2003年10月25日掲載分




○『夢』(星野仙一/角川書店)1300円+税

 阪神タイガース、18年ぶりの優勝。ということで、闘将・星野監督は本人が迷惑がるほどの「名将」扱いをされている。その星野監督が書いた本となれば、読者としては「駄目なタイガースを、どうやって強くしたのか」という教訓を探したくなる。そこに改革なり、リーダーシップなりのヒントがあるはずだと思うからである。

 一読すると、やっぱり貴重な証言がある。星野監督が就任する前の阪神タイガースは、案の定とっても駄目な組織であり、その駄目さ加減は今の日本におけるいろんな組織に共通している。そこを星野はどう変えたか。プロローグにある次のひとことは、ガツンと来るものがある。

 「周りは『星野の改革や、改革や』っていってくれるけれど、考えてみたら特別なことをやってきたんでもなんでもない。あたりまえのことをあたりまえにやってきただけなんや。ただし、本気で――」

 構造改革が必要だといわれる。そのためには制度改革をという話になる。ところが制度をいじったところで、人々の意識が変わらないことには組織は前に進まない。構造改革の本質は意識改革なのである。では、どうやって組織全体のムードを変えるのか。これはもう指導者が本気を見せるしかない。

 そんなに難しいことではないはずだが、実行できる人は少ない。星野自身も、本気でタイガースに立ち向かい、文字通り身を磨り減らして早過ぎる引退となった。

 阪神ファンだけに読ませておくのはもったいないですぞ。


○『いやでもわかる日本経済』(日本経済新聞社編/日経ビジネス人文庫)600円+税

日経の読者であれば、誰もがお馴染みの編集委員5人による経済コラムの競作。金融、企業経営、経済政策、消費、中国という5つの角度から、あの手この手で「とってもわかりやすく」書いている。新聞の紙面という枠を取り払ってみると、ベテラン記者たちは意外なほど柔軟な書き手であることが分かる。異色のアンサンブル。


○『日本半導体起死回生の逆転』(泉谷渉/東洋経済新報社)1600円+税

世界的な半導体不況は、パソコンが売れなくなったために生じた。ところがここへ来て、携帯電話にデジタル家電、自動車向けなどの半導体需要が強い。気がつけば、日本が得意とする商品ばかり。用途の主役が交代することで、日本の半導体産業が復活する可能性が出てきた。

 ここ数年、悲観的な話が多かった半導体だが、そろそろ潮目が変わるときなのかもしれない。




編集者敬白





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