2006年3月13日掲載分




○『日はまた昇る』(ビル・エモット/草思社)1200円+税

バブルの頂点であった1990年に、『日はまた沈む』という著書で日本経済の前途に警鐘を鳴らした人がいた。彼はその後、長らく英国の高級誌「エコノミスト」の編集長を務め、2005年秋のカバーストーリーで「日はまた昇る」と今度は日本の完全復活を予言した。

 そのビル・エモットが、「日本復活」を信じる理由をコンパクトにまとめたのが本書である。のっけから、「あきれるほど長い時間がかかってしまった」と慨嘆されてしまうが、それをもっとも痛感しているのは日本人自身であろう。債務とデフレに悩まされた15年が終わり、景気はようやく上向き始めた。なぜ、こんなに長くかかったのだろう。

 エモットはその理由を漸進的な改革に求める。アジアではすばしこいウサギ(中国)に目を奪われがちだが、その間にカメ(日本)は着実に改革を進めてきた。昨年9月の総選挙結果は、この変化がもう逆転しないことを示した。この国では革命もなければサッチャーも出ないけれども、いったん合意ができればその通りに進むのだ。

 知日派の著者は、最近のライブドア事件や永田町政治の変質、さらには日中関係の現状についても鋭い洞察を示している。とくに靖国神社参拝問題への分析は傾聴に値する。エモット提案は、「靖国神社を国有化せよ」という大胆なものだ。一人でも多くの読者の目にとまることを期待したい。


○『ブルー・オーシャン戦略』(W・チャン・キム+レネ・モボルニュ/ランダムハウス講談社)1900円+税

 たまたま業界全体が伸びているために、変哲のない企業が「エクセレントカンパニー」と呼ばれ、凡庸な経営者が持ち上げられることがある。景気回復の昨今は、特にそういう例が多そうだ

しかし、好況や幸運は永続しない。企業が長期間の繁栄を望むとしたら、未開拓の市場(ブルー・オーシャン)を開拓すべし。既存市場の中で、いかに競争を生き抜くかという企業戦略が多い中で、この発想に学ぶことは少なくないはずである。


○『国家の品格』(藤原正彦/新潮新書)680円+税

 今さらではあるが、ベストセラー『国家の品格』は痛快無類の書である。教養ある著者が、思い込みの強い極論を述べているものの、格調は高く、読後感はさわやかだ。皆がなんとなく思っていることを、スカッと代弁してくれている。

とはいえ、世の中がこの本の指し示す方向に動き出すわけではないのだろう。ただ、『下流社会』のような本を読んだあとでは、こういうメッセージが癒しとなる。社会現象になる本とは、そういうものである。



編集者敬白





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