○『嗚呼、香ばしき人々』(山本一郎/扶桑社)1260円
『週刊SPA!』で連載中の肖像画付き経営者批評伝が一冊の本になった。著者はブロガー「切込隊長」として、ネット上に雷名を轟かせているが、その正体は偉大な個人投資家にして、オタク的な経営者批評家でもある。
ナベツネからビル・ゲイツまで、並み居るカリスマ経営者たちが俎上に上がる。著者が身を置くIT業界の若手経営者は、特に念入りに斬られている。そうかと思うと、世評の芳しくないオヤジ経営者が、意外な高評価(念の入った誉め殺し?)を得ている例もある。
思えば経営評論というジャンルは、右手に提灯記事や身内ボメがあり、左手に総会屋もどきの脅迫型がいる。経営者に緊張感を与えるような秀作レビューは多くない。その点、著者は投資家の立場から「こういう経営者なら、会社の株を買ってもいい」と論じている。無茶を言っているようで結論に無理がなく、観察に実があるのはそのためだろう。
惜しむらくは、ここで斬られているオヤジたちは、こういう批評家がいることすら知らないだろう。そして「香ばしい」という今風の言葉遣いも。対談相手として本書に登場する竹村健一氏も、「よくこんなこと書くわ!」と絶賛(?)しているほどである。
が、山本一郎氏31歳童貞の眼に映る日本経済の閉塞感を、ぜひオヤジたち世代には知ってもらいたい。
○『仁義なき英国タブロイド伝説』(山本浩/新潮新書)714円
読者が今、手に取っている『夕刊フジ』も含めて、タブロイド紙にはどこか後ろめたい部分がある。だから面と向かって論じるのは憚られる。が、仮に後世の歴史学者が現代日本の庶民生活を調べようと思ったら、『夕刊フジ』こそ一線級の資料ということになるだろう。
同様に、英国について語るには、タブロイド紙こそが絶好の切り口になる。本書は画期的なことに、タブロイド紙を通して英国社会を描いている。文字通り驚天動地のネタが満載。こんな面白い本を書いてしまって、NHK社員である著者の将来が心配だ。
○『キャリア転機の戦略論』(榊原清則/ちくま新書)700円+税
英国在住時代の著者が、欧州のホワイトカラー12人を対象に、各人のキャリア形成についての聞き取り調査を行った成果をまとめている。リストラあり、フリーターあり、海外赴任あり、脱専業主婦ありと、最近の日本でも身近に感じられるケースが数多く紹介されている。
こういった研究を読むと、一口に「欧米では…」などと単純化した議論の底の浅さがよく分かる。働くことの意義は、一人ひとり違うのだから。
編集者敬白
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