<10月21日>(月)
○久しぶりに出社したら、溜まったメールが90本。ダウンロードしている最中にPCがフリーズし、結局、午前中いっぱいかかる。何たることぞ。まだ返事してない分もありますので、皆様、お許しを。
○平和な国で過ごした1週間の遅れを取り戻すのは骨ですね。北朝鮮が核開発を認めたということは、先月の日朝合意は10円安、KEDOの枠組み合意は崩壊、金大中の太陽政策は失敗、カーター元大統領のノーベル平和賞も値打ち半減、となるわけですが、北朝鮮側は本当に分かっているんでしょうか。「拉致家族を返せば日本人は喜ぶだろう」も含めて、とんでもない勘違いをしているような気がします。
○夜は都内某所で経済政策論議。相も変わらぬ展開にため息。今日はテイラー財務次官との日米金融対話があり、明日は竹中チームの中間報告が予定されている。でも、前進しないだろうなあ。
○11月13日に発表予定の7−9月期GDPの数字は悪そうだ、という話を聞く。うーん、どっちを向いても憂鬱な話が多い月曜日。
<10月22日>(火)
○先週、外務省から「日本のFTA戦略」が発表された。下記のURLに全文が掲載されている。お暇な方はご一読を。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/fta/policy.html
○こういう文書が出るということは、いよいよ日本政府がFTAに本腰を入れ始めた何よりの証拠だなあ、でも、とくに真新しい点はなさそうだなあ・・・と見ていたら、なんと台湾とのFTAの可能性について触れてあるではないか。
(e) 台湾
台湾は、WTO協定上、独立関税地域であり、他のWTO加盟国との間でWTO協定に規定される純粋な物品・サービスの貿易障壁の撤廃という形のFTAの締結の可能性は理論的・法技術的には検討の対象となり得るが、台湾の関税率(単純平均)は、全産品で6.1%、非農産品で4.8%であり、例えば仮にFTAを通じた関税撤廃を行ったとしても、かかる取組から双方が得られる利益はそれほど大きいとは言えない状況にある。したがって、そのようなFTAの締結を進めるよりも、むしろ、民間経済界の要望を踏まえつつ、幅広い経済関係を視野に入れながら、具体的な分野に即して経済関係の強化を図るべく検討していくことがより適当である。
○あっ、と息を呑みました。そうなんです。台湾はWTOの加盟国だから、GATT24条にあるFTA締結の権利が認められて当然なのです。日本が台湾とFTAを締結することも、「理論的・法技術的には」OKとなる。もちろん政治的には、中国の反対というハードルをクリアしなければならない。しかし上の文章を読んで気づくのは、「日本が中国とFTAを結んでしまえば、その後で台湾と結んでも反対は出ない」ということ。この場合、中国には反対する理由がない。なにしろ、「ひとつの中国」というフィクションは守られるのだから。これなら、「ASEAN+3」でFTAができたとしても、台湾がエアポケットになることは避けられる。
○筆者は8月の日米台三極対話で「日台FTA」の提案をしましたが、上記のトリックにはまったく意表を突かれました。外務省、偉い!
