2005年2月14日掲載分




○『人民元・ドル・円』(田村秀男/岩波新書)700円+税

 中国の通貨、人民元への関心は高いものの、実際に語ることは難しい。中国と米国の両方を熟知している人は少ないし、中国経済と国際金融の両方に精通している人となるとさらに希少だからだ。日本経済新聞の記者としてワシントンと香港の両方に駐在した著者などは、その数少ない例外といえるだろう。

 人民元について書かれた類書とは違い、本書ではまずその成り立ちにスポットを当てる。抗日戦線の時代から、通貨を握るものが中国を制するという図式があった。中国大陸を共産党が支配したのは、つまりは通貨戦争に勝利したからでもあったのだ。人民元の「顔」が毛沢東であることにはそういう意味がある。

 戦後の冷戦時代においても、人民元は一貫して米ドルを基準としてきた。ソ連のルーブル圏に組み込まれそうになったり、一時的に英ポンドにリンクしたりもするのだが、浮気をしなかった。今日のドル・ペッグ制は、いわば筋金入りの選択なのだ。相場の安定こそが、人民元誕生以来の基本原則なのである。

 このような経緯を前提にしてみると、世上喧しい「人民元切り上げ」論議はかなり怪しい。たとえば昨年一月、中国政府は外貨準備として積み上げている米国債の一部を、国有銀行二行の資本に注入している。不良債権問題への一助とするのが目的だが、仮に人民元が対ドルで切り上げられた場合、両行のバランスシートは目減りすることになる。おそらく、その場で売却を迫られることになるだろう。

 米国側としても、この時期に大量の米国債売りは望ましくない。米国の対中要求は、「為替相場の柔軟化」であって、けっして「人民元の切り上げ」ではないのは、そういうわけであったかと納得した次第である。



○『「噂の真相」25年戦記』(岡留安則/集英社新書)735円

 今はなきスキャンダル雑誌の「噂の真相」は、最後は単なるサヨク雑誌になってしまったけれども、ある時期までは掛け値なしに面白い雑誌であった。おそらく大マスコミが取り上げられないヤバイ情報が、ネット上で飛び交うようになると同時に、魅力を失ったのだと思う。引退後の岡留編集長がその辺をどう感じていたか、本書には出てこない。が、ともあれ、お疲れ様と言っておきたい。



○『世界反米ジョーク集』(早坂隆/中公新書ラクレ)720円+税

 『世界紛争地ジョーク集』の著者が、今度はブッシュ政権下で暴走気味のアメリカをネタに取り上げた。「叩く」よりも「笑う」方が効果的、とはいうものの、ブッシュをネタにしたジョークはそんなに面白くない。

 むしろ、普通のアメリカ社会を描いたジョークの方が、心から笑えるものが多いような気がする。思えばジョークとは、アメリカ人の生活そのものではなかったか。





編集者敬白





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