○『魚河岸マグロ経済学』(上田武司/集英社新書)680円+税
言っときますが、「マクロ経済学」ではありませんよ。本書が取り上げるのは、食べる方の「鮪(まぐろ)」の経済学。語り手は、築地で一番と呼ばれるマグロの目利き、仲卸「内藤」のご主人、上田さんだ。江戸っ子の語り口で丁々発止、こよなく愛するマグロの世界を紹介していく。
上田さんがセリで買い付けるのは、青森県大間で水揚げされる生クロマグロの最高級品。1本2000万円になったこともあるというから驚きだ。しかるに回遊魚であるマグロは、世界中の海を泳いでいる。世界各地で採れるマグロが、冷凍されたり畜養されたり空輸されたりして、マグロを愛する日本人の食卓に向けて日々届けられる。こんな時代に大間のマグロにこだわり続けるのは、味の分かるお客さんがいればこそ。
生のマグロは「開けてみなければわからない」博打商品だから、毎日が真剣勝負となる。
マグロを通して日本の文化はもちろん、経済の姿も浮かび上がってくる。鮨屋があんな高い値段になるのは、高いトロを毎日、仕入れなければならないから。いくら元値が高いからといって、握り一貫で三千円以上は取れない。だからトロばかり食べるお客は、鮨屋にとっては困り者なんだとか。
おっとそれを聞いたら、いっぺんやってみたくなってしまった。ああ、マグロが食いてえ!
○『中国ビジネスと商社』(関志雄編/東洋経済新報社)1600円+税
アメリカは傷つき、中東は戦場となり、欧州やロシアもたぶん疲弊する。そんな戦争が行われている中で、国際的な混乱にほとんど関与することなく、着々と新体制への準備を進めている常任理事国がある。いわずと知れた中国だ。
労働、資本、技術革新と三拍子揃った経済は8%成長の快進撃。これを脅威と捕らえず、いかにチャンスとするか。中国ビジネスに長い歴史を持つ商社の視点から、この国の強さと弱さがよく浮かんでくる。
○『希望のシナリオ』(宮崎哲弥、林芳正ほか/PHP)1500円+税
日本テレビのニュース専門チャンネルから誕生した討論集。参議院議員の林芳正氏など、現在、40代前半の論客を集めたところがミソ。「誰でも知っている人」は出てこないが、そこが売りともいえる。なんとなれば、ここで展開されている議論は、明らかに地上波でやっている日曜午前の討論番組より質が高いのだ。「誰でも知っている」お爺さんたちにお引き取りいただいて、早くこの世代にバトンを渡した方が、日本の未来にとって良さそうだ。
編集者敬白
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