2004年12月6日掲載分




○『日銀はこうして金融政策を決めている』(清水功哉/日本経済新聞社)1800円+税

 財政政策と金融政策は、マクロ経済政策の二本柱。前者は国会で予算案を通すという力技が必要だが、後者は日銀政策委員会だけで決めることができる。機動性に優れているのは金融政策の方だ。

 また、財政政策は「補正予算が何兆円」という形で、具体的な中身が見えやすい。が、金融政策は抽象的である。特にゼロ金利政策導入以後の日銀の政策決定は、それが国民生活に対してどんな意味を持つか、分かりにくくなっている。それだけに当局の説明責任が問われるし、報道する側の責任も重い。

 本書はそんな金融政策の決定過程を、日経新聞の現役記者が密着取材で追っている。新日銀法成立以後の同時代史としての資料的価値も高い。全体の流れとしては、政府やマスコミとの関係に苦慮した速水時代から、先手を取って行動する福井日銀への変身ぶりが描かれている。他方、量的緩和政策やインフレターゲットなどに関する価値判断は、深入りすることを避けている。著者のアプローチは徹頭徹尾ジャーナリスト的であって、政策の中身よりも、政策決定の現場を描くことに多くの関心が割かれている。

 たとえば著者は、本来10年後に公開される予定の政策決定会合議事録を、情報公開法を使って請求するといった執念も見せる。また、海外出張の際に「審議委員はファーストクラスだが、理事はビジネスクラス」といった下世話な解説も含めて、日銀の現場の姿を伝えることに成功している。

 どんな政策も、理論や論争だけでは決まらない。金融政策も、高度な常識や人間関係の機微によって成立している。そんな多元方程式のような世界が浮き彫りにされている。



○『憲法で読むアメリカ史』(上、下)(阿川尚之/PHP新書)820円+税、800円+税

 世界最古の憲法を持ち、弁護士社会でもあるアメリカ。だが、司法に関する知識は、多くの日本人にとっての盲点であろう。たとえば第2期ブッシュ政権においては、「最高裁判事の任命」がひとつの注目点だが、その背景には重い歴史的な経緯がある。

 本書は広報担当の駐米公使であり、米国弁護士資格を持つ阿川氏が、憲法と最高裁を軸にアメリカ史を概観した労作。われわれの多くが「半可通」だと気づかせてくれる。



○『ジハードとテロリズム』(佐々木良昭/PHP新書)720円+税

 「ビン・ラーデン死亡説浮上!」という帯がついている。そんなこといって、米大統領選挙直前に出た本人の映像は何なのよ。どうやらその直前に刷ったらしく、多くの読者は、「なんだ、古い本か」と思うだろう。が、それで見過ごされるのは惜しい本である。

 自身がイスラム教徒である著者は、イスラム世界への深い思い入れと実のある歴史的な洞察を披瀝している。今日の中東情勢を理解する上で有用な情報が込められている。





編集者敬白





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