●かんべえの不規則発言



2002年8月後半





<8月26日>(月)

○本日付けの読売新聞「地球を読む」で、岡崎久彦氏が「カギ握る台湾問題」というテーマで寄稿しています。このコラムは、まさに今回の日米台戦略対話で岡崎氏が強調されていたポイントです。

http://www.glocomnet.or.jp/okazaki-inst/strait82602.html 

○ここで展開されている論旨は非常にシンプルです。半世紀前の日本を御覧なさい。悪いことはいわないから、アメリカを相手に喧嘩を売るのは止めた方がいい。中国はむしろ、台湾に恩を売った方が得ですよ、ということです。

○岡崎氏が8月22日に台北で行った講演の要旨を、現地の英字紙が取り上げた記事もあります。これを読むと、上記のコラムとほとんど同じメッセージであることがわかると思います。

http://taipeitimes.com/news/2002/08/23/print/0000165237 

○講演後のインタビュー記事もあります。こちらはさらに踏み込んで、「米国のイラク攻撃が中台関係にもたらすインパクト」にも言及しています。刺激に満ちたQ&Aになっており、これを見た中国政府の要人たちが、果たしていかなる感想を持つかと考えると興味が尽きません。同様に、軍事行動がマーケットにもたらす内容を懸念している人にとっても、必読のインタビューではないかと思います。

http://www.etaiwannews.com/Taiwan/2002/08/24/1030151972.htm 

○先週、しみじみと実感したことですが、戦略論は話せば話すほど議論がシンプルになっていくのですね。これは、どんどん話が複雑になっていく経済の議論とは対照的なところだと思います。安全保障と経済は、どちらも非常に重要な問題でありながら、それぞれを取り巻くエートスがあまりにも違うのです。両方の世界を行ったり来たりしている筆者にとっては、このギャップが本当に面白く感じられます。安全保障のサークルに行って経済の話をし、経済のサークルでは安保の話をする、というのが自分の役どころなのかなあ、などとふと思います。


<8月27日>(火)

○先週、台湾に行っている間に日本で起きた事件の中で、印象に残ったもの。

@サンデーサイレンス、逝く。わが愛するステイゴールドとマンハッタンカフェの父親。よくわかんないレースでは、サンデーサイレンスの子供だけでボックス買いしたこともあったなあ。あんたのおかげでJRAがどれだけ潤ったか。月並みだけど、夢をありがとう。

A日ハムの不祥事。もう何がなんだか分からない。別に商品に毒を入れたわけなんじゃないから、シャウエッセンを売り場から片付けるのは勘弁してよ。買うか買わないかは消費者が選ぶからさあ。だいたい、諸悪の根源はムネオが作った変な制度にあるんじゃないかなあ。

B日立精機倒産。おっどろいたなあ。いつも行っているスーパーのまん前に本社があるんです。桜とあじさいがきれいな工場で、まさか経営不振とは存じませんんでした。現在、工場の敷地の一部にマンションを建設中で、あれを買った人たちは焦っているだろうなあ。

Cタマちゃん騒動。もう何も言うことはありません。平和な国じゃのう。

○以上、単なる備忘録として。


<8月28日>(水)

○本日、社内を飛び交っていた中東経済研究所作成の資料、「イスラムの祝日」を紹介しておきます。なんのために必要か、賢明な皆さんには説明は不要ですよね。今年のラマダンは11月6日から12月5日。ちなみに米国の中間選挙は11月5日。これ、押さえておきましょうね。

●10月3 - 4日の夜 ムハンマドの昇天(lailah al-miraj)

メッカで寝ていたムハンマドが天使ガブリエルに夜中起こされ、ブーラークと呼ばれる天馬に乗りエルサレムに飛行した。ムハンマドは、エルサレムで預言者アブラハム、モーセ、イエスと面会し、岩のドームで礼拝を済ませたあと、再び天馬に乗ってメッカに戻った。ムハンマドは寝る前に水の入ったコップを倒したが、これら全てを経験したあとに目を覚ましたら、まだこぼれた水が床に到達していなかったという、奇跡のお話。


●10月22 - 23日の夜 ゆるしの夜(nisf shaabaan)

天にいるアッラーが、1年で最も地上に近づく夜で、死者の罪を許すとされる。

●11月6日 - 12月5日 断食月(ramadaan)

日中の飲食、タバコは差し控える。

●12月6日 断食明けの祭('id al-fitr)

この日を含め3日間休みとなるケースが多い。

●2月3日 - 3月3日 巡礼月(dhu al-hijjah)

ただし、巡礼スケジュールのハイライトは2月8日 - 2月10日

●2月12日 犠牲祭('id al-adhaa)

通常3日程度が祝日扱いとなり、その翌日から平常勤務に戻る。

●3月4日 イスラーム暦新年(ra's al-sanah)

1424年の始まり

●3月13日 アーシューラー(ashura)

シーア派では第3代イマーム・フサインの殉教を悼む式典(祭り)を行う。スンナ派では罪をあがなう意味を込めて断食を行う。

●5月14日 預言者ムハンマドの誕生日(maulid al-nabii)

○見ていると、なんとも不思議な気がします。こういう世界観を持った人たちが、世界で13億人もいるんですなあ。


<8月29日>(木)

○夏も終りかと思ったら、意外としぶとい。今日も暑いですな。

○書店で野口悠紀雄氏と大前研一氏の本を買い、さて帰ろうかと思ったところで手にしたのが、山崎元氏の『僕はこうやって11回転職に成功した』。ふと読み出したら止まらなくなった。そのまま買って、帰りの電車で半分まで読んだ。久しぶりに、通勤時間を忘れさせてくれる本に当たりました。

○何というか、同時代人の手による同時代史なんですな。本の帯に、「サラリーマン生活20年、43歳」とある。当方はそれより2年ほど短いが、似たような時代を生きてきたわけで、このくらいの年になるとほかの人が何をしてきたかがチョット気になる。まして「転職11回」という人生がどんなものかというのは、「転職ゼロ回」のわが身にとっては興味津々である。ご本人とは以前、名刺交換だけした覚えがあるんですけどね。

○サラリーマン生活の役に立つような教訓も多い。文中に、「仕事のための本代はケチることはない、でも本を読む時間は無駄にしてはいけない」という指摘があった。とっても同感。ワシも興味のない本を我慢して読むということができない。逆にいえば、本に熱中できる時間があるというのはありがたいことだと思う。

○たとえば今週の溜池通信では台湾経済について書いているんだけど、ネタ本が3冊ある。もちろん全部斜め読みだけど、さすがに行ってきた直後だからすっと頭に入る。これを何もない状態で台湾に関する本を3冊読むとなると、大変な労力がかかる上に効率が悪い。こういう苦労はあんまりしたくないな。


<8月30日>(金)

○小泉首相が北朝鮮を訪問、とのニュースが流れて、騒然と致しましたな。すぐにさる人から電話がかかってきて、「これはアーミテージとの戦略対話で協議した上のことでしょうか?」と聞かれました。うーん、そういう連携プレーであればいいんだけど、どれだけ目算があるのか、心もとないなあ。一応、米国に連絡は行っていたみたいですが、あくまで官邸主導のリスクの高い外交勝負だという気がします。

○時期的には悪くないでしょう。北朝鮮から譲歩を勝ち得るには、今はいいタイミングです。理由は簡単。もうじきアメリカがイラクを叩くから。そして戦争になれば、比較的高い確率でアメリカは勝つ。たとえばイラクに親米政権が誕生し、米軍はサウジから撤退してイラクに駐留するようになったとする。その次の瞬間に何が起こるか。「悪の枢軸」をはじめ、世界の反米勢力は軒並みびびってしまうだろう。

○国際情勢をオセロゲームに例えると、今は白黒が入り乱れた混戦模様に見える。それがアメリカの次の一手で、イラクという黒石の一列が根こそぎ白石に引っくり返るかもしれない。すると盤上の景色は一変する。「北朝鮮」や「イラン」などの黒石は、アメリカがいつでも引っくり返せる形になる。どうかすると、「中東諸国」や「中国」などの黒石も引っくり返る。盤上は限りなく白一色に埋め尽くされてしまうかもしれない。金正日の眼から見れば、これは恐怖のシナリオであろう。日本側としては、強く出ていいと思う。

○日本政府にとっての誤算は、今年の夏は台風が多すぎたために、不審船の引き上げが間に合わなかったことだ。明日、8月31日はテポドン発射の4周年に当たる。勝負に出るからには、成果を挙げてほしい。客観情勢は有利なのだから。


<8月31日>(土)

○ああーっ!今夜のNHK衛星劇場では黒澤明作品『天国と地獄』を放映するではないか。実は台湾で、らくちんさんに連れて行ってもらった店で、この作品のDVDを買ってきて、まだ見ていなかったのだ。その名も『天堂與地獄』。ちなみに英語名は"High and Low"。こんなことなら、違う作品にしておけばよかった。でもこのDVDは、なんと149元(500円程度)なのである。要は海賊版、ちゅうことですな。

○悔しいので、昼間のうちに見てしまうことにする。どうやら米国で売り出されたDVDをもとにしているらしく、英語の字幕つき。これに中国語の字幕が重なるようになっていて、これは消すこともできる。ひょっとするとバージョンが違うかも、と思ったが、ちゃんと日本製のPS2で見ることができた。これって、本当はいけないのかなぁ?

○有名な作品なので、あらためて説明する必要もないでしょう。舞台は1963年の日本。エド・マクベインの小説をもとにした誘拐事件の映画化である。俳優がみんな若い。犯人役の山崎努はびっくりするほど美青年だし、刑事役の仲代達也の顔にはまだ皺がない。被害者となる企業重役の三船敏郎はいつも通りだが、まるで「プロジェクトX」に出てくるような苦労人である。

○黒澤作品らしく、日本の風物を巧みに映画の中に取り入れている。「こだま号」(新幹線はこの翌年に完成する)、「富士山」「江ノ島」「江ノ電」など。今から40年前の日本はとっても貧しい。麻薬中毒者の村、などというものが出て来たのに驚いた。矛盾に満ちているけど、なんかものすごいエネルギーに満ちている。

○ということで、以前から見逃していた黒澤作品を堪能しました。もう最高級のエンタテイメントですので、まだ見てない人はぜひ、今宵午後10時15分からのNHK衛生映画劇場をどうぞ。








編集者敬白



不規則発言のバックナンバー

***2002年9月へ進む

***2002年台湾紀行へ戻る

***最新日記へ


溜池通信トップページへ


by Tatsuhiko Yoshizaki