○『官邸主導』(清水真人/日本経済新聞社)1900円+税
平成元年から12年までの間に、日本の総理は10人も入れ替わったが、小泉さんは一人で5年も官邸の主を続けている。まずそのこと自体が偉大である。任期は残り5ヶ月を切ったが、「小泉政治とはなんだったのか」という議論がしばらくは続くだろう。
本書は日経新聞政治部の若手記者が、この10年の日本における経済政策の決定メカニズムの変容を追った労作だ。住専問題、財政構造改革、金融危機などの経緯は、今から振り返るとまるで遠い国の出来事のように思えるが、確かにかつてこの国で起きた事態である。読者は溜め息とともに思い当たるだろう。「なるほど、これじゃ経済の長期低迷も無理なかったな」と。
霞ヶ関の縦割りの弊害を是正し、大蔵省主計局の権限を縮小し、自民党の族議員の圧力を排し、官邸が中心となって経済政策を立案すること。それができないばかりに深刻な問題が先送りされてきたのが「空白の10年」であった。
流れを変えたのは2001年の省庁再編と内閣機能の強化、そして経済財政諮問会議の設置である。入れ物の変化に加え、小泉首相と竹中経済財政担当相という変人コンビの熱意が政策決定過程を変えた。「首相官邸主導の政策決定はこの二人が四年半かかって戦い取ったものだ」(中川秀直氏)。
来るべきポスト小泉時代、官邸主導は続くのかどうか。やはり「ヒト次第」と見るべきなのだろう。
○『外交を喧嘩にした男』(読売新聞政治部/新潮社)1500円+税
こちらは読売新聞の政治部が、「日朝」「日米」「日中」の三本立てで、過去5年間の小泉外交を振り返っている。
小泉首相が外交に求めたのは「主体性」であった。いわれてみれば、過去の日本外交は問題対応型であり、誰かに文句を言われてから、外務省がしぶしぶ出て行くというスタイルだった。それが拉致問題、安保理常任理事国入りなどの旗を掲げ、官邸主導で動くようになった。成果は目覚しくはなかったが、この点は大きな変化であったといえよう。
○『貯蓄率ゼロ経済』(櫨 浩一/日本経済新聞社)1800円+税
経済が長期低迷から脱する陰で、密かに進んでいたのが貯蓄率の低下である。「日本人は貯蓄好き」といわれてきたものの、高齢化が進むとやはり貯蓄の取り崩しが始まるらしい。貯蓄ゼロとなった日本経済は、円安、インフレ、高金利時代になるという。格差社会よりも、そっちの方がよっぽど心配では?
編集者敬白
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