『地球温暖化問題の再検証』(澤昭裕・関総一郎/東洋経済新報社)3400円+税
イラク戦争の後、反戦勢力の中から、「ラブ・アンド・ピースだけじゃダメなんだ」という声が漏れたという。平和を唱えてさえいれば、戦争を止められるわけではない。現実は複雑な連立方程式である。ひとつの原則だけにこだわっても、現実を変えることは難しい。
同じことが地球環境問題にも当てはまるのではないか。地球温暖化を止めることはたしかに重要だが、温暖化ガスを減らすことだけを最優先した場合、経済的影響はどうなるか。京都議定書を実施した場合、日本はあと6年で温暖化ガス排出量を24%削減せねばならず、GDPは5%も低下することになる。
米国と途上国が加入していない京都議定書には、温暖化を防止する効果はほとんどない。ロシアも批准をためらっており、このまま発効しない可能性もある。そもそも京都議定書は、各国の思惑によって捻じ曲げられてきた。日本が愚直に削減目標を受け止める一方で、欧州勢は巧みに実利を確保してきた。だが、それを責めるのは当たらない。いかに地球環境問題が重要であれ、それぞれの国益を無視した国際的な枠組みなどあり得ないのだから。
真に実効性のある枠組みを作るためには、本書が提起するようにレアルポリティークを前提にした議論が必要であろう。京都議定書が規定していない2013年以後については、そういう視点からアプローチを期待したい。
本書をまとめたのは経済産業省系の独立行政法人。京都議定書を批准した日本政府の立場を考えれば、勇気ある問題提起といえる。それでも環境問題と国益を、多角的に捉えようという視点は必要であろう。
○ 『われ広告の鬼とならん』(船越健之輔/ポプラ社)1800円+税
最近、築地から汐留に移転した電通は、世界に冠たる巨大広告代理店。その土台を築いた吉田秀雄の生涯はさほど知られていない。それでも吉田の「鬼十則」を座右の銘としている人は、あなたの身近にもいるのではないだろうか。
吉田は誰よりもモーレツに働き、常に社員を叱咤激励した。そのエッセンスが「鬼十則」であった。よき経営者はよき教育者なのである。
○『ドキュメント平成革新官僚』(宮崎哲弥+小野展克/中公新書ラクレ)760円+税
毎日のコマ切れ報道を追いかけていると、全体像が見えなくなる。対りそな公的資金注入、道路公団改革、BSEと脱・生産者偏重の農政、四面楚歌のゆとり教育など、本書は「改革」をめぐる今日的な断面図を描き出している。
いずれも中心となっているのは三十代、四十代の若手・中堅官僚たちだ。霞ヶ関は世代間闘争の真っ最中。官僚機構全体が「抵抗勢力」というわけではないのである。
編集者敬白
書評欄へ