退職のち放浪 ライブ(2)

温泉へ行こう 台湾編A

さて、バスである。

  1. 関子嶺温泉から嘉義へ、
  2. 嘉義から台中へ、
  3. 台中から埔里へ、
  4. 埔里から廬山温泉へ

という4つのバスに乗った。そう、温泉のハシゴをしようと企てたのだった。

台湾のバス事情

台湾は鉄道よりバスの方が発達している。

TV・トイレ・リクライニング付きの二階建て豪華バスから(一番後ろの列は5人掛けではなくたったの3人のやつもある)、もう日本では絶対走っていないようなオンボロまでずいぶんと差があるものだ。今日乗ったバスのそれぞれの時間はどれも1時間ちょっとだが、値段は67元(240円)〜170元(600円)といろいろである。

バスターミナルで乗る時は、先に窓口でチケットを買っておく。普通のバス停の時には、乗車の時に行き先を告げ、料金を確認し支払い、かつ切符みたいな紙を渡される。降りる時にこれを運転手に返すなんていう事をする。だから“前乗り前降り”である。これってちょっと合理的でないなあ。

一度、100元札と小銭を持ってバスに乗り込むと、運転手は100元を料金箱に入れろと指差す。あとから87元の紙を渡される。「ああ87元なのか。なら小銭があったけど…」。

後の祭りである。降りる時に釣りをくれる事を期待していたが、「釣りは出さない。ここにそう書いてあるだろ」とつれない、という事もあった。

廬山温泉の宿

夕方、ようやく廬山温泉に着いた。野沢温泉の様な雰囲気の、典型的な温泉街のようだ。道が狭くなり車は途中までしか入れない。細い道の両側にはところ狭しと土産物屋や温泉まんじゅう風のお菓子のお店、温泉宿が並んでいる。唯一違う景色は、多くのお店に水着がぶら下がっている事ぐらいだろうか。

まずは宿探し。【民宿】と掛かれている看板を見つけ値段を聞いてみると700元という。関子嶺温泉よりは安いがここの相場がわからない。部屋を見せてもらった。悪くない。一応大浴場が無いのか聞いてみて無いというので一回は断ったが、何だか体がだるいので600元(2130円)で手を打った。さすがに丸まる一日バスで移動していたから、早速温泉に入りたかったのだった。

温泉に入るために、疲れに行くというのも変なもんだ。

風呂にはバスタブがあり温泉だと言う。部屋にはテレビ、扇風機、机、大きめのベッドがあり、部屋も広い。ふとクーラーが無い事に気づいたが、そう言えば暑くない。廬山は標高が1300メートル程度とのこと。日本で言えば清里くらいの高さだ。この標高なら緯度の低い台湾でもクーラーは要らない。部屋に冷蔵庫と電話が無いのは関子嶺温泉と同じだ。

宿の1階は同じ経営のお茶屋さんだ。荷物を置き早速温泉街を散策しようとするとお茶を飲んで行けという。宿のおやじは人懐っこそうな方だった。

お茶屋さんだけに、こだわりの茶器が揃っているようだ。ずいぶんと年季も入っている。

頂いた烏龍茶はたいへん上品な感じのまろやかな味だった。日本に輸出される烏龍茶は二級品が多いという話を聞いた事がある。確かに事実なのかもしれない。

私は中国茶の飲み方を知らなかった。湯飲みは2つ渡される。お茶をまず最初の1つの湯のみに入れ、これを2つめの湯飲みに移した後、空になった最初の湯飲みの香りを楽しむのだそうだ。

他のお店も覗いてみた。この地方は梅も名産らしい。いろいろに漬けた梅が量り売りされている。紹興梅というのを食べてみた。ほんのり甘いが紹興酒の味は何故かしない。紹興酒に漬けた訳ではないのかな? そう言えば、紹興ってのは地名だった気がする。越の国だっただろうか?

宿に戻ると、1階ではお客さんが何人も座って謝さん(宿の親父)の講釈を聴きながらお茶を味わっているようだった。

廬山温泉

次の日、近くの水着屋さんで水泳帽子を買った。台湾の温泉は水着着用に加え、水泳帽子をかぶるというのが一般的らしい。先日の関子嶺温泉では特に何も言われなかったが、昨日みた何軒かのホテルでは帽子を着用の事、みたいな看板が掛かっていたのだった。帽子の値段は30元(110円)である。お店のお姉さんは、店番をしながらテープで一生懸命日本語を勉強していた。

宿からほど近いところに川があり、40メートルほどの吊り橋が掛かっている。ぶらぶらと温泉街の奥へ進む。途中のホテルでは、温泉だけの利用なら350元、宿泊料金は金曜日だから3000元だよ、という。宿の近くのホテル数軒で聞いても温泉料金は250元が相場だった。860円である。ちょっと高い。

台湾の一般の宿泊料金は、曜日によって大きく変わる。一番高いのが土曜日、次が金曜日である。

平日などは土曜日の5割引、なんてこともざらみたいだ。

さらに進むと、ゴボゴボという音と湯気を出しているところがある。垣根の上から覗くと、源泉らしき吹き出し口と、その脇には日本的な露天風呂がある。

これはいい。

早速、カウンターで幾らかを聞くと50元(180円)だという。昼に入る客などいないないらしく、完全に貸し切りだ。

青い空。周囲の緑、白い湯気。何ともきれいな風景だ。大きな木によってできた日陰には24の大岩に囲まれた露天風呂である。2本の打たせ湯がある。この打たせ湯、台湾の温泉には良くあるようだ。日本の打たせ湯との違いは、お湯の自由落下ではなく、高い水圧をかけている。頭に当てると痛いくらいだ。

受付の青年がやってきて、温度はここで調節しろとバルブを示す。台湾の温泉はぬるめだと聞いていたが、勢いよく熱いお湯を出すと徐々に熱くなってきた。

源泉のお湯には手を入れられないほど熱いが、少しだけすくって飲むと、微妙にマイルドな塩味を感じる。湯気にはわずかな硫黄のにおいだ。

後で知ったが、本当はここの入浴料金はもっと高いらしい。受付の青年が安くしてくれたみたいだ。

しかし、ここまで台湾の人たちが温泉を楽しむ慣習があるとは思わなかった。夏休みということもあるが、この温泉街はとても多くの人で賑わっていて、湯殿もしくは温水プールは子供でいっぱいだった。日本よりも温泉を楽しんでいる感じだ。

インドネシアも火山帯が走っていて実は温泉が多いと聞くが、あまり庶民が温泉を楽しんでいる、あるいは医療に利用するという話を聞かない。そのせいか、暑い国はほとんど温泉に入らないというイメージができていたが、ここへ来て完全に違っていた事を知った。やっぱ暑い国でも温泉は気持ち良いと感じる人もいるのだ。

高山烏龍茶

部屋に戻ろうとするとこの宿の夫婦が是非お茶を飲んでいけという。人の姿を見るたびにお茶を勧めてくれる。せっかくなのでご馳走になった。奥から77歳というおばあちゃんが出てきた。日本語が達者だ。

どうも日本人は珍しいらしい。日本語は久々に話すのよ、と言っていた。

この廬山は、標高が高く霧が良く出るところなので美味しいお茶が取れるという。自分も若い頃、砂利をより分けお茶畑を作ってきたと。どこからか写真を持ってきた。大分古い時代のものが入っている写真だ。

宿代をまけてもらったているし、洗濯機も借りた。さんざん美味しいお茶をご馳走になったので、お礼にお茶を買う事にした。

「最高級のやつを、ほんの少量でいいのだけれど、この金額で」と注文すると、

「じゃあこれだ。でもこれだけになってしまうけどいいかな」と、【廬山四季香】と名のついたお茶を出してきた。

この一家で作っているお茶で、普通の烏龍茶に改良を加えているらしい。

ガイドブックのマスターカードの広告には、

アツアツをパクッと食べた肉汁ジュワッの小籠包:170ドル

ピリ辛をフーフー食べたシコシコ美味の牛肉麺:100ドル

香りを何べんも味わったまろやかな高山烏龍茶:150ドル

初めての台湾:Priceless

と書いてある。その高山烏龍茶なのだ。ただ、こんな田舎のお茶やさんではカードは使えない。

ただお茶を単にビニールかなんかに入れてもらってもお土産にならない。何か無いかなあと見回していると、そんな心配は不要であった。日本でも売っているようなお茶の袋にお茶を入れ、機械で真空パックにし、しかも銘柄のシールを貼ってくれた。完璧である。これは良い土産だ。恐らく郵便にも耐えられるだろう。

埔里という町

今日は埔里まで移動だ。

埔里という町は、台湾の真ん中にあるという。アメリカにおけるカンザスシティーというところか。ところで日本の真ん中はどこなのだろう。そんなの学校で習ったかなあとフォッサマグナ辺りを考えてみたが思いつかない。

埔里はきれいな水で有名だという。ペットボトル入りの水も埔里と書いたものが多い。また水がきれいなので、紹興酒とビーフンが有名らしい。

(一応書いておくけども、埔里は地理的に有意義なのであって、紹興酒とビーフンはたまたまなのである。)

バスはどんどんと下って行く。埔里には1時間で着いた。暑い。約1000メートルほど下ったのではないだろうか。7-8度は気温が違う様だ。重たい荷物を持ちながら10分ほど宿を捜したがあまり無い。仕方なしにメインの通りの宿に決めた。500元である。

今までで一番安い値段にほっとしていると宿の親父が埔里酒造へバイクで連れていってくれるという。ヘルメットを貸してもらい親父の後ろに乗る。20キロぐらいのスピードで町を走るのも良いものだ。

10分ほどで埔里酒造に着いた。すごい人出である。確かに今日は日曜という事もあるが何だかここはまるで道の駅、もしくはサービスエリアみたいだった。バスがどんどん左折、右折しこの酒造の大駐車場に入ろうとする。

まずは博物館のようなところへ行く。日本の占領時から清酒を作っているらしい。当時の看板も数多く保存されていて日本語を多く見掛ける。酒の器も展示されている。

次に最も人気がある建物に入ってみた。あまりの人出に圧倒される。入り口付近ではまず紹興酒の販売が目に付いた。日本にも売っている奴があった。700ミリリットルぐらいで赤いラベルの紹興酒だ。ここでは130元(460円)で売っている。他にも幾つもの種類があるようだ。逆のカウンターでは試飲の小さなコップを配っている。紹興酒と思っていたがなんと清酒。このコーナーでは清酒が売りらしい。

酒蒸香卵と書かれた卵が売っている。2個で40元。しっかり味がついていて美味い。甘くないお菓子のようなイメージだがさて、この味なんだったっけな?よく台湾で食べるような味の気がするが…。

次に向かったのがビール。台湾生ビールと鮮人掌生ビールの2つの種類がある。紙コップで出されるのは気に入らないが、鮮人掌生ビールというのは始めてだ。300ccのやつを注文すると、前の二人の客とは違い、冷蔵庫からジョッキを出してくる。分かっているじゃあないか。ビール代45元に加えデポジットの50元を払う。

店のお姉さんは、まずジョッキにビールを注ぎ、そこへカクテルなんかで使う金属製の器に赤い液体を入れ、それをビールに入れる。良く見ると壁には『Prickly Pear Cactus Juice』と書いてある。なるほど、サボテンのエキスらしい。

口に含んでみる。悪くない。悪くないがまあこんなものだろうという感じ。なんとも表現が難しいが、飲んだ後少し後味が残る。パンフレットを見ると、『仙人掌的薬理作用是多方面的』と書いてあり続いて『抑菌、抗炎、免疫、降血糖、降血脂』となっている。どうも薬をビールと一緒に飲んでいる気がして奇妙であった。

薬食同源という言葉がある。たぶんこの辺りを意識して体に良いものは何でも混ぜてしまうんだな、きっと。

次の日の朝、食事を取ろうと市場をうろつく。

すごい活気だった。子供二人を連れてバイクに3人乗りし、左右には買い物袋を抱えたおばちゃん、腰を曲げ杖をつきつつも買い物するおばあ。大声で売り込みをする露天の親父。スピーカーまで使って『安いよ安いよ』を連発する親父(たぶんそう言っている)。

今日はビーフンを煮込んだような食べ物を市場の屋台で注文した。どろっとしていて味が濃いだろうと思ったが意外とあっさりしている。台においてある辛いタレを入れると、とたんに四川風になりとても美味しくなった。これで25元(90円)。これから台北行きのバスに乗るのでお替わりができなかったが、これを食べると観光地のたかーい飯など食べられたものではない。

これは日本でも同じかもしれない。

 


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