2004年1月31日掲載分




『逃避の代償』(小林慶一郎/日本経済新聞社)1900円+税

 「債務処理の遅延が物価下落と不況を引き起こす」。分かりやすく言い換えると、日本経済は不良債権処理を先送りしたから、デフレと長期停滞を招いてしまった、となる。

 過剰負債問題の深刻さを嫌というほど見てきた者にとっては、ほとんど直感的に真実と思える(証明不要とさえ感じられる)この命題を、経済学的に立証しようとした野心作である。もっと大胆に言えば、銀行への資本注入を学術的に正当化しようという意図の下に書かれている。

 銀行預金は貨幣として扱われる。そして金融部門のバランスシートに穴があいた状態は、私的な債務であると同時に公的な問題でもある。政府が穴埋めを先送りすると、経済にあいた穴のコストは拡大する。ゆえに不良債権問題は一部企業の問題ではなく、真のマクロ経済問題として扱わねばならない、というのが本書の問題意識である。

 さて、この説明は成功しているだろうか。率直にいえば強引過ぎるように感じられた。これほど原理的なアプローチをせずとも、著者が別の場所で指摘しているように、「債務処理を先送りすると外部不経済効果が生じる」という説明で十分ではないのか。すなわち、債務への疑心暗鬼が企業間の取引を萎縮させたり、破綻企業の処理コストが見えないからますます先送りが進むという悪循環である。

 むしろ感銘を覚えるのは、「なぜ日本では問題を先送りする傾向が強いのか」を考察した終章である。エンロン事件に際し、米国は景気への配慮よりも、「企業の不正を正す」ことを優先した。日本では景気への配慮がすべてに優先される。その結果として先送りへの罪の意識が少ない。「問われているのは価値規範の問題だ」という著者の指摘は重い。


○ 『日本株「超」強気論』(今井澂/毎日新聞社)1300円+税

 2004年の日本経済に対し、いちばんの強気論をご紹介しよう。14年続いた株安は終わり、今年の日経平均はまず2万円。いずれ3万円でもおかしくないという。

 マネードクターが目をつけたのは企業業績の急回復。ハイブリッド車やデジタル家電など、日本企業にとって楽しみな材料は少なくないという。そして中国経済の強烈な牽引力がある。足で稼いだ情報である点がお値打ちだ。


○『巨大化するアメリカの地下経済』(エリック・シュローサー/草思社)1700円+税

 地下経済というと、普通であれば賭博や売春、闇金融といったマフィアの行為を思い浮かべる。本書が扱うのはマリファナ、イチゴ畑の違法労働、それにポルノ産業。つまり意外に「小物」。それでも描かれている世界は不条理に満ちているし、文句なく面白い。

 「客が喜んでいる犯罪はなくならない」という。つまり需要があるところに供給はつきものだ。人間社会から地下経済を消し去ることは、およそ不可能なのではなかろうか。




編集者敬白





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