○『郵政攻防』(山脇岳志/朝日新聞社)1300円+税
あれだけ大騒ぎした郵政民営化は、早くも世の中の関心から消えつつある。何年かたてば、「2005年の解散・総選挙の理由は何だったっけ?」となるかもしれない。日々の報道だけでは見えなかった部分を、あらためて整理しておきたい。
本書はそのための格好なドキュメントである。タイムリーであり、取材量が豊富であり、同時にバランスの取れた内容となっている。
一読して感じるのは、郵政民営化はやはり政治的な奇跡だったということだ。小泉純一郎の一途なこだわりと、竹中平蔵のユニークな資質の組み合わせがそれを可能にした。両者が出会わなければ、民営化は一政治家の風変わりな夢のままで終わったかもしれない。
本書は生田正治総裁を中心とする日本郵政公社の現場や、郵政族のドン野中広務の戸惑い、さらには「全特」(全国特定郵便局長会)の苦悩なども描いている。また郵便局ネットワークの成り立ちから、国家総動員体制の下で生じた問題点、そして今日の深刻な状況なども検証している。ありがちな「米国の陰謀説」を否定し、法案の問題点も指摘した上で、著者は「民営化に賛成」との結論を下している。
著者は朝日新聞社の最年少論説委員。取材対象への暖かな目線が印象に残る。
○『本当に「中国は一つ」なのか』(ジョン・J・タシク/草思社)1800円+税
中台海峡問題は、21世紀のアジア最大の外交課題かもしれない。かつて米国は、ベトナム戦争を終わらせるために中国に接近した。「一つの中国政策」はその代償であったが、当時の経緯は風化し、今や「バンパーに張りっぱなしの古いステッカー並み」になっている。
本書は米国の親台派論客たちによる政策論集だ。彼らが共有しているのは、台湾を見捨てたキッシンジャー外交への反発であり、この気風は今日の「ネオコン派」全体に共通しているように思える。
○『私の戦後六〇年――日本共産党議長の証言』(不破哲三/新潮社)1700円+税
数々の戦後60年モノの中でも、異彩を放つ一冊。日本共産党のプリンス、不破哲三氏の目から見た戦後史はどんなものであったか。地道に発掘した対米外交の秘話などは一読の価値あり。また1970年代の議会政治を高く評価している点も興味深い。
とはいえ、「わが党は常に正しかった」という話を延々と聞かされると、最後には「なんで政権を取れなかったの?」と突っ込みたくなってしまうのだが。
編集者敬白
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