○『官邸外交』(信田智人/朝日選書)1100円+税
小泉第2次改造内閣で、山崎拓氏と川口順子氏が首相補佐官に任命された。小泉外交をトップダウンで推進する意欲が垣間見える人事である。町村外相はやる気満々といった風情だが、出番はもっぱら中国政府を挑発することだけ、とならなければいいのだが。
近年のテロ対策特措法、有事関連法、イラク特措法から自衛隊派遣に至る一連の決定は、小泉首相の強い指導力の下で実現した。本書はこの間の「官邸外交」のメカニズムを解き明かしていく。2001年の省庁再編による官邸機能強化が役立ったこと、官房長官が「実質副首相」に格上げになったこと、また連立相手を説得することで党内手続きが簡略化されたことなど、小泉政治の意外な内幕が明らかにされている。
なぜ時代が「官邸外交」を求めるようになったか。本書はある外務官僚のコメントを紹介している。「これまで日本は、外交を安全保障と切り離して考える、いわばユートピアのような国であった」。ところが「9/11」後の安全保障問題は、外務省や防衛庁単独での対応が不可能になる。官邸外交は時代の要請であったのだ。
信田氏はもともと国際政治畑の研究者だが、近年は『官邸の権力』(ちくま書房)など日本政治の力学を分析する作業で評価が高い。「官邸」と「外交」の両方を知る著者が、「官邸外交」というテーマに取り組んだ。その著者はあとがきでこう記している。
「(小泉首相は)あれほど国内改革では指示にブレがみられ、最終的な責任をとらず『丸投げ』と批判されることが多いのに、外交・安全保障問題では主張が一貫し、大きな政治リスクを甘んじて受け入れ、重要な決定を行っています」
座布団1枚!、と申し添えておこう。
○『ドルリスク』(吉川雅幸/日本経済新聞社)1600円+税
米国の経常赤字は対GDP比で5%超と、歴史的な高水準にある。今のところ国際的な資本が流入しつづけているので、赤字はファイナンスされているのだが、こんなことがいつまでも続けられるのだろうか。マーケット・エコノミストとして定評のある著者は、多くのデータを駆使しつつ、ドルが抱える脆弱性を明らかにしていく。政策対応がなされず、国際資本移動が持続しない場合、ドル危機の怖れありというのが結論だ。
○『知識資本主義』(レスター・サロー/ダイヤモンド社)1800円+税
『ゼロサム社会』や『大接戦』の著者が、21世紀の世界経済を予言した書。グローバリゼーションに反対する声をバッサリ切り捨てる一方、世界経済の最大のリスクはドルのクラッシュであるという。そこでサローは知的所有権を重視して、知識を中心に資本主義を再構築しようと提案する。
おいおい、それって結局は(またしても)米国だけが得をしようという話じゃないのかい?
編集者敬白
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