○『勝つ工場』(後藤康浩/日本経済新聞社)1400円+税
特許庁の特許電子図書館の公開情報を調べると、アクセス件数の上位10社は韓国、台湾、中国企業がズラリと並ぶという。彼らは日本語が堪能な社員を雇い、日本の公開特許をしらみつぶしに調べている。これでは日本企業が苦労して開発した新手法も、瞬く間に真似されてしまう。さて、どうしたものか。
シャープの亀山工場が選んだのは、なるべく特許をとらず、工場をブラックボックス化することだった。液晶パネルの生産で重要なのは歩留まりの高さ。そのリードを守り抜くために、あらゆる工夫を凝らしている。
2003年頃から、日本の製造業の業績回復が始まっている。本当に信じていいのだろうか。本書は豊富な実例をもとに、メイド・イン・ジャパンの復権を裏付けている。著者は中国総局長も勤めた日経新聞記者であり、製造現場への豊富な取材には説得力がある。
たとえばキヤノンの工場では、コンベヤーラインを廃してセル生産ラインを導入することにより、多品種少量生産と在庫の削減が可能になり、社員の技能も向上したという。今やモノ作りのトレンドは「日本回帰」。思えば製品の総コストに占める人件費は、そんなに大きくはない。日本国内でも、工夫次第で中国製品に勝てるのだ。
日本企業は、工場は優秀だが本社はダメ、といわれて久しい。が、考えてみれば、本社が賢くて工場がダメというよりは百倍マシだった。日本の製造業は、今でも現場の強さが支えているのである。
○『誠心誠意、嘘をつく』(水木楊/日本経済新聞社)1800円+税
今年は自民党結党50周年。自由民主党は、三木武吉という稀代の政治家による芸術作品であった。鳩山一郎を首相にするために、三木はあらゆる手段を使って吉田茂を引き摺り下ろす。首尾よく鳩山を総理にした次の瞬間に、今度は鳩山の民主党と吉田の自由党を合同させるために全力を尽くすのである。この間、政策の話はほとんど出ない。腹芸と誠意で怨念を乗り越えるという、昔ながらの麗しい永田町物語が延々と繰り広げられる。
自民党のDNAに流れているものを知るためには、絶好の書かもしれない。
○『下流社会』(三浦展/光文社新書)780円+税
格差の拡大をめぐる話題が多い昨今、そのものズバリ「下流」を分析した本が出た。「下流」とは所得が低いだけではなく、コミュニケーション能力や働く意欲など、総じて人生への意欲が低いのだという。その結果として所得が低く、未婚のままであることが多い。
どうやら日本国民は、「頑張らない人が報われない格差社会」を選択し始めているらしい。目を覆いたくなるような日本社会の現状について、豊富な実例が紹介されている。
編集者敬白
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