2004年6月5日掲載分




○『「今年も阪神優勝!」の経済学』(高林喜久生/光文社新書)700円+税

 エコノミストの世界では、石を投げると阪神ファンに当たる。たまに巨人ファンを発見すると、関西出身であったりする。へそ曲がり、もしくはマゾヒスト体質なのであろう。そんなわけで昨年以来、阪神優勝と経済学を結びつける本が多く世に送り出された。「マル経」でも「近経」でもない、「トラ経」学派の誕生である。

 本書はプロ野球への論考の面白さにおいて、経済学的手法の充実において、またタイガースへの思い入れの深さにおいても、「トラ経」学派の白眉と呼んで差し支えあるまい。

 4年連続最下位という暗黒時代でも、著者は阪神を見捨てなかった。その経験によれば、甲子園に「負けても通う」ファンが年間190万人もいるという。これでは球団を強くしようという意欲は生じない。たまたま補強をして年俸を上げてみたら、やっぱり強くなったというのが昨年の優勝であるという。

 せっかく優勝したのに、堅実で小規模な阪神グループは、経済効果の受け皿として小さすぎる。阪神電車の甲子園駅駅前で、阪神ファンが弁当や缶ビールを買うのはダイエー甲子園店である。つまり阪神球団は、勝ってもそれほど儲からない。

 プロ野球球団は、「勝つ」と「儲ける」の両方を目指さなければならない。幸運にも両方が一致しているのは読売グループのみ。その巨人軍だけがせっせと大型補強を続け、他球団は衰弱し、プロ野球がつまらなくなったというのが今日の事態である。

 著者は阪神を強く愛するものの、プロ野球ファンは各チームの「共存共栄」を忘れてはならないと結論する。本書を是非、ナベツネさんに読ませたい。



○ 『タテ読みヨコ読み世界時評』(谷口智彦/日経ビジネス人文庫)680円(税コミ)

 日経ビジネスの有料購読者向けメルマガで、一部の読者に絶大な人気を誇る「地球鳥瞰」が単行本化された。著者は取材力と語学力に定評のある国際派コラムニスト。分析の鋭さだけでなく、軽妙かつ重厚な文章力も味わっていただきたい。



○ 『税の負担はどうなるか』(石弘光/中公新書)700円+税

 近い将来の増税は避けられない。そのことは皆、理解はしている。ではどんな風に? 実はもうほとんど税制改革に向けての路線は敷かれているらしい。

 本書は政府税調の会長が「税の将来」について語ったもの。負担増の行き先は、所得税の裾野拡大、消費税10%と複数税率化、それに相続税増税の三点セット。国民の合意も十分に得られると、自信のほどを覗かせている。

 ホントに大丈夫かいな。いよいよ明日は参議院選挙。







編集者敬白





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