届いておりましたので、全文を掲載いたします。これはホント、恐れ入りました。長編大作です。



特報!VIPたちの桜花賞展望(上海馬券タイムズ特約)

1.ブッシュスピーチの衝撃

イラク紛争が軍事的な終局を迎える中、今、世界は「戦後処理」という名の新たな戦争段階に突入した。イラク復興をめぐりさまざまな思惑を持つ各国の鞘当は既に始まっており、事態は中東石油利権と言う地政学上の問題にとどまらず、新国際秩序の確立における欧米の相克、イスラム対キリスト・ユダヤの文明の衝突という極めて深刻な問題に進展する様相を呈し始めたのである。

4月某日、唯一の超大国の動向に世間の耳目が集まる中、第43代アメリカ合衆国大統領ジョージ・ブッシュは、いならぶ報道陣を前に驚くべきスピーチを行った。

「桜花賞にピースオブワールドが出ないことに、強い失望と憤りを感じている。G1競争は真の強者によって争われるべきであり、真の強者のみが神の加護を受け、邪悪な存在を打ち倒し、世界の平和(ピースオブワールド)を獲得できる資格を持ちうるのである。日本の競馬界は自らの手で正義を証明する機会を失った。」

世界に衝撃が走った。アメリカ大統領がイラク問題、国際問題をそっちのけで、日本の競馬を論じている!誰もが彼の真意を測りかね、様様な憶測が世間を賑わせた。曰く、「イラクの次は北朝鮮ではなく日本なのか」、曰く、「ピースをpeace(平和)と読むのは間違いで、あれはpiece(かけら)と取るべきであり、日本の競馬を語るそぶりを見せながら実はアメリカによる世界一極支配への強い意欲を表明したのだ。」、曰く、「彼の極度なピューリタニズムがこのような瑣末な出来事に対する寛容さを喪失させるくらい進行している。アメリカ軍が十字軍の軍装を正式制服に採用し、異教の地に侵攻する日が近い。」等など。


2.ラムズフェルドかく語りき

大統領が実は単なるずぶずぶの競馬親父であり、桜花賞における勝ち馬の取捨選択に真剣に悩んでいたのだと言うことが明らかになったのは翌日になってからである。側近にして国防長官であるドナルド・ラムズフェルドはキャンプデービットに向かう軍用機の中で、記者との雑談の中、こう語っている。

「大統領はピースオブワールドの馬券購入をコイズミに頼んでたんだ。出ないのを知って、かなり悔しがっていたよ。結局、彼は馬券は買わずに「ケン」するみたいだけど、私は買う。勝つのはチェイニーだ。アドマイヤグルーヴのような重厚長大な血統は、「古い競走馬」の代表であり、何の魅力も感じない。チェイニーには父サンデーのアメリカ魂を母父KRISという素軽い血脈が支えている。このように「鼻持ちならない本流意識」から離れ、情報化された新しい感覚で戦うことが今要求されているのだ。チェイニーは阪神競馬場に『衝撃と恐怖』をもたらすだろう。」

この論説は大統領に対する追従であると同時に、彼と敵対する欧州ならびにアメリカ国防省制服組に対するあてこすりを目的としてなされたものであるというのが、現時点での一般的な見解である。ただ、桜花賞に登録している馬の名が、「チューニー」であるにもかかわらず、彼がこれを「チェイニー」と呼んだことは、理解に苦しむ事項であり、識者の間でも単なる間違いとする見解と、わざと間違えたのだという見解に分かれ、今のところ明確な結論が出ていない。


3.パウエルの誤算

国務長官コリン・パウエルも本件に関し、所見を表明した一人である。以下に掲げるのは、イギリスのアメリカ大使館内で行われたインタビュー記事の一部である。

記者:「最近ラムズフェルド長官がアドマイヤグルーヴをだしにして、あなたや国防省内にいるあなたのシンパを揶揄しているようですが」
コリン・パウエル(C・P):「戦場の現場を知らない軍事理論家は、市場を知らないエコノミストのようなものだ。理屈で戦争に勝てるようなら、ヴェトナムで我々は違う結論を得ていたはずだ。」

記者:「じゃ、長官はアドマイヤグルーヴ本線ですか。」
C・P:「いや、私が買うのはネオユニヴァース。」
記者:「ネオユニヴァースぅ?」
C・P:「そうだ、彼女が桜の女王として新たな宇宙と私にささやかな収入をもたらすはずだ。」

記者:「しかし。。。」
C・P:「いいか、名工は少し鈍い刀を使う。これまで大差勝ちがないのは、決して彼女に抜き出た実力がないことを意味しない。あの馬は相当強いぞ。」
記者:「いや、でも。。。」
C・P:「黙って聞きたまえ。強ければそれでいいと言うものじゃない。真の強者とは、戦いをきっちりと勝ち抜いて尚且つ相手との融和を図れる存在を言うのだ。力がありながら敢えて大差にせず、相手の顔も立てられる彼女はたいしたもので、当日はきっと。。」

記者:「長官、聞いてください!」
C・P:「なんだね。」
記者:「ネオユニヴァースは牡馬です。オス馬なんです。だから桜花賞には出ません。」
C・P:「。。。。。。」

記者:「ご存じなかったのですか。」
C・P:「ワハハハ。私と大統領は馬が合う。彼も私の仕事は気に入ってくれているよ。」
記者:「そんなこと聞いてないっての!」


4.欧州の対応

このようなアメリカ各首脳の動きに対して、ドイツのシュレーダー、フランスのシラク両首脳はドイツ・ドレスデンにて緊急会談を実施し、桜花賞登録馬マイネヌーヴェルに対する支持を表明した。支持の理由が明確には語られなかったことから、「アメリカによる有力馬指名が相次ぐことに慌てて理論武装する間もなく、取り敢えず勝てそうな馬につばをつけた結果」というのが、世間一般の受け止め方であるが、「単に馬名が独仏語の折衷であることが両国のメンツを保つ意味で重要であっただけ」であるとする説もあり、筆者としてはこちらの方に組したい。


