チュニジアに行く事にした。
ブタペストからは陸路ならヨーロッパの大抵のところに行ける。飛行機には乗るつもりがなかったが、空路もハンガリー人の購買力に合わせ、各社共に比較的安いものを提供している。
どこに行くか相変わらず悩んでいた。
そんな時、旅行代理店が窓に張り出している広告の【TUNISIA】という文字が何故か目に付いた。
『おやっ、アフリカが呼んでいる』
と思って見ると、何と49,900フォリント(24,950円)と書いてある。7泊8日のツアーだ。
早速旅行代理店に詳しい話を聞くと、何と飛行機、宿泊費のみならず、空港の出迎え、朝食、夕食がすべて込みだという。ホテルは3スター。そして若干の追加で一人での参加も可能とのこと。その場合には仕上がりで、56,000フォリント(28,000円)だった。
エジプトやヨルダンなど、チュニジアとほとんど距離が変らない国のツアーは、その2倍から3倍はしている。
何でもこのTUNISIAツアーだけは、“ラストミニッツ”とかいうやつで、ツアーの空席を埋めたい旅行代理店の特別価格らしい。
ハンガリー人と一緒のツアーでは何かと支障があるに違いないが、もう心はすっかりチュニジアになってしまった。
まずはチュニジアの概要から。
1.面積: 16万4,154km2(日本のほぼ5分の2)
2.人口: 946万人
3.首都: チュニス(人口約83万人)
4.言語: アラビア語(公用語)、フランス語
5.宗教: イスラム教スンニ派が殆ど
6.人種: アラブ人(98%)、その他(2%)
7.略史: 紀元前9世紀より都市国家カルタゴとして盛えた
146年 ローマ帝国による征服
7世紀 アラブ侵入
1574年 オスマン帝国属州
1881年 フランス保護領
1956年3月 フランスより独立、翌年共和制移行
チュニジアは、世界を旅する旅行者があまり行かない場所だ。隣はアルジェリアとリビア。あまり評判が良くない。アルジェリアの隣はモロッコで、こちらは旅行者が多いのだが、モロッコとアルジェリアは仲が悪く、国境が閉ざされているらしい。従って陸路でモロッコからチュニジアに入ることは出来ない。リビアもビザが取り難い国らしい。
結果としてヨーロッパからだと、チュニジアだけ飛行機で行って帰ってくることになり、効率と費用の面であまり人気がない様だった。
一方、逆にリゾートを求めるヨーロッパ人には人気のスポットという話だ。日本人にとってのグアム以上に身近らしい。
スースへ
飛行機は、ブタペストから出るチャーター機だった。エアバス。180人乗りだが、結構空席が目立つ。
やはり時期は既に過ぎている様だ。いやそもそも、ハイシーズンには値段が高いのでハンガリー人はあまり行かないのかもしれない。
行き先は首都チュニスではなく、観光地のスース。
チュニジアの第三の都市で、国を代表するリゾートらしい。
そのスースに程近いモナステール空港には若干遅れて21時に到着。
まずは入国審査。そして税関。日本円にして約9万円以上の外貨を持っているものは申告が必要だ。厳しいのかそうでないのかわからないので、一応正直に申告すると税関職員はとても気さくに対応してくれる。
「そうか、はるばる日本から来たのか。いやーこの前のワールドカップは面白かったな」
この国がとても良い国であることを予感させるようだった。
空港の外へ出ると、これまでの東欧とは違う、何やら澄んだ風がながれてきた。やや暖かい。
どこかの感じと似ていると思ったら、4月に行った西表だった。この時期の西表はまだそれほど暑くもなく、そして潮風がすがすがしいのが特徴だが、それと全く同じ。
そう、ここは地中海に面しているのだった。
用意されたバスで十数キロ離れたスースへ向かう。現地旅行代理店のハンガリー人スタッフが、何やらバスの中で延々と話している。チュニジアの歴史や地理を話しているのだろうか。さすがにハンガリーのツアーだけに英語では話してくれない。
ツアーご一行様は、飛行機とバスが同じだが、ホテルはグレードに応じ別々なのだった。順々にホテルに到着し、4つめのホテルが私のホテルマルハバだった。これはツアーの中で最も安いグレードらしい。比較的若い人が一緒だった。
最初は、何で日本人がいるんだろう、という感じだったが、一緒に行動するうちにいろいろと親切にしてくれる。またハンガリー人スタッフも一人の日本人の為にいろいろ世話を焼いてくれ、異国でハンガリー人の良さを知ることが出来た。
ホテルマルハバ
早速チェックインする。
建物は少し古そうだが、とても重厚な感じのする威厳のある作り。4階建て。
従業員は何故か高飛車な連中が多いのだが、部屋もとてもきれいで好感の持てる。
バーではビールも飲める。レストランは広そうだ。
このマルハバホテルでは、ロビー脇のちょっとしたコーナーで、毎晩ショーをやる。踊りあり歌あり、曲芸あり。
今夜も既に始まっていた。今日は巨大な剣山?の上に屈強な若者が寝て、その上からゲストが4人乗っかるというショー。まあどうって事ないショーだが、集まってきた人たちにはとても受けていた。
ただ、このホテル、安いツアーを受け入れるだけに妙なところでせこいのだった。
・プール脇の椅子を使うのに1ディナール(89円)。
・部屋のタオルは、プールに持っていくなという。そしてプールで借りるとまた1ディナール。
・セキュリティボックスは1日1ディナール。
などなど。探せばきっともっとあるに違いない
金は惜しいが、テレビは見たい。アラブのテレビがどんな番組をやっているのか興味津々。だがせこい金取りには組みしない。
しかしこちらはエレクトロニクス大国日本から来ているのだ。翌日に街へ繰り出してケーブルを買ってしまう私なのだった。因みに1.5ディナール(134円)。この勝負、私の勝ちである(しかし、どちらがせこいかわかりゃしない)。
因みにアラブの番組、ヌードこそ出てこないが、クイズあり歌番組ありで、あまり先進国と変わりがない。ただ、運転中携帯で話すのは止めましょう。資源を大切にしましょう。ゴミはちゃんと捨てましょう、といった啓蒙的な政府広告が流れているのが印象的だ。
何でも我々が到着した日に、『5プラス5サミット』という会議が開幕したのであった。
ヨーロッパからは、ポルトガル、スペイン、フランス、イタリア、マルタ。
アラブからは、モロッコ、アルジェリア、チュニジア、リビア、モーリシャス。
つまり地中海の10ヶ国が一堂に会し、地域会議を行っているのだった。
テレビでは、リビアのカダフィー大佐が映っている。一昔前のギラギラした感じは既になく、ちょっと歳を取った感じ。アメリカもこれなら安心だろう。
無事に到着し部屋に入るとビールが飲みたくなった。
ビールならバーで飲んだらどう?というホテルスタッフの言葉を無視して、ホテル周辺のお店を覗いてみた。やっぱりあるじゃないビール。ビールが街中の小さな店で買えるのは嬉しい誤算だ。
と思って、3本も買ってホテルの部屋で飲んでみると全然酔っ払ってこない。良く見るとノンアルコールだった。やはりアラブ、甘くはない。
味は誠にビールなのだががっかり。さらに良く見るとアラブ文字が書かれているものの、なんとドイツ製だった。
リゾート
このチュニジアツアーを決めたのは、もちろん価格が安かったからだが、それ以上に、アフリカの太陽にひかれたのである。
そしてアフリカ大陸の北の端にあるここチュニジアでもまだ十分に泳げるというのが旅行代理店の説明だった。
太陽さんさんさん。
日光浴としては十分だ。ここは東京と同じ程度の緯度なので、太陽はずいぶんと低いのだが、とても温かい地域なのだった。
時々吹いてくる地中海の心地よい。
アジアの方から吹いてきている。
『♪ Wind is blown from the Asia. 女は恋〜』
と唄ったのはジュディーオングだっただろうか(旅していると、何だか昔の歌を思い出したりする。古いな俺も)。
1時間ほど日光浴して体をほてらし、いざプールへ。
しかしとんでもなく冷たかった。
日中は20℃ある気温も、明け方は10℃以下になる。そりゃー冷たいに決まっている。
もちろん他に泳いでいる人などいやしない。
旅行代理店の嘘つき!
(でも後で、屋内プールがあることを知る。しかしリゾートに来て屋内プールってのも何だよなあ)
思い切ってザブッと入って、あたかもスイミングスクールのように一気に泳いでみるが、いつまで経っても体は冷たいままだった。体を刺すような感じさえする。
保養で来ている初老のカップルが、「若いって良いわね」みたいな感じでこちらを見ている。
途中でホテルの従業員が冷やかしに来た。
「Are you fine?」
こんな寒くてFineのはずはない。「Cool !」と答えておいた。
この場合、ステーツ人が良く使う、“いけてる”なんて意味じゃないぜ。リゾートを売るならちょっと温めてくれよな。
それでも運動不足と日光浴不足を解消すべく20分ほど泳いでいた。誰も泳がないので水は完璧にきれいだった。
が、とうとう足がつり始め、慌ててプールを出る。何だか忙しい。
時間的には日焼けするほどではないのだが、体中、すっかり赤くなっている。
というか、紫なのだった。
プールサイドで日光浴をしているイギリス人女性。何でも1ヶ月以上もここに滞在するらしい。体はすっかりピンク色。
「クリスマスイブには帰ろうかしらね」
と言う。金持ちは違うね。
今度はホテルのプライベートビーチへ。スースの白い浜辺はなかなかだ。
これが私にとって初めて見る地中海である。
青い空、白い砂浜。地中海のイメージ通り。
ヨーロッパから来た観光客はやはり日光浴をしている為、水着姿。
何人かは足まで海には行っている。
ただ風が強く波も少し高いのでそれほど人は多くない。
もうすっかり寒中水泳が得意になった私は一気にザブンと入るのだった。
しかし12月の地中海はとても冷たく、同時に冷たいヨーロッパ人の視線まで浴びてしまうのだった。
リゾートホテル
このホテルの夕食は誠に豪華なのだった。
旅をしていると、どうしても生野菜を食べる機会が減る。どうもそれが原因なのか、ハンガリーではずっと咳ばかり出ていた。
しかしこのホテルのバイキング。生野菜がドカーンと何種類もあるのだった。
日本にいるときはそれほど食べないが、ここではサラダの皿ではなく、メイン料理の大きな皿で生野菜をたっぷり食べた(因みに3日目には咳も一気に収束)
因みにスープのバリエーションは日替わりで5種類くらい。
何だか今までの貧乏旅行とはえらい違いだ。
さてメイン。
普通のホテルなら、調理人が中央で卵料理か肉類を焼いているのだが、さすがは地中海に面する港町スース。メインは魚なのであった。
何種類かの生の魚がプレートに置かれていて、客は好きな魚をお願いする。
10分程度で焼いてくれ、野菜やレモンと添えてテーブルへ。
レモンに塩ってのでも十分美味しいのだが、いやー、醤油は本当に必要だ。持ってくるべきだった。
連日こんな感じ。素晴らしい。
一度だけ、なんと茄子のフライまで置いてあった。ああ麺つゆが欲しい。
次にデザート。
ここには各種のケーキと並んでザクロが置いてあった。
一旦意識すると、何の事はない、世界各地でザクロを見かける。
さて、ここのザクロ、ラトビアで食べたものより味が強く、種が小さくてさらに柔らかいので一気にほお張ることが出来る。さすがはアフリカの肥沃地帯で育っただけある。
しかし、ザクロって美味しい。何で今まで知らなかったんだろう。
横のテーブルでフランス人らしき中年のカップルが食事を取っている。もちろんワインを飲んでいる。フルボトルだ。
男性はワインを注いで、さらに水で薄めている。こんな飲み方は初めて見た。
そして2人で半分しか飲まずに退席した。最初からハーフボトルで頼めば良いのに。
金持ちは違うね。
こちらもチュニジア製のMAGONというワインを頼んでみた。結構いける。
チュニジアはワインでも有名だ。しかし誰がテイスティングしているんだろう。
ビールはバーで飲んだ。この国にもハッピーアワーというのがあって、18〜20時の間、通常1.9ディナール(170円)のビールが1.5ディナール(134円)になる。飲むとちゃんと酔っ払う。
つまみには、オリーブを出してくれる。ちょっと塩味が効いていてなかなか良いおつまみだ。
回りを見ると、どうも客ではないアラブ人も多い。たまにはここへ来て酒を飲むんだろうな。
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