2005年6月20日掲載分




○『ファスト風土化する日本』(三浦展/洋泉社)760円+税

 凶悪犯罪、それも少年による不可解な犯罪が続いている。その多くは地方都市で起きている。昔であれば犯罪は大都市と決まっていたが、なぜだろう。

 警察白書は1992年版で、「県庁所在地から遠隔地にあり、県境の入り組んだ都道府県境付近の地域」で犯罪が多く発生することを指摘している。ここで想定されているのは栃木県足利市だが、最近、高校での爆発物事件があった山口県光市もこれに該当する。少し考えれば、ほかにも「ああ、あの事件も」が思い浮かぶだろう。

 のどかな地方都市はどこへ行ったのか。本書の著者である三浦氏は、弘前市から佐賀市まで凶悪事件の跡を訪ね歩く。凶悪犯罪が発生する地点では、不思議とジャスコがある。東京では6店しかないジャスコは、地方の郊外に多く出店している。地方都市にジャスコが開店すると、今までなかったマクドナルドやスタバも揃うと地元では歓迎される。地方の郊外化、消費社会化の象徴がジャスコなのだ。

 道路網の整備が進むにつれて、全国どこでも幹線道路沿いにショッピングモールができ、コンビニやファミレス、パチンコ店などが建ち並ぶようになった。全国均質のものが揃うが、代わりに土地固有の歴史や景観は失われる。こんな「ファスト風土」化が、昔からのコミュニティや街並みを崩壊させ、人々の心を変質させているのではないだろうか。何のことはない、列島改造計画以来の開発の歴史が、地方都市の衰退と凶悪犯罪という現象をもたらしているのである。

雇用が失われる一方で、消費社会化が進む地方都市。そこにはコミュニケーション力がない若者が育つ。いやはや、この問題の解決は難しそうだ。



○『日本の「ミドルパワー」外交』(添谷芳秀/ちくま新書)720円+税

 安保理の常任理事国入りを目指す日本は、いずれ憲法も改正して「普通の国」になるかもしれない。しかし、戦後日本の外交はずっとミドルパワーであった。今後も一歩身を引いた外交を構想すべきではないか――本書の問題提起には賛否両論がありそうだ。

 とりあえず、世界経済のGDPの15%を占める国が、「私は大国ではございません」と言っても説得力はないだろう。よくできた本ではあるが、経済に関する関心が薄いのが惜しまれる。



○『郵政民営化こそ日本を変える』(北城恪太郎/PHP)1200円+税

 郵政民営化はなぜ必要なのか。世論的にはまったく盛り上がらないこのテーマに対し、経済同友会の論客たちが「改革支持」の立場から論じたもの。小泉さんがちゃんとした説明をしないから、財界人が代わりを買って出たのかな?





編集者敬白





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