退職のち放浪 ライブ(29)

街へ行こう リトアニア編

バルト三国最後の訪問国、リトアニアに行く。

バスは定刻でラトビア/リーガを出発。40人乗りのバスに、乗客はたったの7人。朝8時20分という早さが少ない乗客の理由かもしれない。切符は4.5ラッツ(900円)。

1日に5-6本、リーガ発、ビリニュス行きがあるのだが、このバスだけこの値段で後は6ラッツ(1200円)になってしまうのだった。

切符には、座席が指定されてある。そして乗り込んできた最後のラトビア人は、指定されている私の隣にしっかり座ってしまう。

「おい、狭いだろう。後ろぜーーーんぶ空いてんじゃねーか。後ろ行けよ」などと、よその国に来て言えない私だった。

規則にハマッて何にも疑問に思わない、こういうところがロシアチックで嫌なんだよな。

どうもバルト三国のバスでは良い目に遭っていない。

しかし、普通の人間なら私の隣は十分狭いはずだ。こっちはロシアで痩せる思いだったが、どっこいモンゴルと中国で貯えて、やわらかくて白い筋肉体質なのだ。

「東ヨーロッパにはホモが多い。そして東洋人はホモにもてる」ってな事を思い出した。

そう考えると、むかつきが恐怖に代わるのであった。

発車してから90分ほどで国境だ。エストニア−ラトビア国境でもそうだったが、ラトビア−リトアニア国境でも、あるのは入国審査だけ。審査といっても、担当官がバスに乗り込んできて、パスポートと本人をじっくり見比べる。そしてパスポートの束を抱えて、一旦小屋へ戻る。

そしてハンが押されたパスポートの返却。この間10分程度。つまり出国のハンは押されない。そして荷物検査もないのだった。ロシア出入国時の様なの緊張感がここには全くない。ああいい国だ。

リトアニア/ビリニュスには、ラトビア/リーガから4時間あまりで到着。

リーガに比べて、圧倒的に田舎町だったので、途中のバスターミナルだろうと思ってくつろいでいると、ここがビリニュスだという。慌てて降りる。

例によって基礎データ(実は外務省のホームページのぱくり)。

リトアニア

1.面積: 6.5万km2 (日本のおよそ1/6)

2.人口: 370万人

3.首都: ビリニュス(人口58万人)

4.言語: リトアニア語

5.宗教: カトリック

6.人種: リトアニア人はバルト語族に属し、ほとんどがカトリック教徒。カトリックは民族帰属意識の中心。民族構成はリトアニア人81.8%、ロシア人8.1%、ポーランド人6.9%

宿へ

徒歩3分のホステルにまず向かう。別の一番人気のホステルはすぐ埋まってしまう、とガイドブックに書いてあるので、穴場的なこのホステルに決めたのだ(「地球の歩き方」には書いていあるが、「ロンプラ」には書いてない)。

しかし方向音痴で嫌になる。徒歩3分の場所のはずなのに間違った方向に歩いている事にしばらく気がつかず、結局たどり着くまでに徒歩20分も掛かってしまった。確信を持って歩いている事が問題なようだ、呪うほど重たい荷物を背負って(一応言っておきたい。地図の書き方が悪い。しかも圧倒的に…)。

しかし、またまた騙された。ここは既に閉鎖されていたのだ。唖然とする私。

やはり朝一のバスにしてよかった。これが夜中だと思うとやりきれない。

だからロンプラには載っていないのだった。

仕方なく、一番人気の方へ行ってみる。助かった、ぜーんぜん、空いていた。素直に最初からこちらにすればよかった。

両替

一旦荷物を置き、銀行で両替。今回は日本円から両替。ユーロレート、ドルレートを日本レートで割ると、それぞれ因みに、1ユーロ135円、1ドル115円となる。現在は確か、1ユーロ129円、1ドル109円のはずだから、やはり日本円は不利だ。ここの通貨は【リタス】である。

