<1月1日>(日)
○あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。
○酉年についての薀蓄を少々。鶏肉や卵が食べられるようになったのは江戸時代になってから。それまでの日本人はもっぱら野鳥を食べており、鶏は神社などで飼われていて、時を告げる神聖な鳥であった。
○急速に身近な存在になった鶏を、リアルに描いたことで有名なのが江戸時代の絵師、伊藤若冲である。これまたかの時代の「遊民経済学」を絵に描いたような人生でありました。
○今から300年前、京都の青物問屋の跡取りに生まれた若冲は、商売にも道楽にも関心が沸かず、生涯妻を娶ることもなく、とにかく絵筆を握っていれば幸せ、という人物であった。いるよね、こういう日本人。30歳を過ぎてから狩野派に弟子入りするも、こんな真似事をしていてもしょうがないと思って、独学でみずからの画風を確立しようとする。
○ついには家業を弟に譲り、ひたすら模写を続けるが、やはりリアルを描くに如くはなしと決意。庭で数十派の鶏を飼い始める。しばらくは絵筆をとらず、ただただ鶏を観察する日々が続く。1年を過ぎ、「もう見尽くした」と思った瞬間に鶏の「神気」を捉えることができ、自然に絵筆が動き始めたという。
○鶏の神気が捉えられるようになった若冲は、草木や岩にも神気を見ることができるようになった。つまりは何でも描けるようになり、写実と空想を取り混ぜた独自の画風を確立する。同時代の京都は、円山応挙の黄金時代で門弟千人と言われていた。それに比べれば若冲は孤高の人であったが、歴史的評価はむしろ「奇想の画家」若冲の方が高いのではないだろうか。
○てなことで、本年はたぶん伊藤若冲を使った年賀状が飛び交ったのではないかと推察いたします。すんません、ワシのもそうでした。
○ちなみに若冲という号は、『老子』45章の「大盈若沖」から採られたそうである。その意味は、「大いに充実しているものは、空っぽのようにみえる」。かくありたいですね、平成丁酉、元旦。
<1月2日>(月)
○たくさん寝たので、さすがに時差調整は終了。「朝生」に最初に出たのは2005年2月のことで、もうずいぶん前のことになる。確かあのときも森本先生、一太さん、小林よしのりさんが居た記憶がある。まあ、よくまあワシもこんな世界で生き残っておるなあ、と思ったが、何よりしぶといのは司会の田原総一朗御大であろう。
○タハラさん、御年82歳。この日は絶好調だったなあ。「朝生の放送中に死にたい」などと言っていたはずだが、番組終了後に「今日は時間が足りなかった」などとのたまっていた。そんなこと言って、新年は5時間バージョンであるから非常に長い。新幹線に乗っていたら博多についてしまう。午前3時半まで来た時点で、「これでやっと半分か」などと思ったものである。CM中に「これだけ長く座っていると腰が痛い」とぼやいたら、よしりん氏が「いつも漫画を描いているから、ワシは平気だ」と言っていた。あんまりうらやましくはない。
○お隣の津田大介氏、お迎えの青木理氏がともにIpadを使っている。3人とも、テレビ朝日スタジオ内のWi-fiが使えるんですねえ。ついついFacebookを開いてしまうではないか。反対側の竹田恒泰氏も、スマホで何かを読んでいるご様子。出演者が揃って「内職」をしている。「朝生」は今年で30周年だそうだが、昔と比べればずいぶん景色が変わりましたなあ。
○これまた出演者の荻原博子さんから、『生き返るマンション、死ぬマンション』(文春新書)を頂戴する。お返しに拙著を進呈する。実は長い付き合いで仲良し、という話は以前にも書いたような気がする。中林さんとはアメリカオタクつながりで、これまた古い。トランプ政権について、もっといろいろ語りたかったですな。他の人抜きで。
○井上達夫東大教授は、もちろん「リベラルを嫌いになってもリベラリズムを嫌いにならないでください」のあの先生だ。この日が「朝生」初登場。しかるにしっかり「場の空気」を支配していましたね。「リベラルとは正義のこと也」という主張を堪能できました。でも、ワシはあんな風にキッチリ詰めた議論はあんまり好きじゃない。「んなわけないっしょ〜」と混ぜっ返したくなる方である。
○とりあえず、終わった後に「あんなこと、言わなきゃ良かった」と悔やむような発言はしないですんだ気がする。正月早々、そういうのって嫌だものね。まあ、あってもすぐに忘れてしまうんだけど。長らくやっていると、「鈍感力」は鍛えられるのであります。
<1月3日>(火)
○ショッピングで日本橋に出かけたら、ちょうど箱根駅伝の最終走者が帰ってくる時間帯であった。三越や高島屋の前が大変な人出になっている。読売新聞社の旗を配っていたので、おもわず頂戴した。そうですか、今大会は第93回ですか。
○三越の角を曲がると、そこから読売新聞社前のゴールまではちょうど1キロなのだそうだ。駅伝走者たち(しかもラストスパートモード)であれば、わずか3分で到着してしまう距離である。地下鉄やタクシーでも、3分以上はかかってしまうだろう。普段から見慣れている景色が、ちょっと変わって見える瞬間である。
○間もなく道路封鎖が行われる時間帯である。周囲には各大学の旗が林立していて、応援の人たちが集まってきている。なかでも青山学院大学のライトグリーンの旗が一番多い。そりゃそうだわな。誰がどう見たって堂々の大本命。これが競馬だったら、青学を1着に固定して3連単を買うところである。
○今日の復路では、7区走者がちょっとだけヒヤリとさせられたが、8区走者が挽回して事なきを得ていた。「神ってる」存在はいなくても、総合力でしっかり勝っている。監督もあんまりカリスマ的な人ではない。こういうのも学風というのだろうか。以前、青学で一コマだけ講義をさせていただいた経験から行くと、とっても温和な人たちの集まりという印象であった。
○青学OBのS君に聞いた話では、10数年前に同学では、「これ以上、野球に投資しても東都リーグでは埒が明かん。大学のブランド価値を上げるためには、駅伝に資源を投入しなきゃいかん!」という意思決定が行われたのだそうである。爾来、地道な投資が行われて、本当に箱根駅伝で3連覇するほどの実力校になってしまった。まことに慶賀の至りである。こういう判断こそ、真に「経営」と呼ぶべきものでありますな。
○道路の両側に見物客が集まっている間は、デパート内は空いている。その間にそそくさと高島屋で買い物を済ませる。用事が終わって外に出てみたら、ちょうど最後のランナーが通過した後であった。大勢の人たちが一斉に動き始めて、たちまち収拾のつかないことになっている。
○デパート内も混み始めたので、地下で食品を買うのはあきらめて撤退することにする。なに、そんなものは地元の柏高島屋で買えばいいのである。リアルの世界はテレビで見ているものとはずいぶん違う、ということが分かったのが本日の収穫であった。
<1月4日>(水)
○年の初めに恒例のヤツが出ました。ユーラシアグループの「Top
Risks 2107」です。今年のテーマは"The Geopolitical Recession"(地政学的不況)です。
○それでは、今年のトップテンをご紹介。
1. Independent America
(わが道をゆくアメリカ)
2. China overreact (中国の過剰反応)
3. A weaker Merkel (弱体化するメルケル独首相)
4. No reform (世界的な改革の停滞)
5. Technology and the Middle East
(中東を脅かすテクノロジー)
6. Central banks get political
(政治に侵食される中央銀行)
7. The White House versus Silicon Valley (ホワイトハウスvs.シリコンバレー)
8. Turkey (トルコ)
9. North Korea (北朝鮮)
10. South Africa (南アフリカ共和国)
Red herrings(番外=リスクもどき)
US domestic policy, India versus Pakistan, Brazil (アメリカ国内政治、インド・パキスタン対立、ブラジル政治)
○「今年の懸念材料はアメリカと中国と欧州がビッグスリーだ!」と言われてしまうと、「それって、ほとんど全部じゃん」、あるいは「そんなこと、知ってらあ」と減らず口を叩きたくなりますな。もっともユーラシアグループとしては、「地政学的リスクにご用心」とか、「もうすぐGゼロ時代がやってくる」なんてことを言っていたら、本当にその通りの時代が到来してしまって、悪い予言が当たってしまった魔女の如き心境なのかもしれません。
○その一方で、例年通りイアン・ブレマーらしい「冴え」が垣間見えるのが、6番や7番でありますな。全世界の中央銀行が政治に侵食されているのも、ワシントン政治(東部)がシリコンバレー(西部)に喧嘩を売っているのも、きわめて今日的な事態だと思います。それからここ数年、ランキングから遠ざかっていた「北朝鮮」が戻ってきたことも、新しい事態を感じさせます。
○それにしても、1位から10位まで日本はまったくお咎めなし。いやー、こんなにリスクフリーでいいんですかねえ。そういえば今日も株価は盛大にあげていましたね。昨年末に出た11月の鉱工業生産がとってもいい感じなので、実は日本経済、生産や輸出も回復しているらしくって、実体経済もそこそこよろしいみたいなんですよ。えっ?ジョージ・ソロスが日本に来てるんですって? 「押し目待ちに押し目なし」と言いますけど、これは意外な大相場になるのかもね。
<1月5日>(木)
○今年は新年の第1週が3日しかないので、いろんな新年会が重なります。今日は時事通信新年互礼会(帝国ホテル)と日本貿易会新春懇親会(ニューオータニ)のダブルヘッダー。
○時事の互礼会では安倍首相が登壇。「今年は酉年で、過去の酉年にはこんな政局がありまして・・・」という漫談のようなご挨拶。毎年連続で聞いているけれども、こんなにリラックスしている安倍さんは初めてかもしれない。「安倍一強体制」をしみじみと感じさせる瞬間でありました。
○考えてみれば、前回の酉年は2005年の郵政解散、その前は1993年の宮沢不信任(この年、安倍さんは衆院初当選)、1981年は選挙はなかったが、その前の1969年は沖縄解散である。「いや、だからと言って解散は考えていませんよ」とご自分で茶々を入れられるものだから、裏読みする人からは「やっぱりやるんじゃないか」と疑心暗鬼に駆られるところ。でも、その真の狙いは、野党におカネを使わせて兵糧攻めにする、という「解散やるやる詐欺」ではないか。
○だってこの後、1月23日頃に「有識者会議の論点整理」(天皇陛下の公務負担軽減等に関する)が出たりすると、皆さん、急に静かになってしまって、政局どころではなくなるんじゃないでしょうか。生前退位は大変な事業になりますですぞ。
○さらにその前の酉年である1957年は、ちょうど干支が一回りして「丁酉」の還暦となるのだが、この年は祖父にあたる岸信介首相が訪米して、アイゼンハワー大統領とゴルフを楽しんだという。このときに一緒にラウンドしたのが「ブッシュお爺さん」ことプレスコット・ブッシュ上院議員であり、息子も孫も大統領になったといういわくつきの人物である。さて、安倍さんは今月下旬に訪米して、トランプ次期大統領とゴルフができるのか。1月下旬のワシントンDCは、さすがにゴルフには不向きな寒さだと思いますけれども・・・。
○てなことで、今宵はいろんな人と立ち話をしたのだが、「トランプ政権はどうなるのか」「ところで新駐日大使のことはご存知?」という会話があちこちで繰り返されておりました。でもねえ、この手の問いに対して自信満々で答えている人が居るとしたら、それこそ絶対に信じてはいけない「専門家」というものでありまして、この時期、専門家の振りをするほどあほらしいことはありません。ええ、「アメリカ政治にお詳しい××さん」などと呼ばれることは、海よりも深く反省すべきなのであります。
○ところでふと気づきましたら、今宵の日経夕刊「目利きが選ぶ3冊」の中に拙著『気づいたら先頭に立っていた日本経済』が取り上げられておりました。ありがたいことでございます。いろんな人が注目してくださっておりますが、中でも古い溜池通信ファンのこの方の批評には、深く首を垂れるしかありません。すんません、そこまで深くは考えておりませんでしたっ!
○そうかと思ったら、今日は中山金杯が行われていて、昨年末に炎上したこの記事で予測した通り、ステゴ産駒のツクバアズマオーが勝利して重賞初制覇になったとのこと。まことに結構なことであります。2017年、今のところ出だしは好調のようであります。
<1月7日>(土)
○先日聞いて、「なるほどなあ」と感じたこと。
○ネット広告に対しては、毎日、膨大な苦情が寄せられてくる。それがピークに達するのが夕方午後5時頃である。さまざまな苦情はスポンサーに寄せられてくる。商品のイメージに関わることなので、早急に修正しなければならない。そこで夜になってから、広告代理店を呼び出して叱りつける。「困るじゃないですか!」と。
○広告代理店は平謝りで、翌朝までに訂正を出さなければならない。さて、この作業を残業なしにできますか、という問題です。厚生労働省、どうしますかね、これ。
○世の中で残業を作っているのは、「パワハラ」ではなくて「客ハラ」、いや、もっと言ってしまうと「たちの悪いネット民」なんじゃないか。まあ、単に「クレイマー」と言い換えてもいいですが。
○かくして会社の中には不条理がどんどん鬱積していく。「ネットがなかった頃は良かったねえ」なんて、そんな会話、最近、アナタの周りでもしてませんか?
<1月9日>(月)
○昨日、寒い中を中山競馬場まで出撃。シンザン記念とフェアリーステークスは案の定、荒れて、もちろん当たらず、すごすごと帰ってきたのであるが、今朝になったら腰が痛い。ああ痛いいたい。
○仕方がないから横になって読書。文芸春秋『トランプ』(ワシントンポスト取材班)。世間ではいろんな「トランプ本」が出ているが、そんな急場づくりのものを買うくらいなら、これ1冊だけ読む方が良いと思う。ドナルド・トランプ氏がどういう人物であるか、これまでどんな人生を送って来たか、とりあえず昨年7月の共和党大会時点までをきっちりまとめてくれている。
○つくづく「理念や哲学」とか「首尾一貫性」などは薬にしたくてもなく、とにかく目の前にある勝負に勝ちたい、負けたくない、で70年を送ってきた人のようである。記憶容量も少ないようなので、「過去の発言や行動パターンから未来を推し量る」と誤ってしまうかもしれない。こういう人を大統領にしてしまっていいのか、あらためて不安になってくる。
○とはいうものの、第17章「こうして旋風は吹いた」を読むと、トランプ氏がいかに2016年米大統領選挙を支配していたかが蘇ってくる。ワシも含めて多くの人が読み違えたのは、「まさかまさか」と言っている間に快進撃が続き、予想が外れるもんだからますますムキになってしまい、"The
media takes him literally, not seriously."の轍に嵌ったのではないか。
○もうあと10日余りで新政権は発足する。トランプ氏がどんなふうに化けるのか、あるいは化けられないのか。多くの人が気にするものだから、ツイッターのフォロワー数はとうとう1900万人を超えている。しかるに外野がいくら論じてもあまり意味はない。なにしろご本人も「勝った後でどうするか」をあまり考えていなかったようなので。
○もう1冊、プレジデント社『井伊家の教え』(田原総一朗)。彦根市出身で、井伊家や彦根城に熱い思いを持つ田原氏が語る彦根35万石の歴史。昨晩のNHK大河「おんな城主直虎」第1回は見なかったけど、徳川家の譜代筆頭大名の血脈がどういうものであったか、とりあえず知っておいて損はない。
○東京千代田区の紀尾井町は、紀州徳川家、尾張徳川家、彦根井伊家という3つの中屋敷があったことからその名があると聞く。考えてみればすごいことで、井伊家は親藩「御三家」の2つと同格扱いなのである。たびたび大老も出している。井伊家はまた京都守護職でもあった。ところが桜田門外の変で井伊直弼が討たれてしまい、そこで代わりに会津藩が指名された。ゆえに新選組が誕生した、なんてことは初めて知りました。
○この井伊家の血脈が途切れそうになった時に、ワンポイントリリーフで登場したのが「おんな城主直虎」だったわけですな。彼女は自分の子ではない直政を守り通して、お家断絶の危機を無事に乗り切る。その直政が、家康に仕えて以後は破格の出世を遂げていく。井伊家には特段の「家訓」はなかったらしいが、「家を守る」ことに懸ける執念は直虎の生き方に如実に表れていたと言えよう。
○ほんの150年くらい前までは、日本人はこういう世界を生きていたというのに、「家を守る」ことの意味なんて今ではまったくわからなくなっている。不思議なもんですなあ。
<1月11日>(水)
○あと数時間でトランプ次期大統領の記者会見が始まります。なんとNHK総合でも同時中継するんですね。起きていられるかどうか、ちょっと微妙な時間帯ですな。
○今朝のモーサテでは、池谷キャスターがNYから「記者会見という大イベントを控えて今日は薄商い」と言っていました。それもそのはず、11月8日の大統領選挙投票日から既に2か月が経過しているのに、トランプ氏にとってはこれが初めての記者会見なのである。そしてこの間、株価は盛大に上げてきた。そうなると投資家は、こんな風に考えるものです。「そろそろ売り場が欲しい・・・」。
○つまり今日の記者会見でトランプ氏が変なこと(例えばメキシコとの国境にはホントに壁を作るぞ、トヨタ車に関税をかけてやるetc.)を言ったら、そこが絶好の売り場ということになる。持ち上げてから、落とす。これぞマーケットの自然な摂理というものです。ところがトランプ氏も意外と賢いので、ここは穏当なこと(減税やります、インフラ投資します、議会はちゃんと閣僚人事を通してねetc.)を言ってると、ますます株価が上がるかもしれない。これはもう1月20日の大統領就任演説以上のイベントと見てよいでしょう。
○トランプ政権はいろんな意味で型破りの政権です。なにしろ選挙期間中は、「ニューヨークタイムズ紙はけしからん」「ほれっ、あそこにCNNが居るぞ!」などとメディア批判を展開して、それで支持者から喝采を浴びて当選している。つまりメディアが怖くないのである。ツィッターを見ていると、メディアの批判にいちいち反応して怒り狂っているのだけれども、実は無視しても全然かまわない。その証拠に当選から2か月間、メディアを「放置プレイ」にしていた。普通、そんなことはできるもんじゃありません。
○普通の政治家はメディアを恐れるものです。それはたとえプーチンやエルドアンであっても。プーチン大統領は毎年年末に、彼が大嫌いな「西側メディア」を招いて記者会見をやります。そうなると、FTやThe
Economistのような「プーチン大嫌いメディア」が、腕によりをかけて意地悪な質問をします。それらを淡々と捌き、かわし、反撃するのがプーチンの得意技で、そういうところは結構フェアなんです。
○なぜメディアは怖れられるのか。それは彼らに批判されると政治家の支持率が低下して、次の選挙で勝てなくなるからである。ところがアメリカで起きているのはその先を行く現象だ。つまりメディアが信用されていないから、叩かれても痛くない。というか、トランプ政権の支持率はどんなに高くても5割が関の山で、どんなに低下しても35%くらいが底でしょう。それくらい、支持者と不支持がくっきりと割れている。だったらメディアのご機嫌をとる必要はありませんわなあ。
○それではトランプ政権は何で評価されることになるのだろうか。意外と「株価連動政権」になるんじゃないかという気がしています。初期の安倍内閣と同じですな。株価が上がっている間は、「どうだ、俺は評価されている」と言っていられる。少なくとも今の株高は、トランプ次期政権にとっての「政治的資源」であるでしょうから、当面は株価を下げないような「マーケット・フレンドリー」な対応をするんじゃないか。希望的観測かもしれませんけれどもね。
<1月12日>(木)
○本日未明の記者会見という「トランプ占い」は、マクロ重視(減税、インフラ投資)ではなくて、ミクロ重視(保護貿易、壁の建設)という結果でした。つまり「吉」ではなくて、「凶」と出ました。トランプさん、やっぱり困った人ですねえ。
○占いが「凶」ということは、本日の株価が下げて、円高になるのは無理もないところ。とはいえ、ここが相場の転換点になるかというと、どうやらそれほどでもなさそうです。基本、日米ともに足もとの経済はそんなに悪くないですからね。いや、それにしてもCNNの質問を拒絶したり、無茶をやってくれるものです。
○「トランプ占い」とは、本来、暇な日にアフタヌーンティーなど入れて、のどかにみやびに行うものでしょう。ところがこちらのこのところ連日のように、「トランプさんはいったいどうなってるんだ?」と大騒ぎ。そりゃあ実害が飛び出すかもしれないので、ツィッター(それも時には個別企業の名前入り)が飛び交うたびに、ギクリとさせられます。せめて来週、1月20日の就任式以降は、トーンダウンしてもらいたいものですねえ。
○ところで以下はこんな仕事もしていますというご紹介。まだ視聴回数が少ないみたいなので、よかったら覗いて行ってくださいまし。
●エネルギークロストーク第3回 https://www.youtube.com/watch?v=CocfPOV_qjo
●エネルギークロストーク第4回 https://www.youtube.com/watch?v=2PRO8iPRvLM
<1月13日>(金)
○11日は柏市、12日は昭島市、13日は岡山市で講演会。いや、毎年1月から2月にかけては「新春経済講演会」の季節なんですよ。不肖かんべえとしてはかき入れ時というわけ。でもね、「今年の日本経済は・・・」と言いかけると、「そんなことはいいから、トランプさんのことを話してください」と言われてしまう。
○そんなこと言ったって、ホントに言っちゃっていいんですか? CNNが情報を掴んで、でも武士の情けで中身までは言及していない、そしてトランプさんはFake
Newsだ、と怒り狂っている内容が何であるかなんて。トランプさんがモスクワのリッツカールトンホテルのスイートルームで、どんなご乱行に及んだかなんて・・・言えませんですよ、会場には女性の方もいらっしゃるわけですし。
○モスクワ内のホテルは、どこでも盗聴器や隠しカメラがあるから、滅多なことはやっちゃいけないってトランプさんもよくご存知であったようなんですが・・・。以下は口頭ベースに限ってお伝えいたしたいと存じます。いくら不規則発言でも、品位というものがありますので。
<1月15日>(日)
○腰は痛いし、週末の防犯活動に行ったら指を切っちゃうし、ツイてないみたいだから、今日は競馬もお休みして、家で仕事をする地味な週末である。あ、そういえばクルマを定期点検に出したっけ。
○この週末に読んだのが『外務省』(伊奈久喜)である。これは出版されているものではなくて、金曜日に『伊奈久喜さんを偲ぶ会』に出席した際に頂戴した元日経新聞記者・伊奈さんの遺稿である。未完成原稿であって、書きかけの部分もある。フットノートだけがあって、本文が書かれていない部分さえある。これが完成していたら、さぞかし面白い本ができたことだろう。
○『外務省』という遺稿が描いているのは徹頭徹尾、外務省のことである。だから「外務大臣」は一切出てこない。むしろ「外務大臣を信用しなかったロシア課長」が出てきたりする。もっと言えば、「外交官」も出てこない。著者が描こうとしているのは、官僚機構としての外務省である。だから、「むかし条約局、今アジア局」「総合外交政策局のジレンマ」「北米局長は末席に」といった項目に本書の真骨頂を感じる。
○日本外交を、政治家や外交官という個人の立場から描いた本は今までにいくらでも存在した。ところが伊奈さんが書こうとしていたのは、外務省という組織から描いた日本外交であった(のではないかと思う)。これはすごい試みというべきで、他の人が同じことを目指したとしても、まったく説得力はなかったであろう。長い時間をかけて、日本外交を取材してきた伊奈さんだからこそ成立した(のだと思う)。
○もっと大袈裟に言えば、他の誰かが同じテーマで似たような本を書いたとしても、それは外務省という組織が認めてくれなかったのではないか。それくらい、対象にのめり込んで取材したジャーナリストが居たということである。この本が完成して世に出ていたら、どこかに書評を書いてみたかった、と切に思う。
<1月16日>(月)
○アメリカのトランプ次期大統領についてですが、ひょっとすると「弾劾手続き」というものについて、今のうちから学習しておく必要があるかもしれません。なにしろ次期大統領はきわめて危なっかしい人であるようですし、向こう4年間のうちには、この制度が使われる確率はけっして低くはないように思えるものですから。
○幸いなことに、今月の『公研』という雑誌で、久保文明東大教授の講演録が掲載されていて、この中に弾劾手続きに関する記述があります。これをご紹介しておきましょう。青字の部分が原文で、――以下の部分は不肖かんべえが茶々を入れているものです。
「もっとも極端なシナリオとして、アメリカには弾劾という方法があります。間違って変な人を選んでしまったとき、それに対する一応の防御装置がアメリカの憲法に組み込まれているのです。もっとも、大統領が弾劾されるのは重大な犯罪行為、憲法違反を犯したときで、駐車違反ぐらいではもちろん対象にはなりません。そして、下院議員の過半数が弾劾決議に賛成し、出席した上院議員の3分の2以上が大統領は有罪だと投票しない限り解任できません。解任されるのは、そう簡単ではないという感じがします」。
――下院の過半数は簡単そうですが、上院の2/3はハードルが高いです。実際に、過去に弾劾で辞めさせられた大統領は1人もおりません。リチャード・ニクソン大統領(第37代)の場合も、下院の決議前に自ら辞任したものでした。まあ、あのときはいかにも上院まで行っちゃいそうな感じでしたが。
「ちなみに、下院で弾劾決議をすることは刑事裁判で言う検事告発に当たります。下院が告発者となり上院が裁判所となって、下院の本会議で過半数で決議すると弾劾決議が成立し、弾劾裁判が始まります。100人の上院議員が陪審員の役割を、大統領法律顧問が弁護人の役割を、下院議長が検察官の役割を、最高裁の長官が裁判官の役割を務め、有罪が無罪かが問われるのです」
――過去にこのプロセスに至った大統領はアンドリュー・ジャクソン大統領(第7代)とビル・クリントン大統領(第42代)のみです。前者は1票差で、後者は大差で逃げ切りました。それにしても、こういう制度が作ってあるということは、つくづくアメリカ合衆国憲法はよく出来ているのですね。
「トランプ大統領の抑え役という点では、副大統領のマイク・ペンス氏は比較的落ち着いていて、きちんとした判断力が備わっているように見えます。共和党には、トランプ氏が倒れてもペンス氏が大統領になれば大丈夫と、むしろ期待している人もいるみたいですね」
――歴史のアナロジーで行くと、共和党のウォーレン・ハーディング大統領(第29代)が任期途中に汚職まみれで死亡した際に、後を継いだカルヴァン・クーリッジ大統領(第30代)の下でアメリカが空前の繁栄を遂げた、というケースがあります。共和党の議員さんたちが同じことを考えたとしても、不思議はないですよね。
アメリカの大統領制には、日本のような議院内閣制にある内閣不信任制度はなく、大統領を解任できる制度として憲法で規定されているのが弾劾です。弾劾と内閣不信任にはいくつが大きな違いがあります。弾劾は連邦の公務員であれば、例えば副大統領や裁判官をターゲットとすることもできるのですが、あくまで個人が対象です。それに対して、内閣不信任では政権全体が対象です。
――これ、恥ずかしながら知りませんでした。内閣不信任は首相だけに対するものではなかったんですねえ。誤解している野党議員は少なくないかも。アメリカ連邦政府の権限はすべて大統領個人に属します。各長官たちはあくまでも"Secretary"(秘書)であって、大統領から権限を付与されているに過ぎません。
ブッシュ(子)政権のとき、民主党は一時、大統領が党派的だということで弾劾に動きましたが、仮に成功してブッシュを解任してもチェイニー副大統領が大統領に昇格するだけなので、よけいに悪いということであきらめたことがあります。弾劾が成立しても、弾劾は大統領1人を解任するだけで内閣はそのまま、”居抜き”で副大統領が大統領に昇格するわけです。
――これは納得です。チェイニー大統領誕生ということになると、『スターウォーズ』で言えばダース・ベイダーが皇帝になってしまうようなものですからね。その点、今のところマイク・ペンス氏の評判がいいのは、不幸中の幸いというものかもしれません。
そしてアメリカの制度には大統領が議会を解散する対抗措置が備わっていません。だから、アメリカの政治日程は百年先まで中間選挙や大統領選挙に日程が全て決まっています。
――「4で割り切れる年の11月の第1月曜日の次の火曜日」というやつです。長期的なカレンダーを作るときに、これだけは遠い先まで確定しています。
さらに大事な点ですが、例えば、増税に反対か賛成かといった政治路線の違いだけで大統領を弾劾することはできません。アメリカ憲法に従わない行為や、憲法上の重要な犯罪行為を犯したことが認められれば、解任されます。
――大統領が仮に解任されるとしても、そのことで刑事罰を受けるわけではありません。とにかくそれにかかる労力を考えると、よっぽどのことがない限り、この手続きは使いにくいものだと考えておくべきでしょう。
1998−99年、クリントン大統領は大陪審でモニカ・ルインスキーとの性行為をめぐって嘘の証言をしたことして下院で弾劾決議が通り、弾劾裁判にかけられました。解任のためには出席した上院議員の3分の2以上に当たる67人が「有罪」と言わなければいけなのですが、このとき「有罪」といったのは50人ちょっとだったため、訴因とされた2項目はどちらも無罪放免となっています。
――ここが重要です。「憲法上の重要な犯罪行為」です。モスクワのリッツ・カールトンホテルのスイートルームで、×××に○○○させたくらいでは、弾劾の訴因とはなりません。
○くれぐれもツイッターで、"Watersportsgate"とか"Goldenshower"といった言葉を検索なさいませんように。ほかならぬ貴方様の品位が確実に低下いたしますので。
<1月18日>(水)
○業務連絡です。このところオフィスに不在がちで、メールの返事が来なかったり、そっけない返事をしていることが増えていると思いますが、他意はございませんのでご海容ください。
○明日はこんな番組に登場します。そのくせ、「えっ、クロ現って、いつの間による夜10時からになったの?」などと口走って周囲から呆れられております。考えてみれば、国谷キャスターが降板されて以降では初めてになりますなあ。てなことで、よろしかったら見てやってくださいまし。
http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3920/index.html?1484654348
2017年1月19日(木)放送
トランプ大統領誕生 “過激発言”の真意はどこに
ドナルド・トランプ氏がいよいよ第45代アメリカ大統領に就任する。就任前からツイッターで大企業を名指しで非難し工場の海外移転を阻止するなど、異例づくしの行動をとるトランプ氏。いまアメリカでは、大統領就任を前に期待と不安の声が交錯している。ロシアのプーチン大統領に急接近する一方、中国に対しては強硬な姿勢を見せるなど、外交の分野でも世界そして日本を翻弄するトランプ氏。新政権はいったいどこへ向かうのか。その行方を探る。
出演者
吉崎達彦さん (双日総研チーフエコノミスト)
.
横江公美さん (政策アナリスト)
.
鎌倉千秋 (キャスター)
<1月19日>(木)
○今日、タクシーでNHKに向かう途中で起きた会話。
「NHKの西口まで行ってください」
「NHKは分かるけど、西口というのはわからない」
「普通の見物客とかが来るのが正面玄関で、関係者(含む出演者)が出入りするのが西口なんです」
「井之頭通り沿いのところですか?」
「すいません、通りの名前までは分かりません」
○タクシーの運転手さんは通りの名前で道を憶えているけれども、乗客は建物の名前しか知らない。よくあることですよね。でも、さすがにNHK放送センターの場所を知らないわけはないので、タクシーはごく普通に虎ノ門から外堀通りを四谷方面に向かったのである。
○さて、どうするのかなと思っていたら、運転手さんは赤坂見附から国道246号線に入ったところで、やおらカーナビに文字を入力し始めた。後ろで見ていて笑いかけたのだが、最初は「エネエチケイ」と入れた。すぐに気がついて、今度は「エヌエイチケイ」と入れた。検索キーを押す。するとどうなったか。機械はサッパリ反応しない。たぶん「エヌエッチケイ」が正解なんじゃないかな〜と思いながら、生あたたく見守っておりました。
○とうとうクルマは表参道の交差点を右に曲がる。とうとう我慢ができなくなって、後ろから「日本放送協会、で入力してみたらどうでしょう」と声をかけた。運転手さん、すぐに方針変更。やや時間をかけて、ニホンホウソウキョウカイ、と入力する。検索キーを押す。するとどうなったか。全国各地の膨大な数の「日本放送協会」がヒットして、いちばん上が「青森支局」であった。なんなんだ、このカーナビは。
○原宿駅を過ぎたところで、とうとうしびれを切らしてNHKの担当Yディレクターに電話をする。「NHK西口」を運転手さんにどのように説明すればいいかと尋ねると、やはり井之頭通りに面していて、原宿方面から来たら警察署の角を左に曲がってくれとのこと。運転手さんもこれでやっと納得。もちろん以前に来たことがないわけではなくて、単に「西口」と呼ぶことを知らなかっただけと判明する。
○ということで、無事にNHK放送センターに到着したのであるが、驚くべきことに本日共演した横江久美さんが乗ったタクシーは、若い運転手さんで「NHK?知りません」と言われてしまったのだそうだ。これは全NHK職員にとって衝撃の事態でありましょう。横江さんが乗ったタクシーは、何度もNHK放送センターを周回して、やっとのことで西口にたどり着いたのだそうであります。うーむ。
○後になってから気がついたのですが、カーナビを使うのなら「渋谷区神南2−2−1」を入れればよかったのですな。この住所を知らないとは言わさない。ともあれ、タクシー業界の「カーナビ依存症候群」はかなり深刻なレベルに達しつつある模様。
<1月20日>(金)
○とっても久しぶりにビデオニュース・ドットコム社を訪問。神保哲生さんと会うのは久しぶりである。アメリカで選挙があるたびに呼ばれて、ああでもないこうでもないと話をする。それがないときは滅多に会わない。考えてみれば、変な交遊関係である。
○なぜか神保さんの顔を見た瞬間、当方の口を突いて出たのは「僕ね、最近、腰が痛いの」という愚痴であった。すると先方は、「そりゃいかんね、お医者さん、紹介しようか?」――まったくオヤジ同士の会話である。こんな二人だが、出会ったときはお互いに20代であった。神保さんはAP通信の記者で、こちらは日商岩井広報室であった。もう、ホント幾星霜ですな。
○「吉崎さんは2年前の中間選挙の時、メジアンの所得が伸びていないから民主党が負けた、って言ってたよね?」などと言われて、目が点になる。そうなのだ。たしかそういう話をしたし、溜池通信にも書いた。経済成長があっても、個々人が豊かになれない時代。トランプ現象の根本原因は、たぶんこの辺にあったのだろう。
○エリートと呼ばれる人たちが国際金融危機を招き、世界経済を無茶苦茶にしてみんな大変なことになった。ところが彼らはあんまりひどい目に遭っていない。ウォール街は儲けているし、政治家もメディアも相変わらずだ。なおかつ、普通の人たちの痛みを共有していない。トランプ大統領の誕生は、いわばエリート層に対する懲罰行為みたいなものかもしれない。
○これまで何度、この手の議論をしてきたかわからない。神保さんはコロンビア大でジャーナリズムを学んだ硬派リベラルである。当方は中道右派の軟派エコノミストゆえ、方向性はあんまり合っていないのだけど、話はいつも盛り上がる。そういうところも昔からずっと同じである。さて、次に会うのはいつになりますことか。
○インタビューが終わってから、羽田空港に向かってそこから関空へ飛ぶ。今日は泉佐野商工会の新春経済講演会である。「トランプ占い」の話から入って、今年の日本経済は悪くない、という話に振って、最後は自著の宣伝で終わる。こんな形の講演会が、早くも今年9回目である。
○泉佐野市は関空のおひざ元。多くのLCCが朝早くや夜遅くに飛ぶために、ホテル需要は急増しているが、なかなか地元でお金を使ってくれない。ただしインバウンドのご利益を実感している街である。それから泉州はタオルの名産地でもある。全国にタオルを売り歩いているこんな社長さんがいらしてましたよ。
○さて、やっとの思いで家に帰ってきて、トランプ次期大統領の演説待ちである。これはもう仕事だと思って、聴かなければならない。別に楽しみなわけじゃないんだけどねえ。これも一種の懲罰でしょうか。
<1月21日>(土)
○第45代合衆国大統領、ドナルド・トランプ氏の就任演説は、いかにも「らしい」ものでありました。確かに異色の大統領ではある。が、そんなに異常な就任演説ではなかった。
○まずは特色その1はわかりやすさにある。難しい単語はほとんど出てこない。これに比べたら、オバマ大統領の2009年1月の就任演説は、小難しいうえに不親切であった。金融危機のさなかの状況の困難さを強調するために、独立戦争時の「バレーフォージの宿営」という故事を引用しているのだが、これが固有名詞を使ってくれないものだからサッパリわからない。今だから言うが、オバマ大統領の演説は皆までよくわからないままに、「いいね!」をしていた人が少なくなかったのではないだろうか。
○特色のその2は党派性にある。今までの選挙演説の延長線上で、相変わらず現状を嘆き、敵を槍玉にあげ、「忘れられた人々」「アメリカ・ファースト」「アメリカを再び偉大な国へ」といったいつものフレーズが出てくる。新しいアイデアやキーワードはないですね。ただしそんな中で、「神によって守られる」などとらしくないことも口にしており、少しだけ大統領就任演説っぽくなっている。
○特色その3は海外に向けられたメッセージがまったくないこと。ケネディの時代は遠くなりにけり、ですね。外交に関することといったら、「新たな同盟を作って文明社会を団結させ、過激なイスラムテロに対抗し、地球上から根絶させる」の部分だけである。(We
will reinforce old alliances and form new ones ― and unite the
civilized world against Radical Islamic Terrorism, which we will
eradicate completely from the face of the Earth.)。でも、これって国土安全保障の範疇かもしれませんね。
○それにしても、トランプ大統領はこれ以外の演説パターンをどうやって作っていくのだろう。誰かを攻撃するような選挙戦ばかりやってきたので、大きな理想を語るとか、国民に忍耐を求めるとか、他国に向かってメッセージを発するとか、そういうことができるんだろうか。例えばダボス会議に出て、何か建設的なことを言っているトランプ大統領という姿は想像しにくい。
○さらに難しそうなのが、今年のG7サミットのコミュニケづくりですな。指導者が「理念」を語らなくなったからといって、それですぐに世の中が困るわけではないのだけれど、少なくともカッコがつかなくなる。まあ、ご本人は気になさらないでしょうが・・・。
<1月22日>(日)
○このところ続けて会ってお話した2人の元共和党関係者の話。
○横江久美さん(前ヘリテージ財団研究員)が言うには、共和党はとっくの昔に変質してしまっていて、「小さな政府、強いアメリカ」のレーガン時代とは別物になっている。だからもう日本は変な幻想を持つべきではなくて、「アメリカ・ファースト」を標榜するようになったアメリカと、覚悟を決めて向き合っていかなければならない。
○中林美恵子さん(元連邦議会上院予算委員会スタッフ)によれば、大統領は一瞬でなれるけど、議員は皆さん時間をかけてなっている。そして内政に関しては大統領以上に議会が権限を持っている。だからトランプ大統領が何を言っても、簡単には変えられない現実がある。
○横江説で行くと、トランプ政権は相当に変なところまで突っ走っていきそうだし、中林説で行くと、ちゃんとストップをかける勢力が出てくるはずだ、ということになる。おそらくどちらも正しくて、これから先、どっちに転んでも不思議はないのでしょう。ということは、ここから先、注目すべきは世論調査の数値であって、トランプ大統領の片言隻句ではない、ということになります。つまり「トランプ占い」も一段落というわけ。やれやれ、ホッとしますな。
○下記は金曜日に収録したビデオニュースドットコムのインタビューです。ご紹介まで。
●オバマ政権の経済政策を採点する。
http://www.videonews.com/interviews/20170121_yoshizaki/
<1月23日>(月)
○トランプ政権がいよいよ発足して、それも思い切り変な方向に向かっているようなので、怒ったり嘆いたり自棄になったりしている人を数多く見かけます。とはいえ、嘆いている本人がジャーナリストだったり、政策をやっている人だったり、トランプ大統領が非難している「エスタブリッシュメント」の一角を構成するような人たちであることに若干の違和感があります。端的に言えば、まだまだ悟りが足りないんじゃないか、ということであります。
○トランプ政権の誕生とは、かつて田中真紀子氏が外務大臣に就任した時の外務省のような現象であり、一種の「罰ゲーム」だと思うのです。ある日突然、空から恐怖の大王が降りて来て、組織を思う存分にかき回し、構成員にとてつもない不条理を押し付けた。なおかつ、そのとき国民は喝采を叫んでいた。今でこそ、誰も相手にしない人になってしまいましたが、あのときの真紀子大臣は何をしても許された。それは外務省における一連の不祥事という「罪」があったからこそ、という点を忘れてはなりません。
○なぜトランプ政権という罰がアメリカに下されたのか。トランプ氏はよく「忘れられた人々」(The
forgotten man and woman)という言い方をしますけど、だったら誰がその人たちのことを忘れていたんだ、ということになる。それこそ、ワシントンのインサイダーたち、それは政治家のみならず、メディアやさまざまな分野の専門家も同罪と考えるべきです。その中には、当然、エコノミストも含まれます。
○アメリカ経済は良くなっている、ということですべてを片づけてきた。でも、よくよくデータを見ていれば、ラストベルトの白人高卒男性の4人に1人は仕事がないとか、白人中高年の死亡率が上昇しているとか、特に薬物中毒による死亡が急増しているとか、アメリカ社会が「病んでいる」兆候はいっぱいあったのです。ただし、そういう問題意識は広く共有されていなかったし、ましてや政治課題として浮上することもなかった。ドナルド・トランプ氏が共和党予備選挙に登場するまでは。
○もっと言うと、そういう人たちに同情することは「イケてない」ことであった。逆にマイノリティやLGBTに肩入れすることはカッコいいこととされていた。ヒラリーは、「トランプ支持者の半分は嘆かわしい人たちの集まり」と呼んだ。オバマも以前、「田舎で失業に苦しんでいる人たちが、社会に怒りを持つようになり、銃や宗教に執着している」と言ったことがある。今回のトランプ政権を誕生させたのは、まさしくそういう人たちでありましょう。でもホンネの話、今でもメディアや専門家たちは、彼らのことを腹の底で馬鹿にしていると思う。
○「忘れられた人々」が怒っていることはたくさんあった。イラク戦争とはなんだったのか。戦場でひどい目に遭った人は少なくない。2008年金融危機では多くの人が家を失った。大学を出た時に就職が全くなかった、もしくはローンだけが残った、なんて若者も多かった。途中で政権交代があったから、過去はケジメがついたというのはさすがに甘い。だってワシントンに居るような人たちは、攻守を入れ替えただけで「哀れ」とは程遠い状態ではないか。「アイツら全員総とっかえだ!」という怒りが、2016年選挙の原動力となったのではないだろうか。
○そういう意味では、彼らの復讐は着々と果たされつつある。「外務省は伏魔殿」とうそぶく大臣が、伝統ある組織を無茶苦茶にしていたとき、快哉を叫んだ日本人は少なくなかったものと拝察する。あれと同じようなことが進行中だと思うんですが、これはもう関係者ご一同がちゃんと反省するまで、トランプ大統領殿のご乱行は続くのだと思いますよ。まあ、付き合わなきゃいけない日本外交としては大変ですけれども。
<1月25日>(水)
○木材・住宅建材業界の新年会。去年のこの業界は割りと良かったようで、新築住宅着工件数は97万戸程度に達した模様。消費増税が先送りされたので、駆け込み需要はなかったけれども、やはりマイナス金利と相続税対策の貸家建築が効いたようである。もっともこの話、将来の空家リスクを高めているような気もする。今年の着工件数はさすがにピークアウトするけれども、それでも92万〜95万戸はいくだろう、とのこと。
○さらに特筆すべきは、国内産の比率が輸入材を上回った。これは1996年以来のことだとか。「国内産の木材を使いましょう」という声はよく聞いていたけれども、これは円高、円安も絡んでくるので、果たして今年はどちらに向かうのか。
○ちなみに講演会での為替予測ではこんな風に申しあげました。「トランプ新大統領の政治的な思惑よりも、経済のファンダメンタルズ(米国の利上げ)の方が強い。だからトレンドとしては円安。ときどき政治の思惑が働いて、突発的な円高があり得る展開」。
○トランプ政権と為替に関する詳しいお話しはこちらとこちらをご参照ください。(M2JFX プレミアムトーク)
<1月26日>(木)
○北日本銀行さんの講演会で盛岡市へ。あっと驚き、2時間と少々で到着してしまう。北陸新幹線における富山駅とさほど変わらない。というか、富山と盛岡が新大阪よりも早い、という事実がなんだか妙な感じである。
○本日の盛岡市は好天。昨日は零下8度だったそうですが、ラッキーなことに今日はいくぶんマシでした。雪もそんなにはありません。
○仕事が終わってから、当地に赴任している旧知のTさんからいろいろ事情聴取する。いわく、岩手県はとっても住みよいところなれど、観光資源では今ひとつ決め手に欠ける。食は肉も魚も豊富で、特にアワビから前沢牛、さらにマツタケまで高級食材に強みがある。さらには冷麺などの麺類もあり。ただし地味な県民性につき、地元を積極的にアピールしようという機運には欠ける・・・。
○それにしても、こんな風に気軽に日帰りで行って帰ってこれて、しかも車中ではちゃんと仕事もできるという環境を体験してしまうと、しみじみ新幹線はありがたいものだと思います。三陸高速道路も着々と建設が進んでいるそうですが、やっぱり交通インフラは重要ですよ。岩手県はとにかく広いから。
○それにしても今月は、岡山に泉佐野に島田にと、いろんなところに行っている。でも特に東北は歓迎です、と言っておこう。
<1月27日>(金)
○今月発表された月例経済報告に、「関係閣僚会議資料」というPDFファイルがあります。今月はトランプ政権の発足に敬意を表し、とくにアメリカ経済に関するデータが充実しているのですが、13p目にある「アメリカ(3)」のページにあるグラフが面白い。
●対中国貿易 ▲3672億ドル(▲2.0%)=対GDP比、以下同じ
●対日本貿易 ▲689億ドル(▲0.4%)
●対ドイツ貿易 ▲748億ドル(▲0.4%)
●対メキシコ貿易 ▲607億ドル(▲0.3%)
○トランプ大統領はよくメキシコを非難するときに、「60
billion dollarの貿易赤字がある!」と言います。そもそも二国間の貿易収支を問題にすること自体が時代遅れなのですが、他の国との比較感から言っても、ちょっとメキシコが気の毒でありましょう。
(1)対メキシコ赤字は対日本赤字よりも小さい。(ギクッ)
(2)対ドイツ赤字はそれよりもさらに大きい。(なぜドイツの悪口は言わないんでしょうね。人種偏見?)
(3)対中国赤字はそれらを全部あわせたよりもさらに大きい。とにかくデカい。
○時宜を得たグラフといえましょう。内閣府、グッジョブと申し上げたい。
<1月28日>(土)
○昨年の訪日外国人客数の統計(インバウンド)が出ています。過去最高の2403.9万人。昨年が1973.7万人でしたから21.8%増。逆に出国日本人数(アウトバウンド)は1711.6万人(5.6%増)でした。メモしておきましょう。
○入国者数のランキングは以下の通り。
1位:中国637.3万人(+27.6%)
2位:韓国509.0万人(+27.2%)
3位:台湾416.7万人(+13.3%)
4位:香港183.9万人(+20.7%)
5位:アメリカ124.2万人(+20.3%)
6位:タイ90万人(+13.1%)
○まことに盛大な伸びというべきで、そのうち実に72.7%が東アジア(上位4か国・地域)から。昨日から春節が始まっていますので、この週末も大勢、いらっしゃることでしょう。
○で、面白いのが韓国に関するコメントである。
韓国の訪日旅行者数は5,090,300人で過去最高を記録、初めて年計で500万人を超えた(これまでの過去最高は2015年4,002,095人)。韓国の外国旅行者数の増加傾向や、相次ぐ格安航空会社(以下、LCC)の新規就航等に伴う座席供給量の拡大などを背景に、単月で初めて50万人を超えた1月以降、毎月30〜40万人台の送客が安定して続いた。
九州への旅行需要が高い市場であるため、2016年4月に発生した「平成28年(2016年)熊本地震」による影響も心配されたが、集中的な販売支援等により訪日者数は順調に回復した。また、「テーマ性のある旅行」をフックに地方への誘客を促進するため、中国・四国地方を2016年度の重点地域に定め、「知れば知るほど、行けば行くほど、日本」のキャッチコピーを用いたCM動画の放映をはじめ、韓国市場として初の試みとなる人気YouTuber
を起用した臨場感溢れる動画配信民間企業と連携した企画など、多岐に渡る訪日旅行プロモーションを通じて、地方の多彩な魅力を発信し、訪日意欲を喚起した。
○最近は韓国発のニュースというと、楽しからざるものが多いのでありますが、なんだ、お前たち、結構、日本のことが好きなんじゃないの、といいたくなるところです。
<1月30日>(月)
○今日は久しぶりに時間が空いたので、これ幸いと市内の整形外科へ。地元では評判のいいお医者さんらしく、待合室はとてもアットホームである。なるほど、病院が老人のコミュニティになっているというのはむべなるかなで、要はカネのかかる終末医療さえ簡略化できるのなら、日本の医療制度はちゃんと維持可能なのである。遠慮なくお医者さんに通ってくれて問題ありません。
○ということで、生まれて初めて「針治療」なるものを受ける。針はそれ自体が痛い。で、これで嘘のように腰痛が消えてくれれば、絵に描いたような「いいお話」になるのであるが、さすがにそこまでではなかった。這うようにしてきた患者さんが、帰りにはスキップして帰る、となればこれは素晴らしい。ただしレントゲンを撮ってもらった結論は、「骨にはまったく異常なし。腰痛の原因は、太り過ぎか、運動不足でしょう」。
○いえね、ホントの理由は「トランプ占い過多によるストレス」なんです、と弁明に努めたいところであったが、そんなことを告白したところでどうなるものでもなし。特に今回の「難民もしくはテロ懸念国を対象にした入国禁止措置」は、思わず頭を抱えたくなってしまうような事態です。治にありて乱を求むるとはまさにこのこと。しかも指定7カ国にイラクが入っていてサウジが入っていないとか、不条理もここに極まれりという感あり。
○当病院にはとってもひょうきんな助手さんが居て、待合室の患者さんたちに軽妙洒脱なお声をかけている。こんなことを言っていた。「トランプさんなんかに気兼ねをしちゃいかんです。わが国には花札も、百人一首もあるんですから」。・・・・わが意を得たりとの思いがする。ニンテンドーという会社は、今ではゲーム会社なんだけど、その昔は花札を作っている京都の会社だったんですよねえ。
○とりあえず、今日は1万歩以上は歩いたのであった。でもカロリー摂取量は過剰だったかも。明日からは痩せるように努力いたしましょう。
<1月31日>(火)
○トランプ政権が発足してから約10日目。この間に7本のExecutive
Orderと、11本のPresidential
Memorandum、都合18本もの大統領令を発している。これだけ矢継ぎ早に手を打たれると、反対する側も手が回らなくなっていく。例えば新社長として、自分が買収した会社に乗り込んでいく場合、これはまったく正しい手法である。もちろん「改革を目指す新政権」の場合も同様で、改革は電光石火をもって良しとする。安倍内閣の成長戦略みたいに、何年もかけてちょっとずつやっているようではアキマセン。
○なんでこんなに上手にやっているんだ、誰がやらせているんだ、てな声が各方面から上がっていて、それはおそらくスティーブ・バノンであろう、てな観測が浮上している。白人至上主義者のオルタナ右翼、ブライトバート社の前CEOで、昨年夏からトランプ選対を仕切って、ホワイトハウスで「チーフストラテジスト」という前例のない地位をゲットした男である。ウエストウィングでは、プリーバス首席補佐官の向かい側の部屋を占めている。そこからは、例のジャレッド・娘婿・クシュナーの部屋を通って、誰にも見られずに大統領執務室に入ることができる。
○バノンが目指すのはポピュリズム路線で、それを支えるのがケリーアン・コンウェイ顧問である。彼女はクリントン政権ではヒラリーが、ブッシュ政権ではカール・ローブが、オバマ政権ではヴァレリー・ジャレットが使っていた、とってもいわくつきの部屋を占領している。マスコミ対応は、バノンよりもコンウェイがよく出てくる。これに対し、マイク・ペンス副大統領とラインス・プリーバス首席補佐官の主流派コンビが、伝統的な共和党路線に誘導しようとする。そんな魑魅魍魎による葛藤劇は、既にホワイトハウス内で進行中なのであります。
○とはいえトランプ政権がやっていることは、まったく間違った方向を向いているとしか思えない。特にあの入国禁止措置は拙いでしょう。ツッコミどころは満載である。ところが「7カ国からの難民の入国一時停止」という措置に対し、この調査によれば、調査対象の57%が賛成、33%が反対しているとのこと。これまた天を仰ぎたくようになる数値でありますが、今度の大統領令はISISのようなテロ勢力から見れば「おいしい話」でありましょう。これがきっかけでHome
Grownテロがでなきゃいいのですが。
○ちなみにトランプ政権は、予定よりも2日早めて、本日これから新しい最高裁判事を指名すると言っている。先手、先手と行きますな。まことにお見事なゲーム回しですが、戦略が間違っている場合、戦術的な成功はさらに大きな被害を招く、というパターンをお忘れなく。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki