○『9・11ジェネレーション』(岡崎玲子/集英社新書)660円+税
2000年9月、15歳の少女だった著者は、米国東部のプレップスクールの名門、チョート校に入学する。そして1年後、全米を震撼させた同時多発テロ事件に直面する。本書は「9・11」後の混乱の中で、彼女が何を目撃し、何を考えたかを描いている。英語交じりの日記のような文章はけっして読みやすくはないが、浮かび上がってくるのは米国社会の苦悩の深さと、その中で成長する学生たちの軌跡である。
イラク攻撃が始まったとき、学長は動揺しつつも「クラス内で今度の戦争について話し合う場を設けるように」指示を出す。校内では真摯な議論が行われる。
米国社会のエリート層を育成する名門校だけに、ここに学んでいるのはもっとも優秀で恵まれたティーンたちであろう。それでもクラスメートからは、9・11が「広島や長崎の原子爆弾による犠牲者を上回る」といった事実誤認が飛び出たりする。著者自身も「正当な戦争」があるとする周囲の常識に戸惑いつつ、自分の意見を築き上げていく。
ケネディ大統領を輩出したチョート校には、大物政治家もしばしば顔を出す。校内で催された講演会において、リチャードソン国連大使は学生たちに向かってこう語りかける。
「9月11日に起こったことは真珠湾攻撃やベトナム戦争に匹敵する出来事。君たちの呼び名はナイン・イレブン・ジェネレーションに決まりだ」
彼女たちの世代は、3年前の悲劇によって生じた深いトラウマを抱えつつ成長中だ。大人になったとき、米国社会はどんな風になっているのだろう。
○『朝日新聞記者が書いたアメリカ人「アホ・マヌケ」論』(近藤康太郎/講談社+α新書)800円+税
米国社会の今日的な断面を描いた優れたエッセイである。文章はこなれており、適度なサービス精神がある。偉そうに構えず、視線が低いところも良い。「行き過ぎてしまった米国」を描くときも、対象への愛情の深さが救いになっている。
唯一惜しまれるのが馬鹿げたタイトルだ。著者は朝日新聞記者にしては説教臭くないし、間違ってもアメリカ人をアホだ、マヌケだなどとは言っていないのだが。
○『攻撃計画』(ボブ・ウッドワード/日本経済新聞社)1600円+税
米国を代表するジャーナリストが、イラク戦争の内幕に迫った労作。ブッシュ政権の危険なホンネが何度も垣間見える。こういう本に、ホワイトハウスが取材に全面協力したという点がお値打ちといえる。
マイケル・ムーアの『華氏911』を見て、それだけで全部分かったつもりになってしまう前に、こういう本が読まれて欲しい。
編集者敬白
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