実は、この国ではクレジットカードの【Plus】システムに加入していないところが多い。そして当然JCBは使えない。こうなると本当にJCBを呪いたくなるんだよなあ。

スーパーでのお買い物

物価チェックの為と、フィンランドで買った醤油を消費する為と(ビンで重いから)、そして何よりもうまい米が食べたい。リーガのチャーハンは完全に失敗だったし、こう毎日パンばかりだと、どうもいけない。

宿には台所があって調理できるのだった。ただ炊飯器がないのが痛い。従い今回もおじやである。おっとここではリゾットだ。

因みに、こんな感じ。

品物 リタス 円

・買い物袋 0.30 12

・ポテトサラダ200g 1.84 72

・白菜(小さいやつ1株) 1.24 48

・豚挽肉(200g) 1.49 58

・マッシュルーム(5個) 0.36 14

・ネギ(短いが太いもの) 0.61 24

・ニンジン(普通のを1本) 0.17 7

・米(500グラム) 1.28 50

・ビール(500ml) 2.09 82

そして、米はもちろんの事、野菜は3分の1程度しか使わないでも、一食分堪能できるのだった。ざっと見るところ、バルト3国ともに、だいたいこの程度の価格の様だ。

フィンランド以降だんだんと南に降りるにつれ、少しずつ野菜の元気度というか、青さが濃くなってくるのは気のせいではないかもしれない。そして果物が豊富になる。

因みに残念ながら、枝豆には中国以降お目にかかれない。

リトアニアの英語力

ワインも買った。

「レッドのスパークリングなんてある?」と聞くのだが、「レッド」が店員に通じない。

おいおいここは、ワインコーナーなんだぜ、そんなに俺の発音が悪いのか?

日本人特有の「R」と「L」の問題か?

などと思ったが、店員が「レッド」という基礎英単語を知らないのであった。驚いた。そういえば、さっきのスーパーでもほとんど英語が通じなかったが、このリトアニア、あまり英語は駄目なようだ。

旧市街の様子

旧市街を歩く。ここはタリンはおろか、リーガよりもたいしたことがない感じだ。バルト三国では一番大きな旧市街だそうだが、そのせいか車が多いのである。リーガの旧市街も道幅が広い通りが多いのだが、幾つものゲートで車を制限していた。ここは野放図である。

そして駐車している車からは、ロックしたときの電子音や、盗難防止の電子音が響き、その中世のイメージを台無しにしている。

何だか、メンツで世界遺産になったんじゃないかな。

ただ唯一、多くの建物に、通りの名前のプレートが掛かっている。だからこの街では地図を持っていればほとんど迷わない。私には実に有り難い

建物はエストニアやラトビアと少し違う。なんて言うか、丸みを帯びて優しい感じ。

何でもこのリトアニアの建物はゴシックと呼ばれるものらしい。先の二国の建物はドイツ人の設計したものが多く、搭なんかでも割とつんつんして尖っているものが多いが、ここは教会などでもネギ帽子だったりするものがある。

夜、同じ宿に泊まっていた女性と少し話した。

彼女はラトビアの大学生。心理学を勉強しているそうだ。月に一度、リトアニアを訪れ、セミナーに参加しているらしい。彼女にに、ラトビアとリトアニアの一番の違いは何かを聞くと、

「ラトビア人はもっと親切でオープンじゃないかしら」という回答だった。ちょっと自慢気だ。しかし実際にそれは感じるなあ。言葉の問題かもしれないけど。

日本食

ああ、うどんが食いたい。

人間の食欲ってのは果てしない。うまい米を食べたら、今度はうどんが食いたくなった。さすがに米やパスタはあってもうどんはスーパーで見当たらない。

調べたら、このビリニュスには3軒の日本料理屋があるらしい。

【歌舞伎】という店は、日本人らしき板長がいたが、値段もやっぱりそれなりで高い。これがフィンランドだったら、速攻で座って注文しているのだが、変なもんでリトアニアだと入れない。

次に行ったのが【扉】という店。

頼んだのは、

・天ぷらうどん 18リタス(703円)

・ビール(500ml) 5リタス(195円)

・ごはん 1リタス( 39円)

店のオーナーは日本に6年間滞在していた女性との事。店の雰囲気が本格的なので、てっきり日本人の経営かと思っていたら違った。

割り箸やわさびなどの食材の一部は日本から輸入しているらしい。たくあんはこの店で作っているとのことだった(生姜の味が強くて面白い味になっている)。魚などはパリなどからも運んでいるという。

さてその天ぷらうどん。

野菜は天ぷらというよりフライという感じ。きゅうりの輪切りが出てきたのは驚いた。

つゆはちょっと濃いが上々だ。

うどんはもしかしたらここで打っているのかも。量が少ないが妙に太くて不格好。でも体の大きなリトアニア人が打ったらこうなるんじゃないかな。とてもしこしこ。

因みに、中華料理屋はやたらと目につくのだった。エストニアやラトビアではそれほど数が多くなかったが、このビリニュスでは既に10件近く見ている。何か歴史的な背景でもあるのだろうか。

しかし、それにしてはこの町で東洋人を見ないんだよなあ。

ホステルでも泊まっているのは私以外西洋人なのであった。

オペラ

フィンランドで、マダムバタフライを最前列で観るチャンスがあったのだがあまりに高いのでギブアップしたのだった。もしかするともう一生、最前列でオペラなど見るチャンスがないのでは、と半分後悔していたが、あっという間にそのチャンスはやってきた。

“The Bear”という現代オペラを国立オペラ座でやるらしい。最前列は2番目に高く40リタス(1563円)。今回は躊躇なく買った。

劇場に入ると、最前列の中央、指揮者との距離はわずか2メートルというすごい場所だった。

実はオペラってやつは生で見るのは初めてだ。

テレビなんかで日本人がやっていると、言葉が分かるだけに、「何でそんなに抑揚をつけて話しちゃうのあなた」と妙に冷めてしまうのだが、外国人が伸びのある声で歌うのは格好いい。

しかし、物語がさっぱりわからない。音楽と登場人物、舞台の雰囲気からいって、とても暗いストーリーだという事はわかるのだが、それだけにあらすじが分からないと困ってしまう。

題名はBearなんだから、「熊」がいつか登場するんだろうと思っていると幕が閉まってしまった。

もしかして、「下げ相場」という題名の舞台だったのかも。

稼いだ給料の多くを某商社につぎ込んだ人間とダブってしまう。悲しいはずだ。スリには遭うし…。

しかし、このオペラ、う〜ん、何だったんだろう。この芸術、私にはまだ早すぎたようだ。

しかし救いはこの劇場。モスクワ、サンクトペテルブルク、ヘルシンキ、エストニア、ラトビアと見てきたが、ここが一番だ。劇の合間のバーも豪華だし、もうシャンデリアなんかものすごい。

そして何といっても、リトアニアの人たちのおしゃれな事。老いも若きも着飾っている。若い女性は特に素敵。何時の間にか、目で追ってしまうんだな。何時の間にか目視のストーカー。

いかん、いかん。

宿の話

宿の情報ノート。これは一般に旅行者同士のコニュニケーションツールで、置いてあるところが多いのだが、西洋人と思われる連中の使い方のひどい事。言ってしまえばガキのお絵描き帳になっているページが散見される。

「旅の恥はかき捨て」という言葉の通り、日本人のマナーは悪い、とよく言われるけども、安宿に泊まる西洋人の若者の方がひどい。

はっきり言ってガキなのである。

例えば深夜零時、他のベッドでは当然寝ているにもかかわらず傍若無人にふるまっていたり、台所では使った食器を洗わない。

鍋が1つしかないので、私などは作った鍋の料理を更に移し、鍋を洗ってから食事を取るのに、一部の西洋人はそもそも洗いもしない。流しには、「使ったら自分で洗いましょね」と表示が出ているにもかかわらずだ。ひどい宿になると、「ここにはママがいないよの、自分で洗いましょうね」なんて書いてあるそうだ。

