『デフレとバランスシート不況の経済学』(リチャード・クー/徳間書店)1800円+税
90年代前半の円高論争、90年代後半の銀行への資本注入問題、そして現在と、リチャード・クー氏は10年以上にわたって経済論戦の最前線にいる。それだけでも只者ではないが、海外向けに英語で日本経済に関する誤解を解く本を書き、今度はそれを邦訳して日本の読者に問うといったことは、他の凡百のエコノミストがよくするところではない。
それでもクー氏の主張に冷淡な人が多いのは、「所詮は財政支出を増やせと言ってる人でしょ」との認識が広まっているからだろう。目下、財政支出拡大派は旗色が悪い。現に財政支出を減らしつつも、景気は良くなっているではないか、というわけだ。
しかし、それだけの理由で本書をパスするのはもったいない。「日本経済、空白の十年」については、さまざまな理由付けが試みられているものの、本書の「バランスシート不況」説以上に説得力のあるものを評者は知らない。バランスシート問題は、ケインズ経済学とマネタリズムの盲点にあったがゆえに、多くのエコノミストが見逃してきた。だが、米国やアジアでもバブル崩壊に伴う同様の症状が見られる現在、日本経済の症状を的確に把握することの意義は重大だ。
バランスシート問題が生じた経済では、財政再建や不良債権の問題が残る。だが、真の問題は「借金拒絶症」にありとクー氏は説く。企業が借金の返済を最優先しているようでは、経済の真の再生はあり得ない。そして代替役としての財政支出にも明らかに限界がある。
重要なのは家計の資金を貯蓄より消費に回すこと。要は日本人のライフスタイルを変えましょう、というのが結論である。
○『国富消失』(葉山元/新潮新書)680円+税
景気は良くなっているらしいが、株価がちょっと下げただけで、また金融不安の悪夢が頭をもたげてくる。90年代の長期停滞の結果、消し飛んだ国富はなんと1150兆円。GDPの2年分以上の損失である。その結果、政府紙幣という劇薬や、マイナス金利といった奇策が堂々と議論されている。
日本経済は、まだまだ安心するには早過ぎる。良くも悪くも、金融ストックの溶解が問題の根幹なのである。
○『小博打のススメ』(先崎学/新潮新書)680円+税
将棋界の人材は数々あれど、故き芹沢博文九段の後継者となればセンちゃんこと先崎学八段である。将棋の強さはもちろんのこと、語って楽しく、書いて面白い。そして立派な遊び人でもあるセンちゃんが、愛してやまない麻雀から手本引きまでの博打道を語る。
内容が内容だけに、かわいらしく「小博打」と冠しているが、本当は「大博打」を語りたかったものと推察申し上げる。
編集者敬白
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