国際法を盾にとって、中国に恫喝の余地を与えない。お見事と言っておきましょう。(筆者の「日台FTA」に対する考え方は、本誌の8月30日号をご参照ください)。
○ところで今月号のForesightに、新潮ムック発売のお知らせが載っている。『上海で勝て!これが中国ビジネスで成功する50の法則だ』。10月28日(月)発売、とある。拙稿が掲載されるのだが、その最終ゲラチェックを送ったのが今朝。これで来週月曜には店頭に並ぶというのだから感動モノである。印刷屋さん、本当にありがとう。編集者N氏によれば、「かつて体験したことのない強行軍」だった由。労作を見逃すなかれ。定価はたったの880円だ。
<10月23日>(水)
○10月2日にも書いたけど、筆者の竹中平蔵氏に対する評価は低い。せめて学者として一流の人ならば、もうちょっと他人も信用するんだろうけど、見るべき業績も著作もない上に、発言がコロコロ変わる。追いつめられると言い訳をする。これでは人はついていかない。経済担当大臣兼金融担当大臣はミスキャストだと思う。
○とはいえ、自民党の政治家が彼を袋叩きにしているのは見苦しい。「民間人がこんなことを決めてケシカラン」などと言っているが、不良債権問題に対してプロの政治家が過去10年にやってきたのは何だったのか。大半は「金融はちょっと・・・・」と避けて通り、金融通と呼ばれる人は「手心発言」など、あらぬことをしてきたのではなかったか。あの程度の民間人に荒療治をさせている現実は、彼らプロの政治家が招いた事態であることを自覚してほしい。
○竹中氏がやろうとしているのは、銀行の長距離走を止めさせて短距離走に切り替えることだ。「そりゃ無茶だ」という声が上がるのは当然である。だが、長距離走の先に待っているのが、展望のない消耗戦であることは誰の目にも明らかだ。税効果会計の扱いを米国並みにすると、銀行の自己資本比率は軒並み8%割れするらしい。だが、それが現実であるならば、そこから目を背けるわけにはいかない。正直になろう。日本の金融システムは危機なのだ。
○それを認識した上で何をすればいいのか。遅れ馳せながら、小泉政権は方針を切り替えた。そのこと自体は間違っていない。誰かが蛮勇を振るわなければならない。渦中の栗を拾ってくれるのが竹中氏であるならば、たとえ彼が信用できない人物だとしても、これを支持する以外にないじゃないか。
○自民党のセンセイ方が、せめて代案を持っていて批判するのなら結構。「そんなことをすると株価が下がるじゃないか」程度のことしか言えない人たちが、余計な口を出してどうなるというのだ。衆参統一補選を目前に控えているというのに、せっせと自分たちの総理の足を引っ張っている。守ろうとしているのは、日本経済なのか自分たちのプライドなのか。
○さて、その補選の行方だが、かんべえの元にあるデータによれば、7つの選挙区のうち与党候補が3つは堅い。逆に民主党は2つは取れそう。さらに無所属候補が1人勝ちそうだが、これは例の元総理秘書官さんだから、事実上の自民党候補。早い話が、自民党に負けはないということだ。小泉人気は復活しているし、拉致事件で左派政党が受けたショックは小さくない。小泉さんがこの混乱を乗り切るとしたら、週明けが勝負どころになる。
○1個だけ見えない選挙区がある。参院千葉だ。恐ろしいほどの低投票率になるだろう。このワシでさえ、行く気にならないほど不毛の選択である。ところで今日のかんべえはちょっと、荒れ過ぎたかな。
<10月24日>(木)
○国際大学の信田先生が、「ここ1ヶ月ほどは本当に面白い」と言ってました。たしかに国際情勢の変化はすごい。逆に国内経済は悩ましくて、面白いなどとは言っていられない。ちょっと頭の整理をしておきましょう。この先1ヶ月くらいは、何がどうなるやら見当もつかないぞ。
10月25日(金):江沢民訪米。テキサス州クロフォードでブッシュ大統領と会談。
10月26〜27日:APEC首脳会議(メキシコ・ロスカボス)*日米韓首脳会談を実施
10月27日(日):衆参統一補欠選挙投開票(参院千葉、鳥取、衆院山形4区、神奈川8区、新潟5区、大阪10区、福岡6区の7選挙区)
10月29日(火):日朝国交正常化交渉(マレーシア)
11月 3〜6日:ASEAN+3会合(カンボジア)
11月 5日(火):米国中間選挙
11月 6日(水):イスラム圏がラマダン入り(〜12月5日まで)
11月 8日(金):中国共産党大会
11月13日(水):7−9月期GDP速報値発表
11月19日(火):テロ特別措置法の期限切れ
12月13日(金):臨時国会会期末
12月19日(木):韓国大統領選挙
○こんな風に物事が加速し始めたのは、やっぱり9月17日の日朝首脳会談からだと思う。会談終了後、拉致問題で謝罪が得られたというものの、それでも相手を刺激しないように、小泉首相が拉致被害者家族と会うまでに10日間の冷却時間を置いた。9月27日に面談があった際には、「これで当分、拉致事件の報道も一段落する。今後は報道しようにも“絵”がない」といわれたものだ。が、それから1ヶ月、拉致被害者の一時帰国が実現し、それが永住帰国になるかもしれず、さらには子供も取り返せという話になっている。北朝鮮側の「ベタ降り」は、不気味なところまで続いている。
○拉致被害者を返せば、日本人は喜んで態度を変えるだろう、という発想があったのだろう。しかし、テレビが連日のように拉致被害者の映像を送り続けることで、日本国民の間で北朝鮮への疑念はますます深まっている。10月22日には国会で小池百合子議員が朝銀問題で代表質問を行い、大きな反響を呼んだ。国交正常化交渉はスムーズには進むまい。民主主義国におけるテレポリティクスの効果、ということは、金正日の想像力を越えていたのかもしれない。
○日本に対する譲歩とは裏腹に、北朝鮮は米国に対しては瀬戸際外交を続けている。これは「日米を分断するため」という解説がなされているが、まったくの逆効果になっている。おそらく日本国民の間で、日米同盟に対する支持率は急上昇していると思う。「日米同盟は重要です」と言い続けてきた者としては、こんなに安心できることはない。
○金正日は元・映画監督だったそうだが、おそらくはシナリオやコンテをきっちり作ってから撮るのではなく、即興で作業を進めながら、どんどん話の筋を変えていくようなタイプの芸術家なのだと思う。しかし彼の「読み違い」はどんどん拡大している。終わってみれば、とんでもない作品ができていた、てなことになるんじゃなかろうか。
<10月25日>(金)
○モスクワの劇場占拠事件、とんでもないことになっています。犯人グループと交渉が行われていますが、食料の差し入れを断るような確信犯ですから、自爆も十分に覚悟しているでしょう。人質が700人もいるのでは、下手をすれば3桁の犠牲者が出てしまう。ペルーの大使公邸事件とは桁違いの緊張感です。
○プーチン大統領は、チェチェン問題で妥協はできない。どこかのタイミングで突入を指示するでしょう。では、その後に起きるであろう悲劇に対して、誰がプーチンを責めることができるだろうか。
○今宵は岡崎研究所のNPO法人立ち上げのお祝い。かんべえも理事の一人となりました。間もなく会員募集が始まります。年間3万円の会費で、岡崎研究所のフォーラム招待、ニューズレター配布、メーリングリストなどの特典が得られます。こんな物騒な時代に、安いサービスだと思いますぞ。
<10月26日>(土)
○特殊部隊の突入で、モスクワの劇場占拠事件は収拾されました。これを書いている時点で人質にどれだけの被害が出たかは不明ですが、昨日書いたような「3桁」ではなさそうなのは望外の幸いといっていいと思います。
○今回は相当に強力な催眠ガスを使った模様。ただし特殊部隊というものは、どんなにすぐれた装備を持っていても、使えるかどうかは命令するヒト次第。「さすがロシア」というのも変なんですが、土壇場になると思い切った手を打ってくるのがこの国の強みです。
○ではなぜ思い切ったことができるかというと、人命に対する「痛み」の感覚が他の国とちょっと違うからだと思う。チェチェン戦線では、今でも日々、ロシア軍に犠牲者が出続けているという。こんな状態が2年半も続けば、厭戦意識から政治問題化するのが普通の民主主義国だけど、そうはならない。ま、なにしろ「モスクワは捨てる」などという決断ができてしまう人たちですから。
○ふと思ったのですが、仮りに人質の中に日本人がいた場合、小泉首相はプーチン大統領に対して「人命最優先で」という希望を伝えたでしょうか。ペルー大使公邸占拠事件のときの橋本さんと比べると、小泉さんはもっと薄情な人だという気がする。どっちが好きか、あるいはリーダーとしてどちらが優れているかというと、大いに議論が分かれることでしょう。
○では、かんべえの場合はと言えば、そりゃアンタ、聞くまでもないでしょう。
<10月27日>(日)
○いくら考えても分からないことがひとつある。それは「なんで北朝鮮は、核開発を認めたんだ?」ということ。今のところ、3つの可能性が語られている。でも、全然腑に落ちない。
(A)日本に対しては拉致問題で譲歩し、米国に対しては瀬戸際外交を展開する作戦。(何のためにそんな危険なことを?)
(B)ホンネでは対米交渉でも「ベタ降り」するつもりがあり、一時的なプロセスに過ぎない。(だったら、なぜその後に米国を非難するのか?)
(C)まったくのハプニング。ないしは事の重大性をまるで理解していない。(敵は交渉のプロ。そんなに馬鹿とも思えない)
○伝えられるところによると、10月3−4日に行われた米朝高官協議において、ケリー国務次官補が動かぬ証拠をつきつけた。その証拠とは、「パキスタンから購入した遠心分離器の領収書」だったという。北朝鮮とパキスタンは、前者がミサイル技術を、後者が核技術をバーターするという不届きな間柄だったといわれ、その遠心分離器は核燃料を濃縮するためのものであったと。北朝鮮側は一夜明けてから、核開発を認めたというから、これは金小日のお墨付きを得た上の居直りと見ることができよう。
○しかし変なのである。核兵器の材料は、@ウラン235を濃縮する(広島型)、Aプルトニウムを使う(長崎型)、の2通りの方法がある。北朝鮮はかつて、黒鉛炉の燃料棒を取り出してプルトニウムを採取し、それが1994年の核開発疑惑の発端となった。当時のクリントン政権は大いに困り、「エネルギーはこっちで供給してやるから、とにかく黒鉛炉を止めろ」と提案した。軽水炉ならばプルトニウムはできないから、韓国の技術で作ってやる。その間は重油を供与する。過去のことは問わない。その代わり、とにかく核開発は止めろ。・・・というのが、KEDOの合意の中身である。
○まさか、「プルトニウムは断念したが、濃縮ウランは別だ」などという理屈ではないだろう。さらに不思議なのは、ウランを濃縮するのは結構、難しいのである。東海村では、遠心分離器を1500台ほどつなげて使っていると聞く。しかも原子力発電用の濃縮ウランは、ウラン235が全体のせいぜい1割もあれば十分。ところが核兵器用となれば、9割以上の純度が必要になる。パキスタンから買ったわずか1台の遠心分離器で、十分に兵器として効果のある濃縮ウランが得られるかどうか。つまり、北朝鮮は「核開発をしようと思った」かもしれないが、「核を開発できた」とは考えにくいのである。(この部分、筆者の記憶違いがあるかもしれない。元化学大好き少年の知識ゆえに、念のため)
○それでも北朝鮮が核兵器を保有している可能性はある。1994年以前に入手したプルトニウムを使って、2〜3発程度の核を有していれば、の話である。これは以前から分かっていたことだが、クリントン政権はKEDOを締結するときに、「司法取引」的な発想で不問に付してしまった。ということは、北朝鮮が核を有している恐れは以前とまったく変わらないのである。
○というわけで、北朝鮮が核開発を認めたといっても、実質的な状況はさほど変わらないし、彼らの脅威が増したわけでもない。逆に新たな制裁を受けたり、重油の供与を止められる恐れがある。米国はいちおう交渉に応じるだろうが、「待ってろよ、イラクが片付いたらお前の番だからな」という点では変わりはしない。馬鹿なことを、と思わざるを得ない。
○ひとつだけいえることは、KEDOの枠組み合意は最初から「時間稼ぎ」、ないしは「問題の先送り」であったということだ。つまり米政府には、「この譲歩によって、5年は時間を稼ぐことができる。その間に現体制が崩壊してくれれば儲けもの」という発想が根底にあった。今となっては、この決定を非難したくなるところだが、当時のクリントン政権の立場になってみれば、その気持ちはよく分かる。94年5月18日にワシントンで行われた図上演習によれば、最初の90日間で戦争による死傷者は米軍だけで5万2000人、韓国軍が49万人と出た。加えてその当時は、細川・クリントン会談が決裂したりして、同盟国・日本もあんまり当てにはできなかった。これではギャンブルはできない。
○それから8年近い日々が流れた。この間、「北朝鮮は崩壊する」、あるいは「北朝鮮は開放に向かう」といった論者は多かった。しかし、いずれも実現せず、金正日の体制は崩れなかった。もっとも稼いだ時間は無駄ではなかった。日米韓の側に、いくつかの前進があった。米国ではブッシュ政権が誕生して、不法な国家は許すまじと構えている。日本では日米防衛ガイドラインや周辺事態法ができて(有事法制はまだないが)、極東有事の際に最低限の働きはできるようになった。そして韓国は太陽政策を打ち出し、金正日を国際外交の場に引っ張り出した。これらの結果、北朝鮮は「ベタ降り」を始めたのである。KEDOはもう十分な役割を果たしたと言えないこともない。
○逆に北朝鮮の立場から見ると、自分たちに好意的だった韓国の金大中大統領は引退が近く(12月選挙、来年2月新政権誕生)、日本との国交正常化はうまくいかず、こうなったら犠牲は伴うけど、とにかく米国の関心を高めたいという考えがあったのかもしれない。そういう意味では、冒頭の(A)案と(B)案の中間あたりに正解があるのかな。
<10月28日>(月)
○自民党補欠選挙は5勝1敗1引き分け。1分けはもちろん江田憲司氏のことで、橋龍さんの元秘書が無所属でも、実質的には自民党でしょう。民主党の自滅、北朝鮮問題による左派政党への不信など、追い風に恵まれたとはいうものの、勝てば官軍。「投票率が低かったから民意ではない」などというのは負け犬の遠吠えだ。その一方で、「与党が勝ったのであって、小泉政権支持ではない」などという傲慢な発言があったようだが、支持率3割の政党が偉そうなことを言うものではない。これは小泉さんの勝ち。
○さて、懸案の竹中プラン。支持する人があんまり少ないから、下手すりゃ腰砕けになってしまう。日曜の討論番組を見ていたら、竹中応援団が加藤寛さんではあきまへんな。もっとも民間エコノミストで、金融界を敵に回せる人がいるわけないか。自民党のお偉方は、「先にデフレ対策を出してから」などと言ってお茶を濁していた。たいしたことができるはずもないのに、期待だけ煽ってどうするつもりか。
○デフレは昨日、今日に始まったことではない。名目GDPでいえば、1998年▲1.3%、2000年▲0.3%、2001年▲2.8%と連続してマイナスだ。2002年度もたぶんマイナス(実質はギリギリでプラスだと思う)だから、おそらく500兆円割れするだろう。これは1995年の502兆円よりも少ない。この間、小渕政権などは大規模な減税や公共事業をやったけど、わずかに99年度を+0.2%に持ち上げただけだ。いまさら補正予算で何兆円出せるというのか。それとも、インフレ・ターゲティングをやれば、本気でデフレが止まるとでも思っているのか。
○さて、「不良債権問題の終結に向けたアクションプログラム」をよくよく読むと、下記のように刺激的なことが書いてある。
5.公的支援を通じた銀行の改革
(3)「公的支援銀行」における経営改革
@経営責任の追及:「公的支援」を受けることとなった金融機関の代表取締役については原則として全員更迭し、退職金を支払わないよう強く始動する。
(5)行政移行期における経営者責任
@セーフティネットとしての公的資金:ルール変更のセーフティネットとして、公的資金投入の申請があれば公的資金投入を行う。このとき、代表取締役が自らの辞職と退職金の辞退を付帯条件として申し出ることを妨げない。
A経営者に対する配慮:平成14年12月末までに自ら辞職した代表取締役については、ルール変更を伴う移行期であることに配慮し、金融行政の変更による結果としての資本不足については、辞職した代表取締役の責任に相当しないことに十分留意して金融行政を運用する。
B経営者責任の厳格な追及:平成15年1月以降において代表取締役の地位にある者は、着任の時期にかかわらず、(中略)
万が一にも資本不足に陥った場合には、当該代表取締役の責任を厳格に追及する。
C取締役会の責任:上記のように申請すれば公的資金を投入する方針が公表されているにもかかわらず、取締役会においてその機会を選択しなかった取締役は、応分の責を負うことを確認する。
○退職金が欲しかったら、今年一杯で辞めちゃいなさい。居直るようなら、覚悟しなさいよ、と書いてある。これで銀行経営者がどんな決断をするのか見物だが、ここまで喧嘩を売るからには、竹中さんだけに任せておいちゃ駄目だ。小泉さんが出てきて、「はっきりしろ」とすごまなければ。善し悪しはさておき、迫力満点の舞台になることは請け合いだ。選挙で勝った今がチャンスだと思うけど。
<10月29日>(火)
○麻生太郎政調会長が、総合デフレ対策への対応を一任され、「税効果会計の見直しは延期だけでは不十分」とのたまったそうだ。自民党政調会長が経済政策で口を挟めるのは、実に久しぶりのことのような気がする。よかったね、出番があって。幹事長なんか、ほとんど仕事がないじゃないか。でも、与党が口を挟んで妥協が増えると、それだけ金融の安定化は遅れるような気がするぞ。
○こうなったら、銀行経営者が「ベタ降り」したらいいと思う。つまり竹中案を丸呑み。すると与党の実力者も、「ま、当事者がいいというなら、わしらが言うまでもないわなぁ」と引っ込むことができる。そこで小泉=竹中軍がちょこっとだけ妥協してダン、・・・だったらいいな。柳澤前金融担当相が沈黙を守っているところが面白い。銀行経営者は柳澤路線への復帰を望んでいるだろうが、それは望み薄ではないだろうか。
○竹中案に対し、「日本の資産を外国のハゲタカ・ファンドに買われてしまう」という声がある。あんまり実情をご存知ない方のご意見だと思う。ハゲタカが不良債権ビジネスで巨利を上げたのは、1997年頃に投げ売りになった実質破綻資産を底値で買ったときである。当時は誰もリスクを取らなかったから、市況が回復するだけでおいしい思いができた。ところが最近では、不良債権処理も破綻懸念先の処理になっている。以前のように切り売りするだけでは駄目で、いい部分を切り離して再建したりしなければならない。
○だがハゲタカは、不良資産の再生なんて面倒なことはしたくないのである。経営を再建するためには、年間ン千万円もする人たちを抱え込んで、知恵を絞ってプランを立て、時間をかけて取り組まなければならない。それではROEが低下する。そうでなくても、本国のマーケットもガタガタになっている。こんな状態で、日本の不良債権市場が魅力的かどうか。これは結構、難しい問いになる。
○ハゲタカがまだ日本の上空を舞っているようなら幸いである。下手をすると、日本経済はハゲタカにも見離されるぞ。
<10月30日>(水)
○は、もう日本シリーズって終わったんですか。関係者としては、せっかくだからフルセットまでもつれこんで、大いに稼いでほしかったでしょうけどね。今年のプロ野球が終わってしみじみ思うのは、やっぱり長嶋さんは異常な監督さんだったんだなあ、ということ。普通の人が監督したら、やっぱり強いチームだったんですね。当たり前か。
○さて、総合デフレ対策。明日の市場がどう反応するか分かりませんが、竹中案がきびし過ぎるといって下げていたけども、明日になったら中途半端だといって下げるかもしれない。この辺、非常に微妙なところで、市場は理性的には動かない。たぶん明日からは、「もっと厳しい案を!」というシグナルを送り始めるのじゃないかという気がしています。とりあえず、この1ヶ月で柳澤路線は否定された。後戻りはできないだろう。
○再開された日朝国交正常化交渉は、予想通りの展開。北朝鮮側としても、そうそうベタ降りは続けられないだろう。でも、時間は引き続き日本側の味方。この際、より大きな譲歩を引き出すためには、「こちらはあまり関心がない」という姿勢を示すことも重要じゃないだろうか。今まで通り、拉致被害者がメディアに出ずっぱりの状態を続けていると、そのために交渉が不利になるような気がしています。
○今日はニュースが多い日だったので、一言ずつのコメントでした。以上。
<10月31日>(木)
○総合デフレ対策について、本日、かんべえが「なるほど」と感じたご意見を下記しておきます。
●アナリストのK氏:「大山鳴動してネズミ一匹と見るか、大山が鳴動したことを重く考えるかは議論が分かれるところ」
●新聞記者のT氏:「応仁の乱の理由や大正期の政党離合集散は、今から考えると説明ができないほど混乱している。今回もそれと同じ。この先が無事に収まると考えたら大間違い。日本の先送りメカニズムはもう限界だ」
●外資系金融アナリストのT氏:「竹中氏は木村爆弾を使って吹っかけてみたけれど、思ったほど威力はなかった。でもこれで終わりではない。まだ先がある」
●永田町関係者のM氏:「税効果会計以外は満額回答。竹中さんの作戦勝ち。核兵器で脅かしたら、あんまりびっくりしたので、引っ込めた。
しかし、プランをよく見たらミサイルあり、空母あり、特殊部隊ありと銀行包囲網が出来ている。どこから攻めてもよい」
○ふと気がつけば、日本経済は本当に打つ手がない。竹中案はハードランディング政策だから恐い。でも何もしないとジリ貧だからそれも嫌だ。公的資金を入れればなんとかなる、と思えた時代もあったけど、ひょっとするとその瞬間に国債が暴落しちゃうかもしれない。こんなに大変な状態なんだけど、ところで明日からの臨時国会は何をするんだろう。分からないから、いつもの通り角谷浩一さんに聞いてみた。そしたら、
「いい質問だ。たしかにすることがないな。解散するんじゃないか?」
○まあ、それもいいかもね。でも、11月19日に切れるテロ対策特別措置法の延長だけは忘れないでね。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki