もう先月の事になるが、スロバキアからハンガリーに来た。
まずはハンガリーについて
1.面積: 約9.3万km2(日本の約1/4)
2.人口: 約1,014万人(2000年)
3.首都: ブタペスト
4.人種: ハンガリー人
5.言語: ハンガリー語
6.宗教: カトリック約68%、カルビン派新教約21%
そして今月、ルーマニアへ行きハンガリーへ戻る。そしてチュニジアへ行きハンガリーへ戻る。
いつの間にか3つの入国スタンプが私のパスポートに押されている(因みに出国スタンプは何故か押さないハンガリー)。
実は、ハンガリーには14年前に来ている。当時はまだ社会主義国だった。だた、社会主義国の中では最も自由な雰囲気があり、街も極めて安全。
そして驚いたのがこの国が温泉大国だという事だった。(当時は分裂前だった)チェコ・スロバキアからの夜行列車で到着したブタペストでその話を聞き、早速入りに行った記憶がある。温泉があるのは、まさに首都ブタペストのど真ん中なのだ。
温泉に付属するマッサージやフェイシャルエステを受け、そしてドナウ側のほとりで飲むビールは実に最高。
そんなブタペストを再度訪れるのはとても楽しみだったのである。
セーチェニ温泉
まずは、有名なセーチェニ温泉。
数多いブタペストの温泉の中でも最も名が通っているかもしれない。
温泉は屋内と屋外のプールに分かれている。混浴。ただし水着着用。建物は古く、とてもアートを感じさせる作りになっている。
そう言えば、放浪中に知り合った美術の先生が、世界の温泉建築の中で最も素晴らしいと感動していたっけ。
ただ、この温泉には14年前にも来ているのだが、今回は何だか全く違った温泉のようだった。
まず入り口。受付で支払う事は同じなのだが、マグネットの様な札を渡され、ゲートを通る。
この札で客が何時間入ったかを調べ、その時間に応じて料金が変るシステムになっていた。当時、そんな立派なものは当然無い。
そして驚いたのがその値段。何と1800フォリント(900円)。私の場合、2時間しか入らなかったので、800フォリントが返金されて、仕上がりで1000フォリント(500円)である。
当時が幾らだったかは忘れてしまったが、日本に比べてとても安かった事を覚えているので、恐らく150円程度だったはずだ。
そしてさらに驚いたのがマッサージ代。20分程度で2200フォリント(1100円)である。もちろん日本の事を考えると安いのだが、当時学生で貧乏旅行していた私が安いと感じ、手軽に受けた事を考えると、相当高くなっている。1000円程度とは言え今回は躊躇してしまう。
自由主義国になり、どうもこの辺りの料金は相当跳ね上がったようだ。相変わらず表示はハンガリー語でわからない。もしかすると外国人料金や、ハンガリー人用の年間パスなどがあるのかもしれない。
そして何といっても無茶苦茶に人が多かった事が今回とても印象的だ。もちろん14年前とは季節も曜日も違うだろうが、何だか観光客がとても多い。
当時、東洋人何てほとんどいなかったのだが、今回はちらほら目立つ。相当に時代が変った様だ。
水着に着替えまずは、外湯へ。
湯殿?は3つあるのだが、直径40メートルの半円形の温泉が最も人気がある。
温度は37℃くらい。無色透明だが、何と臭いはカルキ臭いのだった。塩素を含んだ温泉がたまにあると聞くが、ここのがそうだとは思えない。
もしかするとここは塩素消毒をしているのでは?また内湯の方は少し緑掛かったお湯なので、この外湯は、普通の水を熱交換で温めているのでは?などと疑ってしまう。
深さは1.2メートル程度。湯殿の外周は浅くなっていて座れるが、基本的には立って入るのである。
ここには温泉につかりながらチェスが出来ることで有名だ。この日もたくさんの見物人を集めていた。ロンリープラネットの東欧版には、十数ヶ国のガイドが載っているが、このチェスが、その表紙を飾っているほどだ。
内湯も多くの湯殿がある。そして温度もそれぞれいろいろ。ただ一番熱いところでも40℃程度なのが、熱い派の私にとって少々残念ではある。
こちらはカルキ臭い事は無く、何だか変な匂い。硫黄臭ではない。味は特に感じなかった。
サウナも2ヶ所ある。そのうちの1つはミントのサウナで風邪気味の私には特に心地が良い。
この日はとても寒く天気も悪い。外湯と内湯を出たり入ったりするのは結構辛いのだが、夏はこの広大な温泉で日光浴も楽しめるのだった。この日、恐らく1000人くらいは同時にこの施設にいたに違いない。まさに温泉大国だ。
温泉のロビーにある売店でビールを飲む。500フォリント(250円)。ハンガリーのビールも美味い。温泉上がりなのでなおさら美味いのだが、これも当時より高くなった感じ。やはり完全に観光地になってしまったのだろう。
ハンガリーが温泉大国であることを知っている日本人もとても多い。建物の外では日本人のグループツアーも見かけた。
イギリスのBBC放送を見ていると時々ハンガリー観光局のコマーシャルが流れる。3人の外国人が、それぞれの言葉でコメントしているのだが、何とその中に日本女性が日本語で、「ハンガリーは私にとって宝です」と言っている。
そうなるとやはり値段も上がってしまうのだろうな。
余談だが、この温泉は公園の中にあり、公園には巨大なアイススケート場がある。
アイスホッケーが同時に何試合も出来てしまうような広さで、ブタペストっ子も人との距離を気にせずに悠々と滑っていた。
それでも、まだ冬本番ではないので、半分はまだ水を張っていなかった。
ルダシュ温泉
次は比較的庶民派の温泉。
ここも14年前に来たことがある。ここも値上がりしており1000フォリント(500円)。返金制度みたいなものはなし。
ただしセーチェニ温泉と異なり、更衣室にあるのはロッカーではなく1畳ほどの個室が与えられる。鏡やイスもある。貴重品はセイフティボックスに入れろと英語で注意書きがあるのだが、そのセイフティボックスのありかを尋ねても英語を理解してくれず使えなかった。しかし恐らくこの個室に置いておいても大丈夫と思われる。ドアには鍵が掛かるのだが、自分で閉めた後、係を呼んでさらに彼らの鍵で締めるのだ。さらに、鍵には番号などがふっていない。それは万一鍵を落としたときに、鍵を拾った側は、それがどこの鍵かわからないというメリットがあるのだった。ただし自分の場所を覚えておく必要があるのだが。
ここは水着不要だ(温泉は男性専用らしい。プールは男女混浴で水着をつける)。
水着の代わりにエプロンと言うか、前掛けの様な白い布を渡されるのでこれをつける。ただ渡されてもそのまま裸の人もいる。
この温泉も古い建物らしく、重厚な作りだ。
天井はドーム状になっていて、100ほどの小さな窓から光が入り込む。建物の四隅には、温度の違う温泉が4つ。温度が低いのは水風呂で、高いのは43℃くらいの温泉だ。
中央には直径10メートルくらいの円形の浴槽。温度は38℃くらい。無色無味だが、ちょっとマイルドな感じ。また微妙に硫黄の臭い。
中にはここで泳いでいる人もいる。お年寄りの方々は何やら話し込んでいる。平日の午前中に行ったのだが、何故かとても込んでいた。
どこもそうだが、日本のように座って体を洗う設備はなく、全てシャワーを使用する。各自、シャンプーや石鹸を持ち込むことになっている。
今回は試さなかったが、ここにもマッサージがある。ハンガリー人はヨーロッパの中でもそれほど体が大きな方ではないのだが、14年前は大男にやってもらって、いろんなとこが縮み上がった記憶が鮮明によみがえってきた。
この温泉はドナウ川の川岸にあり、ドナウにかかる橋の上で飲む温泉後のビールが実に喉を刺激するのだった。
キラーイ温泉
ここもかなり古くからある温泉である。
ブタペストに着いて、まずは一番アクセスの良いルダシュ温泉に行くつもりだった。
確か、橋を渡ってすぐ右、と思っていたのだが、そもそもドナウ川には幾つも橋がかかっていて、すぐ右にあるはずの温泉が無い。それぞれの橋は、やはりそれぞれに味がありどれも素敵で、当時もいろんな橋を歩いて渡ったのですっかり忘れている。記憶ってのは本当にあいまいだ。
右へ右へと探したのだが全く無い。歩いているハンガリー人に、温泉を聞くと、さらに向こうだと言う。こんなに遠かったかなあ、といぶかしがっていると、到着したのが初めて見るこの温泉だったのだ。
このキラーイ、曜日により男女入れ替えとなる。火曜、木曜、土曜が男性の日だ。ラッキーにも今日は火曜日なので入ることが出来た。ここも1000フォリント(500円)。何だか申し合わせたような金額だ。
ルダシュ温泉と同じように1畳ほどの個室が与えられる。しかし前掛けはない。中には水着を着用にしている人もいるが、基本的には日本と同じ全裸方式だ。
ここも中央に円形の直径8メートルくらいの円形の浴槽。温度は38℃くらいとちょっと低い。
無味無色でやや硫黄臭。
夕方のせいか、かなり込んでいて、円形の浴槽の周辺には人がびっしりで壁を取れない。この温泉も深さは1.2メートル程度あり、立って入るのは日本人として何となく居心地が悪いのだった。
しかし、さらに居心地が悪くなる。
何だか良く分からないのだが、私の周囲だけ、人口密度が高いのだ。
当初は気のせいかと思っていた。壁を取れないまま、何気に移動しても、ハンガリー人たちは、時速0.1キロぐらいで近づいてくる気がしてしょうがない。
ハンガリー人には蒙古班があるらしい。どうも一部は、モンゴルの方からやってきたと聞く。あまりじっと見る訳にも行かないので確認は出来なかったが、そんな話を聞いた。
もしかすると、私の蒙古班でも探しているのかもしれない。あるよ、ばっちり。
まっ、自意識過剰ってもんだろうと思っていると、ようやくお湯がジャンジャン出ている付近の絶好の場所を頑なに守っていたオヤジが立ち退いてくれ、ようやくそこへ入り込む事が出来た。このキラーイ温泉は、ルダシュ温泉と同じように天井がドーム状になっていて、そこには小さくたくさんの穴が空いている。天井を見上げるとプラネタリウムの様にきれいだ。
壁にひじを掛けまったりしていると、ある傾向に気づいた。私を含め壁に張り付く10数人たちの向かいには、それぞれ真正面位置している男が…。
最初は“壁待ち”だと思っていた。それにしては『向き合っている』ってのも、距離が近すぎるのも変だ。
言うなれば2重の人の輪が出来ているのだ。
私の正面にはいないものの、これでは中学生の時にやったフォークダンスではないか。
これで何とか民謡でも流れ始めたら、チェンジングパートナーで私の前にもやってきてしまう。
実はこのキラーイ、週末には『ホモが出没する』と有名だと聞いていた。今日はまだ火曜日でしょ、と言いたいのだが、逃げるに限る。
慌てて外側にある浴槽に入ろうとすると、気のせいか、私を制するようにさっと2-3人入ってしまった。
既に入っていた人もいたし、その浴槽は小さいので私が入ると6個入りパッケージに入った卵みたいになってしまう。ここではさすがにフォークダンスはなさそうだが、何だか近すぎる。
丁度、さらに奥の浴槽には誰も入っていない。そう言えば、中央の浴槽の温度は低いので体が冷えてきた。ザブンとそこへ入る。水風呂だった。
卵のパッケージになってもいいやと、先ほどの浴槽に戻る。
こちらは41℃くらいで温度は快適だ。眼鏡が曇っていて良く見えないが、やはり込んでいて6個入りの卵のパッケージなのだった。ちょっと窮屈。
眼鏡の曇りが取れてくると、はっとした。6個と思っていた卵が7個なのだ!
電車に乗っているお母さんが、膝の上に子供を乗せるように、50くらいの男が30くらいの男を膝に乗せているではないか。しかもぴったりと。
もしかして、もしかする?
お湯は熱いのに、鳥肌が立った。
慌てて飛び出し、円形に戻ると、実は向かい合って座っている連中は、何と水面下でマッサージを!
何が『週末にはホモが出没する』だ。ここは紛れもない『ホモ温泉』ではないか。
推定ホモ人口7割。
これまでにないくらい思いっきり体を洗い、慌てて更衣室に戻ると、
「おっ、ジャパニーズか? マッサージしてやるぞ」
と一般客がさらに追い討ちを掛けてくる。
着替えも早々に退散する私。
温泉研究家の私の人生でも、入って20分で出てきたことはこれまでない。
宿へ戻ると、同室の日本人二人も行ってきたという。
「あそこは独りで行っちゃ駄目ですよ。観察する余裕がないから」という。
彼らは二人で行った為、『カップル』とみなされて、迫り来る脅威はなかったそうだ。
そしてじっくり観察したという様子を聞いたが、ここでは書けない……。
そんな訳でしばらくは恐くて他の温泉に行けなかったのである。
かくして私は、ブタペストに10泊以上しながらも、たった3回しか行っていない。
また多少値段が高いのも理由だが、完全にマッサージ恐怖症になったので、一度も受けていないのであった。
ヨーロッパって奥が深いぜ。
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