5.日本そしてイラク

各国首脳が桜花賞予想に明け暮れる4月上旬、日本に衝撃が走りぬけた。行方がわからないまま数週間が経過し、死亡が噂されていたイラク共和国大統領サダム・フセインが官邸にいる内閣総理大臣小泉純一郎にあて、電話をかけてきたのである。後にCIAの分析官により、本人のものと証明された野太い声の人物は小泉首相と下記の会話を残している。

(電話の向こうから遠い銃声が聞こえる)

小泉:「な、なんの用ですか。」
サダム・フセイン(S・H):「いやね、当日所用で馬券が買えないものでね、あんたに買っておいてもらおうと思って。」

小泉:「ば、馬券ってね。あんた、何考えてるんです。今のあんたの委託馬券を引き受けると、貸し倒れになる可能性が高いじゃないですか。これ以上の不良債権はこりごりだ。大体、あんた、今どこからかけてるんです。」
S・H:「それは秘密です。いや、いや、マジで。なにせ、住所を移すたんびに、ブッシュの罰当たりが爆弾落としてくるので、最近は競馬新聞を読む閑もないくらい落ち着かなくてねぇ。それはそうと、阪神の馬場状態はどうかね。」

小泉:「阪神ですか。今日、明日で雨が上がるから、当日は良が見込まれるわけで、ハイペースの乱戦必至って、あんた何言わせるんです。」
S・H:「そう言えば、小泉君、アドマイヤグルーヴが本線なんだってな。人気ばかり気にして、馬券の内容がぜんぜん伴わない、いい加減競馬を止めたほうがいいと野中君がこの前こぼしてたぞ。」
小泉:「あのおやじ、北朝鮮だけじゃなくてあんたのところにまで粉をかけてたのか!ほっといてください。人気にこだわるののどこが悪いんです。人気がなくては何も出来ません。イギリスのメイジャー首相も『勝ち馬に乗るのはいいことだと全面的に賛同する』と言ってくれたんだから。」

(遠くでロケット弾の炸裂音)

S・H:「野中君のお勧めは、ヤマカツリリーだそうだ。『最近の競馬は良血ばかりを大事にして気に食わない。差別を受けてるマイナー血統に熱い支援を注ぐのが政治家としての自分の責務だ』と1時間以上も演説ぶたれて往生したわ。」
小泉:「そんな奇麗事を言って、しっかり勝てそうな馬に肩入れしてるじゃないか。ホントに食えないと言うかしたたかな親父だ。そういうあなたは何なんですか。」

S・H:「よくぞ聞いてくれた。わたしの推奨はマイネサマンサ。単勝で3万円ほど買っておいてくれないかね。」
小泉:「マイネサマンサ?未勝利・500万を圧勝してるけど、ダートのしかも減量騎手での実績じゃないですか。そんな馬よく買えますね。」
S・H:「ダート馬をなめてはいけない。砂を制するものは世界を制す。阪神の芝はものすごくパワーを要求するので、ダート実績は重要な指標になるんだぞ。」
小泉:「砂漠でぼこぼこにされたあなたが言うのも説得力があるような、ないような。それにあの馬は確か抽選待ちで出れるかどうかも。。」

(ジェット機のエンジン音が近づいてくる)

S・H:「出れる!アラーの神が出してくださる。」
小泉:「アラーって、確かあんた無神論者じゃ。」
S・H:「おっと、そこまでだ、そろそろここを引き払わねばならん。では、マイネサマンサの単勝、頼んだぞ。サラーム!」

(凄まじい爆発音。電話の切れる音)

6.中国の反応

中国ではSARS騒ぎに伴う香港シャティ競馬場の検疫に忙しく、官民とも明確な見解を出していない。ここは日本の競馬事情に詳しい、上海在住の評論家、上海馬券王の見解を掲げておこう。

「フセインさんに一票!マイネサマンサは出れれば面白い存在です。」

ほんとかぁ? (了)


○かんべえ独白。マイネサマンサは、穴狙いでダート馬好きの馬券王先生らしい狙い目ですが、やはりこの勝負、武豊対アンカツの死闘連続勝負の一環ということで、究極の良血アドマイヤグルーブと草の根派ヤマカツリリーの一騎打ちと見ます。どっちが来ても不思議はありませんので、低配当は我慢して、この両者の馬連一本に絞って買うのがよろしいのではないかと考える次第。それにつけても、ピースオブワールド(かけらじゃなくて本物の平和)が待たれる今日このごろ、桜が散り行く春の休日を、世界の首脳が競馬に興じることができれば、これに過ぎたる幸いはないのでありますが。

○最後に馬券王先生、SARSにお気をつけて。


<4月10日>(木)

○ちょっとちょっと、馬券王先生。夕刊紙を買ってみたところ、マイネサマンサは出走しないじゃありませんか。これではフセインも浮かばれませんねえ。あ、よくよく見ると、スティルインラブって人気になりそう。それからモンパルナスもいるんですねえ。

○さてさて、いよいよ本日で新潮新書が創刊です。お昼にお台場のアクアシティの本屋に出かけて、そっと偵察に行ってきました。せっかくなので『武士の家計簿』を購入してきました。

○ご存知、四粋人の岡本さんが、さっそくHP上でアシストしてくれています。それからmojiko.comの魚住さんが、こんな風に取り上げてくれています。ありがとうございました。

国内のニュースソース、特にネットの情報を信じて世界を見ていると、アメリカという陰謀逞しい悪の大帝国を、ジョージブッシュというバカ面下げた傀儡でネオコンという血に飢えた狂信者集団が支配し、いけにえを求めて世界中の善意の人々を不幸のどん底に叩き込もうと悪謀の限りを尽くしている。実は911すら彼らの陰謀でありアメリカの言論の自由と民主主義は既に死に絶え、唯一パウエル率いる一派だけが国際協調を唱えつつ世界の反戦運動を実は裏から盛りたてて彼らに対抗している。というなにやらXファイルなみの三流小説を押し付けられうんざりします。
そんな世界像に安寧できない健全な疑問をもてる方は、「溜池通信」というサイトのオーナー氏が書かれたこの本を読んでみられたらいかがでしょうか。

○2ちゃんねるの国際政治スレッドあたりだと、本当に上記のような世界観が多いですな。ある友人の表現を借りると、「バックパッカーで世界を放浪しているときによく聞くような話」だそうです。もっとも本屋のイラク本コーナーを覗くと、実際にその手の本が非常に多くて、拙著などは貴重な少数派になりそうです。


<4月11日>(金)

○同業者の会合で、今後の経済はどうなるかという話をやったところ、「イラクはもうリスクじゃなくなった。この先はSARS(重症急性呼吸器症候群)が恐い」という意見が出た。戦争よりインフルエンザが恐いというのは奇妙に聞こえるかもしれないけれど、例によって人間は前例のあることには強い。SARSの怖さはその不透明さにある。致死率はせいぜい4%だそうだけれども、原因も治療法も不明な上に、伝染経路もよく分かっていない。

○「戦後の世界的流行となったインフルエンザや肺炎は、多くが中国南部から始まっている」という話を聞きました。古くは「アジア風邪」(1957年、中国南部)、「香港風邪」(1968年、香港)、「鶏インフルエンザ」(1997年、新界)、そして今回のSARSは広東省。その多くは家畜類から伝染しているそうで、中国内陸部は人が動物と一緒になって暮らしているから、ときどきこういうことが起きるらしい。しかも日本のような島国とは違い、大陸で感染症が広がり出すといくらでも拡散する。やっぱり中国にはわれわれの理解を絶したところがある。

○インフルエンザはよく「香港X型」という名前がつく。実は香港でインフルエンザが流行っているときは、中国内陸部全体で流行っていたのかもしれない。昔は中国本土は暗黒大陸で、香港だけが外界への窓口だったから。ところが今では、華南地区全体が外に向かって開かれているようなものだから、いくらでも海外に広がってしまう。すでに企業では、春の異動シーズンに中国要員を動かせないという問題が発生している。「中国出張から帰った社員は、1週間自宅待機」などという話もめずらしくない。

○人の移動だけならともかく、モノの移動が止まり出したら要注意である。この地域はすでにIT製品の生産基地になっているから、世界経済への影響はダイレクトに伝わる。市場関係者の話によると、華南地区での生産比率の高い船井電機の株価がバロメーターになるだろうとのこと。つまり船井電機の株価が売られるようなら、SARSがIT産業をも浸蝕しているサインとなる。経済のグローバル化は、思いもかけないところに影響が出るものですな。


<4月12〜13日>(土〜日)

○統一地方選挙の当日である。しかるに盛り上がりに欠けることおびただしい。東京都知事選挙や神奈川県知事選挙はまだしも、ここじゃ千葉県議会選挙だもの。かんべえは一応、今朝、投票所に行って来たけど、すご〜く出足は悪そうだった。町会長さんが立会人をやっていて、眼があったらうれしそうにしていた。でも立ち止まって雑談するわけにもいかず。あれが午後8時までということは、さぞかし暇だろうなあ。

○ここ柏市では、4議席のところへ6人が挑戦している。6人中で4番でOKということは、小選挙区でない選挙はなまぬるい戦いのような気がする。現職の4人は自民、公明、民主、共産が1人ずつ。これに保守系無所属と無党派候補の市議2人が挑戦している形。候補者はそれなりに真剣で、田舎の選挙は田舎なりに、いろんなストーリーを抱えているようだ。しかし、そんなもん「千葉都民」にとってはあんまり興味がない。柏市の投票率は、国政選挙では高いけれども地方選挙では低いのだそうだ。

○かんべえは選挙好きということになっているのだが、そんなわけで今回はボルテージが低い。この選挙が政局につながるという道筋が、どう考えても思い浮かばないのだ。それに、戦争の方が選挙速報よりも重要度は高そうだし。ま、詳しいことは、明日、J−WAVEで角谷浩一氏に聞いてみるとしよう。


<4月14日>(月)

○拙著『アメリカの論理』をご覧になって、このHPを訪問されている方もじょじょに増えているようで、あらためてご挨拶申し上げます。はじめまして。本来ならば、ひとつひとつお返事したいところなのですが、今夜も遅い時間の更新となってしまいましたので、この場でまとめてお返事に代えさせていただきます。以後、よろしく。

○あんまり関心の湧かなかった統一地方選挙ですが、唯一、熱くなったのは大分県知事選でした。元通産省次官を相手に、ずぶの素人ながら30万票近くを獲得し、その差10%くらいまで迫った吉良州司さんは、かんべえが勤めている会社のOBであり、それも非常に親しくさせていただいた先輩でした。

○吉良さんとは1983年の夏、就職活動をしていたときに出会いました。採用担当者と学生、という関係でしたから、いわゆる「面接」という形だったのですが、開口一番、吉良さんが口にしたのは「ベニグノ・アキノ上院議員のことをどう思う?」でした。今ではもう記憶している人も少ないことでしょうけれども、その当時、フィリピンの反体制議員のアキノ氏は危ないことは百も承知で帰国を強行し、あえなく空港で射殺されてしまうという事件が大きなニュースでした。このことに対する怒りが後にフィリピン国民を動かし、1986年にはマルコス政権を打倒し、未亡人であるコラソン・アキノ氏を大統領に選出したわけですが、ま、それは後の話です。

○「アキノさん、やっぱ犬死にじゃないですかねえ」と当時の生意気な学生は答えたわけです。「でもさ、犬死にかもしれないと思いつつ、敢えて故郷に戻ったということを俺は評価したいわけ」と、人事部採用課の若手社員は熱心に語り掛けました。それでも北陸出身の当方としては、いやいや政治家は負ける喧嘩をしちゃいかんのじゃないっすか、みたいなことを言い、九州男児の先方はますます言葉に熱気がこもって、男は勝負しなきゃいけないときがある、でなきゃ世の中は動かない、みたいなことを言う。そんな調子で、今から思えばなんとも青臭い書生論議を、延々と喫茶店で続けたことを記憶しています。

○結局、面接とはいうものの、最後まで「この会社で何がしたいか」みたいな話は出ずじまいで、それが当時の雰囲気というかエートスのようなものでした。最近の就職事情のことはよく知りませんが、おそらく今ではちょっと望めないような世界だったと思います。就職戦線が終わりに近づいた頃に、ふらふらと今の会社を選んだのも、おそらく吉良さんとのアキノ問答が一因になっていたのでしょう。

○会社に入ってからも、吉良さんとの熱い会話は何度もありました。好んで使っていた「不羈」(ふき)という言葉が非常によく似合う先輩でした。出身地、大分県知事選挙へ無謀ともいえる挑戦を決意したという話を聞いたときに、ああ、吉良さんはアキノ氏になろうとしているのだなと思いました。それでも通常なら「独自の戦い」になりそうなものを、天下の元通産次官を首の皮一枚まで追いつめ、30万人近くの大分県民に「吉良州司」と書かせたのですから、これはもう奇跡のような善戦だと思います。なんだか自分まで、誇らしい気がしています。


<4月15日>(火)

○こんなアイデアはどうでしょうか。イラク復興のための日本政府代表に、明石康さんを任命するというのは。前回の都知事選落選からもう4年も過ぎているし、カンボジアでUNTACの経験を持つ明石氏は、イラク復興に参画する「日本の顔」としてぴったりだと思うのですが。しかも明石氏は元国連職員ですから、現場の米英軍と国連の橋渡し役も期待できる。ご本人がどう思われるかは分かりませんけどね。

○明石氏がその昔、「PKOとはショーウィンドーのようなものだ」と説明したことが印象に残っています。ショーウインドーは物理的には単なるガラスです。その気になれば、誰でも叩き割ることができる。でも、表通りに面したきれいなショーウインドーに手を出すのは、誰でも気後れするもので、結果としてガラスは割られない。PKOは、国連という錦の御旗がついているから安全なのだというわけ。この説明を聞いたときに、この人は国連というものに幻想を持たない現実主義者なのだなあ、と感心しました。

○国連のPKOというのは、軍隊としては世界で一番弱い存在でしょう。なにしろ守るものを持たない、寄せ集めの集団ですし、誰の命令で動くのかもよく分からない。現在、イラクに展開している米英軍の代わりはとても務まらないシロモノです。それを考えたら、国連中心のイラク復興などは絵空事に過ぎないことはすぐに分かりそうなものですが、さりとて国連無視もできないというのがつらいところ。どこかで顔を立てないといけない。名目だけでもね。

○米国の単独行動主義路線は、その手の配慮が苦手というか、配慮をしないことをもって良しとするようなところがある。そのためにブレア首相が汗をかいて飛び回るわけですが、日本からもちょっとしたアシストがあっていい。明石さん、というのはいいカードだと思うのですが。


<4月16日>(水)

○「統一地方選挙がもたらした教訓とは何か」。今宵はこれをテーマに情報交換をしました。「有権者の投票離れ」みたいなことが盛んに言われていますが、おそらくそれはちょっとピントがぼけていて、自分なりにまとめてみると次の3点であろうと思います。@石原慎太郎の300万票、A公明党の存在感、B共産党、社民党の凋落。

○まずは石原都知事について。投票率が5割を切る中での300万票は、昔の美濃部都知事の頃とは値打ちが全然違う。こんな離れ業は、今の日本中で誰も真似できる人はいないはず。では、なぜ石原さんはそれができるのかといえば、「有権者に夢を与える」という政治家としてのもっとも基本的な作業ができる人だからなのだと思います。

○石原さんが過去4年でやったことは、銀行への課税やお台場カジノ構想に見られる通り、かならずしもうまくはいっていない。せいぜいカラス退治とディーゼル車退治くらいのもので、実績という点で見れば威張れた話ではない。それでも、小器用な政治家ばかりが増えている中で、「何かやってくれそう」という期待を込められる人というと、ほかにはいなくなってしまったということなのだと思います。小泉さんの「自民党をぶっ壊す」という2年前の勢いが失われてしまっている今、石原さんの怪気炎はそれだけでひとつの魅力となるのでしょう。

○それだったら、「石原首班」の話が盛り上がりそうなものなのに、永田町では「もう国政には戻らないだろう」という見方がもっぱらであるとのこと。そもそも石原さんを担ごうとしている人が、「ヨレヨレになっているナカソネさん」「破れかぶれのカメイさん」「もう油が抜けちゃったノナカさん」などであることを思えば、現実性がきわめて低いことは火を見るよりも明らかだ。石原氏本人も、「担いでくれる人がいるなら、御輿に乗ってやってもいい」というタカビーなスタンスなので、やっぱり無理筋であることは否めない。

○次、公明党の問題。統一地方選挙の中で、北海道、福井、大分は接戦の末に自民党の候補者が競り勝った。ということは、公明党の協力がなかったら負けていた可能性が大。これは今後の自民党の戦略に、大きな陰を落とさざるを得ないだろう。端的に言えば、解散総選挙の時期は、普通であれば来年7月に任期切れダブル選挙というのがコンセンサスだろうけど、ダブル選挙を嫌う公明党の都合はそれなりに重く響くので、「そうなると秋の総裁選直後かなあ」という声がちらほらと聞こえてくる。その場合、大義名分が何になるのかがよく分からないのだけど、「10月解散説」が3割程度はあるような気がしてきた。

○3番目が共産党と社民党の大敗である。タカ派の石原さんが300万票取るとか、朝日新聞の部数が劇的に減っているとか、フジテレビ「報道2001」の世論調査で、「北朝鮮に対する武力行使もアリ」という質問に5割の人がイエスと答えるといった事態を見ると、「日本国民のネオコン化」みたいな現象が生じているような気配があり、そういう意味では左派政党の退潮は自然の流れといえる。これを見た中国共産党や金正日は、「ちぇっ、まずいなあ」と思っているだろうが、おそらくそんなに簡単な理屈ではないのだと思う。

○かんべえの地元、柏市で行われた千葉県議会選挙では、自民、公明、民主の現職がそれぞれ3議席を守り、共産党の現職が落ちた分を無所属の「市民派」市議が勝った。これは納得の行く結果であり、「イラク戦争反対」などという現実感のない公約を掲げる政党より、「千葉県議会はこんなにヒドイ」と訴えている候補者の方が、有権者の共感を呼んだということなのだと思う。

○こんなフランスの小話を思い出す。ある小さな村に、連続して3軒の歯医者が開業することになった。最初の歯医者は「フランス一の歯科医」という看板を掲げた。次の歯医者は「世界一の歯科医」という看板を出した。最後にやってきた歯医者は、「この町一の歯科医」という看板を出した。・・・・となれば、誰でも3番目の歯医者に行きますわな。

○今度の選挙で共産党や社民党は、まさに「世界一の歯科医」という看板を掲げるような、夜郎自大なことをやってしまった。共産党に投じる1票によって、イラク戦争を止められるとか、小泉政権のアメリカ支持を止めさせることができるはずがない。その程度のことはみんな知っている。だから、左派政党は負けるべくして負けたようなものである。

○てな話をしながら、今宵は汐留で集まり、最後はカレッタで飲んだわけですが、なるほど汐留は新しくて安くて便利である。「これじゃお台場はもう駄目かも」という点で、某Fテレビさんと意見が一致してしまいましたな。やれやれ、でござんす。


<4月17日>(木)

○補給線が伸び切った状態で仕事をしているので、そろそろしんどいよぉ。それでも今日で70万アクセス、どうも皆さんありがとう。拙著『アメリカの論理』も、書店によっては結構、出足がいいようです。こちらもご支援深謝。忙しいから今日はひとことだけ。


<4月18日>(金)

○今日は内外情勢調査会の講師を務める。2月から月1〜2回のペースでお引き受けしている。今回の場所は茨城県南部。柏市からはすぐ近くに感じられる土浦市へ、朝、お台場にある会社に出社して、そこから上野駅に出て、わざわざスーパー日立に乗って土浦市に向かう。ふだんはしょっちゅう見かけている車両なのだが、乗るのはこれが初めてなので、ひそかに喜んでいたりする。

○土浦市から、さらに自動車でつくば市に移動。もともとは土浦市が茨城県南部の中核都市なのだが、最近は首都圏回帰現象で羽振りが悪く、むしろつくば市の方が景気がいいらしい。2年後には「つくばエクスプレス」が通るので、ますます大差がつくのかもしれない。かつて「常磐新線」と呼ばれていたこの路線は、バブル崩壊とともに建設が遅れに遅れていたものの、ようやく柏市の北部でも高架線の工事が進んでいる。これができると、「秋葉原」−「柏市東大キャンパス」−「つくば学園都市」をつなぐこととなり、文字どおり「理科系の通り道」になるかもしれない。

○講演のテーマは、3月下旬の山口県出張の際と同じ「当面の国際情勢と日米関係」。とはいえ、イラク戦争の前と後なので、まるで違う話にならざるを得ない。これは全体的な傾向らしいのだが、経済の話はあんまり受けない。逆に国内政治の話は受ける。ひとつには現地の市長さんや県会議員が、聴衆に含まれているからだろう。

○ところで内外情勢調査会の講師というのは、とってもステータスが高いのである(実は最近になって気がついた)。この仕事で全国各地を訪れると、「先生」などと呼ばれて、下にも置かぬ態度で遇される。普段はあんまり偉くない筆者としては、慣れない経験である。なにしろこの「先生」の携帯電話は、今日もひっきりなしに鳴り続けだ。それも、「月曜日の会合、XXさんが欠席です」「じゃあ、食事の注文をひとつ減らしましょう」などという雑用電話を控え室でせっせとしているのだから、やっぱりあんまり偉くはないのである。

○正直言って、出先で携帯に電話をもらうのは気が重い。(そもそも昔は人に番号を教えなかった)。それにしても、「月曜夜は午後7時からだからね。確認だよ」なんて、普通、そんなことわざわざ出先まで電話してくるか?まったく。夕刻になって、「フォーサイトの記事見たよ」などという留守録まで入っていた。こういうことだから、補給線が伸び切ってしまうのである。

○夜になって再びお台場の会社に戻り、メールチェックをして、今週号の溜池通信を書き終える。長い一日であった。


<4月19〜20日>(土〜日)

○ふぁ〜昨日はよく寝たぞ。今日は皐月賞で鋭気回復、と思ったら年に1度の町内会の総会の日であった。午後1時から始まった総会は、「前受け金とは何ぞや」などのよく分からない質問が出て紛糾。終わったら2時半。恒例の懇親会が始まり、1時間ほどたったところで、防犯部のTさんとともに「今日は3時35分に来客があるから」などという訳の分からない言い訳で撤退。「3時40分の間違いだろ」「いや、トイレにもいかなきゃいけないから」などと、もうバレバレでんがな。

○ところで、こんなニュースあり。

●フセイン大統領宮殿から現金780億円発見 NY紙報道

 米紙のニューヨーク・タイムズ(電子版)は19日(日本時間20日)、米軍がバグダッドの大統領宮殿内に隠されていた米100ドル紙幣で総額6億5000万ドル(約780億円)の現金を発見したと報じた。フセイン政権の幹部があっけない首都陥落で大量の現金を持ち出す余裕がなく、隠していたものらしい。
 米兵が18日夜(現地時間)、宮殿敷地内の建物を捜索中に偶然発見した。米軍当局は、イラクの復興資金として大切に保管するという。

○隠し財産といえば、おそらくスイスの銀行あたりにもっと大量の金額が預けてあるのでしょう。でもこれはキャッシュであるという点がミソ。いざというときに、持って逃げるはずのものを忘れていったということは、こりゃもうフセインさんは生きてなさそうですね。ところで650万枚の100ドル札というと、どれくらいの分量になるんでしょう。

○イラクの石油収入は年間250億ドルに上ったよし。「フセインの隠し財産」をめぐる話は、これからも尽きないでしょう。


<4月21日>(月)

○拙著が出てから約10日なんですが、恐るおそる書店の売り上げなんぞを覗いてみました。びっくりしたのが八重洲ブックセンター。

http://www.sankei.co.jp/pr/book-ranking/book-ranking.html

八重洲ブックセンター本店調べ(2003.4.6〜4.12)
今週のベストセラー ノンフィクション系

1 大悟の法 大川隆法 幸福の科学出版 2000
2 バカの壁 養老孟司 新潮社 680
3 採用の超プロが教えるできる人できない人 安田佳生 サンマーク出版 1300
4 定年後大全 日本経済新聞マネー&ライフ取材班編 日本経済新聞社 1400
5 武士の家計簿 磯田道史 新潮社 680
6 陰山メソッド徹底反復「百ます計算」基礎編 陰山英男 小学館 500
7 明治天皇を語る ドナルド・キ−ン 新潮社 680
8 東大講義録 堺屋太一 講談社 1600
9 アメリカの論理 吉崎達彦 新潮社 680
10  ゲ−ム理論トレ−ニング 逢沢明 かんき出版 1600


○なんと拙著が9位。よくよく見ると、新潮新書がベストテンのうち4冊を占めていて、シリーズ全体が成功しているようです。中でも養老先生の『バカの壁』がすごい。5位の『武士の家計簿』は読了しましたが、これも無条件のお勧めです。

○その他では、紀伊国屋書店の新書部門で13位、三省堂で10位となっています。想像したよりもずっと売れてますね。

●紀伊国屋書店 新書 週刊ベストセラー 2003年04月14日 〜 2003年04月20日

http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/best_wa.cgi?subj=sinsyo

●三省堂書店 新書50 対象期間 2003/4/7〜2003/4/13

http://www.books-sanseido.co.jp/best_shinsho.html?MBR_NO=&SESSION=

○ありがたいというか、怖いというか・・・・。こんなものを気にしだすと切りがないので、なるべく無視しようとは思うのだけど、後からこっそり上のリンクを開いてみたくなるんだろうな。なるほど本を出すというのはこういう気分になるものか、てなことを日々、味わっています。

○ところで『アメリカの論理』って題名は、ちょっとインパクトに欠けてませんか?というご指摘をときどき頂戴します。変にあっさりしてるんじゃないかと。実は題名を何にするかは、著者としてはあんまりこだわりがなかったのです。というより、出版というビジネスは、経済的なリスクを100%出版社が持つようになっているので、著者があーだこーだとうるさく言うのは、よくないような気がしているのです。もちろんこれがフィクションであれば話は別で、その辺のことに関する持論については下記をご参照ください。

『フィクションはタイトルで泣け』

○最初に原稿をまとめたときは、『9/11からイラクへ』という仮題をつけていました。また『ブッシュ政権のXXX』みたいな題名は、すでにたくさん出過ぎていて今更という感がありました。いろいろ出た案の中では、『ナイーブな帝国』というのがちょっといいな、と思ったのですが、案の定「それでは何のことだか分からない」ということになったようです。ということで、最後は『アメリカの論理』に落ち着きました。

○こちらから特にお願いしたのは2点だけでした。「副題をつけないこと」と「題名の中にかぎカッコを使わないこと」。最近の出版界は「新書戦争」の状況で、実にたくさんの点数が出版されています。そうなると派手な副題がついた本が多く見かけるのですが、いかにも短期間で消えてなくなりそうな気がするので、なるべくシンプルにしたかったというわけ。『アメリカの論理』は、たぶん飽きが来なくて、後悔することがなさそうな題名だと自分では思っています。

○今宵は元の上司を囲むご苦労さん会。たいへんお元気そうだったことと、「あれ、読んでるよ」と言ってもらったことで、幸せな気持ちになりました。以上。


<4月22日>(火)

○ネオ・コン派の殿堂、PNACでまた面白い記事が出てました。その名も"No War With Pyongyang"といって、4月14日のAsian Wall Street Journalに掲載されたらしい。全文は以下。

http://www.newamericancentury.org/northkorea-041403.htm

○イラクが終わってその次は、という話があるけど、北朝鮮に戦争を仕掛けるのは駄目ですよ。寧辺の核関連施設を攻撃してみたくなるけど、通常兵力による反撃の可能性があるから、怖くてできませんよ、という話自体に真新しさはない。この記事の注目点は、アーミテージとウォルフォビッツの両方が、もともと北朝鮮への攻撃に難色を示している、という点だ。穏健派とタカ派の頭目の意見が一致しているということは、「北朝鮮は外交で封じ込めるしかない」という結論がテッパンだということですな。

○全然知りませんでしたが、1999年3月にご両人が参画した超党派のグループが、北朝鮮問題への提言を作っていたのですね。これが「アーミテージ・レポート」と呼ばれていたというから驚きです。日本で「アーミテージ・レポート」というと、2000年10月に作られたINSS特別レポートを指しますが、その1年前にも同様な企画があったのですね。日本版もそうですが、このご両人の意見が一致するということは、アメリカの外交・安全保障政策として非常に説得力がある。

○本誌の3月21日号でこんなことを書いたんですが、われながらいい線行ってるじゃないですか。

 では、米国は少なくとも対イラク戦が終わるまでは現在の状態を維持するとして、それが終わってから北朝鮮を攻撃するのだろうか。大雑把にいえば@攻撃、A合意、B撤退という三つの方策が考えられるが、この@からBの策はそれぞれ「上策」「中策」「下策」とでもいうべきものだ。こうした三つの方策がある場合、個人的には中策を採るのが賢明だと思う。

ある程度米国にとっては不名誉な形になるかもしれないが、中策である外交的解決を目指すことにならざるを得ないのではないかと考えている。北朝鮮の現体制が崩壊すると周辺国も困るから、その方がこうした国々も納得しやすいのではないか。

○というわけで、中国を加えた多国間協議が明日、始まります。さて、どうなるか。


<4月23日>(水)

