●かんべえの不規則発言





2002年10月 ニュージーランド出張編







<10月14日>(月)

○バリ島の連続爆破事件。今朝の報道で187人死亡とある。エライことですよ。連休中とはいえ、どうもこの手の事件になると日本の反応が鈍いのが心配である。小泉首相、すぐに安保会議を招集せよとは言わないが、ちゃんとテロを批判する声明を出しておいてくれよ。ついさっき、ネット上のニュースを見たら、アサヒコムのトップは「カブレラ、新記録ならず」であった。大馬鹿モノである。ちなみに「よみうりオンライン」と「日経ネット」は、ちゃんとバリ島爆弾テロをトップにしていた。マスコミはちゃんと仕事してくれよ。でも明日は休刊日である。

○爆破されたのはディスコだけじゃなくて、アメリカの名誉領事館近くとフィリピン総領事近くもだ。犯行声明はまだないらしいが、どこから見ても「テロ」と書いてあるような事件である。たぶんミンダナオ島で掃討作戦中のイスラム過激派、下手をすればアルカイダの息のかかった連中の仕業である。この事件、エジプトのルクソール事件とよく似た構造で、観光地でテロをすれば、外国人が来なくなって政権に打撃を与えられるという歪んだ動機があるんじゃないかと思う。

○ブッシュ大統領がさっそく「テロと徹底抗戦」を呼びかけている。中間選挙を前に、「やっぱり経済より安全保障が大事」という証明書をもらったようなもので、正味な話、「ラッキー」と思っているだろう。こうなると「オセロゲーム理論」で、テロリストは全部クロと見なされるから、イラク攻撃がまた一歩前進したようなものだ。

○メガワティ政権の出方が難しい。もともと政権基盤が弱いから、イスラム主義団体に対して強く出られなかった。その点で「9・11」に対しても、いまひとつ腰の引けた対応になっていた。だが、もう黙っていられなくなるのではないか。他のイスラム国も対応に苦慮するだろう。マハティールあたりが、どんなコメントをするか。アメリカの対テロ戦争に反対することが、だんだん難しくなる。

○世界の観光業界が受けるショックも超弩級だろう。やっと「9・11」のショックが薄れていたときに、世界的な観光地が襲われてしまった。次がどこでも不思議はない。これは世界経済にとってもマイナス要因となる。

○こんなときですが、明日の夕方からニュージーランドに出張してきます。おそらく世界でもっとも安全な国じゃないかしら。


<10月15日〜16日>(火〜水)

○ということで、オークランドのホテルに到着したかんべえでござりまする。

○月曜の午後3時40分に、ホテル日航の前から出ているエアポートリムジンに乗ったところ、お客は私一人。2700円でバスを貸し切りにして、そのまんま成田へ。これは穴場かもしれません。成田エクスプレスなんて目じゃないですよ。そんなこんなで、ニュージーランド航空と日本航空が共同運航している便に乗り込む。1日1本の夜行便は、なんとジャンボ機が満席状態。ニュージーランド行きの団体旅行さんがあっちにもこっちにも。

○この便、妙なことに最初に南島のクライストチャーチに降りて、そこから北島のオークランドに引き返してくる。米国からの便が、最初に大阪に降りて、そこから東京に引き返すようなものである。オークランドに行きたいかんべえとしては、なんちゅう無駄なことをと思うのだが、驚くべし、客のほとんどはクライストチャーチで降りてしまうではないか。老若男女、というか老々男女の団体客が、ざっと400人は降りている。クライストチャーチは人気急上昇とは聞いていたが、人口30万の地方都市である。ここに毎日400人の観光客が降り立つとはすごい。

○そこで入国審査をするのかと思ったら、さにあらず。ここで国内便の客を大勢乗せて、一緒にしてそのままオークランドに到着する。その気になれば、なんぼでも密入国できそうである。この国は持ち込まれる動植物に対してはきわめて神経質で、ゴルフシューズの裏に土がついていても「めっ」と怒られるほどなのだが、安全管理の方はあまりされていない様子。「国内便だったら、簡単にハイジャックできるんじゃないか」とは、現地の某君の言。平和な国だからなあ。

○空港で両替。100米ドルを両替してみたら、199NZドルとなった。米ドルのちょうど半分。円にすれば60円程度。前回、2000年に来たときは、1NZDが40円だったから、物価は5割増しということになる。だが、それでもこの国の物価は安い。某君と一緒に入ったベトナム料理屋のお昼が17ドル50セント。これが米ドルだとちょうど値ごろ感がある。ホテルのレートが一泊150ドルというのもまさにそんな感じ。某君が運転している日本車の中古が1万5000ドルとのことで、これも米ドル価格で考えると納得がゆく。NZの物価はつつましいのだ。

○考えてみれば、1996年、98年、2000年と、2年おきにニュージーランドに来ている。今回はどのくらい新しい発見があるものやら。バリ島の事件や拉致家族の帰還、日本の株価など、気になることは数々あれど、今日のところはそろそろホテルの部屋から出ることにしよう。


<10月17日>(木)

○ニュージーランドと日本の時差は4時間。普通は3時間だが、10月1日から夏時間が始まったので、さらに1時間繰り上がった。経験的にいって、2時間の時差は誤差の範囲内だが、4時間になるとずっしりと効いてくる。アメリカの東海岸と西海岸を行き来すると3時間で、これが結構つらいというのは有名な話だが、日本からニュージーランドに来てみると、この時差の効果が思いのほか大きい。

○昨夜は前夜祭的なレセプションがあり、それから取引先を囲んでの夕食会があり、さらに現地駐在員と行ったカラオケ屋と3軒ハシゴしているのに、眠くならない。時間はすでに午後11時を過ぎて、そろそろホテルに戻って明日の準備をしなければ・・・・と思いつつも、体内時計はまだ7時。てなわけで、ついつい飲みすぎる。ちなみにオークランドのカラオケ屋は「迎賓館」と「晩餐館」の2つがある。前者は過去2回行ったことがある。昨夜はそれが満席だったので、後者に行った。中身は大差なし。もっとも似たような店は世界中、どこにでもあるわなあ。ねえ、らくちんさん。

○4時間の時差は駐在員も泣かす。午後10時にカラオケ屋にいると携帯電話が鳴る。東京から、「お宅の店だけ数字が出てないんですよ。1時間以内に送ってくれませんか」と鬼のような叱咤。こちらは酔っているが、向こうはまだ午後6時である。そこで泣く泣くオフィスに戻る、なんちゅう話も。地球の裏側にいれば、こんな電話は受けずに済んだろうに。

○さて、12時過ぎてホテルに戻ったかんべえ、明日の準備をする気力もないが、なにより明日起きられるかどうかが心配である。午前7時には起きなければならないが、それって体内時計でいうと午前3時。これはシンドイ。まじめな話、ニュージーランドでは寝過ごした経験があるので、念入りに目覚し時計をセットする。ちょっと寝てすぐ目が覚めるが、日本時間のままにしている時計を見ると午前1時半。ということは朝の5時半。ここから二度寝すると真剣に危ないので、頑張って起きる。第29回日本ニュージーランド経済人会議の始まりである。

○朝食会、開会式と式次第は進むが、頭の中はほとんど霧がかかっている。かんべえの出番である第2セッションが近くなって、ようやく目が覚めてきた。なんとなれば時間は午前10時、つまり体内時計がやっと午前6時に達したのである。この会議、いつも事務方で参加しているが、今回はスピーカーもやるのである。日本の貿易の最近の傾向と通商政策、みたいなコメントを10分程度。当方が日本語で話す内容を、同時通訳してくれるのはサイマルの長井鞠子さん。そう、あの「総理の通訳」は、この会議の常連なのである。長井さんの仕事は過去10年で数え切れないくらい接しているが、これはもう一生の記念ですね。

○どういう話だったかは、また本誌ででも紹介する機会があるでしょう。ではまたのちほど。


<10月17日>(木)夜の部

○前回、2年前に来たときは、ニュージーランドは景気が悪くて人口が減っていた。今回は景気がいいんだけど、その背後にあるのはアジア系移民の流入らしい。いまや最大都市のオークランドなどは、「3人に1人はアジア系」だという。彼らは金を持ってくるので、不動産価格が上がっている。この国は人口わずか380万人だが、約50万人のマオリ族がいる。アジア系がすでに25万人となり、将来は逆転するかもしれない。そうなったら、英国移民とマオリ族が「ワイタンギ条約」を結んで建国した、というこの国の誕生自体が怪しくなってしまう。

○移民は犯罪の増加ももたらしている。窃盗、空き巣のたぐいが急増しているとのこと。現地の日本企業の家電製品の在庫が、出荷間際になると盗られる、などという事態が繰り返されているらしい。治安のいいこの国としては、由々しき事態である。とまあ、日本人は考えるわけだが、現地の人は「保険もかかっているし、いっかあ」とあまり怒らないらしい。

○このあたり、ちょっと歯がゆい気がするのである。たとえばバリ島のテロ事件では、ニュージーランド人も二人の死亡が確認されている。でも、あんまり怒っていない。隣のオーストラリアは、自国民が犠牲者のかなりの部分を占めるだけあって、事件発生直後に輸送機を飛ばすなど、ほとんど戦争に入らんばかりの怒り方である。こっちの感覚の方が普通だと思うけどな。ところでインドネシア情勢については、よろずインドネシア掲示板がお勧めです。

○豪州は移民政策では、ニュージーランドより一歩も二歩も先を行っている。「白豪主義」なんてのは遠い昔のことで、「マルチカルチャリズム」の国になり、今度は「やっぱりやり過ぎたか」という後悔が何度も頭をもたげてくるという状態が続いている。今朝のニュースによると、バリ島の事件をきっかけに、イスラム教徒への嫌がらせも起きているらしい。これは深刻な事態といえる。

○ところで「アジア系」と言っているのは、ほとんどが「中国系」である。他日、中国政府の要人がこの国を訪れたときに、運悪く、車上荒らしに遭ってしまったらしい。そこで、「この国の治安はどうなっている」と怒ったそうである。現地の人の反応は、「よく言うよ」ないしは、「あんたには言われたくない」だったそうだ。ま、気持ちは分かるな。


<10月18日>(金)

○会議は無事に終了。ほっと一安心である。今週、日本はいろいろあったようですが、この国は平和です。

○空いた時間に、当地のマリタイム・ミュージアムを覗いてみた。来年開かれるアメリカズ・カップの宣伝をしている。もともとはイギリスで行われていたヨットレースだったのだそうだ。日本がまだ幕末だった頃、このレースでアメリカ勢が優勝した。ときのヴィクトリア女王は、ゴール直前で「どこが勝ちそうなの?」と聞いた。側近は「アメリカです」。女王は憮然として聞く。「では2位は?」。側近は答えた。「おそれながら陛下、2位というものはございません(There is no second.)」。ときに1851年8月22日。100ギニーで作られた銀色の大きなカップは、大西洋を渡ることになった。これがアメリカズ・カップの誕生である。

○カップはその後、アメリカでいくつもの名勝負を生んだ。80年代に豪州に奪われたこともあったが、再びアメリカが奪還した。そして1995年に当国のブラックマジック号が優勝し、カップをニュージーランドに持ち帰った。99年のマッチも防衛に成功し、来年8月に次の大会が行われる。天然の良港を抱え、港にはヨットが一杯というこの街は、City of Sailsとも呼ばれている。この国の人たちは、この世界大会を主催できるのが、うれしくて仕方がないようだ。今度勝ったら3連勝。「もうアメリカズ・カップじゃなくて、ニュージーランド・カップだ」と言いたいところかもしれない。

○夜は吉例通り、スカイシティに出かけてカジノでひと勝負。ルーレットは好調だったが、バカラで苦戦。結局、少し浮きで撤退。どうも昔ほど熱中しなかった。あとは日本に帰ってから、菊花賞を楽しみにしておこう。先週の秋華賞では、上海馬券王はきっちり2位と3位を当てて稼いだそうなんだが、ご意見を伺いたし。不毛の3歳牡馬を制するのは、やっぱりノーリーズンですかね?

○ということで、明日の早朝の飛行機で帰国です。最後に、宿泊したホテルについて書いておきます。ここはThe Heritage Aucklandという新しいホテル。URLは下記をご参照。1999年にAPECを主催するために、慌てて作ったらしい。このときのAPEC首脳会議の出席者全員が残したサインが、ホテル内にさりげなく飾ってある。「Bill Clinton」や「江澤民」という書名が並んでいて、なかなかに壮観である。日本代表である「小渕恵三」は達筆だ。金大中は、ハングルと英語の両方で表記してある。面白いと思うのだが、あいにくなことに誰も気づいていない。

http://www.heritagehotels.co.nz

○それはさておき、なんだかホントーに変なホテルなのである。中は入り組んでいて、まるで迷路のようだ。部屋はキッチンやテーブルもついてかなり広いのだが、ワシの部屋はなぜか湯船がなくてシャワーだけである。テレビにはいっぱいチャンネルがあって、NHKまで入る。CNNを探していたら、なぜかペイTVのはずの成人映画が見えてしまう。もちろんここはアングロサクソンの国ですから、すべてノーカットですぞ。(でも15分で飽きてしまった)。

○ふと思うのだが、このホテルに田中裕士さんが泊まったら、読者を落涙させるような長編大作ができるかもしれない。(田中さんのホームページは、メディアについて語ることが主眼になっているのだけど、食べ物やサービス業に対する恨みつらみを書いているときが、いちばん生き生きしていると思う)。まあ、こっちは慣れてるから、大概のことには驚かなくなっているけど、いろいろびっくりさせてくれるホテルですね。コックが4人がかりで焼いているオムレツがなかなか来ない(順番ももちろん入れ替わる)、くらいは文字どおり朝飯前ですが、金曜夜のバンドの演奏が12時過ぎても終わらなくて、部屋まで聞こえてくるというのはちょっと・・・・


<10月19日>(土)

○朝イチの飛行機で帰ってまいりました。10時間の飛行は疲れました。行きと同じく、帰りも満席。今回は中学生の修学旅行と鉢合わせました。気分はすっかり「エコノミークラス症候群」ですな。まあ、半分は寝てたからよかったようなものですが。

○機上で読んだ本、2冊がどちらも面白かった。以下は読書メモ。

中公新書『日本の外交−明治維新から現代まで』(入江昭)。1960年代に書かれた名著。「政府の現実主義と民間の理想主義」という日本の外交思潮のパターンは、日露戦争の時期にはできあがっていたのだそうだ。といわれると、今回の対北朝鮮外交などはまさにその通りの展開である。問題は民間の側が、まっとうな理想主義を提示できていないところにある。

○戦前の外交思想といえば、「西洋に対応する東洋」という例のワンパターンで、そんな浅はかな思想がアジアで受け入れるはずもなかった。本書が書かれてからさらに40年近くが経過しているが、その後の理想主義は依然として不毛である。平和主義や環境重視といった潮流はたしかにあるものの、じゃあニュージーランドのように原子力空母の寄港を拒否できるか、といわれればそりゃ無理だ。だって戦後日本の平和は、米国の核の傘の下にいたお陰で享受できたものであって、自分の手で守りとったものではないのだから。

○かんべえは、日本は英国流の現実外交主義が似合っていると思っている。拉致事件では感情的な反応が目立つけど、なんの、この国の人たちを甘く見ちゃいけません。とっても計算高くて、実利に辛い人たちですよ。

光文社新書『怪文書U(業界別・テーマ別編)』(六角弘)。ベテランジャーナリストがこまめに集めた怪文書のコレクション。政官界から、夜の銀座に至るまで、世に怪文書の種は尽きない。この著者、怪文書に関する著書が多数なのはともかく、六角文庫という怪文書を集めた私設図書館まで運営しているというから権威(?)である。

○怪文書の帝王は、やっぱりムネオさんらしい。P33に登場する「進退伺い」は爆笑モノ。「この責任を取りたいので、進退については内容をご検討の上、皆さまのご判断をいただきたいと思いますので」と、自分の罪状を10個並べ、最後は「罪状については書ききれません」と締めてある。怪文書も名作から駄作までさまざまで飽きません。


<10月20日>(日)

○世に「エシュロン」なるものがあるという。米、英、加、豪、NZの5カ国が共同で、全世界に盗聴ネットワークを張り巡らせていると聞く。本当のところは知らないが、そんなものが実在するとしたら、この5カ国を結び付けているのは「アングロサクソン・グループ」という点だろう。単に歴史と英語と価値観を共有するというだけではない。これらの国は第1次世界大戦、第2次世界大戦、ベトナム戦争、湾岸戦争など、ほとんどの戦争で一緒に戦っている。「あうんの呼吸」がある木戸御免の関係なのだ。

○今度の出張で感じたのだが、ニュージーランドはアングロサクソン・グループから脱落しつつあるかもしれない。1984年の労働党ロンギ内閣は、米国艦船ブキャナンの寄港を拒否した。核兵器搭載の有無の通報を拒否したからである。それで米豪NZ間のアンザス同盟からはずされた。それにひるむことなく、1987年には原子力推進艦船の寄港、核兵器の持ち込みを禁ずる非核法を成立させた。それくらいこの国の反核感情は強い。広島や長崎に対する関心も深く、オークランドでは原爆の展示会をやっていたりする。同時に、核廃棄物を積んだ日本の船が近海を通るときは激しく抗議する。

○昨年のテロ事件に対しては、ニュージーランドの対応は積極的だった。アフガンに対する人道援助もした。でも、イラク攻撃には賛成できそうにない。お隣の豪州は、賛成したくてウズウズしているように見えるのとは好対照である。それよりも、環境を重視するこの国では、京都議定書から米国と豪州が降りてしまったことに対する深い失望がある。要するにこの国のコンセンサスとなりつつある平和主義、非核、環境重視という価値観が、「アングロサクソンのよしみ」よりも重きをなすようになってしまったのだ。

○なんでそうなるかといえば、あまりにもこの国が平和であるからだと思う。空港の風景が象徴的である。ハイジャックなどのセキュリティ対策はまったくおざなり。その反面、生態系を維持するために、外から入ってくる動植物に対してはものすごく神経質だ。入国の際に農水省の係官が見張っていて、瓶詰めの蜂蜜さえ取り上げてしまう。だから日本人駐在員の間には、「意外と納豆は持ち込める」とか、「うなぎはグレーゾーン」だとか、いろんなノウハウが貯えられている。さらには「葉っぱを持ち込むと駄目」というルールのために、柿の葉寿司を開けて葉っぱだけ捨てた、などという悲喜劇があったりする。

○ニュージーランドが目指しているのは、いわば「一国平和主義」みたいなものだ。日本の旧左派勢力ほど教条主義ではないものの、WTOのドーハ・ラウンドの農業交渉が進まないことに苛立ったり、アメリカにFTAを申し出て、「ふん!」てな対応をされてガッカリしたり、なんだかどこかで見たことがあるようなナイーブさがある。

○この国の生命線は、主力の輸出商品である農産物を他国に買ってもらえるかどうかである。昔は「大英帝国の農場」だったから、複雑なことを考える必要はなかった。それが1973年に英国がECに加盟して、特恵的な地位を失ってしまう。その後のニュージーランド経済は、文字どおりインフレと失業のダブルパンチで地獄を見る。名高い80年代の構造改革でこの国は蘇るのだが、「あの1973年から」といった声は今でもよく聞かれる。それでも大胆な規制緩和と自由化・民営化はきつかった。改革の痛みはそこここに残っている。

○そんな犠牲を払い、この国はWTOの優等生となった。ところが他のメンバー国は、ニュージーランドほど真面目ではない。日本は農産物問題で頑なになるし、アメリカは労働と環境問題などを持ち出すし、中国に至っては知的所有権などで問題山積である。そして不真面目な国ほど、強い交渉力を有する。ニュージーランドのような優等生国は、交渉に使えるカードがないために歯がゆい思いをしなければならない。その姿は、京都会議で「いい子」になり過ぎて、今となっては6%という高すぎるCO2削減目標を前に途方に暮れている日本と重なって見える。

○非常に月並みな結論になるのだが、外交における理想主義と現実主義のバランス、ということを考えざるを得ない。おそらく国民党の政権ができたあかつきには、外交政策が「親アングロサクソン路線」へ回帰したりするのかもしれない。でも今年7月に行われた総選挙では第2次クラーク労働党政権が発足。連立相手の緑の党が議席を伸ばしたこともあり、当分は現在のリベラル路線が続くのだろう。平和主義、非核、環境重視という外交政策は、はたしてサステナブルかどうか。経済で「小さな国の偉大な実験」を果たした国は、今は外交の実験にトライしているように見える。

○・・・・以上、こんな長い話を書いたのは、実は菊花賞の意外な結果に対するショックから立ち直るためなのです。雨のせいもあって、日和ってしまったんだけど、行っとけばよかったなあと。今日の2位につけたFファストタテヤマは、ダービーで買ってたこともあって(5月26日分を参照)、密かなねらい目だったのです。もちろんAヒシミラクルはノーマークだったし、Eノーリーズンが落馬するとも思ってないから、特大万馬券が取れたはずはない。でもなあ、無印のファストタテヤマだけに、複勝でも大いに威張れたはず。

○え?なぜファストタテヤマにこだわるかって? その心は「越中立山」。決まってるじゃないですか。









編集者敬白





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by Tatsuhiko Yoshizaki