日本人は少し自虐的なところがあって、ついつい自分達を責めてしまうが、西洋人もなかなか常識がない連中も多いのだった。

そして、特にここでひどいのがロシア人らしい。宿の表示に「Cheer for Beer, Wine is Fine, Vodka, NO」なんて書かれている。

「これってジョーク?」と宿の人に聞くと、シリアスに本当だという。それほど過去にいやな目にあっているらしい。

ウクライナのビザ

ウクライナに行く事にした。とはまだ決めていないが、宿の情報ノートに、即時発給かつ無料、という信じられない内容が載っていたので、散歩がてら大使館まで行っている事にした。

ウクライナ、実は少しひかれている。ソ連は貧しい、というイメージがある。そしてその通りだったと思うのだが、ウクライナの周辺はとても豊かな穀倉地帯だと中学校の頃に習った記憶がある。

ウクライナ大使館は宿から歩いて15分ほど。今日は小雪が舞っていてとても寒い。宿のスタッフ曰く、マイナス7-8度らしい。それでも何だか楽しい散歩だった。

がせネタかもしれないが、まあともかく行ってみた。

大使館に到着すると、ビザは別の場所で発給するという。そんな事ってあるのかなあと疑問に思いながらもさらに歩く事5分。大使館別館の様な場所がある。

「ウクライナに是非行ってみたいのだけど」という私に、大使館の人は優しい。

冷やかしだったのだけど、あっという間にビザ発給。時間にして20分。私が申請のフォームを埋める時間が一番長かったくらい。そして情報通り無料。今までビザ免除というのはあっても、ビザが必要な場合には数千円は必要であったのでとても驚いた。もしかして、ウクライナって良い国かも。

でもまた東に戻っちゃうんだよな。ウクライナから中国に入ったりして。

マーケット

ウクライナ大使館の帰りに、マーケットに寄ってみた。ここはリーガのマーケットに比べてその規模は5分の1以下だが、やはり庶民の胃袋だけあって賑やかだ。中心は肉類の様で、大鉈を振るうたくましいおばちゃんが多い。

ハム売り場で、おばちゃんが食べてみろと一切れくれる。塩味が効いていて、とてもとても美味い生ハムだ。究極のキャッチ商法。つい買ってしまった。一塊で450グラム程度。これ以下の量では売ってくれない。そして値段は4.5リタス(176円)。信じられない値段だ。

次に魚売り場へ。「左ヒラメに右カレイ」でいいんだっけ? あっていればカレイだが、「活きがいいのよ」と、勧められるまま一匹買ってしまった。25センチの割と大物である。因みに値段は1.3リタス(51円)だ。

しかし、どうすんだ、これ。今日からポーランドに行くのに。

このマーケット唯一の食堂へ行く。

ビール(500ml)、ローストチキン(結構大きい)、キャベツとニンジンのサラダ、20センチ台のパイ(中に挽肉が入っている)で7.8リタス(305円)。

会計の時の安さが嬉しかったのだが、そのうまさに感動。ローストチキンはリトアニア特有?のガーリックソースが掛かっていて何とも言えないウマさ。

そして圧巻はパイ。

実はここビリニュスでもマックに行ったのだが、ハンバーガーの値段は2.5リタス(98円)。このパイは2.3リタス(90円)。誰がどう考えてもこのパイの方が断然うまい。そして20センチもある。このウマさ、マックの人も同意するはず。

マックと比べてしまうと逆にこのうまさが伝わらないが、う〜ん、伝えようがないうまさなのだった。もう一つ買って持ち返るほど。

いつも思う。食べ終わってから、

「あっ、写真取れば良かった」


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