○『ならば私が黒字にしよう』(高塚猛/ダイヤモンド社)1500円+税
ダイエーホークスの身売り話が大詰めを迎えている。ダイエーの福岡3事業、すなわち球団とドーム球場とホテルは、過剰債務に苦しむ典型的な問題事業。産業再生機構に持ち込まれるという見方もあるくらいだが、実は現在は営業黒字を出せる状態になっているという。赤字体質を変えたのは、会社再建人の高塚猛氏だ。
リクルートの社員だった高塚氏は、29歳で盛岡グランドホテルの総支配人に就任し、再建して成長させた。そこを中内オーナーに見込まれて単身、福岡に乗り込む。わずか1年半で78億円の経常赤字を3億円に圧縮し、42億円の営業赤字を33億円の黒字に転換した。また福岡ドームの観客動員数は、東京ドームに次ぐ310万人に伸びた。
高塚氏は、ゴーン流のコストカッターではない。人を切らず、資産を売却しない。サービス業の基本に忠実に、社員教育を大事にし、大胆な人事異動を行ない、宿泊とレストランと宴会部門の連絡を良くする。その一方で、ホークスのロゴなどのロイヤリティー収入を無料にする英断を下し、対西武戦をプラチナチケットにしてしまう、といった「コロンブスの卵」のアイデアもある。
過去を否定せずに、現状のままでの黒字化にこだわる高塚流の再建手法は、日本的というか、「これならできそう」と感じさせるものがある。しかるに福岡3事業の有利子負債は1200億円もある。経営は再建しても、身売りは止められないというのが悩ましい。やはりホークスの買い手はハゲタカだった、ということになるのだろうか。
○『アメリカ経済は沈まない』(杉浦哲郎/日本経済新聞社)1800円+税
減税効果で回復に向かうのか、それとも双子の赤字増大でドル暴落に向かうのか。米国経済の行方には無関心ではいられない。
みずほ総研のチーフエコノミストである著者の結論は、書名が示すとおり。ITバブルの後遺症はあるけれども、ミクロの部分の強さがそれを補うし、分権型・分散型の経済構造は柔軟性がある。米国の「メッシュ型経済」は、日本に比べてしたたかだという結論には納得だ。
○『経済の停滞と再生』(篠原三代平編/東洋経済新報社)2000円+税
1990年代の米国経済の繁栄は、IT革命によるニューエコノミーだというのが当時の「通説」だった。これに対し、「過去の景気サイクルと同じ」という見方をしたのが篠原名誉教授。熟練の経済学者とその仲間が展開する日米経済への洞察は、世にまかり通る「通説」とは一味も二味も違う。お試しあれ。
編集者敬白
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