2005年3月14日掲載分




○『石油を読む―地政学的発想を超えて』(藤 和彦/日経文庫)872円(税込み)税

 「イラク戦争は石油利権が目的だった」的な言説は、さすがに最近は下火になったが、そもそも石油ビジネスに携わる人たちは、この手の陰謀論を一笑に付すものである。

 ところが石油のことになると、ついつい「地政学的発想」が頭をもたげてくる。「石油は戦略物資」という時代はとうの昔に終わっているのに、今もそう信じる人たちの影響は無視できない。とくに安全保障や国際政治の専門家の認識は、往々にして石油・エネルギー専門家のそれとは異なっていて、これが幾多の「トンデモ」論を生む原因となる。

 現役の経済産業省官僚の手による本書は、現代の石油事情を平易に解説し、いい意味で固定観念を破壊してくれる。石油ショックのイメージから、われわれは今でもOPECやメジャーを過大評価してしまう。しかし今日の国際石油市場では、そういった価格支配者が存在せず、WTIという特殊な指標が暴走することを許す構造がある。なおかつ新規の資源探査や開発投資はほとんど行われていない。昨年来の石油価格高騰は、典型的な「市場の失敗」といえるだろう。

 現代石油事情におけるもうひとつの問題は、遅れてきた石油輸入大国である中国が、なりふり構わぬ「資源パラノイア」になっていることだ。中国は他の先進国のように、石油ショックを経験したことがなく、資源確保に対する強迫観念がある。尖閣諸島へのこだわりもその一環であろう。経済性を無視するプレイヤーが登場したことで、将来の国際石油市場が混乱するかもしれない。これは息の長い問題になりそうだ。



○『アメリカ外交』(村田晃嗣/講談社現代新書)777円(税込み)

『朝まで生テレビ』のレギュラーを務める村田晃嗣助教授が、一般向けに書き下ろした米国外交史。

 歯切れのよい、現実主義の論客である村田氏らしく、コンパクトなサイズの中に、親米派が押さえておくべき必要十分な知識を網羅している。ネオコンや単独行動主義といった近年の現象が、きちんと米国外交史の流れの中に位置付けられているのも興味深い。


○『強い円強い経済』(速水優/東洋経済新報社)1890円(税込み)

 日本銀行前総裁の速水氏は在任中、「荒縄のような人」と評された。こぼれ落ちる部分はあるけれども、いちばん重いものはしっかり受け止める。速水氏が円と日本経済への思いを込めた本書には、そんなずっしりとした触感がある。キリスト教徒としての信念を語った最終章に、なるほどと納得する読者も少なくないのではないだろうか。





編集者敬白





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