<1月1日>(日)
〇あけましておめでとうございます。2023年の始まりです。
〇そこで早速、年間のカレンダーを作りながら、今年1年をいろいろ想定してみたりする。とはいえ、元旦に行う「一年の計」がその通りになるなんてこともあり得ないのが昨今の内外情勢というものでありまして。まあ、なんというか、マンネリ気味の作業でありますが、とりあえず何もしないよりはマシでありましょう。
2023年(令和5年・癸卯)
1月
日本が国連安保理の非常任理事国に。任期2年。12回目は最多。1月は議長国(1/1)
米第118議会始まる(1/3)
岸田首相が訪米、訪欧(中旬)
日米2+2(ワシントン、中旬)
ワールドエコノミックフォーラム(ダボス、1/15-20)
通常国会召集(下旬、会期150日)
春節(1/22)→中国は1/21-27が休みに
バイデン大統領一般教書演説(下旬)
2月
立憲民主党大会(2/19)
ロシアのウクライナ侵攻から1周年(2/24)
自民党大会(2/26)
3月
東京マラソン(3/5)
全人代(北京、初旬)→習近平国家主席再任、李強国務院総理?
World Baseball Classic(台、日、米、3/8-21)
マッカーシー新下院議長が訪台?
日銀副総裁(雨宮、若田部)の任期(3/19)→この機に新執行部誕生?
EU首脳会議(ブリュッセル、3/23-24)
ラマダン(3/22〜4/20)
4月
子ども家庭庁創設(4/1)
黒田総裁任期切れ(4/8)
統一地方選挙第1陣(道府県・政令指定都市首長選)(4/9)→北海道、神奈川県、大阪府、大分県/札幌市、相模原市、大阪市、広島市など
IMF世銀春季総会(ワシントン、4/14-16)
G7外相会合(軽井沢、4/16-18)
統一地方選第2陣(市区町村首長、議員)&衆院補欠選挙(4/23)→千葉5区(薗浦健太郎)、山口4区(安倍晋三)、和歌山1区(岸本周平)
5月
アジア開銀総会(仁川、5/2-5)
英チャールズ3世とカミラ戴冠式(ロンドン、5/6)
G7財務相・中央銀行総裁会議(新潟、5/11-13)
G7首脳会議(広島、5/19-21)
6月
シャングリラ会議(シンガポール、6/2-4)
サンクトペテルブルク国際経済フォーラム(サンクトペテルブルク、6/14-17)
沖縄戦没者追悼式(糸満、6/23)
通常国会会期末(下旬)
EU首脳会議(6/29-30)
トルコ大統領選挙(5〜6月中)
7月
NATO首脳会議(7/11-12)
サッカー女子ワールドカップ(豪、NZ、7/20〜8/20)
群馬県知事選挙(7/23)
BRICS首脳会議(南アフリカ、6〜7月?)
8月
全国戦没者追悼式(8/15)
ジャクソンホール会合(米カンザス州、下旬)
9月
関東大震災から100年(9/1)
ラグビーワールドカップ(フランス、9/8-10/28)
G20サミット(ニューデリー、9/9-10)
日越国交正常化50周年(9/21)
10月
インボイス制開始(10/1)
岸田政権が発足から2年(10/4)
IMF世銀年次総会(マラケシュ、10/13-15)
アルゼンチン大統領選(10/22)
EU首脳会議(10/26-27)
トルコ建国100年(10/29)
11月
中国「独身の日」(11/11)
APEC首脳会議(サンフランシスコ、中旬)
ASEAN関連会議(インドネシア、月内)
米ブラックフライデー(11/24)→年末商戦始まる
12月
新語・流行語大賞(12/1)
今年の漢字(12/12)
令和6年度予算、税制改正大綱を閣議決定(下旬)
<期日未定>
第3回「一帯一路」国際協力サミットフォーラム(中)*2017年と19年に実施済み
第3回QUAD首脳会議(豪)
〇ということで、本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
<1月2日>(月)
〇今年は正月のテレビがますますつまらないので、ついついアマプラ三昧となってしまいます。
〇『ゴールデンカムイ 第4期』はあいにく製作が第43話で止まっているので、第42話まで見てフラストレーションが溜まるところである。このシリーズは主題歌が名曲ぞろいだが、第4シーズンもいいですな。ワシ的には第2期の『レイメイ』がいちばん好きだけど。その次は第3期のエンディングテーマ、『融雪』だね。いずれもドラマの世界観をよく表していると思う。
〇そこでふと思い立って、『秒速5センチメートル』。新海誠監督の2007年劇場公開作品である。いや、あたしゃ『君の名は。』は観たけれども、『天気の子』や今やっている『すずめの戸締り』も観てないんだが、こんな昔から新海ワールドは全開であったのですな。作家は処女作に向けて成長するといいますが、わずか63分の作品の中に後年のあらゆるネタが詰め込まれている感あり。
〇処女作と言えば、『DAICON FILM 帰ってきたウルトラマン マットアロー1号発信命令』も今ではアマプラに入っていて、ついつい見てしまった。庵野秀明監督が大学生時代に作ったという怪作である。脚本が岡田斗司夫というから、まったくなんという世界だったことか。これもまあ「作家は処女作に・・・」の法則が適用されていて、後年の『シン・ゴジラ』や『シン・ウルトラマン』に引き継がれるアイデアが入っているから呆れたものである。
〇こんな風に変なものを観て楽しむ時間があるのは、年末年始のありがたいところである。そろそろ年明けに何本かある締め切りが気になってきたところながら、もうちょっとくらいいいだろう、と自らに言い聞かせる新年2日目である。
(追記:上記を書いた後に見た新海誠『言の葉の庭』も良かったです)
<1月3日>(火)
〇観てまいりましたぞ、映画『長全寺』を。柏駅前のキネマ旬報シアター、観客の入りは二分くらいでありました。
〇長全寺は柏駅から徒歩5分の場所にある曹洞宗のお寺である。昔は娘を保育所に連れていくために毎日前を通っていたし、町内に檀家の方がいらっしゃってお葬式に出たこともある。そんな身近でフツーのお寺が、映画の舞台になってしまった。それも「説法頭巾」というヒーローを擁するお寺で、「ほぼすべて柏市内で撮影」というのである。何なんだそれは。
〇今回初めて知ったけれども、長全寺は開山が1575年というから、あの「長篠の合戦」と同じ年である。かなり古いのね。もっとも現在の場所に移ったのは寛永年間からで、現在の建物は1994年築だそうだ。柏レイソルが誕生した年ですな。その辺の故事来歴は、長全寺のHPをご参照。
〇で、映画なのである。年末年始の貴重な期間、新作料金1900円(幸いにもワシはシニア割1200円であった)を払って観に行くべきかどうか、これは迷うところである。どう考えても、地元の酔狂な方々が、勢いあまって作ってしまった映画である。『カメラを止めるな!』のような快作である可能性もあるけれども、「何だこれは?カネ返せ!」となるかもしれない。しかるにこの機会を見逃したら、たぶん「アマプラ」には入らないだろうから、柏シアターでやっているうちに観ておくべきではあるまいか。うむ。
〇映画の冒頭シーンは江戸時代である。察するに大堀川や旧吉田家あたりで撮っているらしい。「転がり」のいい出だしで、俳優たちの「殺陣」も本格的である。いや、よかった。これなら「大学生の自主製作映画じゃねえぞ!」などと客席から怒号が飛ぶことはあるまい。真面目な話、テレ東の深夜枠には、アイデア頼りでまるで芝居になっていない低予算コンテンツがいっぱいあるではないか。
〇その点、『長全寺』はちゃんとした映画である。有名な俳優さんは一人も出てこないので、登場人物の顔を覚えにくいのが難であるが、悩める若者は出てくるし、気の毒なヒロインも出てくるし、長全寺の住職さんはそれらしく貫禄がある。そして「説法頭巾」は単なるヒーローではなく、人生修行中の僧侶たちである。しかも頭巾はファッショナブルなのである。低予算映画はまさにかくあるべし。
〇しかしながら、それから先がよろしくない。30年前と現在を行き来する設定なのだが、その違いがよくわからない。30年前にワシは既に柏市民だが、駅前にステモができたとか、もうじきレイソルが誕生するとか、誰もが覚えているような話が出てくるわけではなく、「ただの30年前」なのである。それから「25年前に見た動画」というネタが出てくるが、おいおい25年前はまだテレホーダイの時代だから、動画なんて存在せんぞ。無茶なことを言うんじゃない!
〇唯一出てくるのが、「30年前に比べて手賀沼がきれいになった」という話である。確かに手賀沼は1990年代には、「日本で一番汚い湖沼」と言われていた。今はかなりきれいになっている。ただし、それは柏市と我孫子市の生活廃水が減ったからというよりは、主に国交省の導管工事によって利根川の水を入れたお陰である。それでも事実として水質浄化には成功しているので、このネタはもうちょっと地元民が納得する使い方があったのではないか。
〇結局、観終わった後に、「この映画は、誰に対して何を見せたかったのだろう?」と首をひねることになる。モチーフとなっているのは、いかにも長全寺という宗教法人らしい教え(サブタイトルにもなっている)なのだが、これはまるで観客全体が説法を受けているみたいである。檀家の皆さんはいいかもしれないけど、これだけ無茶な設定なんだから、きっとコミカルな映画だろうと思って観に来る人たちもいるはず。愕然として帰ることになるのではないか。
〇とはいえ、人口40万人程度の都市は日本中に数々あれど、「市内だけで独立して映画が撮れてしまう」(そういう酔狂な人たちがいて、それをクラウドファンディングで支えることもできてしまう)というところは多くはあるまい。幸いにも柏市は、そういうエネルギーを有している街だと思う。そしてやっぱり、これは柏シアターで観なければいけない映画なのであった。
<1月4日>(水)
〇年初恒例、ユーラシアグループの「TOP
RISKS 2023」が公表されました(PDF版はこちらをご参照)。まあ、じきに日本語版が出るはずなので、慌てて読む必要はないでしょう。とりあえずヘッドラインだけメモしておきます。
(1)Rogue Russia
(2)Maximum Xi
(3)Weapons of mass disruption
(4)Inflation shockwaves
(5)Iran in a corner
(6)Energy crunch
(7)Arrested global development
(8)Divided States of America
(9)Tik Tok boom
(10)Water stress
Red herrings:Cracks in support for Ukraine/EU political
dysfunction/Taiwan crisis
〇ちなみに今朝、家人がこんなことを言ってました。「パンデミックにインフレに戦争と来たんだから、次に心配すべきは自然災害でしょう。地震とか噴火とか津波とか・・・」。
〇確かにその通りなのであります。イアン・ブレマー氏は商売ですから、上のようなことを言って人心を惑わすのですが、例年のようなキレは感じませんな。今年の年賀状にも、「世界は100年に一度の大変革期に突入してしまいました」なんてことを書いてくる人がいらっしゃいましたけど、それはあんまりセンスが良くないと思うものであります。
<1月5日>(木)
〇この時期恒例、時事通信社の新年互礼会へ。「この時期恒例」とは言うものの、一昨年はコロナで中止、昨年は規模を小さくして実施したそうで、不肖かんべえにとっては3年ぶりである。場所は帝国ホテル。かならずときの総理大臣がお見えになることが売りである。
〇で、岸田文雄首相登場。壇上に上がる際に大きなバインダーを手にしている。それを見た瞬間にイヤーな予感。案の定、長々と原稿をお読みになる。後で聞いたら、先日の記者会見で話した内容とまったく同じだったとかで、気が利かないことこの上なし。昔の安倍首相や小泉首相は、当意即妙なパーティートークで大いに会場を沸かせたものですが。
〇続いて壇上に立つ新聞協会長や経済団体長も「紙」をお読みになるので、長い上に、中身がものすごくつまらない。長らく大規模なパーティーが開かれなかった間に、わが国のパーティー文化は劣化してしまったのではないだろうか。考えてみたら、リモートの会合では紙を読んでもバレないものね。
〇まあ、そんなことはよろしい。こちらは各方面の方々と再会できるのがありがたい。主催者曰く、「時事通信はなくなっても構わないから、あの新年互礼会だけは続けてくれ、とおっしゃる方がいらっしゃいまして」と。まあ、確かにそんなニーズはありそうだ。
〇考えてみたら、今日、ワシが呼んでもらえたこと自体が幸運もいいところである。これはきっと、昨年9回も内外情勢調査会の講師を務めたご利益であるに違いない。考えてみれば、初めて内外情勢調査会の講師を務めたのは2003年2月の川越支部だった。今年はそれから20年目となる。この間、全国で合計153回もお勤めいたしました。
〇この間、リーマンショックやら地方経済の衰退やらコロナ禍やら、さまざまな試練があったにもかかわらず、内外情勢調査会はしぶとく生き残っているように見える。20年も務めていると、それぞれの「地域のドン」みたいな人がさすがに姿を消し、その代わりに一般会員が増えたり、リモート方式と併用になったり、いろんな努力をして継続しているようである。あ、かくいうワシ自身がよくまあ生き残っているわ、という気もする。
〇ということで、本日はとっても久しぶりに帝国ホテルのローストビーフをいただく。ありがたいねえ。食わずに帰ってしまう岸田さんが気の毒であります。
<1月6日>(金)
〇アメリカ連邦議会、初登庁の1月3日に決まるべき下院議長がまだ決まらない。3日、4日、5日と3日間に11回投票してみたが決まらない。ケビン・マッカーシー、なんという徳のない男なのか。これでは昨年末から、「いやあ、年明けからアメリカ議会は一気に世代交代が進みますなあ」と言っていたワシが馬鹿みたいではないか。
〇さらに面白いのは、2日目にトランプ前大統領が「打ち方止め!下院議員はマッカーシーを応援すべし」と促したのに、まったく効果がなかったということである。MAGA議員が言うことを聞いてくれないのでは、トランプさんのメンツは丸つぶれである。キャピタル・ヒルにおける前大統領の「恐怖の支配」はじょじょに失われつつある。
〇こんな「学級崩壊」の状態を続けていたら、米有権者の共和党への信頼はどんどん失われていくし、海外からのアメリカ民主主義に対する疑問も深まるばかりである。でも、共和党の極右議員たちは皆さん、極めつけのレッドステーツの選出ばかりですから、脅してもダメだし、おだててもダメ。
〇このままいくと2024年大統領選挙にも影響しかねないのですが、もうちょっと怖い目に合うまでは状況は変わらないのかもしれません。政府閉鎖とか債務上限とか。いやいや、それはちょっと怖すぎる。さて、4日目はどんなことになるのでしょう。難しい問題のほとんどは、時間が解決してくれるものなのですが。
<1月7〜8日>(土〜日)
〇諸般の事情により駆け足で富山市へ。父の機嫌を伺い、地元経済の様子を伺い、夜は上海馬券王センセイと共に深酒。いやはや、この季節の寒ブリは格別である。さらに白エビ、ズワイガニ、のどぐろなど。厚揚げまで旨かった。
〇不動産業のM氏からは、いくつか心に残るコメントを頂戴する。「上物の値段は上がる一方だが、土地の値段は上がらない」(バランスがどんどん崩れていく)、「次世代のことを考えたら、マンションよりも戸建ての方が面倒が少ない」(最悪、更地にすればいいから)。リアルな話というのは、いつ聞いても感動があります。
〇高志の国文学館では川端康成展をやっていた。孤児であった、というのは知っていたが、唯一の肉親であった祖父が亡くなるまでは、今でいう「ヤングケアラー」だったのですな。「子どもらしい時代がなかった」ことが作家としての生涯を規定していたようである。「ノーベル賞」と「ガス自殺」くらいしか知らなかったけれども、なるほどそんなことであったか。三島由紀夫に先立たれたことも、あったのだろうなあ。
〇新幹線の中で小泉悠『ウクライナ戦争』(ちくま新書)を読む。チェーホフの『桜の園』の女地主ラネフスカヤのように、「かつての超大国にしてスラヴ世界の盟主であった過去を忘れられない現在のロシア」という一節が妙に心に残る。だからこそ彼らは、民族主義的優越感のもとに「ウクライナ人は(軍が、ではなく)弱い」と考えてしまったのではなかったか。今回の戦争の本質はその辺かなあ、と感じましたな。
<1月9日>(月)
〇大相撲初場所2日目。西十両12枚目の朝乃山(28)=富山市出身、高砂部屋=は東十両11枚目千代栄を下して2連勝。地元はきっと沸いている。地元紙、北日本新聞はこんな風に報じている。
朝乃山は立ち合い一気に前へ出て、千代栄を突き放した。十両土俵入りでは、この日も朝乃山富山後援会が贈った立山連峰と「剱」の文字があしらわれた化粧まわしで登場し、一段と大きな拍手が起こった。取組の前には「頑張れ」と声援が飛んだ。
今場所で全勝に近い成績を残せば、他の関取の成績次第で、次の春場所で幕内に復帰する可能性がある。
〇本日、注目の王将戦第1局は、藤井5冠が羽生九段に先勝。フェアリーステークスは11番人気のキタウイングが勝利。いろいろありますが、富山の皆さんは朝乃山を気にしている様子。故郷はありがたきかな。
<1月10日>(火)
〇本日は今年初めての講演会(完全リモート)、及び今年初めてのテレビ出演(報道ライブ「インサイドOUT」)あり。どちらもつつがなく務めましたぞ。
〇BS11では熊野英生さんとご一緒。考えてみたら2013年、アベノミクスがこれから始まるというタイミングで、座談会だったかテレビ出演だかで「こんなこと始めて、本当に大丈夫ですかねえ」てなことを語っていた覚えがある。それから10年、今度は異次元緩和が終わろうかというタイミングで、また二人で語っているというのがなんだか不思議である。ワシらも意外としぶといのである。
〇本日発売の中央公論2月号に、門間一夫さんが寄稿していた「2%物価目標は維持するべきか〜『微害微益』の異次元緩和で得た教訓」という論考がまことに秀逸だった。いわく、異次元緩和は10年たっても物価目標2%を達成できていない。ゆえに「微益」である。だからといって、日本経済を大きく害したとも思えない。だって10年も続けていられるから。「アベノミクスが日本経済を害した」などと言っている人がいるけど、そんなのはただの印象論である、と。
〇すばらしい。いつものことながら、「実も蓋もない」という言葉は門間さんのためにあるかのようだ。深く、ふかく同意する。ちなみに不肖かんべえの見立てでは、岸田首相の内心は「安倍さん、悪いけど、アベノミクスは止めちゃうよ」ではないかと思うのである。
<1月11日>(水)
〇本日は山崎元さんのオフィスにて「競馬を語る会」。競馬評論家のTAROさんが、「馬券力の正体〜収支の8割は予想力以外で決まる」という新著を上梓されたことのお祝いを兼ねている。東洋経済新報社の編集F氏など、いつものメンバーでダラダラと競馬論議。これが楽しい。
〇2012年秋に「競馬好きエコノミストの市場深読み劇場」なる連載が始まった時は、正直、「俺に競馬の予想記事なんて書けるのだろうか?」と悩んだものである。ところがそれから10年たってもこの連載が続いている。まさかそんなことになろうとは。
〇現に今週もワシの輪番で、今週末の日経新春杯の予測を書かねばならない。締め切りは明日中くらい。もちろんのこと、競馬の予想はなかなか当たるものではない。ワシよりもずっと詳しい上海馬券王先生だって、勝率はそんなに高いわけじゃないものね。
〇とはいうものの、大の大人がこんなことに延々と熱中できるのはありがたいことである。世間的には「依存症になる」のは悪いこととされていて、治さなきゃいけないということになっている。しかるに当人たちにとってみれば、こんなに幸せなことはない。そればっかり考えていて、飽きないわけであるから。
〇いくら趣味の世界に淫してしても、要は日常生活が破綻しなければそれでいいのである。世の中との付き合いをほどほどにこなしつつ、引き続き趣味の世界を楽しんでいきたいものである。依存症に感謝!である。
<1月12日>(木)
〇この季節恒例、中国銀行さんと岡山経済研究所さんによる新春経済講演会のために倉敷市へ。「ちゅうぎんフィナンシャルグループ」さんでは、いつも6か所で講演会を開催していて、講師は6都市(倉敷、福山、津山、笠岡、岡山、高松)をぐるぐる回る。ワシはとうとう2周目に突入した。
〇とはいえ、ここ数年はコロナ感染により「突如中止」みたいなこともある。ワシの場合は、一昨年がドタキャンであった。講師によっては「2年連続中止」の憂き目に遭う人もいるとのことである。いやもう、「緊急事態宣言」とか「まん防」とか、いい加減忘れたいですなあ。
〇倉敷市の会場は倉敷アイビースクエアである。もともと倉敷紡績所の工場を使ってできた建物で、赤煉瓦の外観とそれに植えられたツタ(アイビー)の風情がすばらしい。数年前に新しい宴会場ができて、今回初めて体験したのだが、木材をたくさん使ったいかにも今風の建物である。今年はG7労働相会合が行われるのだが、7年前と同じ場所が選ばれたというのは非常に珍しいケースであるとのこと。
〇ご当地は観光資源が豊富である。お堀のある美観地区や大原美術館などは行ったことがあるけれども、大山名人記念館はまだ行ったことがない。今日は締め切りもあるのでバタバタと帰ってきてしまったが、次からはもう少し寄り道ができるようにしたいものである。
<1月13日>(金)
〇最近ちょっと感じていること。今の日本企業には「ジョブ型」と「メンバーシップ型」の2つの人事制度が混在しているのではないだろうか。
〇日本企業の多くは、もともとがメンバーシップ型である。終身雇用、年功序列、滅私奉公、社畜の幸せ、というパターンである。ワシなんぞは会社に入って40年近くになるが、今でも同期入社の連中(もうほとんど会社には残っていない)と呑み始めると、一瞬で昔に戻ってしまう。よきにつけ悪しきにつけ、日本の会社ってそういうところであった。
〇ところが今や有名企業でも、「新入社員は10年たったら×割は辞める」時代である。まあ、それはそうだろう。転職サービスのCMが多いのを見ているだけでもそれは感じる。モチベーションが高くて、優秀なやつほど辞めてしまう。彼らの意識は既にジョブ型に移行しているのであろう。
〇世代的に上の方はメンバーシップ型で、下の方がジョブ型になっている。すると下がどんどん入れ替わる一方で、上の方が滞留する傾向になる。これは組織としてはよろしくない傾向である。なるべくなら下の世代にマネジメントをやらせて、上の世代に大事なことはさせたくないからだ。そりゃあ伸び代がある方を大事にするのが、組織としては当然である。
〇ところがなんだかんだで、「知らないろくでなしより、知っているろくでなし」の方が優先されてしまうのが世の習いである。メンバーシップ型の結束は固いのだ。結果として辞めてほしい年寄りがなかなか辞めてくれず、辞めてほしくない若手がどんどん辞めていく。これ、組織としてはつらいっすよね。
〇しかも日本企業というのは、同じ業界でもさほど仕事が標準化されておらず、「会社が違うと言葉も違う」みたいなことがある。これが海外であれば、MBAを持ってる人たちなんかがビジネスの仕方をある程度標準化してくれるので、会社を移動するコストが低下する。だから転職はなかなか報われない。日本の場合は、結局、今の世代が一巡するまでは変わらないのかもしれませんな。
〇そういう意味では、岸田政権が企業に対して声をからして「賃上げを!」と言っているのは痛い構図だあ、と感じる。賃上げがなければ所得が増えないと思っているのは、メンバーシップ型の上の世代である。下の世代は、「いいっすよ、そんなに無理しなくても。自分の待遇改善は転職で勝ち得ますから」と思っているのではないだろうか。
〇つまり「賃上げを!」というのはオヤジ世代の発想ということになる。しかるに今さら定年延長のオヤジ世代など、賃金を上げてやる必要などないのである。彼らは「会社に居られるだけで幸せ」なんだから。投資すべきは若い世代です。いいじゃないですか、辞められてしまっても。
〇以上、すべて自分のことは棚に上げての妄言でありました。どっとはらい。
<1月15日>(日)
〇ご近所さんから聞いた話。コロナで時間を持て余し、何か一人でできる趣味はないかと考えて、若い頃の夢だったバイクの免許を取得しようとする。と言っても、正直に言えば家族に反対されるに決まっているので、黙ってこっそり教習所に通う。
〇教習所に行ってみたら、教わる方も教える方も自分よりは年下であった。これは普段、味わえない新鮮な感覚である。のみならず、年下の教官に「今の駄目です。やり直し!」などと言われても、ムカッと来てはいけない。ということで、ドキドキしながら通う。
〇その後、めでたく免許を得て、その旨を家族にもカミングアウトする。だからと言って、すぐさまバイクを買う予定はない。今はお店で見て回るのが楽しくて仕方がない。なにしろ昨今は中古バイクも結構需要が高くて、それで下取りサービスが繁栄しているくらいだから。
〇なるほど、年を取ってから何かを学ぶというのはいいことかもしれない。政府に「リスキリング」などと言われると腹が立つけどね。だからと言って、今から急に楽器を学んだりしても、上手くはならんだろうな。ああいうものは、子どもの頃にやって、ある程度下地のあるものでないとねえ。
〇そうだねえ、スキーをやってみるのもいいかなあ。ただしこの週末も、ワシは明日の資料作りと外交の勉強会と競馬で過ごしてしまっておる。そっちも面白いから、仕方がないんだけどね。
<1月16日>(月)
〇本日は日米経済協議会のスタッフミーティングで、昨今の米国情勢や日米関係についてプレゼンする。いやー、こんなにやりにくい講演会はめずらしいですぞ。「アンタたちの方がよっぽど詳しいでしょ!」と言いたくなるようなベテランが大勢いるんだもん。それにしても、お互いに長いことこの仕事をやっておりますなあ、ご同輩。終わってからホッとしましたよ。
〇で、昨今の米国政治である。2023年が始まってまだ半月。それでもなんと目まぐるしい変化が起きていることか。特に足元は「バイデンさんの機密文書漏洩問題」である。これはもう炎上必至でありますな。先週の岸田首相との日米首脳会談の後に、共同記者会見が開かれなかったのもたぶんこれが原因です。
〇実際に日米首脳会談の冒頭に、アメリカ側の記者が「機密文書は?!」などと尋ねるものだから、岸田さんがビックリされてましたな。日本で似たような状況があったとして、朝日新聞の記者が安倍首相に向かって「モリカケはどうなっているんですか?!」と聞いたら、周囲は「これこれ、アメリカ大統領がいる前で、なんという失礼なことを!」となるでしょう。彼らはそうじゃないんです。どっちがいいかは別問題ですが。
〇真面目な話、これで司法省の出方が難しくなりました。いちおう特別検察官に「外注」してはいるのですが、最後はガーランド司法長官の責任です。理屈上、@トランプとバイデンの両方を起訴する、Aトランプを起訴してバイデンを起訴しない、Bトランプは起訴せず、バイデンを起訴する、Cトランプもバイデンも両方起訴しない、という4択があり得ます。とりあえずAとBはないでしょう。@かCしかないですから、たぶんCになるのでありましょう。
〇しかしトランプさんとバイデンさんでは、問題の悪質さが全然違います。(1)トランプさんの方が隠し持っていた量が多い。(2)司法省から求められても提出しなかった。(3)召喚状にも応じていない。(4)マー・ア・ラゴのご自宅をFBIが強制捜査してやっと見つかった。(5)なおかつ反省の色がない。逆にバイデンさんの方は、ワシントンの事務所やデラウエアの書斎や自宅から機密文書が出てきたが、「つい、うっかり」であるようで、捜査にも協力的である。これを「五十歩百歩」だと言ってはいかんでしょう。
〇それでもバイデンさんは現職の大統領であり、去年、トランプ前大統領をこの問題でさんざん非難したという経緯がある。共和党側は当然、そのことを責めてくる。本当は中間選挙の前に知っていたんじゃないですか、などと。こうなると限りなく「どっちもどっち」なので、さすがにこの問題でトランプさんを追及するのは難しくなりました。もちろん、トランプさんを起訴するネタはほかにもいっぱいありますけどね(「1月6日」の扇動罪、2020年選挙集計への介入など)。
〇バイデンさんは、去年の中間選挙の後にメディアに対し、「民主主義にとって良い結果だった」とコメントし、ご自身の再選については「前向きに検討しているが、家族とも相談しなければならないので、年明けに最終判断する」と言っている。しかも一般教書演説は2月7日の予定である。さすがにその前には「出馬するかどうか」を明言しなければならないだろう。でないと格好がつかない。
〇いや、もちろんバイデンさんは再選出馬宣言はするでしょう。そうでないと、向こう2年間が長過ぎる空白になってしまうから。ただし「今さらどの面下げて」みたいな感じはありますな。こうなるとタイミングが難しい。とりあえず5月に広島G7サミットに出席した後に、ついでに長崎にも寄る、みたいな贅沢は難しくなりました。
〇民主党内部で言うと、左派はむしろバイデンに再選を目指してもらいたい。2024年に新たな候補者を出すにしても、バーニー・サンダースとエリザベス・ウォーレンはちょっと年がいっているし、AOCことアレクサンドリア・オカシオ=コルテスはさすがに若過ぎるし。だったら今のままバイデン大統領の方がいい。他方、民主党支持者の中では「もっと若い候補者を」「次こそは女性を」という声が少なくないはずだ。
〇もちろんこの問題には「共和党は次は誰で来るんだ?」という要素にもかかわってくる。いろいろ楽しませてくれますね、2024年選挙は。
<1月17日>(火)
〇どうにも不思議に感じられて仕方がないのだが、昨年末に閣議決定された「防衛3文書」。左派方面からあまり批判が聞こえてこないのはなぜなんだろう。2015年の平和安保法制よりもずっと踏み込んでいるのに、あの時反対していた人たちは今何をしているのだろう?以下のうちから正しいと思うものを選べ。
@読んでないし、関心もないし、そもそも理解できてない。
A安倍首相は危険極まりない存在だったが、岸田首相は心配ないと思っている。
Bウクライナ戦争後はさすがに現実に目覚めた。自分たちが何か言っても、たちどころに高橋杉雄や小泉悠に論破されてしまいそうだから。
Cやっぱり中国や北朝鮮は怖いと思い始めている。
〇いやもう、ワシの鈍い頭ではまったく見当が付きません。来週、国会が開いたら少しは反論が来るんでしょうか?「米防衛産業からトマホークの不良在庫を買わされる」みたいなピント外れの反論はたまに聞くんですが、まともな安保専門家が傾聴すべきような議論は少ないですな。
〇どうやら立憲民主党も、「反撃能力の保持」に対して反撃するつもりはないらしい。それはむしろ望ましいことで、自民党側からすれば、野党第一党が「反撃能力」を否定してくれれば、「ほら、やっぱりあの人たちはねえ・・・」と安心することができる。しかしそれでは政権交代の可能性がなくなってしまうし、自民党に緊張感が生まれないことになる。
〇野党としては、「防衛3文書はいいけど、増税はダメだ」みたいに搦め手から攻めるのも一案かもしれません。とにかく、「軍事の役割をなくすことこそが政治の責任、外交の役目!キリッ」てなキレイごとの議論は辞めてほしいんですよね。さすがにそれは2023年の状況では現実味ないから。そんなポジションは、日本共産党に任せておけばいい話だと思います。
<1月18日>(水)
〇本日の金融政策決定会合は「現状維持」でこともなし。結果として円安・株高。とりあえず1月は良かったけど、3月のMPMは大変そうです。今後の日程をチェックしておきましょう。
1月23日(月) 通常国会を召集
2月10日(金) 政府が国会に対して日銀総裁副総裁の同意人事を公表
3月9‐10日 黒田総裁の下での最後の金融政策決定会合
3月19日(日) 雨宮、若田部副総裁の任期切れ
4月8日(土) 黒田総裁の任期切れ
4月27‐28日 新総裁の下での初の金融政策決定会合
〇とりあえず今回は「12月の決定の様子を見る」ということで凌げたけれども、次回はそういうわけにはいかない。黒田総裁にとっては、引退会見を兼ねる会合で、「YCC、どうするんですか、廃止ですか、変動幅の再拡大ですか、それとも年限の短期化ですか?」と迫られることになる。
〇岸田さんとしては、自分はあまり関与していない感じで物事が進むのが望ましい。新総裁の人事も、「事前の予想通り」に落ち着くのではないでしょうか。政府と日銀の政策協定も、このままさわらずに放っておく方がよさそうです。安倍派の反発を招いたり、市場が急変したりすると文字通りの「ヤブヘビ」になってしまいますから。
〇「アベノミクスはいつの間にか終わっていたけど、それは日銀が勝手に決めたこと」というのが、政治サイドから見たベストシナリオということになりそうです。
<1月19日>(木)
〇あらためて考えてみると不思議なのである。それは『孤独のグルメ』における井之頭五郎氏の行動パターンである。
〇井之頭氏は個人で輸入雑貨商をやっている。いつも「ぼっちメシ」がデフォルトである。そして新たな顧客を訪ねては見知らぬ土地へ行き、商談が終わった後に唐突に、「腹が、減った!」と気づく。そこで「そうだ、店を探そう」と決意する。見知らぬ土地でランチのために、孤独な独り旅が始まる。毎回変わらないのがこのパターンである。
〇ここで五郎さんは、スマホで「食べログ」を検索したりはしない(そのせいか、今でもガラケーを使っている)。「日高屋かサイゼリアなら安心だ」などとチェーン店に逃げることもしない。「そうだ、ここからなら以前行ったあの店が近い」などといった安全策もとらない。あくまで直観だけを頼りに、自分のお腹と相談しながら飛び込みで店に入るのである。人は中年を過ぎると、だんだん食に関しては保守的になるものだが、この冒険心、見習うべきである。
〇しかるに普通はこういうとき、人は確率5割以上で「はずれ」を引くものである。なにしろ空腹時の直観ほど当てにならないものはない。知らない店に飛び込みで入って、「まずかった」「高かった」「思っていたのと違った」「店員が塩対応だった」「不衛生な店だった」「隣の席にとっても怖い人が居た」などの経験は、きっとどなたもがお持ちのことと推察する。
〇ところが五郎さんは、いつも不思議なくらい「当たり」を引いてしまう。そして、「こういうのがいいんだよ」などとご満悦になる。最近はどうかすると、二皿目も注文してしまう。どう見ても一食に5000円くらいかけている日もある。いくら松重豊さんが大男であるからといって、ここまで来るとさすがに嘘くさい。「いつもテレ東が外注したスタッフが、『当たり』の店を探してくれるからいいよねえ〜」などと考えてしまう。
〇ところでコロナ前であれば、こういう行動パターンも不思議はなかった。「どれ、とりあえずここでメシ食っていくかあ〜」みたいなことがごく普通にあった。皆で連れ立ってランチ、みたいな機会も多かった。こういう状況であれば、新規の外食産業にとっても参入障壁が少なかったことになる。
〇ところがコロナの上陸と共に、「外食すること」が冒険みたいな世の中が到来してしまった。それこそ2020年頃には「出歩くこと」自体が罪深いこととされ、他県ナンバーのクルマがパージされたりしたくらいである。あの暗い日々のこと、忘れてませんよね。「一緒にメシ行こうか」という言葉さえ言いにくくなってしまった。
〇こうなると飲食店にとっては試練の日々となる。客が減るから、店を維持すること自体が大変だし、店員さんたちも辞めちゃうし、モチベーションも低下する。この3年間で、なくなった店はたくさんありますわな。人知れず退出した人たちがどれだけ居たことか。それだけではなく、外食産業への新規参入もきっと減ったはずである。
〇他方、メシを食う側としても、たまに外食のチャンスがあると、「あの店はまだ大丈夫か?」てなことが心配になり、ついつい馴染みの店に通ってしまう。そうすると、いつも同じようなところに通っていて、なかなか冒険をする機会が訪れない。五郎さんのように、「飛び込み」だなんて、いやもうまったく信じられない。
〇今日はたまたま赤坂に用事があって、お昼をどうしようかと考えた挙句、「鮨兆」や「天茂」というアイデアはさすがに却下したものの、結局「まさむね」に入ってしまった。だって美味いんだもん、あそこのとんかつは。岩塩との相性がいいんだよなあ。ああ、結局、今日も冒険を避けてしまった。
〇「まさむね」を出たら、目の前の旧日商岩井ビルが取り壊された後に、新しいビルが5階くらいまで建設中であった。ああ、世の中はどんどん変わっていく。赤坂の景色も変わってしまうのである。このうえ冒険する気持ちを失ってしまったら、本当に変化に追いつけなくなってしまうだろう。コロナ下の世の中は、こういう点でもわれわれに試練を強いている。
<1月20日>(金)
〇今年のアメリカ政治における最大の焦点は、債務上限問題ではないかと思う。イエレン財務長官によれば、ちょうど昨日、上限であるところの31.4兆ドルに達した模様。これから先は、米財務省があらゆる手練手管を使って資金ショートを防いでいくのであるが、6月上旬くらいにいよいよ誤魔化しきれない瞬間がやってくる。これは税収の多寡や米国債の支払金利などにもよるので、前倒しもあれば後ろ倒しもある。まあ、いつものチキンレースである。
〇アメリカ政府が資金ショートになって、米国債がデフォルトするというのはほとんどの人にとっては「悪い冗談」である。世界で最も安全なはずの金融資産が、突如として紙くずになってしまうのであるから、これはもう国際金融界にとっては悪夢そのもの。それでも米連邦議会というのは魑魅魍魎が跋扈する世界なので、ときどき発作的にそういうこともありまっせ、というのはこの世界における「初歩」である。
〇前回の卯年であるところの2011年夏には、やはり債務上限問題をめぐる与野党対立がヒートアップした。そのときは史上初めて、米国債が格下げになってしまった。ムーディーズはトリプルA(Aaa)を維持したが、S&P社がAA+に下げてしまったのだ。そうなればドル金利は上がるし、米国債の担保価値は下がるし、市場には筆舌に尽くしがたい混乱状況が訪れた。もうあんな馬鹿なことは2度と起こるまいと思ったのであるが、干支が一回りする頃にはみんな忘れてしまっているようである。
〇2011年と2023年を比較してみるといろいろ面白い。2011年当時には、債務上限は14.3兆ドルであった。なんと今の半分以下である。当時はそれで大騒ぎしていたし、実際に欧州は債務危機であったから、間違っていたわけではないのであろう。日本では東日本大震災があって、震災復興税が導入された時期である。その翌年には、野田政権下で2段階の消費増税が決まる。2008年にリーマンショックがあったことにより、「金融危機の後は財政危機が来る」ということがしきりと語られていたのである。
〇アメリカにおいても、国際金融危機のために大型の財政刺激策が取られ、なおかつ当時の米民主党政権は「オバマケア」を成立させた。このことが財政状態を悪化されるという危機意識が働いて、2010年の中間選挙では「ティーパーティー」と呼ばれる過激な共和党議員が多数誕生した。2011年の議会においては、彼らが強烈な瀬戸際戦術を駆使してオバマ政権に挑戦した。余計なことながら、当時のことを思う出そうとすると、なかなか適当な資料が見当たらないのだが、自分がその頃に書いた溜池通信の記事が役に立ったりする。
〇2023年の場合は、コロナ危機対策で何度も大型の財政刺激策が取られた後で、それによるインフレも猖獗を極めている。2020年から22年前にかけての財政出動額は、ざっくり7兆ドルに達する。そして今回は「フリーダムコーカス」と呼ばれる過激な共和党議員たちが火付け役である。となると、これはもう歴史の記憶というかDNAというのか、是非に及ばず、という気がしてくる。今年はやはり、債務上限問題でひやひやさせられるべき年なのだ。
〇ちなみに米財務省には「とっておきの秘策」があって、それは米造幣局に命じて「1兆ドルのコイン」を作らせることである。そのコインをFRBに預ければ、1兆ドルの資金を調達できる。もっともこの可能性、イエレン議長は「そんなギミックはダメ!」と言明しているらしい。真面目な方ですからねえ。
〇ということで、今年の米国政治はこれが最大のリスクとなりましょう。2022年財政年度では、歳入が4.9兆ドルで歳出が6.3兆ドル。差し引き1.4兆ドルの財政赤字である。日本も全然他人のことを言えた義理ではありませぬが、「パンデミックの後は財政危機が来る」というのもいかにもありそうな話ですから、もうMMTなどという寝ぼけた話をしている場合ではありませぬ。この点、最近の日本も金利上昇に対する警戒がやや薄いような気がいたします。
<1月22日>(日)
〇元大関の朝乃山が14勝1敗の成績で、めでたく十両で優勝しました。幕内で初優勝して、「国賓」のトランプ大統領から巨大なトロフィーをもらったのは、令和元年5月のこと。「6場所出場停止」の処分を受けて、復帰からようやく4場所め。今ごろ富山市内は盛り上がっていることでしょう。「年内に三役」がとりあえずの目標ですかね。
〇この週末は仕事に精を出す。それでも競馬だけは手を出す。今日はメインの東海S(G2)とAJCC杯(G2)のみ。すると心掛けが良かったのか、前者は馬連で後者は三連複ゲット。いやいや、金額が小さいので大したことはないです。でも気分はいいです。ユーバーレーベンとデムーロ騎手に感謝。
〇新型コロナは「2類から5類へ」の議論が進んでいるとのこと。まことに結構なことで、これもめでたい。最近の「検討使」は、なかなかに動きが早いではないですか。ぜひ新学期に間に合うように決断していただきたい。「マスク・マンデート」はまもなく丸3年。そろそろ限界ですがな。
〇アジア圏では「春節」もしくは「旧正月」。中国は「ゼロ・コロナ」から一気に「フル・コロナ」に突入し、「既に11億人が感染か」などという報道もあり。しかしまあ、こんな事態になるのであれば、「中国製ワクチン」っていうのはいったい何だったんでしょう? ちなみにジョンズ・ホプキンズ大学のデータを見ると、中国の感染者数は488万人、死者数はわずかに1万8470人となっているのでありますが。
<1月23日>(月)
〇今朝は今年初めてのモーサテに出演。テーマは「2023年の通常国会を展望」。やはり市場の関心事は日銀人事。そして肝心なのはG7広島サミット。今日の経済進展は「米債務上限 2011−2023」としました。
〇お昼はYくん、Sくんと西新橋のウクライナ料理スマチノーゴへ。「予約は要らないだろう」だと思っておりましたが、お昼はかなりにぎわっておりましたな。本日はロールキャベツをいただきました。お店の方たちの日本語が、どんどん上手になってきたような。
〇夕方から双日建材主催の新春賀詞交歓会へ。今年は3年ぶりに復活して、全日空インターコンチネンタルホテルで開催の運びとなり、不肖かんべえの新春講演会も復活しました。3年ぶりのお懐かしい方々と再会を果たす。「今年の日本経済は『小吉』のおみくじ」といういつものネタなのだが、今日は『中吉』に格上げする。インバウンドがやけに好調なようなので。
〇今宵はホテルの宴会場が大変な盛況ぶりで、やはり今年の日本経済は「モノからサービスへ」でありますな。バンケットサービスの社長さんに伺ったところ、この3年間は本当に大変だったとのこと。そんな中でも、しっかり人材を確保していた会社が良くなっているようです。
〇木材業界では「ウッドショック」が解消し、ようやく北洋材などが入ってくるようになった由。ところが為替の急激な変動があり、住宅ローン金利の上昇があり、あるいはロシア材が入ってこなくなって困るとか、「脱・炭素」を目指さなきゃいけないとか、いろいろ課題が尽きないようです。
〇終わってから外交政策の勉強会へ。うーむ、われながら朝から夜までよく働くわ。それでもコロナで逼塞していた時期を思えば、こんな風にいろんな人と交流できる日はまことにありがたい。ましてメシ付きだし。感謝と共に就寝である。
<1月24日>(火)
〇本日は「むさし府中商工会議所」の新春講演会に呼んでもらう。最寄り駅は東府中駅であるが、そもそもワシは京王線というものに乗ったことがほとんどない。ものめずらしく、新宿駅から夕方の帰宅乗客と共に下り列車に乗ってみる。人身事故があったとのことでダイヤは乱れているが、まあ時間に余裕があるので各駅停車にて。
〇それにしても、なぜ府中には「むさし」が付くのか。単に「府中商工会議所」でいいではないか、と思ったら、これは広島県にも府中市があり、そっちの方がほんのわずかに登録が早かったからなのだそうだ。なんと府中市では、税務署まで「武蔵府中税務署」、郵便局も「武蔵府中郵便局」になっているのである。
〇しかし府中と言ったら、全国的に有名なのは圧倒的に東京都の方の府中市であろう。昔から「一務所二馬身三億円」と言って、府中市は名物に事欠かないのである(府中刑務所、府中競馬場、三億円事件)。それだけではない。東芝府中にサントリー武蔵野ビール工場、大國魂神社にくらやみ祭り、多磨霊園(多摩霊園にあらず)などもある。リーチ・マイケルだっているのだぞ。
〇ということで、仕事の方はつつがなく終了。ちなみに、むさし府中商工会議所の会頭さんとは、共通の友人であるところの長島昭久さんの話で盛り上がりました。
〇そこまではよかったのだが、問題は帰りみちであった。府中本町駅まで送ってもらい、武蔵野線で帰るのがよろしかろう(府中競馬場からの帰りコースなので)と思ったのだが、なんと強風のために武蔵野線が止まっておる。泣くなく南武線で立川駅に出たのだが、そこから中央線に乗り換えるとこの時間は快速という名の各駅停車である。駅に止まるたびに吹き込む今宵の風のなんと寒さよ。
〇さらに新宿駅で乗り換えようとしたら、山手線外回り線は神田駅ドア故障のために停車中であるとのこと。仕方がないから再び中央線に乗り換えて、御茶ノ水駅から秋葉原に出て、そして上野駅へ。すると案の定、常磐線も強風によりダイヤ乱れである。ううむ、こんなときまで「感染防止のために窓開けにご協力ください」は勘弁してほしい。
〇結局、柏駅まで2時間の旅であった。ううむ、首都圏を縦横無尽に駆け巡った感あり。明日はゆっくり資料作りでもしよう。
<1月25日>(水)
〇東洋経済オンラインで連載を一緒にやっている山崎元さんが、がん体験をカミングアウトされました。これは一読の価値あり、です。
●山崎元、癌になってみて考えた。「どうでもいいこと」と「持ち時間」
〇「『判断できる自分の能力と時間』が無い場合は、情報収集自体に意味がない」とか、「『病気の現状はサンクコスト(埋没費用)だ』と思うことがすんなり出来た」など、いかにも山崎さんらしい割り切った分析が随所に顔を出す。いつものマネー診断の記事のように、自分の病気のことを客観視できている。自分だったら、きっと例の「五段階」(否認→怒り→取引→うつ→受容)をぐるぐる回り続けてしまうだろうと思う。
〇癌と診断された時に、気になったのが「髪の毛」と「酒」だった、というのも、経験者ならではのリアリティである。当欄の1月11日に山崎さんのオフィスに伺った話を書いたけど、あのときに見た感じでは確かに頭髪は少し寂しくなってましたが、そんなにすごい変化ではなかったです。それからお酒をやめた代わりにおいしい玄米茶を飲んでおられました。お土産に頂戴した分は、日曜日の午後3時(つまり競馬をやっている聖なる時間)に淹れておりまする。
〇人生の「持ち時間」というのは、さすがにこの年になると意識する機会が増えてきます。そうは言っても、考えた挙句に「まあ、まだいいか」となってしまうことが多いです。山崎さんのこの記事、ときどき読み返すようにしたいと思います。
<1月26日>(木)
〇さる人いわく。「今がリーマンショック前夜のような気がして仕方がないんですよねえ。でも、それを言うと、『金融システムは安定しているし、ガバナンスも改善しています』などと皆に否定されちゃうんです」と。
〇それに対して別の人がいわく。「理屈からいえば金融危機はあり得ないんですが、でも経済って基本的に何が起きるかわかんないですから。危機は起きて初めてわかるものなので。今回も同じかもしれません」
〇なんとも無責任な会話に聞こえるが、言われてみれば確かにそんな気もする。コロナ後の世界では、各国が競うように金融緩和と財政刺激策をやっちゃって、どこかにひずみができていても不思議はない。問題はパンデミックの終結後にどういう形で表れるのか。
〇これが株式バブルであれば投資家が、住宅バブルであれば家を買った人たちが儲けている。それがバブル崩壊とともに損をする。だったら今回の局面で、いちばん儲けていたのは誰なのだろう?
〇それは各国政府なんじゃないだろうか。これまでは超低金利で市場のおカネを吸い上げることができたけど、それっていつまで続けられるのか。今すぐということではないにせよ、数年以内には債務危機みたいなことが起きるのではないだろうか。
〇などと考えてみると、次の日銀総裁はつくづく大変そうである。はてさて、どなたが引き受けられるのでしょうか。
<1月27日>(金)
〇欧米からウクライナへ戦車を送る話がバタバタと決まりました。しかしなんでこのタイミングで?とあらためて考えてみると不思議な気がします。実はロシア軍が春先の大攻勢を予定していて、そのことを米インテリジェンスがキャッチしたから、というのは考えすぎでしょうか。
〇われわれの認識は昨年秋時点のウクライナ側が攻勢に立っていた時点で止まっていて、その後は冬将軍もあって膠着状況となっている。そしてウクライナ側の戦意は高く、こうなったらクリミアも取り戻さないと止まず、となっている。この1年で急速に国民国家として団結しつつある。
〇しかるにロシア側も兵力を増強し、乾坤一擲の反撃を狙っている様子。ロシアとウクライナの間には、長いDVの歴史がある。「このままで終われるものか!?」という気持ちは、ロシア側でも意外と幅広くあるのかもしれない。
〇先日、プーチン大統領の手による『ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について』を山形浩生さんの訳で読んだのですが、ひどく気持ち悪いなと感じました。プーチンは「格下」と見なしていたウクライナに見捨てられたと感じ、そのくせウクライナの一人当たりGDPが低い貧乏国であることに怒っている。ああいう不条理なところがまことにDVらしく感じられます。
〇そうなると春ごろには戦況が大きく変わっている可能性がありますな。5月の広島G7サミットの時には果たしてどうなっていることか。まして核兵器が使われてしまった日には、「広島でのサミット」の意味あいが大きく変わってしまいかねない。いろんなケースがあり得ますので、岸田さんはご注意なされまし。
<1月28日>(土)
〇岐阜県の下呂温泉に来ている。地元の益田信用組合さんの「益信経済クラブ」の講演会講師である。益田信用組合は「ました」と呼ぶ。島根県益田市には、同じ名前の益子信用組合があるけれども、そっちは「ますだ」で呼び方が違っている。ちなみに益信経済クラブのことは「まししん」ではなく、「ますしん」と呼ぶらしい。「日本語あるある」の世界でありますな。
〇下呂温泉と言えば、子どもの頃に1回来たことがある。というか、富山県民は基本的に飛騨地方が好きですから。ドライブとなると国道41号線となる。数河高原なんていったい何回行ったことか。最近では飛騨高山が世界的に有名になっているし、それから「スーパーカミオカンデ」もあったりする。下呂温泉もマーケティングがうまくいっていて、観光地としては好調なんだそうだ。
〇ということで、講演会の後の宴席もフルにお付き合いして、水明館というかなーりいいお宿に泊めていただくことになった。エコノミスト業界は「宴席苦手」という人が少なくないようだが、ワシ的には全然オッケーなので、地元の経済界の方々とのお話が大変面白かった。
〇とはいうものの、ですな。高山線で下呂市に向かう途中で携帯電話が鳴って、それがワシが全く忘れていた原稿の督促なのであった。いやもう、情けないことに、申し訳ないことにまったく忘れてた。いつまで待てるのかと聞いたら、明日の朝までは待てますという。しょうがないからこれから書かねばなるまい。まあ、仕方がない。その前に温泉に浸かってくるとしよう。せっかくだから。間もなく花火も打ちあがるということなので。
<1月29日>(日)
〇ということで、昨夜は温泉にちゃちゃっと浸かって、原稿はちゃんと書き上げて送って、ほっとしてハイボールを一杯飲んだらそのまま爆睡してしまった。目が覚めたら旅館の朝食が待っていて、しまった、朝風呂に入る時間がなかった。
〇下呂温泉はかつてのような団体客はさすがに細っているけれども、個人客がちゃんとついていて、観光地としてのブランディングに成功している様子である。同じ飛騨地方でも、インバウンドが大成功を収めてしまった高山市の方が、今は苦戦しているのかもしれない。だったらどうやって個人客を得るのかというと、そこはDXとかエコツーリズムとか、今風のノウハウがいろいろとあるらしい。
〇和風の温泉旅館のサービスというものは、仲居さんが部屋に入ってきてお茶を入れてくれるとか、女将さんがわざわざ挨拶にみえるとか、最近は面倒だと感じる向きが少なくないようである。それでも、「これはこういうものだ」と思えば存外に快適なものである。帰り際、「電車の中でどうぞ」とパックに入った熱いお茶を渡されときには、そこはじーんと来るものがあるのであります。
〇強いて下呂温泉の弱点を探すならば、高山本線の特急の本数が少ないことでありましょう。もっとも利便性が高まってしまうと、それはそれで温泉の値打ちが下がってしまう恐れもある。今の世の中、なにしろ電車の中で競馬までできてしまうのである。それって、果たしていいことなのかどうなのか。
〇今日の小倉11R巌流島ステークスで、久々に大きめの万馬券が取れてしまった。これもまた温泉のご利益ということにしておきましょう。
<1月30日>(月)
〇ウクライナ向けの戦車提供問題で、米欧は何とか折り合いをつけた様子である。それは大いに結構なことで、足元の米欧間には地雷が一杯埋まっている。
〇少し前のThe Economist誌が、「Zero-sum」というカバーストーリーで取り上げていたけれども、アメリカが「インフレ抑制法案」を使って、国内のグリーン産業に補助金をばらまいていることに対して欧州は怒っている。要は「ズルいじゃん!」という話だが、これがなぜ日本で問題にならないかというと、そもそも日本では気候変動問題に対する意識が欧州ほど高くないし、EVだってもともと出遅れているので、「ここで勝負せねば!」みたいな強迫観念が薄いからであろう。
〇逆に欧州は、「脱・炭素こそが次世代のカギを握る!」と思い込んでいるから、「次世代のグリーン産業はアメリカのものですよ」と言わんばかりのバイデン政権の姿勢に腹がたつのであろう。もちろんEUとしては、どこかの国のEV産業に補助金を投じようとすればかならず喧嘩になるし、各国政府に対してそれを認めるわけにもいかない。辛いところなのである。
〇その点、日本勢があまり焦っていないのは面白い。何しろわれらがトヨタ自動車さんは、これまでもさんざん「後出しじゃんけん」で勝ってきた会社なので、新分野で他社に先行されることに対して焦りがない。確かに、「先行逃げ切り」はプラットフォーム企業などIT分野の専売特許で、モノづくりの世界は意外と「追い込み型」が勝ってきた歴史がある。おそらくは「EVなんて慌てることないっすよ〜」と考えているのでしょう。
〇それはさておいて、ウクライナ支援ではしっかり息があってきた米欧関係は、経済やグリーンではかならずしも一致しない。このことは、広島G7サミットなどでも噴出しかねず、自由主義陣営の結束はかならずしも万全ではない。議長国・日本としてはここは警戒を要するところである。
〇もっともそれを言い出したら、日米間もホントに息が合うかどうかは怪しいところがある。今のバイデン政権には、以下のような危うさがある。
@日本がせっかく防衛費を増やすと言っているのに、アメリカは共和党内で「フリーダム・コーカス」の力が強まっていて、下手をすれば今後、防衛予算を削減してしまいかねない。何しろ債務上限問題の先行きが怪しいくらいなので、これはリアルな話である。でもそうなったら、日本国内の左翼は「岸田政権はアメリカの肩代わりをさせられている!」と息まくだろう。ホントは違うんだけどね。
Aバイデン政権は、「民主主義対専制主義」などという二項対立を煽りたがる。これは民主党支持者の悪い癖だが、その結果として「フレンド・ショアリング」などという筋悪のアイデアを振りかざす。民主主義国同士でサプライチェーンを構築し、中国やロシアは排除しましょう、てな発想だが、「誰が民主主義で誰が友好国かは、このアメリカ様が決める!」と言わんばかりの態度は、そもそも「フレンドリー」とは言い難い。たぶん東南アジアは敵に回すよね。中国はそんな無粋なこと言わないもん。
Bしかもバイデン政権は、「ミドルクラスのためのアメリカ外交」をモットーに掲げているから、対外関係でケチである。市場開放などもってのほか。ゆえにIPEFは当然、うまくいかないだろう。もっともそれを言い出したら、「インフレ抑制法案」も同じ理屈である。「トランプ支持者になってしまった白人ブルーカラー層を取り戻さねばならない!」という邪心があるから、今のアメリカ外交は自由貿易交渉にも戻れない。ホントはCPTPPに戻ってくれればいいんですけどねえ。
〇てなことで、自由主義陣営としても難しいことはいっぱいありまする。調整役として、日本外交が果たすべき役割はまことに大きいと思います。
<1月31日>(火)
〇今朝の産経新聞に、少々物議を醸しそうなことを書いてみた。
●経済と安保の「中庸」を模索せよ
〇多少は反響があるかもしれんなあ、と覚悟していたのであるが、拙稿に対して朝から誰も何とも言ってくれない。うーむ、読まれていないのかなあ、と心細い思いをしていたら、夜の会合でご一緒したF先生が、「今朝、読みましたよ」と言ってくれたのでホッとした。
〇要は、「こういう時代ですから、経済安全保障は大事ですよね」と言われると反論できない昨今の風潮の中で、経済界のホンネを吐いてみたつもりである。アメリカ企業は政府に対して遠慮なく、対中規制は、"small yard, high fence"(壁は高くするけど、規制領域は狭く)と主張するのだけれども、日本企業は過度に忖度して自主規制してしまうので、こういう世の中になるとかえって心配です。
〇何よりそんなことで自国の経済を弱めてしまうと、結果的に中国に対抗できなくなってしまう。物事はなんでも限度というものがあるので、安全保障と経済の間で「頃合い」「折り合い」を求めるべきでしょう、ということになる。そこで結語の部分はこんな風にいたしました。
つまるところ官民が協力して、経済と安全保障の「ハッピー・ミディアム(中庸)」を模索するしかない。国家としての安全を担保しつつ、経済のパフォーマンスを最大化する、それが「21世紀版の富国強兵」を目指す道になるものと考える次第である。(よしざき たつひこ)
〇経済脳と安保脳の間で"Happy Medium"を探るというのは、これぞ当・溜池通信のミッションではないかなあ、と思うのであります。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki