ハンガリー/ブタペストには国際列車が発着する大きな駅が3つある。

15年前、当時のチェコスロバキアの首都プラハからの夜行列車が到着した駅と全く同じブタペスト東駅に到着した。

既に、学生の頃に訪れていた都市は、北京に次いでブタペストが2ヶ所目だ。北京と同じように大発展を遂げ、何の面影も無さそうで何だか寂しい心持ちだったが、実際に街を歩いてみると、ここブタペストは、当時とほとんど変わりがない事が分かった。

もちろんそれは、ドナウ川や、そこに掛かる橋、温泉の建物、中世からの石作りの建物などの大物の事で、やはり細々としたところは資本主義の大きなうねりを反映している。

例えばそれは、道を走る車の数の増加であり、新型のバスの存在であり、石作りの建物の一階を大改造してできたショーウィンドーであり、犬を中心とするペットであったりする(因みに、ブタペストの露地に入ると注意が必要。犬の糞が異常に多いんだな、この街は)。

マーケットへ行こう

ヨーロッパを良く知っている旅行者に言わせると、ここブタペストは旅の終盤に来た方がいいらしい。理由はお土産だ。

買い手にとって安く、誰かに差し上げても外さず、後に残らないで(つまり食べ物)、そしてかつ日本と海外との内外価格差が最も大きいもの、それは、

  1. キャビア
  2. フォアグラ
  3. ワイン

だそうだ。

ヨーロッパのお土産どころで有名な場所では、それぞれ1つずつはあるらしいのだが、ここブタペストには、2.と3.の2つが揃っている。これは他の都市には無い特徴という話だった。

因みにフォアグラ、ものによりけりではあるが、100グラムの缶詰で2,000〜3,000フォリント(1,000-1,500円)程度。

全く同じ物でも、個人商店の集まりだから、値段が違う。うかつに買うと、実に後悔するのだった(体験者談)。

日本で食べるフォアグラの多くが中国産であるのと同じように、フランスで食べるフォアグラはハンガリー製ということだ。そしてそのフランスではとても高いらしい。

ところで、日本でフォアグラなんぞ買ったことが無いけど、一体幾らくらいするんだろう?

そしてワイン。美味しいワインはヨーロッパ各地にあるが、ハンガリーのワインも豊富な日射量を背景に負けてはいない。私がスーパーで買って飲むようなやつは、500〜3,000フォリント(250-1,500円)程度なのだが、もちろん上には上がある(もちろん、時にはそんな奴も奮発して飲んじゃうけど)。

TOKAJI(トーカイと読む)というハンガリーの貴腐ワインは有名だ。プトンと呼ぶ等級?が6つあって、『プトン6』というのが一番高い。何でも貴腐ワインのエッセンスのブレンド量が一番多いらしい。貴腐ワインは、腐るぎりぎりまでぶどうを摘まないので基本的に甘い。よって、『プトン6』はとても甘い。

私は『プトン3』というのを飲んでみたが、「世の中にこんな美味いワインがあるのか!」と唸ってしまった(甘党だからかもしれないが、砂糖の甘さとも全く違うのです)。

またその製法から大量には生産できないらしい。

そしてワインなので年代によっても大分値段が違う。結果として、すごく良い出来の年の『プトン6』はめったに手に入らない。そして仮にあっても、値段が東欧と思えないくらいとても高いらしい(おまけにこのシリーズは全て500ミリリットル瓶だ)。

私は先の旅行者に勧められ、かなり良い年の『プトン6』を4本も買い込んでしまった(これでまた1日当りの平均生活費がぐんとアップしてしまった…)。

ハンガリーの空港の免税店で、普通の出来の年の『プトン5』がものすごい高値で売っていて、「これこれ!」と言って日本人が何本も購入していたのを目撃(ハンガリーの空港はユーロ表示なので、最近は日本人にとって特に高い)。

思わず、こっちを買って!と私の分を差し出し現金化してしまいそうになった。

刺繍屋さん

マーケットの2階にもお店がある。刺繍屋さんだ。チェコのガラス細工に並んで、ハンガリーの刺繍は有名だ。これもお土産用らしい。

とても奇麗なので、誰にあげる当ても無く大き目のものを選んだ。ワインの後だけに5,000円は痛いけど、実に素晴らしいものだし、と思っていると、何とそれは5万円だった。1桁間違えていた訳だ。

実は徹底的に交渉した後なのだった。実に格好が悪いが、手を引くしかなかった。ハンガリーをなめていた。何でも大型の刺繍は、製作に何ヶ月も掛かるらしい。

刺繍が如何に高いものなのか常識感が無かったようで、結局、購入したのは一気にチッチャーイ花瓶置きに。

食堂

30件ほどの刺繍屋を通り過ぎると食堂のコーナーが現れる。

私の入った店は、学食みたいなアラカルト方式で、小皿に盛られた地元の料理、ワイン、パンなどを好きなだけお盆に乗せ会計をする。

そもそも安さが売り物であるマーケットの2階にある食堂だから値段は安いのだが(でも美味しい)、何とバイオリンの生演奏をしてくれるのには驚いた。

既に昼はとっくに過ぎていた。もしかすると1日中弾いているのかもしれない。

こんなところに、ヨーロッパの素晴らしいところを感じてしまう。

マック

ブタペスト西駅に、日本だったら文化遺産になってしまうような古い建物があるのだが、実はそこでマクドナルドが営業していたりする。

内装、照明、天井の高さなどが他のお店とは全く違い、ちょっと厳かな雰囲気。でもメニューは同じ。

ハンバーガーの値段は200フォリント(100円)。大きさ、味ともに日本と代わらない。

東欧にしては少し高い。これは通貨フォリントの影響かもしれない。フォリントは、ユーロと連動していて、このところ実に高くなっている。ハンバーガーだけでなく、野菜や肉、乳製品なんかもポーランドやバルト三国より1-2割ほど高い様だ。

ここハンガリーには、マクドナルドの他にバーガーキングがある。

店の数はマックの方が多いかもしれないが、久々にバーガーキングを発見し、比較の為に入ってみた。こちらのハンバーガーの値段は199フォリント(100円)。マックより1フォリント(50銭)だけ安い。そして、実に細かいが、パンにはゴマがふってあるところはマックより得だ。

でも味はパサパサで今一つという感じなんだよなあ。15年前にシンガポールで食べた時にはうまかったけどなあ。

スチューデントカード

ISIC(International Student Identity Card)と呼ばれる国際学生証がある。これがあるとミュージアムの入場料、鉄道などの料金が学割になる事がある。当然、学生に対し発行されるものだが、特に東欧やロシアでは絶大な効力を発揮するので、偽のISICが横行するのである。

タイやインドが、偽ISICカードのメッカらしいのだが、ここブタペストのは、世界でも最高級品という噂だ。後ろには磁気テープらしい黒い帯まである(磁気を帯びているのかは不明)

因みに値段は1,200フォリント(600円)。

航空会社によっては学割があるところがあるので、これによって数万円が浮いてしまうらしい。なんともはや…、である。

(因みに私は作ったけど、使っていませんよ。因みに、何の得になるのかわからないがTeachers Cardというのもあって、これもお土産に作ってしまった)

ブタペストのお店

ブタペストのお店は本当におしゃれになった。15年前は【当方は国営でござい。売ってあげてもいいけどね】という感じの店ばかりだったが、もうヨーロッパにあるお店と代わらない。

本屋さん、洋服屋さん、薬屋、土産物屋、銀行、眼鏡屋…、日本人でもほとんど不自由の無い生活が送れるに違いない。

まず旅行者に馴染みの深い銀行そして両替商。かなり自由競争の効果がある為か、実勢に近いレートで交換してくれる。ただ、駅の両替屋だけは、1-2割もコミッションをぶったくるので腹立たしい(体験者談)

次に本屋さん。15年前のブタペストには本屋さんがたくさんあった。当時あこがれていたソニーの盛田会長の「Made in Japan」のハンガリー語訳が売っていて、読めないのにお土産に買った記憶がある。

ふと現在の街を見ると、少し本屋さんの数は減ったようだ。でも大きな書店に入ると、何とカフェが併設してある。つまり、ここでお茶でもしながら読んで、気に入ったら買ってください、というスタイル。日本でもあるらしいが、寄った事はなかった。ハンガリーで試すとは。

ここのサンドイッチがまた絶妙で、結構通ってしまった。

次に眼鏡屋さん。ここで1セット作ってもらった。

何でも日本のホヤがハンガリーに眼鏡工場を持っているらしく、どのお店に行ってもホヤを勧められた。でも値段は日本より少し安い程度。

私の視力はとても悪いので、かなり高い圧縮率でないと困るのだが、ホヤの1.70に対し、1.68というフランス製があったので早速作ってもらった。翌日完成。全く問題ない。

美味いカプチーノが飲みたくなって喫茶店に入る。

ここはコーヒー屋というよりは、1口サイズのチョコレートを売るお店だった。ここはパリか?と思わせるような上品な内装の店内にはオシャレな女子学生が何人もショーケースをのぞいて、好きなものを注文していた。

日本の女性誌あたりが取材しそうなお店なので、ちょっと自分の汚い格好を恥じながらも、私はカプチーノとサンドイッチを注文。値段は高いが、

味も雰囲気も申し分ない。

実はポーランドで風邪をひいた。咳が相変わらず出ている。たまらず薬を買った。

15年前には列に並ばずして薬を買えなかったことから思うと、全く隔世の感がある。当時は捻挫をしてしまい、湿布を買うべく薬屋に行ったのだった。

そこには3つの長い列があった。症状を説明するのに並んで20分。薬代を払うのに並んで20分。そして薬をもらう列で20分並んだ。そして出てきたのが何と包帯。

笑うに笑えなかった。

今は立派な咳止めが瞬時に出てくる。ハンガリー製だ。値段も安い。

今度の問題は、その薬が効かないことだった!

15年前には、観光客を相手にした商売など無かった気がするが、今はすごい。

旧市街地は、屋台が無数に出ている観光スポットになっていた。

目の前で焼くソーセージが誠に美味そう。

ここでホットワインを飲む。因みに一杯250フォリント(127円)。何かの香辛料を利かせているような味でなかなかうまい。

たくさんの観光客に混ざって日本人も多くいるようだ。そう言えば、ブタペストでは日本人のグループによく出くわす。これほどなのはモスクワ以来かもしれない。

中華マーケット

15年前にはなかったと思うが、中華マーケットの品物が超安い、という噂を聞きつけ行ってみた。確かに安かったが、驚いたのはその活気。中国人およびベトナム人が所狭しと商品を並べている。商品は主に、洋服、靴、帽子。中国で大量に作ったものを、はるばるハンガリーに持ち込んで売りさばいているそうだ。こんな所まで市場が拡大しているとなると、中国ブームはまだまだ続くのかなあ、などと思ってしまう。

シナゴーグ

ブタペストには、有名(らしい)シナゴーグ(ユダヤ教の礼拝堂)がある。

ハンガリーのユダヤ教徒の比率はごくわずからしいが、実に立派な建物だ。

もともとブタペストには国会議事堂や王宮など立派な建物が多い。

ここもその1つで、ユダヤ教徒でなくとも中に入ることができ、この写真を撮った日も大勢の観光客で一杯だった。

世界各地でテロがあったものだから、このシナゴーグは一度見たものの、二度と近寄らない様にした。

バレエ/クルミ割人形

ハンガリーに最初に入ったのは、11月24日の事だった。新しい街に入ると、クルミ割人形をやっていないかどうかをまず探す。

何と、ハンガリーの国立オペラ劇場で12月に10回ほどやるではないか!

早速、チケットを買いに行くと、何と何と、全ての座席が売り切れという。12月の公演は、11月3日に発売になったのだが、その日にすべて完売になったという事だった。一番安くて300円。一番高くて3000円程度なのだったが、ことごとく売り切れに愕然とした。

しかし、チュニジアから戻って公演の前日に窓口に行ってみると、1席だけキャンセルが出たという。4600フォリント(2335円)の席だ。当日、ダフ屋から買おうと思っていただけに実にラッキー。

(内容については、さすがに芸術の東欧だけに素晴らしいものだった。書いてしまうと陳腐になるので省略)

観客は、クリスマス前という事もあり、クルミ割人形という題材という事もあり、子供たちでいっぱいだった。こんな小学生の頃に、本物のバレエを見たら、きっとその後の人生が変わる子供もいるだろうな、などと思いながら宿へ帰る私であった(2回の劇場の合間に、TOKAJI『プトン3』のワインを2度も飲んでしまって、実に幸せなのでした)。

ハンガリーの宿

モンゴル/ウランバートルでは、日本人の経営する日本人宿に泊まっていた。ここブタペストにも旅行者の間でとても有名な日本人宿がある。ただし経営者はジプシー系のハンガリー人。自宅の2部屋をドミトリーとして開放している(で、自分達は玄関先の通路の様な場所に寝ている)。値段は1300フォリント(660円)で、へたなユースホステルよりも断然安い。しかも昼食付きなのである。

それだけではない。ブタペストはヨーロッパの中心なので(と思っているのは私一人かもしれないけど)、東西南北から来た人が、それぞれ情報を交換して北南西東へ旅にでる。この宿には、結構情報が集中しているので便利なのだ。

そしてもう1つのメリット。客がほとんど日本人。そして長期の貧乏旅行者という事から、誰かが『鍋でもしようっか』と言い出すのだった。そして私が滞在中も、白菜と鳥の鍋になった。

最初、醤油が無かったので近くの大型スーパーへキッコーマンを探しに行った。しかし無い。SOY SOURSEと書かれたハインツのおいしそうなやつがあったので、食材費の半分を占めるとわかっていながら購入。

ところがところが大甘の醤油で、鍋に全く不向き。やっぱり醤油はキッコーマンだね、と反省。

そこへタイムリーに新しい旅行者が登場。何と彼は醤油を持って旅をしているのだった。恐縮しながらも使う我々。

海外で食べる日本の味、結構美味いもんなんですよね。

旅行代理店

放浪出発の前日までバタバタと働いていた関係で、いろいろな事をそのままにして来た。一度日本に帰ってその当りをきちんとしなきゃなあと思っていた。さらに確定拠出年金の運用指図だの役所への届け出だのを今年中にする必要があったので、日本への航空券を手配しにブタペストの旅行代理店へ行く。

プラハ、ブタペスト、アテネは、日本への航空券が安い事で旅行者の間で有名だった。聞けば、あるシーズンでは、5-6万円で日本往復のチケットがあるという。しかし実際には既にクリスマスシーズンに近くなっていて、安いどころかむしろ高いんじゃないの、と思うようなものしかないことが判明。それでもドイツのルフトハンザ航空の往復チケット(1年有効)を、244,000フォリント(124,000円)で購入。日本の旅行代理店HISなら、30日有効で7万円というのもあるだろうからとても高いがやむなし。

そんな訳で、次の放浪はドイツと決まった。

たぶん…つづく