○『ブッシュへの宣戦布告』(ジョージ・ソロス/ダイヤモンド社)1800円+税
ブッシュ大統領への風当たりが強まっている。特に金融界ではブッシュ嫌いが多く、著名な投資家であるウォーレン・バフェット氏などは、身銭を切って「反ブッシュCM」を流している。
もう一人の天敵がジョージ・ソロス氏だ。なにしろ、「私は今、アメリカ国民を説得して、2004年のきたる大統領選挙でブッシュ大統領を拒否してもらうことを、自分の最も重要な目的にしている」と宣言しているほどである。
ソロスといえば、かつては英国政府を震撼させたヘッジファンドの帝王。慈善運動家であり、哲学者でもある。そんな人が合衆国大統領に向かって宣戦布告する理由は何か。ところが本書を読むと、「先制軍事行動を唱えるブッシュ・ドクトリンは有害だ」とか、「ネオコンがブッシュ政権を動かしている」など、意外に手垢のついた議論が目立つ。単純な事実誤認も多く、ブッシュ批判の材料の多くは二次情報から得ているようである。
ただし本書のお陰で、彼のような人間がここまで「反ブッシュ」で煮詰まってしまう理由が分かった気もする。ソロスは最近の米国社会に「イヤな気分」を感じているのだ。テロとの戦いは全体主義的なムードを生み、彼はそれに対してアレルギーを有している。「それは私がハンガリーで成長したからだ。最初はナチの支配下で、後には共産主義者の支配下で」。
大統領選挙に向けて、米国社会は党派色を強めている。保守派が節度を失い、リベラル派が誠実さを失う時代。「ソロスほどを人が、こんな本を書いてしまう」ことに、最近の米国社会の危うさを感じてしまう。
『日本経済の進路』(みずほ総合研究所/中央公論新社)1600円+税
シンクタンクが出す本は無味乾燥で面白くない。唯一の例外がこのシリーズで、毎回、エコノミストの感情が読み取れる「人間くさい」日本経済論を展開している。
最新版の本書は、「積極的な政策を打ったわけではないのに、なぜ景気が良くなっているのか」という疑問を投げかける。ひょっとしたら、「経済政策論議って無駄かもしれない」、と切歯扼腕しているのかも?
編集者敬白
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