2005年12月5日掲載分




○『歴史を学ぶということ』(入江昭/講談社現代新書)720円+税

 いろんな読み方ができる、お買い得な本である。

まず、入江昭ハーバード大学教授をすでに知っている読者であれば、本書でその半生を知ることができる。10歳で敗戦を迎え、高校卒業とともにアメリカに留学。苦労の末に大学教授となり、外国人でありながらアメリカ歴史学会会長に就任する。歴史研究への入り口は、少年時代に「教科書に墨を塗った」ことであった。戦争の結果によって史実が書き換えられるという、昭和一ケタ世代に共通の体験が原点になったという。

 次に、これから歴史を学ぼうとする読者には、入江教授の業績が簡潔にまとめられていて参考になるだろう。歴史の中心課題は「出会い」であり、20世紀の歴史も日米中が太平洋で「出会う」ことで作られてきた。今日、それを振り返る意義は大きいといえよう。

 最後に、歴史を学ぶつもりはなくても、時事問題としての日中関係や歴史認識が気になる人は、本書を通じて第2次世界大戦に関する研究の最前線について知ることができよう。

 歴史認識とは現在と過去の対話である。現在の社会や政治への姿勢が、過去の認識に影響を与える。昨今に日中間の齟齬も、その一例であろう。しかし歴史研究の国際化が、偏狭な歴史観を柔軟にし、新たな地平を開く。そして「歴史家にとって、真理の追究には国境も文明の障壁もない」のである。

本書を少し深読みすれば、「国境を越える」視点を重視する入江教授の研究姿勢は、異文化の下で過ごした長年の経験によって培われたことが見えてくる。



○『阿片の中国史』(譚 〓美/新潮新書)700円+税  (〓は「王」偏に「路」)

 中国の近代史は阿片抜きには語れない。なぜ清王朝は阿片に蝕まれたのか。イギリス商人は阿片をどのように扱い、流行らせたのか。毛沢東は阿片をどんなふう使ったか。そしてなぜ日本に上陸しなかったのか。

 筆者の力量が多少心許ない部分もあるが、テーマの面白さについ引き込まれる。



○『中国人の愛国心』(王敏/PHP新書)700円+税

 気持ちはすぐに通じそうなのに、論理はまるでかみ合わない日本人と中国人。互いの発想が違い過ぎるのである。

 たとえば「歴史を鑑とする」中国に対し、日本はむしろ「外国を鑑とする」。規制改革から皇室典範の改正まで、いつも外国の事情を参考にする。逆に中国は外国文化を受け入れるのが苦手。反日デモの背景には、急速な経済発展とともに流入する日本文化への抵抗があったのだという。 中国人を「食わず嫌い」する前に読んでみて損はない。




編集者敬白





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