○『売文生活』(日垣隆/ちくま新書)780円+税
私事ながら、評者は雑誌編集者として原稿料を払う立場と、執筆者として原稿料をもらう立場と、両方を経験している。この間、原稿を依頼するときも、依頼されるときも、原稿料について話した記憶がほとんどない。しかし職業作家の生活は原稿料によって成り立っているのであるから、これは妙な話ではないだろうか。
物書きになってから10年、日垣隆氏は原稿依頼を受けるときに、なるべく「おいくらですか?」を尋ねることにしていたという。そうすると編集側も、可能な範囲でベストな価格を言ってくることが多いから。こんなことがめずらしいくらい、原稿料について語ることは業界のタブーであった。
本書によれば、歴代の大物作家たちは樋口一葉のような例外はさておいて、夏目漱石や壇一雄はビックリするほど高い収入を得ていた。ところが今では、純文学の作家で原稿料と印税だけで生活できるのは10人に満たないらしい。メディアにおける活字媒体の地位は、着実に低下を続けているようだ。
まして昨今のように、本を読みたい人よりも書きたい人の方が多くなり、ネコも杓子もブログを立ち上げるようになったりすると、いよいよ本を読む時間はなくなり、職業作家の立場は苦しくなる。今後は少子化も大きな課題になるだろう。日本語という限られた市場の縮小を意味するからだ。
物書きたらんとする人がいなくなると、ジャーナリズムも文学も成立しなくなる。活字文化を守るためにも、原稿料について直視する必要があるだろう。作家は食わねど高楊枝、というのはそろそろ止めたほうがよさそうだ。
○『投資に勝つためのニュースの見方、読み方、活かし方』(吉田恒/実業之日本社)1400円+税
株式投資がよりどりみどりのルーレットだとしたら、為替の投資は売り買い2つに1つのバカラか丁半博打である。単純だけれども、奥は深い。その奥義やいかに。
長らく為替市場をウォッチしてきた吉田氏は、「未来は言葉であり、言葉とは論理である」と語る。日々のニュースからいかに「論理」を読み取るか、ノウハウを明かしている。なかでも、「ストーリーテラーになれ」という一言が心に残る。
○『アメリカ経済』(みずほ総合研究所編/日経文庫ベーシック)1000円+税
アメリカ経済に関する本は、毎月、山のように出版されている。が、「これ一冊で基本が分かって、なおかつ新しい情報を網羅している本」となると、なかなかに見当たらないものだ。本書はさらに、「コンパクトで初心者にも易しい」という長所が加わっている。
編集者敬白
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