『VIPたちの桜花賞展望』(日本語)
2003年4月9日




<4月9日>(水)


特報!VIPたちの桜花賞展望(上海馬券タイムズ特約)

1.ブッシュスピーチの衝撃

イラク紛争が軍事的な終局を迎える中、今、世界は「戦後処理」という名の新たな戦争段階に突入した。イラク復興をめぐりさまざまな思惑を持つ各国の鞘当は既に始まっており、事態は中東石油利権と言う地政学上の問題にとどまらず、新国際秩序の確立における欧米の相克、イスラム対キリスト・ユダヤの文明の衝突という極めて深刻な問題に進展する様相を呈し始めたのである。

4月某日、唯一の超大国の動向に世間の耳目が集まる中、第43代アメリカ合衆国大統領ジョージ・ブッシュは、いならぶ報道陣を前に驚くべきスピーチを行った。

「桜花賞にピースオブワールドが出ないことに、強い失望と憤りを感じている。G1競争は真の強者によって争われるべきであり、真の強者のみが神の加護を受け、邪悪な存在を打ち倒し、世界の平和(ピースオブワールド)を獲得できる資格を持ちうるのである。日本の競馬界は自らの手で正義を証明する機会を失った。」

世界に衝撃が走った。アメリカ大統領がイラク問題、国際問題をそっちのけで、日本の競馬を論じている!誰もが彼の真意を測りかね、様様な憶測が世間を賑わせた。曰く、「イラクの次は北朝鮮ではなく日本なのか」、曰く、「ピースをpeace(平和)と読むのは間違いで、あれはpiece(かけら)と取るべきであり、日本の競馬を語るそぶりを見せながら実はアメリカによる世界一極支配への強い意欲を表明したのだ。」、曰く、「彼の極度なピューリタニズムがこのような瑣末な出来事に対する寛容さを喪失させるくらい進行している。アメリカ軍が十字軍の軍装を正式制服に採用し、異教の地に侵攻する日が近い。」等など。


2.ラムズフェルドかく語りき

大統領が実は単なるずぶずぶの競馬親父であり、桜花賞における勝ち馬の取捨選択に真剣に悩んでいたのだと言うことが明らかになったのは翌日になってからである。側近にして国防長官であるドナルド・ラムズフェルドはキャンプデービットに向かう軍用機の中で、記者との雑談の中、こう語っている。

「大統領はピースオブワールドの馬券購入をコイズミに頼んでたんだ。出ないのを知って、かなり悔しがっていたよ。結局、彼は馬券は買わずに「ケン」するみたいだけど、私は買う。勝つのはチェイニーだ。アドマイヤグルーヴのような重厚長大な血統は、「古い競走馬」の代表であり、何の魅力も感じない。チェイニーには父サンデーのアメリカ魂を母父KRISという素軽い血脈が支えている。このように「鼻持ちならない本流意識」から離れ、情報化された新しい感覚で戦うことが今要求されているのだ。チェイニーは阪神競馬場に『衝撃と恐怖』をもたらすだろう。」

この論説は大統領に対する追従であると同時に、彼と敵対する欧州ならびにアメリカ国防省制服組に対するあてこすりを目的としてなされたものであるというのが、現時点での一般的な見解である。ただ、桜花賞に登録している馬の名が、「チューニー」であるにもかかわらず、彼がこれを「チェイニー」と呼んだことは、理解に苦しむ事項であり、識者の間でも単なる間違いとする見解と、わざと間違えたのだという見解に分かれ、今のところ明確な結論が出ていない。


3.パウエルの誤算

国務長官コリン・パウエルも本件に関し、所見を表明した一人である。以下に掲げるのは、イギリスのアメリカ大使館内で行われたインタビュー記事の一部である。

記者:「最近ラムズフェルド長官がアドマイヤグルーヴをだしにして、あなたや国防省内にいるあなたのシンパを揶揄しているようですが」
コリン・パウエル(C・P):「戦場の現場を知らない軍事理論家は、市場を知らないエコノミストのようなものだ。理屈で戦争に勝てるようなら、ヴェトナムで我々は違う結論を得ていたはずだ。」

記者:「じゃ、長官はアドマイヤグルーヴ本線ですか。」
C・P:「いや、私が買うのはネオユニヴァース。」
記者:「ネオユニヴァースぅ?」
C・P:「そうだ、彼女が桜の女王として新たな宇宙と私にささやかな収入をもたらすはずだ。」

記者:「しかし。。。」
C・P:「いいか、名工は少し鈍い刀を使う。これまで大差勝ちがないのは、決して彼女に抜き出た実力がないことを意味しない。あの馬は相当強いぞ。」
記者:「いや、でも。。。」
C・P:「黙って聞きたまえ。強ければそれでいいと言うものじゃない。真の強者とは、戦いをきっちりと勝ち抜いて尚且つ相手との融和を図れる存在を言うのだ。力がありながら敢えて大差にせず、相手の顔も立てられる彼女はたいしたもので、当日はきっと。。」

記者:「長官、聞いてください!」
C・P:「なんだね。」
記者:「ネオユニヴァースは牡馬です。オス馬なんです。だから桜花賞には出ません。」
C・P:「。。。。。。」

記者:「ご存じなかったのですか。」
C・P:「ワハハハ。私と大統領は馬が合う。彼も私の仕事は気に入ってくれているよ。」
記者:「そんなこと聞いてないっての!」


4.欧州の対応

このようなアメリカ各首脳の動きに対して、ドイツのシュレーダー、フランスのシラク両首脳はドイツ・ドレスデンにて緊急会談を実施し、桜花賞登録馬マイネヌーヴェルに対する支持を表明した。支持の理由が明確には語られなかったことから、「アメリカによる有力馬指名が相次ぐことに慌てて理論武装する間もなく、取り敢えず勝てそうな馬につばをつけた結果」というのが、世間一般の受け止め方であるが、「単に馬名が独仏語の折衷であることが両国のメンツを保つ意味で重要であっただけ」であるとする説もあり、筆者としてはこちらの方に組したい。


5.日本そしてイラク

各国首脳が桜花賞予想に明け暮れる4月上旬、日本に衝撃が走りぬけた。行方がわからないまま数週間が経過し、死亡が噂されていたイラク共和国大統領サダム・フセインが官邸にいる内閣総理大臣小泉純一郎にあて、電話をかけてきたのである。後にCIAの分析官により、本人のものと証明された野太い声の人物は小泉首相と下記の会話を残している。

(電話の向こうから遠い銃声が聞こえる)

小泉:「な、なんの用ですか。」
サダム・フセイン(S・H):「いやね、当日所用で馬券が買えないものでね、あんたに買っておいてもらおうと思って。」

小泉:「ば、馬券ってね。あんた、何考えてるんです。今のあんたの委託馬券を引き受けると、貸し倒れになる可能性が高いじゃないですか。これ以上の不良債権はこりごりだ。大体、あんた、今どこからかけてるんです。」
S・H:「それは秘密です。いや、いや、マジで。なにせ、住所を移すたんびに、ブッシュの罰当たりが爆弾落としてくるので、最近は競馬新聞を読む閑もないくらい落ち着かなくてねぇ。それはそうと、阪神の馬場状態はどうかね。」

小泉:「阪神ですか。今日、明日で雨が上がるから、当日は良が見込まれるわけで、ハイペースの乱戦必至って、あんた何言わせるんです。」
S・H:「そう言えば、小泉君、アドマイヤグルーヴが本線なんだってな。人気ばかり気にして、馬券の内容がぜんぜん伴わない、いい加減競馬を止めたほうがいいと野中君がこの前こぼしてたぞ。」
小泉:「あのおやじ、北朝鮮だけじゃなくてあんたのところにまで粉をかけてたのか!ほっといてください。人気にこだわるののどこが悪いんです。人気がなくては何も出来ません。イギリスのメイジャー首相も『勝ち馬に乗るのはいいことだと全面的に賛同する』と言ってくれたんだから。」

(遠くでロケット弾の炸裂音)

S・H:「野中君のお勧めは、ヤマカツリリーだそうだ。『最近の競馬は良血ばかりを大事にして気に食わない。差別を受けてるマイナー血統に熱い支援を注ぐのが政治家としての自分の責務だ』と1時間以上も演説ぶたれて往生したわ。」
小泉:「そんな奇麗事を言って、しっかり勝てそうな馬に肩入れしてるじゃないか。ホントに食えないと言うかしたたかな親父だ。そういうあなたは何なんですか。」

S・H:「よくぞ聞いてくれた。わたしの推奨はマイネサマンサ。単勝で3万円ほど買っておいてくれないかね。」
小泉:「マイネサマンサ?未勝利・500万を圧勝してるけど、ダートのしかも減量騎手での実績じゃないですか。そんな馬よく買えますね。」
S・H:「ダート馬をなめてはいけない。砂を制するものは世界を制す。阪神の芝はものすごくパワーを要求するので、ダート実績は重要な指標になるんだぞ。」
小泉:「砂漠でぼこぼこにされたあなたが言うのも説得力があるような、ないような。それにあの馬は確か抽選待ちで出れるかどうかも。。」

(ジェット機のエンジン音が近づいてくる)

S・H:「出れる!アラーの神が出してくださる。」
小泉:「アラーって、確かあんた無神論者じゃ。」
S・H:「おっと、そこまでだ、そろそろここを引き払わねばならん。では、マイネサマンサの単勝、頼んだぞ。サラーム!」

(凄まじい爆発音。電話の切れる音)

6.中国の反応

中国ではSARS騒ぎに伴う香港シャティ競馬場の検疫に忙しく、官民とも明確な見解を出していない。ここは日本の競馬事情に詳しい、上海在住の評論家、上海馬券王の見解を掲げておこう。

「フセインさんに一票!マイネサマンサは出れれば面白い存在です。」

ほんとかぁ? (了)







編集者敬白



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