2005年7月25日掲載分




○『中台激震』(保井俊之/中央公論新社)2000円+税

 アジアにおける21世紀最大のリスクは中台海峡の問題であろう。現状の「ひとつの中国」政策とは、米国と中国および台湾の関係を規定したものである。その基礎を作ったのはキッシンジャーと周恩来のコンビであり、山のような外交文書と綱渡りの解釈、歴代外交官の口伝による「秘儀」の伝承などで支えられているガラス細工である。

 喩えて言えば、中国と台湾が「わたしとあの娘、どっちを取るの?」と迫るとき、米国はフーテンの寅さんのように「それをいっちゃあ、おしめえよ」と態度を明らかにしない。この「戦略的あいまいさ」によって、中台間の際どいバランスが保たれている。しかし台湾が民主化によって、中国が経済発展によってナショナリズムが盛り上がると話は変わってくる。外交が一部のエリートに握られていた時代はともかく、大衆の熱い感情に煽られると戦略的な判断は不可能になる。そして「9/11」後の米国外交は、アジアに関与する余裕を失っていく。「ひとつの中国」政策の賞味期限は残り少なくなっている。

 本書はワシントンのシンクタンク研究員が、「9/11」後の米中台の綱引きをウォッチした成果の集大成である。米国議会において、人民元の切り上げや台湾向け武器輸出、あるいはFTAなどの問題がロビーイングされる描写はとくに刺激的だ。

 これだけ重要な問題が、日本では関心を持たれていない。中台海峡で火がつけば、日米同盟は確実に巻き込まれる。にもかかわらず、日本は一貫してこの問題において周縁部であった、という著者の慨嘆が心に残る。



○『日本力』(伊藤洋一/講談社)1600円+税

 最近は為替アナリストではなく、テレビキャスターになってしまった伊藤洋一さんの新著。ポップカルチャーで世界を魅了する新しい日本の力に着目し、「もっと自信を持とう」と呼びかけている。

 進境著しいとされる中国、韓国、インドなどの経済に関して多くを割いている。とくに中国経済の限界を指摘した部分では、「中国にはお祭りがない」など、足で稼いだネタが多く盛り込まれていて興味深い。



『中国経済革命最終章』(関志雄/日本経済新聞社)1800円+税

 反日デモ以降、中国経済への悲観論が急激に増えている。これまで中国経済への認識をリードしてきた著者も、本書では数多くの問題点を指摘し、資本主義に転換しようとする中国の試練を次々に指摘している。

 中国経済が失速を避ける鍵は政治改革にあり、それは中国共産党が自民党のような柔軟なモデルを取り入れること、胡錦濤の次となる第五世代の登場が重要であるという。





編集者敬白





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