2003年6月7日掲載分




○『優しい経済学』(高橋伸彰/ちくま新書)680円+税

 成長によって得られる豊かさがある一方で、成長のために失われる豊かさもある。日本のGDPは「失われた10年」を経ても、なお英仏独の合計に匹敵する。それでも生活に不安を抱く人が多くいるなら、それは政策が貧困だからではないか。さらなる成長のために改革を連呼しても、人は本当の意味で豊かになれない……。

 本書のメッセージはかくも直球である。日本経済は閉塞状況に陥っているのではなく、成長よりも分配を考えるべき時期に来たのではないか、と問題を提起する。  いろんな反論が考えられよう。

(1)「ゼロ成長が当然になった国で、企業経営は成立するか」〜個々の企業は成長を目指さねばならない。経営者はゼロ成長の国よりも、お隣にある8%成長の国を選択するだろう。「ゼロ成長でもいい」と思ったら最後、日本経済はマイナス成長に陥るのではないか。

(2)「分配の仕組みを具体的にどう作るのか」〜年金の問題ひとつ考えても、給付水準切り下げとなれば大騒ぎになるだろう。著者は「国民の7割を占める中間層も、さらなる負担増に同意することが必要」であると言う。そんなことが政治的に可能だろうか。

(3)「豊かさや優しさという政治的な目標が成立するか」〜経済学の原点は「より良い社会」を築くことにあり、人々を競争に駆り立てることではない、と著者は言う。だが、数値化できない豊かさや優しさを誰が判断するのか。それは国家目標となり得るのか。

 思えば経済成長とは、なんと便利なソリューションであることか。その成長がけっして容易なものでなくなった今日、本書の提案は議論を深める価値がある。良心的な経済学者による疑義申し立てに耳を傾けたい。


○『日本経済「悲観神話」はもういらない』(宅森昭吉/中公新書ラクレ)700円+税

 「年間自殺者は4年連続で3万人台」というニュースがある。しかし自殺者は平成12年、13年度と連続して減少したことはあまり知られていない。「景気が悪い」という結論が先にあり、データは裏付けに使われるからだ。

 著者はヒット曲やNHK大河ドラマまで、いろんな指標をもとに景気を読む人気エコノミスト。経済を見る目が変わること請け合いだ。


○『最強の競馬論』(森秀行/講談社現代新書)680円+税

 競走馬がレースで獲得する賞金は、「80%が馬主、10%が調教師、5%が騎手、5%が厩務員」という比率で分配される。だから調教師は、年間賞金2億円が採算ラインとなる。経費を切り詰めたくなるところだが、森氏は果敢に海外遠征に挑戦する。そうやって馬の価値を高めることが、馬主に報いる道だからという。

 「馬で稼いだ金は馬に投資する」という心意気は、他の分野も見習うべきビジネスモデルではないだろうか。




編集者敬白





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