2006年6月5日掲載分



○『マサチューセッツ通り2520番地』(阿川尚之/講談社)1700円+税

 公金横領からODAの無駄遣いまで、外務省の失態が続々と明るみに出たのはそう古い話ではない。川口順子外相が「外務省を変える会」を組織し、その民間メンバーとして当初は阿川佐和子さんが指名され、「妹が断ったから」登用されたのが阿川尚之氏であった。いくつもの縁が重なって、阿川氏は慶應大学教授から広報担当駐米公使へと転身を遂げる。

 本書は、その間の1000日にわたるワシントンでの経験を綴ったもの。アメリカ滞在記は阿川氏のお家芸だし、イラク戦争などを挟む激動の時期でもあり、「民間にわか公使」の体験記は、普通だったら面白いはずである。が、何なんだこれは。

 大使館の仕事ぶりや、日本文化広報の日常などが、阿川氏ならではの誠実さで紹介されている。が、これがわが国にとって最重要同盟国における大使館の実態かと思うと、あまりの中身のなさに脱力してしまう。日本外交を広報するという目論みは良いのだが、多くの読者はやはり外務省とは変な世界だと判断してしまうんじゃないだろうか。

 ちなみに表題のマサチューセッツ通りとは、別名を「大使館通り(エンバッシー・ロー)」とも呼ばれる、ツツジ並木の綺麗なワシントンの目抜き通りを指す。われらが日本大使館はこの2520番地にあるわけだが、この表題がいかにも浮世離れして聞こえてしまうところに、日本外交と本書両方の悩ましい部分がある。


○『資源インフレ』(柴田明夫/日本経済新聞社)1900円+税

 昨今の資源価格高騰は、全体像を語ることが難しい。専門家が「石油」「貴金属」「食糧」などに細分化されている上に、国際情勢やアジア経済、エネルギー技術や人口論など広範な知識が求められるからだ。

 丸紅経済研究所の柴田氏は、「資源問題」全体をフォローしている数少ない企業エコノミスト。資源価格が上がり始めた頃から、「これは一過性の問題ではない」と警鐘を鳴らし続けてきた。この問題を俯瞰できる貴重な仕事である。


○『よむ地球きる世界』(大礒正美/彩雲出版)1200円+税

 国際政治を語るブログは数々あれど、着眼が面白く、読みが深く、なおかつ文章に切れ味があるというコラムはそう多くはない。本書は、国際政治学者の大礒正美静岡県立大学教授による「OISO.NET」を書籍化したもの。皇室典範改正、日中関係、靖国問題といった旬の話題を、小気味よく縦横無尽に斬り刻んでくれる。







編集者敬白





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