○『イノベーションの本質』(野中郁次郎、勝見明/日経BP社)1800円+税
景気の回復が進むにつれて、日本企業の頑張りが目立ち始めた。キヤノンのデジタ
ルカメラ、富士通のプラズマディスプレイ、本田技研のアコードワゴン、サントリー
のDAKARA、そして熊本の黒川温泉から、ミツカンの「におわなっとう」まで。
本書はこれらの成功談をコンビで料理していく。包丁を入れるのはベテラン・
ジャーナリストの勝見氏で、企業の現場を要領よく報告する。調理は「知識創造理
論」の野中郁次郎教授で、成功の背景にあるイノベーションの仕組みを解き明かす。
キヤノンに対する記述を興味深く感じた。最近の製造業では、「スマイル・モデ
ル」が大流行。すなわち、縦軸に付加価値、横軸に製造の川上から川下までを並べる
と、付加価値は両端で高く、中間部分では低くなり、人が笑ったような形になる。
だったら、両側の部品とサービスだけを残し、中央の製造部門は中国などに外注して
しまえ、というのがこの世界のトレンドである。
しかし知の創造と活用から考えると、真ん中の製品作りこそがキーでなければなら
ない。あえて付加価値を横一文字に取る経営を、「サムライ・モデル」と呼ぶ。(サ
ムライは笑わない)。真ん中部分のモノ作りにこだわるキヤノンの経営がこれであ
る。サムライは他社との競合や消費者の嗜好といった相対的な価値を追わず、独自コ
ンセプトや美しいデザインといった絶対価値を追い求めるのだ。
M&Aやリストラを重んじる米国流経営が脚光を浴びる中で、持続的な努力を重視
する「忍耐の経済」に目を向けよう、と著者は問いかける。たしかに日本人には、
そっちの方が向いているような気がする。
○『金急騰!』(高橋靖夫/廣済堂出版)1600円+税
この秋の米大統領選挙に向けて、国際情勢の見通しが悩ましい。そんな中で明快に
「年後半は株高、円高、石油安、金急騰!」を予測しているのが本書である。かねて
から、「米国は金本位制に復帰する」を持論とする高橋氏は、独自の「仮説的近未来
予測」を展開して、これらの大胆な結論を導いている。キワモノ本ぽくはあるが、ど
こかインスピレーションを刺激される不思議な本である。
○『「平和」の歴史』(吹浦忠正/光文社新書)750円+税
悲しいことに、古今東西、人類の歴史は戦争の連続だった。人類は「平和」を守る
ために、どんな手練手管を積み重ねてきたか。そしてそれらはなぜ失敗してきたの
か。
本書は空想的な平和論を排しつつ、豊富な事例を挙げて戦争と平和を直視する。
記述に説教臭さはなく、博覧強記ぶりには嫌味がない。8月は「平和」を考える季
節。夏の読書に本書をお薦めしよう。
編集者敬白
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