○『「クビ!」論。』(梅森浩一/朝日新聞社)1200円+税
「クビ!」は言われる側も辛いが、言い渡す側もさぞかし嫌だろう。ところが「私は1000人の社員のクビを切りました」という人がいる。著者は複数の外資系企業において、クビキラーと恐れられた人事部長。もちろん外資だからといって、簡単に社員をクビにできるわけではない。あくまでも日本の労働法に沿って、自主的に退職届にサインをさせる。そこには、「テーブルの下からそっとティッシュを差し出す」などの無数のノウハウがある。
クビを切った1000人のうち、「その時の光景をはっきり思い出せるのは数人しかいない」と著者は述懐する。あまりに効率的にクビを切ったために、最後は自分が用済みにされてしまい、「こんなことなら、裁判沙汰を1件でも残しておけば良かった」というオチはいささか出来過ぎかも。そんな著者もただ一度だけ、みずからの非情さに涙したことがある。このシーンはさすがに胸をつかれる。
本書には賛否両論があるだろうし、これをもって「外資とはこういうところ」というイメージを持つのは危険かもしれない。それでも著者のクビ切り論は、傾聴に値する。
外資の「銛で突いて退職させる」クビ切りに比べると、「網をかけて退職させる」日本企業のやり方は、優秀な人が辞めていくばかりで、企業の再生に結びつかない。中途半端に外資を真似したリストラが、経営者による「グローバリズムのつまみ食い」だとしたら、なんともやり切れないではないか。
○『デフレとラブストーリーの経済法則』(野口悠紀雄/ダイヤモンド社)1400円+税
大蔵省出身の正統派経済学者である野口悠紀雄氏は、当代随一のエッセイストかもしれない。毎週月曜の日経夕刊コラム、「明日への話題」の切れ味を見ていてそう思う。
本書は週刊ダイヤモンド誌で連載中の「超整理日誌」の単行本化。『ロード・オブ・ザ・リング』から宇宙の広大さ、ラブストーリーの法則などを縦横無尽に語りつつ、日本経済の現状へは冷ややかな視線を注いでいる。野口ワールドを堪能できること請け合いだ。
○『天皇家の財布』(森暢平/新潮新書)680円+税
『武士の家計簿』がヒットした新潮新書が、今度は皇室の家計簿に切り込んだ。情報公開法を駆使して、皇居の電気・水道代から宮中晩餐会の費用までを検証している。
皇室費のうち公的な活動に使われるのが宮廷費(年間約63億円)、私的な費用を内廷費(同3億2400万円)と呼ぶ。その線引きは難しく、「歯ブラシは内廷費だが、ヘアブラシは宮廷費」だという。皇室にも個人事業主と同じような構造があるという点が面白い。
編集者敬白
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