○誘拐犯逮捕のニュースを見て、うちの者がお馬鹿なことを言っている。悪いことをして捕まりそうな人は、今ならSARSに感染してから自首すればいい。とても取り調べはできないだろうし、至れり尽くせりの看病をしてもらえ、しかも致死率は5%以下。これは悪い話ではなかろうと。なるほど。

○さらにお馬鹿な話。先日来、六本木ヒルズを見るたびに「悪の要塞」に思えて仕方がない。とくに夜。なんかこう、「FFシリーズ」における凶悪なダンジョンのように見えてしまうのである。うちの者いわく、「最上階にはラスボスがいるんじゃないか」。あそこに入るときは、エリクサーとフェニックスの尾が必要かもね。

○もひとつお馬鹿な話。拙著『アメリカの論理』の取材のために、報知新聞さんが来社。社会部記者のお二人を相手にお話しする。最後に、「掲載日は未定ですが、掲載紙はお送りします」と言われたので、「あたしゃ阪神ファンなので、巨人が負けた日がいいですね」などと余計なことを口にしたら、「あ、そういう日は読者が減ります」と逆襲されてしまった。残念だが、その日に限って巨人が勝つことを許そう。

○阪神、強いのである。ただし4月に強いのはめずらしいことではなく、もう誰も「春の椿事」とは呼んでくれない。この「不規則発言」を読み返してみると、2000年も2002年も4月には「タイガースが強い」と言って喜んでいる。まあ、今年も楽しめるときに楽しんでおきますか。お、現在、中日相手に7回で2−4で負けている。こら、薮、しっかりせんかい。ホント、馬鹿ですねえ。


<4月24日>(木)

○『おれたちが会社を変える!』(本田有明/日本経済新聞社)をご恵送いただく。最初は心当たりがなくて、いったいなんじゃらほい、と思って開けてみると、著者はその昔、1980年代にお世話になった元日本能率協会の本田研吾さんであった。懐かしい几帳面な文字で、「書店の新書コーナーで懐かしいお顔を拝見しました」とある。本を出したお陰で、昔知り合った方との連絡がつながったわけで、「私のほう、その後独立し、たまに執筆もしています」とある。ありがたく拝読いたします。(それにしても有明って、いったい何なの?)

○夜、新潮社さんと会合。「新潮新書が成功して、まずはおめでとうございます」に始まり、後はよもやま話。「1980年代って大事ですよねえ」ということで盛り上がる。最近の日本人が後ろ向きになっていることは否めず、「なつかしシンドローム」は『プロジェクトX』などいろんな場所で痛感させられます。そうした中で、そろそろ1980年代の総括みたいなものが必要なんじゃないかと考える次第。

○80年代というと、3年くらい前に『カンパニー/1985』という文章を書きました。結構、自分でもノスタルジーをそそられるものがあって、あらためていろんな人に読んでもらえたらなあ、と思います。プラザ合意を当時の会社員がどう感じたか、阪神タイガースの優勝がどんなフィーバーをもたらしたか、そして御巣高山の悲劇がどんなものだったか。語り伝えたいことはたくさんあります。

○ところで、いつの間にやらSARSに関するサイトなんちゅうものができていたりして、これを見るとやっぱり事態は深刻な模様です。

●SARSリンク集 http://www.geocities.co.jp/Technopolis/7663/

○皆様もくれぐれもご自愛ください。


<4月25日>(金)

○カンパニー/1985は、最後の2回分がリンク切れになっていたそうで、どうもすいません。といっても、悪いのは岡本さんですぞ。先ほど、文句を言っておきましたから、後でまたチャレンジしてください。

○さてさて、某経済官庁の幹部が、こんなことを言ってたそうで。

「SARSは中国広東省が震源地とされているが、ここはコンピュータのチップ工場なども多い所として知られる」。

「これまでに、米発注企業から『チップにSARSウイルスが付着し、国内に感染源が入ってくることは困る』との通達があり、中国のハイテク産業に具体的な影響が出始めている」。

「これが本当のコンピューターウイルスだ・・・・・」。

○面白いけど、普通、ウイルスは動物の体外では生きられませんので念のため。

○本日は社内お引っ越しのために大消耗。書類をバンバン捨て、あとは全部ダンボールに入れてヘトヘトになったので、今宵は2つの会合をハシゴすべきところ、不義理をすることにして撤退。それにしても、月曜はあれを全部開けなきゃいかんのか。とほほ。


<4月26日>(土)

○「核兵器を保有している」だなんて、北朝鮮、ほとんど「言うだけ番長」の域に達している。核というのは実験を成功させてはじめて抑止力が生じるもので、それも複数個持ってなかったら意味がない。いいとこ2〜3個しか持ってない国が、実験したら確実に1個は減るわけで、しかも失敗したら目も当てられない。これで脅威を感じろといわれても、余人はいざ知らず、あたしゃ無理だ。

○先日までは日本海を遊弋していた米空母カールビンソンも、今はグァム島に戻ってのんびりしているらしい。ブッシュ政権としては、「貧乏人と喧嘩をしても服が汚れるだけ」。アメリカ国民も、北朝鮮などというどこにあるか知らない国を相手に、「予防的攻撃」をしなければならない理由が理解できないだろう。

○なんでこんな国に気をつかわなければならないかといえば、彼らは通常兵器で「ソウルを火の海に」することはできるわけで、そうなると在韓米軍も無事ではすまないから。しかるに人質に取られている韓国はといえば、まさか自分たちに向けて撃っては来ないだろうと思っている。このシチュエーションが、90年代から本質的には変わらないままに推移している。

○今回、ただひとつ違っている点は中国の関与である。90年代には明らかに北朝鮮を庇っていたが、さすがに愛想が尽きて来た。ひとつには共産党内部で、朝鮮戦争を共に戦った世代が引退しているせいもあるのだろう。これ以上、隣国の面倒には付き合いたくない。かといって、金正日の体制を瓦解させる引き金を引きたくもない。あんまり知られてないことだが、中朝間には相互防衛協定があったりするのである。

○結局、試されているのは北朝鮮じゃなくて中国なんじゃないか。ブッシュ政権としては、それを見極めてから次のことを考えても遅くはない。「言うだけ番長」が何を言おうが、いちいち気にしていないと思うぞ。


<4月27日>(日)

○統一地方選挙の報道体制は、聞くところによればNHKのHPがもっとも早く、全国のあらゆる場所から更新ができるようになっている由。ということで早速アクセスしてみたところ、午後9時過ぎの時点で4つの補選すべてに当確が出ているのみならず、3個所は「開票0%」の当確であった。なんたる無風状態ぞ。

○2002年はめずらしくも国政選挙のない年であった。直近の国政選挙といえば、小泉政権発足直後に行われた2001年7月の参議院選挙までさかのぼらなければならない。ということは、小泉政権が発足してちょうど丸2年になるというのに、「政権の信を問う選挙」はほとんど行われていないことを意味する。そでこ今回の統一地方選挙がどんな意味付けを持っていたかといえば、限りなく焦点がぼけていたような気がする。

○地方選挙なんだから、「市町村合併を考える」とか「原発の運転再開の是非を問う」というテーマで選挙が行われることは結構なことである。そういう選挙も行われているはずである。また首長の多選という問題もある。長野県で田中知事誕生以来の無党派の風がどこまで吹くかという興味もあった。しかるに中央政界から見た場合、今回の統一地方選挙はほとんど意味のないものだったということになりそうだ。

○政治も経済と一緒で「様子見」なのである。抵抗勢力というのは実際には「無抵抗勢力」だ。イラク戦争でも統一地方選挙でもカタストロフは起きなかった。だから今度は、経済が悪化することでカタストロフが起きることを待っている。でもなかなか破局は来ない。「ハードランディング待望論」はもっぱら経済の世界だけのことだと思っていたが、政治の世界も同じですな。


<4月28日>(月)

○早朝にブルームバーグに出演したので、思い切り早く職場に着く。今日から職場が8階に移動したので、人の少ないオフィスでせっせとダンボール箱を開ける。あっけなく完了。それからパソコンの中身の入れ替え作業など。2年ほど使ったノートパソコンに別れを告げる。自慢ではないが、新しい環境に適応するのは昔から得意なのである。

○職場の同僚がベトナム出張から帰還。「おい、1週間自宅待機じゃないのか」「え?そんなことしてて、いいんですか?」――世間の騒ぎをよそに、こういう話がすぐにギャグになってしまうところが、われらが職場の常なのである。実は当社の8階には、チャイナエアラインの事務所も入っており、そういう意味ではいかにもヤバそうなのだが、「合コンを申し入れよう」などと言い出すツワモノもいたりして、困ったものである。

○夜は以前からやっている石川好先生の勉強会へ。拙著「アメリカの論理」について語れというお申し越しで、これはもう良くて玉砕、悪けりゃ晒し者の拷問である。でも今更引っ込みもつかぬので、恐る恐る出頭する。幸いに集中砲火を浴びることなく、「アメリカ社会におけるイノセンスの重要性」など、ためになる示唆を頂戴する。

○今更ではあるのだけれど、「本を出した」ということは、「それについて話をしろと言われたときに、断れない」ということだと気がつく。そりゃそうだよなあ、看板を掲げちゃってるんだもの。これもまた新しい環境というべきか。


<4月29日>(火)

○思わず労働してしまいました。さすがに"The Economist"がまとめただけあって、並みいる「ネオコンとは何か」論文の中でも白眉といえましょう。『フォーサイト』と『SAPIO』の最新号の特集、それにこれを加えればほぼ完璧だと思います。かんべえさんが全訳を作ってしまいました。どうぞご参考まで。

http://tameike.net/pdfs3/neocon.PDF

○統一地方選挙、いろんな教訓を残したようですが、毎日新聞の以下の報道に思わず唖然としました。

□「都市型」弱点くっきり─自民

 東京6区補選での越智通雄氏の敗北は、系列の都・区議や支援団体を固める組織型の選挙手法だけでは、自民党候補が無党派層が圧倒的に多い都市型選挙区では歯が立たないことをはっきりさせた。

 越智氏は敗北が確定した27日深夜、選挙事務所で「正直言って意外な結果だ。選挙の仕方というのはわからないものだ」と語り、民主党候補との4万票以上の大差に釈然としない表情を見せた。福田赳夫元首相の女婿でもある越智氏は経企庁長官や金融再生委員長を務めたベテランだが、前回の選挙で落選。今回の補選は同氏が所属していた森派の幹部クラスが選挙区に張り付いて系列都議・区議や支援組織を固める組織選挙で臨んだ。小泉純一郎首相も応援演説に駆けつけたが、劣勢を挽回することはできなかった。

○スポーツの世界でも、「敗因が分からない敗北」は重症の負けと相場が決まっている。つまり越智通雄氏は重症ということだ。しかし傍目八目的にいわせてもらえば、この勝負は負けて当然である。@自分の方が年上でしかも70代、A相手は自分より若い女性、B場所は世田谷、なんだから。すでに有権者の意識は大きく変わっており、「ベテラン」や「長年の実績」という言葉は、今ではマイナス指標以外の何物でもない。小泉首相や安倍晋三氏のような人気者がてこ入れに動いたところで、これだけの不利は逆転できなかったようだ。

○選挙で勝つためのセオリーが、どんどん変わっているのではないだろうか。ということは、この次に選挙をやれば、相当に政界の景色が変わってくることになる。秋になるのか、来年春なのか分かりませんが、それはちょっと楽しみな気がします。


<4月30日>(水)

○愁うべきことも多い世の中なれど、贅沢を言ったらバチが当たります。ナイターの時間に帰宅し、見れば阪神タイガースが弱い巨人をねじ伏せているではないか。昨夜に続く逆転劇だ。わはははは。

○これで今シーズンは巨人戦負けナシ。最初の対巨人戦、9回裏に6点差を追いつかれた惨劇を見てしまい、プロ野球はもう見るもんかと思ったものの、やっぱり勝つのは気持ちいい。井川のピッチングも良かったし、片岡もいい仕事をしてました。やっぱり今年の阪神は強いぞ。さ、明日も仕事だ。









編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki