○『貝と羊の中国人』(加藤徹/新潮新書)720円+税
昨年の反日デモ以来、いい加減、出尽くし感もあった中国論だが、「目からウロコ」の本がまだ残っていた。
表題の「貝と羊」とは、中国人の特性を「財、貨、賭、買」などの漢字に代表される現実主義=ホンネと、「義、美、善、養、祥」などに代表される観念主義=タテマエという2つのルーツに分解したもの。これだけでも「へえ〜」だが、これはまだ第一章に過ぎない。どの章を開いても、「えっ?」と驚く発見があり、途中でダレることがない。
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中国語には「泊まる」と「住む」の区別がない。だから中国人は故郷を離れて流浪しても平気である。(第2章)
○ 中国の人口は、かつては戸籍人口6千万、実質1億人の壁があった。人口がこのラインに近づくと、農業生産が養いきれなくなり、人口崩壊の中で王朝が滅ぶ。(第4章)
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中国の歴史は士大夫階級のものである。中国社会では、少数の上等な人間と大多数の安っぽい人間の「命の値段」には大きな較差がある。(第5章)
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地政学上の構造から、中国は北京が陥落すると、たちまち本土の奥地まで外敵に蹂躙されてしまう。最近では日本軍がそれを行った。(第6章)
著者はまだ若い京劇の研究者。中国のドラマを分析しているうちに、根底にあるドロドロとしたものにたどり着いた。そこから中国社会の暗黙知を言語化する著作が世に出たことになる。
とにかく関心のある向きは、買うべし、読むべし、急ぐべし、と言っていこう。
○『大丈夫か、日台関係』(内田勝久/産経新聞社)1890円
元台湾大使によるメモワールから、ちょっといい話をご紹介しよう。
かつて日本で罪を犯し、服役した台湾人がいた。彼は刑務所で更正し、帰国して会社を経営するまでになった。ところが17歳になる娘が日本ファンとなり、ぜひ日本に連れて行ってくれとせがむ。自分は24年前の罪のために入国できず、娘にはそれを話せない……。
日本へのビザが特例で発給され、親日親子は日本への観光旅行を楽しむことが出来た。官僚主義にも、ときには粋な計らいがある。
(注:その後、台湾から日本への渡航ビザは不要になっています)
○『テレビと権力』 (田原総一朗/講談社)1680円
ハルバースタムと見間違うような大袈裟なタイトルだが、これは田原総一朗氏の半生記。岩波映画でこき使われた時代や、東京12チャンネルで無茶をやった日々、そしてATG映画『あらかじめ失われた恋人たちよ』(桃井かおりのデビュー作!)の監督をした話など。
著者の意図からは外れるかもしれないが、「不器用な昭和ヒトケタ」世代が、高度成長期のメディアの世界をいかに駆け抜けてきたかという物語として、たいへん面白く読ませていただいた。
編集者敬白
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