2003年12月27日掲載分




『籠城より野戦で挑む経済改革』(熊野英生/東洋経済新報社)1700円+税

 日本経済の長期停滞がかくも続くと、紙面や画面をにぎわす毎度お馴染みのエコノミストの顔ぶれにも飽きてきた。カリスマが剥げる人、芸人もどきになる人も後を絶たず、そろそろこの業界も世代交代を望みたい。日銀出身でまだ30代の熊野英生氏は、将来が嘱望される気鋭のエコノミストだが、これが実質的なデビュー作である。

 まるで精神論のような表題には、違和感があるかもしれない。表向きは経済論でも、歴史や組織論がふんだんに登場する日本人論でもある。政治論や人物論には疑問を感じる点も少なくないが、価値ある「領空侵犯」と受け止めたい。

 本書の問題意識は、「日本経済が勝ち目のない籠城戦になっている」という点にある。賃金カットだけで企業再生はできないし、歳出削減だけで財政再建はありえない。各人が「このままではいけない」と知りつつ、現状維持が自己目的化している。高齢者は年金支給削減に反対し、農家は市場開放に反対する。だが明日の展望は見えていない。

 籠城戦がダメとなれば、野戦に打って出るしかない。かといって、インフレ・ターゲティングのような一発逆転の勝負手は、終戦間際のインパール作戦になるのが落ち。となれば、漸進主義で変化に寛容な社会を作るしかない。

 やはり30代エコノミストの小林慶一郎氏は、不良債権で身動きが取れない日本経済を「ディスオーガニゼーション」と表現した。意図するところは同じで、ミクロの保守性を打破していくことが、日本経済再生への正攻法なのである。

 しかるに日本人に野戦の心構えがあるようには思えない。「国家は大きな打撃を受けて初めて真の改革を行なう」という。まだまだ打撃が足りないのではないだろうか?


○『藤巻健史の実践・金融マーケット集中講義』(藤巻健史/光文社新書)900円+税

 「受けないギャグばかりを言っているダメなおじさん」という印象が広がっている(というより、本人がそういうイメージで売り込んでいる)元カリスマ・ディーラーの藤巻健史氏だが、本気になって金融市場を語るとさすがに迫力がある。

 初心者向けとあなどるなかれ。分かったつもりになっているが、「今さら聞けない」という人にはお奨めの一冊。コールとプットの違い、あなたは説明できますか?


○『謎解き少年少女世界の名作』(長山靖生/新潮新書)680円+税

 だれもが知っている『宝島』や『王子と乞食』などの世界の名作は、ほとんどが19世紀から20世紀初頭にかけて欧米諸国で書かれた。そこには当時の経済情勢や民衆の心理など、さまざまな近代史の事情が隠されている。

 『フランダースの犬』は日本でしか読まれていないとか、『小公子』は日清戦争後の母子家庭を魅了した、など文字通り「へぇ〜」なエピソードが一杯。




編集者敬白





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